説明

可変ピッチプロペラの翼角制御方法および装置

【課題】流場に応じてプロペラ効率が最大効率となるように翼角を制御して船舶を航行させる。
【解決手段】主機12により駆動されるプロペラ軸11にはプロペラ13が翼角可変自在に設けられている。プロペラ13の翼角は翼角変節機構14の翼角検出手段により検出され、プロペラ軸11に加わるトルクは軸馬力計17により検出される。前進係数データ格納部25には翼角と負荷と回転数に応じた前進係数データが格納され、検出された翼角と負荷とに基づいて前進係数、いわばプロペラ周りの流速が求められる。最適ピッチデータ格納部26に格納された最適翼角のピッチデータと、検出された翼角に基づいて前進係数に対する最適翼角が求められ、最適翼角に基づいてプロペラ13の翼角が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロペラ軸に翼角が可変自在に設けられたプロペラの翼角を制御するプロペラの翼角制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用のプロペラには、翼角を変化つまり変節させることによりピッチを自由に変化させるようにした可変ピッチプロペラがある。可変ピッチプロペラは船舶の前進から後進まで翼角を自由に変化させることができるという機能があり、プロペラボス内や軸系内に組み込まれた油圧機構からなる翼角変節機構によって翼角が制御される。
【0003】
船舶用の可変ピッチプロペラ(CCP)においては、機関の負荷を回転数に応じた設定値に保持するためにプロペラの翼角を自動負荷制御装置(ALC)により自動的に制御するようにしている。通常の自動負荷制御装置においては、プロペラの翼角を操縦ハンドルの操作に基づいて翼角設定器により目標値付近に設定しておき、プロペラ軸に加わる負荷の変動に起因した機関の設定回転数と実回転数との偏差に応じて翼角を補正するようにしている。このように、負荷変動によって機関の実回転数が変化したときに翼角を補正するようにしたのでは、実回転数に対する翼角目標値が固定的であるので、船舶の積載量や海象によって変わる航海条件に対しては翼角を応答性良く変化させることができない。
【0004】
そこで、船体の揺動運動の変化と機関の負荷変動との間には相関関係があることから、船体の揺動運動の変化を検出して予め負荷変動を予測し、翼角を制御するようにした翼角制御装置が開発されている(特許文献1)。
【特許文献1】特公平1−56033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来、機関の負荷変動の原因となる外力の変化を船体の揺動運動から予め検出することにより事前に負荷変動を予測し、翼角を予測値に基づいてフィードフォワード制御する技術が開発されている。しかしながら、このような制御方式では、船体運動と負荷変動との相関関係を予め規定しているので、予測される負荷変動はその時点での実際の機関負荷状況を捉えたものではなく、推定誤差の発生が不可避である。
【0006】
本発明の目的は、流場に応じてプロペラ効率が最大効率となるように翼角を制御し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の可変ピッチプロペラの翼角制御方法は、プロペラ軸に翼角が可変自在に設けられ船舶に推進力を与えるプロペラの翼角を制御する可変ピッチプロペラの翼角制御方法であって、前記プロペラの翼角と回転数および前記プロペラ軸に加わる負荷を検出する検出工程と、検出された前記翼角と前記負荷と前記回転数に基づいて、前記翼角と前記負荷と前記回転数に応じたプロペラ周りの流速データが格納された流速データ格納手段から流速を求める流速演算工程と、検出された前記翼角に基づいて、前記プロペラ周りの流速に対する最適翼角の最適ピッチデータが格納された最適ピッチデータから最適翼角を演算する最適翼角演算工程と、前記翼角と前記最適翼角との偏差に基づいて、前記プロペラの翼角を変化させる翼角変節機構に翼角補正信号を送るプロペラ翼角制御工程とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の可変ピッチプロペラの翼角制御方法において、前記検出工程は前記プロペラに加わる負荷としてトルク値を検出し、流速データ格納手段に前記翼角と前記トルク値と前記回転数とに応じたプロペラ周りの流速データを格納することを特徴とする。また、本発明の可変ピッチプロペラの翼角制御方法において、前記検出工程は前記プロペラに加わる負荷としてスラスト値を検出し、前記流速データ格納手段に前記翼角と前記回転数と前記スラスト値に応じたプロペラ周りの流速データを格納することを特徴とする。本発明の可変ピッチプロペラの翼角制御方法において、前記プロペラ軸に加わる負荷の検出値を前記プロペラ軸の回転周期毎に平均化し、当該平均値を用いて前記プロペラ周りの流速を演算することを特徴とする。
【0009】
本発明の可変ピッチプロペラの翼角制御装置は、プロペラ軸に翼角が可変自在に設けられ船舶に推進力を与えるプロペラの翼角を制御する可変ピッチプロペラの翼角制御装置であって、前記プロペラの翼角を変化させる翼角変節機構と、前記プロペラ軸の回転数を検出する回転数検出手段と、前記プロペラの翼角を検出する翼角検出手段と、前記プロペラ軸に加わる負荷を検出する負荷検出手段と、前記翼角と前記回転数と前記負荷に応じたプロペラ周りの流速データを格納する流速データ格納手段と、前記プロペラ周りの流速に対する最適翼角の最適ピッチデータを格納する最適ピッチデータ格納手段と、前記プロペラ軸の回転数と前記負荷と前記翼角に基づいて前記流速データにより前記プロペラ周りの流速を演算し、前記プロペラ周りの流速に基づいて前記最適ピッチデータにより最適翼角を演算し、前記翼角検出手段により検出された前記翼角と前記最適翼角とに基づいて前記翼角変節機構に翼角補正信号を送る制御手段とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明の可変ピッチプロペラの翼角制御装置において、前記負荷検出手段は前記プロペラ軸に加わる負荷としてトルク値を検出し、前記流速データ格納手段に前記翼角と前記トルク値と前記回転数に応じたプロペラ周りの流速データを格納することを特徴とする。本発明の可変ピッチプロペラの翼角制御装置において、前記負荷検出手段は前記プロペラ軸に加わる負荷としてスラスト値を検出し、前記流速データ格納手段に前記翼角と前記スラスト値に応じたプロペラ周りの流速データを格納することを特徴とする。本発明の可変ピッチプロペラの翼角制御装置において、前記負荷検出手段は前記プロペラに加わる負荷の検出値を前記プロペラ軸の回転周期毎に平均化して平均値を演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プロペラ軸に加わる負荷ないし力とプロペラの翼角および回転数とによりプロペラ周囲からプロペラに入り込む流場の流速を測定し、流速と回転数に応じてプロペラの翼角をプロペラ効率が最適な効率となる角度に設定することができるので、プロペラ効率を高めて船舶を航行させることができる。流場に応じて翼角を制御することができるので、可変ピッチプロペラの特性を最大限発揮させてプロペラ効率を高めることができる。
【0012】
船舶航行時の波浪等に起因して周期的な負荷変動が発生しても、流場に応じて最適な翼角制御が可能となる。プロペラを言わば流速計として活用して流速を直接測定するので、プロペラの翼角制御を応答性良く行うことができる。
【0013】
プロペラ軸に加わるトルク値やスラスト値などの負荷を演算する際に、プロペラ軸の1回転周期毎に負荷の平均値を演算するようにしたので、機関の燃焼衝撃やプロペラ毎の流体変動に起因したプロペラ振動による負荷変動による影響を無くして高精度で流速を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態である可変ピッチプロペラの翼角制御装置を示すブロック図である。図1に示されるように、船舶に回転自在に装着されるプロペラ軸11は、内燃機関からなる主機12に基端部で連結されて主機12により回転駆動される。プロペラ軸11の先端部に設けられたプロペラボスには複数枚、例えば4枚のプロペラ13が装着されており、それぞれのプロペラ13の翼角は翼角変節機構14(CPP)によりプロペラボスに対して揺動自在となって装着されている。この翼角変節機構14によってプロペラ13の翼角を変化つまり変節させことによりプロペラ13のピッチを、船舶の前進から後進まで自由に変化させることができる。
【0015】
乗員が操縦ハンドル15を操作すると、操縦ハンドル15からガバナ16に主機回転数指令信号S1が送られるとともに、主機12の回転数を検出するセンサからの実回転数の信号がガバナ16に送られるようになっている。ガバナ16は実回転数と指令信号との偏差を演算し、この偏差に基づいて主機12には所定量の燃料が供給され、主機12は指令回転数通りにプロペラ軸11を回転駆動する。
【0016】
プロペラ軸11に加わる回転方向の負荷ないし力と回転数を検出するために、プロペラ軸11には軸馬力計17が配置されている。プロペラ軸11の回転数は、プロペラ軸11に円周方向にスポット的に1つ設けられた反射部材18に対して軸馬力計17に設けられた発光素子から光を照射し、反射部材18からの反射光を軸馬力計17に設けられた受光素子により検出することによって検出される。ただし、軸馬力計17にプロペラ軸11と平行に光を照射する発光素子と受光を検出する受光素子を備え、その光線をある回転角度において遮る遮光突起あるいは、光を通す穴状の機構を軸周りに設けることにより回転数を検出するようにした装置でもよい。また、主機12のクランク軸の回転数を検出することによってプロペラ軸11の回転数を検出するようにしても良い。プロペラ軸11に加わる回転方向の負荷としてプロペラ軸11のトルク値を検出するために、プロペラ軸11には歪みゲージ19が設けられており、この歪みゲージ19からは無線によって検出信号が軸馬力計17に送信されるようになっている。なお、トルク値を検出するために光学式軸馬力計を用いてもよい。
【0017】
軸馬力計17からはプロペラ軸11の1回転毎に受光素子からの回転数信号と歪みゲージ19からのトルク値に対応した軸トルク信号とを含む信号S2がコントローラ21に送られる。コントローラ21は、回転数信号をトリガーとして1回転周期毎にトルク値を平均化してピーク値をキャンセルするフィルタ部22を有しており、フィルタ部22によりプロペラ軸11の1回転毎に平均化されたトルク値と回転数信号を含む信号S3が流速演算手段としての前進係数演算部23に送られる。この前進係数演算部23には、翼角変節機構14に設けられた翼角検出センサからの翼角信号S4が送られるようになっており、プロペラ13の翼角とトルク値と回転数に基づいてプロペラ周りからプロペラ13に入り込む流場の流速と回転数に対応する前進係数が演算される。
【0018】
前進係数演算部23により演算された前進係数信号S5は、翼角演算部24に送られるとともに翼角演算部24には翼角変節機構14に設けられた翼角検出センサからの翼角信号S6が送られる。翼角演算部24は前進係数信号S5に基づいてプロペラ13の最適翼角を演算するとともに、翼角センサから送られた現時点の翼角信号S6との偏差により翼角補正信号S7を翼角変節機構14に送り、プロペラ13の翼角を制御する。
【0019】
図2は翼角に対するトルク値と前進係数との関係を示すトルク係数特性線図であり、縦軸はプロペラ軸11に加わるトルク値に対応したトルク係数Kを示し、横軸は流場の流速と回転数に対応した前進係数Jを示す。翼角に対応する値はピッチ比Pとして図2に示されている。
【0020】
トルク係数Kは、K=Q/(ρn25)で示される。この式において、Qはトルク値を示し、ρは水の粘度を示し、nはプロペラ軸11の回転数を示し、Dはプロペラの外径を示す。前進係数Jは、J=V/nDで示される。この式において、Vはプロペラへの流場の水の流入速度を示す。ピッチ比P=H/Dで示される。この式において、Hはプロペラの1回転により軸方向に進む流場の水の距離であるピッチを示し、翼角に応じてピッチHは変化する。トルク値に対応するトルク係数K、流速と回転数とに対応する前進係数J、および翼角に対応するピッチ比Pは、上述のように無次元化されている。
【0021】
図2に示すように、種々の翼角に対するトルク値と前進係数との関係を示すトルク係数特性は、トルク係数Kと前進係数Jとの関係として、予めコントローラ21内のメモリにより構成される流速データ格納手段としての前進係数データ格納部25に格納されている。図2においてはピッチ比Pが0.8、1.0、および1.2の場合についてトルク係数Kと前進係数Jとの関係を示すが、演算すべき全てのピッチ比についてトルク係数Kと前進係数Jとが予め求められており、それぞれのトルク係数特性線図に対応するマップデータまたは演算式の形態で前進係数データ格納部25に格納されている。
【0022】
上述のように、流場におけるプロペラへの流入速度Vに対する回転数nとプロペラ外径Dとの積の比である無次元化された前進係数Jによって流速Vを求めるようにしたのは、演算の便宜のためであり、翼角と回転数と負荷に求められる流速自体の値を流速データ格納手段に格納するようにし、検出された回転数、翼角および負荷に基づいて流速データ演算手段により流速を演算するようにしてもよい。
【0023】
図3は前進係数Jとプロペラ13の最適翼角との関係を示す最適ピッチ特性線図であり、横軸は前進係数Jを示し、縦軸は最適翼角に対応した最適ピッチ比Pを示す。図3に示す最適ピッチ特性は、前進係数に対する最適翼角を最適ピッチデータとして、予めコントローラ21内のメモリにより構成される最適ピッチデータ格納部26に格納されている。最適ピッチデータとしては、マップデータまたは演算式の形態で最適ピッチデータ格納部26に格納されている。
【0024】
図4はピッチ比に対する前進係数Jとプロペラ効率との関係を示す効率特性線図である。図4に示すように、翼角に対応するピッチ比に応じてプロペラ効率が最大となる前進係数Jが相違している。このように、前進係数に応じてピッチ比を変化させることによりプロペラ13を最大効率によって回転駆動することができる。図3に示す最適ピッチ特性は、図4に示すように前進係数Jに応じてプロペラ効率が最大効率となるピッチ比に基づいて設定されている。
【0025】
コントローラ21は、図1に示すように、翼角変節機構14に組み込まれた翼角検出センサと軸馬力計17とからの信号に基づいて演算処理を行うマイクロプロセッサ(CPU)と、演算プログラム、マップデータおよび演算式等を格納するメモリ(ROM)と、一時的にデータを格納するメモリ(RAM)等を有している。コントローラ21はその機能構成として捉えると、図1に示すように、フィルタ部22、前進係数演算部23、翼角演算部24、前進係数データ格納部25および最適ピッチデータ格納部26を有している。前進係数演算部23と翼角演算部24とにより翼角変節機構14に対して翼角補正信号を送ってプロペラ13の翼角を制御するための制御手段が構成されている。
【0026】
図5は図1に示した可変ピッチプロペラの翼角制御装置による翼角制御手順を示すフローチャートである。
【0027】
船舶の航行時に軸馬力計17によりプロペラ軸11の回転数nとプロペラ軸11に加わる回転方向の負荷としてトルク値Qが検出され(ステップS1)、それぞれに対応した信号がフィルタ部22に送られる。トルク値Qの信号は歪みゲージ19から、例えば500Hzの周期でフィルタ部22に送られ、回転数nの信号は、例えばプロペラ軸11が120rpmで回転していれば、0.5秒毎にフィルタ部22に送られる。フィルタ部22は回転数nの信号をトリガーとして1回転毎に、1回転するまでに軸馬力計17から送られた全てのトルク値を平均化してトルク値を算出する(ステップS2)。主機12としての内燃機関はピストン毎の燃焼時の衝撃やプロペラ毎の流体変動によりプロペラ軸11が振動するので、トルク値はプロペラ軸11が1回転する間に変動することになるが、これらに起因したピーク値をプロペラ軸11の1回転周期毎のトルク値を平均化することよってキャンセルすることができる。これにより、波浪等を原因とする周期で迅速に流場変動を捉えることができる。
【0028】
翼角変節機構14に設けられた図示しない翼角センサによりコントローラ21には翼角信号が送られており、ステップS3において翼角信号を読み込んで、前進係数を演算する(ステップS4)。前進係数は、上述のように翼角によって求められるピッチ比Pとプロペラ軸11に加わるトルク値Qによって求められるトルク係数Kと回転数により、前進係数データ格納部25に格納された流速データを読み出すことによって演算される。
【0029】
前進係数が求められると、ステップS5において前進係数に応じた最適な翼角つまり最適ピッチ比Pが演算される。最適ピッチ比Pは、上述のように最適ピッチデータ格納部26に格納されたデータを読み出すことにより演算される。最適ピッチ比Pが演算されると、実際の翼角と最適翼角との偏差がステップS6において演算され、翼角演算部24からは翼角変節機構14に対して翼角補正信号が送られる。これにより、プロペラ13は最適翼角に制御される(ステップS7)。
【0030】
このように、本発明においては、プロペラ軸11に加わるトルク値とプロペラ13の翼角とを流速計として利用するようにしたので、前進係数つまりは流場の流速を時々刻々と計測して迅速にプロペラ13の翼角を最大効率角度に制御することができる。プロペラ13を常時最大効率角度に設定して常に船舶を航行させることができるので、船舶の燃費を向上させることができる。
【0031】
従来のように、機関の負荷変動の原因となる外力の変化を船体の揺動運動から予め検出することにより事前に負荷変動を予測することによって、船体加速度をパラメータとして翼角を補正制御するようにしたのでは、船体揺動はプロペラ周りの流場と一義的には相関関係を持たないので、翼角とプロペラ周り流場に対する最適翼角との間には大きな誤差が生じることになり、船舶を低燃費で航行させることができない。これに対して、本発明においてはプロペラ効率に大きな影響を与える前進係数、いわばプロペラ周りの流速を測定することにより、波浪等に起因する周期的な負荷変動を受けた場合にも、流場に応じた最適な翼角制御が可能となり、船舶の推進効率つまり燃費を大幅に向上させることができる。
【0032】
図6は本発明の他の実施の形態である可変ピッチプロペラの翼角制御装置を示すブロック図である。図1に示した翼角制御装置においては前進係数すなわちプロペラ周りの流速を演算するために、プロペラ軸11に加わる負荷としてトルク値を用いているのに対し、図6に示す場合にはプロペラ軸11に軸方向に作用する負荷つまりスラスト値を用いて流速を演算するようにしている。
【0033】
プロペラ軸11に加わるスラスト値Tを検出するために、プロペラ軸11に設けられた径方向面に接触する突き当て部にはロードセル等からなるスラストセンサ31が設けられており、このスラストセンサ31の検出信号はスラスト計32に送られる。フィルタ部22にはスラスト計32からスラスト信号S2が送られるとともに、主機12からプロペラ軸11の回転数信号S8が送られるようになっている。ただし、図1に示した軸馬力計17と同様にスラスト計32によりプロペラ軸11の回転数を検出するようにしても良い。その場合には、上述した場合と同様に、プロペラ軸11に反射部材を設けてその反射部材に対して光を照射する発光素子と、反射部材からの反射光を受光する受光素子とをスラスト計32に設けることになる。ただし、上述したようにプロペラ軸11と同じ方向に発光素子より発光し、受光検出する装置を備え、その光線上をある回転角度においてスポット的に遮るか、あるいは光を通す機構による回転数計測装置を用いるようにしてもよい。
【0034】
スラスト値Tと前進係数とには翼角と回転数に対して、図2に示したトルク値と前進係数との対応関係と同様な関係がある。スラスト値をTとすると、スラスト係数Kは、K=T/(ρn24)で表される。前進係数Jとスラスト係数Kは翼角に応じて、図2に示したトルク係数Kと前進係数Jとの関係と同様の関係を有している。したがって、ピッチ比Pに応じてスラスト係数Kと前進係数Jとの相関関係を予め求めて、スラスト係数特性線図に対応するマップデータまたは演算式を前進係数データ格納部25に格納しておくことにより、スラスト計32から送られるスラスト信号と回転数信号S2に基づいて前進係数つまりプロペラ周りの流速を検出することができる。
【0035】
この場合にも、フィルタ部22において主機12からの1回転数信号をトリガーとして回転周期毎にスラスト値Tを平均化してピーク値をキャンセルする。これにより、前進係数演算部23には、フィルタ部22によりプロペラ軸11の1回転毎に平均化されたスラスト値と回転数信号を含む信号S3が送られる。図6に示す最適ピッチデータ格納部26には、図1に示した場合と同様の最適ピッチデータが格納されている。したがって、翼角演算部24は、図1に示した場合と同様に最適ピッチ比Pを演算し、実際の翼角と最適翼角との偏差に応じて翼角変節機構14に対して翼角補正信号が送られる。
【0036】
本発明は前記実施の形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、フィルタ部22においてはプロペラ軸11の1回転周期毎にトルク値やスラスト値を平均化しているが、回転周期毎であれば、2回転毎等の整数回転周期毎に平均化するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態である可変ピッチプロペラの翼角制御装置を示すブロック図である。
【図2】翼角に対するトルク値と前進係数との関係を示すトルク係数特性線図である。
【図3】前進係数とプロペラの最適翼角との関係を示す最適ピッチ特性線図である。
【図4】ピッチ比に対する前進係数とプロペラ効率との関係を示す効率特性線図である。
【図5】図1に示した可変ピッチプロペラの翼角制御装置による翼角制御手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施の形態である可変ピッチプロペラの翼角制御装置を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
11 プロペラ軸
12 主機(内燃機関)
13 プロペラ
14 翼角変節機構
15 操縦ハンドル
16 ガバナ
17 軸馬力計(回転数検出手段、負荷検出手段)
18 反射部材
19 歪みゲージ
21 コントローラ
22 フイルタ部
23 前進係数演算部(流速演算手段)
24 翼角演算部(翼角演算手段)
25 前進係数データ格納部(流速データ格納手段)
26 最適ピッチデータ格納部(最適ピッチデータ格納手段)
31 スラストセンサ
32 スラスト計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラ軸に翼角が可変自在に設けられ船舶に推進力を与えるプロペラの翼角を制御する可変ピッチプロペラの翼角制御方法であって、
前記プロペラの翼角と回転数および前記プロペラ軸に加わる負荷を検出する検出工程と、
検出された前記翼角と前記負荷と前記回転数に基づいて、前記翼角と前記負荷と前記回転数に応じたプロペラ周りの流速データが格納された流速データ格納手段から流速を求める流速演算工程と、
検出された前記翼角に基づいて、前記プロペラ周りの流速に対する最適翼角の最適ピッチデータが格納された最適ピッチデータから最適翼角を演算する最適翼角演算工程と、
前記翼角と前記最適翼角との偏差に基づいて、前記プロペラの翼角を変化させる翼角変節機構に翼角補正信号を送るプロペラ翼角制御工程とを有することを特徴とする可変ピッチプロペラの翼角制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の可変ピッチプロペラの翼角制御方法において、前記検出工程は前記プロペラに加わる負荷としてトルク値を検出し、流速データ格納手段に前記翼角と前記トルク値と前記回転数とに応じたプロペラ周りの流速データを格納することを特徴とする可変ピッチプロペラの翼角制御方法。
【請求項3】
請求項1記載の可変ピッチプロペラの翼角制御方法において、前記検出工程は前記プロペラに加わる負荷としてスラスト値を検出し、前記流速データ格納手段に前記翼角と前記回転数と前記スラスト値に応じたプロペラ周りの流速データを格納することを特徴とする可変ピッチプロペラの翼角制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の可変ピッチプロペラの翼角制御方法において、前記プロペラ軸に加わる負荷の検出値を前記プロペラ軸の回転周期毎に平均化し、当該平均値を用いて前記プロペラ周りの流速を演算することを特徴とする可変ピッチプロペラの翼角制御方法。
【請求項5】
プロペラ軸に翼角が可変自在に設けられ船舶に推進力を与えるプロペラの翼角を制御する可変ピッチプロペラの翼角制御装置であって、
前記プロペラの翼角を変化させる翼角変節機構と、
前記プロペラ軸の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記プロペラの翼角を検出する翼角検出手段と、
前記プロペラ軸に加わる負荷を検出する負荷検出手段と、
前記翼角と前記回転数と前記負荷に応じたプロペラ周りの流速データを格納する流速データ格納手段と、
前記プロペラ周りの流速に対する最適翼角の最適ピッチデータを格納する最適ピッチデータ格納手段と、
前記プロペラ軸の回転数と前記負荷と前記翼角に基づいて前記流速データにより前記プロペラ周りの流速を演算し、前記プロペラ周りの流速に基づいて前記最適ピッチデータにより最適翼角を演算し、前記翼角検出手段により検出された前記翼角と前記最適翼角とに基づいて前記翼角変節機構に翼角補正信号を送る制御手段とを有することを特徴とする可変ピッチプロペラの翼角制御装置。
【請求項6】
請求項5記載の可変ピッチプロペラの翼角制御装置において、前記負荷検出手段は前記プロペラ軸に加わる負荷としてトルク値を検出し、前記流速データ格納手段に前記翼角と前記トルク値と前記回転数に応じたプロペラ周りの流速データを格納することを特徴とする可変ピッチプロペラの翼角制御装置。
【請求項7】
請求項5記載の可変ピッチプロペラの翼角制御装置において、前記負荷検出手段は前記プロペラ軸に加わる負荷としてスラスト値を検出し、前記流速データ格納手段に前記翼角と前記スラスト値に応じたプロペラ周りの流速データを格納することを特徴とする可変ピッチプロペラの翼角制御装置。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項記載の可変ピッチプロペラの翼角制御装置において、前記負荷検出手段は前記プロペラに加わる負荷の検出値を前記プロペラ軸の回転周期毎に平均化して平均値を演算することを特徴とする可変ピッチプロペラの翼角制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−132161(P2010−132161A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310766(P2008−310766)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(304035975)株式会社MTI (46)