説明

可撓性長尺体の検査方法及び検査装置並びに可撓性長尺体の製造方法

【課題】キンク性を直接かつ再現性よく検査できる可撓性長尺体の検査方法及び検査装置並びに均一性の高いキンク性を有する可撓性長尺体を製造できる製造方法の提供。
【解決手段】可撓性長尺体Tの中央部を円環状にし、その一端部T1及び他端部T2を同一直線上に配置する工程と、中央部を可撓性長尺体Tの直径に対して2〜5倍の高さの範囲内に留保して他端部T2を一端部T1から離間する方向に移動させる工程と、中央部がキンクしたときの一端部T1から他端部T2までの可動長さを測定する工程とを有する可撓性長尺体Tの検査方法、この検査方法における可動長さが用途に応じて設定される閾値以上である可撓性長尺体Tを選別する工程を有する可撓性長尺体の製造方法、並びに、可撓性長尺体が載置される基板3と、空間Sが画成されるように基板3上に配置された規制板4と、基板3上に配置された測定機構5とを備えた可撓性長尺体Tの検査装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可撓性長尺体の検査方法及び検査装置並びに可撓性長尺体の製造方法に関し、さらに詳しくは、キンク性を直接かつ再現性よく検査できる可撓性長尺体の検査方法及び検査装置並びに均一性の高いキンク性を有する可撓性長尺体を製造できる可撓性長尺体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体又は気体等の流体を移送する流体移送チューブ、流体移送ホース等の可撓性長尺体は可撓性を有しているが故に取り扱いが容易であるという利点を有する反面、比較的小さな曲げ荷重が作用しただけで折れ曲がりやすく、すなわち屈曲又は座屈しやすく、流体移送路が狭窄し、又は閉塞して、所定量の流体を移送できなくなることがある。
【0003】
このような流体移送路の狭窄又は閉塞は、可撓性長尺体のなかでも特に輸液又は薬液を移送する医療用チューブにおいては患者に重大な結果を招来するので、可撓性長尺体がどの程度折れ曲がりやすいのかを評価し、場合によっては折れ曲がりやすい可撓性長尺体を選別することが重要である。
【0004】
可撓性長尺体の折れ曲がりやすさを評価する方法は可撓性長尺体の製造又は検査時等に実施されることがあるが、具体的な方法はほとんど知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
可撓性長尺体の折れ曲がりやすさを評価する方法として、例えば、可撓性長尺体を円環状にしてその円環状部分の径を徐々に小さくしていき、可撓性長尺体が折れ曲がったときの円環状部分の径の大小で判断する方法等が考えられる。ところが、このような方法では、円環状部分が折れ曲がる前に可撓性長尺体が跳ね上がって円環状部分の形状が崩れて消滅してしまい円環状部分の径を測定できないことがある。また、円環状部分が消滅しなくても跳ね上がった円環状部分の跳ね上がり量によって測定結果が大きくばらつくことがある。すなわち、円環状部分の径を測定して折れ曲がりやすさを評価する方法では可撓性長尺体の折れ曲がりやすさを十分かつ再現性よく評価できないことがあった。
【0006】
このように、可撓性長尺体の折れ曲がりやすさ、すなわちキンク性を直接かつ再現性よく検査する検査方法は従来になく、したがって、均一性の高いキンク性を有する可撓性長尺体を製造できる製造方法等が要望されていた。
【0007】
この発明は、キンク性を直接かつ再現性よく検査できる可撓性長尺体の検査方法及び検査装置を提供することを、目的とする。
【0008】
また、この発明は、均一性の高いキンク性を有する可撓性長尺体を製造できる可撓性長尺体の製造方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、可撓性長尺体の中央部を屈曲させて円環状にし、可撓性長尺体の一端部及び他端部を同一直線上に配置する工程と、前記中央部を可撓性長尺体の直径に対して2〜5倍の高さの範囲内に留保して、前記他端部を前記同一直線上であって前記一端部から離間する方向に移動させる工程と、前記中央部がキンクしたときの、前記一端部から前記他端部までの前記同一直線に沿う可動長さを測定する工程とを有する可撓性長尺体の検査方法であり、
請求項2は、可撓性長尺体は医療用チューブである請求項1に記載の可撓性長尺体の検査方法であり、
請求項3は、請求項1又は2に記載の可撓性長尺体の検査方法において前記可動長さが用途に応じて設定される閾値以上である可撓性長尺体を選別する工程を有する可撓性長尺体の製造方法であり、
請求項4は、前記閾値は前記可撓性長尺体をシリコーンゴムで形成された医療用チューブとして用いる場合には軸線長さ300〜500mm、直径0.5〜15mm、管壁の厚さ0.1〜5mm、JIS A硬度20〜80であるときに200〜400mmである請求項3に記載の可撓性長尺体の製造方法であり、
請求項5は、可撓性長尺体が載置される基板と、前記可撓性長尺体の直径に対して2〜5倍の高さを有する空間が画成されるように前記基板上に配置された規制板と、前記基板上に配置され、前記可撓性長尺体の長さを測定する測定機構とを備えた可撓性長尺体の検査装置であり、
請求項6は、前記空間の高さを調整する調整機構を備えた請求項5に記載の可撓性長尺体の検査装置である。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法及び検査装置は、前記配置する工程と前記移動させる工程と前記測定する工程とを有し、可撓性長尺体の円環状にした中央部を実際に屈曲させて評価できるから、キンク性を直接かつ再現性よく検査できる。また、この発明に係る可撓性長尺体の製造方法は、この発明に係る可撓性長尺体の検査方法における閾値によってキンク性に優れた可撓性長尺体を選別できるから、均一性の高いキンク性を有する可撓性長尺体を製造できる。したがって、この発明によれば、キンク性を直接かつ再現性よく検査できる可撓性長尺体の検査方法及び検査装置並びに均一性の高いキンク性を有する可撓性長尺体を製造できる可撓性長尺体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、この発明に係る可撓性長尺体の検査装置の一例を示す概略図であり、図1(a)はこの発明に係る可撓性長尺体の検査装置の一例を示す概略正面図であり、図1(b)はこの発明に係る可撓性長尺体の検査装置の一例を示す概略平面図である。
【図2】図2は、この発明に係る可撓性長尺体の検査装置の一例を用いてこの発明に係る可撓性長尺体の検査方法を説明する説明図であり、図2(a)はこの発明に係る可撓性長尺体の検査装置の一例に可撓性長尺体を配置した状態を説明する説明図であり、図2(b)はこの発明に係る可撓性長尺体の検査装置の一例に配置された可撓性長尺体がキンクした状態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、この発明に係る可撓性長尺体の検査方法及び検査装置に用いられる可撓性長尺体は、内部に液体又は気体等の流体を移送する流体移送路を有する可撓性長尺体である。この可撓性長尺体の内部にその軸線方向に沿って配置される流体移送路は1本でもよく、2本以上であってもよい。このような可撓性長尺体としては、例えば、各種流体移送チューブ、流体移送ホース等、流体移送ワイヤー等が挙げられる。具体的には、気体、液体、ゲル、固形物又はこれらの混合物等を移送するチューブ等が挙げられ、より具体的には、人体に挿入若しくは留置し、又は、医療装置に装着され、血液、尿等の体液又は排泄液、薬液又は輸液を体内又は医療装置等から医療装置又は体内に移送するのに用いられる医療用チューブ等が挙げられる。
【0013】
このような医療用チューブは、患者から採取又は排泄する体液若しくは排泄液はもちろん、特に薬液又は輸液は所定量を所定速度で患者に移送する必要があるから、医療用チューブが少しでもキンクすると患者に重大な結果を招来することになる。したがって、医療用チューブは特にそのキンク性が重要であり、この発明に係る可撓性長尺体の検査方法及び検査装置に好適に用いられる。
【0014】
この発明において、「キンク」とは比較的小さな曲げ荷重等が作用したときに、可撓性長尺体が折れ曲がり、屈曲又は座屈して、流体移送路が狭窄又は閉塞することを意味し、「キンク性」とは可撓性長尺体のキンクしやすさを意味する。なお、「狭窄」は流体の流量が僅かでも減少すると重大な影響が及ぼされる用途例えば医療用途に可撓性長尺体が用いられるときに適用され、「閉塞」は流体の流量が多少減少しても重大な影響が及ぼされない用途に可撓性長尺体が用いられるときに適用される。
【0015】
可撓性長尺体は、通常、ゴムで管状に形成されており、用途等に応じて適宜の構造に設定される。例えば、断面リング状の管壁と管壁で囲繞された流体移送路とを有する一般的な管状体(チューブ又はホースとも称することができる。)、断面円形でその内部に複数の流体移送路(ルーメンとも称する。)を有する管体等が挙げられる。この可撓性長尺体を形成するゴムは、特に限定されず、例えば、シリコーンゴム又はシリコーン変性ゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム(エチレンプロピレンジエンゴムを含む。)、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エピクロールヒドリンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム及び塩化ビニルゴム等が挙げられるが、耐薬品性、化学的安定性、耐熱性、耐候性、安全性及び生体適合性等に優れるシリコーンゴム又はシリコーン変性ゴムであるのが好ましい。なお、ゴムは各種添加剤を含有していてもよく、通常、可撓性長尺体は前記ゴムと各種添加剤とを含有するゴム組成物で形成されている。各種添加剤はゴム組成物、例えば、医療用ゴム製品を形成する医療用ゴム組成物に通常含有される各種の添加剤が挙げられる。
【0016】
この可撓性長尺体は、可撓性を有しており、具体的には、そのJIS A硬度が20以上であるのが好ましく、可撓性長尺体がシリコーンゴム製である場合には20〜80であるのが好ましい。JIS A硬度は、可撓性長尺体と同様の材料で作製した厚さ6mmの中実試験片及び「デュロメータA硬度計」を用いてJIS K6253に準拠して測定できる。
【0017】
このような可撓性長尺体は、前記ゴム組成物を用いて各種の成形方法で管状に形成される。その詳細は後述する。
【0018】
この発明に係る可撓性長尺体の製造方法で製造される可撓性長尺体は、この発明に係る可撓性長尺体の検査方法で選別された前記可撓性長尺体であって所定のキンク性を有している。したがって、この発明に係る可撓性長尺体の製造方法で製造される可撓性長尺体は、その基本的な構造、材質、キンク性以外の特性等は前記した、この発明に係る可撓性長尺体の検査方法及び検査装置に用いられる可撓性長尺体と基本的に同様である。
【0019】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法及び検査装置に用いられる可撓性長尺体は本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、可撓性長尺体は軸方向に垂直な面で切断した断面が通常リング状であるが、この発明において可撓性長尺体はその断面が楕円形、多角形であってもよく、また軸線に沿って外周面に形成されたリブ又は外周面に螺旋状に形成されたリブ等を1本又は複数本有していてもよい。また、可撓性長尺体の管壁は一層構造でも複層構造でもよく、さらに管壁内部に金属網体等の補強層が埋設されていてもよい。
【0020】
次に、この発明に係る可撓性長尺体の製造装置を説明する。この発明に係る可撓性長尺体の製造装置の一例としての可撓性長尺体の製造装置(以下、単に製造装置と称する。)1は、図1(a)及び図1(b)に示されるように、可撓性長尺体が載置される基板3と、基板3上に支持体6を介して配置された規制板4と、基板3上に配置された測定機構5と、測定機構5の一端縁に配置された把持部7とを備えている。
【0021】
基板3は、図1(a)及び図1(b)に示されるように、平坦な板状部材であって、規制板4及び支持体6等を支持固定する。この基板3は、中央部が円管状に屈曲された可撓性長尺体が配置又は載置される平坦な表面を有している。基板3はある程度の剛性を有していればよく、例えば、各種樹脂、金属、木材等で形成されている。基板3は検査する可撓性長尺体に応じて適宜の寸法に設定されている。
【0022】
規制板4は、可撓性長尺体の直径に対して2〜5倍の高さを有する空間S(図1(a)参照)が画成されるように、基板3の長辺方向に間隔をおいて基板3上に略平行に設置された1組の支持体6を介して基板3上に配置されている。この支持体6それぞれは共に可撓性長尺体の直径に対して2〜5倍で同じ高さを有しており、自身の上に配置された規制板4の下面と基板3の平坦な前記表面とが並行となる空間Sを形成するように、規制板4を支持している。この発明に係る可撓性長尺体の製造装置において、空間の高さは検査対象となる可撓性長尺体の可撓性等に応じて前記範囲内で一定の値に設定され、好ましくは2.1〜3倍に設定される。この検査装置1においては空間Sの高さは可撓性長尺体の直径の2.5倍に設定されている。規制板4は、その下面で可撓性長尺体、特に円管状に屈曲された中央部が検査中に空間Sの高さ範囲内に留まるように、すなわち、前記高さよりも高く起立しないように、可撓性長尺体、特に中央部を規制する。したがって、この規制板4は押さえ板とも称することができる。この規制板4は基板3の短辺方向の中央に長辺方向に沿って配置されている。規制板4は、可撓性長尺体を規制できる程度の剛性を有していればよく、例えば、各種樹脂、金属等で形成される。規制板4は、可撓性長尺体の中央部の屈曲状態を確認・認識しやすい点で透明又は半透明であるのが好ましく、例えば、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の透明樹脂又は半透明樹脂等及びガラス等で形成されるのが好ましい。規制板4は可撓性長尺体をその中央部が屈曲するまで規制できればよく、検査する可撓性長尺体に応じて適宜の寸法に設定されている。
【0023】
測定機構5は、規制板4と略並行に隣接するように、基板3の表面に配置され、又は埋設される。測定機構5は、検査する可撓性長尺体がキンクするまでの可動長さを測定できる機構であればよく、例えば、金尺、定規等が挙げられ、また、基板3の表面に目盛を設ける構成としてもよい。この検査装置1において測定機構5は基板3に面一となるように埋設された金尺である。
【0024】
把持部7は、測定機構5の一端縁に連続して直列に配置されている。この把持部7は、検査する可撓性長尺体を直径方向から挟む1対の把持片で構成され、把持片7aの間隔は検査する可撓性長尺体の直径よりも僅かに小さくなっている。
【0025】
この発明に係る可撓性長尺体の検査装置は、検査装置1に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、検査装置1において、支持体6は所定の高さを有する突条体に形成されているが、この発明において支持体は所定の高さを有する複数の突起であってもよく、また係合ラッチ等の高さ調整機構を備えていてもよい。
【0026】
検査装置1は、測定機構5として基板3に埋設された金尺を備えているが、この発明において測定機構は公知の電子式測定器、基板に着脱可能なノギス等であってもよい。
【0027】
この発明に係る検査装置は、基板3、規制板4、測定機構5、支持体6及び把持部7に加えて、測定機構5上に可撓性長尺体の移動を案内する案内部材、例えば可撓性長尺体の直径よりも僅かに大きな間隔で略平行に配置された1組の軌条又は案内壁等を備えていてもよい。
【0028】
この発明に係る検査装置は、基板3、規制板4、測定機構5、支持体6及び把持部7に加えて、基板又は測定機構等に基板の長辺方向に沿って配置又は設置された軌条と、可撓性長尺体の他端部を把持してこの軌条上を走行する把持部材と、把持部材を走行させる駆動機構と、場合により前記測定機構5に代えて把持部材の走行距離を測定する測定部とを有する可撓性長尺体の引張機構を備えていていてもよい。
【0029】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法を、この発明に係る可撓性長尺体の製造方法と共に、図面を参照して、説明する。
【0030】
この発明に係る可撓性長尺体の製造方法においては、まず検査対象としての可撓性長尺体を準備する。この可撓性長尺体はこの発明に係る可撓性長尺体の検査方法によって選別されていないこと以外はこの発明に係る可撓性長尺体の検査方法及び検査装置に用いられる可撓性長尺体と基本的に同様である。
【0031】
この発明に係る可撓性長尺体の製造方法においては、通常、検査対象としての可撓性長尺体(以下、検査用長尺体と称することがある。)を作製する。検査用長尺体は、この発明に係る可撓性長尺体と基本的に同様にして、押出成形、射出成形等の成形方法等によって前記ゴム組成物を所望の外径及び内径を有する管状体に形成し、所望により適宜の軸線長さに切断して、作製される。ゴム組成物を押出成形法によって管状体に成形する場合には、例えば、所望の大きさを有する丸ダイを用いて、ゴム組成物を加熱すると共に管状に押し出して成形すればよく、また射出成形法によって管状体に成形する場合には、例えば、所望の大きさを有する金型を用いて、金型内にゴム組成物を射出し、金型ごと加熱して、成形すればよい。ゴム組成物の加熱は、管状体を形作ると同時又は後に、赤外線加熱炉又は熱風炉等の加熱炉、乾燥機等の加熱機等により、ゴム組成物に含まれるゴムが架橋する条件で実施する。例えば、ゴム組成物としてシリコーンゴム組成物を用いる場合には、加熱条件は、100〜500℃、好ましくは200〜400℃で数分以上1時間以下、好ましくは5〜30分間に設定される。
【0032】
ゴム組成物、特にシリコーンゴム組成物は、所望により、二次加熱が行われてもよい。二次加熱は、前記条件で架橋されたゴム組成物をより確実に架橋させる工程であり、二次加熱によって検査用長尺体の物性が安定する。ゴム組成物としてシリコーンゴム組成物を用いる場合の二次加熱は、例えば、加熱器等を用いて180〜250℃、好ましくは190〜230℃で1〜24時間、好ましくは3〜10時間にわたって、又は金型を用いて130〜200℃、好ましくは150〜180℃で5分以上24時間以下、好ましくは10分以上10時間以下にわたって、再度加熱されることによって、行われる。
【0033】
このようにして管状体に成形されたゴム組成物は、所望により、所定の内径、外径及び形状等に調整する研削工程及び/又は研磨工程等が施される。研削工程及び/又は研磨工程は、従来から利用されている研削盤、円筒研削盤、やすり等により、定法に従って行うことができる。また、研削工程及び/又は研磨工程後に、研削カス、研磨カス、異物等を除去するため、所望により、洗浄工程を実施することもできる。洗浄は、例えば、水等を用いた湿式洗浄及び/又はウエス等を用いたふき取り洗浄、送風洗浄等が挙げられる。
【0034】
このようにして管状体に成形された後に、所望により、適宜の軸線長さ、例えば、200〜1000mmに切断して、検査用長尺体とされる。このようにして検査用長尺体を作製する工程が実施され、検査用長尺体が作製される。なお、この検査用長尺体はこの発明に係る可撓性長尺体と同じ軸線長さを有していてもよく、被把持部等を考慮してこの発明に係る可撓性長尺体よりも長い軸線長さを有していてもよい。この発明に係る可撓性長尺体と同じ軸線長さを有する検査用長尺体としてこの発明に係る可撓性長尺体をそのまま用いることもできる。
【0035】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法及びこの発明に係る可撓性長尺体の製造方法においては、作製又は準備された検査用長尺体Tを用いてこの発明に係る可撓性長尺体の検査方法が実施される。具体的には、検査用長尺体Tの中央部を屈曲させて円環状にし、検査用長尺体Tの一端部T1及び他端部T2を同一直線上に配置する工程と、中央部を検査用長尺体Tの直径に対して2〜5倍の高さの範囲内に留保して他端部T2を前記同一直線上であって一端部T1から離間する方向に移動させる工程と、中央部がキンクしたときの一端部T1から他端部T2までの前記同一直線に沿う可動長さを測定する工程とを実施する。
【0036】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法においては、図2(a)に示されるように、準備した検査用長尺体Tを、その中央部を屈曲させて円環状にし、検査用長尺体Tの一端部T1及び他端部T2を同一直線上に配置する工程を実施する。具体的には、検査用長尺体Tの一端部T1は被把持部を有し、その他端部T2は移動させる際のチャック部を有しており、検査用長尺体Tは被把持部及びチャック部を除外した部分の軸線長さが前記範囲内に、好ましくはこの発明に係る可撓性長尺体の軸線長さと同じ軸線長さに調整されている。検査用長尺体Tの一端部T1の被把持部を1組の把持片7aに挟み込んで把持部7に把持させ、検査用長尺体Tの中央部を円環状に屈曲させて基板3の表面であって空間S内に配置すると共に、検査用長尺体Tの他端部T2を一端部T1及び他端部T2が同一直線上になるように測定機構5上に配置する。このように検査用長尺体Tを配置すると、検査用長尺体Tは空間S内でループ状になる。このとき、一端部T1の被把持部との境界が測定機構5の「ゼロ点」に合うように一端部T1の被把持部を把持部7に把持させる。なお、この工程において、円環状にされる中央部の寸法はキンクしないのであれば特に限定されず、円環状に屈曲された部分の径が大きくても小さくてもよい。この例においては、可撓性長尺体Tの全長に対して70%以上で好ましくは80%以下の領域を円環状に屈曲させている。
【0037】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法においては、中央部を検査用長尺体Tの直径に対して2〜5倍の範囲内で一定の高さに留保して他端部T2を同一直線上であって一端部T1から離間する方向に移動させる工程を実施する。具体的には、他端部T2の移動によって空間S内に配置された円環状の中央部が起立又は隆起することを規制版4で規制しつつ、すなわち他端部T2の移動中に中央部が検査用長尺体Tの直径に対して2〜5倍の高さを超えないようにしつつ、他端部T2のチャック部を図示しないチャックでチャックして他端部T2を同一直線上であって一端部T1から離間する方向すなわち図2(a)に示す矢印Aの方向に好ましくは一定速度で引っ張る。そうすると、検査用長尺体Tは全体的に他端部T2が引っ張られる方向に移動しつつ円環状に屈曲された中央部の直径が次第に小さくなる。この工程において、中央部の前記高さは2〜5倍の範囲内で一定の高さに保たれていることはいうまでもない。
【0038】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法においては、中央部を規制しつつ他端部T2を引き続き引っ張る。このようにして他端部T2を引っ張り続けると、図2(b)に示されるように、検査用長尺体Tの中央部の一部がキンクする。
【0039】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法においては、中央がキンクした時点で他端部T2の引っ張りすなわち移動を停止する。他端部T2の引っ張りを停止するときの中央部のキンク状態は、検査用長尺体Tの用途等に応じて決定され、例えば、検査用長尺体Tが医療用チューブとして用いられる場合には中央部の流体流路がわずかでも狭窄した状態とし、流体流路がわずかに狭窄しても重大な影響が及ぼされないその他の用途に検査用長尺体Tが用いられる場合には中央部の流体流路が完全に閉塞した状態をとする。
【0040】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法においては、このようにして中央部がキンクしたときの、一端部T1(被把持部を除く)から他端部T2(チャック部を除く)までの同一直線に沿う可動長さを測定機構5で測定する工程を実施する。ここで、測定する可動長さは、検査用長尺体Tが被把持部及び/又はチャック部を有している場合には被把持部及び/又はチャック部を除外した長さであり、具体的には、一端部T1の被把持部との境界から他端部T2のチャック部との境界までの長さである。このようにして検査用長尺体Tがキンクするまでの他端部T2の可動長さが測定される。測定される可動長さが短いと、屈曲された円環状の直径が大きくても検査用長尺体Tがキンクしたことになり、検査用長尺体Tはキンク性が劣り、わずかな曲げ荷重でもキンクしやすいことを意味する。一方、測定される可動長さが長いと、屈曲された円環状の直径が小さくなるまで検査用長尺体Tがキンクせず、検査用長尺体Tはキンク性に優れキンクしにくいことになる。
【0041】
この発明に係る可撓性長尺体の製造方法においては、次いで、このようにして測定された可動長さに応じて検査対象とした検査用長尺体Tを選別する工程を実施する。具体的には、検査用長尺体Tの寸法、材質、用途、要求特性等に応じて設定された閾値を超える検査用長尺体Tのみを規格適合品として選別する。閾値は、例えば、検査用長尺体Tを医療用チューブとして用いる場合には、シリコーンゴムで軸線長さ300〜500mm、直径0.5〜15mm、管壁の厚さ0.1〜5mm、JIS A硬度20〜80であるときに200〜400mmに設定される。このようにして特定の閾値で選別された検査用長尺体Tは可撓性長尺体として、各種の用途に用いられ、例えば、医療用チューブとして用いられると使用中に曲げ荷重が作用してもてもキンクしにくく流体の流量を一定に保持できる。この閾値は各用途等に供給されるキンク性を満足するための値であり、事前の検討等によって設定することができる。このように、この発明に係る可撓性長尺体の検査方法は、可撓性長尺体の選別方法又は評価方法と称することができる。
【0042】
このようにして、前記閾値以上の可動長さを有する検査用長尺体Tのみを選別すると、各用途に要求されるキンク性を満足する可撓性長尺体が製造される。
【0043】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法は、配置する工程と移動させる工程と測定する工程とを有し、可撓性長尺体の円環状にした中央部を規制しつつ実際に屈曲させて評価できるから、キンク性を直接かつ再現性よく検査できる。そして、この発明に係る可撓性長尺体の製造方法は、この発明に係る可撓性長尺体の検査方法を実施して設定された閾値によってキンク性に優れた可撓性長尺体を選別できるから、均一性の高いキンク性を有する可撓性長尺体を製造できる。
【0044】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法は、可撓性長尺体の種類、材質、寸法及び特性等によらずにそのキンク性を簡潔かつ再現性よく評価できるうえ、種類、材質、寸法及び特性が一定の複数の可撓性長尺体であれば安定した検査が実施できる。
【0045】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法は、前記一検査方法に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0046】
この発明に係る可撓性長尺体の検査方法及びこの発明に係る可撓性長尺体の製造方法として以下に2層特殊チューブの検査方法及び製造方法を例にして具体的に説明するが、この発明は2層特殊チューブに限定されず、単層チューブ又は3層以上の複数チューブでもよく、単層チューブ又は複数チューブの検査方法及び単層チューブ又は複数チューブの製造方法をも包含することはいうまでもない。
【0047】
(実施例1)
丸ダイを備えた二色押出成形機を用いてシリコーンゴム、加硫剤及び顔料(いずれも信越化学工業株式会社製)を含有する内層用ゴム組成物とシリコーンゴム、加硫剤及び顔料(いずれも信越化学工業株式会社製)を含有する外層用ゴム組成物とを二色押出成形して、内径3mm、管壁の厚さ0.5mmの内層と内径4mm、外径5mm(管壁の厚さ0.5mm)の外層との二層積層構造を有する長尺成形体を成形し、この長尺成形体をギアーオーブン中で200℃で4時間にわたって加熱した後に軸線長さが400mmとなるように切断して、内層のJIS A硬度が80度で外層のJIS A硬度が50度である2層特殊チューブ(直径5mm)を製造した。実施例1では、この2層特殊チューブのキンク性を、長尺成形体から切り出した検査用長尺体Tを検査用検体として検査装置1を用いて以下のようにして評価した。
【0048】
検査用長尺体Tは、前記2層特殊チューブの製造時に成形された長尺成形体から、被把持部及びチャック部それぞれの軸線長さ50mmを考慮してキンク性を評価する部分の軸線長さが前記2層特殊チューブの軸線長さと同じ400mmとなるように、500mmの軸線長さ(全長)に切り出して、作製した。
【0049】
空間Sの高さが検査用長尺体Tの直径の2.5倍(12.5mm)に設定された検査装置1を準備した。この検査装置1は規制板4がアクリル樹脂で形成されていた。
【0050】
次いで、図2(a)に示されるように、検査用長尺体Tの一端部T1の被把持部との境界が測定機構5の「ゼロ点」に合うように一端部T1の被把持部を把持部7に把持させ、検査用長尺体Tの中央部を円環状に屈曲させて空間S内に配置すると共に、検査用長尺体Tの他端部T2を一端部T1及び他端部T2が同一直線上になるように測定機構5上に配置した。
【0051】
次いで、中央部が起立又は隆起することを規制版4で規制して中央部を前記高さの範囲内に留保した状態で他端部T2を同一直線上であって一端部T1から離間する方向に中央部特にその流体流路がわずかに狭窄するまで引っ張り、流体流路が狭窄したときに他端部T2の引っ張りを停止して、一端部T1の被把持部との境界から他端部T2のチャック部との境界までの可動長さを測定機構5で測定した。
【0052】
このようにして測定された各検査用長尺体Tの可動長さが閾値以上であった検査用長尺体Tのみを選別した。なお、閾値は医療用チューブに要求されるキンク性を検査用長尺体Tの寸法及び材質を考慮して300mmに予め設定した。このようにして、10検体の検査用長尺体Tのうち可動長さが閾値以上であった検査用長尺体Tは10検体であった。
【0053】
このように、2層特殊チューブと基本的に同様にして製造された検査用長尺体Tすべての可動長さが前記閾値以上であり、2層特殊チューブに要求されるキンク性を満たしていることが分かった。したがって、この評価により、この検査用長尺体Tと基本的に同様にして製造される2層特殊チューブも検査用長尺体Tと同様に前記キンク性を満たしていることが充分に理解できるし、また前記長尺成形体から新たに切り出される2層特殊チューブも当然に要求される前記キンク性を満たしていることが理解できる。
【0054】
なお、実施例1においては、長尺成形体から製品としての2層特殊チューブとは別に検査用長尺体Tを切り出して製品のキンク性を直接検査するのに代えて製品と同等の検査用長尺体Tを準備してキンク性の評価をしているが、この発明においては、このような評価方法に限定されない。例えば、長尺成形体から切り出した検査用長尺体Tのキンク性を検査した後に、この検査用長尺体Tを所定の軸線長さに再度切り出して製品としての2層特殊チューブにしてもよく、また製品として製造した複数の2層特殊チューブのなかから所謂抜き取り検査的にキンク性を評価してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 検査装置
3 基板
4 規制板
5 測定機構
6 支持体
7 把持部
7a 把持片
S 空間
T 検査用長尺体(可撓性長尺体)
T1 一端部
T2 他端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性長尺体の中央部を屈曲させて円環状にし、可撓性長尺体の一端部及び他端部を同一直線上に配置する工程と、
前記中央部を可撓性長尺体の直径に対して2〜5倍の高さの範囲内に留保して、前記他端部を前記同一直線上であって前記一端部から離間する方向に移動させる工程と、
前記中央部がキンクしたときの、前記一端部から前記他端部までの前記同一直線に沿う可動長さを測定する工程とを有する可撓性長尺体の検査方法。
【請求項2】
可撓性長尺体は、医療用チューブである請求項1に記載の可撓性長尺体の検査方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の可撓性長尺体の検査方法において前記可動長さが用途に応じて設定される閾値以上である可撓性長尺体を選別する工程を有する可撓性長尺体の製造方法。
【請求項4】
前記閾値は、前記可撓性長尺体をシリコーンゴムで形成された医療用チューブとして用いる場合には、軸線長さ300〜500mm、直径0.5〜15mm、管壁の厚さ0.1〜5mm、JIS A硬度20〜80であるときに200〜400mmである請求項3に記載の可撓性長尺体の製造方法。
【請求項5】
可撓性長尺体が載置される基板と、
前記可撓性長尺体の直径に対して2〜5倍の高さを有する空間が画成されるように前記基板上に配置された規制板と、
前記基板上に配置され、前記可撓性長尺体の長さを測定する測定機構とを備えた可撓性長尺体の検査装置。
【請求項6】
前記空間の高さを調整する調整機構を備えた請求項5に記載の可撓性長尺体の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−111146(P2013−111146A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258527(P2011−258527)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】