説明

可変焦点レンズおよびこれを備えた撮像装置

【課題】2種の液体の界面を光の屈折面とする可変焦点レンズにおいて、両液体の界面の位置を精度良く規定する。
【解決手段】可変焦点レンズ14が、第1および第2の液体L1,L2をそれぞれ収容する第1および第2の液室31,32と、両液室間を仕切るように配置され、それら液室を連通すると共に光が通過する貫通孔を有する界面保持プレート22と、第1および第2の液体の少なくとも一方の圧力または体積を変動させるアクチュエータ35とを備え、界面保持プレートは、貫通孔内またはその周囲に界面を保持する界面保持部を有し、当該界面保持部から第1の液室側には、第1の液体に対して親液性であり且つ第2の液体に対して疎液性である第1の表面領域を有する一方、界面保持部から第2の液室側には、第2の液体に対して親液性であり且つ第1の液体に対して疎液性である第2の表面領域を有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦点距離を変更可能な可変焦点レンズおよびその製造方法ならびに可変焦点レンズおよびこれを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、媒質(液体等)の界面形状を変化させることにより焦点距離を変更する可変焦点レンズが開発されている。この種の可変焦点レンズでは、界面の曲率を安定的に制御するために、液体−液体境界や液体−気体境界等における境界面の周縁の位置(以下、界面の位置という。)を精度良く固定する必要がある。そこで、例えば、水などの液体が充填される管状収納器の内周面に、互いに隣接する親水性および疎水性の領域をそれぞれ形成し、これらの領域の境界によって液体のメニスカスの位置を拘束することにより、メニスカスが両領域の境界における静的接触角によって部分的に画定される曲率を有するようにした可変焦点レンズが存在する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−527795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の従来技術は、管状収納器の内周面における親水性および疎水性の領域の境界位置を精度良く規定することにより、界面の曲率を安定的に制御することを意図している。しかしながら、特許文献1には管状収納器内に親水性および疎水性の領域を形成する具体的な方法については開示されておらず、実際にそのような領域を高精度に形成することは極めて困難である。
【0005】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、2種の液体の界面を適切に拘束することにより、当該2種の液体の界面の位置を精度良く規定することを可能とした可変焦点レンズおよびこれを備えた撮像装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の可変焦点レンズは、互いに屈折率が異なる第1および第2の液体の界面を光の屈折面とする可変焦点レンズであって、前記第1および第2の液体をそれぞれ収容する第1および第2の液室と、前記第1および第2の液室の間を仕切るように配置され、前記第1および第2の液体を接触させるように前記第1および第2の液室を連通する貫通孔を有する界面保持プレートと、前記第1および第2の液体の少なくとも一方の圧力または体積を変動させるアクチュエータとを備え、前記界面保持プレートは、前記貫通孔に前記光を通過させると共に、当該貫通孔内またはその周囲に前記界面を保持する界面保持部を有し、当該界面保持部から前記第1の液室側には、前記第1の液体に対して親液性であり且つ前記第2の液体に対して疎液性である第1の表面領域を有する一方、前記界面保持部から前記第2の液室側には、前記第2の液体に対して親液性であり且つ前記第1の液体に対して疎液性である第2の表面領域を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように本発明によれば、互いに屈折率が異なる2種の液体の界面を光の屈折面とする可変焦点レンズにおいて、2種の液体の界面を適切に拘束することにより、当該2種の液体の界面の位置を精度良く規定することが可能となるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態に係る可変焦点レンズ14を内蔵した撮像装置1の斜視図
【図2】図1中のカメラ部3の内部構成を示す断面図
【図3】第1実施形態に係る可変焦点レンズ14の分解斜視図
【図4】第1実施形態に係る可変焦点レンズ14の断面図
【図5】第1実施形態に係る可変焦点レンズ14の動作を示す説明図((A)界面IFが凸形、(B)界面IFが凹形)
【図6】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図
【図7】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)平面図および(B)B−B線断面図)
【図8】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)平面図および(B)B−B線断面図)
【図9】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)平面図および(B)B−B線断面図)
【図10】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図
【図11】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図
【図12】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)平面図および(B)B−B線断面図)
【図13】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)平面図および(B)B−B線断面図)
【図14】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)平面図および(B)B−B線断面図)
【図15】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)平面図および(B)B−B線断面図)
【図16】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)平面図および(B)B−B線断面図)
【図17】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)平面図および(B)B−B線断面図)
【図18】図17(A)に示す界面保持プレート22を下面側から視た下面図
【図19】図17(A)に示す界面保持プレート22のXIX−XIX線断面図
【図20】図17(A)に示す界面保持プレート22のXX−XX線断面図
【図21】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図
【図22】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図
【図23】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図((A)Oプラズマ照射時および(B)Oプラズマ照射後)
【図24】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図
【図25】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図
【図26】図4の可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図
【図27】第1実施形態に係る可変焦点レンズ14の配線構造を示す要部平面図
【図28】第1実施形態に係る可変焦点レンズ14の配線構造を示す要部断面図
【図29】第1実施形態に係る可変焦点レンズ14の界面保持プレート22における界面IFの変形を示す説明図((A)界面IFが凸形、(B)界面IFが凹形)
【図30】第2実施形態に係る可変焦点レンズ14の要部を示す説明図
【図31】第2実施形態に係る可変焦点レンズ14の要部を示す説明図
【図32】第3実施形態に係る可変焦点レンズ14の要部を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記課題を解決するためになされた第1の発明は、互いに屈折率が異なる第1および第2の液体の界面を光の屈折面とする可変焦点レンズであって、前記第1および第2の液体をそれぞれ収容する第1および第2の液室と、前記第1および第2の液室の間を仕切るように配置され、前記第1および第2の液体を接触させるように前記第1および第2の液室を連通する貫通孔を有する界面保持プレートと、前記第1および第2の液体の少なくとも一方の圧力または体積を変動させるアクチュエータとを備え、前記界面保持プレートは、前記貫通孔に前記光を通過させると共に、当該貫通孔内またはその周囲に前記界面を保持する界面保持部を有し、当該界面保持部から前記第1の液室側には、前記第1の液体に対して親液性であり且つ前記第2の液体に対して疎液性である第1の表面領域を有する一方、前記界面保持部から前記第2の液室側には、前記第2の液体に対して親液性であり且つ前記第1の液体に対して疎液性である第2の表面領域を有する構成とする。
【0010】
これによると、表面特性が互いに異なる第1および第2の表面領域を、両液室を仕切る界面保持プレートに形成することにより、2種の液体の界面を界面保持部に対して適切に拘束する構成としたため、当該2種の液体の界面の位置を精度良く規定することが可能となる。その結果、焦点距離を変更する際の界面形状を安定させて収差等の発生を抑制することができる。
【0011】
また、第2の発明は、前記界面保持部は、前記界面保持プレートにおける前記貫通孔の内周縁部である構成とする。
【0012】
これによると、界面保持プレートの貫通孔の内周縁部によって2種の液体の界面を拘束する(例えば、界面保持プレートにおける少なくとも貫通孔周辺の厚みを無視できる程度に小さくする)構成により、第1および第2の表面領域の境界(すなわち、2種の液体の界面の位置)を容易かつ高精度に規定することが可能となる。
【0013】
また、第3の発明は、前記界面保持プレートにおける前記貫通孔は、前記第1の液室から前記第2の液室に向けて縮径または拡径するテーパ面を有し、前記第1の表面領域と前記第2の表面領域との境界が前記テーパ面に形成された構成とする。
【0014】
これによると、第1の表面領域と第2の表面領域との境界をテーパ面上に形成することにより、界面保持プレートの貫通孔の内周面において2種の液体の界面の位置を精度良く設定することができる。
【0015】
また、第4の発明は、前記第1の表面領域と前記第2の表面領域との境界は、前記界面保持プレートにおける第1または第2の液室の一方側の表面に形成され、前記貫通孔と同心の円形を呈する構成とする。
【0016】
これによると、界面保持プレートの貫通孔の形状や加工精度に拘わらず、貫通孔の周囲において2種の液体の界面の位置を精度良く規定することができる。
【0017】
また、第5の発明は、前記アクチュエータは、膜状を呈し、前記界面保持プレートと一体に設けられた構成とする。
【0018】
これによると、アクチュエータを界面保持プレートと一体に設けた構成により、2種の液体の界面の位置を精度良く規定しつつ、2種の媒質の界面形状(すなわち、焦点距離)を安定的に変化させることが可能となる。
【0019】
また、第6の発明は、上記第1から第5の発明のいずれかに係る可変焦点レンズを、被写体を撮像するカメラ部に備えた撮像装置である。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る可変焦点レンズ14を内蔵した撮像装置1の斜視図であり、図2は、図1中のカメラ部3の内部構成を示す断面図である。
【0022】
この撮像装置1は、焦点距離を変更しながら被写体(ここでは、略六角錐形の立体物)2を撮像するものである。撮像により取得した複数の画像データは、図示しないPC(Personal Computer)等の画像処理装置によって合成処理することにより、画像領域全体においてピントの合った撮像画像を得ることができる。撮像装置1は、例えば、書画カメラとしての使用に好適である。
【0023】
図1に示すように、撮像装置1は、被写体2を撮像するカメラ部3と、このカメラ部3を保持するアーム4を有するスタンド部5とを備える。スタンド部5は、ユーザが撮像の操作指示等を行うための複数の操作ボタン6を有している。また、撮像装置1は、図示しない通信制御部および外部インターフェースによって画像処理装置との間で画像データや各種制御信号を送受信可能である。
【0024】
図2に示すように、カメラ部3の内部には、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)やCCD(Charge Coupled Device Image Sensor)等からなるイメージセンサ11が設けられている。イメージセンサ11の下方には、上下の固定焦点レンズ12,13と、これら固定焦点レンズ12,13の間に配置された可変焦点レンズ14とからなる光学系15が設けられている。光学系15では、光軸Cが上下方向に沿って配置されており、被写体2からの光は、固定焦点レンズ13、可変焦点レンズ14および固定焦点レンズ12を順次通過してイメージセンサ11の受光面に結像される。なお、光学系15の構成(例えば、固定焦点レンズの形状、数量および配置等)は、ここに示したものに限らず、撮像装置1に必要とされる光学特性に応じて種々の変更が可能である。
【0025】
図3は、可変焦点レンズ14の分解斜視図であり、図4は、可変焦点レンズ14の断面図である。なお、図4では、図示の都合上、必要に応じて各構成要素間の相対的なサイズ(厚み、幅等)を変更しており、各構成要素の実用上のサイズとは必ずしも一致しない(以後の図についても同様。)。
【0026】
図3に示すように、可変焦点レンズ14は、光学材料からなるガラス基板21と、シリコンウエハ上に半導体集積回路作製技術を用いて微細加工を施すことにより形成されたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)構造体である界面保持プレート22と、金属製の封止体23と、平凸レンズからなる封止ガラス24とが下側から順に積層された構成を有している。界面保持プレート22および封止体23は略円板状または円筒状をなし、それぞれの中央部には、被写体からの光が通る光路孔28を画成する貫通孔22a,23aが設けられている。
【0027】
図4に示すように、可変焦点レンズ14では、封止体23の貫通孔23aの上側が封止ガラス24によって閉鎖される一方、貫通孔23aの下側(即ち封止体23の底部)がガラス基板21によって閉鎖される。なお、封止体23の貫通孔23aの上側部分と封止ガラス24の底面、ないし封止体23の底部とガラス基板21は接着剤で接着されているが、金属製の封止体23の外周を折り曲げ加工して、封止ガラス24とガラス基板21を挟み込んで固定する、いわゆるキャン封止の構成としてもよい。これにより、組み立てられた封止体23、封止ガラス24およびガラス基板21は、内部の密閉空間に液体等の媒質を収容可能な容器を形成する。この密閉空間は、ガラス基板21の上面に固着された界面保持プレート22によって仕切られ、ガラス基板21と界面保持プレート22との間に下部液室(第1の液室)31が画成される一方、界面保持プレート22と封止体23との間に上部液室(第2の液室)32が画成される。これら下部液室31と上部液室32とは、界面保持プレート22の貫通孔22aにより連通状態にある。
【0028】
界面保持プレート22は、ガラス基板21の上面に設けられた支持部34と、この支持部34に支持された平板状の圧電アクチュエータ35とを有している。各圧電アクチュエータ35は、電圧の印加により屈曲振動可能な膜状の圧電素子からなり、ニッケル材料からなる下部電極(第2電極)41と、白金(Pt)からなる上部電極(第1電極)42との間にPZT(チタン酸ジルコニウム酸鉛)からなる圧電体43が挟み込まれた積層構造を有している。下部電極41は圧電アクチュエータ35の駆動時に振動板として機能する。
【0029】
支持部34は、後述する図9に示すように、下部電極41の内周側の下面を支持する内壁115と、下部電極41の外周側の下面を支持する外壁116とこれら内壁115と外壁116との間のスペース(後述する下部圧力室52)を仕切るように周方向に所定の間隔で複数形成された仕切り壁117とから構成されている。なお、図9では、平面視において外壁116が矩形を呈するように示されているが、実際には、内壁115および外壁116はともに環状をなす。
【0030】
また、界面保持プレート22において、円板状をなす下部電極41の中央には開口41a(界面保持部)が形成されている。開口41aは、界面保持プレート22の貫通孔22aにおいて最小径部を画成し、これにより、開口41aの内周縁部はピン止め部として機能する。つまり、可変焦点レンズ14では、開口41aの内周縁部において、第1の液体L1と第2の液体L2との界面IFの面積を最小に留めようとする(すなわち、凸形または凹形に変形可能な界面IFの位置を固定しようとする)ピン止め効果が生じる。
【0031】
この場合、界面保持プレート22の貫通孔22a周辺の厚さ(ここでは、下部電極41における開口41aの内周縁部の厚さ)を無視できる程度に小さくする(例えば、1〜2μmとする)ことにより、開口41aの内周縁部の上下幅を実質的に無視する(すなわち、線として見なす)ことが可能となり、ピン止め部の位置を精度良く規定することができると共に、高いピン止め効果が得られる。なお、下部電極41の厚みが0.5μm未満では、ピンホール等の発生の問題が生じる一方、厚みが10μm以上となると開口41aの内周縁部の厚さを無視できなくなる。
【0032】
圧電体43は、下部電極41上において、周方向に互いに等しい間隔で複数配置されている。また、上部電極42は、各圧電体43に対応するように周方向に互いに等しい間隔で複数配置されており、当該上部電極42と下部電極41とに挟まれた圧電体43部分がアクチュエータとして実質的に機能する領域となる。なお、圧電アクチュエータ35の構成は、周知の圧電素子の構成を適用することにより種々の変更が可能である。
【0033】
また、可変焦点レンズ14において、下部液室31は、界面保持プレート22の貫通孔22aの下側に位置する下部界面形成室51と、下部電極41の下側に位置する複数の下部圧力室52とを有している。ここで、下部電極41の下側には、貫通孔22a側から半径方向に延びる仕切り壁(図9中の仕切り壁117参照)が周方向に所定の間隔で複数設けられており、これにより、ガラス基板21と界面保持プレート22との間の下部圧力室52は複数の圧電体43に対応する位置にそれぞれ形成される。下部界面形成室51と複数の下部圧力室52とは、各下部圧力室52に対応して設けられた各下部通路53(図3および図9を併せて参照)を介して連通状態にある。この下部液室31には、第1の液体L1が収容される。
【0034】
また、上部液室32は、界面保持プレート22の貫通孔22aの上側に位置する上部界面形成室55と、下部電極41等の上側に位置する複数の上部圧力室56とを有している。ここで、封止体23の内部に形成された環状段部54には、下部液室31の仕切り壁117と同様に、貫通孔23a側から半径方向に延びる図示しない仕切り壁が周方向に所定の間隔で複数設けられており、これにより、封止体23と界面保持プレート22との間の上部圧力室56は下部圧力室52に対応する位置にそれぞれ形成される。上部界面形成室55と複数の上部圧力室56とは、各上部圧力室56に対応して設けられた各上部通路57(図3を併せて参照)を介して連通状態にある。この上部液室32には、第2の液体L2が収容される。
【0035】
なお、下部電極41の下側に設けられた仕切り壁は後述のようにNiで構成され、実質的に圧電アクチュエータ35を支持して界面保持プレート22全体の剛性を高めるとともに、ガラス基板21との接着面積を増大させ、レンズユニット全体としての剛性をも確保するもので、必須の構造物である。一方、封止体23の内部に形成された環状段部54に設けられた仕切り壁は、圧電アクチュエータ35の各圧力室で発生する圧力を効率よく伝達するものであり、個々の圧電アクチュエータ35を独立して駆動する際の物理的なクロストーク(隣接する圧電体間のクロストーク)を軽減させる。このように上下の仕切り壁では、その機能を異ならせている。
【0036】
なお、可変焦点レンズ14の内部に形成される液室31,32の構成については、少なくとも第1および第2の液体L1,L2の界面を光の屈折面とすることが可能な限りにおいて、ここに示すものに限定されず種々の変更が可能である。
【0037】
第1の液体L1は、フッ素系溶液(ここでは、ペルフルオロオクタン,CF3(CF2)6CF3)からなり、第2の液体L2は、油系溶液(ここでは、ヘキサデカン,CH3(CH2)14CH3)からなる。第1の液体L1と第2の液体L2とは、互いに屈折率が異なり、かつ互いに混和しないように各成分が選択される。ここでは、上側に位置する第2の液体L2の比重は、第1の液体L1の比重よりも小さくなるように設定されている。書画カメラのように、カメラと被写体の位置関係が実質的に一定の場合は、2つの液体に比重差があっても構わないが、可変焦点レンズ14の姿勢が大きく変化するアプリケーションにおいては、第1の液体L1と第2の液体L2の比重差は極力小さくすべきである。第1の液体L1と第2の液体L2とは、界面保持プレート22の貫通孔22a内で互いに接触した状態にあり、下部電極41の開口41aに周縁が固定された界面IFを形成する。つまり、下部液室31と上部液室32とは、下部電極41の開口41aに固定される界面IFの位置で仕切られる。
【0038】
図5は、可変焦点レンズ14の動作を示す説明図((A)界面IFが凸形、(B)界面IFが凹形)である。図5では、説明の便宜上、図4に示した圧電アクチュエータ35における各構成要素を省略して示している。
【0039】
可変焦点レンズ14において、圧電アクチュエータ35の下部電極41および上部電極42にそれぞれ正および負またはその逆向きの電圧を印加すると、圧電体43が収縮または伸長し、これにより、図5(A)または図5(B)に示すように、圧電アクチュエータ35は凹状または凸状に変形する。
【0040】
図5(A)に示すように、圧電アクチュエータ35が凹状(下方に凸状)に変形すると、この変形した圧電アクチュエータ35によって下部圧力室52内の第1の液体L1が押圧される。これにより、下部液室31の容積が小さくなって第1の液体L1の圧力が高まり、界面保持プレート22の貫通孔22a内では、第1の液体L1を上部液室32側(上方)に押し込む力が生じる。一方、圧電アクチュエータ35の変形により、上部圧力室56の容積は拡大するため、界面保持プレート22の貫通孔22a内では、第2の液体L2を上部液室32側に引き込む力が生じる。その結果、界面保持プレート22の貫通孔22a内において(図4に示す界面保持部41aに2液の界面IFの周縁がピン止めされた状態で)、第1の液体L1の一部が上部液室32に移動して、界面IFを高速で凸形に変形させることができる。
【0041】
逆に、図5(B)に示すように、圧電アクチュエータ35が凸状に変形すると、界面保持プレート22の貫通孔22a内では、第2の液体L2を下部液室31側(下方)に押し込む力が生じる一方、第1の液体L1を下部液室31側に引き込む力が生じる。その結果、界面保持プレート22の貫通孔22a内において、第2の液体L2の一部が下部液室31に移動して、界面IFを高速で凹形に変形させることができる。
【0042】
このように、圧電アクチュエータ35の下部電極41および上部電極42に対して正負が逆転する所定の電圧を印加することにより、上記図5(A),(B)に示した動作を周期的に行わせることができる。また、上述した圧電アクチュエータ35の構成はインクジェットプリンタ等で採用されるベンドモードと呼称されものの応用であって、液体を高速に移動させることができる。つまり、撮像装置1では、界面IFを所望の曲率に高速で変化させながら(すなわち、焦点距離を所望の大きさに高速で変化させながら)、この変化と同期して撮像素子を制御して複数画像を連続して撮像することができる。なお、本実施形態では、界面IFを凹形および凸形の双方に変形させる構成としたが、界面IFを凹形または凸形の一方のみに変形させる構成としてもよい。
【0043】
なお、圧電アクチュエータ35を駆動するドライバが単一電源型である場合は、例えば振動板兼共通電極としての下部電極31をGND電位とし、上部電極42を正極或いは負極として駆動してもよい(図4参照)。この場合、電圧印加時の圧電アクチュエータ35の変位は一方向のみとなるが、メニスカス形状の初期状態が凸又は凹となるように液量を調整すれば、印加する正負電圧の値によって凹凸のいずれにも変位させることができる。この場合、可変焦点レンズ14が光学パワーを有さない状態(界面がフラットな状態)とする際に圧電アクチュエータ35を駆動する必要があるが、圧電体には殆ど電流が流れないため、消費電力は極めて小さい。
【0044】
上記構成の可変焦点レンズ14では、圧電アクチュエータ35は、光路孔28を介して連通する下部液室31(下部圧力室52)および上部液室32(上部圧力室56)を、光路孔28とは異なる位置において仕切るように設けられ、第1の液体L1または第2の液体L2側に変位可能な構成としている。即ち、圧電アクチュエータ35は、第1の液体L1に対して押す(引く)動作をするとき、第2の液体L2に対しては引く(押す)動作を行う。これにより、可変焦点レンズ14では、環境温度等の変化により可変焦点レンズ14の内部圧力が変化した場合でも、圧電アクチュエータ35の両面(上側および下側)の圧力を常に等しく保持できるため、両面の圧力のバランスが崩れて圧電アクチュエータ35の動作(振動時の振幅等)に悪影響が及ぶことを防止できる。したがって、可変焦点レンズ14では、焦点距離制御を安定的に実施することが可能となる。
【0045】
なお、可変焦点レンズ14に設けられるアクチュエータは、上記圧電アクチュエータ35に限らず、第1および第2の液体L1,L2の少なくとも一方の圧力または体積を変動させる(すなわち、第1および第2の液体L1,L2の少なくとも一方を押し引きまたは注入・排出等する)ことが可能であればよい。したがって、アクチュエータは必ずしも上述のように界面保持プレートと一体に設ける必要はなく、例えば、下部液室31または上部液室32に連通する通路を設け、当該通路内の第1または第2の液体を押圧可能なようにアクチュエータを設ける構成も可能である。
【0046】
次に、第1実施形態に係る可変焦点レンズ14の製造工程について説明する。図6から図26は、それぞれ図4に示した可変焦点レンズ14の一製造工程を示す模式図である。なお、図3に示したように、可変焦点レンズ14の各構成要素の外形は平面視において円形となるが、ここでは、簡単のため平面視における各構成要素の外形を正方形とし、これに対応させるように各構成要素の他の部位も図示している。
【0047】
まず、図6に示すように、シリコンウエハからなる基材101上に白金(Pt)からなる第1電極層102(上部電極42に相当)、PZTからなる圧電体層103(圧電体43に相当)およびニッケルからなる第2電極層104(下部電極41に相当)を順次積層する。各層102〜104の厚みは適宜設定可能であるが、好ましくは、第1電極層102の厚みは0.1〜1μm、圧電体層103の厚みは2〜10μm、第2電極層104の厚みは1〜2μmの範囲内でそれぞれ設定するとよい。この第2電極104に設けられた開口が先に説明した界面保持部41aを構成するため、第2電極層104の厚みは本発明にとって重要な意味を持つ。
【0048】
なお、基材101にアライメントマークを形成しておくことにより、各層102〜104について高い位置精度を実現することができる。また、可変焦点レンズにおいて圧電体の変形を必要としない領域には、圧電体層103と第2電極層104との間に絶縁体層(例えば、感光性ポリイミド層)を形成しておくとよい。これにより、圧電アクチュエータの駆動の信頼性が高まる。
【0049】
次に、図7((A)平面図、(B)B−B線断面図)に示すように、第2電極層104上にドライフィルムレジストからなるレジスト層を全面に形成した後、所望のパターンにて露光および現像する。これによって、レジスト層111では、後の光路孔およびその周囲の下部圧力室を画成する側壁を形成する部分が除去され、当該除去部分において第2電極層104が露出する。
【0050】
次に、図8に示すように、第2電極層104の露出部位をシード層としてニッケル電鋳を実施し、当該露出部位にニッケル電鋳層112を形成する。このとき、レジスト層111と共にニッケル電鋳層112に対して研削加工を行うことにより、ニッケル電鋳層112を適切な厚み(例えば、140〜150μm)に調整する。なお、下部電極としてニッケル以外の金属材料を用いることもできるが、その場合には、ニッケル電鋳を実施する第2電極層104の部位にシード層としてニッケル層を形成しておくとよい。
【0051】
次に、図9に示すように、全てのレジスト層111を剥離・除去する。これにより、4つの下部圧力室52A〜52Dの周壁(図4中の支持部34に相当)が完成する。各下部圧力室52A〜52Dの周壁は、後に光路孔28が形成される中央部を囲むように内側に形成された内壁115と、外側に形成された外壁116と、これら内壁115と外壁116との間のスペースを仕切るように周方向に所定の間隔で複数形成された仕切り壁117とから構成されている。内壁115には、各下部圧力室52A〜52Dと中央部(光路孔)とを連通するための下部通路53が設けられている。なお、上述のように、外壁116の形状は円形(円弧状)とすることができる。また、下部圧力室の数(すなわち、仕切り壁117の数)は、ここに示したものに限らず適宜変更することができる。
【0052】
次に、図10に示すように、図9に示した構造体を上下反転させて、ニッケル電鋳層112をガラス基板21に対して固定する。このとき、ニッケル電鋳層112の下端は、熱剥離シート層119を介してガラス基板21に接着される。熱剥離シート層119は、ポリエステルフィルム基材の両面にそれぞれ熱剥離粘着材を付着させたものであり、その粘着力は高温環境下において略ゼロとなる。
【0053】
続いて、図11に示すように、基材101を所定の厚みまで研削し、その後、エッチングガスを用いたドライエッチングを実施して基材101を全て除去する。このとき、使用するエッチングガスは、第1電極層102がエッチングストッパとなるように選択する。
【0054】
次に、図12に示すように、第1電極層102上にレジスト層121を形成した後、所望の形状にて露光および現像する。このとき、レジスト層121は、第1電極層102における変位領域(すなわち、圧電アクチュエータの各圧電体が変位する領域に対応する領域)と、後に上部電極を外部と電気的に接続するための電極リード123A〜123D(図27参照)の領域とを覆うようにパターン形成される。また、このとき、圧電体層103の下側に形成されたニッケル電鋳層112とのアライメントを行うため、図示しないアライメントマークを基準にマスクパターンを形成してレジスト層121を露光するとよい。
【0055】
次に、図13に示すように、エッチングガスを用いたドライエッチングを実施して第1電極層102の露出部位を除去し、その後、レジスト層121を剥離・除去する。これにより、第1電極層102のパターニングが終了(前述した上部電極42が完成)する。
【0056】
次に、図14に示すように、第1電極層102および圧電体層103上にレジスト層125を形成した後、所望の形状にて露光および現像する。このとき、レジスト層125は、圧電体層103において後に各圧電体が形成される領域を覆うようにパターン形成される。その後、圧電体層103に対してエッチング(例えば、フッ硝酸を用いたウェットエッチング)を行った後、レジスト層125を除去する。これにより、図15に示すように、圧電体層103において光路孔を形成する領域(図4中の下部電極41の開口41aよりも若干大きな円形領域)を除去すると共に、下方の下部圧力室52A〜52Dにそれぞれ対応する後の各圧電体に相当する領域を分離する。
【0057】
次に、図16に示すように、第1電極層102、圧電体層103および第2電極層104上にレジスト層126を形成した後、所望の形状にて露光および現像する。このとき、レジスト層126は、第2電極層104における後の下部電極41の開口41a(図4参照)以外の領域を覆うようにパターン形成される。その後、第2電極層104に対してエッチングを行い、下部電極41の開口41aに相当する貫通孔を形成する。以上の工程によって図17に示すように界面保持プレート22が完成する。但し、この界面保持プレート22はガラス基板21に暫定的に固定されている。
【0058】
この完成した界面保持プレート22の詳細な構成を図18〜図20に示す。ここで、図18は、図17(A)に示す界面保持プレート22を下面側から視た下面図、図19は、図17(A)に示す界面保持プレート22のXIX−XIX線断面図、20は、図17(A)に示す界面保持プレート22のXX−XX線断面図をそれぞれ表す。なお、図20においてCは、可変焦点レンズとして機能する場合の光軸を示す。
【0059】
また、図6〜図16における、第2電極層104、第1電極層102、圧電体層103、ニッケル電鋳層112は、図17以降において、それぞれ下部電極41、上部電極42、圧電体43、支持部34と示している。
【0060】
次に、上記のように形成した界面保持プレート22の表面に特性の異なる2つの領域を形成する。
【0061】
まず、図20に示す状態で、ガラス基板21に固定された界面保持プレート22を高温環境下におくことにより熱剥離シート層119の粘着力を低下させ、図21に示すように、界面保持プレート22をガラス基板21から分離した状態とする。
【0062】
以降、図4を併用して説明を続ける。この界面保持プレート22に対し、下部電極41の下面側(開口41aから下部液室31側)には、第1の液体L1(フッ素系溶液)に対して親液性の膜(以下、親フッ素系溶液膜という。)を形成する一方、下部電極41の上面側(開口41aから上部液室32側)には、第1の液体L1に対して疎液性の膜(以下、撥フッ素系溶液膜という。)を形成する。ここでは、親フッ素系溶液膜として、フルオロアルキルトリクロロシラン(CF3(CF2)5C2H4SiCl3,アヅマックス社製;以下、FASという。)を用い、また、撥フッ素系溶液膜として、オクタデシルトリクロロシラン(CH3(CH2)17SiCl3,信越化学社製;以下、OTSという。)を用いる。FAS膜は、第2の液体L2(油系溶液)に対しては疎液性であり、また、OTS膜は、第2の液体L2に対しては親液性である。
【0063】
ここで、第1の液体L1(第2の液体L2も同様)に対して親液性の膜とは、第1の液体L1が親液性の膜に接しているときに、例えば、JISR3257の接触角測定法により測定した接触角θ1が10〜40の範囲となる性質を有し、第1の液体L1に対して疎液性の膜とは、例えば、同じ測定法により測定した接触角θ2が40〜90の範囲となる性質を有する。
【0064】
FAS膜の形成は、まず、CF3(CF2)6CF3(3M社製)溶媒にFASを1vol%添加したものを第1のプールに準備し、この第1のプールの溶液中に界面保持プレート22(図21参照)を2時間ほど浸漬させる。その後、第1のプールから取り出した界面保持プレート22を、CF3(CF2)6CF3のみからなる第2のプール中に浸漬し、その状態で界面保持プレート22を100回程度揺動させる。これにより、界面保持プレート22から余分なFASが除去される。第2のプールから取り出した界面保持プレート22を水洗することにより、図22に示すように、全面にFAS膜128が形成された界面保持プレート22が完成する。なお、このFAS膜128の形成工程は、Nガスを充填した乾燥雰囲気のグローブボックス内で行われる。
【0065】
次に、図23に示すように、界面保持プレート22について、下部電極41の上面側のFAS膜128を除去する工程を実施する。なお、図23中では、図示の便宜上、界面保持プレート22の左側部分のみを示しているが、右側部分についても同様である。
【0066】
このFAS膜の除去工程では、図23(A)に示すように、全面にFAS膜128が形成された界面保持プレート22の上面側からOプラズマを照射する処理を実施する。このOプラズマ処理では、界面保持プレート22の表面におけるFASと酸素原子との反応により、図23(B)に示すように、界面保持プレート22の上面側のFAS膜128が除去される。なお、このOプラズマ処理に際して、FAS膜128を除去しない領域にOプラズマ耐性の高いマスク層を形成してもよい。
【0067】
次に、上記FAS膜128が形成された界面保持プレート22に対してOTS膜の形成を行う。OTS膜の形成は、まず、n−ヘキサデカンとクロロホルムとを4:1の割合で配合した溶液にOTSを1vol%添加したものを第3のプールに準備し、この第3のプールの溶液中に界面保持プレート22を2時間ほど浸漬させる。その後、第3のプールから取り出した界面保持プレート22を、n−ヘキサデカンおよびクロロホルムのみ(第3のプールの溶液からOTSを除いたもの)からなる第4のプールに浸漬し、その状態で界面保持プレート22を100回程度揺動させる。これにより、界面保持プレート22から余分なOTSが除去される。第4のプールから取り出した界面保持プレート22を水洗することにより、全面にOTS膜が形成された界面保持プレート22が得られる。更に、この界面保持プレート22をエタノールで洗浄して、先に形成されたFAS膜128上に積層された不要なOTS膜を除去する。これにより、図24に示すように、下部電極41の下面側(第1の表面領域)にFAS膜128が形成される一方、下部電極41の上面側(第2の表面領域)にOTS膜129が形成された界面保持プレート22が完成する。
【0068】
なお、上記n−ヘキサデカンの代わりに、トルエン、ヘキサン、オクタンまたはデカン等を用いることもできる。
【0069】
次に、図25に示すように、上記FAS膜128およびOTS膜129が形成された界面保持プレート22を再びガラス基板21に固定する。ここでは、ニッケル電鋳層112の下端である支持部34は、ガラス基板21に直接接着される。最終的な接着は封止を目的としており長期にわたる信頼性が要求されるが、ガラス基板21に直接的に対向する支持部34に残存するFAS膜128が支障になる場合、上述したOプラズマ処理により当該部分のFAS膜128を除去するのが望ましい。
【0070】
その後、界面保持プレート22が固定されたガラス基板21に対して封止体23を接着することにより、図4および図26に示す可変焦点レンズ14が完成する。このとき、封止体23の貫通孔23aから下部液室31に対して第1の液体L1を注入し、続いて上部液室32に対して第2の液体L2を注入する。第1の液体L1の注入量は、メニスカスレベルが下部電極41の開口41aと一致するように設定する。また、液体L1,L2を注入した後には、封止体23の貫通孔23a上部を封止ガラス24により閉鎖して内部空間を密閉する。
【0071】
図27および図28は、それぞれ第1実施形態に係る可変焦点レンズ14の配線構造を示す模式的な要部平面図および要部断面図である。
【0072】
上記製造工程では説明を省略したが、可変焦点レンズ14では、界面保持プレート22を形成した後(封止体23の接着前)に下部電極41および上部電極42を外部と電気的に接続するための配線が行われる。図27に示すように、制御線131A,131Bおよび制御線131C,131Dは、それぞれFPC(Flexible Printed Circuits)132上に一纏めにパターン形成され、図示しないACF(Anisotropic Conductive Film)を介して上部電極42に形成された電極リード123A〜123Dに接続される。また、コモン線133は、図示しないACFを介して下部電極41の外周部に接続される。なお、コモン線133は、制御線131A,131Bと共にFPC132に形成してもよい。
【0073】
FPC132(コモン線133も同様)は、図28に示すように、界面保持プレート22の側面に沿ってガラス基板21側に導かれ、このガラス基板21と封止体23の間を通して外部に引き出される。この場合、FPC132は多少の厚みを有するため、ガラス基板21または封止体23の少なくとも一方にFPC132を外部に導くための切欠き部や貫通孔を設けるとよい。最終的に、ガラス基板21と封止体23とはFPC132を引き出した状態で接着され、内部空間は密閉される。
【0074】
このような構成において、コモン線133に図示しない電源のGNDを接続すると共に、制御線131A〜131Dに所定の電位を印加することで、界面保持プレート22(圧電アクチュエータ35)を駆動することができる。
【0075】
図29は、可変焦点レンズ14の界面保持プレート22における界面IFの変形を示す説明図((A)界面IFが凸形、(B)界面IFが凹形)である。
【0076】
図29(A)に示すように、可変焦点レンズ14において界面IFが凸形に変形する際(図5(A)を併せて参照)には、撥フッ素系溶液膜であるOTS膜129が界面保持プレート22の上面側に存在するため、上側に押し込まれる第1の液体L1(フッ素系溶液)は、下部電極41の開口41aを超えて圧電体43および上部電極42側に広がることはない。つまり、第1の液体L1については、上面側のOTS膜129との接触角が、親フッ素系溶液膜である下面側のFAS膜128との接触角よりも相対的に大きいため、凸形の界面IFの位置は下部電極41の開口41aの内周縁部(すなわち、FAS膜128とOTS膜129との境界)で固定される。
【0077】
一方、図29(B)に示すように、界面IFが凹形に変形する際(図5(B)を併せて参照)には、第2の液体(油系溶液)L2に対して疎液性であるFAS膜128が界面保持プレート22の下面側に存在するため、下側に押し込まれる第2の液体L2は、部電極41の開口41aを超えて下部電極41の下面側に広がることはない。つまり、第2の液体L2については、下面側のFAS膜128との接触角が、上面側の親液性のOTS膜1291との接触角よりも相対的に大きいため、凹形の界面IFの位置は、上記凸形の場合と同様に、下部電極41の開口41aの内周縁部で固定される。
【0078】
このように、可変焦点レンズ14では、FAS膜128およびOTS膜129からなる表面特性が互いに異なる2つの表面領域を第1および第2の液室31,32を仕切る界面保持プレート22に形成する構成としたため、2種の液体L1,L2の境界を界面保持部(下部電極41の開口41a)に対して適切に拘束する構成としたため、当該2種の液体L1,L2の界面IFの位置を精度良く規定することが可能となる。その結果、焦点距離を変更する際の界面形状を安定させて収差等の発生を抑制することができる。
【0079】
この場合、下部電極41の厚さは、1〜2μmと非常に薄いため、FAS膜128が形成された界面保持プレート22の下面と、OTS膜129が形成された界面保持プレート22の上面は、実質的に隣接して境界を形成している。つまり、下部電極41の開口41aの内周縁部は線としてみなせるため、2種の液体L1,L2の界面IFの位置を容易かつ高精度に規定することが可能となる。また、開口41aとしては、上述のようにフォトエッチングにより高精度に形成可能であるため、理想的な形状(真円)を実現でき、界面IFの形状を高精度に制御できる。
【0080】
特に、FAS膜128は、第1の液体L1に対して親液性であり且つ第2の液体L2に対して疎液性であり、OTS膜129は、第2の液体L2に対して親液性であり且つ第1の液体L1に対して疎液性であるため、界面IFが凸形または凹形のいずれに変形した場合でも界面IFの位置を精度良く規定することができる。
【0081】
以上、第1実施形態においては、圧電アクチュエータの変位によって液体を移動させてメニスカス形状を変化させる構成について説明したが、本発明において直接的に液体を移動させること自体は必須ではない。例えば、圧電アクチュエータをユニモフルあるいはバイモルフ構成とし、2液界面に対してこれをピン止めした界面保持部41aを駆動、変位させる構成を採用してもよい。即ち、本発明は、2液界面とこれをピン止めした界面保持部41aを光軸方向に相対的に変位可能な構成であれば、広く応用することができる。
【0082】
<第2実施形態>
図30および図31は、それぞれ第2実施形態に係る可変焦点レンズ14の要部を示す説明図である。両図では、上述の第1実施形態と同様の構成要素について同一の符号が付されている。また、第2実施形態において、以下で特に言及しない事項については、第1実施形態の場合と同様とする。
【0083】
第2実施形態に係る可変焦点レンズ14では、界面保持プレート22の貫通孔22aの内周面141が、上側(第2の液室側)から下側(第1の液室側)に向けて縮径するテーパ面として形成されている。そして、FAS膜128とOTS膜129との境界が内周面141に形成されている。このような内周面141は、例えば、ニッケル電鋳により界面保持プレート22(少なくとも貫通孔22a周辺)を形成した後、ピコ秒レーザによりテーパ状に加工することにより形成できる。また、このようなFAS膜128とOTS膜129との境界の形成は、上述の第1実施形態におけるFAS膜の除去工程において、内周面141の一部をO2プラズマ耐性の高いマスク層で覆ってFAS膜128を残存させることにより実現可能である。ここでは、界面保持プレート22の厚みは300〜400μmであり、テーパの角度は、光軸方向に対して45°である。
【0084】
このような可変焦点レンズ14では、図30(A)に示すように、第2の液体L2が下側に押し込まれることにより、界面保持プレート22の貫通孔22aの内周面141(FAS膜128とOTS膜129との境界)をピン止め部として凹形の界面IFが形成される。そして、更に第2の液体L2が下側に押し込まれると、図30(B)に示すように、界面IFの曲率はより小さくなる。一方、図31(A)に示すように、第1の液体L1が上側に押し込まれることにより、界面保持プレート22の貫通孔22aの内周面141をピン止め部として凸形の界面IFが形成される。そして、更に第1の液体L1が上側に押し込まれると、図31(B)に示すように、界面IFの曲率がより小さくなる。
【0085】
このように、FAS膜128とOTS膜129との境界(第1の表面領域と第2の表面領域との境界)をテーパ面上に形成することにより、界面保持プレート22の貫通孔22aの内周面において2種の液体L1,L2の界面IFの位置を精度良く設定することができる。なお、テーパ面の形状は上述のものに限らず、内周面141が、上側(第2の液室側)から下側(第1の液室)に向けて拡径する構成であってもよい。
【0086】
<第3実施形態>
図32は、第3実施形態に係る可変焦点レンズ14の要部を示す説明図である。図32では、上述の第1および第2実施形態と同様の構成要素について同一の符号が付されている。また、第3実施形態において、以下で特に言及しない事項については、第1または第2実施形態の場合と同様とする。
【0087】
第3実施形態に係る可変焦点レンズ14では、下部電極41の上面側にFAS膜128とOTS膜129との境界(第1の表面領域と第2の表面領域との境界)が形成されている。つまり、FAS膜128は、下部電極41の下面側のみならず、上面側の一部(開口41aの周囲の環状領域)においても形成されている。このようなFAS膜128とOTS膜129との境界の形成は、上述の第1実施形態におけるFAS膜の除去工程において、上面側における開口41aの周囲をO2プラズマ耐性の高いマスク層で覆ってFAS膜128を残存させ、その後にOTS膜129を形成することにより実現可能である。
【0088】
このような可変焦点レンズ14では、図32(A)に示すように、第1の液体L1が上側に押し込まれることにより、下部電極41の上面側における開口41aの周囲(FAS膜128とOTS膜129との境界)をピン止め部として凸形の界面IFが形成される。そして、更に第1の液体L1が上側に押し込まれると、図32(B)に示すように、界面IFの曲率はより小さくなる。このような構成では、界面IFの周縁部の位置は、開口41aとは無関係であるため、開口41a(すなわち、界面保持プレート22の貫通孔22a)の形状や加工精度に拘わらず、界面IFの位置を精度良く規定することができるという利点がある。なお、開口41aの中心位置と、FAS膜128とOTS膜129との境界をなす円との中心は一致させる(同心とする)ことが光路確保(蹴られの防止)の観点で好ましい。
【0089】
本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。各実施形態では、各構成要素およびその説明に関して方向を示す用語を用いたが、各構成要素の配置は必ずしもそれらの方向に限定されるものではない。なお、上記実施形態に示した本発明に係る可変焦点レンズおよび撮像装置の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る可変焦点レンズおよびその製造方法ならびに可変焦点レンズを備えた撮像装置は、2種の液体の界面を適切に拘束することにより、当該2種の液体の界面位置を精度良く規定することを可能とし、焦点距離を変更可能な可変焦点レンズおよびこれを備えた撮像装置として有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 撮像装置
3 カメラ部
11 イメージセンサ
14 可変焦点レンズ
21 ガラス基板
22 界面保持プレート
22a 貫通孔
28 光路孔
31 第1の液室(下部液室)
32 第2の液室(上部液室)
34 支持部
35 圧電アクチュエータ
41 下部電極
41a 開口(界面保持部)
42 上部電極
43 圧電体
51 下部界面形成室
52 下部圧力室
55 上部界面形成室
56 上部圧力室
101 基材
102 第1電極層
103 圧電体層
104 第2電極層
112 ニッケル電鋳層
119 熱剥離シート層
128 FAS膜(親フッ素系溶液膜)
129 OTS膜(撥フッ素系溶液膜)
141 内周面(テーパ面)
C 光軸
IF 界面
L1 第1の液体)
L2 第2の液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに屈折率が異なる第1および第2の液体の界面を光の屈折面とする可変焦点レンズであって、
前記第1および第2の液体をそれぞれ収容する第1および第2の液室と、
前記第1および第2の液室の間を仕切るように配置され、前記第1および第2の液体を接触させるように前記第1および第2の液室を連通する貫通孔を有する界面保持プレートと、
前記第1および第2の液体の少なくとも一方の圧力または体積を変動させるアクチュエータとを備え、
前記界面保持プレートは、前記貫通孔に前記光を通過させると共に、当該貫通孔内またはその周囲に前記界面を保持する界面保持部を有し、当該界面保持部から前記第1の液室側には、前記第1の液体に対して親液性であり且つ前記第2の液体に対して疎液性である第1の表面領域を有する一方、前記界面保持部から前記第2の液室側には、前記第2の液体に対して親液性であり且つ前記第1の液体に対して疎液性である第2の表面領域を有することを特徴とする可変焦点レンズ。
【請求項2】
前記界面保持部は、前記界面保持プレートにおける前記貫通孔の内周縁部であることを特徴とする請求項1に記載の可変焦点レンズ。
【請求項3】
前記界面保持プレートにおける前記貫通孔は、前記第1の液室から前記第2の液室に向けて縮径または拡径するテーパ面を有し、前記第1の表面領域と前記第2の表面領域との境界が前記テーパ面に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の可変焦点レンズ。
【請求項4】
前記第1の表面領域と前記第2の表面領域との境界は、前記界面保持プレートにおける第1または第2の液室の一方側の表面に形成され、前記貫通孔と同心の円形を呈することを特徴とする請求項1に記載の可変焦点レンズ。
【請求項5】
前記アクチュエータは、膜状を呈し、前記界面保持プレートと一体に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の可変焦点レンズ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の可変焦点レンズを、被写体を撮像するカメラ部に備えた撮像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate


【公開番号】特開2013−80047(P2013−80047A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219057(P2011−219057)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】