説明

可変容量素子

【課題】本発明は、高いQ値を維持しながら静電容量の可変域の拡大を実現する、強誘電体を用いた可変容量素子の小型化を目的とする。
【解決手段】本発明は、強誘電体を用いた可変容量素子において、第1及び第2の電極22、24の間に接続された強誘電体層21を備え、前記強誘電体層21は、自らが内部に持つ圧縮応力Yにより立方晶から正方晶へ相変態したペロブスカイト型構造を有することを特徴とする可変容量素子を用いることで、可変容量素子の小型化を実現できるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューナブルフィルタや高周波用コンデンサデバイス等に応用される、強誘電体を用いた可変容量素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、チューナブルフィルタ等の電子部品において、印加電圧に対する静電容量の可変域が広い可変容量素子が望まれている。
【0003】
そのような要望に対し、電極間の強誘電体層の組成を変えることで可変容量素子の静電容量の可変域を大きくすることは、従来から検討されていた。例えば、強誘電体層に(Ba,Sr)TiO3(以下「BST」とする)を用いたコンデンサにおいては、Srに対し、Baの組成比を一定以上にすることで(例えばSr/Ba=1/9)、BSTの結晶構造であるペロブスカイト型構造は、正方晶になり大きく分極が可能となるので、コンデンサの静電容量の可変域は大きくなる。
【0004】
しかしながら残念なことに、このように正方晶の結晶構造を取ったBSTの強誘電体層を用いたコンデンサは、静電容量の可変域は広いが、その反面、Q値(可変容量素子内の電気エネルギー損失(tanδ)の逆数値)が下がってしまい、各種電子部品への応用が困難であるという問題があった。例えば、チューナブルフィルタに用いる場合には、選局したい周波数以外の周波数を信号として検出してしまい応用できなかった。
【0005】
そのため、強誘電体を用いた可変容量素子について、高いQ値を維持しながら静電容量の可変域の拡大を実現することが求められている。
【0006】
それを実現する一つの方法として、図8に示すような、第1の誘電体層101に外部応力を印加する手段を設けた可変容量素子が知られている。この可変容量素子は、基板上に第1の電極層102、第1の誘電体層101、及び第2の電極層103が順次積層されたコンデンサにおいて、外部応力を印加する手段として、第1の電極層102の下に第3の電極層105、第2の誘電体層104、第4の電極層106からなる圧電素子107を設けた構造となっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−85081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のように、可変容量素子において、高いQ値を維持しながら静電容量の可変域の拡大を実現するために、第1の誘電体層101に外部応力を印加する手段として第1の電極層102の下に圧電素子107を設けたものでは、可変容量素子を構成する層(101〜103)の他に圧電素子107を構成する別の層が必要となる。そのため、可変容量素子のサイズが大きくなってしまっていた。可変容量素子のサイズが大きくなってしまうと、小型軽薄が求められる携帯電子機器等に用いる際に望ましくないものとなる。
【0009】
そこで本発明は、強誘電体を用いた可変容量素子の小型化を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明は、強誘電体を用いた可変容量素子において、第1及び第2の電極間に接続された強誘電体層を備え、前記強誘電体層は、自らが内部に持つ圧縮応力により立方晶から正方晶へ相変態したペロブスカイト型構造を有することを特徴とする可変容量素子を用いることで、所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明は、強誘電体を用いた可変容量素子において、第1及び第2の電極間に接続された強誘電体層を備え、前記強誘電体層は、自らが内部に持つ圧縮応力により立方晶から正方晶へ相変態したペロブスカイト型構造を有することを特徴とする可変容量素子を用いることで、可変容量素子の小型化を実現できるものである。
【0012】
すなわち、強誘電体層自身に圧縮応力を内在させ、その圧縮応力により強誘電体層の結晶構造を立方晶から正方晶へ相変態させることで、外部応力を印加する手段を用いなくても、可変容量素子のQ値を高く維持しつつ静電容量の可変域を拡大できる。
【0013】
詳しく説明すると、本来、立方晶のペロブスカイト型構造を有する常誘電体層を用いた可変容量素子は、Q値は高いが誘電率の可変域は小さいという性質を有していることが多かった。しかし、その立方晶の常誘電体層は、圧縮応力を内在させることで、組成を変えずに正方晶の強誘電体層に相変態させることができる。これにより、可変容量素子のQ値を高く維持したまま誘電率を大きく可変させることができるようになる。すなわち、可変容量素子において、外部応力印加手段を用いずに高いQ値の維持と静電容量の可変域の拡大を両立できるため、可変容量素子を小型化できるのである。これは、可変容量素子の静電容量は小さいが大きな可変域を必要とする高周波用部品にも応用できる。
【0014】
この小型化という効果に加え、本発明の可変容量素子は、以下の二つの理由により、さらにQ値を高めることもできる。
【0015】
一つは、圧縮応力を負荷しながら薄膜形成するため、形成される薄膜はより緻密に形成されるのでQ値を高めることができる。具体的には、薄膜形成段階において、薄膜を形成するそれぞれの結晶粒及び粒界は、製膜方向に対し垂直方向の圧縮応力を受けるため、それぞれが凝集しながら薄膜を形成する。したがって、形成される薄膜は、結晶欠陥が少なく結晶性の高い構造となるため、結果として、可変容量素子のQ値は向上する。
【0016】
もう一つは、電界印加時に発生する漏れ電流を抑制できるため、可変容量素子のQ値を高めることができる。具体的には、強誘電体層は電圧を印加すると分極し電界方向に伸びるため、強誘電体層に電圧を印加すると、電圧が印加される部分とされない部分との界面に応力がかかる。その応力によりその界面付近には、状態変異による結晶欠陥が発生する。この結晶欠陥が、漏れ電流の原因となり可変容量素子のQ値を低下させる。しかし、圧縮応力を内部に保持させると、その圧縮応力方向と前記界面にかかる応力方向とが一致するため、前記界面にかかる応力を緩和することが可能となる。この結果として、漏れ電流を抑制し、可変容量素子のQ値を高めることができる。
【0017】
さらに、本発明は、強誘電体層に対する応力印加手段を、従来のように圧電素子を使った外部手段から強誘電体層の内部に保持させる手段へ変えるため、以下のような効果も期待できる。
【0018】
まず、製膜工程を減らすことができるため、手間と時間の減少、コストの削減が可能となり、生産性が向上する。また、外部手段である圧電素子が不要となるため、圧電素子駆動のための回路も不要となり回路構造が簡素化する。さらに、強誘電体層形成後の高温処理プロセスによる品質低下、外部応力による層間の剥離や層内の結晶欠陥の発生が招くQ値の低下等の品質の問題も改善される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1における対向ターゲットスパッタ装置の概略図
【図2】図1の断面図
【図3】本発明の実施の形態1における可変容量素子の断面図
【図4】本発明の実施の形態1における可変容量素子の強誘電体層の結晶構造の模型図
【図5】本発明の実施の形態1における可変容量素子のヒステリシス特性グラフ
【図6】(A)X線回折法による結晶構造解析図、(B)0.25mTorr時の多重ピーク分離解析を示す図
【図7】本発明の実施の形態2におけるECRラジカル源付き対向ターゲットスパッタ装置の概略図
【図8】従来技術の可変容量素子の断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態1)
本実施の形態に示す可変容量素子は、特開2009−30133に記載の方法を参照して薄膜形成するが、ECRラジカル源を用いていないところに違いがある。
【0021】
本実施の形態の薄膜形成装置の概略図を図1、断面図を図2で示す。図1及び図2で示す薄膜形成装置は、ターゲットをスパッタし、基材(シリコン基板6)に(Ba0.4Sr0.6)TiO3の化合物膜22(以下、BST膜という)を形成する薄膜形成装置である。以下、主に図2を用いて説明する。
【0022】
図2に示すように、本実施の形態の薄膜形成装置は、スパッタチャンバ1と、平行方向に対向する二枚のターゲット2と、このターゲット2近傍に配置されたガス導入部3と、基板ホルダ4とが配置されている。なお、ターゲット2として本実施の形態では、Ba/Sr=4/6の(Ba0.4Sr0.6)TiO3を用い、カソード5に接続した。
【0023】
また本実施の形態では、基板ホルダ4は、フローティング状態とするか、あるいはアースと接続させた。この基板ホルダ4は加熱機能が付いており、基材であるシリコン基板6を加熱できるようになっている。
【0024】
そして前述のガス導入部3からはスパッタガスとしてアルゴンガスを、反応性ガスとして酸素ガスを出来るようにしている。
【0025】
これらのガスは電離されて、ラジカルや陽イオン、陰イオンが生成される。なお、本実施の形態では、導入する酸素ガスとスパッタガスとの比は1:4とし、これらのガス圧は約0.25mTorrとした。
【0026】
また各ターゲット2の背面にはそれぞれ磁石7が配置されている。そして一方のターゲット2aに配置された磁石7はN極を内側(対向空間側)に、他方のターゲット2bにはS極を内側(対向空間側)に向くように配置されている。したがって、これらの磁石7によって、ターゲット2の対向方向、すなわち一方のターゲット2aから他方のターゲット2bへと磁力線が走り、ターゲット2の対向空間には磁界が発生している。
【0027】
なお、本実施の形態では、カソード5内にも冷却水流入口8と冷却水流出口9とを設け、冷却水によってターゲット2を冷却できるようになっている。これによりターゲット2への熱応力を低減している。
【0028】
また本実施の形態では、カソード5とスパッタチャンバ1との間に整合器10(図1に図示)を介し、ショートを防いでいる。またターゲット2外周に設けたアースシールド11で、ターゲット2のみがスパッタされるようにした。
【0029】
次に、上記薄膜形成装置を用いた薄膜形成方法について説明する。
【0030】
まず、図2に示す基板ホルダ4に基材となるシリコン基板6を配置し、スパッタチャンバ1の内部を真空ポンプ12によって1.0×10-6mTorr以下にまで排気する。また、基板ホルダ4の加熱機能を用い、シリコン基板6をBST膜22が結晶化する温度まで加熱する。ここではあらかじめ別のシリコン基板6に熱電対を貼り付けて測定した際の温度が520℃であった設定温度まで加熱する。
【0031】
次に、スパッタチャンバ1内において、ガス導入部3からガス流量制御器13(図1に図示)を介してスパッタガスであるアルゴンガスと反応性ガスである酸素ガスを導入し、コンダクタンスバルブにより全圧力がプロセスガス圧(ここでは0.25mTorr)となるように調整し、ターゲット2に負電圧を印加すると、アルゴンガスや酸素ガスがイオンと電子とに電離してプラズマとなり、主にアルゴンイオン(Ar+)がターゲットに衝突してターゲット2からターゲット粒子が飛び出す。なお、本実施の形態では、電圧供給源として電力密度2.7W/cm2の高周波電源14を用いた。
【0032】
そしてこの反応前後のターゲット粒子がシリコン基板6表面に付着して徐々に堆積し、BST膜22を形成することができる。
【0033】
本実施の形態における効果を以下に説明する。
【0034】
なお、本実施の形態の効果は、図3に示すシリコン基板6(SiO2(70nm)/Si)上に形成した可変容量コンデンサで説明する。これは、下部電極23にPt/Ti(100nm/10nm)、強誘電体層21にBST膜22(250nm)、上部電極24にAu(300nm)を用い、下部電極23は平行平板マグネトロンスパッタ、強誘電体層21を本実施の形態の薄膜形成方法、上部電極24は電子ビーム蒸着で形成している。
【0035】
上述の本実施の形態の薄膜形成方法でBST膜22を形成すると、BST膜22は圧縮応力Y(図3において、矢印で図示)を内在し、その圧縮応力Yにより結晶構造を立方晶から正方晶へ相変態した状態で形成される。そのため、本実施の形態で形成されたBST膜22を用いた可変容量コンデンサは、外部応力を印加する手段を用いずに、高いQ値と静電容量の可変域の拡大を実現できるため、可変容量コンデンサのサイズを小型化することができる。
【0036】
それは、対向したターゲット2から飛び出すターゲット粒子が持つシリコン基板6表面に対し水平な圧縮方向(図3矢印方向)の運動エネルギーが、シリコン基板6に付着して徐々に堆積する過程で、形成されるBST膜22に圧縮応力Yとして残留するからである。
【0037】
そして、図4に示すように、BST膜22の結晶構造が、圧縮応力Yを負荷されながら形成されることで、立方晶から正方晶へ相変態するからである。
【0038】
本来、Ba/Sr=4/6のBST膜22は立方晶の結晶構造を取り、これを用いた可変容量コンデンサは、Q値は高いが静電容量の可変域が狭かった。例えば、本実施の形態において、スパッタチャンバ1内の全圧力を5mTorrとするとBST膜22は、図4(A)に示すように、立方晶の結晶構造を取り、図5(A)に示すヒステリシス特性からも分かるように、誘電率の可変域が狭かった。
【0039】
しかし、BST膜22を、本実施の形態の薄膜形成方法で形成することで、図4(B)に示すように、結晶構造が正方晶に相変態するため、誘電率の可変域が拡大する。
【0040】
それは、図5(B)に示すヒステリシス特性からも分かるが、図4(B)に示すように、正方晶の結晶構造になったBST膜22は、立方晶の結晶構造(図4(A))と比べ、体心金属のTiイオン25がより大きく遷移できるため、強誘電体層21は大きく分極できる。
【0041】
したがって、このBST膜22を用いた可変容量コンデンサにおいて、高いQ値を維持しながら静電容量の可変域を大きくすることができる。
【0042】
なお、本実施の形態で形成したBST膜22に圧縮応力Yが残留していることは、X線回折法による残留応力解析(2D法)で確認できる。この解析は、デバイリングの歪みから応力値を解析できる。このデバイリングの歪みから基板面内方向の2方向σ11とσ22の残留応力値を測定したところ、スパッタチャンバ1内の全圧力を5mTorrで形成したBST膜は、160〜200MPaの引張応力の残留を確認できた。これに対し、スパッタチャンバ1内の全圧力を0.25mTorrで形成したBST膜は、700〜870MPaの圧縮応力の残留を確認できた。この他、X線回折のsin2Ψ測定でも確認が出来る。
【0043】
また、本実施の形態で形成したBST膜22の結晶構造が立方晶から正方晶に相変態していることは、図6で示すX線回折法による結晶構造解析で確認できる。スパッタチャンバ1内の全圧力を5mTorrから0.25mTorrに変えて形成したBST膜22を比較した図6(A)の解析結果より、5mTorr時のBST膜22は、ピークの形が左右対称でありBST(100)の面間隔と一致した位置にピークが確認出来ること立方晶であることが確認できる。一方、0.25mTorr時はピークトップの位置が低角側にシフトし、ピーク形状も左右対称でないことから、複数の面間隔を有した結晶から成ることが分かる。これを、0.25mTorr時の多重ピークの分離解析の結果を表す図6(B)より、2θ=22.04°と2θ=22.28°の2つのピークでPseudo−Voigt関数にてフィッティングされており、面間隔が3.98Åの結晶の他に、面間隔が4.03Åの結晶のピークが確認できる。これより、0.25mTorr時のBST膜22は、a軸とc軸の長さが異なる、つまり、立方晶ではなく正方晶の結晶構造であることが分かる。
【0044】
以上より、本実施の形態で形成されたBST膜22は、圧縮応力Yを負荷されながら形成されることで、結晶構造が立方晶から正方晶へ相変態していることが分かる。
【0045】
したがって、本実施の形態で形成されたBST膜22を用いた可変容量素子は、外部応力を印加する手段を用いずに、高いQ値と静電容量の可変域の拡大を実現できるため、可変容量素子のサイズを小型化することができる。この特性を有する可変容量素子は、小さい静電容量で大きな可変域を必要とする高周波用部品にも応用できる。
【0046】
また、本実施の形態で形成されたBST膜22を用いた可変容量素子は、小型化という効果に加え、以下の三つの理由により、さらにQ値を高めることもできる。
【0047】
一つ目は、圧縮応力Yを負荷しながら薄膜形成するため、形成されるBST膜22はより緻密に形成されるのでQ値を高めることができる。具体的には、薄膜形成段階において、BST膜22を形成するそれぞれの結晶粒及び粒界は、製膜方向に対し垂直方向の圧縮応力Yを受けるため、それぞれが凝集しながらBST膜22を形成する。したがって、形成されるBST膜22は、結晶欠陥が少なく結晶性の高い構造となるため、結果として、可変容量素子のQ値を高めることができる。
【0048】
二つ目は、電界印加時に発生する漏れ電流を抑制できるので、可変容量素子のQ値を高めることができる。具体的には、強誘電体層21は電圧を印加すると分極し電界方向に伸びるため、強誘電体層21に電圧を印加すると、電圧が印加される部分とされない部分との界面X(図3において、点線で図示)に応力がかかる。その応力によりその界面X付近には、状態変異による結晶欠陥が発生する。この結晶欠陥が、漏れ電流の原因となり可変容量素子のQ値を低下させる。しかし、圧縮応力Yを内部に保持させると、その圧縮応力Y方向と前記界面Xにかかる応力方向とが一致するため、前記界面Xにかかる応力を緩和することが可能となる。この結果として、漏れ電流を抑制でき、可変容量素子のQ値を高めることができる。
【0049】
三つ目は、形成するBST膜22の表面構造の粗さを、結晶粒の大きさを保ったまま、つまり結晶粒を微細化せずに、低減することができるため、高い誘電率を維持したまま、電極界面層とのコンタクト抵抗を低減することができ、結果として、Q値を高めることができる。
【0050】
このほかに、本実施の形態は、薄膜形成をする際に、シリコン基板6と下部電極23との間や、電極層23、24と強誘電体層21との界面にバッファ層やシード層を形成することで強誘電体層21と電極層23、24もしくは強誘電体層21を配向制御することができる。そのため、正方晶へ相変態する結晶を一方向に配向させることで、圧縮応力Yを内在したBST膜22をc軸方向(電界方向)へ優先的に結晶成長させることができ、ヒステリシス特性をシャープにできる。つまり、低電圧で大きな分極が得られるため、可変容量素子としての性能も向上するし、メモリ等への応用にも適している。
【0051】
さらに、本実施の形態は、強誘電体層21に対する応力印加手段を、図8で示した従来技術のように、圧電素子107を使った外部手段から強誘電体層21の内部に保持させる手段へ変えるため、以下のような効果も期待できる。
【0052】
まず、製膜工程を減らすことができるため、手間と時間の減少、コストの削減が可能となり、生産性が向上する。また、外部手段である圧電素子107が不要となるため、圧電素子駆動のための回路も不要となり回路構造が簡素化する。さらに、強誘電体層21形成後の高温処理プロセスによる品質低下、外部応力による層間の剥離や層内の結晶欠陥の発生が招くQ値の低下等の品質の問題も改善される。
【0053】
なお、外部応力を印加する手段として、電極層23、24に応力を内在させることで、強誘電体層21に外部応力を印加しようとするということも考えられるが、電極層23、24は金属層であるため熱膨張変化が大きく、この電極層23、24の熱膨張変化によって、電極層23、24に内在させた応力が大きく変化してしまうため好ましくない。
【0054】
それに対し、本実施の形態は、強誘電体層21自身に圧縮応力Yを内在させているため、電極層23、24の変化や材料の影響が少ないため、使用条件や材料選択の自由度が高まる。
【0055】
なお、本実施の形態では、形成する化合物膜21として(BaxSr1-x)TiO3膜を例に挙げたが、Ba(Ti1-xZrx)O3、PbTiO3、Pb (Zr1-x,Tix)O3などの金属酸化膜にも応用が可能である。また本実施の形態では、反応性ガスとして酸素ガスを用いたが、窒素ガス、メタンガス等を用いてもよい。これにより、本実施の形態は、金属窒化物膜や有機金属化合物膜の形成にも応用が可能である。また基材としてはシリコン基板6を挙げたが、化合物膜21形成時の高温に耐えることができて、かつ、基板構成元素と電極、強誘電体との拡散を抑制することができるならば、特に規定は無く、SiO2、硝子、Al23基板やMgO基板などにも応用が可能である。
【0056】
また本実施の形態では、スパッタガスと反応性ガスとは異なるガスを用いたが、反応性ガスの陽イオンがスパッタガスとして機能する場合は、同じガスを用いてもよい。
【0057】
(実施の形態2)
本実施の形態に示す薄膜形成方法は、実施の形態1にECRラジカル源を用いた薄膜形成方法であり、特開2009−30133に記載の薄膜形成方法を参照して行う。
【0058】
実施の形態1との違いについて詳細に記載しながら、以下説明する。
【0059】
この薄膜形成装置は、スパッタチャンバ1とこのスパッタチャンバ1に取り付けられたECR(Electron Cyclotron Resonance)装置(高密度ラジカル源)とを備えている。
【0060】
図7に示すように、この薄膜形成装置は、スパッタチャンバ1内には、平行方向に対向する二枚のターゲット2と、このターゲット2近傍に配置されたガス導入部3と、ECR装置17と対向する基板ホルダ4とが配置されている。
【0061】
また、本実施の形態で用いるECR装置17は、そのラジカル放出面が、ターゲット2の対向方向とほぼ垂直方向からターゲット2の対向空間に臨むように配置した。すなわち本実施の形態では、ターゲット2の対向面とECR装置17のラジカル放出面とがほぼ垂直な関係にある。そして、このECR装置17によってプラズマ雰囲気を形成し、ターゲット2の対向方向に対して、ほぼ垂直方向からラジカル等を放出している。
【0062】
そして本実施の形態では、基板ホルダ4とECR装置17とは、対向空間を介して対面している。
【0063】
なお、本実施の形態で用いたECR装置17は、プラズマ生成部18に導波管19を介してマイクロ波(2.45GHz)を送り込み、放電を起こすものである。
【0064】
プラズマ生成部18の外周には875Gの磁束密度を形成することができる磁気コイルあるいは永久磁石を用いた磁界発生部20が配置され、これによりプラズマ生成部18の軸方向に磁場が印加されている。そしてこの磁場における磁力線の回りを電界が回転し、この電界によって電子も回転して加速される。そしてこの電子の回転周波数とマイクロ波周波数とを一致させて共振させ、マイクロ波のエネルギーを効率よく電子に吸収させる。この現象をECR(電子サイクロトロン共鳴)という。そしてECRによって加熱された電子が、ガス導入部3から導入された反応性ガス(酸素ガス)に衝突すると、酸素ガスはラジカル(O+)や陽イオン(O+)、陰イオン(O-)が生成される。
【0065】
次に、上記薄膜形成装置を用いた薄膜形成方法について説明する。
【0066】
まず、図7に示す基板ホルダ4に基材となるシリコン基板6を配置し、スパッタチャンバ1の内部を真空ポンプ12によって1×10-6Torr以下まで排気する。また、基板ホルダ4の加熱機能を用い、シリコン基板6をBST膜22が結晶化する温度まで加熱する。ここではあらかじめ別のシリコン基板6に熱電対を貼り付けて測定した際の温度が520℃であった設定温度まで加熱する。
【0067】
次に、スパッタチャンバ1内において、ガス導入部3からスパッタガスであるアルゴンガスを導入し、ターゲット2に負電圧を印加すると、アルゴンガスがイオンと電子とに電離してプラズマとなり、イオン(Ar+)がターゲット2に衝突してターゲット2からターゲット2粒子が飛び出す。なお、本実施の形態では、電圧供給源として電力密度2.7W/cm2の高周波電源14を用いた。
【0068】
またECR装置17からスパッタチャンバ1内に酸素ラジカルを導入すると、この酸素ラジカルと前述のターゲット2粒子とが反応する。このように、ECR装置17から酸素ラジカルを供給し、ターゲット2粒子と反応させることによって、酸素欠損の少ない化合物膜を形成することができる。
【0069】
そしてこの反応後のターゲット2粒子がシリコン基板6表面に付着して徐々に堆積し、BST膜22を形成することができる。
【0070】
本実施の形態は、実施の形態1で挙げた効果の他に以下に説明する効果を奏する。
【0071】
本実施の形態は、負イオンの化合物膜21への衝突を抑制することができるため、結晶欠陥が少なく、結晶性の高いBST膜22を形成することができる。
【0072】
それは、本実施の形態は、図7に示すように二つのターゲット2を対向させ、一方のターゲット2から他方のターゲット2へと向う磁界を発生させることによって、ターゲット2対向空間にほぼ一様の磁界が形成される。そして、この磁界の向きとほぼ垂直方向から負イオンが放出される。そのため、負イオンは磁界中でサイクロトロン運動をするので、負イオンは磁界に捕捉された状態となり、これにより負イオンの進行は抑えられ、この結果として結晶性を高めることができる。
【0073】
さらに、ECR装置17を用いると、高効率でラジカルを発生させることができる一方で、負イオンの発生も多くなる。また、高密度でラジカル、イオン等が発生すると、比較的磁束密度の低いスパッタチャンバ1側へと直進しやすくなる。
【0074】
したがって、本実施の形態は、負イオンの衝突を抑制し、化合物膜21へのダメージを低減することによって、結晶性に優れた化合物膜21の形成に顕著な効果を有する。
【0075】
このほかに、本実施の形態では、活性な酸素ラジカルを効率的に導入すると共に、酸素イオンの衝突を抑制することによって、化合物膜21の結晶中の原子が欠落するのを抑制し、電気的絶縁性に対する信頼性の高い化合物膜21を形成することができる。
【0076】
なお、本実施の形態では、形成する化合物膜21として(BaxSr1-x)TiO3膜を例に挙げたが、実施の形態1と同様、Ba(Ti1-xZrx)O3、PbTiO3、Pb (Zr1-x,Tix)O3などの金属酸化膜にも応用が可能である。また本実施の形態では、反応性ガスとして酸素ガスを用いたが、窒素ガス、メタンガス等を用いてもよい。これにより、本実施の形態は、金属窒化物膜や有機金属化合物膜の形成にも応用が可能である。また基材としてはシリコン基板を挙げたが、化合物膜21形成時の高温に耐えることができて、かつ、基板構成元素と電極、強誘電体との拡散を抑制することができるならば、特に規定は無く、SiO2、硝子、Al23基板やMgO基板などにも応用が可能である。
【0077】
また本実施の形態では、スパッタガスと反応性ガスとは異なるガスを用いたが、反応性ガスの陽イオンがスパッタガスとして機能する場合は、同じガスを用いてもよい。またECR装置17などの高密度ラジカル源はイオンも高密度に発生させることができるため、スパッタガスも反応性ガスと同様に、高密度ラジカル源から放出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の可変容量素子は、チューナブルフィルタや高周波用コンデンサデバイス等に応用される可変容量素子に利用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 スパッタチャンバ
2、2a、2b ターゲット
3 ガス導入部
4 基板ホルダ
5 カソード
6 シリコン基板
7 磁石
8 冷却水流入口
9 冷却水流出口
10 整合器
11 アースシールド
12 真空ポンプ
13 ガス流量制御器
14 高周波電源
15 位相制御器
16 オシロスコープ
17 ECR装置(高密度ラジカル源)
18 プラズマ生成部
19 導波管
20 磁界発生部
21 強誘電体層、化合物膜
22 BST膜
23 下部電極
24 上部電極
101 第1の誘電体層
102 第1の電極層
103 第2の電極層
104 第2の誘電体層
105 第3の電極層
106 第4の電極層
107 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の電極間に接続された強誘電体層を備え、
前記強誘電体層は、自らが内部に持つ圧縮応力により立方晶から正方晶へ相変態したペロブスカイト型構造を有することを特徴とする可変容量素子。
【請求項2】
基板と、この基板上に積層した前記第1の電極と、この第1の電極上に積層した前記強誘電体層と、この強誘電体層上に積層した前記第2の電極とを備えた請求項1に記載の可変容量素子。
【請求項3】
前記強誘電体層は、
スパッタチャンバと、
このスパッタチャンバ内に対向配置した二つのターゲットと、
これらのターゲットの対向方向とほぼ垂直方向から前記ターゲットの対向空間に臨む基板ホルダとを備え、
前記各ターゲットの背面にはそれぞれ磁石が配置され、
これらの磁石によって、前記ターゲットの対向方向に磁界を発生させるとともに、
前記各ターゲットに負電圧を印加して、前記基板ホルダに設置した基材に化合物膜を形成する薄膜形成方法で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の可変容量素子。
【請求項4】
前記強誘電体層は、さらに、高密度ラジカル源を前記基板ホルダと異方向から前記ターゲットの対向空間に臨むように備えた前記薄膜形成方法で形成されたことを特徴とする請求項3に記載の可変容量素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−211029(P2011−211029A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78452(P2010−78452)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)