説明

可変容量型圧縮機

【課題】 圧縮機構成部材の摩耗・変形・破損を防ぐとともに、用いられている弾性部材の破損による異音の発生を防ぐこと。
【解決手段】 回転軸5と、この回転軸に対し傾斜する斜板10と、この斜板の傾斜に伴いストローク変化するピストン7とを備え、斜板10のフロント側及びリア側に配されて該斜板を付勢する第1及び第2の弾性部材44,46を設けた形式の可変容量型圧縮機において、斜板10の傾斜を規制して該斜板の最大傾斜角を決定する第1のストッパ70と、10斜板の傾斜を規制して該斜板の最小傾斜角を決定する第2のストッパ71とを備えた可変容量型圧縮機である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、斜板の傾斜角に応じてピストンストローク量が変わる可変容量型圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】図5及び図6は従来の可変容量型圧縮機の縦断面図を示し、図5はピストンの最大ストローク状態を示し、図6はピストンの最小ストローク状態を示す。
【0003】従来の可変容量型圧縮機は、図5に示すように、スラストフランジ140と、ドライブハブ141と、揺動板110と、デストロークスプリングとしてのコイルスプリング144と、ストロークスプリングとしてのコイルスプリング147,カーブドスプリング(皿ばね)146とを備えている。
【0004】スラストフランジ140は、シャフト105に装着され、シャフト105と一体に回転する。
【0005】ドライブハブ141は、シャフト105に軸方向移動可能に装着されるヒンジボールを介して回転軸シャフト105に装着されるとともに、リンク機構142を介してスラストフランジ140に傾斜可能に連結され、かつスラストフランジ140と一体に回転する。
【0006】揺動板110は、ドライブハブ141のボス部に相対回転可能に装着され、ドライブハブ141の回転に連れて揺動する。揺動板110はコネクティングロッド111を介してピストン107に連結され、ピストン107は揺動板110の揺動によりシリンダボア106内を往復運動する。
【0007】デストロークスプリングとしてのコイルスプリング144は、ヒンジボール109のフロント側端部とスラストフランジ140のボス部との間に装着され、揺動板110の傾きを小さくして容量を減らす方向へヒンジボール109を付勢する。
【0008】ストロークスプリングとしてのコイルスプリング147,カーブドスプリング146は、ヒンジボール109のリヤ側端部とシャフト105の固定ワッシャ145との間に一連に装着され、揺動板110の傾きを大きくして容量を増やす方向へヒンジボール109を付勢する。
【0009】クランク室108内の圧力が低くなると揺動板110の傾斜角が大きくなり、図5に示すように、ドライブハブ141の突当て部141cがスラストフランジ140のドライブハブ受面140cに突き当たる。このときコイルスプリング144は収縮し、コイルスプリング147,カーブドスプリング146は伸長し、最大ストローク状態(ピストン107のストローク量が最大になる最大吐出量状態)となる。
【0010】これに対し、クランク室108の圧力が高くなると揺動板110の傾斜角が小さくなり、図6に示すように、ドライブハブ141の突当て部141cがスラストフランジ140のドライブハブ受面140cから離れる。このときコイルスプリング144は伸長し、コイルスプリング147,カーブドスプリング146は収縮し、カーブドスプリング146の伸縮方向寸法が最小(ピッチ零)になったときにドライブハブ141のリヤ側への傾きが止まり、最小ストローク状態(ピストン107のストローク量が最小になる最小吐出量状態)となる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】ところが、最大ストローク状態の場合、ドライブハブ141の突当て部141cがスラストフランジ140のドライブハブ受面140cに衝突し、衝突後突当て部141cとドライブハブ受面140cとが接触している間も、ピストン107の圧縮反力をドライブハブ受面140cが受けるため、突当て部141cとドライブハブ受面140cとの接触部分は微振動し、その結果摩耗することがある。
【0012】また、ピストン107の圧縮反力をドライブハブ受面140cが受けるため、ドライブハブ受面140cが変形したり、スラストフランジ140自体が破損することもある。
【0013】上記摩耗を防ぐには突当て部141cとドライブハブ受面140cとの接触部分に高周波焼入れ等を施し、接触部分の硬度を上げる必要があるが、作業工数が増えるとともに、コストが上昇するという問題があった。
【0014】また、スラストフランジ140の変形・破損を防ぐためにスラストフランジ140を補強すると動バランスが崩れて振動や異音が発生するという問題がある。
【0015】これに対し、最小ストロークの状態の場合、ドライブハブ141の傾斜角はカーブドスプリング146の伸縮方向寸法が最小になってストッパ機能が発揮されたときに最小になるので、カーブドスプリング146の撓み応力が非常に高くなり、カーブドスプリング146が破損し、異音を発生させることがあるという問題があった。
【0016】この発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、構成部材の摩耗・変形・破損を防ぐとともに、用いられている弾性部材の破損による異音の発生を防ぐことができる可変容量型圧縮機を提供するものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】前述の課題を解決するため、本発明は、回転軸と、この回転軸に対し傾斜する斜板と、この斜板の傾斜に伴いストローク変化するピストンとを備え、前記斜板のフロント側及びリア側に配されて該斜板を付勢する第1及び第2の弾性部材を設けた形式の可変容量型圧縮機において、前記斜板の傾斜を規制して該斜板の最大傾斜角を決定する第1のストッパと、前記斜板の傾斜を規制して該斜板の最小傾斜角を決定する第2のストッパとを備えた可変容量型圧縮機である。
【0018】最小ストローク時、第1のスプリングは伸長し、第2のスプリングは収縮するが、伸縮方向寸法が最小になる前に第2のストッパによって斜板の容量減少方向への傾斜が阻止されるので、第2のスプリングの撓み応力が極端に高くならない。
【0019】最大ストローク時、第2のスプリングは伸長し、第1のスプリングは収縮するが、斜板は第1のストッパによって容量増加方向への傾斜が阻止される。
【0020】また、前記第1、第2のストッパはバネ座となるフランジ部を有しているとよい。
【0021】第1のスプリングが圧縮機の構成部材(例えばスラストフランジ)に直接当たらないので、当該構成部材に熱処理を施す必要がない。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】図1はこの発明の一実施形態に係る可変容量型圧縮機の最大ストローク状態を示す縦断面図、図2は最小ストローク状態を示す縦断面図、図3は図1可変容量型圧縮機の一部を示す拡大断面図、図4は図2の可変容量型圧縮機の一部を示す拡大断面図である。
【0024】この圧縮機のシリンダブロック1の一端面にはバルブプレート2を介してリヤヘッド3が、他端面にはフロントヘッド4がそれぞれ固定されている。
【0025】前記シリンダブロック1には、シャフト(回転軸)5を中心にして周方向に所定間隔おきに複数のシリンダボア6が配設されている。これらのシリンダボア6内にはそれぞれピストン7が摺動可能に収容されている。
【0026】前記フロントヘッド4内にはクランク室8が形成され、このクランク室8内には、シャフト5の回転に連動してヒンジボール9を中心に揺動する揺動板(斜板)10が収容されている。
【0027】前記リヤヘッド3内には、吐出室12と、この吐出室12の周囲に位置する吸入室13とが形成されている。吐出室12内は隔壁14によって吐出空間12aと吐出空間12bとに仕切られ、両吐出空間12a,12bは隔壁14に穿設された絞り孔14aを介して連通している。
【0028】前記バルブプレート2には、シリンダボア6と吐出空間12aとを連通させる吐出ポート16と、シリンダボア6と吸入室13とを連通させる吸入ポート15とが、周方向に所定間隔おきに設けられている。吐出ポート16は吐出弁17により開閉され、吐出弁17はバルブプレート2のリヤヘッド側端面に弁押さえ18とともにリベット19で固定されている。また、吸入ポート15は吸入弁21により開閉され、吸入弁21はバルブプレート2とシリンダブロック1との間に配設されている。吐出室12の吐出空間12aとクランク室8とは通路79及びオリフィス80を介して連通している。
【0029】更に、シリンダブロック1には吸入室13とクランク室8とを連通する連通路31が設けられ、この連通路31の途中には圧力調整弁32が設けられ、この圧力調整弁32により吸入室13内とクランク室8内との間の圧力調整が行われる。
【0030】また、シャフト5のフロント側端部はフロントヘッド4内のラジアル軸受26によって、シャフト5のリヤ側端部はラジアル軸受24及びスラスト軸受25によって、それぞれ回転可能に支持されている。シャフト5には、スラストフランジ40が固定されているとともに、ドライブハブ41が軸方向移動可能なヒンジボール9を介して取り付けられている。スラストフランジ40はスラスト軸受33を介してフロントヘッド4の内壁に支承されている。スラストフランジ40の一部とドライブハブ41の一部とはリンク機構42で連結され、シャフト5の回転がスラストフランジ40からドライブハブ41へと伝達される。ドライブハブ41には揺動板10がラジアル軸受27,スラスト軸受28を介して相対回転可能に取り付けられている。揺動板10はコネクティングロッド11を介してピストン7に連結されている。
【0031】ヒンジボール9とスラストフランジ40のボス部40bとの間には、デストロークスプリングとしてのコイルスプリング(第1のスプリング)44が介装されており、このコイルスプリング44によりヒンジボール9がシリンダブロック1側へ(揺動板10の傾きを小さくして容量を減らす方向へ)付勢されている。
【0032】また、シャフト5のシリンダブロック1側には固定ワッシャ45が固定され、この固定ワッシャ45とヒンジボール9との間には、ストロークスプリングとしての複数のカーブドスプリング(第2のスプリング)46及びコイルスプリング47が一連に介装され、これらのスプリング46,47により、ヒンジボール9がスラストフランジ40側へ(揺動板10の傾きを大きくして容量を増やす方向へ)付勢されている。
【0033】シャフト5の外周面とコイルスプリング44との間には、円筒状のストッパ(第1のストッパ)70が軸方向移動可能に装着されている。ストッパ70のフロント側開口端にはバネ座となるフランジ70aが形成されている。ストッパ70の軸方向長さは、コイルスプリング44の伸縮方向寸法が最小(ピッチ零)になったときの長さよりも長く、しかもドライブハブ41のフロント側へ(容量増加方向へ)の一定角度以上の傾きを阻止し、所定の最大ピストンストロークにする長さである。ストッパ70のフランジ70aによりコイルスプリング44がスラストフランジ40のボス部40bに直接当たらないので、ストフランジ40のボス部40bに硬化処理を施す必要がない。
【0034】シャフト5の外周面とコイルスプリング46との間には、円筒状のストッパ71が軸方向移動可能に装着されている。ストッパ71のフロント側開口端にはバネ座となるフランジ71aが形成されている。ストッパ71の軸方向長さは、カーブドスプリング46の伸縮方向寸法が最小(ピッチ零)になったときの長さよりも長く、しかもドライブハブ41のリヤ側へ(容量減少方向へ)の一定角度以上の傾きを阻止し、所定の最小ピストンストロークにする長さである。
【0035】次に、この可変容量型圧縮機の作動を説明する。
【0036】図示しない車載エンジンの回転動力がシャフト5に伝達されると、スラストフランジ40及びドライブハブ41はシャフト5とともに回転し、その回転にともなって揺動板10がヒンジボール9を中心に揺動し、この揺動運動はコネクティグロッド11を介してピストン7へ伝わり、ピストン7の直線往復運動に変換される。ピストン7がシリンダボア6内を往復運動するとシリンダボア6内の容積が変化し、この容積変化によって冷媒ガスの吸入、圧縮及び吐出が順次行なわれ、揺動板10の傾斜角度に応じた容量の高圧冷媒ガスが吐出される。
【0037】熱負荷が小さくなり圧力調整弁32が連通路31を閉じ、クランク室8の圧力が高くなると、図2に示すように、ドライブハブ41がスラストフランジ40から離れる。このときコイルスプリング44は伸長し、コイルスプリング47,カーブドスプリング46は収縮するが、カーブドスプリング46の伸縮方向寸法が最小(ピッチ零)になる前にストッパ71のリヤ側開口端が固定ワッシャ45に突き当たり、ドライブハブ41の傾きが止まり、揺動板10の傾斜角が最小になる。その結果、最小ストローク状態(ピストン7のストローク量が最小になる最小吐出量状態)となり、吐出容量が最小になる。
【0038】これに対し、熱負荷が大きくなり圧力調整弁32が連通路31を開き、クランク室8内の圧力が低くなると揺動板10の傾斜角が大きくなり、図1に示すように、コイルスプリング44が収縮し、ドライブハブ41がスラストフランジ40に近付くが、ドライブハブ41がスラストフランジ40に突き当たる前にヒンジボール9がストッパ70に突き当たるので、ドライブハブ41の傾きが止まり、揺動板10の傾斜角が最大になる。その結果、最大ストローク状態(ピストン7のストローク量が最大になる最大吐出量状態)となり、吐出容量が最大になる。
【0039】この実施形態の可変容量型圧縮機によれば、最大ストローク時、ドライブハブ41とスラストフランジ40とは接触していないので、ドライブハブ41と擦り合ってスラストフランジ40が部分的に摩耗することがなく、その結果高周波焼入れ等を施す必要がなくなり、作業工数が減り、製造コストを下げることができる。また、最大ストローク時、ドライブハブ41がスラストフランジ40に衝突しないので、スラストフランジ40を補強しなくともスラストフランジ240の変形・破損を防ぐことができる。
【0040】更に、最小ストローク時、ストッパ71によってドライブハブ41の傾斜が規制されるので、カーブドスプリング46の撓み応力が極端に高くならないようにすることができ、カーブドスプリング46の破損を防ぐことができる。その結果、カーブドスプリング46の破損による異音の発生を防ぐことができる。
【0041】なお、前述の実施形態では、第1のストッパとして円筒状のストッパ70をシャフト5の外周面とコイルスプリング44との間に軸方向移動可能に装着し、第2のストッパとして円筒状のストッパ71をシャフト5の外周面とカーブドスプリング46との間に軸方向移動可能に装着した場合について述べたが、これに代え、第1のストッパとしてのストッパ(図示せず)をスラストフランジ40のボス部40b又はヒンジボール9のフロント側端面に固定し、第2のストッパとしてのストッパ(図示せず)を固定ワッシャ45又はヒンジボール9のリヤ側端面に固定するようにしてもよい。
【0042】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、最小ストローク時、第2のストッパによって斜板の傾斜が規制されるので、第2のスプリングの撓み応力が極端に高くならないようにすることができ、第2のスプリングの破損を防ぐことができ、第2のスプリングの破損による異音の発生を防ぐことができる。
【0043】最大ストローク時、第2のスプリングは伸長し、第1のスプリングは収縮するが、斜板は第1のストッパによって容量増加方向への傾斜が阻止されるので、阻止されない場合に生じ得る不具合を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態に係る可変容量型圧縮機の最大ストローク状態を示す縦断面図である。
【図2】最小ストローク状態を示す縦断面図である。
【図3】可変容量型圧縮機の一部を示す拡大断面図である。
【図4】可変容量型圧縮機の一部を示す拡大断面図である。
【図5】従来の可変容量型圧縮機の縦断面図であって、ピストンの最大ストローク状態を示す図である。
【図6】従来の可変容量型圧縮機の縦断面図であって、ピストンの最大ストローク状態を示す図である。
【符号の説明】
1 シリンダブロック
5 シャフト
6 シリンダボア
7 ピストン
9 ヒンジボール
10 揺動板
40 スラストフランジ
41 ドライブハブ
42 リンク機構
44,47 コイルスプリング
46 カーブドスプリング
70,71 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 回転軸と、この回転軸に対し傾斜する斜板と、この斜板の傾斜に伴いストローク変化するピストンとを備え、前記斜板のフロント側及びリア側に配されて該斜板を付勢する第1及び第2の弾性部材を設けた形式の可変容量型圧縮機において、前記斜板の傾斜を規制して該斜板の最大傾斜角を決定する第1のストッパと、前記斜板の傾斜を規制して該斜板の最小傾斜角を決定する第2のストッパとを備えたことを特徴とする可変容量型圧縮機。
【請求項2】 前記第1、第2のストッパはバネ座となるフランジ部を有していることを特徴とする請求項1記載の可変容量型圧縮機。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2001−304107(P2001−304107A)
【公開日】平成13年10月31日(2001.10.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−101317(P2001−101317)
【分割の表示】特願平9−41609の分割
【出願日】平成9年2月10日(1997.2.10)
【出願人】(500309126)株式会社ゼクセルヴァレオクライメートコントロール (282)