説明

可撓性基板の位置制御装置

【課題】安定的な制御力が得られ、基板の下垂や皺の発生を抑制して処理が行える位置制御装置を提供する。
【解決手段】基板の上側縁部の一方面に転接する第1ローラ23と、第1ローラと基板の搬送方向に対して略同位置で、上側縁部の他方面に、第1ローラの転接地点の2地点24a,24bで転接する第2ローラ24と、両ローラを、各転接地点における回転方向が基板の搬送方向に対して斜上方に向かう微小偏角を有するように回転可能に支持し、かつ、一方が他方に対してまたは相互に接離可能な一対の支持部材25,26と、一対の支持部材の一方または両方を相互に近接する方向に付勢する付勢手段51と、付勢手段を介して一対の支持部材の接離方向位置を調節する位置調節手段5と、を備え、両ローラで、基板の上側縁部を屈曲させつつ送出可能であり、接離方向位置の調節により基板の屈曲度に応じた持ち上げ力を付与可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の可撓性基板を搬送しその搬送経路にて前記基板に成膜等の処理を行なう装置における可撓性基板の幅方向位置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜などの薄膜積層体の基板には、通常、剛性基板が用いられるが、軽量でロールを介した取り扱いの利便性による生産性向上やコスト低減を目的として、プラスチックフィルムなどの可撓性基板が用いられる場合がある。特許文献1には、巻出しロールから供給される帯状可撓性基板(ポリイミドフィルム)を所定のピッチで間欠的に搬送しながら、前記可撓性基板の搬送方向に配列された複数の成膜ユニットで、前記可撓性基板上に性質の異なる複数の薄膜を積層形成し、製品ロールとして巻取る薄膜積層体(薄膜光電変換素子)の製造装置が開示されている。
【0003】
このような薄膜積層体の製造装置には、横姿勢すなわち帯状可撓性基板の幅方向を水平方向にして搬送しつつ成膜を行なうタイプと、縦姿勢すなわち帯状可撓性基板の幅方向を上下方向にして搬送しつつ成膜を行なうタイプがある。後者は、前者に比べて設置面積が小さく、基板表面が汚染されにくい等の利点があるが、光電変換層を複数設ける場合等、成膜ユニットの数が多くなり搬送スパンが長くなると、成膜部の両側のガイドローラのみで重力に抗して上下幅方向位置すなわち搬送高さを一定に維持するのが困難になり、可撓性基板の表面に皺が発生したり、可撓性基板が垂れ下がったりする傾向が顕著になる。
【0004】
そこで、多数並設された成膜ユニット(例えば、化学蒸着、物理蒸着などの真空蒸着ユニット)の間に、可撓性基板の上側縁部を挟持しつつ送出するグリップローラ対を設けることが提案されている(特許文献2〜4参照)。この装置では、各グリップローラ対の挟持部における回転方向が、可撓性基板の搬送方向に対して斜上方に向かう傾斜を有することで、可撓性基板に対して挟持圧および傾斜角に応じた持ち上げ力を付与し、それらを制御することで、可撓性基板の搬送高さを一定に維持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−72408号公報
【特許文献2】特開2009−38276号公報
【特許文献3】特開2009−38277号公報
【特許文献4】特開2009−57632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記グリップローラは、可撓性基板に対する安定的な把持力を得るために、ローラ表面に摩擦係数の大きいゴム材を使用している。しかし、成膜条件にも依るが、成膜ユニット間に設置されるグリップローラは高温度に曝される場合があり、耐熱性のゴム材を用いても把持力の変動やゴム材の劣化に伴う把持力の低下が懸念された。また、平坦なローラ周面による挟持は、ローラ表面の摩擦力に依存するため、接圧が小さくなる微調整領域で把持力を喪失する虞があり、安定的な制御を行なうために高度な接圧調整を必要とした。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温度下や微調整領域でも安定的な制御力が得られ、帯状可撓性基板を長距離に亘り搬送しつつも幅方向位置を一定に維持でき、下垂や皺の発生を抑制して高品質の処理が行える可撓性基板の位置制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することを目的として、本発明は、帯状の可撓性基板を縦姿勢で横方向に搬送しその搬送経路にて前記基板に処理を行なう処理装置における可撓性基板の上下幅方向の位置制御装置であって、前記可撓性基板の上側縁部の一方の面に転接する第1ローラ(23,27)と、前記第1ローラと前記可撓性基板の搬送方向に対して略同位置で、前記上側縁部の他方の面に、前記第1ローラの転接地点の上方および下方の2地点(24a,24b,28a,28b)で転接する第2ローラ(24,28)と、前記第1および第2ローラを、前記各転接地点における回転方向が前記可撓性基板の搬送方向に対して斜上方に向かう微小偏角を有するように回転可能に支持し、かつ、一方が他方に対してまたは相互に接離可能な一対の支持部材(25,26)と、前記一対の支持部材の一方または両方を相互に近接する方向に付勢する付勢手段(51,51′)と、前記付勢手段を介して前記一対の支持部材の接離方向位置を調節する位置調節手段(5)と、を備え、前記第1および第2ローラで、前記可撓性基板の上側縁部を屈曲させつつ送出可能であり、前記接離方向位置の調節により前記可撓性基板の屈曲度に応じた持ち上げ力を前記可撓性基板に付与可能に構成されている、可撓性基板の位置制御装置にある。
【0009】
本発明の主要な態様では、前記第2のローラが、前記2地点に対応した上下2つのローラ(24a,24b)で構成されている。また、前記第1のローラ(23,27)の周面の上下縁部(231,232,271,272)が断面円弧状をなし、前記第2のローラの上下2地点に対応する各周面の前記第1のローラに隣接したそれぞれの縁部(241,242,281,282)が断面円弧状をなしている。
【0010】
本発明の好適な態様では、前記第1のローラの周面の上下縁部(231,232,271,272)と、前記第2のローラの前記それぞれの縁部(241,242,281,282)とが、前記接離方向位置の調節により少なくとも一部において相互に当接可能であり、それらの間に前記可撓性基板を挟持可能である。前記第1のローラの周面の上下縁部に当接可能な前記第2のローラの前記上下縁部の少なくとも一部(285,286)が、前記第1のローラの周面に対応した断面凹円弧状をなしている。
【0011】
本発明において、前記可撓性基板の上下幅方向位置を検知する検知手段をさらに備え、前記検知手段の検出値に基づいて前記位置調節手段を駆動する駆動手段をさらに備えていることが好ましい。
【0012】
本発明のさらに好適な態様では、前記第1および第2ローラと前記可撓性基板の搬送方向に対して略同位置で、前記可撓性基板の下側縁部の一方の面に転接する第1下側ローラと、前記下側縁部の他方の面に、前記下側第1ローラの転接地点の上方および下方の2地点で転接する第2下側ローラと、前記第1および第2下側ローラを、前記各転接地点における回転方向が前記可撓性基板の搬送方向に対して斜下方に向かう微小偏角を有するように回転可能に支持し、かつ、一方が他方に対してまたは相互に接離可能な一対の下側支持部材と、前記一対の下側支持部材の一方または両方を相互に近接する方向に付勢する下側付勢手段と、前記下側付勢手段を介して前記一対の下側支持部材の接離方向位置を調節する下側位置調節手段と、をさらに備え、前記第1および第2下側ローラで、前記可撓性基板の下側縁部を屈曲させつつ送出可能であり、前記下側支持部材の接離方向位置の調節により前記可撓性基板の屈曲度に応じた引き下げ力を前記可撓性基板の下側縁部に付与可能に構成されている。
【0013】
本発明に係る可撓性基板の位置制御装置は、前記第1および第2ローラが可撓性基板の各側縁部にそれぞれ配設される場合、縦姿勢のみならず、横姿勢を含む下記の態様をとりうる。すなわち、本発明は、帯状の可撓性基板を搬送しその搬送経路にて前記基板に処理を行なう処理装置における可撓性基板の幅方向の位置制御装置であって、前記可撓性基板の各側縁部の一方の面に転接する各側の第1ローラと、前記各第1ローラと前記可撓性基板の搬送方向に対して略同位置で、前記各側縁部の他方の面に、前記各第1ローラの転接地点の幅方向外方および中央側の2地点で転接する各側の第2ローラと、前記各側の第1および第2ローラを、前記各転接地点における回転方向が前記可撓性基板の搬送方向に対して幅方向外方に向かう微小偏角を有するようにそれぞれ回転可能に支持し、かつ、それぞれの側で一方が他方に対してまたは相互に接離可能な各側一対の支持部材と、前記各側一対の支持部材のそれぞれの側における一方または両方を相互に近接する方向に付勢する各側の付勢手段と、前記各側の付勢手段を介して前記各側一対の支持部材のそれぞれの接離方向位置を調節する各側の位置調節手段と、を備え、前記各側の第1および第2ローラで、前記可撓性基板の各側縁部をそれぞれ屈曲させつつ送出可能であり、前記各接離方向位置の調節により前記可撓性基板の屈曲度に応じた展張力を前記可撓性基板に付与可能に構成されている、可撓性基板の位置制御装置にもある。
【0014】
上記態様において、前記各側の第2ローラが、それぞれ前記2地点に対応した2つのローラで構成されていても良く、さらに、先述した他の好適な態様をとりうる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る可撓性基板の位置制御装置は、上述したような構成により、各転接地点における回転方向が可撓性基板の搬送方向に対して斜上方に向かう微小偏角を有する第1および第2のローラで、可撓性基板の縁部を屈曲させつつ送出することで、前記偏角に応じた持ち上げ力を可撓性基板に付与可能であるとともに、前記支持部材を介して第1および第2のローラの接離方向位置を調節し、可撓性基板の屈曲度を調節することにより、可撓性基板に付与される持ち上げ力を調整可能であり、フィードバック制御等の制御手法を併用することで、可撓性基板の上下幅方向位置を一定に維持可能である。
【0016】
特に、上記のような可撓性基板の屈曲度に応じた持ち上げ力の調整は、可撓性基板の張力と剛直性を利用し、ローラ表面の摩擦係数に依存しない。そのため、ローラの材質に金属など、耐熱性や耐久性に優れた高強度材料を使用可能であり、それにより、成膜ユニットの熱や経時変化の影響を排除できる。したがって、高温度下や微調整領域でも安定的な制御力が得られ、上下幅方向位置を一定に維持して下垂や皺の発生を抑制し、高品質の処理が可能となる。
【0017】
本発明において、前記第2のローラが、前記2地点に対応した上下2つのローラで構成されている態様では、第2ローラの個々のローラ形状が簡素化され、かつ、第1ローラと第2のローラの部品を共通化できる。
【0018】
本発明において、前記第1のローラの周面の上下縁部が断面円弧状をなし、前記第2のローラの上下2地点に対応する各周面の前記第1のローラに隣接した上下縁部が断面円弧状をなしている態様では、第1および第2のローラによる可撓性基板の屈曲が大きい領域でも、可撓性基板に損傷を与えることがなく、かつ、第1および第2のローラの接離に伴う可撓性基板の屈曲度の変化に応じて、各ローラの断面円弧状縁部における可撓性基板との接触面積が増減することになり、可撓性基板に付与される持ち上げ力に対する良好な制御特性が得られる。
【0019】
本発明において、前記第1のローラの周面の上下縁部と、前記第2のローラの上下縁部とが、前記接離方向位置の調節により少なくとも一部において相互に当接可能であり、それらの間に前記可撓性基板を挟持可能である態様では、第1および第2のローラの近接度が小さい領域では、可撓性基板の屈曲による保持力のみが付与される一方、第1および第2のローラの近接度が大きい領域では、可撓性基板の屈曲に加えて、第1および第2のローラの上下縁部の挟持により大きな持ち上げ力が得られる。したがって、搬送スパンが長くより大きな持ち上げ力を恒常的に必要とする場合に有利である。
【0020】
さらに、本発明において、前記第1のローラの周面の上下縁部に当接可能な前記第2のローラの前記上下縁部の少なくとも一部が、前記第1のローラの周面に対応した断面凹円弧状をなしている態様では、上述した第1および第2のローラの上下縁部による挟持が、断面円弧状の第1ローラ周面と、断面凹円弧状の第2のローラ縁部または縁部から周面にかけての広い亘り漸次進行することで、持ち上げ力の大きい領域で良好な制御特性が得られる。
【0021】
さらに、本発明において、前記第1および第2ローラと前記可撓性基板の搬送方向に対して略同位置で、前記可撓性基板の下側縁部の一方の面に転接する第1下側ローラと、前記下側縁部の他方の面に、前記下側第1ローラの転接地点の上方および下方の2地点で転接する第2下側ローラと、前記第1および第2下側ローラを、前記各転接地点における回転方向が前記可撓性基板の搬送方向に対して斜下方に向かう微小偏角を有するように回転可能に支持し、かつ、一方が他方に対してまたは相互に接離可能な一対の下側支持部材と、前記一対の下側支持部材の一方または両方を相互に近接する方向に付勢する下側付勢手段と、前記下側付勢手段を介して前記一対の下側支持部材の接離方向位置を調節する下側位置調節手段と、をさらに備え、前記第1および第2下側ローラで、前記可撓性基板の下側縁部を屈曲させつつ送出可能であり、前記下側支持部材の接離方向位置の調節により前記可撓性基板の屈曲度に応じた引き下げ力を前記可撓性基板の下側縁部に付与可能に構成されているので、前記可撓性基板を上下に展張しつつその上下幅方向位置を制御可能であり、可撓性基板の下垂や皺の発生を抑制して高品質の処理を行なう上で一層有利である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明実施形態に係る製造装置の全体構成を示す概略平面図である。
【図2】本発明実施形態に係る製造装置の1つの成膜ユニットを示す概略平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】本発明第1実施形態に係る可撓性基板の位置制御装置を示す図3の要部拡大断面図である。
【図5】本発明第1実施形態に係る可撓性基板の位置制御装置を搬送方向上流側から見た要部拡大断面図である。
【図6】本発明第1実施形態に係る可撓性基板の位置制御装置のローラユニット付近を示す図3の要部拡大図である。
【図7】本発明第2実施形態に係る可撓性基板の位置制御装置のローラユニット付近を示す図6に対応する要部拡大図である。
【図8】本発明第1実施形態に係る可撓性基板の位置制御装置の変形例を示す図5に対応する概略図である。
【図9】本発明第3実施形態に係る可撓性基板の位置制御装置を搬送方向上流側から見た断面図概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る可撓性基板の位置制御装置が実施される薄膜積層体の製造装置100の全体構成を示す概略平面図である。図において、製造装置100、例えば、太陽電池用の薄膜光電変換素子を構成する薄膜積層体の製造装置100は、帯状の可撓性基板1(フレキシブルフィルム)の搬送系を構成する巻出し部10および巻取り部30を備え、可撓性基板1を縦姿勢で巻出し部10から巻取り部30へと所定ピッチで間欠的に搬送しつつ、それらの間の搬送経路に沿って配設された成膜部20で、可撓性基板1に複数の薄膜を順次積層形成するように構成されている。
【0025】
上記巻出し部10、成膜部20、巻取り部30を覆う各室構造は、相互に気密に連結され、装置全体が、所定の真空度に維持された共通の真空室内に収容されている。図示例の製造装置100は、2系統の薄膜積層体の製造ラインが平行にレイアウトされており、巻出し部10および巻取り部30は、各系統にそれぞれ配設されているが、成膜部20は、2系統に共通の室構造(40,40・・・)内に収容されている。
【0026】
巻出し部10は、巻出しロール11から可撓性基板1を巻出して供給する巻出し装置(11)、巻出された可撓性基板1を成膜部20に送給する巻出し側フィードローラ12、巻出し側のフィルム張力を検出する張力検出ローラ13aおよび13b、成膜部20の上流側で可撓性基板1を成膜部20に案内するガイドローラ14から主に構成されている。
【0027】
成膜部20の下流側に配設された巻取り部30は、成膜部20の下流側で可撓性基板1を案内するガイドローラ34、該ガイドローラ34における可撓性基板1の上下幅方向位置(搬送高さ)を制御する側端位置制御(EPC)ローラ35、アイドルローラ36、巻取り側のフィルム張力を検出する張力検出ローラ33aおよび33b、巻取り側フィードローラ32、および可撓性基板1をコアの周囲に巻取りロール31として巻取る巻取り装置(31)から主に構成され、張力検出ローラ33bは、フィルム張力を積極的に制御する機能も有している。
【0028】
上記巻出し部10および巻取り部30を構成する各ローラは、可撓性基板1を縦姿勢で搬送するために、何れも軸方向が鉛直方向に配向されている。但し、側端位置制御ローラ35は、その軸方向を鉛直方向に対して傾動可能に構成されており、前記ガイドローラ34における可撓性基板1の上下幅方向位置の検出値に基づいて回転軸を傾動させ、可撓性基板1の送出方向を上方または下方に微調整することにより、ガイドローラ34における可撓性基板1の上下幅方向位置を補正し、一定に維持可能としている。
【0029】
成膜部20は、巻出し部10と巻取り部30との間における可撓性基板1の直線的な搬送経路に沿って所定のピッチで配列された複数の成膜ユニット41で構成されている。成膜部20の室構造は、成膜ユニット41毎に区分された複数の室構造ユニット40からなり、各室構造ユニット40は相互に気密に連結され、先述した共通真空室の一部を構成している。各成膜ユニット41は、プラズマCVDなどの化学蒸着(CVD)や、スパッタなどの物理蒸着(PVD)を行なうための真空蒸着ユニットで構成される。
【0030】
例えば、可撓性基板1に光電変換素子を積層形成する薄膜太陽電池の製造装置100では、pin構造の光電変換層をプラズマCVDにより積層形成する複数の成膜ユニット41(a,b・・・)、前記光電変換層の表面および可撓性基板1の裏面にそれぞれ電極層をスパッタリングにより積層形成する複数の成膜ユニット41(i,j)を備えている。
【0031】
図2は、プラズマCVD用の1つの成膜ユニット41を概略的に示している。図において、成膜ユニット41は、相互に対向する面が開口された固定チャンバー42と、図示しない流体圧シリンダ等の進退駆動手段により前記固定チャンバー42に対して接離可能に設けた可動チャンバー43とを備え、固定チャンバー42内にはヒータ44aを内蔵した接地電極44が配設されている。また、可動チャンバー43内には、表面に多数のガス噴出孔を有する高周波電極45が配設され、この高周波電極45は、真空室外部の図示しない高周波電源に接続されている。
【0032】
上記成膜ユニット41は、可撓性基板1の間欠的な搬送サイクルの停止期間中に、可動チャンバー43を固定チャンバー42に圧接し、可撓性基板1を挟んだ状態で成膜チャンバー(42,43)を閉鎖した後、排気管45bを通じて成膜チャンバー(42,43)内をさらに減圧しながら、ガス導入管45aを通じて薄膜成分を含む原料ガスを成膜チャンバー(42,43)内に導入し、高周波電極45に高周波高電圧を印加してプラズマを発生させ、加熱された可撓性基板1の表面に原料ガスの化学反応により薄膜を形成可能である。
【0033】
薄膜太陽電池の発電効率を向上すべく光電変換層を複数設ける場合には、成膜ユニット41の総数は10以上になり、幅が1m以上の大型の可撓性基板1では、巻出し側ガイドローラ14から巻取り側ガイドローラ34に至る搬送スパンは10m以上にもなる。そこで、製造装置100には、成膜部20における可撓性基板1の上下幅方向位置を一定に維持するための位置制御装置が設けられている。
【0034】
位置制御装置は、図2および図3に示すように、成膜部20における各成膜ユニット41,41・・・の間で、可撓性基板1の上側縁部を転支する上側ローラユニット21,21′・・・、および、可撓性基板1の下側縁部を転支する下側ローラユニット22,22・・・を含み、それらのうち、少なくとも1つの上側ローラユニット21は、可撓性基板1に付与する持ち上げ力を制御可能に構成され、さらに、その搬送方向上流側で、可撓性基板1の上下幅方向位置を検知するセンサ49、該センサ49の検出値に基づいて前記少なくとも1つの上側ローラユニット21による持ち上げ力を制御する制御機構5および制御部50をさらに備えてなる。
【0035】
先述したように、成膜部20は、成膜ユニット41毎に区分された複数の室構造ユニット40からなり、各室構造ユニット40は、その周辺部に配設される主構造材46、該主構造材46に対して開閉可能に設けられている側壁47、主構造材46の上部に固定された天井パネル48などで構成されている。高周波電極45を含む可動チャンバー43およびその図示しない進退駆動手段は、各側壁47に取付けられている。各室構造ユニット40の接合部には、可撓性基板1を通過させるための開口460が各主構造材46を貫通して設けられており、この開口460の上側および下側において、各上側ローラユニット21,21′および各下側ローラユニット22は、それぞれの回転方向が搬送方向に対して斜上方および斜下方に向かう微小偏角α,βを有するように角度調整手段7を介して主構造材46に取付けられている。
【0036】
(第1実施形態)
図4および図5は、本発明の第1実施形態に係る上側ローラユニット21およびその制御機構5を示している。各図において、上側ローラユニット21は、可撓性基板1の上側縁部の表面に転接する第1ローラ23、上側縁部の裏面に転接する第2ローラ24、およびそれらを回転可能に支持しかつスプリング51を介して相互に接離可能に支持する可動側および固定側支持部材25,26で構成され、さらに、第2ローラ24は、第1ローラ23の転接領域の上方および下方に配置された上下2つのローラ24a,24bで構成されている。
【0037】
第2ローラ24を構成する上ローラ24aおよび下ローラ24bは、図5に示すように、固定側支持部材26の先端(下端)に設けた支軸26aに、それぞれベアリングを介して回転自在に支持されている。上下のベアリングは、それぞれ上方および下方への軸方向荷重を受圧可能なボールベアリングやアンギュラーコンタクトボールベアリングなどで構成され、中間にスペーサ24cが介装されることで、上ローラ24aおよび下ローラ24bの軸方向位置および間隔が固定されている。
【0038】
第1ローラ23も基本的には同様であって、可動側支持部材25の先端(下端)に設けた支軸(図示せず)に、前記下ローラ24bと同様に軸方向荷重を受圧可能なベアリングを介して回転自在に支持され、軸方向位置が固定されている。
【0039】
上記第1ローラ23および第2ローラ24の上下ローラ24a,24bは、いずれも金属製であり、同形状とすることで部品の共通化が図られている。この第1実施形態のローラユニット21では、図6に示すように、第1ローラ23が、周面の平坦部233の上下両側に断面円弧状の縁部231,232を有し、第2ローラ24の上下ローラ24a,24bも同様に、平坦部243,244の上下両側に断面円弧状の縁部241,242を有している。
【0040】
そして、上記第1ローラ23と、第2ローラ24の上下ローラ24a,24bとは、図6中矢印で示されるような接離方向の移動において、それぞれの平坦部233,243,244が相互に当接不可能である一方、第1ローラ23の上側縁部231と、上ローラ24aの下側縁部241、および、第1ローラ23の下側縁部232と、下ローラ24bの上側縁部242とが、相互に当接可能な軸方向位置に配設されている。
【0041】
上記構成により、第1ローラ23が第2ローラ24から離反し、可撓性基板1の裏面に第2ローラ24の上下の平坦部243,244のみが転接する状態から、第1ローラ23を第2ローラ24に接近させると、第1ローラ23の平坦部233が可撓性基板1の表面に転接し、第1ローラ23を第2ローラ24にさらに接近させるに伴い、第2ローラ24の上下の平坦部243,244と第1ローラ23の平坦部233との間で屈曲され、かつ各平坦部233,243,244から断面円弧状の各縁部231,241および232,242に転接領域が拡がり、第1ローラ23の更なる接近によって、第1ローラ23の上下縁部231,241と第2ローラ24の対応する縁部232,242とで可撓性基板1が屈曲状態で挟持されることになる。
【0042】
可撓性基板1として用いられるポリイミドフィルムなどのプラスチックフィルムは、フレキシブルではあるが剛直性であり、かつ、図1に示したように、成膜部20の上流側および下流側のガイドローラ14,34間で張力を付与されている。このような可撓性基板1の上側縁部が、第1ローラ23と第2ローラ24とで屈曲状態で転支されることで、その屈曲度に応じたローラ軸方向の保持力を生じることになる。この保持力は、ローラ表面の摩擦係数に依存せず、表面が平滑な金属ローラでも屈曲度に応じた保持力が得られる。
【0043】
先述した通り、第1ローラ23と第2ローラ24は、それぞれの転接領域での回転方向が、可撓性基板1の搬送方向に対して斜上方に向かう微小偏角αを有しているので、このような第1ローラ23と第2ローラ24で、可撓性基板1の上側縁部が屈曲されつつ送出されることで、可撓性基板1に屈曲度に応じた持ち上げ力が付与されることになる。したがって、第1ローラ23と第2ローラ24との接離方向位置を調節し、可撓性基板1の屈曲度を変化させることで、可撓性基板1に対する持ち上げ力を調整可能である。
【0044】
さらに、可撓性基板1の屈曲度が大きい状態で第1ローラ23の上下縁部231,241と第2ローラ24の対応する縁部232,242とによる挟持が加わることで、可撓性基板1に対する保持力が最大になる。一方、可撓性基板1の屈曲度が小さい領域では、各ローラ表面における搬送方向への滑りが主体的になるが、金属ローラの表面は平滑であるため、可撓性基板1への擦過による損傷が回避される。
【0045】
次に、上記第1ローラ23および第2ローラ24を回転可能に支持する可動側および固定側支持部材25,26およびそれらの接離方向位置を調節する制御機構5について説明する。
【0046】
第2ローラ24に対応する固定側支持部材26は、図4および図5に示すように、その基端(上端)部において、角度調整手段7を構成するブラケット71に固定されている。ブラケット71は、第2ローラ24の軸方向に対して垂直な支持部71aと、該支持部71aの一側から該支持部71aに対して垂直かつ上方に延びる基部71bとを有し、支持部71aに固定側支持部材26の基端部が固定されている。そして、ブラケット71の基部71bと、固定板70との間にシム73を介在させ、ボルト72で、基部71bを主構造材46の垂直面に固定することにより、シム73の厚さおよび/または枚数に応じてブラケット71の取付け角度を調整可能であり、それにより、固定側支持部材26に支持された第2ローラ24および固定側支持部材26に可動側支持部材25を介して支持された第1ローラ23の転接領域における微小偏角αを調整可能である。
【0047】
第1ローラ23に対応する可動側支持部材25は、図5に示すように、その中間部において、前記固定側支持部材26に固着されたブラケット26bの先端部に、軸25aを介して揺動可能に支持され、軸25aを中心とした可動側支持部材25の揺動により、第1ローラ23が第2ローラ24に対して接離可能となっている。
【0048】
さらに、可動側支持部材25は、前記中間部(25a)からクランク状に屈曲して上方に延出した腕部25bを有し、この腕部25bの先端に、スプリング51を支承するためのリテーナバー51aがナット51bで固定されている。リテーナバー51aは、腕部25bから、固定側支持部材26の基端部に向けて第2ローラ24の軸方向と交差する方向に延び、操作アーム53の先端部53aとの間にスプリング51を介装した状態で該先端部53aに挿通され、さらに、リテーナバー51aの先端部は、固定側支持部材26の基端部に設けた長孔26cに挿通されている。
【0049】
スプリング51により、可動側支持部材25の腕部25aが、操作アーム53から離反する方向に付勢され、軸25aを中心に腕部25aと反対側に位置した第1ローラ23が第2ローラ24側に付勢される。操作アーム53をリテーナバー51aに沿って変位させて、スプリング51の支持点を変位させることにより、スプリング51を介して、第1ローラ23と第2ローラ24との接離方向位置を調節可能である。
【0050】
操作アーム53は、その基端部において、回動軸54の下端に固定されている。回動軸54は、主構造材46にブラケット54bを介して固定された軸受54aで回動自在に支持され、その上端は、シール軸受6を介して室構造ユニット40の天井部(48)を貫通し、真空室(40)の外部で、レバー55を介してアクチュエータ56(リニアアクチュエータ)の出力軸56aに連結されている。
【0051】
シール軸受6は、天井パネル48の開口部480に、ベースプレート60やOリングなどを介して気密に取付けられており、そのハウジングの内部に、ベアリングおよび磁気シールを備えてなり、真空室内外の差圧を維持した状態で回動軸54を回動自在に支持可能であり、回動軸54を介してアクチュエータ56の駆動を真空室(40)の内部に伝達可能である。なお、シール軸受6および回動軸54が設置されない開口部480は、耐熱ガラスなどの透明部材が装着され、真空室内部を観察するための観察窓となっている。
【0052】
アクチュエータ56としては、図示例では、サーボモータの回転をネジ送り機構などで直線往復動に変換するリニアアクチュエータを用いているが、ロータリーアクチュエータを用いて駆動軸54を直接または間接的に回動するように構成することもできる。アクチュエータ56は、センサ49の検出値に基づいて制御部50から出力される制御信号によって進退または回転駆動される。
【0053】
センサ49は、図3に示すように、制御可能な上側ローラユニット21が設置された成膜ユニット41間に対して、1ユニット分だけ搬送方向上流側にずれた成膜ユニット41間に、プリセットタイプの上側ローラユニット21′に隣接して主構造材46に取付けられている。センサ49は、例えば、可撓性基板1の上端位置(上下幅方向位置)を非接触で検出する反射型または透過型の光学センサなど周知の位置センサを利用可能である。
【0054】
なお、プリセットタイプの上側ローラユニット21′および各下側ローラユニット22は、上述した制御可能な上側ローラユニット21における固定側支持部材26とスプリング51との間に、操作アーム53の代わりにリテーナバー51aに嵌合するスペーサを介装することで、共通のローラユニットから構成可能である。
【0055】
次に、上記実施形態に基づき、製造装置100による薄膜積層体の製造過程における可撓性基板1の上下幅方向位置制御について各図面を参照しながら説明する。
【0056】
図1において、可撓性基板1は、巻出し部10から成膜部20を経て巻取り部30へと所定のサイクルタイムで間欠的に搬送される。すなわち、可撓性基板1の間欠的な搬送サイクルの搬送期間では、成膜部20における各成膜ユニット41の可動チャンバー43は固定チャンバー42から離反しており、巻出し側フィードローラ12と巻取り側フィードローラ32とが同期して駆動され、可撓性基板1が、各成膜ユニット41の可動チャンバー43と固定チャンバー42との間を1ユニット分だけ搬送され、それに応じて、可撓性基板1が巻出しロール11から巻出され、かつ巻取りロール31に巻取られる。
【0057】
その際、成膜部20の上流側および下流側ガイドローラ14,34間での可撓性基板1のフィルム張力は、張力検出ローラ13bおよび33bによって一定に維持され、かつ、下流側ガイドローラ34における可撓性基板1の上下幅方向位置すなわち搬送高さは側端位置制御ローラ35によって一定に制御されており、さらに、成膜部20の各成膜ユニット41間において、位置制御装置を構成する各ローラユニット21,21′,22・・・で、可撓性基板1の上側縁部および下側縁部が転支されることにより、可撓性基板1の自重による垂下が抑制されるとともに、幅方向に展張されることで皺の発生が抑制される。しかし、先述したように、ガイドローラ14,34間の搬送スパンが長距離であり、かつ、可撓性基板1の物性が搬送方向に一様でないことにより、可撓性基板1の上下幅方向位置が上下に偏位する場合がある。
【0058】
そこで、可撓性基板1の1ユニット分の搬送が終了し、各成膜ユニット41の成膜チャンバー(43,42)が閉鎖され、搬送サイクルの停止期間中に成膜工程が実施されるのと並行して、略中央の成膜ユニット41(f)の下流側に設けたセンサ49が、可撓性基板1の上端位置(上下幅方向位置)を検知する。基準ラインから上方または下方に有意な偏位を生じている場合には、偏位方向や偏位量に応じた検出値が制御部50に取得され、制御部50は、この検出値に基づいて、アクチュエータ56を進退駆動し、上側ローラユニット21の第1および第2ローラ23,24の接離方向の位置を調整する。
【0059】
例えば、センサ49によって、可撓性基板1の上端が下方に有意な偏位を生じていることが検知された場合には、図4および図5において、アクチュエータ56の出力軸56aを偏位量に応じ前進させる。すると、出力軸56aの前進に応じてレバー55が回転し、レバー55の回転が回動軸54を介して操作アーム53に伝達され、操作アーム53の回転により、スプリング51の支持点(53a)が、可動側支持部材25の腕部25b側に変位し、第1ローラ23が第2ローラ24側に変位することによって、第1および第2ローラ23,24で屈曲状態に転支されている可撓性基板1の屈曲度が増加する。
【0060】
次いで、各成膜ユニット41の成膜工程が終了し、各成膜チャンバー(43,42)が開放された後、再び、巻出し側フィードローラ12と巻取り側フィードローラ32とが同期して回転され、可撓性基板1が、各成膜ユニット41に沿って1ユニット分だけ搬送されると、下側ローラユニット22の転接による引き下げ力に対して、上側ローラユニット21の転接による持ち上げ力が優勢となり、それによって、可撓性基板1が展張されつつ上方に引き上げられ、可撓性基板1の下方への偏位が補正される。
【0061】
可撓性基板1の1ユニット分の搬送が終了すると、再度、各成膜ユニット41の成膜チャンバー(43,42)が閉鎖され、次の成膜工程が実施され、これと並行して、前記同様にセンサ49により、可撓性基板1の上端位置が検知され、上側ローラユニット21の第1および第2ローラ23,24の接離方向の位置がさらに調整される。センサ49によって、可撓性基板1の上方への偏位が検知された場合には、上述したのと逆の操作で上側ローラユニット21による持ち上げ力が減少され、上方への偏位が補正される。
【0062】
このように、搬送サイクルの停止期間における成膜工程と並行した上下幅方向位置の検知とそれに基づく上側ローラユニット21の接離方向位置の調整プロセス、および、搬送期間における可撓性基板1の搬送力を利用した上下幅方向位置の補正プロセスが、交互に実行されることによって、可撓性基板1の上下幅方向位置が一定または所定の公差内に維持される。また、搬送期間中に上下幅方向位置の監視とそれに基づく上側ローラユニット21の接離方向位置の調整あるいは修正を実行することもできる。
【0063】
上記実施形態では、可撓性基板1を間欠的にステップ搬送しながら、その停止期間中に各成膜ユニット41で成膜工程を実施する製造装置100において、ステップ動作で上下幅方向位置制御を実施する場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、共通真空室内で可撓性基板を連続的に搬送しながら成膜を行なう成膜装置にも実施可能であり、その場合、センサで可撓性基板の上下幅方向位置を常時監視しながらそれに基づく上側ローラユニット21の接離方向位置の調整を実行することで、可撓性基板1の上下幅方向位置を一定または所定の公差内に維持可能である。
【0064】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る上側ローラユニット21Bについて図面を参照しながら説明する。第2実施形態の上側ローラユニット21Bも、図7に示すように、可撓性基板1の上側縁部の表面に転接する第1ローラ27、上側縁部の裏面に転接する第2ローラ28、およびそれらを回転可能に支持しかつ相互に接離可能に支持する可動側および固定側支持部材25,26で構成されている。第1および第2ローラ27,28が、可動側および固定側支持部材25,26に軸方向荷重を受圧可能なベアリングを介して回転自在に支持され、それぞれの軸方向位置が固定されている点は上述した第1実施形態と同様である。
【0065】
第1ローラ27は、基本的には第1実施形態と同様であるが、その周面271,272が第1実施形態より曲率の大きい断面円弧状をなす太鼓形ローラに近い形状となっている。一方、第2ローラ28は、前記第1ローラ27の周面271,272に対応した断面凹円弧状の周面285,286を含む1つの鼓形ローラで構成されており、第1ローラ27による転接地点の上方および下方に位置した縁部28a,28bにおいて、可撓性基板1に転接可能となっている。
【0066】
また、第1ローラ27は、断面円弧状の周面271,272の中間に部分的な平坦部273を有し、それに対応して第2ローラ28も、断面凹円弧状の周面285,286の中間に部分的な平坦部283を有している。さらに、第2ローラ28は、断面凹円弧状の周面285,286と上下両側の縁部28a,28bとを滑らかに連結する断面円弧状の縁部281,282を有している。
【0067】
上記構成により、第1ローラ27が第2ローラ28から離反し、可撓性基板1の裏面に第2ローラ28の上下の縁部28a,28bのみが転接する状態から、第1ローラ27を第2ローラ28に接近させると、第1ローラ27の平坦部273が可撓性基板1の表面に転接し、第1ローラ27をさらに接近させるに伴い、可撓性基板1が第2ローラ28の上下の縁部28a,28bと第1ローラ27の周面271,272との間で屈曲され、断面円弧状の周面271,272および各縁部281,282に転接領域が拡がり、第1ローラ27の更なる接近によって、第1ローラ27の上下縁部271,281と第2ローラ28の対応する周面285,286および各平坦部273,283で可撓性基板1が屈曲状態で挟持されることになる。
【0068】
可撓性基板1の上側縁部が、上記のように第1ローラ27と第2ローラ28とで屈曲状態で転支されることで、その屈曲度に応じたローラ軸方向の保持力が生じ、先述したように、可撓性基板1の搬送方向に対して斜上方に向かう微小偏角αを有する第1ローラ27と第2ローラ28で、可撓性基板1の上側縁部が屈曲されつつ送出されることで、可撓性基板1に屈曲度に応じた持ち上げ力が付与され、第1ローラ27と第2ローラ28との接離方向位置を調節し、可撓性基板1の屈曲度を変化させることで、可撓性基板1に対する持ち上げ力を調整可能である。
【0069】
さらに、第2実施形態の上側ローラユニット21Bでは、曲率の大きい断面円弧状の縁部271,281および断面凹円弧状の周面285,286によって、可撓性基板1の屈曲度に応じて比較的広い転接領域が得られ、可撓性基板1に対する保持力を大きく変化させることができる。
【0070】
(第1実施形態の変形例)
次に、図8は、本発明の第1実施形態に係る変形例を示す概略図であり、第1実施形態と同様の部材には同様の符号を付し概略的に説明する。この変形例の上側ローラユニット21Cでは、第2ローラ24を構成する上下ローラ24a,24bが、第1ローラ23の幅以上に上下方向に離間して配置されている。このため、第1ローラ23が第2ローラ24に接近しても第1ローラ23と第2ローラ24の上下ローラ24a,24bとは当接せず、可撓性基板1は、各ローラ23,24による屈曲のみで保持され、屈曲度を変化のみによって可撓性基板1に対する持ち上げ力の調整がなされる。したがって、各ローラ23,24による挟持は得られないが、第2ローラ24の上下ローラ24a,24bの間に第1ローラ23が大きく入り込むことで大きな屈曲度が得られる。
【0071】
また、この変形例の上側ローラユニット21Cでは、スプリング51′が、真空室の外部に配設され、アクチュエータ56の進退駆動によりスプリング51′の支持点が直接的に変位し、スプリング51′の制御された付勢力が、付勢力伝達機構を構成するレバー55′、回動軸54′、操作アーム53′を介して、真空室内の可動側支持部材25に伝達され、第1ローラ23と第2ローラ24との接離方向位置(入り込み量)を調節可能である。上記のような変形例は、1つの第2ローラ28を備えた第2実施形態についても同様に構成可能である。
【0072】
(第3実施形態)
上記各実施形態では、帯状可撓性基板を縦姿勢で横方向に搬送し成膜を行なう薄膜積層体の製造装置100としての実施形態について述べたが、本発明に係る位置制御装置は、図9に示す第3実施形態のように、帯状可撓性基板を横姿勢で水平方向に搬送し成膜を行なう薄膜積層体の製造装置300にも実施可能である。
【0073】
図9において、本発明第3実施形態の製造装置300は、所定の真空度に維持された室構造ユニット340(真空室)の内部に、可撓性基板1を挟んでその上下に対向配置された電極345(ターゲット)と、接地電極344とからなる成膜ユニット341が配設されている。成膜ユニット341の搬送方向上流側および下流側には、搬送手段を構成するガイドロール(アイドルロール)やフィードロール、テンションロールなどが配設され、さらにそれらの搬送方向上流側および下流側に、可撓性基板1の巻出しロールおよび巻取りロールが配設されている点は、前記各実施形態と同様であるが、当然ながら、各ロールの回転軸は何れも水平方向に配向されている。
【0074】
製造装置300は、可撓性基板1の搬送経路の幅方向両側において、可撓性基板1の幅方向各側縁部を転支するローラユニット321,321と、それらによる幅方向各側に向かう展張力を制御する制御機構305,305を備えている。各ローラユニット321,321は、それぞれの回転方向が搬送方向に対して幅方向外方に向かう微小偏角α,βを有するように角度調整手段307,307を介して構造材に取付けられている。
【0075】
各側のローラユニット321,321は、いずれも可撓性基板1の側縁部表面に上側から転接する第1ローラ323、側縁部裏面に下側から転接する第2ローラ324、およびそれらを回転可能に支持しかつスプリング351を介して相互に接離可能に支持する可動側および固定側支持部材325,326で構成され、さらに、第2ローラ324は、第1ローラ323の転接領域の外側および内側に同軸配置された2つのローラ324a,324bで構成されている。
【0076】
各側の第2ローラ324(固定支持部材326)が下になるように横向きに配置されている点、および、各可動支持部材327が揺動軸付近で屈曲している点を除けば、各側のローラユニット321,321は、基本的に第1実施形態(図5,6)と同様の構成であり、それぞれの第1ローラ23および第2ローラ324(ローラ324a,324b)の軸方向位置が固定されている点も同様である。
【0077】
一方、各側の制御機構305,305は、基本的に第1実施形態の変形例(図8)に係る制御機構5′と同様の構成となっており、スプリング351,351が、真空室(340)の外部に配設され、アクチュエータ356,356の進退駆動によって制御されたスプリング351,351の付勢力が、付勢力伝達機構を構成するレバー355,355、回動軸354,354、操作アーム353,353を介して、真空室内の可動側支持部材325,325に伝達され、第1ローラ23と第2ローラ24(ローラ324a,324b)との接離方向位置を調節可能である。
【0078】
可撓性基板1の搬送経路の幅方向両側には、可撓性基板1の各側縁部の位置を検知するセンサ349,349が配設されており、各センサ349,349の検知に基づいて、制御部350によりアクチュエータ356,356が個別に進退駆動されることで、各ローラユニット321,321の第1ローラ323と第2ローラ324との接離方向位置が制御され、可撓性基板1の各側縁部にはそれぞれの屈曲度に応じた展張力が付与され、それに応じて可撓性基板1が幅方向に展張されかつその幅方向位置が制御される。
【0079】
この製造装置300では、可撓性基板1の下面側に接地電極344が配設され、可撓性基板1の自重による影響は小さく、かつ、各側の各ローラユニット321,321に同様に作用する。したがって、各側のスプリング351,351の初期変位および各アクチュエータ356,356の制御量は、基本的に同等に設定される。各アクチュエータ356,356による制御は、可撓性基板1を幅方向に展張しつつ、可撓性基板1の幅方向の変位や蛇行を補正するために、各側センサ349の検知に基づいて制御部350により個別にかつ連携して実施される。
【0080】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記以外にも本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【0081】
例えば、上記第1実施形態の第2ローラ24の上下ローラ24a,24bが一体に構成されていても良いし、上記第2実施形態の第2ローラ28が、中間の平坦部283において上下に分割され、固定側支持部材26に第1実施形態と同様に個別に回転可能に支持されていても良い。また、上記各実施形態では、第1ローラ23,27および第2ローラ24a,24b,28が、いずれも金属ローラで構成される場合を示したが、成膜条件などによっては、各ローラを、金属製ローラ本体の周面に耐熱性ゴム被覆を施したローラで構成することもできる。
【0082】
さらに、上記各実施形態では、第1および第2のローラを回転可能に支持する一対の支持部材が、可動側支持部材25と固定側支持部材26で構成される場合を示したが、支持部材が、共に固定軸を中心に揺動可能に支持され相互に接離可能な2つの可動支持部材で構成されても良い。また、上記各実施形態では、付勢手段(スプリング51)にコイルスプリングを用いる場合を示したが、スパイラルスプリングやリーフスプリング等、周知の各種スプリング形式を利用できる。
【0083】
さらに、上記各実施形態では、可撓性基板1の搬送経路に沿って多数並設された成膜ユニット41の各隣接ユニット間に、それぞれ、上側ローラユニット21,21′・・・および下側ローラユニット22・・・が設置され、略中央の1つの上側ローラユニット21が制御可能であり、それ以外がプリセットタイプである場合を示したが、複数の上側ローラユニット21を一斉もしくは個別に制御可能とすることもできる。
【0084】
また、成膜ユニット41の搬送方向の長さが比較的小さい場合等には、1ないし2ユニット置きにローラユニットを設置することもでき、さらに、成膜ユニット41の数が少なく(例えば2つ)搬送スパンが比較的短距離の場合には、制御可能な上側ローラユニット21とその下方に配置されるプリセットタイプの下側ローラユニット22とで位置制御装置を構成するか、または、制御可能な上側ローラユニット21のみで位置制御装置を構成することもできる。上記後者の場合、可撓性基板1に作用する重力と、上側ローラユニット21の持ち上げ力を平衡させることによって、可撓性基板の上下幅方向位置を一定に維持する制御がなされる。
【0085】
さらに、上記各実施形態では、可撓性基板1の搬送方向および第1および第2ローラの微小偏角α,βの方向が一定の場合を示したが、角度調整手段7に正逆反転機構を具備することで、可撓性基板1の逆方向への搬送を含む成膜工程に実施することもできる。
【0086】
上記各実施形態では、本発明に係る可撓性基板の位置制御装置を太陽電池用の薄膜積層体の製造装置に実施する場合について述べたが、本発明に係る位置制御装置は、有機EL等の半導体薄膜の製造装置は勿論、塗装、洗浄、乾燥、熱処理、表面加工など、成膜以外にも、可撓性基板の位置制御や展張が求められる各種処理装置に適用できる。また、本発明に係る可撓性基板の位置制御装置は、可撓性基板を縦姿勢(または傾斜姿勢)で横方向(斜方向を含む)に搬送する場合、可撓性基板を横姿勢で水平方向、上下方向、あるいは斜方向に搬送する各場合に実施可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 可撓性基板
5 制御機構
6 シール軸受
7 角度調整手段
10 巻出し部
11 巻出しロール
12 巻出し側フィードローラ
13a,13b 張力検出ローラ
14 ガイドローラ
20 成膜部
21,21′21B 上側ローラユニット
22 下側ローラユニット
23,27 第1ローラ
24,28 第2ローラ
24a 上ローラ
24b 下ローラ
25 可動側支持部材
26 固定側支持部材
30 巻取り部
31 巻取りロール
32 巻取り側フィードローラ
33a,33b 張力検出ローラ
34 ガイドローラ
35 側端位置制御ローラ
40 室構造ユニット
41 成膜ユニット
42 固定チャンバー
43 可動チャンバー
46 主構造材
48 天井パネル
480 開口部
49 センサ
50 制御部
51 スプリング(付勢手段)
53 操作アーム
54 回動軸
55 レバー
56 アクチュエータ
100,300 製造装置
321 ローラユニット
323 第1ローラ
324 第2ローラ
340 室構造ユニット
341 成膜ユニット
349 センサ
350 制御部
351 スプリング(付勢手段)
353 操作アーム
354 回動軸
355 レバー
356 アクチュエータ
α,β 微小偏角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の可撓性基板を縦姿勢で横方向に搬送しその搬送経路にて前記基板に処理を行なう処理装置における可撓性基板の上下幅方向の位置制御装置であって、
前記可撓性基板の上側縁部の一方の面に転接する第1ローラと、
前記第1ローラと前記可撓性基板の搬送方向に対して略同位置で、前記上側縁部の他方の面に、前記第1ローラの転接地点の上方および下方の2地点で転接する第2ローラと、
前記第1および第2ローラを、前記各転接地点における回転方向が前記可撓性基板の搬送方向に対して斜上方に向かう微小偏角を有するように回転可能に支持し、かつ、一方が他方に対してまたは相互に接離可能な一対の支持部材と、
前記一対の支持部材の一方または両方を相互に近接する方向に付勢する付勢手段と、
前記付勢手段を介して前記一対の支持部材の接離方向位置を調節する位置調節手段と、を備え、
前記第1および第2ローラで、前記可撓性基板の上側縁部を屈曲させつつ送出可能であり、前記接離方向位置の調節により前記可撓性基板の屈曲度に応じた持ち上げ力を前記可撓性基板に付与可能に構成されている、可撓性基板の位置制御装置。
【請求項2】
前記第2ローラが、前記2地点に対応した上下2つのローラで構成されている、請求項1に記載の可撓性基板の位置制御装置。
【請求項3】
前記第1ローラの周面の上下縁部が断面円弧状をなし、前記第2ローラの上下2地点に対応する各周面の前記第1ローラに隣接したそれぞれの縁部が断面円弧状をなしている、請求項1または2に記載の可撓性基板の位置制御装置。
【請求項4】
前記第1ローラの周面の上下縁部と、前記第2ローラの前記それぞれの縁部とが、前記接離方向位置の調節により少なくとも一部において相互に当接可能であり、それらの間に前記可撓性基板を挟持可能である、請求項3に記載の可撓性基板の位置制御装置。
【請求項5】
前記第1ローラの周面の上下縁部に当接可能な前記第2ローラの前記上下縁部の少なくとも一部が、前記第1ローラの周面に対応した断面凹円弧状をなしている、請求項4に記載の可撓性基板の位置制御装置。
【請求項6】
前記可撓性基板の上下幅方向位置を検知する検知手段をさらに備え、前記検知手段の検出値に基づいて前記位置調節手段を駆動する駆動手段をさらに備えている、請求項1〜5の何れか一項に記載の可撓性基板の位置制御装置。
【請求項7】
前記第1および第2ローラと前記可撓性基板の搬送方向に対して略同位置で、前記可撓性基板の下側縁部の一方の面に転接する第1下側ローラと、
前記下側縁部の他方の面に、前記下側第1ローラの転接地点の上方および下方の2地点で転接する第2下側ローラと、
前記第1および第2下側ローラを、前記各転接地点における回転方向が前記可撓性基板の搬送方向に対して斜下方に向かう微小偏角を有するように回転可能に支持し、かつ、一方が他方に対してまたは相互に接離可能な一対の下側支持部材と、
前記一対の下側支持部材の一方または両方を相互に近接する方向に付勢する下側付勢手段と、
前記下側付勢手段を介して前記一対の下側支持部材の接離方向位置を調節する下側位置調節手段と、をさらに備え、
前記第1および第2下側ローラで、前記可撓性基板の下側縁部を屈曲させつつ送出可能であり、前記下側支持部材の接離方向位置の調節により前記可撓性基板の屈曲度に応じた引き下げ力を前記可撓性基板の下側縁部に付与可能に構成されている、請求項1〜6の何れか一項に記載の可撓性基板の位置制御装置。
【請求項8】
帯状の可撓性基板を搬送しその搬送経路にて前記基板に処理を行なう処理装置における可撓性基板の幅方向の位置制御装置であって、
前記可撓性基板の各側縁部の一方の面に転接する各側の第1ローラと、
前記各第1ローラと前記可撓性基板の搬送方向に対して略同位置で、前記各側縁部の他方の面に、前記各第1ローラの転接地点の幅方向外方および中央側の2地点で転接する各側の第2ローラと、
前記各側の第1および第2ローラを、前記各転接地点における回転方向が前記可撓性基板の搬送方向に対して幅方向外方に向かう微小偏角を有するようにそれぞれ回転可能に支持し、かつ、それぞれの側で一方が他方に対してまたは相互に接離可能な各側一対の支持部材と、
前記各側一対の支持部材のそれぞれの側における一方または両方を相互に近接する方向に付勢する各側の付勢手段と、
前記各側の付勢手段を介して前記各側一対の支持部材のそれぞれの接離方向位置を調節する各側の位置調節手段と、を備え、
前記各側の第1および第2ローラで、前記可撓性基板の各側縁部をそれぞれ屈曲させつつ送出可能であり、前記各接離方向位置の調節により前記可撓性基板の屈曲度に応じた展張力を前記可撓性基板に付与可能に構成されている、可撓性基板の位置制御装置。
【請求項9】
前記各側の第2ローラが、それぞれ前記2地点に対応した2つのローラで構成されている、請求項8に記載の可撓性基板の位置制御装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−146437(P2011−146437A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4221(P2010−4221)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】