説明

可変圧縮比エンジンのブーツシール構造

【課題】 相対変位型VCRエンジンのシリンダブロックとクランクケースとの間を覆うブーツシールと、変形部の変形を規制する変形防止板とを有するブーツシール構造において、ブーツシールと変形防止板との間にゴミや油水分が溜まることを回避できるブーツシール構造を提供することを目的とする。
【解決手段】 ブーツシールの上側固定部又は下側固定部から延出し、変形防止板とブーツシールとの隙間を覆うサブカバーを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変圧縮比エンジンに配設されるブーツシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、特許文献1で、相対変位型の可変圧縮比エンジンに配設されるブーツシール構造として、ブローバイガスの圧力によりブーツシールの蛇腹筒状の変形部が外方へ変形する変形量を所定の変形量に規制し得るブーツシール構造を提案した。
【0003】
図6に示すように、このブーツシール構造900は、変形部912を有する筒状のブーツシール910と、ブーツシール910の外方に配置される変形防止板920とを備えている。ブーツシール910は、上側固定部914でシリンダブロック1とシリンダヘッド3とで挟持され、下側固定部916がクランクケース2と変形防止板920とによって挟持されてシリンダブロック1とクランクケース2との隙間を覆うように固定されている。
【0004】
ブーツシール構造900によれば、変形防止板920が変形部912の外方への変形を所定の変形量に規制することができるので、変形部912が破裂したり破損したりすることが回避され、ブーツシール910の耐久性を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−117366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなブーツシール構造900においては、変形防止板920とブーツシール910との間に、ブーツシール910の伸縮や内圧によって、変形部912が変形移動できる変形空間940が必要である。しかし、この変形空間940は外部に向かって開口しているので、外部からゴミや油水分が侵入してブーツシール910に付着するとともにこの変形空間940に滞留して、ブーツシール910の耐久性を低下させる虞がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、相対変位型VCRエンジンのシリンダブロックとクランクケースとの間を覆うように配設された蛇腹筒状の変形部を有するブーツシールと、この変形部の変形を規制する変形防止板とを有するブーツシール構造において、ブーツシールと変形防止板との間にゴミや油水分が溜まることを回避できるブーツシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。 本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造は、シリンダブロックとクランクケースとの相対位置を変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに取り付けられ、弾性変形可能な材料からなる筒状の変形部とシリンダブロックに固定される上側固定部とクランクケースに固定される下側固定部とを有する筒状のブーツシールと、ブーツシールの外方に配設され変形部の外方への変形を所定の変形量に規制する変形防止板とを備える可変圧縮比エンジンのブーツシール構造であって、ブーツシールの上側固定部又は下側固定部から延出し、変形防止板とブーツシールとの隙間を覆うサブカバーを備えることを特徴とする。このような構成によると、ブーツシールと変形防止板との間にゴミや油水分が入り込むことを防止できる。
【0009】
本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、サブカバーは、ブーツシールの上側固定部又は下側固定部に固定される固定部とブーツシールの変形に追随して伸縮する伸縮部と変形防止板の端縁に係合する係合部とを備えることが好ましい。このような構成によると、サブカバーは、変形防止板と係合してブーツシールと変形防止板との隙間を覆った状態、即ちシール性を維持しながらブーツシールの変形に良好に追随することができる。
【0010】
また、本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、サブカバーは、隙間を覆うフランジ部とフランジ部の外周縁に連続し変形防止板の端縁に係止する係止部とを備えることが望ましい。このような構成によると、シリンダブロックがクランクケースに対して上下に変位しても、サブカバーはその係止部を変形防止板に係止した状態を維持することができ、変形防止板とサブカバーの間が口開きすることを防止できる。
【0011】
本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、変形防止板は、隙間と外部とを連通する通気孔を有することが望ましい。このような構成によると、隙間内の圧力を常に大気圧に維持できるので、ブーツシールの伸縮や内圧の変化による変形部の変形を阻害することがない。
【0012】
また、本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、変形防止板は、隙間と外部とを連通し、隙間に滞留する油水分を外部へ排出する油水分抜き手段を備えることが好ましい。このような構成によると、隙間に流入した油水分を油水分抜き手段を介して外部へ排出することができる。従って、油水分が隙間内に滞留することがなく、ブーツシールの耐久性を低下させることがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、相対変位型VCRエンジンのシリンダブロックとクランクケースとの間を覆うように配設された蛇腹筒状の変形部を有するブーツシールと、該変形部の変形を規制する変形防止板とを有するブーツシール構造において、ブーツシールと変形防止板との間にゴミや油が溜まることを防止できるブーツシール構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態におけるブーツシール構造の斜視図である。
【図2】図1におけるA−A線で切断した部分断面図である。
【図3】第2実施形態におけるブーツシール構造の部分断面図である。
【図4】第3実施形態におけるブーツシール構造の部分断面図である。
【図5】第3実施形態におけるブーツシール構造の部分断面図である。
【図6】従来のブーツシール構造の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造の実施形態について図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0016】
<第1実施形態>
図1に本実施形態におけるブーツシール構造の斜視図、図2に図1におけるA−A線で切断した部分断面図を示す。
【0017】
図2に示すように、本実施形態のブーツシール構造10は、相対変位型VCRエンジンのシリンダブロック1とクランクケース2との間を覆うように配設されるブーツシール200と、変形防止板300と、ブーツシール200と変形防止板300との隙間(以後、変形空間と称する。)40を覆うサブカバー500とを備えている。
【0018】
すなわち、本実施形態のブーツシール構造10は、図6に示す従来技術になるブーツシール構造900において、ブーツシール910と変形防止板920との隙間940を覆うようにサブカバー500を設けたものである。従って、サブカバー500以外は、従来技術になるブーツシール構造900と同様に構成することができる。なお、図1は、相対変位型VCRエンジンのシリンダヘッド3を取り外した状況を示しており、図2ではシリンダヘッド3を仮想線で示した。
【0019】
ブーツシール200は、内方に突出する山部を有する蛇腹筒状の変形部202と、変形部202の上部開口端に設けられてシリンダヘッド3とシリンダブロック1との間に挟持される上側固定部204と、変形部202の下部開口端に設けられてクランクケース2と変形防止板300との間に挟持される下側固定部206と、を備えている。
【0020】
変形部202は、柔軟性と耐圧性を有する弾性変形可能な材料により形成されている。柔軟性と耐圧性とを有する材料としては、ゴム(FKM、AEM)や樹脂(PFA、FEP)、あるいはゴムと樹脂の中間的組成物である熱可塑性エラストラマ(TPEE)などを例示することができる。また、変形部202の内面にフッ素樹脂などの被膜を形成することにより、変形部202の耐薬品性を向上させてもよい。
【0021】
上側固定部204は、シリンダブロック1の上面と平行な下面を有する環状体であり、変形部202と一体に形成されている。上側固定部204は、金属製のシリンダヘッドガスケット4の外周縁部に連続して形成されており、シリンダヘッドガスケット4には、複数のピストン用開口42及び複数の周辺部材用開口44が設けられている。
【0022】
下側固定部206は、クランクケース2の上面と平行な下面を有する環状体であり、変形部202と一体に形成されている。下側固定部206の下面には、下側固定部206の全周に亘って環状の突条207が形成されている。突条207はクランクケース2の上面に全周に亘って形成された溝部22に嵌入されている。
【0023】
変形防止板300は、クランクケース2の上面と平行な下面を有する断面L字形の筒状体であり、基部302と、基部302の内周縁から上方に延びる延伸部304とよりなる。基部302には、変形空間40に侵入した油水分を外部へ排出する排出溝303が削設されている。なお、排出溝303は本実施形態における油水分抜き手段である。
【0024】
また、延伸部304には、変形空間40と外部とを連通する通気孔305が穿設されている。通気孔305を設けることで、変形部202の伸縮やエンジンの内圧変化による変形空間40内の圧力変化を低減することができる。変形防止板300は、ボルト60によりクランクケース2の上面に締結されており、クランクケース2との間に下側固定部206を挟持するリテーナとしても機能する。変形防止板300は、亜鉛めっき鋼板やアルミニウムなどの金属板、あるいはフェノール樹脂等の樹脂成形品よりなる。
【0025】
サブカバー500は、弾性変形可能な材料により形成されており、上側固定部204に接続する接続部502と、蛇腹筒状の伸縮部504と、伸縮部504の周縁から垂下する筒状の係合部506とが一体に形成された筒状体である。本実施形態においては、接続部502が固定部である。
【0026】
接続部502は、上側固定部204の外周端縁に外方へ突出して環状に形成されており、上側固定部204と一体に形成されている。また、係合部506の下端部には全周に亘って溝部507が設けられており、変形防止板300の延伸部304の上端縁がこの溝部507に嵌入されてサブカバー500と変形防止板300とが係合されている。
【0027】
サブカバー500の伸縮部504は、ブーツシール200の変形部202と同様に柔軟性を有する材料で形成されている。材料としてはブーツシール200の変形部202と同様の熱可塑性エラストラマ(TPEE)やゴム(FKM、AEM)などを例示することができる。
【0028】
以上のように、上側固定部204から延出するサブカバー500と変形防止板300とが係合されることにより、変形空間40の開口部は全周に亘って覆われる。これにより、外部から変形空間40へゴミや油水分が侵入することを確実に防止することができる。また、サブカバー500をブーツシール200に一体に形成することでブーツシール構造10の部品点数を低減することができる。
【0029】
<第2実施形態>
図3に本実施形態におけるブーツシール構造12の部分断面図を示す。なお、図3において、図2と同様の箇所には同一の番号を付してある。
【0030】
本実施形態のブーツシール構造12においては、変形防止板310はブーツシール210の上側固定部214に連続して形成されており、ブーツシール210の下側固定部216は、リテーナ70によってクランクケース2の上面に固定されている。変形防止板310には、通気孔315が穿設されている。また、リテーナ70には、排出溝73が削設されている。なお、排出溝73は本実施形態における油水分抜き手段である。
【0031】
サブカバー510は、ブーツシール210の下側固定部216から上方へ延出しており、変形防止板310の下端縁に係合されて変形空間40を覆っている。サブカバー510は、弾性変形可能な材料により形成されており、環状の固定部518と、蛇腹筒状の伸縮部514と、伸縮部514の周端縁から上方へ延びる筒状の係合部516とを一体に形成したものである。
【0032】
固定部518は、ブーツシール210の下側固定部216の上面に一体に形成されており、下側固定部216とリテーナ70とによって挟持されている。固定部518の外周縁は、クランクケース2の上面に形成された下側固定部216の突部217が嵌入される溝部22の内周面よりも内側に位置するように形成されている。このように形成することで固定部518とともに下側固定部216をクランクケース2へ強固に固定することができる。
【0033】
係合部516の上端部には全周に亘って溝部517が設けられており、変形防止板310の下端縁がこの溝部517に嵌入してサブカバー510と変形防止板310とが係合されている。なお、サブカバー510の伸縮部514は、第1実施形態のサブカバー500と同様の柔軟性を有する材料で形成されている。
【0034】
サブカバー510と変形防止板310とが係合されることにより、変形空間40は全周に亘って覆われる。これにより、外部から変形空間40へゴミや油水分が侵入することを確実に防止することができる。なお、図中80は、ブーツシール20の変形部212の内側への変形量を規制する内側変形防止板である。
【0035】
<第3実施形態>
図4に本実施形態におけるブーツシール構造14の部分断面図を示す。なお、図4において、図2と同様の箇所には同一の番号を付してある。
【0036】
本実施形態のブーツシール構造14において、変形防止板320は、その延伸部324がブーツシール220の上側固定部224まで延出するように形成されている。つまり、変形防止板320の延伸部324は、シリンダ軸方向においてシリンダブロック1がクランクケース2から最も離間している燃焼室容積が最大の状態で、ブーツシール220の変形部222全体を包囲できるように形成されている。従って、ブーツシール220の上側固定部224の外周縁と変形防止板320の延伸部324の端縁との隙間Dを閉塞することにより変形空間40を外部から覆うことができる。
【0037】
ブーツシール220の変形部222は、前記第1実施形態の変形部202の屈曲部よりも曲率が大きくなるように形成されている。これにより、変形部222にしわが寄りにくくなるとともに、変形部222に作用する応力を広い範囲に分散させることができる。よって、ブーツシール220の耐久性をさらに向上させることができる。
【0038】
本実施形態において、サブカバー520は、ブーツシール220の上側固定部224と一体に形成されており、フランジ部522と係止部524とからなる。フランジ部522は上側固定部224の外周縁から略水平に外側に突出しており、係止部524は変形防止板320の延伸部324の外側面に沿って垂下するようにフランジ部522の外周縁に連続して形成されている。
【0039】
このように構成されるサブカバー520は、係止部524を変形防止板320の延伸部324の上端縁に容易に係止することができるので、隙間Dを全周に亘って閉塞して変形空間40を覆うことができる。
【0040】
また、シリンダブロック1がクランクケース2に対して下降して燃焼室容積が減少した場合には、ブーツシール220の上側固定部224は、変形防止板320の延伸部324の上端縁よりも低くなる。このとき、フランジ部522は、図5に示すように、係止部524が延伸部324の上端縁に係止した状態を維持しながら変形することができる。このように係止部524が延伸部324の上端縁に係止した状態を維持しながら変形できるように、例えばフランジ部522を薄肉に形成するなど、フランジ部522の剛性が相対的に小さくなるようにサブカバー520を形成するとよい。なお、図4で、325は通気孔、323は排出溝(油水分抜き手段)である。
【0041】
本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができることは言うまでもない。
【0042】
例えば、前記の各実施形態においては、サブカバーとブーツシールとを一体に形成するようにしたが、サブカバーは別体として形成してもよい。別体とすることでサブカバーの形成が容易となる。また、前記の各実施形態においては、隙間に滞留する油水分を外部へ排出する油水分抜き手段を変形防止板又はリテーナの底面に削設した排出溝としたが、変形防止板又はリテーナの適宜の位置に外部へ連通するように穿設した排出孔としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、可変圧縮比エンジンに配設されるブーツシール構造として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
1:シリンダブロック 2:クランクケース 3:シリンダヘッド 10、12、14:ブーツシール構造 200、210、220:ブーツシール 202、212、222:変形部 204、214、224:上側固定部 206、216、226:下側固定部 300、310、320:変形防止板 40:隙間(変形空間) 500、510、520:サブカバー 502、518:固定部 504、514:伸縮部 506、516:係合部 522:フランジ部 524:係止部 305、315、325:通気孔 303、73、323:排出溝(油水分抜き手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックとクランクケースとの相対位置を変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに取り付けられ、弾性変形可能な材料からなる筒状の変形部と前記シリンダブロックに固定される上側固定部と前記クランクケースに固定される下側固定部とを有する筒状のブーツシールと、該ブーツシールの外方に配設され該変形部の外方への変形を所定の変形量に規制する変形防止板とを備える可変圧縮比エンジンのブーツシール構造であって、
ブーツシールの前記上側固定部又は前記下側固定部から延出し、前記変形防止板と前記ブーツシールとの隙間を覆うサブカバーを備えることを特徴とする可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項2】
前記サブカバーは、前記ブーツシールの前記上側固定部又は前記下側固定部に固定される固定部と前記ブーツシールの変形に追随して伸縮する伸縮部と前記変形防止板の端縁に係合する係合部とを備える請求項1に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項3】
前記サブカバーは、前記隙間を覆うフランジ部と該フランジ部の外周縁に連続し前記変形防止板の端縁に係止する係止部とを備える請求項1に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項4】
前記変形防止板は、前記隙間と外部とを連通する通気孔を有する請求項1〜3のいずれか一に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項5】
前記変形防止板は、前記隙間と外部とを連通し、該隙間に滞留する油水分を外部へ排出する油水分抜き手段を備える請求項1〜4のいずれか一に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−108563(P2013−108563A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253881(P2011−253881)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】