可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルム、及び調製のための方法
可撓性ナノ結晶セルロースフィルム(NCC)は、調節可能な色の性質を保持しながら、ポリマーを含む。ポリマーは、例えばPVOH及びSB−ラテックスであり、NCCフィルムの可撓性を増加させるのに効果的である。PVOHで作製されたNCCフィルムは、SB−ラテックスで作製されたNCCフィルムより虹色をよく保持する。しかし、SB−ラテックスで作製されたNCCフィルムは、より良好な引っ張り強度を有する。加えて、PVOHで作製されたNCCフィルムは、水中に容易に分散することが判明したが、SBラテックスで作製されたNCCフィルムは、水中に分散しない(耐水性が強い)。PVOH及びSB−ラテックスで作製されたNCCフィルムの色は、調整のための技法を用いて、依然として調整することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの硫酸加水分解により生成された、ナノ結晶セルロース(NCC)粒子の可撓性固体フィルム、及びこれらの生成の方法に関し、特に、フィルム内へのポリマーの包含によって、フィルムの可撓性及び分散性を制御することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
最初のセルロース結晶粒子は、Ranbyらにより酸加水分解を介して得られた[1]。この後で、セルロースナノ結晶粒子の水性懸濁液が、安定したコレステリック(キラルネマチック)液晶相を形成できることが判明した[2、3]。このNCC粒子は、棒状であり、ナノメータサイズである。希釈懸濁液中でこれらのナノ結晶粒子は、ランダムに配向している。懸濁液の濃度が増加すると、コレステリック(キラルネマチック)ナノ結晶が形成され、図1に示されているように、ナノ結晶がらせん状に配列したと考えられていた[4]。コレステリック液晶は、極めて高い旋光性を示し、左円偏光を反射する。反射した円偏光の波長は、λ=nP(式中、nは、キラルネマチック相の平均屈折率であり、Pは、キラルネマチック構造のピッチである)である。反射した光の波長は、視角により変化し、虹色が観察される。
【0003】
これらセルロースナノ結晶の棒は、独自の物理的特性、例えば、高いアスペクト比(10×200nm)、大きな表面積、及び高い引っ張り強度などを有する[5]。NCC棒は、適切な表面上への懸濁液の流し込み成形を行うことによって、その形状及びナノメータ−サイズの幅により、懸濁液から比較的平坦なフィルムを形成することが可能となる。
【0004】
水が蒸発すると、キラルネマチック構造は保存される。Revolら[4]は、有利な光学特徴を有する固化した液晶フィルムを作り出した。彼らは、異なる量の電解液、例えばNaCl又はKClなどを添加することによって反射した可視光を調整した。形成された固体フィルムは、基板上で支持されるか、又は基板内に埋め込まれることが予測された。例えば、フィルムの小さなディスクを、光学特性に基づくセキュリティーペーパー内に埋め込むことができる。彼らの研究において、彼らは、セルロースナノ結晶が、理想的には光学認証装置に適していると述べた。この特許に記載されたように作製されたフィルムは、あまり可撓性がなく非常に壊れやすかった。
【0005】
Beckら[6]は、フィルム形成前に、NCC懸濁液に超音波又は高圧剪断(機械的)エネルギーインプットを与えることにより固体ナノ結晶セルロース(NCC)フィルムの虹色を制御する方法を発見した[6]。NCC懸濁液へのエネルギーインプットが増加するにつれて、生成されるフィルムの色は、電磁スペクトルの紫外領域から赤外領域へとシフトする。この波長シフトは、フィルム形成前のNCC懸濁液への電解液の添加により引き起こされる波長シフトの方向と反対方向である。色の変化を達成するために添加剤は必要としない。色の変化はまた、異なる超音波処理レベルの2つの懸濁液を混合することによって、作り出すこともできる。
【0006】
Beckら[6]はまた、固体NCCフィルムの虹色は、NCC懸濁液のpH及びイオン強度を制御することによって変えることができるということも見出した。酸形成NCC(H−NCC)フィルムを水酸化ナトリウム溶液中に配置した場合、これらの色は、より長い波長へとシフトする。この色シフトは、水中のフィルムを置き換えることにより、部分的に逆転する。ナトリウム形成NCC(Na−NCC)フィルムは、水中に容易に分散させることができるが、十分なイオン強度の塩酸及び塩化ナトリウム溶液中に、並びに水酸化ナトリウム溶液中に、配置した場合、Na−NCCフィルムは、分散せず、これらの虹色もまた長い波長へとシフトする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上の研究では、NCC固体フィルムの光学特性の操作及び制御にもっぱら焦点を合わせていた。しかし、以前の文献又は特許において作製された及び記載されたような、100%NCCで作製された固体フィルムは、非常に壊れやすく、取扱いが困難であるために、多くの商業的用途におけるこれらの適合性は低下する。本発明以前には、可撓性NCCフィルムを生成する、又はその可撓性を強化するための方法は存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを提供することを目指す。
【0009】
特に本発明は、色が調節可能な、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを提供することを目指す。
【0010】
本発明はまた前述のような、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを生成する方法を提供することを目指す。
【0011】
本発明の一態様において、整列構造内にナノ結晶セルロース粒子を含む、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムであって、粒子間に可撓性ブリッジを形成する効果のあるポリマーが、該整列構造を乱すことなく間の空間を満たしている、上記可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムが提供される。
【0012】
本発明の別の態様では、水性媒体中に、ナノ結晶セルロース粒子及びポリマーの懸濁液を形成するステップと、該懸濁液の湿式フィルムを基板上に流し込むステップと、該湿式フィルムを固体フィルムとして乾燥させるステップとを含む、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを作製する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】典型的なキラルネマチック液晶におけるらせん状の配向を概略的に例示している図である。
【図2A】NCCマトリックスにおけるPVOHの役割(PVOHは、NCCフィルム内で「潤滑剤」及び可塑剤として作用するので、PVOHの添加は、虹色を維持しながら優れた可撓性を達成するのに役立つ)を概略的に例示している透視図である。NCC粒子(A)は、寸法10×10×200nmの棒状の粒子であり、PVOH(B)は、水可溶性、親水性のポリマーである。
【図2B】NCCマトリックスにおけるPVOHの役割(PVOHは、NCCフィルム内で「潤滑剤」及び可塑剤として作用するので、PVOHの添加は、虹色を維持しながら優れた可撓性を達成するのに役立つ)を概略的に例示している側面図である。
【図3A】NCCマトリックスにおけるSBRラテックスの役割(SBRラテックスはNCCフィルム内で「接着剤」として作用するので、SBRラテックスの添加は、優れた強度及び可撓性を達成するのに役立つが、虹色を低減させる傾向にある)を概略的に例示している透視図である。NCC粒子(A)は、寸法10×10×200nmの棒状粒子である。SBRラテックス(B)は、直径100〜300nmの固体の、疎水性の、水不溶性の球粒子を含む。
【図3B】NCCマトリックスにおけるSBRラテックスの役割(SBRラテックスはNCCフィルム内で「接着剤」として作用するので、SBRラテックスの添加は、優れた強度及び可撓性を達成するのに役立つが、虹色を低減させる傾向にある)を概略的に例示している側面図である。
【図3C】NCCマトリックスにおけるSBRラテックスの役割(SBRラテックスはNCCフィルム内で「接着剤」として作用するので、SBRラテックスの添加は、優れた強度及び可撓性を達成するのに役立つが、虹色を低減させる傾向にある)を概略的に例示している詳細図である。この詳細図は、乾燥中に、SBRラテックス粒子がフィルム形成物中にどのように溶融しているかを示している。
【図4】10%PVOHを含有するNCCフィルムの反射スペクトルを示すグラフである。
【図5】15%PVOHを含有するNCCフィルムの反射スペクトルを示すグラフである。
【図6】ポリマー含有量が、NCCフィルムの引張剛性指数(TSI)(TSIは、フィルムの可撓性の指標である)に与える影響を示すグラフである。
【図7】PVOHポリマー含有量が、NCCフィルムの曲げ剛性に与える影響を示すグラフである。
【図8】PVOH含有量が、NCCフィルムの色特性(反射スペクトル)に与える影響を示すグラフである。
【図9】PVOH含有量が、NCCフィルムの光沢度に与える影響を示すグラフである。
【図10】PVOH含有量が、NCCフィルムの不透明度に与える影響を示すグラフである。
【図11】10%SBRラテックスを含有するNCCフィルムの反射スペクトルを示すグラフである。
【図12】SBRラテックス含有量が、NCCフィルムの引っ張り強度に与える影響を示すグラフである。
【図13】基板の物質(プレキシグラス及びポリスチレンペトリ皿)が、NCC−SBRラテックスフィルムの引っ張り強度に与える影響を示すグラフである。
【図14】両方ともpH3である、NCC−PVOHフィルム対NCC−SBRラテックスの反射スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
Revolらによる先駆的研究[4]は、虹色であり、広範囲な色に作製することができるNCCからのキラルネマチックフィルムの開発をもたらした。これらの光学特性は、セキュリティーペーパー、装飾品、化粧品などを含めた多くの用途においてこれらの物質を使用することに、有意な関心を引き起こした。しかし、純粋なNCCから調製された虹色のフィルムは、サイズが小さく、非常に壊れやすいため、商業的用途には不適切である。
【0015】
この問題に対処するために、本発明において、その独自の色特性を維持しながら、フィルムに強度及び可撓性を与えるという目的で、NCCフィルムを作製するための新しい方法及び手順が提供される。
【0016】
純粋なNCC懸濁液から形成される固体フィルムの脆性は、NCC棒状粒子間の強い水素結合により引き起こされる。本発明では、通常は低分子ポリマーであり、さらに具体的には、10,000未満の分子量を有するポリマーである可塑剤を添加することによって、可撓性が増加する。このようなポリマーとして、親水性、水可溶性ポリマー、例えばポリビニルアルコール(PVOH)など、並びに疎水性、水不溶性ポリマー、例えばスチレン−ブタジエン(SB)、スチレンアクリレート(SA)、及びポリ酢酸ビニル(PVAc)などが挙げられる。ポリビニルアルコール(PVOH)及びスチレン−ブタジエンゴム(SBR)ラテックスは、NCCフィルムの可撓性を改善するのに特に効果的であることが判明している。
【0017】
ヒドロキシル基を有するポリマー、例えポリビニルアルコールなどは特に有利である。ヒドロキシル基を有する他のポリマーとして、部分的に加水分解されたポリビニルエステル、例えばポリ酢酸ビニルなど、デンプン及びデンプン誘導体、並びにヒドロキシル基を有するセルロースエステルが挙げられる。ヒドロキシル基は、NCC結晶表面に対して親和性を有し、結晶表面に水素結合し得るので、ヒドロキシル基を有するポリマーが有利である。
【0018】
フィルムは、フィルム重量に対して、25重量%までのポリマーを含有するのが適切な場合がある。本明細書中のパーセンテージは、他に指示されていない限り、重量基準である。
【0019】
ポリマーは、NCC粒子間の可塑剤又は潤滑剤として作用し、これにより、NCC棒状粒子間の強い水素結合から生じる脆性に対抗する。
【0020】
特にポリマーは、虹色のために必要なNCC棒状粒子の整列構造を少しも実質的に崩壊させることなく、NCC棒状粒子間に可撓性ブリッジを形成する。
【0021】
NCCフィルム作製における別の問題は、NCCフィルムは、例えばプレキシグラスシャーレ又はポリスチレンペトリ皿(petri−dish)などの基板に強く付着する傾向にあるので、乾燥したNCCフィルムを、基板から容易に剥ぐことができないことである。これは、乾燥NCCフィルムと基板の間の表面相容性の問題を示している。この問題は、基板表面にシリコンをスプレーし、乾燥フィルムと基板との間の接着性を低下させることによって解決された。
【0022】
本発明は、大きなサイズの可撓性虹色のNCCフィルムの生成に関する。本方法は、希釈NCC懸濁液へのポリマーの添加及び超音波処理による均一性の強化に基づく。次いで、NCC懸濁液を大きなサイズのプレキシグラス又はポリスチレンペトリ皿へと流しこんだ。蒸発後、大気条件(ambient conditions)下で、大きな、薄い、可撓性フィルムが形成され、これをシャーレから剥いだ。
【0023】
大きなサイズのNCCフィルムの生成によって、様々なフィルム特性を評価することが可能となった。結果は、NCCフィルムが、虹色、高い光沢度及び平滑性、並びに優れた強度及び可撓性を含めた興味深い特性を有することを示した。フィルム特性における大きな違いは、上の2つのポリマーを用いた場合にも観察された。PVOHの添加は、NCCフィルムに可撓性を与えただけでなく、NCC懸濁液のpHの変更又は超音波処理によって依然として調整することができる強い虹色もまた維持した。そのヒドロキシル基の存在により、NCCと相容性があるため、PVOHが効果的であると考えられている。なぜ虹色がよく保存されているかということも、これによって説明することができる。NCCフィルムの最高の可撓性及び光学特性は、10〜15%PVOH濃度で達成される。SBRラテックスを添加することによって、高い引っ張り強度及び優れた可撓性を有するNCCフィルムが生成された。しかし、フィルムの虹色は、純粋なNCCフィルム又はPVOHを添加して生成したNCCフィルムよりも弱い。NCC−SBRラテックスフィルムの最大の引っ張り強度及び光学特性は、15%SBRラテックスで達成された。
【0024】
NCC−PVOHフィルムはまた、水感受性であり、超音波処理の助けを借りて、水中に再分散させることができることが判明した。これは、PVOHが可溶性ポリマーだからである。改良したNCCフィルムは、依然として、可撓性及び虹色を示す。他方では、NCC及びSBRラテックスから作製されたフィルムは、耐水性であり、水には非分散性である。この発見に基づき、NCC/PVOHフィルムは、再分散用のフィルム形態で提供できるのに対し、NCC−SBRラテックスフィルムは、例えば、セキュリティー装飾、保護及びバリア用の材料など、直接使用向けに提供することができる。
【0025】
こうして、ポリマーを添加することによって、これらフィルムの調整可能な色の性質を保持しながら、可撓性ナノ結晶セルロースフィルム(NCC)を調製するための新しい方法が発見された。一連の結合剤が評価されたにもかかわらず、ポリビニルアルコール(PVOH)及びスチレン−ブタジエン(SB)ラテックスは、最も効果的で、PVOHが最も優れていることが判明した。PVOHを用いて作製されたNCCフィルムは、SB−ラテックスで作製されたものよりも良好な虹色を保持している。しかし、SB−ラテックスで作製されたNCCフィルムは、より良好な可撓性を有する。加えて、PVOHで作製されたNCCフィルムは、水に容易に分散することが判明したが、SBラテックスで作製されたNCCフィルムは、水にまったく分散しない(耐水性が強い)。PVOH及びSB−ラテックスで作製したNCCフィルムの色は、依然として、pHの変更及び超音波処理によって調整することができる。
【0026】
PVOHは、O〜25%(wt./wt)の範囲の濃度でNCC懸濁液に添加した。1%のPVOHをNCC懸濁液に添加することによって、フィルムが形成したが、フィルムは、壊れやすいままで、容易に破壊することができた。3%で、フィルムは可撓性を示し始め、10%で、フィルムは、高い可撓性を有した。SBRラテックスでは、可撓性フィルムを生成するために通常およそ15%(wt./wt.)が必要とされるので、PVOHと同じ位良好な性能は発揮されなかった。特定された最適条件を用いて、寸法1m×0.5mまで、厚さおよそ50μmの虹色の、分離した、可撓性フィルムを作製するのに成功した。
【0027】
ポリマーを添加しても、フィルム形成前のNCC懸濁液のpHの調整により、フィルムの色が変わり、フィルムの虹色は、すべての濃度のPVOHに対して可視であった。例えば、混合した懸濁液のpHを3.0に調整した場合、フィルムの反射光は、スペクトルの黄色から赤色の領域にあった。混合した懸濁液のpHを8.0に調整した場合、フィルムの反射光は、スペクトルの青色領域にあった。
【実施例】
【0028】
本発明は、以下の実施例によって例示されるが、これらだけに限定はされない。
一般的手順A:PVOHを用いて可撓性NCCフィルムを生成する
既知の固形分含量のNCC懸濁液(3〜6%(w/w))及び既知の濃度のPVOH溶液(6〜10%(w/w))を、ガラスビーカー内で、磁気撹拌機を用いて5分間混合する。次いでこの混合物を2分間超音波処理する。混合した懸濁液のpH値をpHメーターで測定する。シリコンスプレー剤を使用して、プレキシグラス又はポリスチレンペトリ皿をしっかりと拭く。超音波処理した混合物を、シャーレに注ぎ入れる。シャーレに混合物を広げ、温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、シャーレを水平な表面上に配置する。PVOHを含有するNCCフィルムは、24時間以内に乾燥する。
【0029】
生成された固体NCC/PVOHフィルムの可撓性を、引っ張り強度及び曲げ剛性で測定する。引っ張り強度は、Instron引っ張り試験装置で測定し(破壊性試験)、曲げ剛性は、引張剛性指数(TSI)テスターで測定する(非破壊性試験)。虹色、不透明度、及び光沢度を測定することによって、NCC/PVOHフィルムの光学特性を特性評価する。フィルムの虹色を変角分光光度計で試験することによって、D65照明、45°入射照明での反射の主波長を得る。固体フィルムの不透明度は、Technibrite Micro TB−1C装置で測定し、光沢度は、光沢計(HunterLab D48−7)で試験する。
【0030】
一般的手順B:SBRラテックスを用いて可撓性NCCフィルムを生成する
既知の濃度のSBRラテックス懸濁液(40〜50%(w/w))及び既知の濃度のNCC溶液(6〜10%(w/w))を、磁気撹拌機で、5分間ガラスビーカー内で混合する。次いでこの混合物を2分間超音波処理する。混合した懸濁液のpH値をpHメーターで測定する。シリコンスプレー剤を使用して、プレキシグラス又はポリスチレンペトリ皿をしっかりと拭く。超音波処理した混合物をシャーレに注ぎ入れる。シャーレに混合物を広げた後、温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、シャーレを水平な表面上に配置した。PVOHを含有するNCCフィルムは、24時間以内に乾燥する。
【0031】
生成した固体NCC/SBRラテックスフィルムの可撓性及び光学特性を、一般的手順Aに記載の通り特性評価する。
【0032】
NCCフィルムに可撓性を与える上でのポリマーの役割
上の手順に従い、最初のスクリーニング評価を行った。PVOH及びSBRラテックスは、NCCフィルムに可撓性を与える上で最も効果のあるポリマーであった。最大量の可撓性に到達するためには、特定量のポリマーが必要とされる。PVOHで作製されたNCCフィルムは、SBRラテックスで作製されたフィルムよりも虹色をよく保持していた。そのヒドロキシル基の存在により、NCCと相容性があるため、PVOHが特に効果があると考えられている。なぜ虹色がよく保存されるかということも、これによって説明することができる。しかし、SBRラテックスで作製されたNCCフィルムは、より良好な引っ張り強度を有していた。加えて、PVOHで作製されたNCCフィルムは、容易に水中に分散することが判明したが、SBRラテックスで作製されたNCCフィルムは、水中に分散しなかった(耐水性が強い)。PVOH及びSBRラテックスで作製されたNCCフィルムの色は、pHの変更及び超音波処理により依然として調整することができる。
【0033】
可溶性ポリマーとしてPVOHは、NCC棒の間で「潤滑剤」及び結合剤として作用する。図2に示すように、懸濁液の状態でPVOHは、NCC棒の間に位置することによって、NCC棒間の強すぎる水素結合を阻止することになる。同時に、PVOHは可溶性ポリマーであるので、乾燥中にNCC棒の配列を妨げない。したがって、PVOHは、その虹色に影響を与えることなく、可撓性フィルムの形成を促進させることができる。
【0034】
SBRラテックスは、NCCの長さに匹敵する、直径100〜300nmの球粒子である。懸濁液中でNCC棒とよく混合されているSBRラテックス粒子は、それらのサイズが大きいため、NCC棒を分離し得る。図3に示されているように、通常ガラス転移(Tg)点を有するSBRラテックス粒子は、乾燥中にフィルムを形成する。したがって、SBRラテックス粒子は、NCC棒間で「接着剤」として作用し、フィルムに強度及び可撓性を与える。しかし、その大きい粒度のために、SBRラテックスは、NCC棒の配列を妨げ、これによってその虹色を低減させる傾向にある。
【0035】
(例1)
10%PVOHを含有する、大きなサイズの、可撓性虹色NCCフィルムを生成する
31.76gの8.84(wt%)ポリビニルアルコール(PVOH)溶液を、473.61gの5.34%(wt.)ナノ結晶セルロース(NCC)懸濁液へ加えた。より低い分子量(<10,000)のPVOH(例えばAIRVOL 203(商標))を使用した。NCC懸濁液及びPVOH溶液を、ガラスビーカー内で、5分間の機械的撹拌、次いで2分間の超音波処理により混合した。混合物のpH値は、3.0であった。0.48m×0.78mの寸法のプレキシグラストレイに混合物を注ぎ入れた。このプレキシグラストレイは、シリコンスプレー剤で事前に処理しておいた。温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、水平なテーブル上にこのトレイを配置した。フィルムは、48時間以内に乾燥した。フィルムの坪量は、75g/m2であった。フィルムの厚さの平均は、50μmであった。
【0036】
10%PVOHを含有する、この大きな可撓性NCCフィルムが生成された。フィルムは、調整可能な光学特性を有する。変角分光光度計を使用して、虹色の色特性を同定した。フィルムの反射スペクトルを図4に示す。フィルムの不透明度は、32.8%であった。光沢度は69.7%であった。引張剛性指数(TSImax)は93.35kNm/gであった。フィルムの含水量は、室温で6〜7%の間であった。フィルムは、水感受性があり、2分間の超音波処理で分散可能であった。
【0037】
(例2)
15%PVOHを含有する、大きなサイズの可撓性虹色NCCフィルムを生成する
9.69gの8.84%(wt.)ポリビニルアルコール(PVOH)溶液を、74.08gの6.5%(wt)ナノ結晶セルロース(NCC)懸濁液に加えた。より低い分子量(<10,000)のPVOH(例えばAIRVOL203(商標))を使用した。NCC懸濁液及びPVOH溶液を、5分間の機械的撹拌混合し、次いで2分間の超音波処理により混合した。混合物のpH値は、3.0であった。0.32m×0.24mの寸法のプレキシグラストレイに混合物を注ぎ入れた。このプレキシグラストレイは、シリコンスプレー剤で事前に処理しておいた。温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、水平なテーブル上にこのトレイを配置した。フィルムは、24時間以内に乾燥した。フィルムの坪量は、75g/m2であった。フィルムの厚さの平均は、50μmであった。
【0038】
15%PVOHを含有する、この大きな可撓性NCCフィルムが生成された。フィルムは、調整可能な光学特性を有する。変角分光光度計を使用して、虹色の色特性を同定した。反射スペクトルを図5に示す。光沢度は57.9%であった。フィルムの不透明度は、45.6%であった。引張剛性指数(TSImax)は、15.34kNm/gであった。フィルムの含水量は、室温で6〜7%の間であった。フィルムは、水感受性であり、2分間の超音波処理により分散可能であった。
【0039】
(例3)
NCC−PVOHフィルムの可撓性に対するPVOH含有量の影響
一般的手順Aに従い、一つの群のNCC−PVOHフィルムを調製した。NCC懸濁液へのPVOHの含有添加量を、NCC固形分に対して0から25%(wt/wt)へと増加させた。生成した固体NCC−PVOHフィルムの可撓性を引張剛性指数(TSI)テスターで測定した。NCCフィルムの可撓性は、PVOH含有量が増加するにつれて改善した(図6、7)。より低い引張剛性指数(TSI)(KNm/g)及び曲げ剛性(mN.m)は、より良好な可撓性を表す。最高の可撓性と優れた虹色は、10〜15%PVOHを添加した場合達成された。
【0040】
(例4)
NCC−PVOHフィルムの光学特性に対するPVOH含有量の影響
一般的手順Aに従い、一つの群のNCC−PVOHフィルムを調製した。NCC懸濁液へのPVOH溶液添加量を、NCC固形分に対して、0から25%(wt/wt)へと増加させた。NCCフィルムの虹色特性を、変角分光光度測定法により定量的に特性評価した。測定結果は、NCC−PVOHフィルムの光学特性が、PVOH含有量により影響を受けたことを明らかに示した。PVOHが多すぎると、虹色が低減した(図8)。NCC/ポリマーフィルムの光学特性はまた、不透明度及び光沢度を測定することによって特性評価さられた。純粋なNCCフィルムは、極度に高い光沢度を有するが、光沢度は、PVOHの添加と共に低下する(図9)。別の非常に興味深い発見は、NCCフィルムが、虹色の強さに応じて、異なる不透明度を有することができることである。これは、不透明度が固定された波長570nmで測定されるからである(図10)。これらの結果は、最終用途の必要条件に応じて、透明なNCCフィルムと不透明度の高いNCCフィルムの両方を生成できることを示唆している。
【0041】
(例5)
10%SBRラテックスを含有する、大きなサイズの、可撓性の、強度の高いNCCフィルムを生成する
1.86gの49.48%(wt)SBRラテックスを、129.52gの6.41%(wt.)NCC懸濁液に加えた。このNCC懸濁液及びSBRラテックスを、5分間の機械的撹拌、次いで2分間の超音波処理により混合した。混合物のpH値は、3.0であった。0.30m×0.41mの寸法のプレキシグラストレイに混合物を注ぎ入れた。このプレキシグラストレイは、シリコンスプレー剤で事前に処理しておいた。温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、水平なテーブル上にこのトレイを配置した。フィルムは、24時間以内に乾燥した。フィルムの坪量は、75g/m2であった。厚さの平均は、50μmであった。
【0042】
10%SBRラテックスを含有する大きな、可撓性の、強度の高いNCCフィルムが生成された。フィルムの引張剛性指数(TSImax)は、226.0kNm/gであった。フィルムの反射スペクトルを図11に示す。光沢度%は、60.3%であった。不透明度は23.3%であった。フィルム含水量は、室温で6〜7%の間であった。フィルムは、耐水性で、水に24時間浸漬後、その完全性及び虹色を維持した。
【0043】
(例6)
NCC−SBRラテックスフィルムの引っ張り強度に対するSBRラテックス含有量の影響
一般的手順Bに従い、一つの群のNCC−ポリマーフィルムを調製した。NCC懸濁液へのSBRラテックス懸濁液添加量を、NCC固形分に対して、0から20%(wt/wt)へと増加させた。生成された固体NCCフィルムの引っ張り強度を、Instron引っ張り試験装置で測定した。結果は、NCC−SBRラテックスフィルムの一番高い引っ張り強度は、15%SBRラテックスの添加で起きたことを示した(図12)。
【0044】
(例7)
NCC−SBRラテックスフィルムの引っ張り強度に対する基板物質の影響
一般的手順Bに従い、2つの群のNCC−ポリマーフィルムを調製した。NCC懸濁液へのSBRラテックス溶液添加量を、NCC固形分に対して0から20%(wt/wt)に増加させた。一方の群のNCC−SBRラテックスフィルムを、プレキシグラスシャーレに流し込み、他方の群のNCC−SBRラテックスフィルムをポリスチレンペトリ皿へと流し込んだ。生成した固体NCCフィルムの引っ張り強度を、Instron引っ張り試験装置で測定した。結果は、基板物質が、フィルムの引っ張り強度に影響を与えたことを示した。プレキシグラスに流し込んだフィルムは、ポリスチレンペトリ皿に流し込んだフィルムより高い引っ張り強度を示した(図13)。おそらく主な理由は、プレキシグラスシャーレは、ポリスチレンシャーレと比較してより平滑な表面を有し、プレキシグラス上に流し込んだNCCフィルムは、より高い水素結合を容易に形成したからである。
【0045】
(例8)
NCC−PVOHフィルムとNCC−SBRラテックスフィルムとの虹色の比較
一般的手順A及びBに従い、2つのNCC−ポリマーフィルムを調製した。NCC懸濁液に加えたPVOH溶液は、NCC固形分に対して10%(wt/wt)であった。NCC懸濁液に加えたSBRラテックス懸濁液は、NCC固形分に対して10%(wt/wt)であった。生成したNCC−PVOH及びNCC−SBRラテックスフィルムの厚さは、およそ40μmであった。変角分光光度計を使用して、虹色の色特性を定量化した。結果は、PVOH溶液を添加したことにより、同じ量のPVOH溶液を添加した場合よりも高い反射強度のNCCフィルムが生成されたことを示した(図14)。可溶性ポリマーであるPVOHは、乾燥中NCC棒の配列を乱さないので、フィルムの虹色を保つ。しかし、SBRラテックスは、その大きなサイズ(直径200〜300nm)が原因となり、NCC棒の配列を乱し、さらにNCC凝集体の間にポリマーの「島(islands)」を作り出すことが、虹色を弱める原因となり得る。
【0046】
(例9)
NCC懸濁液のpHを変える
一般的手順Aに従い、2つのNCC−PVOHフィルムを調製した。化学物質NH3.H2Oを使用して、NCC懸濁液のpHを変えた。混合した懸濁液のpHが3.0の場合、フィルムの反射した光は、スペクトルの黄色から赤色の領域であった。混合した懸濁液のpHが8.0の場合、フィルムの反射した光は、スペクトルの青色領域であった。20%PVOHを用いて、pH3.0及びpH8.0で、フィルムを作製した。この実施例は、フィルム形成前に懸濁液のpHを調整することで、フィルムの色が変わることを実証している。
(参考文献)
1.Ranby,B.G.Discuss.Faraday Soc.1951、11、158〜164。
2.Marchessault,R.H.;Morehead,F.F.;Walter,N.M.Nature 1959、184、632〜633。
3.Revol,J.−F.;Bradford,H.;Giasson,J.;Marchessault,R.H.;Gray,D.G.Int.J.Biol.Macromol.1992、14、170〜172。
4.Revol,J.−F.;Godbout,L.;Gray,D.G.「光学的に可変の特性を有する、セルロースの固化した液晶」、U.S.Patent 5,629,055;May 13 1997、to Paprican。
5.Hamad,W.、「セルロースナノフィブリル及びナノ結晶物質の開発及び応用について」、Canadian J.of Chemical Engineering 84(5):513〜519(2008)。
6.Beck S.et al.、米国特許出願第61/213,053号、2009年5月1日出願
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの硫酸加水分解により生成された、ナノ結晶セルロース(NCC)粒子の可撓性固体フィルム、及びこれらの生成の方法に関し、特に、フィルム内へのポリマーの包含によって、フィルムの可撓性及び分散性を制御することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
最初のセルロース結晶粒子は、Ranbyらにより酸加水分解を介して得られた[1]。この後で、セルロースナノ結晶粒子の水性懸濁液が、安定したコレステリック(キラルネマチック)液晶相を形成できることが判明した[2、3]。このNCC粒子は、棒状であり、ナノメータサイズである。希釈懸濁液中でこれらのナノ結晶粒子は、ランダムに配向している。懸濁液の濃度が増加すると、コレステリック(キラルネマチック)ナノ結晶が形成され、図1に示されているように、ナノ結晶がらせん状に配列したと考えられていた[4]。コレステリック液晶は、極めて高い旋光性を示し、左円偏光を反射する。反射した円偏光の波長は、λ=nP(式中、nは、キラルネマチック相の平均屈折率であり、Pは、キラルネマチック構造のピッチである)である。反射した光の波長は、視角により変化し、虹色が観察される。
【0003】
これらセルロースナノ結晶の棒は、独自の物理的特性、例えば、高いアスペクト比(10×200nm)、大きな表面積、及び高い引っ張り強度などを有する[5]。NCC棒は、適切な表面上への懸濁液の流し込み成形を行うことによって、その形状及びナノメータ−サイズの幅により、懸濁液から比較的平坦なフィルムを形成することが可能となる。
【0004】
水が蒸発すると、キラルネマチック構造は保存される。Revolら[4]は、有利な光学特徴を有する固化した液晶フィルムを作り出した。彼らは、異なる量の電解液、例えばNaCl又はKClなどを添加することによって反射した可視光を調整した。形成された固体フィルムは、基板上で支持されるか、又は基板内に埋め込まれることが予測された。例えば、フィルムの小さなディスクを、光学特性に基づくセキュリティーペーパー内に埋め込むことができる。彼らの研究において、彼らは、セルロースナノ結晶が、理想的には光学認証装置に適していると述べた。この特許に記載されたように作製されたフィルムは、あまり可撓性がなく非常に壊れやすかった。
【0005】
Beckら[6]は、フィルム形成前に、NCC懸濁液に超音波又は高圧剪断(機械的)エネルギーインプットを与えることにより固体ナノ結晶セルロース(NCC)フィルムの虹色を制御する方法を発見した[6]。NCC懸濁液へのエネルギーインプットが増加するにつれて、生成されるフィルムの色は、電磁スペクトルの紫外領域から赤外領域へとシフトする。この波長シフトは、フィルム形成前のNCC懸濁液への電解液の添加により引き起こされる波長シフトの方向と反対方向である。色の変化を達成するために添加剤は必要としない。色の変化はまた、異なる超音波処理レベルの2つの懸濁液を混合することによって、作り出すこともできる。
【0006】
Beckら[6]はまた、固体NCCフィルムの虹色は、NCC懸濁液のpH及びイオン強度を制御することによって変えることができるということも見出した。酸形成NCC(H−NCC)フィルムを水酸化ナトリウム溶液中に配置した場合、これらの色は、より長い波長へとシフトする。この色シフトは、水中のフィルムを置き換えることにより、部分的に逆転する。ナトリウム形成NCC(Na−NCC)フィルムは、水中に容易に分散させることができるが、十分なイオン強度の塩酸及び塩化ナトリウム溶液中に、並びに水酸化ナトリウム溶液中に、配置した場合、Na−NCCフィルムは、分散せず、これらの虹色もまた長い波長へとシフトする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上の研究では、NCC固体フィルムの光学特性の操作及び制御にもっぱら焦点を合わせていた。しかし、以前の文献又は特許において作製された及び記載されたような、100%NCCで作製された固体フィルムは、非常に壊れやすく、取扱いが困難であるために、多くの商業的用途におけるこれらの適合性は低下する。本発明以前には、可撓性NCCフィルムを生成する、又はその可撓性を強化するための方法は存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを提供することを目指す。
【0009】
特に本発明は、色が調節可能な、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを提供することを目指す。
【0010】
本発明はまた前述のような、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを生成する方法を提供することを目指す。
【0011】
本発明の一態様において、整列構造内にナノ結晶セルロース粒子を含む、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムであって、粒子間に可撓性ブリッジを形成する効果のあるポリマーが、該整列構造を乱すことなく間の空間を満たしている、上記可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムが提供される。
【0012】
本発明の別の態様では、水性媒体中に、ナノ結晶セルロース粒子及びポリマーの懸濁液を形成するステップと、該懸濁液の湿式フィルムを基板上に流し込むステップと、該湿式フィルムを固体フィルムとして乾燥させるステップとを含む、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを作製する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】典型的なキラルネマチック液晶におけるらせん状の配向を概略的に例示している図である。
【図2A】NCCマトリックスにおけるPVOHの役割(PVOHは、NCCフィルム内で「潤滑剤」及び可塑剤として作用するので、PVOHの添加は、虹色を維持しながら優れた可撓性を達成するのに役立つ)を概略的に例示している透視図である。NCC粒子(A)は、寸法10×10×200nmの棒状の粒子であり、PVOH(B)は、水可溶性、親水性のポリマーである。
【図2B】NCCマトリックスにおけるPVOHの役割(PVOHは、NCCフィルム内で「潤滑剤」及び可塑剤として作用するので、PVOHの添加は、虹色を維持しながら優れた可撓性を達成するのに役立つ)を概略的に例示している側面図である。
【図3A】NCCマトリックスにおけるSBRラテックスの役割(SBRラテックスはNCCフィルム内で「接着剤」として作用するので、SBRラテックスの添加は、優れた強度及び可撓性を達成するのに役立つが、虹色を低減させる傾向にある)を概略的に例示している透視図である。NCC粒子(A)は、寸法10×10×200nmの棒状粒子である。SBRラテックス(B)は、直径100〜300nmの固体の、疎水性の、水不溶性の球粒子を含む。
【図3B】NCCマトリックスにおけるSBRラテックスの役割(SBRラテックスはNCCフィルム内で「接着剤」として作用するので、SBRラテックスの添加は、優れた強度及び可撓性を達成するのに役立つが、虹色を低減させる傾向にある)を概略的に例示している側面図である。
【図3C】NCCマトリックスにおけるSBRラテックスの役割(SBRラテックスはNCCフィルム内で「接着剤」として作用するので、SBRラテックスの添加は、優れた強度及び可撓性を達成するのに役立つが、虹色を低減させる傾向にある)を概略的に例示している詳細図である。この詳細図は、乾燥中に、SBRラテックス粒子がフィルム形成物中にどのように溶融しているかを示している。
【図4】10%PVOHを含有するNCCフィルムの反射スペクトルを示すグラフである。
【図5】15%PVOHを含有するNCCフィルムの反射スペクトルを示すグラフである。
【図6】ポリマー含有量が、NCCフィルムの引張剛性指数(TSI)(TSIは、フィルムの可撓性の指標である)に与える影響を示すグラフである。
【図7】PVOHポリマー含有量が、NCCフィルムの曲げ剛性に与える影響を示すグラフである。
【図8】PVOH含有量が、NCCフィルムの色特性(反射スペクトル)に与える影響を示すグラフである。
【図9】PVOH含有量が、NCCフィルムの光沢度に与える影響を示すグラフである。
【図10】PVOH含有量が、NCCフィルムの不透明度に与える影響を示すグラフである。
【図11】10%SBRラテックスを含有するNCCフィルムの反射スペクトルを示すグラフである。
【図12】SBRラテックス含有量が、NCCフィルムの引っ張り強度に与える影響を示すグラフである。
【図13】基板の物質(プレキシグラス及びポリスチレンペトリ皿)が、NCC−SBRラテックスフィルムの引っ張り強度に与える影響を示すグラフである。
【図14】両方ともpH3である、NCC−PVOHフィルム対NCC−SBRラテックスの反射スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
Revolらによる先駆的研究[4]は、虹色であり、広範囲な色に作製することができるNCCからのキラルネマチックフィルムの開発をもたらした。これらの光学特性は、セキュリティーペーパー、装飾品、化粧品などを含めた多くの用途においてこれらの物質を使用することに、有意な関心を引き起こした。しかし、純粋なNCCから調製された虹色のフィルムは、サイズが小さく、非常に壊れやすいため、商業的用途には不適切である。
【0015】
この問題に対処するために、本発明において、その独自の色特性を維持しながら、フィルムに強度及び可撓性を与えるという目的で、NCCフィルムを作製するための新しい方法及び手順が提供される。
【0016】
純粋なNCC懸濁液から形成される固体フィルムの脆性は、NCC棒状粒子間の強い水素結合により引き起こされる。本発明では、通常は低分子ポリマーであり、さらに具体的には、10,000未満の分子量を有するポリマーである可塑剤を添加することによって、可撓性が増加する。このようなポリマーとして、親水性、水可溶性ポリマー、例えばポリビニルアルコール(PVOH)など、並びに疎水性、水不溶性ポリマー、例えばスチレン−ブタジエン(SB)、スチレンアクリレート(SA)、及びポリ酢酸ビニル(PVAc)などが挙げられる。ポリビニルアルコール(PVOH)及びスチレン−ブタジエンゴム(SBR)ラテックスは、NCCフィルムの可撓性を改善するのに特に効果的であることが判明している。
【0017】
ヒドロキシル基を有するポリマー、例えポリビニルアルコールなどは特に有利である。ヒドロキシル基を有する他のポリマーとして、部分的に加水分解されたポリビニルエステル、例えばポリ酢酸ビニルなど、デンプン及びデンプン誘導体、並びにヒドロキシル基を有するセルロースエステルが挙げられる。ヒドロキシル基は、NCC結晶表面に対して親和性を有し、結晶表面に水素結合し得るので、ヒドロキシル基を有するポリマーが有利である。
【0018】
フィルムは、フィルム重量に対して、25重量%までのポリマーを含有するのが適切な場合がある。本明細書中のパーセンテージは、他に指示されていない限り、重量基準である。
【0019】
ポリマーは、NCC粒子間の可塑剤又は潤滑剤として作用し、これにより、NCC棒状粒子間の強い水素結合から生じる脆性に対抗する。
【0020】
特にポリマーは、虹色のために必要なNCC棒状粒子の整列構造を少しも実質的に崩壊させることなく、NCC棒状粒子間に可撓性ブリッジを形成する。
【0021】
NCCフィルム作製における別の問題は、NCCフィルムは、例えばプレキシグラスシャーレ又はポリスチレンペトリ皿(petri−dish)などの基板に強く付着する傾向にあるので、乾燥したNCCフィルムを、基板から容易に剥ぐことができないことである。これは、乾燥NCCフィルムと基板の間の表面相容性の問題を示している。この問題は、基板表面にシリコンをスプレーし、乾燥フィルムと基板との間の接着性を低下させることによって解決された。
【0022】
本発明は、大きなサイズの可撓性虹色のNCCフィルムの生成に関する。本方法は、希釈NCC懸濁液へのポリマーの添加及び超音波処理による均一性の強化に基づく。次いで、NCC懸濁液を大きなサイズのプレキシグラス又はポリスチレンペトリ皿へと流しこんだ。蒸発後、大気条件(ambient conditions)下で、大きな、薄い、可撓性フィルムが形成され、これをシャーレから剥いだ。
【0023】
大きなサイズのNCCフィルムの生成によって、様々なフィルム特性を評価することが可能となった。結果は、NCCフィルムが、虹色、高い光沢度及び平滑性、並びに優れた強度及び可撓性を含めた興味深い特性を有することを示した。フィルム特性における大きな違いは、上の2つのポリマーを用いた場合にも観察された。PVOHの添加は、NCCフィルムに可撓性を与えただけでなく、NCC懸濁液のpHの変更又は超音波処理によって依然として調整することができる強い虹色もまた維持した。そのヒドロキシル基の存在により、NCCと相容性があるため、PVOHが効果的であると考えられている。なぜ虹色がよく保存されているかということも、これによって説明することができる。NCCフィルムの最高の可撓性及び光学特性は、10〜15%PVOH濃度で達成される。SBRラテックスを添加することによって、高い引っ張り強度及び優れた可撓性を有するNCCフィルムが生成された。しかし、フィルムの虹色は、純粋なNCCフィルム又はPVOHを添加して生成したNCCフィルムよりも弱い。NCC−SBRラテックスフィルムの最大の引っ張り強度及び光学特性は、15%SBRラテックスで達成された。
【0024】
NCC−PVOHフィルムはまた、水感受性であり、超音波処理の助けを借りて、水中に再分散させることができることが判明した。これは、PVOHが可溶性ポリマーだからである。改良したNCCフィルムは、依然として、可撓性及び虹色を示す。他方では、NCC及びSBRラテックスから作製されたフィルムは、耐水性であり、水には非分散性である。この発見に基づき、NCC/PVOHフィルムは、再分散用のフィルム形態で提供できるのに対し、NCC−SBRラテックスフィルムは、例えば、セキュリティー装飾、保護及びバリア用の材料など、直接使用向けに提供することができる。
【0025】
こうして、ポリマーを添加することによって、これらフィルムの調整可能な色の性質を保持しながら、可撓性ナノ結晶セルロースフィルム(NCC)を調製するための新しい方法が発見された。一連の結合剤が評価されたにもかかわらず、ポリビニルアルコール(PVOH)及びスチレン−ブタジエン(SB)ラテックスは、最も効果的で、PVOHが最も優れていることが判明した。PVOHを用いて作製されたNCCフィルムは、SB−ラテックスで作製されたものよりも良好な虹色を保持している。しかし、SB−ラテックスで作製されたNCCフィルムは、より良好な可撓性を有する。加えて、PVOHで作製されたNCCフィルムは、水に容易に分散することが判明したが、SBラテックスで作製されたNCCフィルムは、水にまったく分散しない(耐水性が強い)。PVOH及びSB−ラテックスで作製したNCCフィルムの色は、依然として、pHの変更及び超音波処理によって調整することができる。
【0026】
PVOHは、O〜25%(wt./wt)の範囲の濃度でNCC懸濁液に添加した。1%のPVOHをNCC懸濁液に添加することによって、フィルムが形成したが、フィルムは、壊れやすいままで、容易に破壊することができた。3%で、フィルムは可撓性を示し始め、10%で、フィルムは、高い可撓性を有した。SBRラテックスでは、可撓性フィルムを生成するために通常およそ15%(wt./wt.)が必要とされるので、PVOHと同じ位良好な性能は発揮されなかった。特定された最適条件を用いて、寸法1m×0.5mまで、厚さおよそ50μmの虹色の、分離した、可撓性フィルムを作製するのに成功した。
【0027】
ポリマーを添加しても、フィルム形成前のNCC懸濁液のpHの調整により、フィルムの色が変わり、フィルムの虹色は、すべての濃度のPVOHに対して可視であった。例えば、混合した懸濁液のpHを3.0に調整した場合、フィルムの反射光は、スペクトルの黄色から赤色の領域にあった。混合した懸濁液のpHを8.0に調整した場合、フィルムの反射光は、スペクトルの青色領域にあった。
【実施例】
【0028】
本発明は、以下の実施例によって例示されるが、これらだけに限定はされない。
一般的手順A:PVOHを用いて可撓性NCCフィルムを生成する
既知の固形分含量のNCC懸濁液(3〜6%(w/w))及び既知の濃度のPVOH溶液(6〜10%(w/w))を、ガラスビーカー内で、磁気撹拌機を用いて5分間混合する。次いでこの混合物を2分間超音波処理する。混合した懸濁液のpH値をpHメーターで測定する。シリコンスプレー剤を使用して、プレキシグラス又はポリスチレンペトリ皿をしっかりと拭く。超音波処理した混合物を、シャーレに注ぎ入れる。シャーレに混合物を広げ、温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、シャーレを水平な表面上に配置する。PVOHを含有するNCCフィルムは、24時間以内に乾燥する。
【0029】
生成された固体NCC/PVOHフィルムの可撓性を、引っ張り強度及び曲げ剛性で測定する。引っ張り強度は、Instron引っ張り試験装置で測定し(破壊性試験)、曲げ剛性は、引張剛性指数(TSI)テスターで測定する(非破壊性試験)。虹色、不透明度、及び光沢度を測定することによって、NCC/PVOHフィルムの光学特性を特性評価する。フィルムの虹色を変角分光光度計で試験することによって、D65照明、45°入射照明での反射の主波長を得る。固体フィルムの不透明度は、Technibrite Micro TB−1C装置で測定し、光沢度は、光沢計(HunterLab D48−7)で試験する。
【0030】
一般的手順B:SBRラテックスを用いて可撓性NCCフィルムを生成する
既知の濃度のSBRラテックス懸濁液(40〜50%(w/w))及び既知の濃度のNCC溶液(6〜10%(w/w))を、磁気撹拌機で、5分間ガラスビーカー内で混合する。次いでこの混合物を2分間超音波処理する。混合した懸濁液のpH値をpHメーターで測定する。シリコンスプレー剤を使用して、プレキシグラス又はポリスチレンペトリ皿をしっかりと拭く。超音波処理した混合物をシャーレに注ぎ入れる。シャーレに混合物を広げた後、温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、シャーレを水平な表面上に配置した。PVOHを含有するNCCフィルムは、24時間以内に乾燥する。
【0031】
生成した固体NCC/SBRラテックスフィルムの可撓性及び光学特性を、一般的手順Aに記載の通り特性評価する。
【0032】
NCCフィルムに可撓性を与える上でのポリマーの役割
上の手順に従い、最初のスクリーニング評価を行った。PVOH及びSBRラテックスは、NCCフィルムに可撓性を与える上で最も効果のあるポリマーであった。最大量の可撓性に到達するためには、特定量のポリマーが必要とされる。PVOHで作製されたNCCフィルムは、SBRラテックスで作製されたフィルムよりも虹色をよく保持していた。そのヒドロキシル基の存在により、NCCと相容性があるため、PVOHが特に効果があると考えられている。なぜ虹色がよく保存されるかということも、これによって説明することができる。しかし、SBRラテックスで作製されたNCCフィルムは、より良好な引っ張り強度を有していた。加えて、PVOHで作製されたNCCフィルムは、容易に水中に分散することが判明したが、SBRラテックスで作製されたNCCフィルムは、水中に分散しなかった(耐水性が強い)。PVOH及びSBRラテックスで作製されたNCCフィルムの色は、pHの変更及び超音波処理により依然として調整することができる。
【0033】
可溶性ポリマーとしてPVOHは、NCC棒の間で「潤滑剤」及び結合剤として作用する。図2に示すように、懸濁液の状態でPVOHは、NCC棒の間に位置することによって、NCC棒間の強すぎる水素結合を阻止することになる。同時に、PVOHは可溶性ポリマーであるので、乾燥中にNCC棒の配列を妨げない。したがって、PVOHは、その虹色に影響を与えることなく、可撓性フィルムの形成を促進させることができる。
【0034】
SBRラテックスは、NCCの長さに匹敵する、直径100〜300nmの球粒子である。懸濁液中でNCC棒とよく混合されているSBRラテックス粒子は、それらのサイズが大きいため、NCC棒を分離し得る。図3に示されているように、通常ガラス転移(Tg)点を有するSBRラテックス粒子は、乾燥中にフィルムを形成する。したがって、SBRラテックス粒子は、NCC棒間で「接着剤」として作用し、フィルムに強度及び可撓性を与える。しかし、その大きい粒度のために、SBRラテックスは、NCC棒の配列を妨げ、これによってその虹色を低減させる傾向にある。
【0035】
(例1)
10%PVOHを含有する、大きなサイズの、可撓性虹色NCCフィルムを生成する
31.76gの8.84(wt%)ポリビニルアルコール(PVOH)溶液を、473.61gの5.34%(wt.)ナノ結晶セルロース(NCC)懸濁液へ加えた。より低い分子量(<10,000)のPVOH(例えばAIRVOL 203(商標))を使用した。NCC懸濁液及びPVOH溶液を、ガラスビーカー内で、5分間の機械的撹拌、次いで2分間の超音波処理により混合した。混合物のpH値は、3.0であった。0.48m×0.78mの寸法のプレキシグラストレイに混合物を注ぎ入れた。このプレキシグラストレイは、シリコンスプレー剤で事前に処理しておいた。温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、水平なテーブル上にこのトレイを配置した。フィルムは、48時間以内に乾燥した。フィルムの坪量は、75g/m2であった。フィルムの厚さの平均は、50μmであった。
【0036】
10%PVOHを含有する、この大きな可撓性NCCフィルムが生成された。フィルムは、調整可能な光学特性を有する。変角分光光度計を使用して、虹色の色特性を同定した。フィルムの反射スペクトルを図4に示す。フィルムの不透明度は、32.8%であった。光沢度は69.7%であった。引張剛性指数(TSImax)は93.35kNm/gであった。フィルムの含水量は、室温で6〜7%の間であった。フィルムは、水感受性があり、2分間の超音波処理で分散可能であった。
【0037】
(例2)
15%PVOHを含有する、大きなサイズの可撓性虹色NCCフィルムを生成する
9.69gの8.84%(wt.)ポリビニルアルコール(PVOH)溶液を、74.08gの6.5%(wt)ナノ結晶セルロース(NCC)懸濁液に加えた。より低い分子量(<10,000)のPVOH(例えばAIRVOL203(商標))を使用した。NCC懸濁液及びPVOH溶液を、5分間の機械的撹拌混合し、次いで2分間の超音波処理により混合した。混合物のpH値は、3.0であった。0.32m×0.24mの寸法のプレキシグラストレイに混合物を注ぎ入れた。このプレキシグラストレイは、シリコンスプレー剤で事前に処理しておいた。温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、水平なテーブル上にこのトレイを配置した。フィルムは、24時間以内に乾燥した。フィルムの坪量は、75g/m2であった。フィルムの厚さの平均は、50μmであった。
【0038】
15%PVOHを含有する、この大きな可撓性NCCフィルムが生成された。フィルムは、調整可能な光学特性を有する。変角分光光度計を使用して、虹色の色特性を同定した。反射スペクトルを図5に示す。光沢度は57.9%であった。フィルムの不透明度は、45.6%であった。引張剛性指数(TSImax)は、15.34kNm/gであった。フィルムの含水量は、室温で6〜7%の間であった。フィルムは、水感受性であり、2分間の超音波処理により分散可能であった。
【0039】
(例3)
NCC−PVOHフィルムの可撓性に対するPVOH含有量の影響
一般的手順Aに従い、一つの群のNCC−PVOHフィルムを調製した。NCC懸濁液へのPVOHの含有添加量を、NCC固形分に対して0から25%(wt/wt)へと増加させた。生成した固体NCC−PVOHフィルムの可撓性を引張剛性指数(TSI)テスターで測定した。NCCフィルムの可撓性は、PVOH含有量が増加するにつれて改善した(図6、7)。より低い引張剛性指数(TSI)(KNm/g)及び曲げ剛性(mN.m)は、より良好な可撓性を表す。最高の可撓性と優れた虹色は、10〜15%PVOHを添加した場合達成された。
【0040】
(例4)
NCC−PVOHフィルムの光学特性に対するPVOH含有量の影響
一般的手順Aに従い、一つの群のNCC−PVOHフィルムを調製した。NCC懸濁液へのPVOH溶液添加量を、NCC固形分に対して、0から25%(wt/wt)へと増加させた。NCCフィルムの虹色特性を、変角分光光度測定法により定量的に特性評価した。測定結果は、NCC−PVOHフィルムの光学特性が、PVOH含有量により影響を受けたことを明らかに示した。PVOHが多すぎると、虹色が低減した(図8)。NCC/ポリマーフィルムの光学特性はまた、不透明度及び光沢度を測定することによって特性評価さられた。純粋なNCCフィルムは、極度に高い光沢度を有するが、光沢度は、PVOHの添加と共に低下する(図9)。別の非常に興味深い発見は、NCCフィルムが、虹色の強さに応じて、異なる不透明度を有することができることである。これは、不透明度が固定された波長570nmで測定されるからである(図10)。これらの結果は、最終用途の必要条件に応じて、透明なNCCフィルムと不透明度の高いNCCフィルムの両方を生成できることを示唆している。
【0041】
(例5)
10%SBRラテックスを含有する、大きなサイズの、可撓性の、強度の高いNCCフィルムを生成する
1.86gの49.48%(wt)SBRラテックスを、129.52gの6.41%(wt.)NCC懸濁液に加えた。このNCC懸濁液及びSBRラテックスを、5分間の機械的撹拌、次いで2分間の超音波処理により混合した。混合物のpH値は、3.0であった。0.30m×0.41mの寸法のプレキシグラストレイに混合物を注ぎ入れた。このプレキシグラストレイは、シリコンスプレー剤で事前に処理しておいた。温度23℃及び相対湿度50%での大気条件で、水平なテーブル上にこのトレイを配置した。フィルムは、24時間以内に乾燥した。フィルムの坪量は、75g/m2であった。厚さの平均は、50μmであった。
【0042】
10%SBRラテックスを含有する大きな、可撓性の、強度の高いNCCフィルムが生成された。フィルムの引張剛性指数(TSImax)は、226.0kNm/gであった。フィルムの反射スペクトルを図11に示す。光沢度%は、60.3%であった。不透明度は23.3%であった。フィルム含水量は、室温で6〜7%の間であった。フィルムは、耐水性で、水に24時間浸漬後、その完全性及び虹色を維持した。
【0043】
(例6)
NCC−SBRラテックスフィルムの引っ張り強度に対するSBRラテックス含有量の影響
一般的手順Bに従い、一つの群のNCC−ポリマーフィルムを調製した。NCC懸濁液へのSBRラテックス懸濁液添加量を、NCC固形分に対して、0から20%(wt/wt)へと増加させた。生成された固体NCCフィルムの引っ張り強度を、Instron引っ張り試験装置で測定した。結果は、NCC−SBRラテックスフィルムの一番高い引っ張り強度は、15%SBRラテックスの添加で起きたことを示した(図12)。
【0044】
(例7)
NCC−SBRラテックスフィルムの引っ張り強度に対する基板物質の影響
一般的手順Bに従い、2つの群のNCC−ポリマーフィルムを調製した。NCC懸濁液へのSBRラテックス溶液添加量を、NCC固形分に対して0から20%(wt/wt)に増加させた。一方の群のNCC−SBRラテックスフィルムを、プレキシグラスシャーレに流し込み、他方の群のNCC−SBRラテックスフィルムをポリスチレンペトリ皿へと流し込んだ。生成した固体NCCフィルムの引っ張り強度を、Instron引っ張り試験装置で測定した。結果は、基板物質が、フィルムの引っ張り強度に影響を与えたことを示した。プレキシグラスに流し込んだフィルムは、ポリスチレンペトリ皿に流し込んだフィルムより高い引っ張り強度を示した(図13)。おそらく主な理由は、プレキシグラスシャーレは、ポリスチレンシャーレと比較してより平滑な表面を有し、プレキシグラス上に流し込んだNCCフィルムは、より高い水素結合を容易に形成したからである。
【0045】
(例8)
NCC−PVOHフィルムとNCC−SBRラテックスフィルムとの虹色の比較
一般的手順A及びBに従い、2つのNCC−ポリマーフィルムを調製した。NCC懸濁液に加えたPVOH溶液は、NCC固形分に対して10%(wt/wt)であった。NCC懸濁液に加えたSBRラテックス懸濁液は、NCC固形分に対して10%(wt/wt)であった。生成したNCC−PVOH及びNCC−SBRラテックスフィルムの厚さは、およそ40μmであった。変角分光光度計を使用して、虹色の色特性を定量化した。結果は、PVOH溶液を添加したことにより、同じ量のPVOH溶液を添加した場合よりも高い反射強度のNCCフィルムが生成されたことを示した(図14)。可溶性ポリマーであるPVOHは、乾燥中NCC棒の配列を乱さないので、フィルムの虹色を保つ。しかし、SBRラテックスは、その大きなサイズ(直径200〜300nm)が原因となり、NCC棒の配列を乱し、さらにNCC凝集体の間にポリマーの「島(islands)」を作り出すことが、虹色を弱める原因となり得る。
【0046】
(例9)
NCC懸濁液のpHを変える
一般的手順Aに従い、2つのNCC−PVOHフィルムを調製した。化学物質NH3.H2Oを使用して、NCC懸濁液のpHを変えた。混合した懸濁液のpHが3.0の場合、フィルムの反射した光は、スペクトルの黄色から赤色の領域であった。混合した懸濁液のpHが8.0の場合、フィルムの反射した光は、スペクトルの青色領域であった。20%PVOHを用いて、pH3.0及びpH8.0で、フィルムを作製した。この実施例は、フィルム形成前に懸濁液のpHを調整することで、フィルムの色が変わることを実証している。
(参考文献)
1.Ranby,B.G.Discuss.Faraday Soc.1951、11、158〜164。
2.Marchessault,R.H.;Morehead,F.F.;Walter,N.M.Nature 1959、184、632〜633。
3.Revol,J.−F.;Bradford,H.;Giasson,J.;Marchessault,R.H.;Gray,D.G.Int.J.Biol.Macromol.1992、14、170〜172。
4.Revol,J.−F.;Godbout,L.;Gray,D.G.「光学的に可変の特性を有する、セルロースの固化した液晶」、U.S.Patent 5,629,055;May 13 1997、to Paprican。
5.Hamad,W.、「セルロースナノフィブリル及びナノ結晶物質の開発及び応用について」、Canadian J.of Chemical Engineering 84(5):513〜519(2008)。
6.Beck S.et al.、米国特許出願第61/213,053号、2009年5月1日出願
【特許請求の範囲】
【請求項1】
整列構造内にナノ結晶セルロース粒子を含む、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムであって、粒子間に可撓性ブリッジを形成する効果のあるポリマーが、該整列構造を乱すことなく間の空間を満たしている、上記可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルム。
【請求項2】
前記ポリマーが、親水性、水可溶性ポリマーである、請求項1に記載の可撓性フィルム。
【請求項3】
前記ポリマーが、疎水性、水不溶性ポリマーである、請求項1に記載の可撓性フィルム。
【請求項4】
前記ポリマーが、ポリビニルアルコールである、請求項2に記載の可撓性フィルム。
【請求項5】
前記ポリマーがスチレン−ブタジエンゴムラテックスである、請求項3に記載の可撓性フィルム。
【請求項6】
前記ポリマーが、分子量1000未満のヒドロキシル基含有ポリマーである、請求項1に記載の可撓性フィルム。
【請求項7】
前記フィルムの重量に対して、25重量%までの前記ポリマーを含有する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の可撓性フィルム。
【請求項8】
前記フィルムの重量に対して、10重量%〜15重量%の前記ポリビニルアルコールを含有する、請求項4に記載の可撓性フィルム。
【請求項9】
前記フィルムの重量に対して、15重量%の前記スチレン−ブタジエンゴムラテックスを含有する、請求項5に記載の可撓性フィルム。
【請求項10】
水媒体中に、ナノ結晶セルロース粒子及びポリマーの懸濁液を形成するステップと、該懸濁液の湿式フィルムを基板上に流し込むステップと、該湿式フィルムを固体フィルムとして乾燥させるステップとを含む、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを作製する方法。
【請求項11】
前記流し込みが、前記ナノ結晶セルロース粒子を整列構造内に有する前記湿式フィルムを形成し、並びに前記ポリマーが該粒子間を満たし、かつ該整列構造内の該ナノ結晶セルロース粒子間に可撓性ブリッジを形成する状態で、前記湿式フィルムが乾燥される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーが親水性の、水可溶性ポリマーである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーが、疎水性の、水不溶性ポリマーである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーが、分子量1000未満のヒドロキシル基含有ポリマーである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーがポリビニルアルコールである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマーがスチレン−ブタジエンゴムラテックスである、請求項13に記載の方法。
【請求項1】
整列構造内にナノ結晶セルロース粒子を含む、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムであって、粒子間に可撓性ブリッジを形成する効果のあるポリマーが、該整列構造を乱すことなく間の空間を満たしている、上記可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルム。
【請求項2】
前記ポリマーが、親水性、水可溶性ポリマーである、請求項1に記載の可撓性フィルム。
【請求項3】
前記ポリマーが、疎水性、水不溶性ポリマーである、請求項1に記載の可撓性フィルム。
【請求項4】
前記ポリマーが、ポリビニルアルコールである、請求項2に記載の可撓性フィルム。
【請求項5】
前記ポリマーがスチレン−ブタジエンゴムラテックスである、請求項3に記載の可撓性フィルム。
【請求項6】
前記ポリマーが、分子量1000未満のヒドロキシル基含有ポリマーである、請求項1に記載の可撓性フィルム。
【請求項7】
前記フィルムの重量に対して、25重量%までの前記ポリマーを含有する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の可撓性フィルム。
【請求項8】
前記フィルムの重量に対して、10重量%〜15重量%の前記ポリビニルアルコールを含有する、請求項4に記載の可撓性フィルム。
【請求項9】
前記フィルムの重量に対して、15重量%の前記スチレン−ブタジエンゴムラテックスを含有する、請求項5に記載の可撓性フィルム。
【請求項10】
水媒体中に、ナノ結晶セルロース粒子及びポリマーの懸濁液を形成するステップと、該懸濁液の湿式フィルムを基板上に流し込むステップと、該湿式フィルムを固体フィルムとして乾燥させるステップとを含む、可撓性虹色ナノ結晶セルロースフィルムを作製する方法。
【請求項11】
前記流し込みが、前記ナノ結晶セルロース粒子を整列構造内に有する前記湿式フィルムを形成し、並びに前記ポリマーが該粒子間を満たし、かつ該整列構造内の該ナノ結晶セルロース粒子間に可撓性ブリッジを形成する状態で、前記湿式フィルムが乾燥される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーが親水性の、水可溶性ポリマーである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーが、疎水性の、水不溶性ポリマーである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーが、分子量1000未満のヒドロキシル基含有ポリマーである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーがポリビニルアルコールである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマーがスチレン−ブタジエンゴムラテックスである、請求項13に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−525446(P2012−525446A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507547(P2012−507547)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000638
【国際公開番号】WO2010/124378
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(507171683)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000638
【国際公開番号】WO2010/124378
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(507171683)
【Fターム(参考)】
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