説明

可搬式足場

【課題】船舶内に形成されているタンクなどの区画内の溶接箇所などを接近して点検する際に使用する軽量で搬入・搬出し易く、且つ区画内で固定もできる足場を提供する。
【解決手段】軽量で船体の小さな開口部より搬入できる幅の足場板1と、この足場板の両側に設けられたソケットと、このソケットに嵌入して保持される柱体と、柱体の少なくとも上部と中間部とにロープ6を個縛するためのロープ固定具と、足場板の一端部に固定され、柱体を介して他端部の固定されて手摺7を形成するロープとからなる可搬式足場100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は狭い場所、特に船舶の内部の局部位置に接近して点検などの作業を行うことができる可搬式の足場に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の液体貨物を運ぶ船舶の場合、復元性や積荷の量などによってプロペラの浮上がりを防止するために喫水などを調節するために海水を給水・排水するバラストタンクタンクや原油等の貨物を積載するカーゴタンクを備えている。従来このような船舶においてバラストタンク内などを検査したり、時には簡単な修理したりする場合があるが、この際には可搬式足場(プラットホーム)が使用されている。
【0003】
一般的に使用されている足場は、長尺で高強度の足場板を使用したものであり、この足場は板厚が厚く、しかも高強度な材質を使用しているために、重量が大きくて持ち運びが不便であり、この長尺で重量のある板材を足場が悪くて狭いタンク内の限られた位置に架けるのに複数の人手と時間がかかるなどの問題があった。
【0004】
そこで持ち運び易くするため長い板材を半分の長さに分割し、これらをヒンジで連結し、更に強度を強くするために連結部に板材の幅方向に桁板を起伏自在に設け、この板材と桁板とが「ト形」となった状態で板材の両端と、桁板との間をワイヤで、側面視において二個の直角三角形の短片を背中合わせにして反対側の長片を形成する表面を直線状に形成した板材の上に作業者が乗るように構成したものが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、板状の足場材の中央部に短い距離をおいて2本の吊手をヒンジで連結し、更に足場材の両端に懸垂杆をヒンジで仰伏自在に連結し、更に板材より離れた位置で吊手と懸垂杆を連結して平行四辺形形に構成した船倉用足場が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−264821号公報
【特許文献2】特公平1−38038号公報
【0007】
前記特許文献1に記載された発明は、板材を二つ折りにするのでその長さが足場の半分となる利点がある。しかし、これらの板材を伸ばして一枚の長尺の板にすると共にヒンジで連結した部分に桁板を直角に立ち上げ、更に板材の両端と立ち上がった桁板とを結んで斜めにワイヤで連結して2個の三角形の補強構造を形成しなければならない。このことは狭い空間内での組立作業が困難となると共に、狭い空間の大きさによってはその中で組み立てることができなくなる欠点がある。
【0008】
また、特許文献2に記載された足場は、重量がかなり重いので、チェンを逆V形にして2本の懸垂杆の先端部に連結し、チェンの折り曲げ部をチェンブロックで吊り上げるので足場がコンパクトな状態で船体の甲板に開口された穴、または一般のタンクの上部に開口されている穴の中に吊り降ろすことが可能である。
【0009】
しかし、バラストタンクの縦方向の隔壁にあけられた横穴の場合には、重量物であり、且つチェンブロックを使用して垂直方向に立ち上げた状態で運搬される足場の場合はタンク内の所定の場所に搬入する際にはチェンブロックを使用することができないことから多くの人手によって運搬し、搬入しなければならないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来の装置に比較して軽量であり、主要部材を一体化する事で組立時間を最小としかつ安全性の向上を図ったものである。従って一人あるいは二人程度の少人数で運搬でき、狭い穴、例えば600mm×800mmの長穴開口より搬入して所定の場所へ簡単に運搬して船内の定められた場所へ移動でき、そして現場で組立てて安全に設置し、点検作業、特に接近点検を行った後、簡単に分解して搬出することができる可搬式足場を提供することを目的とするものである。
【0011】
本発明に係る可搬式足場は、船内の升目区画(例えば4.9m×3.3m)内に一人あるいは二人で出し入れが可能であり、安全に点検場所に接近して局部点検作業ができることができるように、各部材を小型化、軽量化し、現場において組立てて使用し、点検が終われば分解して短時間に撤去できる足場を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1.本発明にかかる可搬式足場は、作業員が手持ちできる程度の重量と、運ぶ際に船体の開口を通過できる幅と、使用する場所に配置できる長さを持つ足場板と、この足場板の両側に設けられたソケットと、このソケットに嵌入して保持される柱体(スタンション)と、上記柱体の少なくとも上部と中間部とに手摺の役目をするロープを個縛するためのロープ固定具と、前記足場板の一端部に固定され、柱体を介して他端部が固定されて手摺を形成するロープとからなることを特徴としている。
【0013】
本発明に係る可搬式足場は、一人の作業員が持つことができる程度に軽量であり、特に大型船舶のバラストタンクに設けてある小さな開口部より搬出入できる程度の幅で、しかも船倉の升目区画に横たえたり据付操作ができる長さの足場板を、作業員が乗る部分として採用する。
【0014】
2.前記足場板は、足場板の周囲の外形に合わせて形成された枠体と、この枠体の上面を閉鎖するように固定された表面板と、前記枠体の内部に配置された補強部材と、前記枠体の少なくとも四隅に取り付けられた束部と、前記足場板の下方に延びて船体の開口部の周囲と係合する固定具とからなることを特徴としている。
【0015】
3.前記足場板と、この足場板の側部に固定されているソケットと、このソケットに嵌入して支持される柱体は、アルミニューム材で構成されていることを特徴としている。
【0016】
4、船体と接触する足場板の部分、この足場板の下方に延びる束部下面と更に固定具に、船体側の塗装膜を保護する手段が設けられていることを特徴としている。
5.前記固定具は、船体形状に合わせてスライドさせることも可能で、一台で船体前後部の曲がり部での使用も可能であり、一台で上甲板裏側の貨物倉全域を点検できる足場であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば下記の効果を奏することができる。
1)本発明に係る可搬式足場は、例えば、W.B.TKの上甲板や中間デッキの裏側での接近点検や貨物倉部の溶接個所等の一部あるいは全部を短時間で点検をすることができる。
2)本発明に係る可搬式足場は、主要部材を一体化し、手摺部のみが分解可能で、且つ小型で軽量である。足場板はバラストタンクなどに設けてある小さな開口部より搬入できる程度の幅で、船倉の升目区画内に横たえることができる長さで、手摺は分解組立てが可能であるので、所定の場所に短時間に可搬式足場を分解状態で搬入し、現場で組立て設置することができる。
3)また、本発明に係る簡易足場は、前記の特徴を有するので、一人あるいは二人程度の少人数で所定の場所に搬入し組立て、この足場を利用して必要な箇所に接近して点検作業ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る可搬式足場の正面図である。
【図2】同上可搬式足場の平面図である。
【図3】同上可搬式足場の側面図である。
【図4】可搬式足場を開口部に架け渡した状態を示す斜視図である。
【図5】柱体(スタンチョン)とこれの下端部を嵌入支持するソケットを示す図である。
【図6】足場板を開口部に固定するための固定具の側面図である。
【図7】手摺を形成するロープ固定部の平面図である。
【図8】バラストタンクの開口部に可搬式足場を架け渡した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
本発明にかかる可搬式足場100は、図1〜図3に示すように必要かつ充分なサイズとする。具体的には、この足場100を使用して検査する場所、例えばバラストタンクなどに設けられてある小さな開口部より搬出入できる“幅”と、検査する場所、例えばバラストタンクなどに設けられている升目区画に横たえることができる“長さ”を有するものである。
【0020】
更に通常の体格の作業員が一人あるいは二人で持ち運ぶことができる“軽量な”足場板1を基礎部材とする。つまり、本発明の足場100は運搬時には個々に分解されており、各部材の大きさ及び重量は、運搬する場所まで手持ちでき、その狭い空間で組立てができるように設計する。
【0021】
そしてこの足場板1の両側部に所定の間隔をおいて各2個のソケット2を嵌入口を上方に向けて固定し、また、足場板1の四隅の下方に束部3を固定し、更に船体のバラストタンクなどを構成している仕切り板Aの所定の位置に開口されている開口部Bの全周あるいは一部に断面がT型(左)あるいはL型(右)に形成された補強板C、C’と係合する固定具4を設けている(この実施例の場合は左側)。
【0022】
前記足場板1に設けたソケット2に手摺用のパイプからなる柱体5を嵌合固定する。そしてこの柱体5の上端部と中央部とに設けたロープ固定具8にロープ6,6aを巻付け、更に足場板1の前後両側に図2及び図7に示すように、ロープ巻締部10(クリート:十字形、T形の部材で小型船舶やヨットに使用される部材)にロープ6、6aを巻付け、緊張させてロープ6、6aによる手摺を形成している。
【0023】
前記ソケット2は固定装置付で、ソケット2に柱体5を挿入した時に、自動的に固定でき、また、簡単に分解できる固定機構を持つ部材を採用する。
【0024】
ロープ固定部具8は、ロープ6,6aを柱体5を通して個縛することで手摺を構成することができ、特別に抜け防止の固定具を使用しなくても柱体5と足場板1とを固定できる機構の部材を使用する。
【0025】
また、図4に示すように前記開口部Bの周囲の一部あるいは全周には柱体7aと横バー7b、7cが二段に配置されたハンドレール7が設けられており、このハンドレール7にロープ6、6aを巻付けて動き易い可搬式足場100を確実に船体に固定する。
【0026】
しかし、船体構造によってはハンドレール7ではなく単なる握り棒が設けてある場合もあるが、この場合でも本発明に係る可搬式足場100を握り棒に結んで位置決めすることができる。
【0027】
図5は可搬式足場100の足場板1の側面に設けたソケット2(固定装置付)と、これに嵌合されるロープ式手摺を形成する柱体5との関係を示す図であって、ソケット2は上部に斜めのガイド面2gが形成され、一方、柱体5側に係止体2sが固定され、この係止体2sの下面に前記ガイド面2gに合致するガイド面2gが形成されている。また、この柱体5の側面には手摺であるロープ6、6aを固定するためのロープ固定具8が設けられている。
【0028】
(各部の構成)
次に各部の構成について具体的に説明する。
【0029】
A.可搬式足場100の主要部材について
本発明に係る可搬式足場100は、次の設計思想に基づいている。
【0030】
1)第1点は、図8に示すように船体Sに形成される升目区画は、例えば4.9m×3.3mのものが多いが、このような狭隘な升目区画内での機動性を重視し、足場板1の大きさの基準として長さが2.5m、幅が0.4mの長方形の寸法を標準としている。しかし、船舶の構造に合わせて足場100の構造を変更する必要があり、この要請に合わせて寸法を変化させて設計することができる。
【0031】
2)第2点は、手持ちで運搬できることが必要であり、そのために足場板1(これは分解できない部材)の重量を経験的に20Kg前後として、一人でも狭い開口部を通じて運搬できるように軽量な構造としている(図1、図2)。
【0032】
3)第3点は、前記のよおうに足場100は軽量であることが重要であるから、足場板1などの主要部材の材質は、耐食アルミ材を使用ながら要求される重量を安全に支持できる構造、例えば力骨などの強度部材を設けた構造とする。
【0033】
足場板1は、図2及び図4に示すように縦方向に長い部材で形成した長方形の枠体1bと、枠体1bの開口部の上面に軽量なアルミ板からなる表面板1aを溶接によって固定する。
【0034】
また、表面板1aを溶接した枠体1bの裏面の空間には、図1及び図2に示すようなアルミ材の型材などを使用して構成した力骨(1c、1d、1e、1f・・)を縦・横、更に斜めに溶接によって配置し、作業者が一人、時には二人乗っても安全に支持できるように曲げや捻りの荷重に対して十分に耐えることができる強度を持つ構造を採用する。
【0035】
4)第4点は、足場板1の表面板1aは、作業者が滑らずに安心且つ安全に点検作業が出来るように“突起”をプレス加工などによって設けている。
【0036】
5)第5点は、例えば、船体に直接接触する部材(束部3)の下面にはゴムなどの緩衝部材を設けて船体への塗装ダメージを最小限としている。
【0037】
6)第6点は、区画内において足場100の移動・設置ができるように特別な装置(例えばチェンブロックなどの吊り手段)を使用せず、足場板1の形状そのものを手をかけ易い、つまり、持ち易く、運び易い形状に設計する。
【0038】
B.手摺は着脱・組立式である。
1)安全を確保するため柱体5(スタンチョン)は耐食加工を施したアルミパイプを使用し、差込ソケット2は、自動簡易固定装置付とする。具体的には、図に示すソケット2と2sの端面が2gのように斜めにカットされスタンチョン(柱体4)の取付け向きが自動的に調整される装置を使用する。
【0039】
2)安全を確保するため、手摺としてロープ6,6aを使用することによって各種の船体構造との取り合いに対応することができる構成とする(図4)。つまり、船体に配置されている既設のハンドレール7など、連結し易い固定構造物に個縛・結束して連結できるようにして船体と一体感を出すように配慮する。
【0040】
3)手摺であるロープ6,6aの個縛方法としてロープの結束に多く使用されているクリートやビット(図7)を採用し、簡便かつ確実に足場を組立てることができるように構成する。
【0041】
4)ロープ6,6aを所定の位置に個縛することによってアルミパイプ製の柱体5(スタンチョン)の抜け防止を確実にする。
【0042】
5)柱体5のソケット2への差込み位置を、足場板1の左右で選択することによって、同じ足場100を使用しても右舷、左舷に適宜対応することができる。従って、点検場所によっての可搬式足場100の選択作業を考慮する必要がない。
【0043】
C.固定装置
1)足場100を固定するために工具を必要としない構造を採用する。
【0044】
2)足場板1を船体Sに確実に固定するための強度を有する必要性を考慮して、アルミ材を主体とするが、特に強度を必要とする小型の部分ないし部材によっては、ステンレス材を併用して使用することも考慮する。
【0045】
3)足場100が船体Sと接触する部位には、塗装保護材を施して船体Sの塗装のダメージを防止する構成とする。
【0046】
(可搬式足場の使用方法)
次に本発明に係る可搬式足場100の具体的な使用法について説明する。
図8は船体Sの断面構造(例えば、バラストタンク)を示すもので、補強された鉄板製の区画110内の隔壁111に長穴開口120(マンホール)が、また、甲板112に開口Xが設けてある。この区画110を構成する甲板112、隔壁113などには多数の骨材115が溶接によって設けてある。この区画110の仕切り板A(床板)には開口部Bが形成されており、例えば、前記リブ115の溶接箇所の状態を検査するためには、前記開口部Bの部分に作業者Mが立たなければならない。
【0047】
そこで、この開口部Bを横切るように足場100を置き、更に図1〜4を参照して説明したように開口部Bの周囲に設置されているハンドレール7(手摺)にロープ6、6aで縛り付けながら足場板1の片側に手摺を完成し、作業者Mの安全を確保する。このように足場100が準備されたならば、作業員Mはこの足場100を利用して予定された点検作業を行う。
【符号の説明】
【0048】
100 可搬式足場
110 区画
111 隔壁
120 長穴開口
121 甲板
1 足場板
2 ソケット
3 束部
5 柱体
6,6a ロープ
7 ハンドレール(手摺)
8 ロープ固定具
A,A‘ 床
B 開口部
C、C‘ 補強板
S 船体
X 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の点検箇所に開口された開口の幅よりも狭く、使用する区画内において設置できる長さの足場板と、この足場板の両側に設けられたソケットと、このソケットに嵌入して保持される柱体と、上記柱体の少なくとも上部と中間部とに手摺の役目をするロープを個縛するためのロープ固定具と、前記足場板の一端部に固定され、柱体を介して他端部に固定されて手摺を形成するロープとからなる可搬式足場。
【請求項2】
前記足場板は、足場板の周囲の外形に合わせて形成された枠体と、この枠体の上面を閉鎖するように固定された表面板と、前記枠体の内部に配置された補強部材と、前記枠体の少なくとも四隅に取り付けられた束部と、前記足場板の下方に延びて船体の開口部の周囲と係合する固定具とからなる請求項1に記載の可搬式足場。
【請求項3】
前記足場板と、この足場板の側部に固定されているソケットと、このソケットに嵌入して支持される柱体はアルミニューム材で構成されている請求項1或いは2の何れかに記載の可搬式足場。
【請求項4】
船体と接触する足場板の部分、この足場板の下方に延びる束部下面と更に固定具に、船体側の塗装膜を保護する手段が設けられている請求項1ないし3の何れかに記載の可搬式足場。
【請求項5】
前記固定具は、船体形状に合わせてスライドさせることも可能で、一台で船体前後部の曲がり部での使用も可能であり、一台で上甲板裏側の貨物倉全域を点検できる足場であることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の可搬式足場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−210884(P2012−210884A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78132(P2011−78132)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)