説明

可搬型エンジン始動装置

【課題】電力を予め蓄積しておかなくとも、バッテリ上がりを起こした駆動装置のエンジンを始動させることのできる可搬型エンジン始動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置に内蔵されたバッテリBの両極端子に対して接続可能な一対の接続端子と、当該一対の接続端子の間に配置され、バッテリBから供給される電力により充電されるキャパシタ13と、接続端子の一方とキャパシタ13の一方端との間に配置され、キャパシタ13を充電する際に突入電流を制限する電流制限部14と、電流制限部14と並列に接続され、エンジンを始動させる際にキャパシタ13から放電される電力を駆動装置に供給する電力供給線15と、を備える可搬型エンジン始動装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の駆動装置がその内蔵バッテリによりエンジンを始動できなくなった場合に、エンジンを始動させるための可搬型エンジン始動装置及びこれを用いたエンジン始動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを動力源として駆動する自動車等の駆動装置においては、バッテリに蓄積された電力を用いてセルモータを回転させることにより、エンジンの始動が行われる。ところが、このようなバッテリは、放電量が充電量を上回って起こる充電不足状態や、長期使用による容量低下状態などになった場合、電圧自体は一定以上を保っていることが多いものの、内部抵抗が上昇して、エンジンの始動に必要な電流を供給できない状態(いわゆるバッテリ上がり)になってしまうことがある。そこで、このような場合に、外部から電力供給を行ってエンジンを始動させるための可搬型エンジン始動装置が存在する。このような可搬型エンジン始動装置は、例えば鉛蓄電池等の蓄電装置を内蔵しており、この蓄電装置を予め充電しておくことで、必要な場合に、充電された電力を供給してエンジンを始動させることができる。特許文献1には、蓄電装置として電気二重層キャパシタを用いた可搬式エンジンスターターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−280880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来例の可搬型エンジン始動装置では、内蔵された蓄電装置を予め充電しておくことが不可欠となっている。すなわち、蓄電装置に蓄積された電力がなくなってしまうと、エンジンの始動を行うことができなくなる。しかしながら、蓄電装置を充電した状態で可搬型エンジン始動装置を保管したとしても、自然放電によって蓄電装置の充電状態が悪化する場合がある。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的の一つは、電力を予め蓄積しておかなくとも、駆動装置のエンジンを始動させることのできる可搬型エンジン始動装置、及びこれを用いたエンジン始動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明に係る可搬型エンジン始動装置は、駆動装置に内蔵されたエンジンを始動させるための可搬型エンジン始動装置であって、前記駆動装置に内蔵されたバッテリの両極端子に対して接続可能な一対の接続端子と、前記一対の接続端子の間に配置され、前記バッテリから供給される電力により充電されるキャパシタと、前記一対の接続端子の一方と、前記キャパシタの一方端と、の間に配置され、前記キャパシタを充電する際に突入電流を制限する電流制限部と、前記電流制限部と並列に接続され、前記エンジンを始動させる際に前記キャパシタから放電される電力を前記駆動装置に供給する電力供給線と、を含むことを特徴とする。
【0007】
上記可搬型エンジン始動装置は、前記電力供給線上に配置され、前記キャパシタから放電される電力を前記駆動装置に供給する際にオンに切り替えられるスイッチ部をさらに含むこととしてもよい。
【0008】
また、上記可搬型エンジン始動装置において、前記電流制限部はチョークコイルであってよい。
【0009】
また、上記可搬型エンジン始動装置は、前記キャパシタを複数備え、前記複数のキャパシタが直列に接続された状態と、並列に接続された状態と、を切り替えるスイッチをさらに含むこととしてもよい。
【0010】
また、本発明に係るエンジン始動方法は、キャパシタを内蔵する可搬型エンジン始動装置を用いて、駆動装置に内蔵されたエンジンを始動させるエンジン始動方法であって、前記駆動装置に内蔵されたバッテリの両極端子に対して、前記可搬型エンジン始動装置が備える一対の接続端子を接続するステップと、前記一対の接続端子の一方と、前記キャパシタの一方端と、の間に配置された電流制限部により突入電流を制限しながら、前記バッテリから供給される電力により前記キャパシタを充電するステップと、前記電流制限部と並列に接続された電力供給線を経由して、前記キャパシタから放電される電力を前記駆動装置に供給して前記エンジンを始動させるステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る可搬型エンジン始動装置は、上述の特徴により、可搬型エンジン始動装置内のキャパシタを常に充電した状態で保管しておいたり、キャパシタを充電するための外部電源等を別に用意したりすることなく、駆動装置に搭載された、バッテリ上がりを起こしたバッテリの残余電力を有効活用して駆動装置に内蔵されたエンジンを始動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る可搬型エンジン始動装置の外観を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る可搬型エンジン始動装置の回路構成を示す図である。
【図3A】本発明の第1実施形態に係る可搬型エンジン始動装置を充電する際における電圧及び電流の時間変化の一例を示すグラフである。
【図3B】電流制限部を備えていない可搬型エンジン始動装置を充電する際における電圧及び電流の時間変化の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る可搬型エンジン始動装置の回路構成を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る可搬型エンジン始動装置の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aの外観を示す図である。可搬型エンジン始動装置1aは利用者によって持ち運び可能になっており、駆動装置に内蔵されたエンジンを始動させるために用いられる。以下では、可搬型エンジン始動装置1aは自動車2に内蔵されたエンジンを始動させるために用いられるものとして説明する。しかしながら、本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aは、例えば自動車以外の車両等、エンジンを動力源として用いる各種の駆動装置を始動させるために用いられてよい。
【0015】
自動車2は、エンジンを始動させるためのセルモータMと、セルモータMの動作に必要な電力を供給するバッテリBと、を内蔵している。運転者がイグニッションキーを回す等の操作を行い、セルモータMとバッテリBを接続すると、バッテリBから供給される電力でセルモータMが回転し、エンジンが始動する。ところが、バッテリBに蓄積された電力の不足により、セルモータMの駆動に必要な電流を供給できなくなってしまうことがある(前述のいわゆるバッテリ上がり)。本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aは、このように自動車2に内蔵されたバッテリBによってエンジンを始動させることができなくなってしまった場合に、自動車2のバッテリBに接続して、そのエンジンを始動させるために用いられる。
【0016】
本実施形態において特徴的なことは、セルモータMを駆動させる際に、まずバッテリBに残っている電力で可搬型エンジン始動装置1aに内蔵されたキャパシタの充電を行い、その後、キャパシタに充電された電力を用いてセルモータMを駆動させることが可能な点である。このような制御を実現する手順の詳細については、後述する。これにより、可搬型エンジン始動装置1a内のキャパシタを常に充電した状態で保管しておいたり、キャパシタを充電するための外部電源等を別に用意したりすることなく、自動車2に搭載されたバッテリBの電力を有効活用してエンジンを始動させることができる。
【0017】
具体的に、可搬型エンジン始動装置1aは、図1に示されるように、正極側クリップ11及び負極側クリップ12の2つの接続クリップを備えている。この2つの接続クリップは、可搬型エンジン始動装置1aをバッテリBの正負両極端子に接続するための一対の接続端子として機能する。すなわち、可搬型エンジン始動装置1aの使用時には、利用者は、正極側クリップ11をバッテリBの正極端子に、負極側クリップ12をバッテリBの負極端子に、それぞれ接続する。なお、負極側クリップ12は、車両のアース部に接続してもよい。
【0018】
さらに、図1に示されるように、可搬型エンジン始動装置1aは、その筐体表面に、スイッチSw1及びSw2の2つの機械式スイッチと、電圧表示部Dと、を備えている。可搬型エンジン始動装置1aの利用者は、電圧表示部Dに表示される電圧値を確認しながら、スイッチSw1及びSw2を操作することで、可搬型エンジン始動装置1aに内蔵されたキャパシタの充電や、セルモータMへの電力供給を行う。
【0019】
図2は、可搬型エンジン始動装置1aの回路構成を示す図である。同図に示されるように、可搬型エンジン始動装置1aは、キャパシタ13と、電流制限部14と、電力供給線15と、電圧計16と、逆接続警告部17と、を含んでいる。
【0020】
本実施形態では、キャパシタ13は電気二重層キャパシタであって、図2に示されるように、正極側クリップ11と負極側クリップ12との間に配置されている。正極側クリップ11及び負極側クリップ12がバッテリBの両端に接続されると、キャパシタ13はバッテリB及びセルモータMのそれぞれと並列に接続されることになる。なお、キャパシタ13の定格電圧は、バッテリBの電圧に対応する電圧となっている。可搬型エンジン始動装置1aが普通自動車を対象としている場合、キャパシタ13の定格電圧を約12Vとする。そのために、キャパシタ13は複数のキャパシタセルを接続してなるキャパシタモジュールであってよい。
【0021】
電流制限部14は、正極側クリップ11及び負極側クリップ12の一方と、キャパシタ13の一方端と、の間に接続されている。ここでは電流制限部14は、チョークコイルであって、正極側クリップ11とキャパシタ13の正極側との間に接続されているものとする。電流制限部14は、キャパシタ13を充電する際に流れる突入電流を制限する。
【0022】
さらに、電流制限部14と正極側クリップ11との間には、スイッチSw1が配置されている。スイッチSw1は、可搬型エンジン始動装置1aの未使用時や正極側クリップ11及び負極側クリップ12の着脱を行う際にはオフにされ、キャパシタ13の充放電の開始時にオンに切り替えられる。
【0023】
また、電流制限部14を迂回してキャパシタ13からセルモータMに電力供給を行うために、電流制限部14に対して並列に電力供給線15が接続されている。スイッチSw2は、この電力供給線15上に配置されており、キャパシタ13の充放電の切り替えに用いられる。すなわち、キャパシタ13を充電する際には利用者がスイッチSw2をオフにすることで、電流制限部14を経由してキャパシタ13の充電が行われ、自動車2のエンジンを始動させる際には利用者がスイッチSw2をオンに切り替えることで、電力供給線15を経由してキャパシタ13からの電力の放電が行われる。なお、スイッチの切り替えによる可搬型エンジン始動装置1aの制御方法については、後に詳しく説明する。
【0024】
電圧計16及び逆接続警告部17は、いずれも正極側クリップ11と負極側クリップ12との間に、キャパシタ13と並列に接続されるように配置されている。電圧計16は、正極側クリップ11と負極側クリップ12との間の電圧を測定する。電圧計16による測定結果は、電圧表示部Dに表示される。
【0025】
逆接続警告部17は、図2に示されるように、互いに直列に接続されたダイオード17aとブザー17bとを含んで構成されている。なお、ダイオード17aは、負極側クリップ12から正極側クリップ11に向かう方向が順方向となるように接続されている。仮に利用者が誤って正極側クリップ11をバッテリBの負極端子に、負極側クリップ12をバッテリBの正極端子に、それぞれ接続したとする。この場合、ダイオード17aを経由して負極側クリップ12から正極側クリップ11に電流が流れ、ブザー17bが鳴動する。これにより、利用者は接続を誤ったことに気づくことができる。なお、可搬型エンジン始動装置1aは、このようなブザー17bを用いた逆接続警告部17に代えて、又はこれに加えて、正常接続時及び/又は逆接続時にそのことをランプの点灯等によって利用者に通知する手段を備えてもよい。
【0026】
次に、本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aが、バッテリBに残っている電力を利用してエンジンの始動を行う場合の動作原理について、説明する。
【0027】
自動車2でバッテリBとして一般的に用いられる鉛蓄電池等の二次電池は、一定以上の電圧を維持する性質を持っており、蓄積される電力が放電によって減少しても、電圧はそれほど低下しない。しかしながら、蓄積されている電力が減ると、内部抵抗が上昇して出力電流が減少し、セルモータMを動作させるために必要な電流を流せなくなってしまう。すなわち、バッテリBがバッテリ上がりを起こした状態でも、電圧自体は一定以上(普通自動車であれば約12V)を維持している場合が多いと考えられる。
【0028】
これに対してキャパシタ13は、バッテリBより蓄電容量が少ないが、単位時間あたりに流すことができる出力電流は大きい。そのため、バッテリBがセルモータMの動作に必要な電流を出力できない状態になったとしても、バッテリBにある程度の電力が残っていれば、その電力をキャパシタ13に移し替えることで、キャパシタ13はセルモータMを動作させるための電流を出力できる。特に、バッテリBとキャパシタ13を並列接続した状態でセルモータMを動作させることで、一定以上の時間にわたってバッテリBとキャパシタ13から比較的大きな電流をセルモータMに流すことができる。さらに、自動車2においては、ひとたびエンジンが始動すれば、その駆動エネルギーを回収して発電を行うことで、バッテリBが充電される。そのため、セルモータMの動作に必要な時間だけキャパシタ13から大電流を流すことができれば、エンジンを始動させ、バッテリBを再充電することが可能になる。
【0029】
このように、本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aによれば、バッテリ上がりを起こしたバッテリBに残っている電力を用いてキャパシタ13を充電することで、キャパシタ13を予め充電しておかずとも、エンジンを始動させることができる。すなわち、使用していない間は、キャパシタ13が完全に放電された状態で可搬型エンジン始動装置1aを保管しておくことも可能である。可搬型エンジン始動装置1a内に電力が蓄積されていない状態であっても充電等の動作を実行できるように、本実施形態では、スイッチSw1及びスイッチSw2として、電気制御によって動作するリレー等ではなく、機械式スイッチを採用している。しかしながら、機械式スイッチを使用する場合、スイッチSw1をオンにして充電を開始する際に突入電流が発生して、火花やスパークノイズが発生するおそれがある。そこで本実施形態は、電流制限部14を設けることで、突入電流の発生を抑止している。
【0030】
図3A及び図3Bは、電流制限部14の効果を説明するための図であって、いずれもキャパシタを充電する際の電流及び電圧の時間変化を示すグラフである。図3Aがチョークコイルを電流制限部14として採用した本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aの実験結果を示しており、図3Bは比較例として電流制限部14を備えていない場合の実験結果を示している。なお、いずれの図においても、横軸が時間を、縦軸が電圧値及び電流値を示しており、グラフの実線が電流の時間変化を、破線が電圧の時間変化を、それぞれ示している。これらの図から明らかなように、本実施形態では充電開始時における電圧や電流の変化は緩やかだが、電流制限部14がない場合には瞬間的に大きな電圧及び電流の変化が生じていることが確認された。また、図3Bの実験結果においては、充電開始時に火花が発生することも確認された。
【0031】
このように、本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aは、電流制限部14によって充電時の突入電流発生を防止している。しかしながら、放電時には、電流制限部14による制限を受けることなくセルモータMに電流を流すことが望ましい。そこで、可搬型エンジン始動装置1aにおいては、電流制限部14を迂回して電流を流すための電力供給線15が電流制限部14に並列に接続されており、電力供給線15の使用と不使用とを切り替えるために、スイッチSw2が配置されている。このスイッチSw2をオンにすることで、電流制限部14を介さずに、キャパシタ13からセルモータMに電流を流すことができる。すなわち、本実施形態では、スイッチSw2を備える電力供給線15を電流制限部14に並列に接続することで、正極側クリップ11及び負極側クリップ12をバッテリBに接続したまま繋ぎ替えることなく、キャパシタ13の充電及び放電を切り替えることが可能となっている。
【0032】
以下、バッテリBに残った電力を利用してエンジンを始動させる場合における、可搬型エンジン始動装置1aの使用手順について、説明する。
【0033】
まず利用者は、スイッチSw1及びSw2の双方がオフになっている状態で、正極側クリップ11をバッテリBの正極端子に、負極側クリップ12をバッテリBの負極端子、または車両のアース部に、それぞれ接続する。この段階では、電圧計16がバッテリBと並列に接続されるので、電圧表示部DにはバッテリBの電圧が表示される。利用者は、この表示を確認することで、電圧がほぼ適正値であれば、エンジンを始動できない理由がバッテリBの出力できる電流が低くなったためであって、可搬型エンジン始動装置1aを利用してエンジンを始動し得ることを知ることができる。あるいは電圧が通常よりも少し低い値であれば、バッテリBの残電力量しだいで、可搬型エンジン始動装置1aを利用してエンジンを始動し得る可能性があることを知ることができる。
【0034】
その後、利用者は、スイッチSw1をオンに切り替える。これにより、バッテリBから正極側クリップ11及び電流制限部14を介してキャパシタ13に電流が流れ、バッテリBに残っている電力によってキャパシタ13が充電される。このとき、電流制限部14を経由して電流が流れることで、突入電流の発生が抑止される。この状態では、電圧計16によって計測される電圧は主としてキャパシタ13の充電状態によって変化する。すなわち、キャパシタ13が充電されるにしたがって、電圧表示部Dに表示される電圧値は最初に表示されていたバッテリBの電圧値に近づいていく。
【0035】
電圧表示部Dに表示される電圧値が十分高くなったら、利用者はそれまでオフになっていたスイッチSw2をオンに切り替える。これにより、電流制限部14の制限を受けずにキャパシタ13から可搬型エンジン始動装置1aの外部に電流を流すことが可能となる。この状態で利用者がイグニッションキーを回すと、セルモータMとバッテリBとの間に設けられたスイッチSw3がオンになり、セルモータMにキャパシタ13からの電流が流れ、エンジンが始動する。
【0036】
なお、以上の説明においてはバッテリ上がりを起こした自動車2のバッテリBに蓄積された電力でキャパシタ13を充電することとしたが、当然ながら、他の電力供給源から供給される電力によってキャパシタ13を充電することも可能である。これにより、例えば自動車2のバッテリBにキャパシタ13を充電するための電力が残っていない場合に、他の自動車のバッテリ等に可搬型エンジン始動装置1aを接続してキャパシタ13を充電し、その後に自動車2のエンジンを始動させることもできる。この場合の可搬型エンジン始動装置1aの使用手順について、以下、説明する。
【0037】
まず利用者は、スイッチSw1及びSw2の双方がオフになった状態で、十分に充電されたバッテリの正極端子に正極側クリップ11を、バッテリBの負極端子、または車両のアース部に負極側クリップ12を、それぞれ接続する。その後、前述の例と同様に、スイッチSw1だけをオンに切り替えてキャパシタ13を充電する。充電が完了したら、利用者は一旦スイッチSw1をオフに戻して、正極側クリップ11及び負極側クリップ12を充電に用いたバッテリから外し、バッテリ上がりを起こした自動車2のバッテリBに接続する。その後、スイッチSw1及びSw2の双方をオンに切り替えて、イグニッションキーを回してエンジンの始動を行う。
【0038】
以上説明した本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aによれば、キャパシタ13が充電されていない状態であっても、自動車2に内蔵されたバッテリBからの電力供給を受けてキャパシタ13を充電し、充電された電力を放電して自動車2のエンジンを始動させることができる。さらに、正極側クリップ11及び負極側クリップ12の双方をバッテリBに接続したままであっても、充電時の突入電流を防止しながら、キャパシタ13の充放電を行うことができる。
【0039】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1bについて、説明する。なお、本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1bに関して、第1実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aと同様の構成や機能についてはその説明を省略し、以下では第1実施形態と異なる部分についてだけ説明する。また、第1実施形態と同様の構成要素については、同一の参照符号を用いて参照する。
【0040】
本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1bは、電圧12Vのバッテリを内蔵した自動車及び電圧24Vのバッテリを内蔵した自動車の双方に適用可能となっている。図4は、可搬型エンジン始動装置1bの回路構成を示す図である。同図に示されるように、可搬型エンジン始動装置1bは、第1実施形態と同様に、正極側クリップ11、負極側クリップ12、スイッチSw1及びSw2、電流制限部14、電力供給線15、電圧計16、並びに逆接続警告部17を含んで構成されている。一方で、可搬型エンジン始動装置1bは、第1実施形態と異なり、キャパシタ13に代えて、キャパシタ13a及び13bの二つのキャパシタを内蔵している。これらのキャパシタは、それぞれ定格電圧が12Vのキャパシタモジュールであることとする。すなわち、キャパシタ13a及び13bが互いに直列に接続されると、その全体の定格電圧は24Vになる。
【0041】
また、キャパシタ13aとキャパシタ13bの間には、これらキャパシタ13a及び13bが直列に接続された状態と、並列に接続された状態と、を切り替えるスイッチSw4が配置されている。スイッチSw4は3回路2接点のスイッチであって、利用者の操作によって第1状態と第2状態とが切り替えられるようになっている。スイッチSw4は、第1状態においては、図4に示されるように、キャパシタ13aの負極とキャパシタ13bの正極とを接続する。これにより、キャパシタ13aとキャパシタ13bとは互いに直列に接続され、2個のキャパシタ全体の定格電圧は24Vになる。一方、スイッチSw4を第2状態に切り替えると、キャパシタ13aの負極とキャパシタ13bの正極とは切り離され、キャパシタ13a及び13bの正極同士、負極同士がそれぞれ接続される。すなわち、キャパシタ13aとキャパシタ13bとは互いに並列に接続され、2個のキャパシタ全体の定格電圧は12Vになる。
【0042】
可搬型エンジン始動装置1bを用いて電圧12VのバッテリBを内蔵した自動車2のエンジンを始動させる場合、スイッチSw4を第2状態に切り替えたうえで、第1実施形態の場合と同様に正極側クリップ11及び負極側クリップ12をバッテリBに接続し、スイッチSw1をオンに切り替えることで、キャパシタ13a及び13bをバッテリBからの電力供給によって充電する。その後、スイッチSw2をオンに切り替えることで、キャパシタ13a及び13bに充電された電力を用いて、セルモータMを動作させ、エンジンを始動させる。一方、電圧24VのバッテリBを内蔵した自動車2のエンジンを始動させる場合には、最初にスイッチSw4を第1状態に切り替えたうえで、以降は上記と同様の手順で操作を行えばよい。
【0043】
さらに、本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1bによれば、電圧12Vのバッテリを内蔵した自動車からの電力供給によってキャパシタ13a及び13bを充電した後、電圧24VのバッテリBを内蔵した自動車2のエンジンを始動させたり、逆に電圧24Vのバッテリによってキャパシタ13a及び13bを充電し、電圧12VのバッテリBを内蔵した自動車2のエンジンを始動させたりすることもできる。
【0044】
具体的に、前者の場合、まずはスイッチSw4を第2状態に切り替えてから可搬型エンジン始動装置1bを電圧12Vのバッテリに接続し、スイッチSw1をオンにする。これにより、並列に接続されたキャパシタ13a及び13bの双方が、電圧12Vになるまで充電される。その後、スイッチSw1をオフにして正極側クリップ11及び負極側クリップ12を電圧12Vのバッテリから外し、スイッチSw4を第1状態に切り替える。これにより、キャパシタ13a及び13bは直列に接続され、全体として24Vの電圧で電力供給が可能になる。この状態で正極側クリップ11及び負極側クリップ12を24VのバッテリBに接続し、スイッチSw1及びSw2をオンにすることで、キャパシタ13a及び13bに蓄積された電力によるセルモータMの駆動が可能となる。電圧24Vのバッテリでキャパシタ13a及び13bを充電して、電圧12VのバッテリBを内蔵する自動車2のエンジンを始動させる場合にも、充電時と放電時におけるスイッチSw4の状態を逆にする以外は、同様の手順で可搬型エンジン始動装置1bを操作すれば、自動車2のエンジンを始動させることができる。
【0045】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1cについて、説明する。なお、本実施形態についても、第1実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1aと同様の構成や機能の説明は省略し、第1実施形態と異なる部分についてだけ説明する。また、第1実施形態と同様の構成要素については、同一の参照符号を用いて参照する。
【0046】
図5は、本実施形態に係る可搬型エンジン始動装置1cの回路構成を示す図である。同図に示されるように、可搬型エンジン始動装置1cは、第1実施形態と同様に、正極側クリップ11、負極側クリップ12、キャパシタ13、電流制限部14、電力供給線15、電圧計16、及び逆接続警告部17を含んで構成されている。一方、第1実施形態と異なり、可搬型エンジン始動装置1cは、スイッチSw1及びSw2に代えて2回路3接点のスイッチSw5を備えている。スイッチSw5に含まれる2回路の一方が、電力供給線15内において電流制限部14と並列に接続されるスイッチ部として機能する。
【0047】
スイッチSw5は、利用者の操作によって、第1状態、第2状態及び第3状態のいずれかの接続状態に切り替えられるようになっている。第1状態では、キャパシタ13の正極は、電流制限部14を経由する経路、及び電力供給線15を経由する経路の双方で正極側クリップ11とは切断されている。すなわち、この第1状態は、第1実施形態においてスイッチSw1及びSw2の双方がオフになっている状態に相当する。第2状態では、キャパシタ13は電流制限部14を介して正極側クリップ11と接続される。すなわち、第2状態は、第1実施形態においてスイッチSw1がオンになり、スイッチSw2がオフになっている状態に相当する。第3状態では、キャパシタ13はさらに電力供給線15経由でも正極側クリップ11と接続される。すなわち、第3状態は、第1実施形態においてスイッチSw1及びスイッチSw2の双方がオンになっている状態に相当する。
【0048】
この可搬型エンジン始動装置1cを使用する場合、利用者は、まずスイッチSw5を第1状態に切り替えて正極側クリップ11及び負極側クリップ12をバッテリBに接続する。そして、スイッチSw5を第2状態に切り替えることで、突入電流を制限しつつキャパシタ13の充電を行う。キャパシタ13の充電が完了した後は、スイッチSw5を第3状態に切り替えることで、電流制限部14による電流の制限を受けずにセルモータMに電力供給を行うことができる。
【0049】
本実施形態によれば、第1実施形態と比較して部品点数を減らしつつ、第1実施形態と同様の充放電制御を行うことができる。また、正極側クリップ11及び負極側クリップ12の着脱を行う際は第1状態に、キャパシタ13の充電時は第2状態に、エンジン始動時は第3状態に、それぞれスイッチSw5を切り替えればよいので、スイッチSw1及びSw2を組み合わせて操作する場合と比較して、利用者の操作を簡易なものとすることができる。
【0050】
[変形例]
以上説明した各実施形態は例示であって、本発明の実施形態は以上説明したものに限られない。例えば、上記第2実施形態の構成と第3実施形態の構成とは、組み合わされてもよい。すなわち、第1実施形態におけるスイッチSw1及びSw2をスイッチSw5で置き換えるとともに、第1実施形態におけるキャパシタ13をキャパシタ13a、キャパシタ13b及びスイッチSw4で置き換えた構成としてもよい。
【0051】
また、以上の説明では電流制限部14はチョークコイルであることとしたが、これに限らずキャパシタの充電開始時における突入電流を減らすことのできる各種の回路を電流制限部14として採用してもよい。同様に、電圧計16や逆接続警告部17も、同等の機能を発揮する他の構成に置き換えてよい。
【0052】
また、以上の説明においては電圧計16によって測定された電圧値そのものを電圧表示部Dに表示することとしたが、これに代えて、又はこれに加えて、本発明の実施の形態に係る可搬型エンジン始動装置は、内蔵するキャパシタの充電状態を利用者に通知する手段を備えてもよい。具体的には、例えば可搬型エンジン始動装置は、キャパシタの充電が完了したか否かを示す状態表示を行うこととする。すなわち、電圧計16によって測定されたキャパシタの電圧が所定の閾値を超えた場合には、例えば緑色のLEDを点灯させるなどの方法により、キャパシタの充電が完了したことを利用者に通知してもよい。また、電圧計16がアナログ電圧計であって、電圧表示部Dが目盛上を動く針の位置によって電圧を表示する場合、当該所定の閾値を示す目盛位置あるいは当該所定の閾値以上の目盛範囲に、充電完了状態を表示するための識別色を配することとしてもよい。
【0053】
さらに、本発明の実施の形態に係る可搬型エンジン始動装置は、キャパシタの充電状態を段階的に利用者に通知する手段を備えてもよい。具体例として、可搬型エンジン始動装置は、キャパシタの電圧が第1の閾値を超えた場合には、例えば黄色のLEDを点灯させるなどにより、キャパシタの充電状態が一定の段階に達したことを利用者に通知する。その後、さらに充電が継続されて、キャパシタの電圧が第2の閾値を超えた場合には、例えば緑色のLEDを点灯させるなどにより、キャパシタの充電が完全に完了したことを利用者に通知する。また、電圧計16がアナログ電圧計の場合、電圧表示部Dにおける各閾値を超えた目盛範囲のそれぞれに、例えば黄色、緑色の識別色を配することによって、それぞれの充電状態を利用者に通知してもよい。キャパシタの電圧は、一定電圧以上を維持する電池とは異なり、蓄積された電力によって変動するので、例えば電圧12Vのバッテリを内蔵した自動車のエンジンを始動させる場合、キャパシタの充電が完全には行えず、その電圧が12Vより低い状態であっても、エンジンを始動させることができる場合がある。そこで、このように段階的にキャパシタの充電状態を利用者に通知することで、可搬型エンジン始動装置は、エンジンを始動させる可能性がある状態をまず通知し、その後、充電が完了して確実にエンジンを始動させることのできる状態を通知することができる。こうすれば、キャパシタを完全に充電させるだけの電力がバッテリに残っていない場合であっても、この通知に従って、利用者はエンジンの始動を試みることができる。
【符号の説明】
【0054】
1a,1b,1c 可搬型エンジン始動装置、2 自動車、11 正極側クリップ、12 負極側クリップ、13 キャパシタ、14 電流制限部、15 電力供給線、16 電圧計、17 逆接続警告部、B バッテリ、M セルモータ、Sw1〜Sw5 スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置に内蔵されたエンジンを始動させるための可搬型エンジン始動装置であって、
前記駆動装置に内蔵されたバッテリの両極端子に対して接続可能な一対の接続端子と、
前記一対の接続端子の間に配置され、前記バッテリから供給される電力により充電されるキャパシタと、
前記一対の接続端子の一方と、前記キャパシタの一方端と、の間に配置され、前記キャパシタを充電する際に突入電流を制限する電流制限部と、
前記電流制限部と並列に接続され、前記エンジンを始動させる際に前記キャパシタから放電される電力を前記駆動装置に供給する電力供給線と、
を含むことを特徴とする可搬型エンジン始動装置。
【請求項2】
請求項1記載の可搬型エンジン始動装置において、
前記電力供給線上に配置され、前記キャパシタから放電される電力を前記駆動装置に供給する際にオンに切り替えられるスイッチ部をさらに含む
ことを特徴とする可搬型エンジン始動装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の可搬型エンジン始動装置において、
前記電流制限部がチョークコイルである
ことを特徴とする可搬型エンジン始動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載の可搬型エンジン始動装置において、
前記キャパシタを複数備え、
前記複数のキャパシタが直列に接続された状態と、並列に接続された状態と、を切り替えるスイッチをさらに含む
ことを特徴とする可搬型エンジン始動装置。
【請求項5】
キャパシタを内蔵する可搬型エンジン始動装置を用いて、駆動装置に内蔵されたエンジンを始動させるエンジン始動方法であって、
前記駆動装置に内蔵されたバッテリの両極端子に対して、前記可搬型エンジン始動装置が備える一対の接続端子を接続するステップと、
前記一対の接続端子の一方と、前記キャパシタの一方端と、の間に配置された電流制限部により突入電流を制限しながら、前記バッテリから供給される電力により前記キャパシタを充電するステップと、
前記電流制限部と並列に接続された電力供給線を経由して、前記キャパシタから放電される電力を前記駆動装置に供給して前記エンジンを始動させるステップと、
を含むことを特徴とするエンジン始動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−47338(P2011−47338A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197381(P2009−197381)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】