説明

可変の光学および/又はエネルギー特性を有する電気制御可能な膜

本発明は、可変の光学/エネルギー反射または透過特性を有する電気制御可能なデバイスに関する。本発明はそのデバイスが自立型の膜の形態に形づくられ、この膜が少なくとも1種類の第1成分と少なくとも1種類の第2成分とを含むブレンドから形成され、該第1成分はこのブレンドに通電変色機能を与え、また第2成分は上記ブレンド内でのイオン電荷移動のための電解質機能を生み出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変の光学および/又はエネルギー特性を有する電気的に制御可能なデバイスに関する。より詳細には透過または反射において動作するエレクトロクロミックシステムを用いたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミックシステムの例は、米国特許第5 239 406号および欧州特許EP−612 826号に記載されている。
【0003】
エレクトロクロミックシステムは広範囲に研究されている。それらは一般に電解質によって分離され、2個の電極が側面に配置された2層のエレクトロクロミック材料を含むものが知られている。電源の作用下でそれぞれのエレクトロクロミック層は可逆的に電荷を注入することができ、それらの注入/放出の結果としてのそれらの酸化状態の変化がそれらの光学的および/又は熱的特性の変化(例えば酸化タングステンの場合、青色から無色の外観への転換)をもたらす。
【0004】
エレクトロクロミックシステムを3つのカテゴリーに分類するのが通例である。すなわち、
【0005】
−電解質がポリマーまたはゲルの形態、例えば欧州特許EP−253 713号またはEP−670 346号の特許に記載のものなどプロトン伝導性ポリマー、または欧州特許EP−382 623号、EP−518 754号、およびEP−532 408号の特許に記載のものなどリチウムイオンにより伝導するポリマーであり、システムのその他の層が一般に無機の性質のものであるもの。
【0006】
−電解質が本質的に無機層であるもの。このカテゴリーはしばしば用語「完全固体状態」システムを指し、このような例は欧州特許EP−867 752号、EP−831 360、フランス特許公開第FR−2 791 147号、および第FR−2 781 084号の特許中に見出すことができる。
【0007】
−すべての層がポリマーベースのもので、このカテゴリーはしばしば用語「完全ポリマー」システムを指す。
【0008】
これらのシステムについてはすでに多くの用途が考えられてきた。それらは最も一般的には建築物用の窓ガラスとして、または車両用のグレイジング、特にサンルーフとして、またはそれらが反射で動作し、もはや透過ではない場合は防眩バックミラーとして使用される。
【0009】
エレクトロクロミックシステムのどのカテゴリーでも、一般にシステムは1層の電解質によって分離され、2層の導電層が側面に配置された2層のエレクトロクロミック材料を本質的に含む機能層の積層体を含む。通例では、当業者には周知の様々な技術(CVD 、ゾル/ゲル技術、マグネトロンスパッタリング、スピンコートなど)によりこの機能性積層体を形成する様々な層をガラス基板上に堆積するかまたはこれら基板中に組み込むが、これらはすべてその積層体の最適特性を維持するためにきわめて厳密な操作条件を用いて構築する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって本発明の目的は、透過または反射において可変の光学および/又はエネルギー特性を有し、基板中に組み込み易くする電気的に制御可能なデバイスを提案することによりこれらの欠点を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって本発明の主題は、透過または反射において可変の光学および/又はエネルギー特性を有する電気的に制御可能なデバイスであり、これはエレクトロクロミック機能を有するブレンドを実現するのに適した少なくとも第1成分と、上記ブレンド内でイオン電荷を輸送するための電解質機能を実現するのに適した少なくとも第2成分とのブレンドから形成される自立型の膜として作製されることを特徴とする。
【0012】
電気的に制御可能な機能を生み出すのに必要なすべての材料を組み込んだ自立型の膜を使用するおかげで基板の製造から機能層の積層体の製造を切り離すことが可能になり、それにより標準的な組立工程(ラミネーション、カレンダ加工、オーブン処理、加圧加工など)を維持することが可能になる。
【0013】
本発明の好ましい態様においては下記の構成のどれか1つを所望により用いることができる。すなわち、
【0014】
−ブレンドが、最初にそのブレンド中に含有された第1および第2成分の逐次重合によって得られる単一マトリクスを構成する。
【0015】
−ブレンドが、最初にそのブレンド中に含有された第1および第2成分の同時重合によって得られる単一マトリクスを構成する。
【0016】
−ブレンドが、連続的に加えられる第1および第2成分の重合によって得られる単一マトリクスを構成する。
【0017】
−第1成分が導電性ポリマーである。
−第1成分が、3,4−アルキレンジオキシチオフェンまたはジオキシピロールまたはそれらの誘導体の1つを主成分とするポリマーである。
【0018】
−第1成分が、カルバゾールまたはその誘導体の1つを主成分とするポリマーである。
【0019】
−第1成分が、ポリアニリンまたはその誘導体の1つを主成分とするポリマーである。
【0020】
−第1成分が、少なくとも1種類が陽極色を有し、その他が陰極色を有する少なくとも2種類のエレクトロクロミック材料のブレンドである。
【0021】
−陰極色を有するこの材料がビピリジン塩である。
−陽極色を有するこの材料が5,10−フェナジンまたはその誘導体の1つを主成分とする。
【0022】
−第2成分が、ポリオキシアルキレン類から選択されるポリマーである。
−第2成分が、ポリオキシエチレン類またはその誘導体の1つから選択される。
m)第2成分が、二官能性(アクリル酸、メタクリル酸、アルコール、アリルなど)のポリ(エチレングリコール)を主成分とする。
【0023】
−自立型の膜が、機械的完全性を改良するまたはイオン伝導度を向上させるのに適した第3成分を所望により含む。
【0024】
−第3成分を第2成分と混合し、それらの重合が同時または逐次である。
−第3成分が、特にポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリカーボナート、ポリアセタート、ポリウレタン、セルロース系材料などから選択されるポリマーである。
【0025】
−第3成分が、ジエチレングリコールジアリルカーボナートまたはその誘導体の1つ、またはポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリラートを主成分とする。
【0026】
−膜が、ポリマーと少なくとも2種類の構成成分との相互侵入網目構造を構成する。
−膜が、ポリマーと少なくとも2種類の構成成分との半相互侵入網目構造を構成する。
【0027】
−膜が、その膜の特性方向に沿って第1成分の組成の勾配を有する。
−システムが少なくとも1枚のキャリヤ基板を更に含み、上記デバイスが2本の電流リード、すなわちそれぞれ下側の電流リードと上側の電流リード(キャリヤ基板から最も遠い「上側」電流リードに対して、基板に最も近い電流リードに相当する「下側」)の間に配置される。
【0028】
本発明の別の態様によればこれは、上記の少なくとも1種類のエレクトロクロミックデバイス、すなわちビオロゲンベースのデバイスから作製されるエレクトロクロミックシステムに関する。
【0029】
本発明の好ましい態様において下記の構成のどれか1つを所望により用いることができる。すなわち、
【0030】
−エレクトロクロミックシステムが、自律的に作動することができる車両サンルーフ、または車両の側窓または後部窓、またはバックミラーを構成する。
【0031】
−エレクトロクロミックシステムが、前面ガラスまたは前面ガラスの一部を構成する。
【0032】
−エレクトロクロミックシステムが、グラフィックおよび/又は英数字データ表示パネル、建築物用の窓ガラス、バックミラー、航空機の風防ガラスまたは客室窓、または天窓を構成する。
【0033】
−エレクトロクロミックシステムが、建築物用の屋内または屋外の窓ガラス、湾曲されてもよい商店のショーケースまたは調理台の陳列ケース、ペインティング型の物を保護するための施釉、遮光コンピュータスクリーン、ガラス家具、建物内部2つの部屋または自動車車両内の2つのコンパートメントを隔てる壁を構成する。
【0034】
−エレクトロクロミックシステムが、透過または反射で動作する。
−基板が、透明であり、平坦または湾曲しており、澄んでいるかまたは全体に色を帯びており、また多角形または少なくとも一部湾曲している。
【0035】
−基板が、不透明であるか、または不透明にされている。
−エレクトロクロミックシステムが別の機能を含んでいる。
本発明の更に別の態様によればこれは前述のようにデバイスを得るための方法であり、
−所望により、第2成分が、少なくとも1種類の重合開始剤の存在下で第3成分と混合される。
【0036】
−第2成分の重合をそのブレンドの熱活性化により行い、そのブレンドの熱活性化を第3成分が重合するまで続ける。
【0037】
−そのブレンドの熱活性化によるステップ中に第2および第3成分を重合または共重合する。
【0038】
−第1成分を第2および第3成分のブレンドに加え、該第1成分を重合開始剤の助けによりブレンドの浸漬によって重合させ、次いでそのブレンドを水洗する。
【0039】
この方法の別の変形態様によれば第1成分を最初に第2および第3成分のモノマーブレンドに混ぜる。第2および第3成分を少なくとも1種類の重合開始剤の助けにより重合させた後、第1成分を重合開始剤の助けによりそのブレンドの浸漬によって重合させ、次いでそのブレンドを水洗する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明を添付の図面と関連してより詳細に述べる。
【0041】
添付図面においては図を理解しやすくするために成分の幾つかを実際よりも拡大または縮小して示している。
【0042】
この図は、下側の導電層2と、上側の導電層4が載っている活性積層体3と、その上側の導電層の上方で電流を取り出すための導線5の第1グリッドまたは同等の装置と、下側の導電層2の下方で電流を取り出すための導線6の第2グリッドまたは同等の装置とを備えたガラス板1を示す。これら電流リードは、そのエレクトロクロミック活性層が十分に導電性である場合は導線であるか、または電極を形成する層の上または内部を通っている線のグリッドであって、この電極が金属から作製され、またはこの電極がITO、F:SNO、もしくはAl:ZnOから作製されるTCO(導電性透明酸化物)型のものであるグリットであるか、または単一導電層であるそのいずれかである。
【0043】
導線5、6は金属線であり、例えば所望により、炭素または金属酸化物で被覆されたタングステンから作製され、直径が10と100 μmの間、好ましくは20と50 μmの間にあり、直線または波状であり、加熱風防ガラス分野において周知の技術、例えば欧州特許EP−785 700号、EP−553 025号、EP−506 521号、およびEP−496 669号の特許に記載の技術によってPUのシート上に配置される。
【0044】
これら周知の技術の一つは、ポリマーシートの表面に導線を押し付ける加熱プレスホイールを用いることにあり、このプレスホイールは導線ガイド装置を介して供給リールから導線を供給される。
【0045】
下側の導電層2は、400 nmのF:SnOの第2層が載っている50 nmのSiOCの第1層から形成される二重層である(両層とも好ましくは裁断前にフロートガラス上にCVDにより連続的に堆積される)。
【0046】
別法では下側の導電層2は、約100から350 nmのITOの第2層が載っている約20 nmの所望によりドープしたSiOを主成分とする第1層(この層は具体的にはアルミニウムまたはホウ素をドープされる)から形成される二重層であることもできる(両層とも好ましくは酸素、また所望により熱した酸素の存在下で磁気強化反応性スパッタリングにより連続的に真空蒸着される)。
【0047】
上側の導電層は、下側の導電層2と同じ方法で作製される。
図に示す活性積層体3は、全体として自立型の膜として形づくられる。本発明の文脈中において、その機械的特性の結果として膜の取扱いを可能にする粘着力を獲得する場合、またその膜を扱いやすく、輸送しやすく、且つ組み立てやすくすることを可能にするその形状とその寸法を維持する場合、その膜を「自立型」であると言う。これらの特性は、補強基板の存在下で得られる。
【0048】
この膜は少なくとも2種類の成分、すなわちエレクトロクロミック機能を与えるのに適した第1成分と、イオン電荷輸送機能を与えるのに適した第2成分とのブレンドから得られる。
【0049】
第1の態様ではこのブレンドは、第1成分が第2成分の後に重合される、相継いで組み込まれる第1および第2成分の逐次重合により得られる。
【0050】
第2の態様ではこのブレンドは、第1成分が第2成分の後に重合される、最初に組み込まれる第1および第2成分のブレンドの逐次重合により得られる。
【0051】
これら2つの態様では第1成分は導電性ポリマーから、より具体的には3,4−アルキレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の一つ、例えば化学重合により形成されるPEDTと呼ばれるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を主成分とするものから選択される。
【0052】
例えば、変えることができるモル質量(550および875 g/モル)のポリ(エチレングリコール)ジメタクリラート(PEGDM)と、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)とのブレンドを、「テフロン(登録商標)」シール材によって隔てられた2枚のガラス板の間で注型した。50℃での熱処理、続いて80℃での後硬化によりメタクリル酸官能基を重合/架橋させた。次いでこのモノマーの膜中への取込みを可能にするために、この膜を純エチレンジオキシチオフェン(EDT)の溶液か、またはEDTを含有する有機溶液中に浸漬した。浸漬時間を変えることによって取り込まれるEDTの量の調節することが可能であった。次いでこの膜を、酸化剤(例えば FeCl)を含有する溶液中に浸漬した。その膜をどのくらい長く酸化溶液中に浸漬したかにより網目構造中のPEDT の量を適合させた。
【0053】
第2の態様ではEDTモノマー(Bayer Groupの会社のStarkから販売されている)をPEGDM/AIBNのブレンド中に取り込んだ。このマトリクスの架橋の間にEDTモノマーがその三次元材料中にトラップされた。その逐次重合は、先のケースの場合と同様に酸化溶液中に浸漬することにより行った。
【0054】
第1成分として用いられる導電性ポリマーの別の例によれば、このポリマーは化学重合により形成されるカルバゾールまたはその誘導体の一つを主成分とする。
【0055】
例えば、酸化化学合成により得られる、アルキルまたはオリゴオキシエチレン鎖でN置換したポリカルバゾールを用いることができる。化学架橋を可能にする側鎖カルバゾールまたはチオフェンを含有するオキシエチレン基を有するマクロマーもまた可能である。
【0056】
第1成分を構成する導電性ポリマーはどれも著しく安定、特にUVに関して安定であり、陽イオン(Na、Li、Ca2+、Ba2+など)、別の選択肢としてHイオン、または陰イオン(CFSO、BF、PF、ClO、Cl、TFSI、SCNなど)の注入/放出によって動作し、これらのイオンは所望により融解塩の形態で取り込まれる。
【0057】
更に別の例によれば第1成分は導電性ポリマーを主成分とせずに有機分子のブレンド、すなわちそのうちの一つが陽極色(5,10−フェナジンまたはその誘導体の一つ)を有し、その他が少なくとも陰極色(ビピリジン塩)を有する少なくとも2種類のエレクトロクロミック材料のブレンドを主成分とする。
【0058】
陽極色を有する有機分子として用いられるフェナジン誘導体は、例えば5,10−ジアルキル−5,10−ジヒドロフェナジン、5,10−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−5,10−ジヒドロフェナジン、または5,10−ジメトキシメチル−5,10−ジヒドロフェナジンであることができる。
【0059】
膜のマトリクス中で、電解質として働く第1成分と会合する第2成分もまたポリマーである。これはポリオキシアルキレンから選択され、より一層詳細にはポリオキシエチレン(POE)またはその誘導体の一つを主成分とする。
【0060】
このようなポリマーの例は、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリラート(PEGDM)またはポリ(エチレングリコール)ジアクリラートから、またはポリオキシエチレンを主成分とするポリエステルまたはポリウレタンの網目構造体から製造することができる。
【0061】
例えば2 gのポリ(エチレングリコール)ジメタクリラート(PEGDM)(Aldrichにより販売されており、M=550または875 g/モル)と、2 gのポリ(エチレングリコール)メタクリラート(PEGM)(Aldrichにより販売されており、M=475 g/モル)と、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)(PEGDMおよびPEGMに対して1または2または10重量%)と、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(Aldrichにより販売されており、PEGDMおよびPEGMに対して1重量%)とのブレンドを、「テフロン(登録商標)」(登録商標)シール材によって隔てられた2枚のガラス板に間で注型した。50℃での熱処理、続いて80℃での後硬化によりメタクリル酸官能基を重合/架橋させた。三次元材料が形成され、その中にEDOTモノマーがトラップされる。次いでこの膜を酸化剤(例えばFeCl、Acrosにより販売されている)を含有する溶液中に浸漬した。網目構造中のEDOTの量は、その膜がどのくらい長く酸化溶液中に浸漬されたかによって決まる。機械的特性およびイオン伝導特性を変えるために、同じ操作条件を用いて重量で90/10から10/90の範囲のPEGDM/PEGMブレンドを製造することができる。
【0062】
膜の機械的特性を定量する方法の一つはDMA(動的機械分析)を使用することにある。異なるPEGDMのモル質量(M=875および550 g/モル)に対する、また最初に導入したPEGDMとPEGMの様々な質量比(x/y)に対する様々なPEGDM/PEGMマトリクスのtanδ温度(この方法を用いて得られた)を下記の表中に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
第1および第2成分のブレンドによって形成される自立型の膜の機械的強度を改良することが望ましい場合、ことによるとそれ自体が数種類のポリマーのブレンドからなる第3成分を上記ブレンド中に取り込むことができる。
【0065】
一態様においてこの第3成分は、ポリカーボナート類、またはより一層具体的にはジエチレングリコールジアリルカーボナート(CR39)またはその誘導体の一つを主成分とするものから選択されるポリマー、またはメタクリル酸メチルまたはポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリラートなどのメタクリル酸を主成分とするモノマーである。
【0066】
PEGDM/PEGM/PCが40/40/20のマトリクスの場合、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリラート(PEGDM)(Aldrichにより販売されており、M=875 g/モル)2 g、ポリ(エチレングリコール)メタクリラート(PEGM)(Aldrichにより販売されており、M=475 g/モル)2 g、炭酸ビスアリル(CR39)(Aldrichにより販売されており、M=274.27 g/モル)1 g、およびエチレンジオキシチオフェン(EDOT)(Starkにより販売されており、M=142 g/モル、PEGDM、PEGM、およびCR39に対して2重量%)のブレンドを調製した。このブレンドに、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(Aldrichにより販売されている)3重量%(この百分率は、最初に導入したPEGDM、PEGM、およびCR39に対する重量単位である)と、別の重合開始剤1,1′−アゾビス(シクロヘキサンカルボニル)(Acrosにより販売されている)4重量%(この百分率は、最初に導入したCR39に対する重量単位である)とを加えた。先と同様にこのブレンドを「テフロン(登録商標)」(登録商標)シール材によって隔てられた2枚のガラス板に間で注型した。55℃、次いで80℃、最後に100℃での熱処理、続いて120℃での後硬化によりアリルとメタクリル酸官能基を重合/架橋させた。この最後の重合は先のケースの場合と同様に酸化溶液中に浸漬することによって行った。網目構造中のEDOTの量は、その膜を酸化溶液中に浸漬する時間によって適合させた。
【0067】
次いで、自立型の膜に成形された第1、第2、および場合によると第3成分のブレンドを少なくとも2枚の基板の間に位置決めした。この自立型の膜に面するそれら基板面は、所望により電流リードを含んでいるそれぞれ上側および下側の導電層2、4で被覆された。次いでこの組立体は可変の光学および/又はエネルギー特性を有する電気的に制御可能なデバイスを構成する。
【0068】
2枚の基板の間で膜を組み立てるに先立って、上記膜にLi塩または既述のもの由来の他の陽イオンに基づく塩を、また所望により可塑剤を含浸させる。
【0069】
この含浸は、その塩が洗浄用およびモノマー重合用の溶媒に不溶の場合にはこれら3成分のモノマーブレンド中にLi塩を取り込むことにより膜の生産ステップの間に行うことができる。
【0070】
この電気的に制御可能なデバイスの一態様ではマトリクスがポリマーの網目構造または相互侵入網目構造のいずれかを形成する。
【0071】
この原理は、その重合または架橋の方法もしくは条件が同一または異なっている官能基を含有する第2および第3成分のブレンド(モノマーまたはプレポリマー)を重合および/又は架橋させることである。第1のケースではマトリクスが網目構造であり、一方、第2のケースではマトリクスが相互侵入網目構造である。第3成分が存在することは必須ではない。このケースでもまたマトリクスが網目構造である。
【0072】
例えば第2成分のモノマーまたはプレポリマーはラジカル重合により重合することができ、また第3成分のモノマーはラジカル、カチオン、またはアニオン重合より重合することができ、これら第2および第3成分のモノマーまたはプレポリマーは同一または異なる温度で重合する。
【0073】
エレクトロクロミック機能を与える第1成分は、最初の第2および第3成分のブレンド中に直接導入するか、または第2および第3成分からなる網目構造中への含浸により導入する。この第3成分が存在することは必須ではない。
【0074】
一態様ではこうして形成される相互侵入網目構造内の第1成分の化学重合は、この第1成分を重合するための少なくとも1種類の薬品(例えばFeCl)を含有する溶液中に浸漬することにより行われる。得られる網目構造は均一であってもよく、または重合溶媒、浸漬時間、その共役モノマーの初期濃度、および膜の厚さによって決まる勾配を有してもよい。
【0075】
したがって、例えば第1、第2、および第3成分を形成する3種類のモノマーを下記のように最初に混合した。すなわち、
【0076】
第1網目構造を、第2および第3成分のモノマーのブレンドから形成した(本発明者等のケースではポリ(エチレングリコール)ジメタクリラート(PEGDM)を重合開始剤のブレンド(AIBNおよびPOB)の存在下でジエチレングリコールジアリルカーボナート(CR39)と混ぜ合わせた)。POEの重合(PEGDMに由来する)は40℃で行った。PCの重合(CR39に由来する)は80℃で行った。形成される膜を次いで100℃で硬化した。この段階において第1の相互侵入網目構造が得られた。
【0077】
第1網目構造内の第1成分の重合(エレクトロクロミック機能を与える)は、酸化溶液(FeClなど)中に上記第1網目構造体を浸漬することにより得られ、反応しなかった第1成分の過剰なモノマーは、メタノール溶液に浸漬した後に、得られた上記網目構造体を洗浄することによって除去した。
【0078】
例えば第2および第3成分に基づく自立型の膜(POE/PC)の側面に位置する前述の2枚の均一な自立型の膜(POE/PC/PEDT)ベースの機能システム、すなわち上側および下側電極を形成する活性層と組み合わせた組立体は、動作可能であり、酸化状態と還元状態の間で3を超えるコントラストを達成することが可能になる。この組立体を下記の表に示され、従来技術で知られているエレクトロクロミックシステムの場合に得られる光学特性(すなわち電着技術により得られるもの)に匹敵する光学特性(例えばTI)を示している。
【0079】
【表2】

【0080】
この自立型の膜の第2の態様では再度、先の網目構造を得る方法の主なステップを用いて網目構造を得た。
【0081】
第2および第3成分から形成される第1網目構造は、第1成分が存在する点を除いては同様のやり方で得られた。この第1成分は他の2成分の混合時に最初は存在しない。
【0082】
重合された形態の第1網目構造体(POE/PC)を、第1の純成分(本発明者等の例ではこの第1成分は具体的にはEDTを主成分としたことが思い出されるはずである)を主成分とするモノマー溶液中に浸漬した。POE/PC網目構造のマトリクスをEDTで膨潤させた後に、酸化溶液(FeCl、トシル酸鉄など)中にその膨潤した第1網目構造体を浸漬することによって重合を行った。膨潤したマトリクス中へのモノマー、次いで重合剤の浸透は、その自立型の膜の厚さを通して均一ではないので、得られる網目構造は勾配を有した。
【0083】
PEDTの量は表面では膜の中心よりも多かった。重合溶液の溶媒の性質を変えることによってこの勾配を調整することができた。
【0084】
絶縁性マトリクス中での導電性ポリマーの勾配の形成は、膜のオーム表面抵抗対厚さ内抵抗の比の変化によって監視することができる。様々な溶媒に対する浸漬時間の関数としてこの比の変化を監視することによって重合速度に及ぼす溶媒およびマトリクスの性質の影響を観察することができた。所与の溶媒に対する浸漬時間を制御することによって膜中の導電性ポリマーの勾配を制御することができた。
【0085】
実例は、自立型の膜に面するそれぞれの面に活性層を備えた(また任意選択の電流リードを備えた)2枚のガラス基板間に、その勾配を有する膜を組み込んだ電気的制御可能なデバイスは、酸化状態と還元状態の間で3を超えるコントラストを達成することを可能にすることを示す。
【0086】
同様に、それら2枚の基板間で膜を組み立てるのに先立って上記膜にLi塩または別の陽イオンに基づく塩を、また所望により可塑剤を含浸させた。
【0087】
この含浸は、これら3成分のモノマーブレンド中にLi塩または別の陽イオンに基づく塩を取り込むことにより膜の生産ステップの間に行うことができる。
【0088】
これら自立型の膜は、従来の組立技術(層の堆積)と比べて複数の利点を有する。すなわち、
【0089】
−予想される用途(下記)においてエレクトロクロミック機能を挿入するために単一の膜を工業的に用いることができる。
【0090】
−マトリクス中に導電性ポリマーの勾配を有する2種類のポリマー種(エレクトロクロミックポリマーおよびポリマー電解質)の相互侵入が、それらの欠点(層間剥離)を有することなく電極(陽極および陰極)と接触するための事実上の面を創りだす外面層を生成する。
【0091】
−エレクトロクロミック材料が外部から部分的に保護され、その結果その電気的制御可能なデバイスの寿命を向上させる。
【0092】
更に、電気的制御可能なデバイスの基板を形成する上記2枚のガラス板は、それぞれ厚さ約2mmの標準的な平坦で澄んだケイ酸ソーダガラスから作製される。
【0093】
本発明は、同じやり方で湾曲および/又は強化ガラス基板に適用される。
同様に、ガラス基板の少なくとも1枚が全体に色を帯び、具体的には青色または緑色、灰色、ブロンズ色、または褐色に着色していてもよい。
【0094】
本発明に用いられる基板はまた、ポリマー(PMMA、PET、PCなど)を基材とすることもできる。これら基板がきわめて雑多な幾何形状を有することができることにもまた注目されたい。すなわち、それらは正方形または矩形の形態であってもよいがまた、丸いまたは波状の外形(丸形、楕円形、「波形」など)によって画定される任意の多角形または少なくとも一部湾曲した輪郭の形態であってもよい。
【0095】
更に、2枚のガラス基板のうち少なくとも一方(エレクトロクロミックまたは同等のシステムを備えていない面上の)を、別の機能(他の機能とは、ことによると例えば太陽光線保護積層体、よごれ防止積層体などである)を有する皮膜で覆うことができる。太陽光線保護積層体に関しては、スパッタによって付着させ、少なくとも1層の銀層を含む薄層の積層体であることができる。したがって下記の型の組合せを有することができる。すなわち、
【0096】
−ガラス/エレクトロクロミックシステム/太陽光線保護層/ガラス、
−ガラス/エレクトロクロミックシステム/ガラス/熱可塑性樹脂/ガラス、および
−ガラス/エレクトロクロミックシステム/熱可塑性樹脂/ガラス。
この熱可塑性樹脂は、PVB、PU、およびEVAから選択することができる。
この太陽光線保護皮膜はまた、ガラス基板の1枚の上ではなく、PET(ポリエチレンテレフタラート)型の可撓性ポリマーのシート上に付着させることもできる。
【0097】
太陽光線保護皮膜の例については欧州特許EP826 641号、EP844 219号、EP847 965号、国際公開第WO99/45415号、および欧州特許EP1 010 677号特許を参照することができる。
【0098】
上記本発明の主題を形成するデバイスはまた、3枚ガラスの「基板」中に組み込むこともでき、好適には安全性の基準を満たす板ガラスの生産に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、第1の態様に従って製造した本発明による電気的に制御可能なデバイスの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過または反射において可変の光学/エネルギー特性を有する電気制御可能なデバイスであって;
前記デバイスが単一自立型(single self-supporting)の膜として作製され、
前記膜が少なくとも1種類の第1成分と少なくとも1種類の第2成分の重合ブレンド(polymerized blend)から形成され、該第1成分が前記ブレンドにエレクトロクロミック機能を与えるのに適したものであり、且つ該第2成分が前記ブレンド内でイオン電荷を輸送する電解質機能を与えるのに適したものであることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記ブレンドが、前記第1および第2成分の同時重合によって得られる単一マトリクスを構成することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記ブレンドが、前記第1および第2成分の逐次重合によって得られる単一マトリクスを構成することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第1成分が導電性ポリマーであることを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記第1成分が、3,4−アルキレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の一つを主成分とするポリマーであることを特徴とする請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1成分が、カルバゾールまたはその誘導体の一つを主成分とするポリマーであることを特徴とする請求項4に記載のデバイス。
【請求項7】
前記第1成分が少なくとも2種類のエレクトロクロミック材料のブレンドであり、少なくとも1種類が陽極色(coloration)を有し、その他が陰極色を有することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
陽極色を有する前記材料がビピリジン塩であることを特徴とする請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
陰極色を有する前記材料が、5,10−フェナジンまたはその誘導体の一つを主成分とすることを特徴とする請求項7に記載のデバイス。
【請求項10】
前記第2成分が、ポリオキシアルキレン類から選択されるポリマーであることを特徴とする請求項1〜3の一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記第2成分が、ポリオキシアルキレン類またはその誘導体の一つから選択されることを特徴とする請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記第2成分が、二官能性ポリ(エチレングリコール)またはその誘導体の一つを主成分とすることを特徴とする請求項10および11のいずれかに記載のデバイス。
【請求項13】
前記自立型の膜が、その機械的完全性を改良する、またはイオン伝導度を向上させるのに適した第3成分を含むことを特徴とする請求項1〜12の一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記第3成分がポリマー、特にポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリカーボナート、ポリアセタート、ポリウレタン、セルロース系材料などから選択されるポリマーであることを特徴とする請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記第3成分が、ジエチレングリコールジアリルカーボナートまたはその誘導体の一つ、またはポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリラートを主成分とすることを特徴とする請求項13および14のいずれかに記載のデバイス。
【請求項16】
前記膜が相互侵入網目構造を構成することを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
前記膜が半相互侵入網目構造を構成することを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記膜が、その膜の特性方向に沿って第1成分の組成の勾配を有することを特徴とする請求項1〜16の一項に記載のデバイス。
【請求項19】
前記請求項のいずれか一項に記載の少なくとも1個のデバイスを組み込んだシステムであって、前記システムが少なくとも1枚のキャリヤ基板を更に含み、前記デバイスが2本の電流リード、すなわちそれぞれ下側の電流リードと上側の電流リード(前記キャリヤ基板から最も遠い「上側」電流リードに対して、基板に最も近いリードに相当する「下側」)の間に配置されることを特徴とするシステム。
【請求項20】
エレクトロクロミックまたはビオロゲン(viologen)ベースのシステムであることを特徴とする請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
自律的に作動することができる車両サンルーフ、または車両の側窓または後部窓、またはバックミラーを構成することを特徴とする請求項19および20のいずれかに記載のシステム。
【請求項22】
前面ガラスまたは前面ガラスの一部を構成することを特徴とする請求項19または20のいずれかに記載のシステム。
【請求項23】
グラフィックおよび/又は英数字データ表示パネル、建築物用の窓ガラス、バックミラー、航空機の風防ガラスまたは客室窓、または天窓を構成することを特徴とする請求項19または20のいずれかに記載のシステム。
【請求項24】
−建築物用の屋内または屋外の窓ガラス、
−湾曲させることができる商店のショーケースまたは調理台の陳列ケース、
−ペインティング型の物を保護するための施釉、
−遮光コンピュータスクリーン、
−ガラス家具、または
−建物内部の2つの部屋または自動車車両内の2つのコンパートメントを隔てる壁、
を構成することを特徴とする請求項19および20のいずれかに記載のシステム。
【請求項25】
透過または反射で動作することを特徴とする請求項19〜24のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項26】
前記基板が透明であり、平坦または湾曲しており、澄んでいるかまたは全体に色を帯びており、また多角形または少なくとも一部湾曲していることを特徴とする請求項19〜25の一項に記載のシステム。
【請求項27】
前記基板が不透明であるか、または不透明にされていることを特徴とする請求項19〜26の一項に記載のシステム。
【請求項28】
別の機能を含んでいることを特徴とする請求項19〜27の一項に記載のシステム。
【請求項29】
−所望により、前記第2成分が重合開始剤の存在下で前記第3成分と混合され、
−前記第2成分の重合が前記ブレンドの熱活性化により行われ、且つ前記ブレンドの熱活性化が前記第3成分が重合するまで続けられ、また
−前記第2および第3成分が前記ブレンドの熱活性化によるステップ中に重合または共重合される、
ことを特徴とする請求項1〜18のいずれか一項に記載のデバイスを得るための方法。
【請求項30】
−前記第1成分を前記第2および第3成分のブレンドに加え、
−前記第1成分を重合開始剤の助けにより前記ブレンドの浸漬によって重合させ、
−前記ブレンドを水洗する、
ことを特徴とする請求項29に記載の取得方法。
【請求項31】
−前記第2および第3成分の前記重合ブレンドを、前記第1成分を主剤とする浴中で接触させ、
−前記第1成分を重合開始剤の助けにより前記ブレンドの浸漬によって重合させ、
−前記ブレンドを水洗する、
ことを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記膜にLi塩または別の陽イオンに基づく塩を、また所望により、可塑剤を含浸させることを特徴とする請求項29〜31の一項に記載の方法。
【請求項33】
前記膜の含浸を、前記3成分のモノマーのブレンド中に電荷提供物質を取り込むことにより前記膜の生産ステップの間に行うことを特徴とする請求項29〜31の一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−529025(P2007−529025A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519956(P2006−519956)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001841
【国際公開番号】WO2005/008326
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】