説明

可変ファラデー回転子、および光シャッター

【課題】効率的に磁界を発生させて、小型化と動作安定性とを両立させた可変ファラデー回転子を提供する
【解決手段】光軸11方向を前後方向として、磁気光学材料からなるファラデー素子2と、当該ファラデー素子に磁界を印加するための磁気回路部とを含んで構成されるファラデー回転子1aであって、前記ファラデー素子の前後に偏光子(3f,3b)が配置されて非相反部10が構成され、前記光軸と一致する軸を有して前後に開口する中空筒状で、光路に沿って進行する光を中空部61を介して通過させる高透磁率磁性材料からなるコア部6が前記非相反部の前後にそれぞれ配置され、前記磁気回路部は、前記光軸を螺旋軸として、前記非相反部と前記コア部の周囲に巻回されているコイル4によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光軸方向を前後方向として、磁気光学材料からなるファラデー素子の前後に複屈折素子が配置されている非相反部と、ファラデー素子に磁界を印加するための磁気回路部とを含んで構成されるファラデー回転子に関する。具体的には、磁気回路部にコイルを用いた可変ファラデー回転子に関する。また、可変ファラデー回転子を用いた光シャッターにも関する。
【背景技術】
【0002】
周知のごとく、物質に磁場をかけることにより、その物質に応じ、透過してきた光の偏光面が時計回りあるいは反時計回りに回転する現象がファラデー効果である。そして、以下では、ファラデー効果を利用して光の偏光面を回転さる光学部品をファラデー回転子と呼ぶことにする。そして、光学部品として実用可能なファラデー回転子は、希土類鉄ガーネット単結晶など、ファラデー回転係数(ベルデ定数)が大きく、優れたファラデー効果を有する磁気光学材料(以下、ファラデー素子)と、そのファラデー素子に磁界を印加するための磁気回路部とを含んで構成されている。
【0003】
ところで、ファラデー回転子には、磁気回路部にコイルを用いるとともに、そのコイルに印加する電流の方向に応じてファラデー素子に印加する磁界の方向を反転させることで、入射光の偏光面の回転方向を逆転させることができる可変ファラデー回転子がある。そして、以下の特許文献1には、略C字状のヨークにコイルを巻回してなる電磁石を磁気回路として、その略C字状のヨークの磁気ギャップにファラデー素子が配置された可変ファラデー回転子について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献2】特開平7−301775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
周知のごとく、コイルが発生する磁界(磁束密度)Bは、コイルが巻回される物質の透磁率μとコイルの巻数nとコイルに印加する電流Iの積μ・n・Iで表現される。そして、コイルが巻回される物質のμの値が一定である場合、大きな電流Iを印加すれば、コイルの巻数nは少なくて済むが、大きな電流Iを印加することで発熱量が大きくなる。ファラデー素子は、温度の上昇に伴ってベルデ定数が低下するので、コイルが発熱すると、可変ファラデー回転子のファラデー回転角が不安定になり、光学部品としての特性が劣化し、信頼性が低下する。
【0006】
また、発熱量を抑えるために、コイルの巻数nを増やし、小さな電流値Iで磁気回路部を駆動すれば、今度は、コイルのサイズが大きくなり、可変ファラデー回転子自体の小型化はもちろん、可変ファラデー回転子が組み込まれる様々な光回路素子(光シャッター、光アッテネーターなど)や光回路素子を用いた製品(光通信用機器など)の小型化も困難となる。
【0007】
上記のμの値が大きな高透磁率材料(フェライトコア、珪素鋼板など)からなるヨークにコイルを形成した磁気回路を用いることも考えられるが、その磁気回路は、上述した特許文献1に記載されている可変ファラデー回転子のように、光路を塞がないように配置する必要があり、磁気回路を光路から外れた場所に配置せざるを得ない。また、発生磁界を大きくするために、磁気回路の磁路長を長くする必要もあり、磁気回路自体も大型化する。すなわち、従来の可変ファラデー回転子は、小型化と動作安定性とが相反する。
【0008】
したがって、本発明は、効率的に磁界を発生させて、小型化と動作安定性とを両立させた可変ファラデー回転子を提供することを目的としている。また、その可変ファラデー回転子が備える特徴的な構成や構造に基づいて、小型で動作安定性に優れた光シャッターを提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、光軸方向を前後方向として、磁気光学材料からなるファラデー素子と、当該ファラデー素子に磁界を印加するための磁気回路部とを含んで構成されるファラデー回転子であって、
前記ファラデー素子の前後に偏光子が配置されて非相反部が構成され、
前記光軸と一致する軸を有して前後に開口する中空筒状で、光路に沿って進行する光を中空部を介して通過させる高透磁率磁性材料からなるコア部が前記非相反部の前後にそれぞれ配置され、
前記磁気回路部は、前記光軸を螺旋軸として、前記非相反部と前記コア部の周囲に巻回されているコイルによって形成されている。
【0010】
また、上記可変ファラデー回転子において、前記光軸を軸とした筒状の外筒の内側に中空筒状の内筒が同軸に配置された二重筒状のケースを備え、
前記内筒は前後に開口して、当該内筒の中空部に非相反部と前記コア部が収納され、
前記コイルが前記内筒の外周に巻回されて当該内筒と前記外筒との間の空隙に収納され、
前記内筒と前記外筒との間の空隙で、前記コイルの形成領域の前後に磁性材料が充填されている可変ファラデー回転子とすればより好ましい。
【0011】
なお、上記いずれかの可変ファラデー素子において、前記コア部をフェライトコアとしたり、珪素鋼鈑で構成したりしてもよい。
【0012】
本発明は、光シャッターにも及んでおり、当該光シャッターに係る発明は、光軸方向を前後方向として、磁気光学材料からなるファラデー素子の前後に光学軸が所定方向に偏光子が配置されてなる第1および第2の非相反部が前記光軸に沿って隣接して直列に配置されているとともに、当該第1および第2の非相反部の前記ファラデー素子に磁界を印加するための磁気回路部とを含んで構成され、
前記第1の非相反部の後方に第2の非相反部が直列配置され、前記光軸と一致する円筒軸を有する中空円筒状で、前記第1の非相反部の前方と、前記第2の非相反部の後方にそれぞれ高透磁率磁性材料からなるコア部が配置され、
前記磁気回路部は、前記光軸を螺旋軸として、前記直列配置されている前記第1および第2の非相反部と、前記コア部の周囲とに巻回されているコイルによって形成され、
前記コイルに印加する電流の方向によって前記光軸方向の磁界の方向を反転させることで、前記光軸に沿って所定の方向に進行する光を透過、あるいは遮断させる、
ことを特徴とする光シャッターとしている。
【0013】
また、上記光シャッターにおいて、前記光軸を軸とした筒状の外筒の内側に中空筒状の内筒が同軸に配置された二重筒状のケースを備え、
前記内筒は前後に開口して、当該内筒の中空部に前記直列状態にある第1および第2の非相反部と前記コア部とが収納され、
前記コイルは、前記内筒の外周に巻回されて当該内筒と前記外筒との間の空隙に収納さ
前記内筒と前記外筒との間の空隙で、前記コイルの形成領域の前後に磁性材料が充填されている光シャッターとすれば、より好ましい。
【0014】
そして、上記いずれかの光シャッターにおいて、前記コア部は、フェライトコアであってもよいし、珪素鋼鈑で構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の可変ファラデー回転子によれば、より強い磁界をファラデー素子に効率よく印加させることができ、結果的に、小型化と動作安定生とを高いレベルで両立させることができる。また、その可変ファラデー回転子の構成を応用した光シャッターは、ファラデー素子に強磁界を効率的に印加させることができるため、優れた遮光性能と透過性能を可逆的に安定して発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の可変ファラデー回転子の概略構造図である。
【図2】上記従来の可変ファラデー回転子を構成する各光学素子の特性の一例を示す図である。
【図3】第1実施例に係る可変ファラデー回転子の概略構造図である。
【図4】第2実施例に係る可変ファラデー回転子の概略構造図である
【図5】従来、第1実施例、および第2実施例のそれぞれの可変ファラデー回転子の起磁力特性を示す図である。
【図6】可変ファラデー回転子を応用した光シャッターにおける直列非相反部の構成を示す図である。
【図7】従来の光シャッターの構造を示す図である。
【図8】第3実施例に係る光シャッターの構造を示す図である。
【図9】第4実施例に係る光シャッターの構造を示す図である。
【図10】従来の光シャッターと第3実施例の光シャッターの磁気光学特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
===可変ファラデー回転子===
本発明の実施例に係る可変ファラデー回転子の性能を評価するために、構造や構成が異なる可変ファラデー回転子を3種類作製した。作製した3種類の可変ファラデー回転子の一つは、従来の可変ファラデー回転子であり、図1に、その従来の可変ファラデー回転子(以下、従来例)1cの概略構造を示した。図1(A)は、従来例1cの主要部を示す斜視図であり、(B)は、(A)におけるa−a矢視断面図である。すなわち、光軸11方向を前後方向とするとともに、図1(A)を前方上方からの斜視図として前後と上下を規定し、前方から光軸11に沿って後方を見た状態で左右を規定すると、(B)は、従来例1cを、光軸11を通り、前後上下方向の面と平行な断面を左方向から見たときの図である。なお、図1を含め、構造や構成を示した以下の図は、その構造や構成を説明するためのものであり、各構成要素のサイズの比率などは実際のものとは異なっている。
【0018】
従来例1cは、図1(B)に示したように、(A)に示した主要部が筒状のケース5内に収納された構造となっており、図示した例では、ケース5は、前後が開口する中空筒状で、外周にコイル4が巻回されるともに中空内部に非相反部10が収納されている内筒52と、当該第1実施例1aの外装を構成する外筒51とが同軸上に配置された二重筒状となっている。
【0019】
主要部は、偏光子として、楔形ルチルからなる二つの複屈折素子(3f,3b)を用い、その二つの複屈折素子(3f,3b)をファラデー素子2の前後にそれぞれ一つずつ配置した非相反部10と、この非相反部10に磁界を印加する磁気回路部とによって構成されている。そして、ファラデー素子2における光の入射面および出射面の法線方向を光軸11方向として、磁気回路部は、この光軸11を螺旋軸としてファラデー素子2の周囲に巻回されているコイル4によって形成されている。すなわち、電源(図示せず)から供給される電流をコイル4の巻線に流すと、ファラデー素子2には、光軸11方向に磁界が印加される構成となっている。
【0020】
非相反部10は、二つの楔形の複屈折素子(3f,3b)が、前後の幅が薄い頂部31が互いに180度方向に向くように配置されてなり、図示した例では、二つの複屈折素子(3f,3b)は、ファラデー素子2側の面が光軸11と直交して互いに平行となるように対面しつつ、前方の複屈折素子3fは、頂部31から下方に向かって前方に傾斜し、後方の複屈折素子3bは、頂部31を下方として、上方に向かって後方に傾斜している。また、二つの複屈折素子(3f,3b)の光学軸は、光軸11と直交している。
【0021】
以上の構成を備えた非相反部10では、光軸11と平行に前方から後方に進む光が前方の複屈折素子3fに入射すると互いに直交する二つの直線偏光である通常光と異常光に分離するとともに、下方に屈折し、その二つの直線偏光は、ファラデー素子2に入射するとさらに下方に屈折する。そして、ファラデー素子2を透過した光が後方の複屈折素子3bに入射すると、少なくとも、前方の複屈折素子3fにて分離した通常光と異常光に対応する光については、この後方の複屈折素子3bから光が後方に出射する際に、再度光軸11と平行となる。なお、偏光子としては、上記楔形ルチルに限らず、光軸11と直交する面を前後に有する複屈折性結晶や偏光板などを採用してもよい。
【0022】
ところで、可変ファラデー回転子は磁気飽和状態におけるファラデー素子2の光軸11回りのファラデー回転角と、二つの複屈折素子(3f,3b)の光学軸方向などの光学特性を適宜に設定しておけば、偏光を扱う様々な光学部品として機能する。例えば、従来例1cは、上記特許文献1にも記載されている光の透過と遮断を制御できる光シャッターとして機能する。
【0023】
図2に、従来例1cを用いた光シャッターの例を示した。当該図2では、光シャッターとして機能する従来例1cの非相反部10の構成を示している。図示した例では、光軸11に沿って前方から後方に光を入射することとし、前方の複屈折素子3fの光学軸32fは、左右方向に対して時計回りに22.5度傾いており、後方の複屈折素子3bの光学軸32bは、左右方向に対して反時計回りに22.5度傾いている。すなわち、前後の複屈折素子(3f,3b)の光学軸(32f,32b)は45度の角度で交差している。また、ファラデー素子2のファラデー回転角は、磁界の方向に応じて時計回り、あるいは反時計回りに45度となっている。
【0024】
しかしながら、図1に示した従来例1cでは、十分な磁界を発生させるために、コイル4に印加する電流を大きくする必要がある。また、その大きな電流によってコイル4を形成する導線が発熱し、その熱によってファラデー素子2の動作が不安定になる。すなわち、従来例1cを用いて光シャッターを構成すれば、ファラデー回転角が安定せず、十分な消光比を得ることができない。そして、ファラデー回転子は、光シャッターに限らず、様々な用途に用いられる基本的な光学部品であることから、可変ファラデー回転子には、小さな電流でも光軸11方向に大きな磁界が得られるような構成が必要となる。
【0025】
そこで、以下に、効率よく磁界を発生するための構成を備えた可変ファラデー回転子を例示する。図3(A)は、その高効率の可変ファラデー回転子の一例(以下、第1実施例)1aを前方上方から見たときの一部破断斜視図を示している。また、(B)に(A)におけるb−b矢視断面を示した。第1実施例1aは、従来例1cと同様のケース5内に各種光学要素が収納された構造であり、非相反部10の構成も、従来例1cと同様である。なお、(A)では、部分的に(B)に示したハッチングを用いて、第1実施例1aの各構成要素が容易に区別できるようにしている。
【0026】
そして、第1実施例1aでは、非相反部10の前後に、高透磁率材料からなる中空筒状のコア部6が配置され、このコア部6の構造や配置が従来例1cと異なる大きな特徴となっている。コア部6は、前後両端が開口する円筒状で、前後方向に進行する光を中空部61を介して通過させるように形成されている。なお、この例では、コア部6にフェライトコアを用いている。もちろん、コア部6は、フェライトコアに限らず、珪素鋼板などの他の高透磁率材料で形成されていてもよい。
【0027】
このように、第1実施例1aの構成では、実質的な透磁率μの値を大きくすることになり、従来例1cと同じ磁界を発生させるとすると、巻数nと電流値Iの積算値をμの値に反比例して小さくさせることができる。すなわち、磁気飽和させるための印加電流値を低減させることができる。それによって、これまで必要であった磁性ヨークなどが必要なくなり、小型化と低価格化を達成することができる。また、電流値を低減させることにより発熱量を抑え、ファラデー素子2を安定して動作させることができる。
【0028】
図4は、効率よく磁界を発生するための構成を備えた可変ファラデー回転子のその他の例(以下、第2実施例)1bを示しており、図4(A)は、当該第2実施例1bを前方上方から見たときの一部破断斜視図を示している。また、(B)は、(A)におけるc−c矢視断面図である。なお、図4(A)では、前方から見たときの構造が分かりやすいように、同じ部材については、(B)と同じハッチングを用いて示している。第2実施例1bは、第1実施例1aの構成とほぼ同様であるが、主要部を収納するケース5の内部構造に特徴を有している。具体的には、ケース5は、前後に開口する中空筒状で、光軸11を軸とした筒状の外筒51の内側に中空筒状の内筒52が配置された二重筒状となっている。そして、内筒52の外周と外筒51の内周との間にコイル4が形成されている。なお、ここまでの構造は、従来例1cや第1実施例1aにおけるケース5と実質的に同じである。しかし、第2実施例1bでは、内筒52と外筒51との間の空隙53で、コイル4の形成領域41の前後に磁性材料7が充填されている点が異なっている。すなわち、第2実施例1bでは、ケース5の前後両端に中空リング状の磁性材料7がコア部6の外周に配置されることになり、コイル4の前後両端における磁束の漏れを防止し、ファラデー素子2に対し、さらに効果的に磁界を印加することができるようになっている。なお、磁性材料7としては、フェライトコアや珪素鋼板などの高透磁率材料を用いてもよいが、第2実施例1bでは、透磁率μが2程度のより安価な磁性材料7を用いている。
【0029】
ここで、上記従来例1c、第1実施例1a、および第2実施例1bにおける起磁力特性を評価するために、コイル4中心部の磁束密度が200ガウスとなるときのコイルの巻数nと電流値Iとの関係を調べた。図5に各可変ファラデー回転子(1c,1a,1b)の起磁力特性をグラフにして示した。なお、図5では、巻数nと電流値Iの積で表される起磁力も合わせて示している。図5に示したグラフより、第1実施例1aは、従来例1cと比較して、同じ磁界を発生させるための巻数nや電流値Iを低下させることができ、第2実施例1bは、巻数nや電流値Iを第1実施例1aよりも、さらに低下させることができた。
【0030】
具体的には、巻数nを2500とすると、従来例1cでは、200ガウスの磁束密度を得るために、約60mAの電流Iが必要となる。コイル4を構成する導線の抵抗値は約100Ω程度であるため、消費電力は、100×0.06=360mW程度となり、発熱したコイル4を放熱させることが難しい。そのため、従来例1cは、ファラデー素子2の温度依存特性が顕在化し、ファラデー回転角が不安定になる。
【0031】
一方、第1実施例1aでは、印加電流値は約40mA程度で、となり、消費電力P=100×0.04=160mW程度となり、従来例1cの1/2以下になる。したがって、温度の上昇を抑制することが十分に可能となる。さらに、第2実施例1bでは、印加電流値が約30mA程度で、消費電力P=100×0.03=90mWとなり、従来例1cの1/4程度となり、温度の上昇をさらに抑制することが可能となる。しかも、第2実施例1bは、第1実施例1aに対し、安価な磁性材料7をケース5に充填するだけの構成で、極めて優れた発熱抑制効果を大きなコストアップを伴わずに得ることができる。もちろん、同じ磁束密度を同じ電流値で得ようとすれば、コイル4の巻数は、従来例1c、第1実施例1a、第2実施例1bの順に少なくなり、磁束密度と電流値が規定されている場合には、第1実施例1aや第2実施例1bは、従来例1cよりも小型化することが可能となる。
【0032】
===光シャッター===
上述したように、構成が異なる三種類の可変ファラデー回転子(1c,1a,1b)は逸れも単体で光シャッターとして機能させることができ、印加する磁界と光シャッターにおける消光比とから各可変ファラデー回転子(1c,1a,1b)の磁気光学特性を評価することができる。しかし、非相反部10を光軸11に沿って二つ直列に配置して光シャッターを構成すると、先に図2に示したような、単体の可変ファラデー回転子からなる光シャッターよりも消光比を大きくすることができ、可変ファラデー回転子の磁気光学特性をより正確に評価することができる。そこで、非相反部10を光軸11に沿って直列に配置しつつ、上記三種類の可変ファラデー回転子(1c,1a,1b)のそれぞれの構造を基本とした三種類の光シャッターを作製し、各光シャッターの性能を評価した。また、その評価結果より,間接的に上記三種類の可変ファラデー回転子(1c,1a,1b)の磁気光学特性を評価した。
【0033】
図6に、作製した三種類の光シャッターが備える二つの非相反部(10f,10b)の配置を示した。図6(A)は、直列状態にある非相反部(10f,10b)における各光学素子(2f,2b,3A〜3D)の配置を示す斜視図であり、(B)は、二つの非相反部(10f,10b)に含まれている四つの複屈折素子(3A〜3D)の光学軸(32A〜32D)の方向を示している。作製した光シャッターでは、図1、図3、図4のそれぞれに示したファラデー回転子(1c,1a,1b)に共通する非相反部10を二つ用いている。そして、二つの非相反部(10f,10b)を光軸11回りに互いに90度の角度をなすように直列に配置している。それによって、前方から入射した光が屈折を繰り返して、光路が直列状態にある非相反部の形成領域から外れてしまわないようにしている。
【0034】
また、前後の非相反部(10f、10b)のそれぞれにおける二つの複屈折素子(3A−3B,3C−3D)の光学軸(32A−32B,32C−32D)が、互いに45度の角度で交差しているとともに、前方から数えて1番目と4番目の複屈折素子(3A,3D)の光学軸(32A,32D)、および前方から数えて2番目と3番目の複屈折素子(3B,3C)の光学軸(32B,32D)が直交している。二つの非相反部(10f,10b)のそれぞれのファラデー素子(2f,2b)は、実質的に同じものであり、印加される前後方向の磁界の向きに応じてファラーで回転角が前方から見て時計回り、あるいは反時計回りに45度回転するように設定されている。それによって、図6に示した二つの非相反部(10f,10b)を直列配置した光学構成(以下、直列非相反部)100に、光軸11方向に磁界を印加する磁気回路部を加えて光シャッターを構成した場合、前方から後方に向かって光が入射すると、前後二つのファラデー素子(2f,2b)のファラデー回転角がともに前方から見て時計回りに45度のとき、光シャッターは後方に光を透過させ、ファラデー回転角が反時計回りに45度のときに光を遮断する。もちろん、光シャッターを構成するためのファラデー回転角や複屈折素子の光学軸方向などは、図6に示した構成に限らず、各種考えられる。いずれにしても、ファラデー素子(2f,2b)の前後に、複屈折素子(3A−3B,3C−3D)などの偏光子を配置した非相反部10を光軸11に沿って直列配置する光学構成を基本として、コイル4からなる磁気回路部と、上記従来例1c、第1実施例1a、および第2実施例1bが備える周辺構成とによって光シャッターを構成すればよい。
【0035】
図7〜図9に、それぞれ、従来例1c、第1実施例1a、および第2実施例1bを応用した光シャッター(101c,101a,102b)の構造を示した。なお、図7〜図9は、図6におけるd−d矢視断面に相当する図である。各光シャッター(101c,101a,101b)は、図6に示した直列非相反部100とコイル4とをケース5内に収納した構造であり、図7に示した従来例1cに対応する光シャッター(以下、従来シャッター)101cでは、基本的に、直列非相反部100の周囲にコイル4を巻回しただけの構造となっている。
【0036】
図8は、第1実施例1aの応用形態に対応する光シャッター(以下、第3実施例)101aを示しており、直列非相反部100の前後に第1実施例1aにおけるコア部6を配置した構造となっている。図9は、第2実施例1bの応用形態に対応する光シャッター(以下、第4実施例)101bの構造を示しており、第3実施例101aに対し、二重筒状のケース5の内筒52と外筒51との間の空隙53部分で、コイル4の形成領域41の前後両端側に第2実施例1cで用いたものと同様の磁性材料7を充填している。
【0037】
ここで、各光シャッター(101c,101a,101b)のうち、従来シャッター101cと第3実施例101aについての磁気光学特性を評価した。評価方法は、それぞれの光シャッター(101c,101a)に前方から光を入射するとともに、1Hzの周期でコイル4に印加する電流の向きを反転させて光透過状態と遮光状態を交互に切り替えさせながら、光シャッターの後方に透過してきた光の光強度を測定することで行った。また、当該測定に際しては、各光シャッター(101c,101a)の光透過時の光透過損失と遮光時における遮光率とが初期状態で同等なるように、従来シャッター101cについては50mA、第3実施例101aについては30mAの電流をそれぞれのコイル4に正逆方向に反転させながら流した。
【0038】
図10に、従来シャッター101cと第3実施例101aにおける磁気光学特性をしめした。図10(A)は、光シャッター(101c,101a)がコイル4に印加する電流の反転回数と遮光状態での遮光率との関係を示しており、(B)は、電流の反転回数と光透過状態での透過損失との関係を示している。図10より、コイル4に印加する電流を正逆に一回反転させる動作を1サイクルとして、従来シャッター101cは、遮光状態では50サイクル目あたりで、光透過状態では、30サイクル目あたりで特性が急激に劣化しているのが確認できた。一方、第3実施例101aは、光透過状態、遮光状態の双方において、300サイクル目でも初期特性を維持していることが確認できた。なお、第4実施例101bの磁気光学特性については、評価するまでもなく、図5に示した各可変ファラデー回転子(1c,1a,1b)における起磁力特性から、第3実施例101aの磁気光学特性よりも優れていることは自明である。以上により、第1実施例〜第4実施例に係る可変ファラデー回転子(1a,1b)や光シャッター(101a,101b)は、ファラデー素子(2,2f,2b)に高速で反転する磁界が随時印加されるような光通信用の機器に適用される場合であっても、その機器を安定して動作させることができる。とくに、第3実施例101aと第4実施例101bでは、消光比が大きく、安定した動作が可能で、小型化も期待できるより実用的な光シャッターとして提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、光通信のための各種通信機器に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1a〜1c 可変ファラデー回転子 2,2f,2b ファラデー素子、3f,3b,3A〜3D 複屈折素子、4 コイル、5 ケース 6 コア部(フェライトコア)、7 磁性材料、10 非相反部、11 光軸、31 楔形の複屈折素子の頂部、32f,32b,32A〜32D 複屈折素子の光学軸、41 コイル形成領域、51 外筒、52 内筒、53 外筒と内筒との間の空隙、61 コア部の中空部、100 直列非相反部、101a〜101c 光シャッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸方向を前後方向として、磁気光学材料からなるファラデー素子と、当該ファラデー素子に磁界を印加するための磁気回路部とを含んで構成されるファラデー回転子であって、
前記ファラデー素子の前後に偏光子が配置されて非相反部が構成され、
前記光軸と一致する軸を有して前後に開口する中空筒状で、光路に沿って進行する光を中空部を介して通過させる高透磁率磁性材料からなるコア部が前記非相反部の前後にそれぞれ配置され、
前記磁気回路部は、前記光軸を螺旋軸として、前記非相反部と前記コア部の周囲に巻回されているコイルによって形成されている、
ことを特徴とする可変ファラデー回転子。
【請求項2】
請求項1において、
前記光軸を軸とした筒状の外筒の内側に中空筒状の内筒が同軸に配置された二重筒状のケースを備え、
前記内筒は前後に開口して、当該内筒の中空部に非相反部と前記コア部が収納され、
前記コイルは、前記内筒の外周に巻回されて当該内筒と前記外筒との間の空隙に収納され、
前記内筒と前記外筒との間の空隙で、前記コイルの形成領域の前後に磁性材料が充填されている、
ことを特徴とする可変ファラデー回転子。
【請求項3】
請求項1または2において、前記コア部は、フェライトコアであることを特徴とする可変ファラデー回転子。
【請求項4】
請求項1または2において、前記コア部は、珪素鋼鈑で構成されていることを特徴とする可変ファラデー回転子。
【請求項5】
光軸方向を前後方向として、磁気光学材料からなるファラデー素子の前後に光学軸が所定方向に偏光子が配置されてなる第1および第2の非相反部が前記光軸に沿って隣接して直列に配置されているとともに、当該第1および第2の非相反部の前記ファラデー素子に磁界を印加するための磁気回路部とを含んで構成され、
前記第1の非相反部の後方に第2の非相反部が直列配置され、前記光軸と一致する円筒軸を有する中空円筒状で、前記第1の非相反部の前方と、前記第2の非相反部の後方にそれぞれ高透磁率磁性材料からなるコア部が配置され、
前記磁気回路部は、前記光軸を螺旋軸として、前記直列配置されている前記第1および第2の非相反部と、前記コア部の周囲とに巻回されているコイルによって形成され、
前記コイルに印加する電流の方向によって前記光軸方向の磁界の方向を反転させることで、前記光軸に沿って所定の方向に進行する光を透過、あるいは遮断させる、
ことを特徴とする光シャッター。
【請求項6】
請求項3において、
前記光軸を軸とした筒状の外筒の内側に中空筒状の内筒が同軸に配置された二重筒状のケースを備え、
前記内筒は前後に開口して、当該内筒の中空部に前記直列状態にある第1および第2の非相反部と前記コア部とが収納され、
前記コイルは、前記内筒の外周に巻回されて当該内筒と前記外筒との間の空隙に収納され、
前記内筒と前記外筒との間の空隙で、前記コイルの形成領域の前後に磁性材料が充填されている、
ことを特徴とする光シャッター。
【請求項7】
請求項5または6において、前記コア部は、フェライトコアであることを特徴とする光シャッター。
【請求項8】
請求項5または6において、前記コア部は、珪素鋼鈑で構成されていることを特徴とする光シャッター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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