説明

可搬式濃縮装置

【課題】冷却水を使用しないコンパクトな構成にすることで、容易に運搬して分析実験室、研究室以外の場所で簡易に利用できると共に、そのランニングコストを低減する。
【解決手段】試料を入れた試料容器1を包むように加熱するマントルヒーター2と、試料容器1内を減圧し、試料中の溶媒を吸引除去する真空ポンプ3と、から成り、マントルヒーター2の下流に、加熱した試料中の溶媒をファン5で冷却するラジエータ4と、ラジエータ4の下流に、試料中のミストを除去するミストキャッチャー6とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電所の給水系統などの各装置における水質を分析する技術に係り、特に給水系統への補給水、循環水及び蒸気などの水質に含まれる低濃度の不純物を測定する際に、その分析試料を濃縮する可搬式濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所におけるの給水系統は、ボイラ・タービンの循環系統への良質な補給水等の1次処理水及びボイラ・タービンを循環する水および蒸気等の2次処理水の水質を諸装置の所定の検査箇所において定期的に検査して水質管理を実施している。その異常があれば、その水質改善のための保守を行っている。例えば、給水系統中に含まれるアルミニウムの濃度を測定している。
【0003】
水に含まれる低濃度の不純物を測定する際に、その分析試料を濃縮するために、ロータリーエバポレーターが利用されている。このロータリーエバポレーターは、図3に示すように、濃縮する試料を入れたフラスコ51を装着するガラス管と、このフラスコ51と共にガラス管を回転させるモーター、蒸発した溶媒を冷却して液体に戻すためのリービッヒ管等の冷却器52、液体に戻った溶媒を受けるための溶媒溜めから成る装置である。操作時にはフラスコ51は加熱水槽53により加熱し、冷却器52から真空ポンプ54に結合して装置内を減圧する。フラスコ51を回転させることによって壁面に薄い液膜を形成させ、これによって加熱の効率を高めている。表面積の増加により溶媒の蒸発の効率を高め、試料を濃縮することができる。このようなロータリーエバポレーターは、主に分析実験室、研究室内で用いる装置である。この濃縮装置は、加熱水槽53と凝縮水の水流ポンプの組み合わせになる。
【0004】
低濃度の不純物を測定する際に利用する濃縮分析技術に関しては、例えば特許文献1の特開平5−273196号公報「試料水の濃縮装置」に示すように、加熱手段と、減圧手段とを備え、試料水を蒸発濃縮するエバポレータ、該エバポレータの減圧を利用して試料水をエバポレータに給水する給水手段、前記エバポレータ内の試料水の重量を測定する試料水の重量測定手段、前記エバポレータの凝縮部に冷却水を供給し、蒸発した試料水の水蒸気を冷却して凝縮水とする凝縮手段、該凝縮水を計量する凝縮水の計量手段を有する試料水の濃縮分析装置が提案されている。
【特許文献1】特開平5−273196号公報
【0005】
一方、火力発電所の給水系統などの各装置における水質について、試料を分析実験室、研究室に持ち帰ることなく、火力発電所の現場でそれぞれの分析を実施したいという要望があった。このような発電所に限らず、分析実験室、研究室以外の場所、例えば屋外でも水質を分析、測定する場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したようなロータリーエバポレーターによる濃縮装置は、一般的に水を用いた加熱・冷却装置と水流ポンプによるエジェクター方式が主流であり、その使用に際して常に水の確保が必要であり、分析実験室、研究室以外での実施が困難であるという問題を有していた。
【0007】
また、特許文献1の試料水の濃縮装置は、連続使用による水温の上昇から真空効率が低下しやすいという問題も有していた。
【0008】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、冷却水を使用しないコンパクトな構成にすることで、容易に運搬して分析実験室、研究室以外の場所で簡易に利用できると共に、そのランニングコストを低減することができる可搬式濃縮装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、火力発電所等の給水系統における補給水、循環水等の水質を分析する際に、その試料を濃縮する可搬式濃縮装置であって、前記試料を入れた試料容器(1)を包むように加熱するマントルヒーター(2)と、前記試料容器(1)内を減圧し、試料中の溶媒を吸引除去する真空ポンプ(3)と、から成り、前記マントルヒーター(2)の下流に、加熱した試料中の溶媒をファン(5)で冷却するラジエータ(4)と、該ラジエータ(4)の下流に、試料中のミストを除去するミストキャッチャー(6)と、を備えた、ことを特徴とする可搬式濃縮装置が提供される。
前記ミストキャッチャー(6)は、除去するミストの種類に応じて複数個設置することが好ましい。
例えば、前記ラジエータ(4)はフィン付きラジエータである。
前記ミストキャッチャー(6)と真空ポンプ(3)との間に乾燥剤(7)を備えることが好ましい。
【0010】
また、試料を入れた試料容器(1)を包むように加熱するマントルヒーター(2)と、
前記試料容器(1)内を減圧し、試料中の溶媒を吸引除去する真空ポンプ(3)と、から成り、前記試料容器(1)内に攪拌用の空気を取り込む吸引管(11)を、該試料容器(1)に備えたものにすることができる。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の本発明では、試料の加熱装置としてマントルヒーター(2)を利用することで、試料を所定の温度に加熱する温度設定を、冷却水による冷却装置を用いた濃縮装置と比較して正確に行なうことができる。また、本発明は冷却水を使用せず、ファン(5)による冷却装置であるために、冷却水を利用したリービッヒ管等の冷却装置と比較して、その操作が簡単であり、ランニングコストも低減することができる。
【0012】
本発明は、主要器具がマントルヒーター(2)と真空ポンプ(3)であり、冷却水を使用しないので、容易に運搬することができる。そこで、分析実験室、研究室以外の場所でも容易に利用することができる。例えば、屋外でもマントルヒーター(2)、真空ポンプ(3)及び冷却ファン(5)の駆動用の電源が確保できれば実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の可搬式濃縮装置は、試料容器を包むように加熱するマントルヒーターと、試料容器内を減圧し、試料中の溶媒を吸引除去する真空ポンプと、から成る分析装置である。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は実施例1のマントルヒーターを用いた可搬式濃縮装置の構成図である。
実施例1の可搬式濃縮装置は、分析する試料を入れた試料容器1を包むように加熱するマントルヒーター2と、この試料容器1内を減圧し、試料中の溶媒を吸引除去する真空ポンプ3とから成る。
【0015】
マントルヒーター2は、試料を入れたフラスコ等の試料容器1を包むように加熱する加熱装置である。このマントルヒーター2は、温度調節器を備え、試料の加熱装置として、従来のロータリーエバポレーターの加熱槽に比較して任意の温度設定が容易である。例えば、400℃まで微調節できるようになっている。本発明が加熱装置として、マントルヒーター2を用いているのは、400℃近くまで高温にすることで、その後の冷却を空冷にするためでもある。
【0016】
マントルヒーター2の下流にラジエータ4を備えた。このラジエータ4により、加熱した試料をファン5で冷却し、凝縮する。ラジエータ4は冷却効率が高いフィン付きラジエータを用いる。冷却装置として一般的に水を利用したリービッヒ等を使用しているのが主である。しかし、本発明ではフィン付きラジエータを用いた冷却装置で水に比較して操作が簡単であり,ランニングコストを低減することができる。
【0017】
この試料容器1内は真空ポンプ3で負圧吸引し、減圧蒸留し、試料を濃縮する。この真空ポンプ3とラジエータ4との間にミストキャッチャー6を配置する、このミストキャッチャー6で試料中のミストを除去する。
なお、ミストキャッチャー6は、除去するミストの種類に応じて複数個設置することが好ましい。
更に、ミストキャッチャー6と真空ポンプ3との間に乾燥剤7を備えることが好ましい。
【0018】
このように構成した可搬式濃縮装置では、試料の加熱装置としてマントルヒーター2を利用することで、試料を所定の温度に加熱する際に温度設定を正確に行なうことができる。また、本発明は冷却水を使用しない、ファン5による冷却装置であるために、その操作が簡単であり、ランニングコストも低減することができる。
【0019】
特に、主要器具がマントルヒーター2と真空ポンプ3であり、冷却水を使用しないので、容易に運搬することができる。分析実験室、研究室以外の場所屋外でも容易に利用することができる。屋外でもマントルヒーター2、真空ポンプ3及び冷却ファン5の駆動用の電源が確保できれば実施することができる。即ち、冷却水を使用しないことから,電源さえあれば何処でも利用できる。
【実施例2】
【0020】
図2は実施例2のマントルヒーターと真空ポンプとから成る可搬式濃縮装置の構成図である。
実施例2の可搬式濃縮装置は、試料を入れた試料容器1を包むように加熱するマントルヒーター2と、試料容器1内を減圧し、試料中の溶媒を吸引除去する真空ポンプ3と、から成り、試料容器1内に攪拌用の空気を取り込む吸引管11を、試料容器1に備えている。
【0021】
実施例2の可搬式濃縮装置では、気密性は低下するが、精度の低い水質分析に適している。可搬式濃縮装置として、主要器具がマントルヒーター2と真空ポンプ3のみであるので、実施例1の装置に比較して更に容易に運搬することができる。
【0022】
なお、本発明は、冷却水を使用しないコンパクトな構成にすることで、容易に運搬して分析実験室、研究室以外の場所で簡易に利用できると共に、そのランニングコストを低減することができれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の可搬式濃縮装置は、マントルヒーターを任意の温度域での濃縮操作が容易であり、火力発電所の給水系統などの発電に関連ある諸装置における水質分析装置以外に、様々な分野の水質分析に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1のマントルヒーターを用いた可搬式濃縮装置の構成図である。
【図2】実施例2のマントルヒーターと真空ポンプとから成る可搬式濃縮装置の構成図である。
【図3】従来のロータリーエバポレーターを用いた濃縮装置の構成図である。
【符号の説明】
【0025】
1 試料容器
2 マントルヒーター
3 真空ポンプ
4 ラジエータ
5 ファン
6 ミストキャッチャー
7 乾燥剤
11 吸引管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火力発電所等の給水系統における補給水、循環水等の水質を分析する際に、その試料を濃縮する可搬式濃縮装置であって、
前記試料を入れた試料容器(1)を包むように加熱するマントルヒーター(2)と、
前記試料容器(1)内を減圧し、試料中の溶媒を吸引除去する真空ポンプ(3)と、から成り、
前記マントルヒーター(2)の下流に、加熱した試料中の溶媒をファン(5)で冷却するラジエータ(4)と、
該ラジエータ(4)の下流に、試料中のミストを除去するミストキャッチャー(6)と、を備えた、ことを特徴とする可搬式濃縮装置。
【請求項2】
前記ミストキャッチャー(6)は、除去するミストの種類に応じて複数個設置した、ことを特徴とする請求項1の可搬式濃縮装置。
【請求項3】
前記ラジエータ(4)はフィン付きラジエータである、ことを特徴とする請求項1の可搬式濃縮装置。
【請求項4】
前記ミストキャッチャー(6)と真空ポンプ(3)との間に乾燥剤(7)を更に備えた、ことを特徴とする請求項1の可搬式濃縮装置。
【請求項5】
火力発電所等の給水系統における補給水、循環水等の水質を分析する際に、その試料を濃縮する可搬式濃縮装置であって、
前記試料を入れた試料容器(1)を包むように加熱するマントルヒーター(2)と、
前記試料容器(1)内を減圧し、試料中の溶媒を吸引除去する真空ポンプ(3)と、から成り、
前記試料容器(1)内に攪拌用の空気を取り込む吸引管(11)を、該試料容器(1)に備えた、ことを特徴とする可搬式濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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