説明

可変焦点眼鏡

本発明は手動又は自動的に可変焦点距離を与えるようエレクトロ−ウェッティング効果が使用される可変焦点眼鏡に関する。可変焦点眼鏡(200)は、眼鏡フレーム(210)と少なくとも1つの可変パワーレンズ(100A、100B)を有する。レンズ(100)は、透明後壁(110)と、透明前壁(120)と、透明前壁と透明後壁との間に形成される空洞(140)と、空洞内に含まれる異なる屈折率の第1及び第2の不混和性流体と、2つの流体の界面層(M)と、レンズの前壁との間の接触角を変更するよう電位差が印加されうる電極(150、160)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点眼鏡及び可変焦点眼鏡用のレンズに係る。
【背景技術】
【0002】
多くの人々は近眼に悩んでいる。また、しばしば、人は年を取るに従って遠視にも悩むようになる。この問題に対する一般的な解決方法は、レンズの焦点距離が上と下で異なる可変焦点(varifocus)眼鏡を着用することである。しかし、多くの人々はこのような眼鏡を着用することを好まず、その代わり、別個の眼鏡を有することを好む。
【0003】
当然ながら、違う眼鏡に切り替えなくてはならないことは不便であり、また、明らかに、現在入手可能な可変焦点レンズは一般的に受け入れられてはいない。現在入手可能な可変焦点レンズはしばしばユーザを苛立たせ、というのは、可変焦点レンズの適切な部分を通して対象を見るために、ユーザが対象を見る方法を変更する(例えば、頭を傾かせる)必要があり得るからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施例は、眼鏡の使用に適した可変焦点レンズと、そのようなレンズが組み込まれた眼鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、眼鏡フレームと、少なくとも1つの可変パワーレンズとを有する可変焦点眼鏡が提供される。レンズは、透明後壁と、透明前壁と、透明前壁と透明後壁との間に形成される空洞と、空洞内に含まれる異なる屈折率の第1の不混和性流体と、第2の不混和性流体と、2つの流体の界面層と、レンズの前壁との間の接触角を変更するよう電位差が印加されうる電極とを有する。
【0006】
上述のように形成される眼鏡は、ユーザが、眼鏡を取り替える必要なく単一の眼鏡で適応視力補正を有することを可能にし、更に、そのような補正が、周知の可変焦点(二焦点)レンズと比較して拡大された視野において行われることを可能にする。
【0007】
透明前壁は、その周辺領域において透明後壁に接合し、それにより、透明前壁と透明後壁との接合領域において鋭い内角を形成することが好適である。このような構成は、比較的薄いレンズを提供することを容易にする。
【0008】
第1の流体及び第2の流体は、実質的に同一の比重であることが好適である。このようにすると、重力変動に影響を受けない界面が提供される。
【0009】
電極は、透明前壁の内部円周の周りに延在し、それにより第1の電気コンタクトを形成するリング型の電極と、後壁の内面に隣接する更なる電極とを有することが好適である。
【0010】
リング型電極は、絶縁体でコーティングされ、いずれの流体とも直接接触しないことが好適である。更なる電極は、第2の流体と直接又は容量結合接触するよう配置されることが好適である。第2の流体が水を有する場合、絶縁体は、水分子がリング型電極に張り付くことによってもたらされる問題を回避するために疎水性であることが好適である。
【0011】
第1の流体は、透明前壁に最も近い流体であり、第2の流体は、透明後壁との境界を有する流体であり、第1の流体は、以下にオイルと称する実質的に非導電性の流体を有し、第2の流体は、以下に電解液と称する実質的に導電性及び/又は極性流体を有することが好適である。
【0012】
第2の流体は、第1の流体の屈折率とは異なる屈折率を有する水/塩混合液を有することが好適である。
【0013】
可変焦点眼鏡は、電極間に印加される電界の強度を調整する調整手段を更に有しうる。このような調整手段は、ユーザが自由に補正の強度を変更することを可能にする。
【0014】
調整手段は、手動調整手段を有し、可変抵抗器を有しうることが好適である。
【0015】
調整手段は、見られるべき対象の感知距離に依存して眼鏡の焦点距離を変化する自動調整手段を有しうる。このような自動調整手段は、焦点距離決定部と、制御ユニットと、電源とを有しえ、焦点距離決定部からの反射された範囲検出信号は、制御ユニットによって処理され、それにより、眼鏡の所望の焦点距離を決定し、適切な出力信号が、自動フォーカシングをもたらすよう電極に渡される。このような自動システムは、ユーザが、視力補正における変化が所望されるときにいつでもレンズを手動で調整する必要をなくしうるという点で利点を有する。
【0016】
焦点距離決定部は、眼鏡フレーム上に取り付けられる振動子を有することが好適である。
【0017】
眼鏡は更に、レンズの強度を測定するレンズ強度決定手段を有しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明をより良好に理解するために、また、本発明の実施例を実行する方法を示すために、添付図面を例示的に参照する。
【0019】
図1を参照するに、本発明の実施例による可変焦点レンズ100を示す。
【0020】
可変焦点レンズ100は、透明後壁110と、透明前壁120と、透明前壁120の後ろに位置づけられる疎水性絶縁体130と、透明後壁110と疎水性絶縁体130との間に形成され、一対の流体(後述)が内部に含まれる空洞140と、透明前壁120の内部円周の周りに延在し、第1の電気コンタクトを形成するリング型電極150と、第2の電極を形成するカウンタ電極160と、2つの電極150、160間に可変電圧を供給する電圧源170を有する。
【0021】
尚、ここでは、電極150は、絶縁されまた疎水性である。前壁120の内側は、絶縁されている必要はないが、水分子が内側に張り付き始めることを阻止するよう疎水性であることが好適であるべきである。従って、この前壁120の疎水性層130は、電極150を覆う層より薄くてもよい。
【0022】
上述したように、空洞140には、第1の流体と第2の流体が充填される。これらの流体は、不混和性であり、また、異なる屈折率を有する。図1に示すメニスカス線Mは、第1の流体と第2の流体間の境界を示す。ここでは、第1の流体は、透明前壁に最も近い流体であり、第2の流体は、透明後壁110との境界を有する流体である。ここでは、第1の流体は、オイル(例えば、無色の透明シリコーンオイル)を有し得、また、第2の流体は、第1の流体の屈折率より小さい屈折率を有する水/アルコール/塩混合液といった電解液である。
【0023】
上述の構成では、透明前壁120と透明後壁110は、それらの間に、容器を形成することを理解できるであろう。疎水性絶縁体130は、透明前壁120の内側の層を形成しうる。カウンタ電極160は、容器内に、透明後壁110の内壁に隣接して設けられ、それにより、カウンタ電極160が第2の流体に接触することを可能にし、一方で、壁電極150は、透明前壁120の側部の周りをリング状に延在する。
【0024】
透明後壁110は、透明であり、また、アクリル樹脂から形成されうる。同様に、透明前壁120も同じ構造を有しうる。2つの電極150、160も透明でありうる。
【0025】
壁110、120は、それ自体が、球状及び/又は円筒状に光学パワーを提供しうる。
【0026】
疎水性絶縁体130は、透明前壁120の内側にあるコーティングを形成することが好適であり、また、多数の撥水性面のうちの1つを有しうる。
【0027】
周知である「エレクトロ−ウェッティング」現象によって、2つの電極150、160間に電圧を印加すると、メニスカスMの曲率が変化する。後述するように、メニスカスMの曲率の変更は、レンズ100の焦点距離を効果的に変化する。透明前壁120を図示するように湾曲させ、また、壁電極150を透明前壁120に隣接して斜めに有することは、非常にコンパクトな可変焦点レンズ100の構造を実現することを可能にする。ここでは、レンズの透明前壁120は、その周辺領域において透明後壁110と接合し、それにより、それらの接合領域において鋭い内角θを形成し、この角度θは、ゼロから90度の範囲にあることが好適である。
【0028】
次に、図2及び3を参照するに、実際に、可変フォーカシングを与えるために図1の可変焦点レンズ100が配置可能である方法を示す。
【0029】
図2及び3を参照するに、図1の可変焦点距離レンズの2つの異なる構成を示す。
【0030】
図2及び3は単純化されており、透明前壁120と透明後壁110によって形成される容器の基本的な形状とメニスカス層Mの曲率のみを示す。ここでは、図1における構成において、電圧170を介して2つの電極150、160に最小限の又はゼロの電圧が印加され、また、この低電圧状態において、メニスカス層Mは、図示する曲率を有し、これは、第1の流体と第2の流体間の界面張力によって単純に決定されることを前提とする。
【0031】
図3では、2つの流体間の境界線の形状を変更するよう2つの電極150、160との間に電界が印加される。ここでは、エレクトロ−ウェッティング効果によって、印加された電界が、2つの流体間のメニスカスMの形状を図3に示す形状に変化させ、従って、図示されるレンズの焦点距離が変更される。より詳細には、印加された電界は、メニスカスレベルの周囲と、それがリング型電極150に接触する点との間の接触角度を変化させる。接触角度における変化によって、メニスカス層140全体の形状が曲率を変化させる。
【0032】
図3では、直径における変化の度合いが示されるが、これは、前壁110において生じ、また、ユーザの視界の外側であり、また、メニスカス層の接触角度における変化によってもたらされる2次的な効果に過ぎない。即ち、メニスカスMの曲率半径が減少し、それにより、レンズ全体の焦点距離が変化し、レンズのパワーを増加する。
【0033】
図4を参照するに、上述したタイプのレンズが組み込まれた眼鏡200を示す。眼鏡200は、レンズ100A、100Bと、フレーム210と、アーム220と、焦点距離決定部230と、調節ノブ240と、ここでは、フレームのブリッジ部上の中心に取り付けられるよう示される筺体250を有する。
【0034】
図5を参照するに、図4の眼鏡の電子構成要素部分間の相互関係を示す図を示す。
【0035】
図5では、焦点距離決定部230と、調節ノブ240と、制御ユニット280と、レンズ強度決定部290と、電源Vを示す。ここでは、電圧源によって供給される電位差は、正、負、又はACであり得る。AC印加電圧の場合、その周波数は、メニスカスの第1の共鳴周波数より非常に高くあるよう構成される。
【0036】
焦点距離決定部230は、例えば、自動焦点カメラに使用されるようなタイプの赤外線ユニットや、又は、超音波ユニットを有しうる。
【0037】
レンズ強度決定部290は、各レンズの静電容量を測定するユニットを有しうる。ここでは、ルックアップテーブル等(図示せず)を用いうる。これは、レンズの静電容量とレンズ強度間の関係を記憶し、レンズ強度の測定値を制御ユニット280に供給する。
【0038】
焦点距離決定部230と、調節ノブ240(ポテンショメータを有しうる)と、レンズ強度決定部290と、電源ユニットVは、制御ユニット280に接続され、また、制御ユニット280は、レンズ100A、100Bの電極150、160の対に可変出力電位Oを供給する。手動制御(破線と手動無効スイッチ「Sw」により示す)の場合、可変ポテンショメータ240の出力は、制御ユニット280の出力Oに直接供給され、それにより、レンズ100A、100Bの焦点距離の直接的にユーザが調整可能な制御を与えうる。或いは、自動焦点モードでは、焦点距離決定部230は、ユーザが見ているものと考えられる対象までの距離を感知しうる。ここでは、例えば、焦点距離決定部230が超音波振動子である場合、焦点が合わされるべき対象に向けて頭を向けることは、中央に取り付けられた振動子230によってその対象を目標とするよう構成されうる。振動子230からの信号を見つける反射範囲は、制御ユニット280によって処理され、それにより、眼鏡の所望の焦点距離を決定し、レンズ強度決定部からの信号は、実際のレンズ強度を確認するよう解析され、そして、適切な出力信号「O」が生成され、それにより、自動フォーカシングをもたらすよう電極150、160間に適切な電位差を供給する。ここでも所望のレンズ強度が達成されたか確認することが可能であり、必要である場合は、信号「O」を調節しうる。
【0039】
上述は、開ループ型制御を説明したが、レンズ強度の調節に閉ループフィードバック制御が与えられ、温度変化等による強度における変動を補正するのに特に有用であり得ることを理解するものとする。
【0040】
上述から、当業者には、別個の眼鏡の必要がなくユーザが自由に自分の眼鏡の焦点距離を変更しうる便利な眼鏡構成が説明されたことは明らかであろう。焦点距離の調整は、手動又は自動であり得る。自動構成は、要件に応じて、単純でありうる(2つの焦点距離が、見られている対象が比較的近い又は比較的遠いという範囲検出結果に応じて切り替えられる)か、又は、複雑でありうる(特定の対象距離に依存して無限に可変である)。
【0041】
メニスカスの振動は、使用する流体の粘度の適切な選択によって抑制又は排除されうる。高い粘度は、振動をほとんど発生させない。
【0042】
上述した実施例は、非制限的であり、当業者は、本発明の範囲を超えることなく多数の修正を認識するであろう。
【0043】
電極150は、アナモルフィック(例えば、円柱状)界面を形成するようリングに垂直な多くの小さい電極に分割されてもよい。このアナモルフィックレンズを形成する方法は、出願NL021187に記載される。しかし、アナモルフィック(例えば、円柱状)補正は、前壁及び/または後壁を再整形することによっても得られる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例による可変焦点レンズを示す図である。
【図2】図1のレンズの異なる状態を示す図である。
【図3】図1のレンズの異なる状態を示す図である。
【図4】図1乃至3によるレンズを組み込んだ眼鏡の例を示す図である。
【図5】図4の眼鏡用の自動焦点機構を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡フレームと、少なくとも1つの可変パワーレンズとを有する可変焦点眼鏡であって、
前記レンズは、
透明後壁と、
透明前壁と、
前記透明前壁と前記透明後壁との間に形成される空洞と、
前記空洞内に含まれる異なる屈折率の第1の不混和性流体と、第2の不混和性流体と、
前記2つの流体の界面層と、前記レンズの前記前壁との間の接触角を変更するよう電位差が印加されうる電極と、
を有する可変焦点眼鏡。
【請求項2】
前記透明前壁は、その周辺領域において前記透明後壁に接合し、それにより、前記透明前壁と前記透明後壁との接合領域において鋭い内角を形成する請求項1記載の可変焦点眼鏡。
【請求項3】
前記第1の流体及び前記第2の流体は、実質的に同一の比重である請求項1又は2記載の可変焦点眼鏡。
【請求項4】
前記電極は、前記透明前壁の内部円周の周りに延在し、それにより第1の電気コンタクトを形成するリング型の電極と、前記後壁の内面に隣接する更なる電極とを有する請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の可変焦点眼鏡。
【請求項5】
前記第1の流体は、前記透明前壁に最も近い流体であり、
前記第2の流体は、前記透明後壁との境界を有する流体であり、
前記第1の流体は、オイルを有し、
前記第2の流体は、電解液を有する請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の可変焦点眼鏡。
【請求項6】
前記第2の流体は、前記第1の流体の屈折率とは異なる屈折率を有する水/塩混合液を有する請求項5記載の可変焦点眼鏡。
【請求項7】
前記電極間に印加される電界の強度を調整する調整手段を更に有する請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の可変焦点眼鏡。
【請求項8】
前記調整手段は、手動調整手段を有する請求項7記載の可変焦点眼鏡。
【請求項9】
前記手動調整手段は、可変抵抗器を有する請求項8記載の可変焦点眼鏡。
【請求項10】
前記調整手段は、見られるべき対象の感知距離に依存して前記眼鏡の焦点距離を変化する自動調整手段を有する請求項7乃至9のうちいずれか一項記載の可変焦点眼鏡。
【請求項11】
前記自動調整手段は、
焦点距離決定部と、
制御ユニットと、
電源と、
を有し、
前記焦点距離決定部からの反射された範囲検出信号は、前記制御ユニットによって処理され、それにより、前記眼鏡の所望の焦点距離を決定し、
適切な出力信号が、自動フォーカシングをもたらすよう前記電極に渡される請求項10記載の可変焦点眼鏡。
【請求項12】
前記焦点距離決定部は、前記眼鏡フレーム上に取り付けられる振動子を有する請求項11記載の可変焦点眼鏡。
【請求項13】
前記レンズの強度を測定するレンズ強度決定手段を更に有する請求項7乃至12のうちいずれか一項記載の可変焦点眼鏡。
【請求項14】
透明後壁と、
透明前壁と、
前記透明前壁と前記透明後壁との間に形成された空洞と、
前記空洞内に含まれる異なる屈折率の第1の不混和性流体と、第2の不混和性流体と、
前記2つの流体の界面層と、前記レンズの前記前壁との間の接触角を変更するよう電位差が印加されうる電極と、
を有する可変焦点レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−519016(P2007−519016A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518451(P2006−518451)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/IB2004/051079
【国際公開番号】WO2005/003842
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】