説明

可変光位相器

【課題】光位相の連続可変と高速制御が可能であり、環境条件からの影響を受けにくく、偏波無依存型、自由空間型、光ファイバ型への適応が容易な可変光位相器を提供する。
【解決手段】前方からの入力光を互いに直交する第1および第2の直線偏光に偏光分離する第1の偏光子41が配置され、第1および第2の直線偏光が出力光として出射するまでの第1および第2の光路上に、入力した直線偏光を円偏光に変換する第1および第2の四分の一波長板(11,12)と、入力した円偏光の偏光面を回転させるファラデー回転子20と、それぞれに入力された円偏光を互いに直交する直線偏光に変換して出力する第3および第4の四分の一波長板(13,14)と、入力された互いに直交する二つの直線偏光を偏光合成して出力光として出射する第2の偏光子42が順に配置され、ファラデー回転子による回転角に応じて出力光の位相を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバや自由空間を伝播する光の位相を変化させる可変光位相器(光学位相シフタ)に関し、たとえば光通信や光測定に用いて有効なものに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、光通信では、情報を伝送するための変調方式として、情報を振幅に乗せるASK(Amplitude shift keying)、周波数に乗せるFSK(Frequency shift keying)、位相に乗せるPSK(Phase shift keying)などがある。
【0003】
これらの変調方式は電気通信の技術として開発されたものであるが、近年は、光通信に応用されるようになってきた。その中でもとくに、位相に情報を乗せる位相変調方式は、通信の高速化(ワイドバンド化)に適した変調方式として有望視されている。
【0004】
位相変調では、位相を変化させる位相変調器や位相の変化を検出する復調器が使用される。また、光通信や光測定では、光スイッチや光減衰器などの光デバイスが使用されるが、これらはマッハ・ツェンダ型干渉計などに位相シフタを組み合わせて構成されるものもある。
【0005】
たとえば、特許文献1には、マッハ・ツェンダ干渉計と位相シフタを用いた差分4位相偏移変調の技術が開示されている。また、非特許文献1には、位相制御素子を用いて光アッテネータや光スイッチなどの光制御デバイスを構成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−516743号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】林智幸,定行勝,市川智徳,原田智也,袴田和喜,安間康弘: 「イオン交換型可変光アッテネータの開発」2001年電子情報通信学会総合大会、 C−3−117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、光の位相を制御する可変光位相器としては、導波路構造を用いた熱光学位相シフタ、導波路構造の電気光学結晶を用いた電気光学位相シフタ、液晶を用いた液晶光学位相シフタが知られている。しかし、熱光学位相シフタの場合、熱光学効果を利用しているため、応答速度が遅い、雰囲気温度の影響を受けやすいなどの課題があった。電気光学位相シフタの場合、電気光学結晶と光ファイバの屈折率差が大きいため、損失(とくに挿入損失)が大きくなるという課題があった。液晶光学位相シフタの場合は、液晶を利用しているため、応答速度が遅いことが課題となる。
【0009】
光通信では通信速度の高速化が最大の目標課題となるが、これに使用する可変光位相器にはとくに高速の応答性能が要求される。また、通信の品質を確保するためには信号のレベル低下を最小限に抑える必要があるが、そのためにはできるだけ低損失(低挿入損失)であることが要求される。また、計測分野での利用では、温度等の環境条件からの影響(擾乱)を受けにくいことも要求される。これらの要求は、上述した従来の可変光位相器では満たすことができなかった。
【0010】
本発明は以上のような課題を解決するものであって、その目的は、光位相の連続可変と高速制御が可能であるとともに、温度等の環境条件からの影響を受けにくく、さらに、偏波無依存型への適応および自由空間型や光ファイバ型への適応がいずれも無理なく行える可変光位相器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のような解決手段を提供する。
(1)前方から後方に向かって入射した入力光の位相を変化させ、その位相を変化させた光を出力光として出射する可変光位相器であって、
前記入力光を互いに直交する第1および第2の直線偏光に偏光分離する第1の偏光子が配置されているとともに、
前記分離した第1および第2の直線偏光が前記出力光として出射するまでの第1および第2の光路上に、第1および第2の四分の一波長板と、ファラデー回転子と、第3および第4の四分の一波長板と、第2の偏光子とがこの順に配置され、
前記第1および第2の四分の一波長板は、入力した直線偏光を円偏光に変換し、
前記ファラデー回転子は、入力した円偏光の偏光面を回転させ、
前記第3および第4の四分の一波長板は、それぞれに入力された円偏光を互いに直交する直線偏光に変換して出力し、
前記第2の偏光子は、入力された互いに直交する二つの直線偏光を偏光合成して前記出力光として出射し、
前記ファラデー回転子による回転角に応じて前記出力光の位相を変化させる、
ことを特徴とする可変光位相器
【0012】
(2)上記手段(1)において、前記第1の偏光子と前記第1および第2の四分の一波長板との間と、前記第3および第4の四分の一波長板と前記第2の偏光子との間のそれぞれに、前記第1と第2の偏光子のそれぞれにて発生する偏波モード分散を補償する複屈折結晶からなる補償素子が介在していることを特徴とする可変光位相器
【0013】
(3)上記手段(1)において、前記ファラデー回転子の後方に、前記第1および第2の光路を逆進させる反射鏡を備え、前記第1の偏光子が前記第2の偏光子を兼ね、前記第1の四分の一波長板が前記第3の四分の一波長板を兼ね、前記第2の四分の一波長板が前記第4の四分の一波長板を兼ねている、ことを特徴とする可変光位相器
【0014】
(4)上記手段(1)において、前記第3および第4の四分の一波長板の後方に、前記第1および第2の光路を逆進させる反射鏡を備え、
前記第3および第4の四分の一波長板は、逆進してきた互いに直交する直線偏光を円偏光に変換して前方に出射し、
前記第1及び第2の四分の一波長板は、逆進してきた円偏光を互いに直交する二つの直線偏光に変換して前方に出射し、
前記第1の偏光子は前記第2の偏光子を兼ねて、逆進してきた互いに直交する二つの直線偏光を偏光合成して前方に出力光として出射する、
ことを特徴とする可変光位相器
【0015】
(5)上記手段(3)または(4)において、前記第1の偏光子と第1および第2の四分の一波長板との間に、当該第1の偏光子にて発生する偏波モード分散を補償する複屈折素子からなる補償素子が介在していることを特徴とする可変光位相器
【0016】
(6)上記手段(1)または(2)に記載の可変光位相器の光入力側と光出力側のそれぞれに、光フィァバに光結合された光コリメータを配置し、この光コリメータを介して光ファイバを伝播する光の位相をファラデー回転子の回転角に応じて変化させることを特徴とする光フィァバ付き可変光位相器
【0017】
(7)上記手段(3)〜(5)のいずれかに記載の可変光位相器の前方に、第1の光ファイバに光結合された入力光コリメータと、第2の光ファイバに光結合された出力光コリメータとを配置し、
前記入力光コリメータは、第1の光ファイバを伝播してきた入力光を前記第1の偏光子に入光させ、
前記出力光コリメータは、前記第2の偏光子を兼ねる前記第1の偏光子で偏光合成された出力光を前記第2の光ファイバに伝播させる、
ことを特徴とする光フィァバ付き可変光位相器
【0018】
(8)上記手段(3)〜(5)のいずれかに記載の可変光位相器の前方に、入出力光ファイバに光結合された入出力光コリメータを配置し、当該入出力光ファイバを伝播してきた入力光を前記入出力光コリメータから前記第1の偏光子に入光させる一方、前記第2の偏光子を兼ねる当該第1の偏光子で偏光合成された出力光を前記入出力光コリメータを介して前記入出力光ファイバに伝播させることを特徴とする光フィァバ付き可変光位相器
【発明の効果】
【0019】
光位相の連続可変と高速制御が可能であるとともに、温度等の環境条件からの影響を受けにくく、さらに、偏波無依存型への適応および自由空間型や光ファイバ型への適応がいずれも無理なく行える可変光位相器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の比較例に係る可変光位相器の要部を概念的に示す斜視図である。
【図2】第2の比較例に係る可変光位相器の要部を概念的に示す斜視図である。
【図3】本発明による可変光位相器の第1実施形態の要部を概念的に示す斜視図である。
【図4】本発明による可変光位相器の第2実施形態の要部を概念的に示す斜視図である。
【図5】本発明による可変光位相器の第3実施形態の要部を概念的に示す斜視図である。
【図6】本発明による可変光位相器の第4実施形態の要部を概念的に示す斜視図である。
【図7】本発明による可変光位相器の第5実施形態の要部を概念的に示す斜視図である。
【図8】本発明による可変光位相器の第6実施形態の要部を概念的に示す斜視図である。
【図9】本発明による可変光位相器の第7実施形態の要部を概念的に示す側面図である。
【図10】本発明による可変光位相器の第8実施形態の要部を概念的に示す側面図である。
【図11】本発明による可変光位相器の第9実施形態の要部を概念的に示す側面図である。
【図12】本発明による可変光位相器の外観構成例を示す要部斜視図である。
【図13】図12の可変光位相器を配置した干渉計の光学構成を示す平面図である。
【図14】図13の干渉計において干渉パターンの変化状態を示す干渉パターン写真である。
【図15】図13の干渉計を用いて測定した可変光位相器の位相変化状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
===第1比較形態===
本発明の実施形態に係る可変光位相器に対する比較形態として、図1に、第1比較形態に係る可変光位相器を示した。同図の(a)と(b)は共に同じ可変光位相器であって、位相制御状態だけが異なる。同図に示す可変光位相器は、第1および第2の2つの四分の一波長板11,12と、この2つの四分の一波長板11と12の間に介在するファラデー回転子20によって構成されている。
【0022】
前方から入射させられた入力光は、第1の四分の一波長板11、ファラデー回転子20、第2の四分の一波長板12を順次透過した後、出力光として後方へ出射される。
【0023】
この場合、入力光は直線偏光であって、第1の四分の一波長板11は、その直線偏光の偏光方向に対して、光学軸が面内で45度回転していることにより、その直線偏光を円偏光に変換する。この変換は可逆である。
【0024】
ファラデー回転子20は、第1の四分の一波長板11にて直線偏光から変換された円偏光を、透過させる。このファラデー回転子20はファラデー回転角が可変であって、たとえば同図の(a)と(b)に示すように、ファラデー回転角を45度+0度から45度+90度まで無段階で変化させることができ、円偏光が透過した場合は円偏光の位相を+0度から+90度まで無段階で変化させることができる。この位相の変化は、ファラデー回転子を構成する磁気光学結晶への印加磁界の方向と強度によって操作することができ、その印加磁界は励磁コイルの通電電流によって制御することができる。
【0025】
ファラデー回転子20を透過した円偏光は、第2の四分の一波長板12で直線偏光に変換され、出力光として後方へ出射される。このとき、ファラデー回転子20にて偏光面の相対的な方向が制御された円偏光は、第2の四分の一波長板12でその偏光面の方向に対応した位相で直線偏光に変換される。すなわち、たとえば同図の(a)と(b)に示すように、ファラデー回転子20のファラデー回転角を変化させることにより、円偏光から直線偏光に変換された出力光の位相を変化させることができる。たとえば、同図の(a)と(b)とでは90度の位相差が生じているが、この位相差はファラデー回転子20の回転角に応じて連続的に変化する。
【0026】
ここで注目すべきことは、出力光の位相変化は、ファラデー回転子20でのファラデー回転角の変化によってもたらされることである。ファラデー回転子20のファラデー回転角は、印加磁界の方向と強度によって連続的に可変させることができるが、その印加磁界の方向と強度は励磁コイルの通電電流によって任意の大きさに高速で可変制御することができる。
【0027】
この第1比較形態では、光位相の連続可変と高速制御が可能であるとともに、温度等の環境条件からの影響を受けにくい可変光位相器を構成することができる。さらに、この可変光位相器は、導波路構造の電気光学結晶などを用いていないため、光ファイバとの屈折率差等によって生じる挿入損失を低く抑えることができる。このため、自由空間型と光ファイバ型のどちらの用途にも無理なく適応可能である。そして、本発明の実施形態に係る可変光位相器では、この第1比較形態の構成を基本としながら、さらに構成や構造を工夫することで、偏波無依存型にも適応できるようになっている。なお、偏波無依存型への適用については後述する
【0028】
可変光位相器の大きさについては、この第1実施形態の場合、全体を5mm×5mm×5mmのサイズに無理なく収めることができた。これにより、自由空間型と光ファイバ型のどちらの用途においても、光回路の実装密度を高めこと、あるいは応用製品の小型化をはかることなどが可能になる。
【0029】
===第2比較形態===
図2に、本発明の実施形態に係る可変光位相器に対する第2比較形態に係る可変光位相器を示した。同図に示す可変光位相器は、四分の一波長板11と、ファラデー回転子20と、反射鏡30を用いて構成されている。
【0030】
四分の一波長板11は、入力光である直線偏光を円偏光に変換する。ファラデー回転子20はファラデー回転角が可変であって、四分の一波長板11にて直線偏光から変換された円偏光を、その位相を変化させながら透過させる。反射鏡30は、ファラデー回転子20を透過させられた円偏光を反射して光路を逆進させる。
【0031】
反射鏡30で反射された円偏光は、ファラデー回転子20を逆方向に透過させられるが、その逆方向の透過でも位相が変化させられる。このようにしてファラデー回転子20の往路と復路とで位相が変化させられた円偏光は、四分の一波長板11を逆に透過させられることにより直線偏光に変換される。これにより、ファラデー回転子20の往路と復路でのファラデー回転に応じて位相が変化させられた出力光が前方へ出射される。
【0032】
この第2実施形態では、ファラデー回転子20を透過した円偏光を反射鏡30で反射してそのファラデー回転子20に再度透過させることにより、ファラデー回転子20の光路方向での厚みが実質的に2倍に増したのと同等の効果を得ることができる。これにより、ファラデー回転子20の小型化(薄型化)が可能になる。
【0033】
また、四分の一波長板11は、順方向にて直線偏光を円偏光に変換する一方、逆方向では円偏光をその偏光面の回転方向に応じた位相の直線偏光に変換する。したがって、四分の一波長板11の設置は1つだけでよく、これにより、部品点数の削減、低コスト化、および小型化が可能になる。
【0034】
===第1実施形態===
本発明による可変光位相器の第1実施形態を図3に示す。上述した第1および第2比較形態との相違に着目すると、この第1実施形態の可変光位相器は、同図に示すように、入力光を直交する2つの直線偏光に偏光分離する第1の偏光子41と、直交する2つの直線偏光を偏光合成する第1の偏光子42を備える。これにより、偏波無依存型の可変光位相器が構成されている。
【0035】
すなわち、同図に示す可変光位相器は、第1の偏光子41、第1〜第4の四分の一波長板11〜14、ファラデー回転角が可変のファラデー回転子20により構成されている。
【0036】
第1の偏光子41は、入力光を互いに直交する第1および第2の直線偏光に偏光分離する。第1および第2の四分の一波長板11,12は、第1の偏光子41によって偏光分離された第1および第2の直線偏光をそれぞれ円偏光に変換する。
【0037】
ファラデー回転子20は、第1および第2の四分の一波長板11,12にてそれぞれに直線偏光から変換された第1および第2の円偏光をそれぞれその位相を変化させながら透過させる。第3および第4の四分の一波長板13,14は、ファラデー回転子20を透過させられた第1および第2の円偏光をそれぞれ第3および第4の直線偏光に変換して出力する。
【0038】
第2の偏光子42は、第3および第4の四分の一波長板13,14によって変換された第3および第4の直線偏光を偏光合成する。この第2の偏光子42にて偏光合成された出力光の位相が、上記ファラデー回転子の回転角に応じて変化させられる。
【0039】
この第1実施形態の可変光位相器は、上述したように、偏光分離と偏光合成を行う偏光子41,42を備えることにより、偏波無依存型に構成されている。
【0040】
===第2実施形態===
本発明による可変光位相器の第2実施形態を図4に示す。上述した第1実施形態との相違に着目すると、この第2実施形態では、同図に示すように、第1の偏光子41の偏光分離出光路および第2の偏光子42の偏光合成入光路にそれぞれ、偏光子41,42にて発生する偏波モード分散を、複屈折結晶を用いて補償する補償素子51,52を介在させてある。
【0041】
偏波モード分散は偏光モード間で光波の群速度が異なることにより生じるが、複屈折によって偏光の分離/偏合成を行う偏光子41,42では、偏光モード(偏波成分軸方向)の違いによる光の伝播速度差によって偏波モード分散が生じる。この偏波モード分散は、光の伝播速度が遅い偏波成分軸である遅軸と、速い偏波成分軸である速軸に対し、上記遅軸には速軸、上記速軸には遅軸がそれぞれ配されるように設置された複屈折結晶板によって補償することができる。
【0042】
この複屈折結晶板を用いた補償素子51,52を配置することにより、偏波モード分散を抑制した偏波無依存型の可変光位相器を構成することができる。
【0043】
===第3実施形態===
本発明による可変光位相器の第3実施形態を図5に示す。上述した第1実施形態との相違に着目すると、この第3実施形態では、同図に示すように、このファラデー回転子20を透過させられた第1および第2の円偏光をそれぞれ反射して光路を逆進させる反射鏡30を備えている。
【0044】
すなわち、この第3実施形態の可変光位相器は、入力光を互いに直交する第1および第2の直線偏光に偏光分離する偏光子41と、偏光分離された第1および第2の直線偏光をそれぞれ円偏光に変換する第1および第2の四分の一波長板11,12と、直線偏光から変換された第1および第2の円偏光をそれぞれその位相を変化させながら透過させるファラデー回転角が可変のファラデー回転子20と、このファラデー回転子20を透過させられた第1および第2の円偏光をそれぞれ反射して光路を逆進させる反射鏡30とにより構成され、上記偏光子41を逆進して偏光合成された出力光の位相を、上記ファラデー回転子20の回転角に応じて変化させる。
【0045】
この第3実施形態の可変光位相器では、ファラデー回転子20を透過した円偏光を反射鏡30で反射してそのファラデー回転子20に再度透過させることにより、ファラデー回転子20の光路方向での厚みが実質的に2倍に増したのと同等の効果を得ることができる。これとともに、偏光子や四分の一波長板の数を減らして、部品点数の削減、低コスト化、および小型化が可能になる。
【0046】
===第4実施形態===
本発明による可変光位相器の第4実施形態を図6に示す。同図に示すように、この第4実施形態の可変光位相器も、上記第3実施形態と同様、光路を逆進させる反射鏡30を備えている。
【0047】
この第4実施形態の可変光位相器は、入力光を互いに直交する第1および第2の直線偏光に偏光分離する偏光子41と、上記第1および第2の直線偏光をそれぞれ第1および第2の円偏光に変換する第1および第2の四分の一波長板11,12と、上記第1および第2の円偏光をそれぞれその偏光面を回転させながら透過させるファラデー回転角が可変のファラデー回転子20と、このファラデー回転子20を透過させられた第1および第2の円偏光をそれぞれ第3および第4の直線偏光に変換する第3および第4の四分の一波長板13,14と、上記第4の直線偏光をそれぞれ反射して光路を逆進させる反射鏡30を備え、上記偏光子41を逆進して偏光合成された出力光の位相を、上記ファラデー回転子20の回転角に応じて変化させる。
【0048】
この第4実施形態の可変光位相器でも、ファラデー回転子20に光を往復透過させることにより、ファラデー回転子20の光路方向での厚みが実質的に2倍に増したのと同等の効果を得ることができる。
【0049】
===第5および第6実施形態===
本発明による可変光位相器の第5および第6実施形態を図7および図8に示す。まず、図7に示す第5実施形態の可変光位相器は、図5に示した第3実施形態の可変光位相器において、偏光子41と第1および第2の四分の一波長板11,12との間の光路に、偏光子41にて発生する偏波モード分散を複屈折結晶を用いて補償する補償素子51を介在させたものである。
【0050】
また、図8に示す第6実施形態の可変光位相器は、上記第5実施形態と同様、図6に示した第4実施形態の可変光位相器において、偏光子41と第1および第2の四分の一波長板11,12との間の光路に、偏光子41にて発生する偏波モード分散を複屈折結晶を用いて補償する補償素子51を介在させたものである。
【0051】
===第7実施形態===
図9は、本発明による可変光位相器の第7実施形態を示す。同図に示す可変光位相器は、光入力側と光出力側にそれぞれ、光フィァバ61,64に光結合された光コリメータ62,63を配置し、この光コリメータ62,63を介して光ファイバ61,64を伝播する光の位相をファラデー回転子20の回転角に応じて変化させるようにした光フィァバ付き可変光位相器である。
【0052】
可変光位相器の本体部分は、第1の偏光子41、偏波モード分散を複屈折結晶を用いて補償する第1の補償素子51、第1および第2の四分の一波長板11,12、ファラデー回転角が可変のファラデー回転子20、第3および第4の四分の一波長板13,14、第2の補償素子52、第1の偏光子42が順次配置されて構成されている。
【0053】
この実施形態のように、本発明による可変光位相器は、自由空間型以外に、光ファイバ型に構成するのにも適している。
【0054】
===第8実施形態===
図10は、本発明による可変光位相器の第8実施形態を示す。同図に示す可変光位相器は、反射鏡30で光路を逆進させる構造の可変光位相器において、偏光分離と合成を行う偏光子41の前方に、それぞれに光ファイバ61,64に光結合された入力光コリメータ62と出力光コリメータ63を配置し、入力光コリメータ62は光ファイバ61を伝播してきた入力光を上記偏光子41に入光させ、出力光コリメータ63は上記偏光子41で偏光合成された出力光を光ファイバ64に伝播させる。
【0055】
この実施形態によれば、入力光を伝播する光ファイバ61と出力光を伝播する光ファイバ64を共に同じ側に引き出すことができる。
【0056】
===第9実施形態===
図11は、本発明による可変光位相器の第9実施形態を示す。同図に示す可変光位相器は、反射鏡30で光路を逆進させる構造の可変光位相器において、偏光分離と合成を行う偏光子41の前方に、入出力光ファイバ65に光結合された入出力光コリメータ66を配置し、入出力光ファイバ65を伝播してきた入力光を上記入出力光コリメータ66から上記偏光子に入光させる一方、上記偏光子41で偏光合成された出力光を上記入出力光コリメータ66を介して上記入出力光ファイバ65に伝播させる。つまり、入力光と出力光は共に同じ光ファイバ65と光コリメータ66を伝播させられる。
【0057】
この実施形態によれば、入力光と出力光を同じ光ファイバ65と光コリメータ66で伝播させることにより、部品点数を少なくすることができるとともに、光回路の実装密度を高めることができるという利点が得られる。この場合、同一の光ファイバ65を伝播する入力光と出力光は、その進行方向が逆であることから、たとえば光サーキュレータ等によって簡単に分離あるいは弁別することができる。
【0058】
===可変光位相器の使用例===
図12は、本発明による可変光位相器の外観構成例を示す。同図に示す可変光位相器は、ファラデー回転子20の両面に四分の一波長板11,12が配置されている。四分の一波長板11と12はその光学軸が互いに45度回転していて、ファラデー回転子20の入光側では直線偏光を円偏光に変換し、出光側では円偏光を直線偏光に変換する。
【0059】
ファラデー回転子20は、ファラデー回転材料として液相エピタキシャル法で育成したビスマス置換磁性ガーネット単結晶膜を用いて構成され、透過光に対し、永久磁石21と励磁コイル(電磁石)22によって発生される磁界に応じたファラデー回転を生じさせる。したがって、そのファラデー回転角は励磁コイル22への通電電流によって可変制御することができる。
【0060】
励磁コイル22への通電は可変定電流源23によって行われるが、その通電電流は位相制御信号により可変制御(変調制御)される。
【0061】
図13は、図12の可変光位相器101を配置した干渉計の光学構成を示す。この干渉計はマッハ・ツェンダ干渉計であって、入力光コリメータ111から導入される入力光を、対物レンズ112、偏光子116、収束レンズ113を介して第1のハーフミラー(ビームスプリッタ)117に入射させ、2方向に分岐させる。
【0062】
第1のハーフミラー117の一方の分岐光は、固定ミラー119で方向転換された後、上記可変光位相器101を通って第2のハーフミラー118に入射される。第1のハーフミラー117の他方の分岐光は、可動ミラー120で方向転換された後、上記第2のハーフミラー118に入射される。
【0063】
第2のハーフミラー118は、別々の光路を進行させられた2つの分岐光を合成する。この合成により、2つの分岐光の位相差による干渉が生じるが、この干渉の状態は、レンズ114,115を介して、撮像装置121により撮像される。
【0064】
可動ミラー120は、その反射角度が微調整可能であって、上記干渉の状態が縞模様の干渉パターンとして顕著に現れるよう、その反射角度が微調整される。
【0065】
図14は、上記撮像装置121により撮像された干渉パターンを示す。この干渉パターンの模様は、同図に示すように、上記可変光位相器101の励磁コイル22への通電電流(コイル電流)によって変化する。
【0066】
ここで、上記光コリメータ111から波長1.55μmの光を入射させてファラデー回転角を測定したところ、ファラデー回転角はコイル電流に応じて直線的に増加し、これにともない、位相もそのコイル電流に応じて直線的に変化させることができた。
【0067】
図15は、図12に示した可変光位相器101の位相シフト量とコイル電流の関係を示す特性グラフであるが、同図に示すように、可変光位相器101の位相はコイル電流に応じて直線的に変化させられるとともに、±70mAのコイル電流変化に対して±40度の位相シフトを行わせることができた。
【0068】
===他の実施形態について===
本発明で使用する四分の一波長板は、直線偏光と円偏光の変換を行うものであれば、その四分の一波長板は{(λ/4)×(2n+1),[n=0,1,2,・・・]}波長板が使用可能である。つまり、波長の次数(n)は任意である。
【0069】
また、本発明で使用するファラデー回転子は、可変のファラデー回転角を与えるものであればよく、そのためにはたとえば、ファラデー回転を生じさせる磁界の発生源として、電磁石と永久磁石の組み合わせ以外に、電磁石だけを用いるものでもよい。
【符号の説明】
【0070】
11〜14 四分の一波長板
20 ファラデー回転子
30 反射鏡
41,42 偏光子
51,52 偏波モード分散補償素子
61,64,65 光フィァバ
62,63,66 光コリメータ
21 永久磁石
22 励磁コイル(電磁石)
23 可変定電流源
101 可変光位相器
111 入力光コリメータ
112〜115 レンズ
116 偏光子
117,118 ハーフミラー
119 固定ミラー
120 可動ミラー
121 撮像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方から後方に向かって入射した入力光の位相を変化させ、その位相を変化させた光を出力光として出射する可変光位相器であって、
前記入力光を互いに直交する第1および第2の直線偏光に偏光分離する第1の偏光子が配置されているとともに、
前記分離した第1および第2の直線偏光が前記出力光として出射するまでの第1および第2の光路上に、第1および第2の四分の一波長板と、ファラデー回転子と、第3および第4の四分の一波長板と、第2の偏光子とがこの順に配置され、
前記第1および第2の四分の一波長板は、入力した直線偏光を円偏光に変換し、
前記ファラデー回転子は、入力した円偏光の偏光面を回転させ、
前記第3および第4の四分の一波長板は、それぞれに入力された円偏光を互いに直交する直線偏光に変換して出力し、
前記第2の偏光子は、入力された互いに直交する二つの直線偏光を偏光合成して前記出力光として出射し、
前記ファラデー回転子による回転角に応じて前記出力光の位相を変化させる、
ことを特徴とする可変光位相器。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の偏光子と前記第1および第2の四分の一波長板との間と、前記第3および第4の四分の一波長板と前記第2の偏光子との間のそれぞれに、前記第1と第2の偏光子のそれぞれにて発生する偏波モード分散を補償する複屈折結晶からなる補償素子が介在していることを特徴とする可変光位相器。
【請求項3】
請求項1において、前記ファラデー回転子の後方に、前記第1および第2の光路を逆進させる反射鏡を備え、前記第1の偏光子が前記第2の偏光子を兼ね、前記第1の四分の一波長板が前記第3の四分の一波長板を兼ね、前記第2の四分の一波長板が前記第4の四分の一波長板を兼ねている、ことを特徴とする可変光位相器。
【請求項4】
請求項1において、前記第3および第4の四分の一波長板の後方に、前記第1および第2の光路を逆進させる反射鏡を備え、
前記第3および第4の四分の一波長板は、逆進してきた互いに直交する直線偏光を円偏光に変換して前方に出射し、
前記第1及び第2の四分の一波長板は、逆進してきた円偏光を互いに直交する二つの直線偏光に変換して前方に出射し、
前記第1の偏光子は前記第2の偏光子を兼ねて、逆進してきた互いに直交する二つの直線偏光を偏光合成して前方に出力光として出射する、
ことを特徴とする可変光位相器。
【請求項5】
請求項3または4において、前記第1の偏光子と第1および第2の四分の一波長板との間に、当該第1の偏光子にて発生する偏波モード分散を補償する複屈折素子からなる補償素子が介在していることを特徴とする可変光位相器。
【請求項6】
請求項1または2に記載の可変光位相器の光入力側と光出力側のそれぞれに、光フィァバに光結合された光コリメータを配置し、この光コリメータを介して光ファイバを伝播する光の位相をファラデー回転子の回転角に応じて変化させることを特徴とする光フィァバ付き可変光位相器。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれかに記載の可変光位相器の前方に、第1の光ファイバに光結合された入力光コリメータと、第2の光ファイバに光結合された出力光コリメータとを配置し、
前記入力光コリメータは、第1の光ファイバを伝播してきた入力光を前記第1の偏光子に入光させ、
前記出力光コリメータは、前記第2の偏光子を兼ねる前記第1の偏光子で偏光合成された出力光を前記第2の光ファイバに伝播させる、
ことを特徴とする光フィァバ付き可変光位相器。
【請求項8】
請求項3〜5のいずれかに記載の可変光位相器の前方に、入出力光ファイバに光結合された入出力光コリメータを配置し、当該入出力光ファイバを伝播してきた入力光を前記入出力光コリメータから前記第1の偏光子に入光させる一方、前記第2の偏光子を兼ねる当該第1の偏光子で偏光合成された出力光を前記入出力光コリメータを介して前記入出力光ファイバに伝播させることを特徴とする光フィァバ付き可変光位相器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−101413(P2013−101413A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−46496(P2013−46496)
【出願日】平成25年3月8日(2013.3.8)
【分割の表示】特願2009−157883(P2009−157883)の分割
【原出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】