説明

可変速巻上機

【課題】電動機にプルロータ式のブレーキを備えた電動機を用い、該電動機に過電圧印加開始時の出力周波数を下げることなく、加速度時間が短い電気チェーンブロック等の可変速巻上機でも運転開始時にプルロータ式のブレーキを確実に開放できる電流を通電できる可変速巻上機を提供する。
【解決手段】プルロータ式のブレーキを備えた電動機と、インバータとを備えた、電動機の速度を緩起動制御する可変速巻上機において、インバータを所定の電圧−周波数(V−F)パターンで運転するように設定し、電動機を起動するときには、周波数がf1からf2に達するまでの加速度(出力周波数増加率)を、周波数がf2からf3に達するまでの加速度(出力周波数増加率)よりも小さくし、プルロータ式ブレーキを開放できる十分な電力を通電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は巻上電動機にプルロータ式ブレーキを備えた電動機を用い、該電動機にインバータから電力を供給して駆動し、速度を制御する電気チェーンブロックや電気ホイスト等の可変速巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
電気チェーンブロックや電気ホイスト等の巻上機の巻上電動機にはプルロータ式ブレーキを備えた電動機を用いたものがある。該プルロータ式ブレーキを備えた電動機は後に詳述するように、モータステータのコイルに通電しないときはブレーキが作動し、モータ軸は拘束された状態(制動された状態)となり、モータステータのコイルに通電すると、モータステータに発生する磁束とプルロータの作用によってブレーキが開放され、モータ軸の拘束が解除され、モータロータが回転するように構成されている。
【0003】
上記のようにプルロータ式ブレーキを備えた電動機では、モータステータのコイルに電流を通電するだけでブレーキを開放し、電動機を運転することができるという利点があるが、電動機を起動するときに、ブレーキを開放するにはモータステータに十分な電流を通電する必要がある。インバータを用いて緩起動する可変速巻上機の場合、電動機を起動するときにブレーキを瞬時に開放するための十分な電流をモータステータに通電しないので、ブレーキを開放できない、又はブレーキを引きずりながら起動するなどの状態で運転し、ブレーキ過熱により寿命が短くなる等の課題がある。
【0004】
上記問題を解決する対策として特許文献1に記載されているインバータ駆動の可変速巻上機の技術を適用することが考えられる。該可変速巻上機の電動機はプルロータ式ブレーキを備えたものではないが、巻上げ運転開始時、図1の点線で示すように、インバータを所定電圧V0で周波数0の状態から所定の電圧−周波数(V−F)パターンで運転し、出力周波数が周波数f1になったら周波数f2に達するまで間、実線に示すように出力電圧を所定の過電圧V3として電動機及びブレーキに出力し、ブレーキコイルにブレーキを開放させるに十分な吸引力を発生する電流を通電すると共に、出力周波数が周波数f2になった後は、過電圧V3を解消し、前記所定の電圧−周波数(V−F)パターンに従って電圧及び周波数を上昇させて加速運転するようにしている。
【0005】
上記技術をプルロータ式ブレーキを有する電動機を備えた可変速巻上機に適用し、巻上げ運転開始時にインバータから電動機に過電圧V3の出力を一定時間供給することにより、プルロータ式ブレーキを開放するのに必要な吸引力を発生するのに十分な電力を通電する。これによりブレーキの開放は可能となるが、巻上機の加速度が大きい場合はインバータの出力周波数がf1からf2に到達する時間が短く、電動機にプルロータ式ブレーキを開放するのに必要な電力を供給できないという問題がある。例えば、下記に示すようにf1=5Hzからf2=8Hzになる加速度時間が電気ホイスト40msecに対して電気チェーンブロックは20msecと短く、電気チェーンブロックでは運転開始時にインバータから過電圧の電力を供給する時間が短くブレーキを開放するまでには至らないという問題がある。
【0006】
〔電気ホイスト〕
・加速時間0.8sec(0→60Hz)
・低速周波数10Hz(図6の周波数f3)
・過電圧区区間5Hz→8Hz(図1のf1→f2)
・過電圧(図2のV4)印加時間40msec
〔電気チェーンブロック〕
・加速時間0.4sec(0→60Hz)
・低速周波数10Hz(図6の周波数f3)
・過電圧区区間5Hz→8Hz(図1のf1→f2)
・過電圧(図2のV4)印加時間20msec
【0007】
上記のようにプルロータ式ブレーキを開放するのに必要な電流を通電する時間を十分に確保することができないという問題を解決するために、特許文献2に開示されているインバータ制御装置のように、過電圧印加開始周波数を下げる(図1の周波数f1を下げる)ことにより、プルロータ式ブレーキの開放維持電流を確保する方法も考えられるが、過電圧印加開始時の出力周波数f1を下げるとインバータを構成するスイッチング素子(IGBT)のパワーサイクルに悪影響を与える(スイッチング素子の寿命を短縮する)という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−97399号公報
【特許文献2】特開平5−344774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、可変速巻上機を駆動する電動機にプルロータ式のブレーキを備えた電動機を用い、該電動機に過電圧印加開始時の出力周波数を下げることなく、加速度時間が短い電気チェーンブロック等の可変速巻上機でも運転開始時にプルロータ式のブレーキを確実に開放できる電流を通電できる可変速巻上機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明は、可変速巻上機を駆動するプルロータ式のブレーキを備えた電動機と、前記電動機に電力を供給して駆動し、前記電動機の速度を緩起動制御するインバータとを備えた、可変速巻上機において、前記インバータを所定の電圧−周波数(V−F)パターンで運転するように設定し、該電圧−周波数(V−F)パターンは、前記電動機に電力を出力する最低周波数をf1、過電圧を出力する最大周波数をf2、最高出力周波数をf3(f1<f2<f3)とし、周波数f1、f2、f3に対応する前記インバータが出力する電圧をV1、V2、V3とすると、V2は電圧V1以下(V2≦V1)で、周波数がf1からf2に増加するのに伴って出力電圧はV1からV2に減少し、周波数がf2からf3に増加するのに伴って出力電圧はV2からV3に概略比例的に増加するようになっており、前記電動機を起動するときには、周波数がf1からf2に達するまでの加速度(出力周波数増加率、図5のα参照)を、周波数がf2からf3に達するまでの加速度(出力周波数増加率、図5のβ参照)よりも小さくし、プルロータ式ブレーキを開放できる十分な電力を通電することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は上記可変速巻上機において、可変速巻上機は低速と高速の2速運転される巻上機であって、前記周波数f2を前記インバータの低速運転用出力周波数以下としたことを特徴する。
【0012】
また、本発明は上記可変速巻上機において、前記可変速巻上機が電気チェーンブロックであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のように周波数がf1〜f2の区間を過電圧を印加する区間とし、この区間の加速度(インバータ出力周波数増加率)を小さくすることで、周波数がf1からf2まで増加する所要時間が長くなり、その結果、過電圧印加時間を十分にとることができる。換言すると、始動時にプルロータ式ブレーキを開放するのに必要な電力をモータステータに供給することができるので、ブレーキが半開放の状態で運転され、ブレーキが過熱し、寿命が短くなるという問題のない可変速巻上機を提供することができる。
【0014】
また、過電圧を出力する周波数f2を低速用インバータ出力周波数以下とすることで、低速運転時には過電圧を電動機に出力しないので、低速連続運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の可変速巻上機の始動時におけるインバータ出力周波数と出力電圧の関係を示す図である。
【図2】本発明に係る可変速巻上機のプルロータ式ブレーキを備えた電動機の構成例を示す図である。
【図3】従来のインバータ駆動の可変速巻上機のV−Fパターンを示す図である。
【図4】本発明に係る可変速巻上機の運転開始時のV−Fパターンを示す図である。
【図5】本発明に係る可変速巻上機の緩起動制御の加速度パターンを示す図である。
【図6】本発明に係る巻上機のシステム構成例を示す回路図である。
【図7】本発明に係る可変速巻上機の運転開始時のV−Fパターンの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施形態例では可変速巻上機として電気チェーンブロックを例に説明するが、本発明はプルロータ式のブレーキを備えた電動機で駆動され、該電動機をインバータの出力電力により可変速で制御し、且つ加速時間の短い可変速巻上機に広く適用できる。
【0017】
先ず、初めに本発明に係る可変速巻上機のプルロータ式のブレーキを備えた電動機について説明する。図2はプルロータ式ブレーキを備えた電動機の概略構成を示す断面図である。本プルロータ式ブレーキを備えた電動機(誘導電動機)1は、モータフレーム10に嵌入されたモータステータ11を備え、該モータステータ11の円筒状中空部にはモータロータ13が回転自在に配置された構成である。14はモータロータ13の中心部を貫通して配置されたモータ軸であり、該モータ軸14の両端部は軸受16、17で回転自在に支持されている。
【0018】
18はプルロータ(吸引鉄心)であり、モータ軸14に取付けられている。19はブレーキドラム基部(鉄心)であり、モータ軸14にスプライン結合により軸方向にスライドできるように結合されている。21はブレーキドラムであり、ブレーキドラム基部19に取付けられている。22はブレーキ板であり、ブレーキドラム21の外周部に取付けられている。24はモータエンドカバーであり、該モータエンドカバー24の内周面24aはブレーキ板22が摺接する制動面となっている。25はブレーキドラム基部19とプルロータ18の間に介在するブレーキバネであり、モータステータ11のコイル11aに通電しないときは、該ブレーキバネ25の弾性力により、プルロータ18とブレーキドラム基部19の間にはギャップGが形成されるようになっている。27はモータ軸14の一端に取付けたファンであり、29はファンカバーである。
【0019】
上記構成のプルロータ型の電動機1において、モータステータ11のコイル11aに通電しないときは、上記のようにブレーキバネ25の弾性力により、プルロータ18とブレーキドラム基部19の間にはギャップGが形成され、ブレーキドラム21に取付けられたブレーキ板22はモータエンドカバー24の内周面24aに押付けられ、モータ軸14は拘束された状態(制動された状態)になる。モータステータ11のコイル11aに大きい電流を通電(コイル11aに過電圧を印加して電流通電)すると、モータステータ11に発生する磁束によりプルロータ18を介してブレーキドラム基部19がブレーキバネ25の弾性力に抗して吸引され、ブレーキドラム21に取付けられたブレーキ板22はモータエンドカバー24の内周面24aから離間し、モータ軸14の拘束は解除され、モータロータ13は回転できるようになる。
【0020】
上記のようにプルロータ式ブレーキを備えた電動機では、モータステータ11のコイル11aに電流を通電するだけでブレーキを開放し、電動機を運転することができるという利点があるが、電動機にインバータから電流を供給して緩起動駆動し、速度を制御する可変速巻上機の場合には、運転開始時は低周波数で電動機を起動し、所定の加速度で運転周波数まで加速させ、一定速度運転する。この間の電流値は図3に示すような電圧−周波数(V−F)パターンに従って制御されるため、低周波数の場合には、電動機に低電圧が出力され、商用電源のような大きな起動電流が流れない。そのため、運転開始時、電動機にブレーキを解除(開放)する十分な電流を通電できず、ブレーキが半開放の状態で運転し、ブレーキが過熱し寿命が短くなるという等の問題がある。
【0021】
特許文献1、2のように、周波数fが起動時周波数f1からf2に上昇する間に過電圧(過電流)V3を出力するようにしただけでは(図1参照)、加速時間が短い巻上機においては、過電圧V3を出力する時間を確保するために周波数f2を大きくしなければならず、低速運転を過電圧で運転しなければならないという問題がある。或いは、起動時に出力を開始するときの周波数f1を低くして、過電圧を出力する時間を長くしたり、或いは過電圧印加時間が短くてもプルロータ式ブレーキを開放できるようにさらに高い電圧を出力すると、インバータのパワー素子(IGBT)のパワーサイクル(寿命)が短くなるという問題がある。
【0022】
また、低電圧でもプルロータ式ブレーキを開放できるように、プルロータ18とブレーキドラム基部19間のエアギャップGを小さく設定すると、ブレーキ板22が磨耗してもエアギャップGが規定値以上に広がらないように調整可能な構造とする必要があり、構造が複雑で、且つメンテナンスを要するという問題を有している。
【0023】
そこで上記問題を解決するため本発明に係る可変速巻上機では、図4に示すように、周波数がf1から始動するようにし、周波数がf1〜f2間で過電圧V1〜V2を出力する。この過電圧V1〜V2によりプルロータ式ブレーキを開放するだけの十分な電流を流すことができる。反対に、周波数f2を大きくして、過電圧区間を拡大する方法もあるが、過電圧区間では定常的に運転ができないため、低速運転の最低周波数が大きくなり、巻上機の位置決め性能が損なわれる。
【0024】
本発明はこれらの問題を省みたもので、図4に示す通り、電圧−周波数(V−F)パターンは、インバータが可変速巻上機の電動機に出力する最低出力周波数をf1、過電圧を出力する最大周波数をf2、最大出力周波数をf3とし、周波数f1、f2、f3に対応する出力電圧をV1、V2、V3とすると、V2はV1以下(V2≦V1)で、周波数がf1からf2に増加するのに伴って出力電圧はV1からV2に減少し、周波数がf2からf3に増加するのに伴って出力電圧はV2からV3に概略比例的に増加するようになっている。
【0025】
次に、緩起動制御の加速パターンを図5に示す。図5に示す周波数f1、f2、f3は、図4に示す周波数f1、f2、f3にそれぞれ対応している。可変速巻上機の電動機を起動すると、インバータの出力周波数fはf1〜f2までは出力周波数増加率(加速度)αで周波数を増加させながら電動機に電力を出力し、周波数fがf2〜f3までは出力周波数増加率(加速度)βで周波数を増加させながら電動機に電力を出力する。図示するように、出力周波数増加率(加速度)αは出力周波数増加率(加速度)βより小さく(α<β)緩やかに加速するようになっている。
【0026】
図5に破線で示すように、周波数がf1からf3に達するまでの間の加速度が一定(β)の場合に、周波数f1から始動し、周波数f3まで加速した場合、f1〜f2までの加速時間はt2’−t1となる。一方、本発明の場合には、t2−t1となり加速度一定の場合より、過電圧時間を長くすることができる。また、過電圧時間をt2−t1に合わせると、そのときの周波数f2’はf2より大きくなり、f2’以下の低速領域で運転した場合、過電圧運転となりその状態で連続して運転するのは好ましくない。しかし、本発明によれば、周波数f2まで連続運転できる速度を下げることができる。
【0027】
上記のように、本発明によれば、インバータパワーサイクル(インバータ寿命)や巻上機位置決め性能(低速運転性能)を犠牲にすることなく、プルロータ式ブレーキの開放に十分な電流を流すことができる。なお、本発明を適用した場合、周波数がf3になるまでの所要時間が、t2−t2’だけ遅れるが、この遅れ時間t2−t2’(数十msec)は電気チェーンブロックの場合、問題とならない。
【0028】
図6は本発明に係る可変速巻上機のシステム構成を示すブロック回路図である。1は上記プルロータ式のブレーキを備えた電動機(誘導電動機)であり、三相交流電源31からの三相交流を整流回路32及び平滑コンデンサ33により直流に変換し、更にインバータ主回路34により所定周波数の三相交流に変換し、電動機1に供給するようになっている。インバータ主回路34は6個のトランジスタを三相交流に対応させて、2個ずつ対にしてブリッジ接続して構成されたもので、インバータ制御部36の制御により制御され、インバータ主回路34に入力される直流を所定周波数の三相交流に変換する。インバータ主回路34の6個のトランジスタは、インバータ制御部36からのパルス幅変調信号(以下「PWM信号」と称する)発生回路(図示せず)から与えられるPWM信号により制御される。
【0029】
上記インバータ制御部36には、インバータ主回路34の制御された出力周波数及び出力電圧の電力を出力するために、予めインバータを運転する出力電圧−出力周波数のパターン(以下「電圧−周波数(V−F)パターン」と称する)が設定されており、インバータ主回路34は該電圧−周波数(V−F)パターンに従って制御されるようになっている。これにより、インバータ主回路34の各トランジスタはインバータ制御部36により制御され、上記PWM信号に対応する三相交流を出力し、負荷としての電動機を回転させる。
【0030】
41は巻上運転用常開2段押込みスイッチで1段目まで押し込むと押釦スイッチ41a1が閉じ、2段目まで押し込むと押釦スイッチ41a2が閉じる。42は巻下運転用常開2段押込みスイッチで1段目まで押し込むと押釦スイッチ42a1が閉じ、2段目まで押し込むと押釦スイッチ42a2が閉じる。押釦スイッチ41a1が閉じると巻上指令信号Uがインバータ制御部36に入力され、押釦スイッチ42a1が閉じると巻下指令信号Dがインバータ制御部36に入力され、押釦スイッチ41a2又は押釦スイッチ42a2のいずれかが閉じると高速指令信号Hがインバータ制御部36に入力されるようになっている。
【0031】
上記システム構成の緩起動2速可変速巻上機の運転動作を図5及び6に基づいて説明する。インバータ制御部36には、図5の緩起動制御を示す加速パターンが登録されており、押し込みスイッチ入力に応じて、インバータ主回路34の出力周波数、電圧を制御する。低速運転したい場合には、押し込みスイッチ41a1を閉じる。すると巻上げ指令信号Usがインバータ制御部36に入力され、インバータ制御部36によりインバータ主回路34から周波数f1で、電圧V1の電力が出力され、加速度α(=((f2−f1)/(t2−t1)))で周波数f2まで加速し、この間に過電流が流れ、プルロータ式ブレーキは開放され、周波数f2まで加速した後は、周波数f2にて一定速運転(低速運転)を続ける。その後、スイッチ41a1が開いた場合には、インバータ制御部36は速やかに出力遮断することで、プルロータ式ブレーキは制動する。
【0032】
また、周波数f2にて一定速運転(低速運転)中に高速運転したい場合には、さらに押し込みスイッチ41a2を閉じる。これにより巻上げ指令信号Us、高速指令信号Hsが入力されると、インバータ制御部36は、加速度β(=((f3−f2)/(t3−t2)))にて、周波数f3まで加速した後、周波数f3で一定速運転(高速運転)を続ける。押し込みスイッチ41a1、41a2が閉じた状態から押し込みスイッチ41a2を開いた場合には、周波数f3から減速度βで周波数f2まで減速し、周波数f2で運転(低速運転)を続ける。
【0033】
また、起動時に一気に押し込みスイッチ41a1、41a2を閉じた場合には、インバータ主回路34から周波数f1、電圧V1が出力され、加速度α(=((f2−f1)/(t2−t1)))で周波数f2まで加速する。この間に過電流が流れ、プルロータ式ブレーキは開放される。周波数f2に到達後は、加速度β(=((f3−f2)/(t3−t2)))にて、周波数f3まで加速を続け、周波数f3で一定速運転(高速運転)を続ける。
【0034】
周波数f3で一定速運転(高速運転)中に、押し込みスイッチ41a1、41a2を一気に開くと、インバータ主回路34は、周波数f3から減速度βで周波数f2まで減速しながら出力し、周波数f2まで減速したら出力を遮断することで、プルロータ式ブレーキは制動する。なお、低速領域での低速運転は、周波数f2とすることが好ましいが、周波数f2より高い周波数に適宜設定することができる。その場合、周波数f2を超える領域の加速度は、加速度βないし加速度β以下とすることも適宜可能である。なお、巻下げ運転動作は上記巻上げ運転動作と略同じであるのでその説明は省略する。
【0035】
以上により、巻上機の低速運転周波数より低い周波数で、過電圧を印加し、且つ過電圧印加時の加速度αをその他の周波数の加速度βより小さくすることで、インバータパワーサイクルと巻上機位置決め性能を犠牲にすることなく、プルロータ式ブレーキを確実に開放できる。これによりプルロータ式のブレーキが半開放の状態で運転され、ブレーキが過熱し寿命が短くなるという等の問題がなくなる。
【0036】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば図4の電圧−周波数(V−F)パターンにおいて周波数f=f1〜f2の期間の電圧値Vが図7のAに示すようにV1’の一定の電圧値であっても、B、Cに示すようにf1〜f2’,f2"の期間の電圧値Vが所定の割合で降下してもこの期間の巻上機の加速度が緩和され、プルロータ式ブレーキの開放に必要な電流と開放を維持するのに必要な電流通電時間を確保することが可能である。また、可変速巻上機として電気チェーンブロックを例に説明したが、本願発明は加速度時間の短い巻上機に広く利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、インバータを所定の電圧−周波数(V−F)パターンで運転するように設定し、運転開始時のインバータ出力電力を電動機に出力するときの周波数をf1、電圧をV1とし、電圧V1はプルロータ式ブレーキを開放できる十分な電流を流せる電圧とし、且つその過電圧印加時間(t2−t1)を十分確保するために、過電圧印加時の周波数加速度を、他周波数区間より緩やかにしたものである。例えば、電気チェーンブロックのように短時間で加速する可変速巻上機においても、電動機のインバータパワーサイクルや、巻上機の位置決め性能を犠牲にすることなく、運転開始時にプルロータ式ブレーキを確実に開放する電流を通電できると共に、ブレーキが半開放の状態で運転し、ブレーキが過熱して寿命を短くするという等のない可変速巻上機として利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 プルロータ式のブレーキを備えた電動機
10 モータフレーム
11 モータステータ
13 モータロータ
14 モータ軸
16 軸受
17 軸受
18 プルロータ(吸引鉄心)
19 ブレーキドラム基部(鉄心)
21 ブレーキドラム
22 ブレーキ板
24 モータエンドカバー
25 ブレーキバネ
27 ファン
29 ファンカバー
31 三相交流電源
32 整流回路
33 平滑コンデンサ
34 インバータ主回路
36 インバータ制御部
41 巻上運転用常開2段押込みスイッチ
42 巻下運転用常開2段押込みスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変速巻上機を駆動するプルロータ式のブレーキを備えた電動機と、前記電動機に電力を供給して駆動し、前記電動機の速度を緩起動制御するインバータとを備えた、可変速巻上機において、
前記インバータを所定の電圧−周波数(V−F)パターンで運転するように設定し、該電圧−周波数(V−F)パターンは、前記電動機に電力を出力する最低周波数をf1、過電圧を出力する最大周波数をf2、最高出力周波数をf3(f1<f2<f3)とし、周波数f1、f2、f3に対応する前記インバータが出力する電圧をV1、V2、V3とすると、V2は電圧V1以下(V2≦V1)で、周波数がf1からf2に増加するのに伴って出力電圧はV1からV2に減少し、周波数がf2からf3に増加するのに伴って出力電圧はV2からV3に概略比例的に増加するようになっており、
前記電動機を起動するときには、周波数がf1からf2に達するまでの加速度(出力周波数増加率)を、周波数がf2からf3に達するまでの加速度(出力周波数増加率)よりも小さくし、プルロータ式ブレーキを開放できる十分な電力を通電することを特徴とする可変速巻上機。
【請求項2】
請求項1に記載の可変速巻上機において、
可変速巻上機は低速と高速の2速運転される巻上機であって、前記周波数f2を前記インバータの低速運転用出力周波数以下としたことを特徴する可変速巻上機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の可変速巻上機において、
前記可変速巻上機が電気チェーンブロックであることを特徴とする可変速巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−211001(P2012−211001A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77551(P2011−77551)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)