説明

可変容量装置

【課題】電極の酸化を防止して、所望の大きさの容量を得ることができる可変容量装置を提供する。
【解決手段】可変容量装置1は、固定板2と、固定板2に間隔を隔てて対向するように設けられた可動梁3と、可動梁3に設けられた可動梁側RF容量電極9と、可動梁側RF容量電極9に対向するように固定板2に設けられた固定板側RF容量電極6A,6Bと、可動梁側RF容量電極9と固定板側RF容量電極6A,6Bとの間に設けられた、酸化物からなる誘電体膜4と、可動梁側RF容量電極9上に設けられた酸化防止膜10Cとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力により駆動するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いて、RF(Radio Frequency)容量を変えることができる可変容量装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なデバイスにおいて、静電力により駆動するMEMSが用いられることがある。特許文献1には、静電力により駆動するMEMSが用いられたデバイスとして、スイッチ素子に関する発明が開示されている。図1(A)は、特許文献1に記載のスイッチ素子101の構成例を示す模式図である。
【0003】
特許文献1に記載のスイッチ素子101は、固定部102と、可動部103と、コンタクト電極104と、駆動容量電極105と、ストッパ106とを備えている。固定部102は基板である。可動部103は、金属製の片持ち梁であり、固定部102に固定された固定端部103Aと、固定部102の主面に一定間隔で対向する可動端部103Bとを備えている。コンタクト電極104と、駆動容量電極105と、ストッパ106とは、可動端部103Bに対向して設けられている。このスイッチ素子101では、駆動容量電極105と可動部103との間に駆動電圧が印加されることで可動部103が変形して、可動端部103Bがコンタクト電極104に接触し、可動部103とコンタクト電極104との間での電気的接点が得られる。
【0004】
また、このような静電力により駆動するMEMSが用いられたデバイスとして、RF容量を変えることができる可変容量装置が開発されている。
図1(B)は、静電力により駆動するMEMSが用いられた可変容量装置201の構成例について説明する図である。
【0005】
可変容量装置201は、固定部202と、可動部203と、固定部側RF容量電極204と、可動部側RF容量電極205と、誘電体膜206と、固定部側駆動容量電極と、可動部側駆動容量電極とを備える。固定部202は基板である。可動部203は、絶縁性材料からなる片持ち梁であり、固定部202に固定された固定端部203Aと、固定部202の主面に一定間隔で対向する可動端部203Bとを備える。可動部側RF容量電極205は、可動端部203Bにおける固定部202との対向面に設けられている。固定部側RF容量電極204は、可動端部203Bおよび可動部側RF容量電極205に対向するように設けられている。可動部側駆動容量電極は、可動端部203Bにおける固定部202との対向面に、可動部側RF容量電極205と隣り合うように設けられている。固定部側駆動容量電極は、可動端部203Bおよび可動部側駆動容量電極に対向するように設けられている。なお、固定部側駆動容量電極と、可動部側駆動容量電極とは、図1(B)では図示されていない。誘電体膜206は、固定部側RF容量電極204と固定部側駆動容量電極とを覆うように設けられている。
この可変容量装置201では、固定部側駆動容量電極と可動部側駆動容量電極との間に駆動電圧を印加することで生じる駆動容量によって可動部203が変位して、可動部側RF容量電極205が誘電体膜206に接触する。可動部側RF容量電極205と誘電体膜206との接触面積は駆動電圧に応じて変化し、誘電体膜206を介して対向する固定部側RF容量電極204と可動部側RF容量電極205との間に、可動部側RF容量電極205と誘電体膜206との接触面積に応じた容量値のRF容量が生じる。可変容量装置201では、誘電体膜206は、高い誘電率を有する材料からなり、極めて薄い膜厚で形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−152194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような従来の可変容量装置201では、固定部側駆動容量電極と可動部側駆動容量電極との間に駆動電圧を印加することで生じる駆動容量によって可動部203が変位して、可動部側RF容量電極205と可動部側駆動容量電極とが誘電体膜206に接触する。誘電体膜206が五酸化タンタルなどの酸化物からなる場合、可動部側RF容量電極205と可動部側駆動容量電極とが誘電体膜206に接触した状態でこれらの間に電圧が印可されると、誘電体膜206中の酸素原子が可動部側RF容量電極205と可動部側駆動容量電極とに移動し、可動部側RF容量電極205と可動部側駆動容量電極とが酸化する。可動部側RF容量電極205と可動部側駆動容量電極とが酸化すると、可動部側RF容量電極205と可動部側駆動容量電極との誘電率が変わってしまうだけではなく、可動部側RF容量電極205と可動部側駆動容量電極との酸化した部分が誘電体層として機能するので、所望の大きさの容量が得られないといった問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、電極の酸化を防止して、所望の大きさの容量を得ることができる可変容量装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る可変容量装置は、固定板と、固定板に間隔を隔てて対向するように設けられた可動梁と、可動梁に設けられた可動梁側RF容量電極と、可動梁側RF容量電極に対向するように固定板に設けられた固定板側RF容量電極と、可動梁側RF容量電極と固定板側RF容量電極との間に設けられた、酸化物からなる誘電体膜と、可動梁側RF容量電極上に設けられた酸化防止膜と、を備える。
【0010】
この構成によれば、酸化防止膜によって、誘電体膜中の酸素原子が可動梁側RF容量電極に移動すること、すなわち、可動梁側RF容量電極が酸化することを防ぐことができる。このため、可変容量装置において所望の大きさの容量を得ることができる。
【0011】
本発明に係る可変容量装置において、酸化防止膜は、可動梁側RF容量電極の電極材料よりも標準電極電位が高い材料からなることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、可動梁側RF容量電極が酸化することを確実に防ぐことができる。
【0013】
本発明に係る可変容量装置は、可動梁に設けられた可動梁側駆動容量電極と、可動梁側駆動容量電極に対向するように固定板に設けられた固定板側駆動容量電極と、可動梁側駆動容量電極と固定板側駆動容量電極との間に設けられた、酸化物からなる誘電体膜と、可動梁側駆動容量電極上に設けられた酸化防止膜と、をさらに備える構成でもよい。
【0014】
この構成では、酸化防止膜によって、誘電体膜中の酸素原子が可動梁側駆動容量電極に移動すること、すなわち、可動梁側駆動容量電極が酸化することを防ぐことができる。このため、可変容量装置において所望の大きさの容量を得ることができる。
【0015】
本発明に係る可変容量装置において、酸化防止膜は、金またはプラチナからなることが好ましい。
【0016】
この構成では、可動梁側RF容量電極が酸化することを確実に防ぐことができる。
【0017】
本発明に係る可変容量装置において、誘電体膜は、五酸化タンタルからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、可動梁側RF容量電極上に設けられた酸化防止膜を備えることから、可動梁側RF容量電極が酸化することを防ぐことができるため、可変容量装置において所望の大きさの容量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の静電力により駆動するMEMSが用いられたデバイスの構成例を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態に係る可変容量装置の平面図である。
【図3】可動梁および誘電体膜を除いた状態での本発明の実施形態に係る可変容量装置の分解平面図である。
【図4】Z軸負方向から視た本発明の実施形態に係る可変容量装置の分解平面図である。
【図5】(A)は、図2のVA−VA線における本発明の実施形態に係る可変容量装置の断面図であり、(B)は、図2のVB−VB線における可変容量装置の断面図である。
【図6】図5のVI−VI線における本発明の実施形態に係る可変容量装置の断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る可変容量装置における可動梁の変形態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る可変容量装置1について、図2〜図7を参照して説明する。なお、各図には直交座標形のX−Y−Z軸を付している。図2は、本実施形態に係る可変容量装置1の平面図(X−Y面平面図)である。図2に示すように、可変容量装置1は、固定板2と、可動梁3と、誘電体膜4とを備える。固定板2は、例えばガラス基板であり、平面視して長辺および短辺からなる矩形状に構成されている。なお、固定板2は、シリコン単結晶基板などの他の絶縁性基板であってもよい。
【0021】
以下では、平面視して固定板2の長手方向をX軸とし、平面視して固定板2の長手方向に直交する方向(以下、短手方向という)をY軸とし、固定板2の厚み方向をZ軸とする。また、図2における紙面右方向をX軸正方向とする。図2における紙面下方向をY軸正方向とする。また、固定板2の上面方向をZ軸正方向とする。
【0022】
誘電体膜4は、固定板2と相似形状であって、固定板2よりも大きさが小さく、長手方向がX軸方向と一致するように、固定板2の上面(Z軸正方向の面)に平面視して矩形状に設けられている。誘電体膜4は、五酸化タンタル(Ta)などの誘電率が高い薄膜であることが好ましい。また、誘電体膜4は、約200nmの厚みを有している。
【0023】
可動梁3は、約30μmの厚みを有する高抵抗シリコン基板(絶縁材料)などの絶縁性基板からなり、X−Z面を視て略L字状の片持ち梁構造となっている。片持ち梁構造とは、板状の部材を一端部でのみ固定する構造をいう。なお、可動梁3は、対向する両端部で固定する両持ち梁構造であってもよい。この可動梁3は、支持部3Aと、連結部3Bと、可動部3Cとを備える。
【0024】
支持部3Aは、平面視してY軸方向に長尺な矩形状であり、一方の長辺が固定板2のX軸負方向の短辺と一致するように、固定板2の上面に設けられている。支持部3Aは、可動梁3のX軸負方向端部に設けられている。連結部3Bは、平面視して、それぞれX軸方向に沿って蛇行するミアンダライン状となっている。連結部3Bは、支持部3AのY軸方向の両端にそれぞれ設けられている。可動部3Cは、平面視して、X軸方向に長尺な平板状であり、可動梁3のX軸正方向端部に設けられている。可動部3Cは、X軸負方向の端部で連結部3Bに連結されている。この可動梁3においては、連結部3Bおよび可動部3Cが固定板2から離間した状態で支持部3Aによって支持されている。
【0025】
また、可動部3Cは、2つの分割領域3D1,3D2と、3つの区画領域3E1,3E2,3E3とを有している。分割領域3D1,3D2は、それぞれX軸に沿って複数の貫通孔が配列された領域である。区画領域3E1,3E2,3E3は、分割領域3D1,3D2によって区画された、X軸方向に沿って長尺な領域である。よって、区画領域3E1,3E2,3E3においては、Y軸方向における各領域間に分割領域3D1,3D2が配置されている。すなわち、Y軸正方向に向かって、区画領域3E1、分割領域3D1、区画領域3E2、分割領域3D2および区画領域3E3の順に配列している。
【0026】
図3は、可動梁3および誘電体膜4を除いた状態での可変容量装置1の分解平面図(X−Y面平面図)である。図3に示すように、可変容量装置1は、固定板側駆動容量電極5A,5Bと、固定板側RF容量電極6A,6Bと、グランド電極7とを備えている。固定板側駆動容量電極5A,5Bと、固定板側RF容量電極6A,6Bと、グランド電極7とは、それぞれ固定板2の上面に設けられている。固定板側駆動容量電極5A,5Bと、固定板側RF容量電極6A,6Bと、グランド電極7とは、それぞれ銅(Cu)からなり、約2000nmの厚みを有している。固定板側駆動容量電極5A,5Bと固定板側RF容量電極6A,6Bとは、それぞれX軸方向に長尺な線路状電極であり、長手方向が平行となるよう配列されている。このとき、固定板側駆動容量電極5A,5Bの間に固定板側RF容量電極6A,6Bが位置するように、Y軸方向に配列されている。すなわち、固定板側駆動容量電極5A,5Bは、固定板側RF容量電極6A,6BのY軸方向の両脇に設けられている。
【0027】
固定板側駆動容量電極5A,5Bは、一方の端部が駆動電圧端子DCに接続されている。固定板側RF容量電極6Aの一方の端部はRF信号の入力端子(または出力端子)に接続され、固定板側RF容量電極6Bの一方の端部はRF信号の出力端子(または入力端子)に接続されている。
【0028】
グランド電極7は、一方の端部が接地端子GNDに接続されている。グランド電極7は、固定板側駆動容量電極5A、固定板側RF容量電極6A,6Bおよび固定板側駆動容量電極5Bを順に取り囲むようにミアンダライン状に形成されている。誘電体膜4は、固定板側駆動容量電極5A,5Bと固定板側RF容量電極6A,6Bとを覆うように形成されている。
【0029】
図4は、Z軸負方向から視た可変容量装置1の分解平面図である。図4(A)は、固定板2および誘電体膜4を除いた状態での可変容量装置1の分解平面図(X−Y面平面図)であり、図4(B)は、図4(A)から後述の酸化防止膜を除いた状態での可変容量装置1の分解平面図X−Y面平面図)である。
【0030】
図4(B)に示すように、可変容量装置1は、可動梁側駆動容量電極8A,8Bと、可動梁側RF容量電極9とを備える。可動梁側駆動容量電極8A,8Bと、可動梁側RF容量電極9とは、それぞれ約500nmの厚みを有し、可動梁3の下面に形成されている。可動梁側駆動容量電極8A,8Bと、可動梁側RF容量電極9とは、可動梁3を構成している高抵抗シリコン基板と近い線膨張係数を有するタングステンからなることが好ましい。 可動梁側駆動容量電極8A,8Bと、可動梁側RF容量電極9とは、X軸方向に長尺な線路状電極であり、Y軸方向に配列して設けられている。可動梁側駆動容量電極8A,8Bは、可動梁側RF容量電極9のY軸方向の両脇に設けられている。具体的には、可動梁側駆動容量電極8Aは、固定板側駆動容量電極5Aおよび誘電体膜4と対向するように区画領域3E1に設けられていて、可動梁側駆動容量電極8Bは、固定板側駆動容量電極5Bおよび誘電体膜4と対向するように区画領域3E3に設けられている。可動梁側駆動容量電極8A,8Bは、ミアンダライン状の接続電極8Cにより互いに接続されており、接続電極8Cは接地端子GNDに接続されている。
【0031】
可動梁側RF容量電極9は、可動梁側駆動容量電極8A,8Bの間に設けられている。具体的には、可動梁側RF容量電極9は、固定板側RF容量電極6A,6Bおよび誘電体膜4と対向するように区画領域3E2に設けられている。
【0032】
可動梁側駆動容量電極8A,8Bおよび可動梁側RF容量電極9の表面には、図4(A)に示すように、酸化防止膜10A,10B,10Cが形成されている。酸化防止膜10A,10B,10Cは、金(Au)またはプラチナ(Pt)から形成されており、約500nmの厚みの可動梁側駆動容量電極8A,8Bおよび可動梁側RF容量電極9に対し十分薄い厚さ、例えば、約10nmの厚みを有している。
【0033】
酸化防止膜10A,10B,10Cは、可動梁側駆動容量電極8A,8Bおよび可動梁側RF容量電極9の電極材料よりも標準電極電位が高い材料からなる。よって、酸化防止膜10A,10B,10Cは、誘電体膜4中の酸素原子が可動梁側駆動容量電極8A,8Bおよび可動梁側RF容量電極9に移動すること、すなわち、可動梁側駆動容量電極8A,8Bおよび可動梁側RF容量電極9が酸化することを防いでいる。一般に、可変容量装置において、可動梁側駆動容量電極および可動梁側RF容量電極が酸化した場合、可動梁側駆動容量電極および可動梁側RF容量電極の誘電率が変わってしまうだけではなく、可動梁側駆動容量電極および可動梁側RF容量電極との酸化した部分が誘電体層として機能するので、可変容量装置において所望の大きさの容量が得られないといった問題がある。本実施形態では、酸化防止膜10A,10B,10Cにより可動梁側駆動容量電極8A,8Bおよび可動梁側RF容量電極9が酸化することを防いでいるため、可変容量装置1において所望の大きさの容量を得ることができる。
【0034】
なお、図示していないが、可動梁3と可動梁側駆動容量電極8A,8Bおよび可動梁側RF容量電極9との間、並びに、可動梁側駆動容量電極8A,8Bおよび可動梁側RF容量電極9と酸化防止膜10A,10B,10Cとの間には、TiNまたはTiW等のチタン合金層である密着層(厚さ10nm)が形成されており、層間剥離を防止している。
【0035】
図5(A)は、図2のVA−VA線における可変容量装置1の断面図(X−Z面断面図)であり、図5(B)は、図2のVB−VB線における可変容量装置1の断面図(X−Z面断面図)である。図6は、図5のVI−VI線における可変容量装置1の断面図(Y−Z面断面図)である。
【0036】
可動梁側駆動容量電極8Aは、酸化防止膜10Aを介して、固定板側駆動容量電極5Aとグランド電極7と誘電体膜4とに対向している。可動梁側駆動容量電極8Bは、酸化防止膜10Bを介して、固定板側駆動容量電極5Bとグランド電極7と誘電体膜4とに対向している。可動梁側駆動容量電極8Aは、固定板側駆動容量電極5Aおよび誘電体膜4の対向する領域と酸化防止膜10Aとともに駆動容量部を構成している。可動梁側駆動容量電極8Bは、固定板側駆動容量電極5Bおよび誘電体膜4の対向する領域と酸化防止膜10Bとともに駆動容量部を構成している。駆動電圧端子DCから固定板側駆動容量電極5A,5Bに駆動DC電圧が印加されると、駆動容量部において静電引力が発生する。駆動容量部は、その静電引力により可動梁3を固定板2側に引き付け、可動梁3を先端(X軸正方向側の端部)から誘電体膜4に接触させる駆動容量として機能する。駆動DC電圧が高電圧であるほど、可動梁3と誘電体膜4との接触面積は大きくなる。
【0037】
グランド電極7は、可動梁側駆動容量電極8A,8Bと同電位(グランド電位)に接続され、可動梁側駆動容量電極8A,8Bと固定板側駆動容量電極5A,5Bとが対向する領域の誘電体膜4に強い電界が作用することを防ぐ。したがって、グランド電極7を設けることで、誘電体膜4の帯電が抑制され、誘電体膜4に可動梁3が貼り付くスティッキング現象の発生を防ぐことができる。
【0038】
誘電体膜4において、グランド電極7上に形成されている部分は、周囲から突出しており、ストッパ部4Aを構成している。すなわち、誘電体膜4の表面には、ストッパ部4Aが形成されている。ストッパ部4Aは、可動梁側駆動容量電極8A,8Bと固定板側駆動容量電極5A,5Bとが対向する領域で、酸化防止膜10A,10Bが誘電体膜4に直接接触することを防ぐ。このストッパ部4Aを設けることでも、誘電体膜4の帯電が抑制され、スティッキング現象の発生を防ぐことができる。
【0039】
可動梁側RF容量電極9は、酸化防止膜10Cを介して、固定板側RF容量電極6A,6Bと誘電体膜4とに対向している。可動梁側RF容量電極9は、固定板側RF容量電極6A,6Bおよび誘電体膜4の対向する領域と酸化防止膜10CとともにRF容量部を構成している。RF容量部は、可動梁側RF容量電極9と固定板側RF容量電極6A,6Bとの間に形成され、酸化防止膜10Cが形成された可動梁側RF容量電極9と誘電体膜4との接触面積に応じて容量の大きさが変化するRF容量として機能する。
【0040】
誘電体膜4において、可動梁側RF容量電極9に対向している部分は、周囲から突出しており、突出部4Bを構成している。突出部4Bは、ストッパ部4Aと同じ高さである。すなわち、誘電体膜4の表面には、突出部4Bが形成されている。突出部4Bは、酸化防止膜10Cが形成された可動梁側RF容量電極9と誘電体膜4との接触面積を大きくし、RF容量の最大値を大きくするために設けられている。
【0041】
また、ストッパ部4Aと突出部4Bは、固定板側駆動容量電極5A,5Bと可動梁側駆動容量電極8A,8Bに対して平行に延在されているため、駆動容量とRF容量との容量関係が常に一定に保たれるようになっている。なお、駆動容量部は駆動電圧端子DCと接地端子GNDとの間に並列接続されるため、両者を直列接続する構成に比べて単位面積当たりの静電引力が大きく、両者を直列接続する場合よりも電極面積の低減に有利である。一方、RF容量部はRF信号の入力端子と出力端子との間に直列接続されるため、両者を並列接続する構成に比べて単位面積当たりの静電引力が小さく、両者を並列接続する場合よりもRF信号による可動梁3の変形(セルフアクチエーション)の抑制に有利である。
【0042】
図7は、可変容量装置1における可動梁3の変形態様を説明する図である。
駆動電圧端子DCから固定板側駆動容量電極5A,5Bに印加される駆動DC電圧を大きくして、固定板側駆動容量電極5A,5Bと可動梁側駆動容量電極8A,8Bとの間に形成される駆動容量を大きくしていくと、静電引力により可動梁3が固定板2側に引き付けられ、可動梁3の連結部3Bにおける撓みが次第に大きくなり、可動部3Cが先端(X軸正方向側の端部)から誘電体膜4に接近する。そして、図7(A)に示すように、可動梁側RF容量電極9の上に形成された酸化防止膜10Cの先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜4に線接触する。このとき、可動梁側駆動容量電極8A,8Bの上に形成された酸化防止膜10A,10Bの先端(X軸正方向側の端部)も誘電体膜4に線接触する。
【0043】
駆動容量をさらに大きくしていくと、可動梁3の可動部3Cにおける撓みが大きくなり、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)近傍が固定板2と平行になるように、可動梁3が固定板2に近づく。そして、酸化防止膜10A,10B,10Cが誘電体膜4に線接触する状態から面接触する状態に移行する。
【0044】
駆動電圧をより大きくしていくと、可動梁3の可動部3Cにおける撓みが大きくなり、図7(C)に示すように、酸化防止膜10A,10B,10Cが誘電体膜4に面接触する領域が拡大していくとともにRF容量が増加していく。
【0045】
このように、固定板側駆動容量電極5A,5Bと可動梁側駆動容量電極8A,8Bとの間に形成される駆動容量を大きくしていくことで、可動梁側RF容量電極9の上に形成された酸化防止膜10Cと誘電体膜4との接触面積が大きくなり、可変容量装置1のRF容量が大きくなる。このとき、可動梁側RF容量電極9と誘電体膜4との間には酸化防止膜10Cが介在するため、誘電体膜4中の酸素原子が可動梁側RF容量電極9に移動することを防いでいる。同様に、可動梁側駆動容量電極8A,8Bと誘電体膜4との間には酸化防止膜10A,10Bが介在するため、誘電体膜4中の酸素原子が可動梁側駆動容量電極8A,8Bに移動することを防いでいる。この結果、可動梁側駆動容量電極8A,8Bと可動梁側RF容量電極9とは酸化せず、可変容量装置1において所望の大きさの容量を得ることができる。
【0046】
なお、酸化防止膜の具体的構成などは、適宜設計変更可能であり、上述の実施形態に記載された作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、上述の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0047】
例えば、酸化防止膜は、固定板側RF容量電極6A,6Bとの間で容量を形成する可動梁側RF容量電極9の上にのみ設けられていてもよい。また、酸化防止膜は、可動梁側RF容量電極9の面全体に亘って設けずに、固定板側RF容量電極6A,6B上の誘電体膜4と密着する部分にのみ設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1−可変容量装置
2−固定板
3−可動梁
3A−支持部
3B−連結部
3C−可動部
3D1,3D2−分割領域
3E1,3E2,3E3−区画領域
4−誘電体膜
4A−ストッパ部
4B−突出部
5A,5B−固定板側駆動容量電極
6A,6B−固定板側RF容量電極
7−グランド電極
8A,8B−可動梁側駆動容量電極
9−可動梁側RF容量電極
10A,10B,10C−酸化防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定板と、
前記固定板に間隔を隔てて対向するように設けられた可動梁と、
前記可動梁に設けられた可動梁側RF容量電極と、
前記可動梁側RF容量電極に対向するように前記固定板に設けられた固定板側RF容量電極と、
前記可動梁側RF容量電極と前記固定板側RF容量電極との間に設けられた、酸化物からなる誘電体膜と、
前記可動梁側RF容量電極上に設けられた酸化防止膜と、
を備える可変容量装置。
【請求項2】
前記酸化防止膜は、前記可動梁側RF容量電極の電極材料よりも標準電極電位が高い材料からなる、請求項1に記載の可変容量装置。
【請求項3】
前記可動梁に設けられた可動梁側駆動容量電極と、
前記可動梁側駆動容量電極に対向するように前記固定板に設けられた固定板側駆動容量電極と、
前記可動梁側駆動容量電極と前記固定板側駆動容量電極との間に設けられた、酸化物からなる誘電体膜と、
前記可動梁側駆動容量電極上に設けられた酸化防止膜と、
をさらに備える請求項1または2に記載の可変容量装置。
【請求項4】
前記酸化防止膜は、金またはプラチナからなる、請求項1から3の何れか一つに記載の可変容量装置。
【請求項5】
前記誘電体膜は、五酸化タンタルからなる、請求項1から4の何れか一つに記載の可変容量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−51297(P2013−51297A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188091(P2011−188091)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)