説明

可変容量タービン

【課題】ガス漏れを抑制することができ、高効率の可変容量タービンを提供すること。
【解決手段】渦巻き状の流路を構成するスクロールを有したケーシングと、ケーシング内に設けられ、スクロールを経た排気ガス18の流量を絞る複数のノズル穴11を有した固定ノズル10と、各ノズル穴11に対して進退し、スロート部17に形成されるスロート面積を調節することにより排気ガス18の流量を調節する複数のバルブ12と、このバルブ12を、リング部材13、回動部15、連結部22、連結部材21を介して進退させるアクチュエータ20と、ノズル穴11を通過した排気ガス18によって回転可能に配設されたタービンホイールとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用内燃機関のターボ過給機に適用される可変容量タービンに関し、更に詳しくは、ガス漏れを抑制することができ、高効率の可変容量タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用内燃機関の出力向上のために、排気ガスの流量を変化させ、その運動エネルギーを利用して空気を強制的に燃焼室へ送り込み、当該燃焼室への空気の充填効率を高める可変容量タービン過給機が種々提案され、実用化されている。
【0003】
すなわち、図示例を省略するが、従来の可変容量タービンでは、エンジンのシリンダから排出された排気ガスは、ガス入口ケーシングのスクロールを通ってその円周方向に旋回することにより半径方向の流速を与えられ、可変ノズルの入口前縁を経て当該ノズル内に流入する。
【0004】
そして、排気ガスは、この可変ノズル内において、ガスの最小通路であるノズルスロート部で流路を絞られて流速を増し、ノズル出口後縁から流出する。
【0005】
当該ノズルを経た排気ガスは、動翼たるタービンホイールに流入し、当該タービンホイール内を通過する際に膨張仕事をなしてこれを回転させることにより動力を発生させる。タービンホイールを経た排気ガスは、図示しない排気ディフューザに流出する。
【0006】
このような従来の可変容量タービンの可変ノズル機構の一例として、ベーン回転型による絞り機構を図10〜図13に基づいて説明する。
【0007】
ここで、図10は、従来の可変容量タービンの大流量時におけるノズルベーンを示す部分正面図、図11は、大流量時におけるスロート部を示す側面図であり、図10に対応している。
【0008】
また、図12は、従来の可変容量タービンの少流量時におけるノズルベーンを示す部分正面図、図13は、少流量時におけるスロート部を示す側面図であり、図12に対応している。
【0009】
図10〜図13に示すように、ガス流量を変化させる際には、ベースプレート31に軸支部32によって回動自在に軸支された複数のノズルベーン30を適宜回動させることにより、スロート部33の面積(スロート面積)を変化させる。
【0010】
すなわち、大流量時には図10および図11に示すように、スロート部33の面積を大きく設定し、少流量時には図12および図13に示すように、スロート部33の面積を小さく設定する。
【0011】
このように、ノズルベーン30を開閉させて排気ガスの流速調整を行うことにより、タービンホイールの回転速度が調整され、ひいては燃焼室に強制的に送り込まれる空気の量が調整される。
【0012】
これらのノズルベーン30は、図示しないタービンホイールの軸線を中心として等角度毎に配置され、互いに同期した状態で開閉動作するようになっている。また、熱歪みや煤詰まりによるスティックを抑制すべく、ベースプレート31とノズルベーン30との間には、所定の隙間であるサイドクリアランスsが設けられている。
【0013】
また、図示例を省略するが、関連技術として、たとえば、つぎのものが公知である。すなわち、スロットに組み込まれた羽根のタブをユニゾンリングの回転によって移動し、当該羽根の開閉位置を可変にした技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0014】
また、固定ノズルリングの固定ノズル間に、可変ノズルを固着した回転ノズルリングを配置し、ノズルスロート部の面積を変化させるようにした技術が提案されている(特許文献2参照)。
【0015】
また、可変ノズルベーンの支持部を案内孔に挿入し、ベーンを翼弦方向にスライド移動させることにより流路を可変にした技術が提案されている(特許文献3参照)。
【0016】
【特許文献1】特表2003−527522号公報
【特許文献2】特開平11−141343号公報
【特許文献3】特開2000−8869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、従来の可変容量タービンは、図11および図13中に破線で示したように、ノズルベーン30が開き側となる大流量時には、スロート33の面積が大きいためにサイドクリアランスsからのガス漏れの影響は小さく問題とならないが、ノズルベーン30が閉じ側となる少流量時には、スロート33の面積が小さいためにサイドクリアランスsからのガス漏れの影響が大きくなり、効率低下の一因となっていた。
【0018】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ガス漏れを抑制することができ、高効率の可変容量タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明の請求項1に係る可変容量タービンは、渦巻き状の流路を構成するスクロールを有したケーシングと、前記ケーシング内に設けられ前記スクロールを経た流体の流量を絞る複数のノズル穴を有した固定ノズルと、前記各ノズル穴に対して進退しスロート面積を調節することにより前記流体の流量を調節する複数のバルブと、前記バルブを進退させるアクチュエータと、前記ノズル穴を通過した前記流体によって回転可能に配設されたタービンホイールと、を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
また、この発明の請求項2に係る可変容量タービンは、請求項1に記載の発明において、前記固定ノズルは円環状に形成され、前記ノズル穴は当該固定ノズルの内周面と外周面とを貫通し当該内周面から当該外周面に向けて拡開するように設けられていることを特徴とするものである。
【0021】
また、この発明の請求項3に係る可変容量タービンは、請求項2に記載の発明において、前記固定ノズルの外周に沿って同軸に設けられ、かつ、前記アクチュエータによって回動可能となるように設けられたリング部材を備え、前記バルブは、前記リング部材に回動自在に軸支されていることを特徴とするものである。
【0022】
また、この発明の請求項4に係る可変容量タービンは、請求項1〜3のいずれか一つに記載の発明において、低流速用の前記スクロールと高流速用の前記スクロールとを併設して備え、前記低流速用のスクロールには、前記バルブを有しない前記固定ノズルを対応させて備える一方、前記高流速用のスクロールには、前記バルブを有した前記固定ノズルを対応させて備え、低流量時には前記固定ノズルの前記ノズル穴を前記バルブによって全閉にし、高流量時には前記固定ノズルの前記ノズル穴を前記バルブによって全開にすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明に係る可変容量タービン(請求項1)によれば、バルブによってノズル穴を開閉するため、従来のようなノズルベーンが不要となり、所定の隙間(サイドクリアランス)も不要となるので、流体の漏れを抑制することができ、高効率の可変容量タービンを提供することができる。
【0024】
また、この発明に係る可変容量タービン(請求項2)によれば、固定ノズルを簡易に構成することができる。
【0025】
また、この発明に係る可変容量タービン(請求項3)によれば、アクチュエータによってリング部材を所定量回動させるだけでバルブを進退させ、スロート面積を調節することができるので、流体の流量を容易に調節することができる。
【0026】
また、この発明に係る可変容量タービン(請求項4)によれば、バルブを開閉制御することにより、広範囲の流量を調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、この発明に係る可変容量タービンの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
図1は、この発明の実施例1に係る可変容量タービンの要部を示す正面断面図であり、スロート面積を小さく設定した場合を示したものである。図2は、スロート面積を大きく設定した場合の可変容量タービンの要部を示す正面断面図である。
【0029】
また、図3は、固定ノズルを示す斜視図、図4は、可変容量タービンの要部を示す側面断面図、図5は、リング部材を示す正面図である。
【0030】
また、図6は、低流量時のノズル穴を示す断面図、図7は、中流量時のノズル穴を示す断面図、図8は、高流量時のノズル穴を示す断面図である。
【0031】
図1〜図5に示すように、本実施例1に係る可変容量タービンは、渦巻き状の流路を構成するスクロール6を有したケーシング5と、ケーシング5内に設けられ、スクロール6を経た排気ガス(流体)18の流量を絞る複数のノズル穴11を有した固定ノズル10と、各ノズル穴11に対して進退し、スロート部17に形成されるスロート面積を調節することによりガスの流量を調節する複数のバルブ12と、このバルブ12を進退させるアクチュエータ20と、ノズル穴11を通過したガスによって回転可能に配設されたタービンホイール7とを備えている。
【0032】
固定ノズル10は、図3に示すように、円環状に形成され、ノズル穴11は当該固定ノズル10の内周面と外周面とを貫通し、当該内周面から当該外周面に向けて拡開するように設けられている。このような形状とすることで、固定ノズル10を簡易に構成することができる。
【0033】
リング部材13は、固定ノズル10の外周に沿って同軸に設けられ、かつ、アクチュエータ20、連結部材21および連結部22によって回動可能となるように設けられている。
【0034】
バルブ12は、このリング部材13により回動自在に回動部15で軸支されている。また、バルブ12は、図1および図2に示すように、その先端がテーパ形状に形成されている。
【0035】
このように、アクチュエータ20によってリング部材13を所定量回動させることにより、図6〜図8に示すように、バルブ12をノズル穴11に対して進退させ、スロート面積を容易に調節することができる。
【0036】
なお、上記バルブ12、固定ノズル10、リング部材13等は、耐熱性や耐食性等の条件に応じて、ステンレス、チタンとアルミニウムの合金等、種々の金属にて形成することができる。また、耐熱樹脂等、金属以外の材質にて形成してもよい。
【0037】
つぎに動作について説明する。図1、図2および図9に示すように、この可変容量タービンでは、図示しないエンジンのシリンダから排出された排気ガス18は、ケーシング5のスクロール6を通ってその円周方向に旋回することにより半径方向の流速を与えられ、固定ノズル10のノズル穴11に流入する。
【0038】
そして、排気ガス18は、バルブ12の進退量によって形成されたスロート部17で流路を絞られて流速を増し、固定ノズル10内周面側のノズル穴11から流出する。
【0039】
このバルブ12の進退量は、たとえば、アクチュエータ20によるリング部材13の回動制御によって、つぎのように調節することができる。すなわち、低流量時には、図1および図6に示すように、バルブ12の進量を最大限増やしてスロート面積を小さく設定する。
【0040】
一方、高流量時には、図2および図8に示すように、バルブ12の退量を最大限に増やしてスロート面積を大きく(全開)設定する。なお、中流量時には、これら低流量時と高流量時の中間的な制御を行えばよい。
【0041】
このように流量制御され、固定ノズル10を経た排気ガス18は、タービンホイール7に流入し、当該タービンホイール7内を通過する際に膨張仕事をなしてこれを回転させることにより動力を発生させる。タービンホイール7を経た排気ガス18は、図示しない排気ディフューザに流出する。
【0042】
以上のように、この実施例1に係る可変容量タービンによれば、バルブ12によってノズル穴11を開閉するため、従来のようなノズルベーン30(図10〜図13参照)が不要となり、所定の隙間(サイドクリアランスs)も不要となるので、当該隙間からの排気ガス18の漏れを抑制することができ、簡易な構成にて高効率の可変容量タービンを提供することができる。
【実施例2】
【0043】
図9は、この発明の実施例2に係る可変容量タービンの要部を示す側面断面図である。なお、以下の説明において、すでに説明した部材と同一もしくは相当する部材には、同一の符号を付して重複説明を省略または簡略化する。
【0044】
本実施例2に係る可変容量タービンは、いわゆるツインノズルターボに本発明を適用したものであり、図9に示すように、低流速用のスクロール6aと高流速用のスクロール6とを併設して備えている。
【0045】
そして、低流速用のスクロール6aには、バルブ12を有しない固定ノズル10aを対応させて備える一方、高流速用のスクロール6には、バルブ12を有した固定ノズル10を対応させて備えたものである。
【0046】
なお、その他の構成および基本動作は、上記実施例1の場合と同様であるので、重複説明を省略する。
【0047】
このように構成した可変容量タービンでは、低流量時には、固定ノズル10のノズル穴11をバルブ12によって全閉にし、固定ノズル10aのみを排気ガス18が通過するように設定する。
【0048】
一方、高流量時には、固定ノズル10のノズル穴11をバルブ12によって全開にし、固定ノズル10および固定ノズル10aを排気ガス18が通過するように設定する。
【0049】
また、中流量時には、固定ノズル10のノズル穴11をバルブ12によって半開にし、この半開の固定ノズル10と固定ノズル10aとを排気ガス18が通過するように設定する。
【0050】
以上のように、この実施例2に係る可変容量タービンによれば、バルブ12を開閉制御することにより、広範囲の流量を調節することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、この発明に係る可変容量タービンは、自動車用内燃機関のターボ過給機に有用であり、特に、ガス漏れを抑制することができ、高効率の可変容量タービンに適している。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の実施例1に係る可変容量タービンの要部を示す正面断面図である。
【図2】スロート面積を大きく設定した場合の可変容量タービンの要部を示す正面断面図である。
【図3】固定ノズルを示す斜視図である。
【図4】可変容量タービンの要部を示す側面断面図である。
【図5】リング部材を示す正面図である。
【図6】低流量時のノズル穴を示す断面図である。
【図7】中流量時のノズル穴を示す断面図である。
【図8】高流量時のノズル穴を示す断面図である。
【図9】この発明の実施例2に係る可変容量タービンの要部を示す側面断面図である。
【図10】従来の可変容量タービンの大流量時におけるノズルベーンを示す部分正面図である。
【図11】大流量時におけるスロート部を示す側面図である。
【図12】従来の可変容量タービンの少流量時におけるノズルベーンを示す部分正面図である。
【図13】少流量時におけるスロート部を示す側面図である。
【符号の説明】
【0053】
5 ケーシング
6 スクロール
6a 低流速用のスクロール
7 タービンホイール
10 固定ノズル
10a 固定ノズル
11 ノズル穴
12 バルブ
13 リング部材
15 回動部
17 スロート部
18 排気ガス
20 アクチュエータ
21 連結部材
22 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦巻き状の流路を構成するスクロールを有したケーシングと、
前記ケーシング内に設けられ前記スクロールを経た流体の流量を絞る複数のノズル穴を有した固定ノズルと、
前記各ノズル穴に対して進退しスロート面積を調節することにより前記流体の流量を調節する複数のバルブと、
前記バルブを進退させるアクチュエータと、
前記ノズル穴を通過した前記流体によって回転可能に配設されたタービンホイールと、
を備えた可変容量タービン。
【請求項2】
前記固定ノズルは円環状に形成され、前記ノズル穴は当該固定ノズルの内周面と外周面とを貫通し当該内周面から当該外周面に向けて拡開するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の可変容量タービン。
【請求項3】
前記固定ノズルの外周に沿って同軸に設けられ、かつ、前記アクチュエータによって回動可能となるように設けられたリング部材を備え、
前記バルブは、前記リング部材に回動自在に軸支されていることを特徴とする請求項2に記載の可変容量タービン。
【請求項4】
低流速用の前記スクロールと高流速用の前記スクロールとを併設して備え、
前記低流速用のスクロールには、前記バルブを有しない前記固定ノズルを対応させて備える一方、
前記高流速用のスクロールには、前記バルブを有した前記固定ノズルを対応させて備え、
低流量時には前記固定ノズルの前記ノズル穴を前記バルブによって全閉にし、
高流量時には前記固定ノズルの前記ノズル穴を前記バルブによって全開にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の可変容量タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−8227(P2008−8227A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180353(P2006−180353)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】