説明

可溶性フッ素に汚染された土壌のフッ素イオンを固定化する方法および軟弱土壌を固化する方法

【課題】可溶性フッ素に汚染された土壌に対し、該汚染土壌の可溶性フッ素イオンを固定化し、該土壌を固化する方法を提供する。
【解決手段】可溶性フッ素に汚染された土壌を、(a)リン酸および(b)セメント系固化剤または石灰系固化剤と接触せしめることにより、生成したフッ素リン灰石に該汚染土壌中の可溶性フッ素イオンを該フッ素リン灰石結晶構造中に取り込ませ、更に、該セメント系固化材または該石灰系固化材の働きにより、該土壌を固化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性フッ素汚染土壌のフッ素イオンを固定化する方法に関し、更に該軟弱土壌を固化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素は半導体製造工場の洗浄工程でフッ化水素酸を多量に用いており、また、メッキ液の成分として多く用いられている。そのためこれら工場の周辺や工場跡地は事故等による前記フッ素含有液が漏洩し、その土壌がフッ素で汚染されていることがある。また、関東ローム土等の自然土壌も可溶性フッ素を含有していることが多々ある。更に、該土壌は含水率が高く軟弱土壌であることが多い。
これらのフッ素で汚染された土壌の処理方法としては、リン酸水素カルシウム二水和物を水に懸濁し数時間〜数十時間浸とうし、リン酸水素カルシウム二水和物粒子表面を傷つけ活性化することにより、可溶性フッ素との反応性を高め該土壌の可溶性フッ素をフッ素リン灰石とすることにより無害化する方法が提案されている。しかしながら、この方法では該土壌の可溶性フッ素を十分に固定化するには至っていない(特許文献1)。
また、該土壌にリン酸またはリン酸塩を加え低酸素雰囲気下で400〜1200℃で加熱する方法が提案されているが、この方法は工程が複雑でありまた設備が複雑である欠点を有している(特許文献2)。

【特許文献1】特開2007−216156号公報
【特許文献2】特開2007−105722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、可溶性フッ素に汚染された土壌のフッ素イオンを固定化、更に、該土壌を固化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は可溶性フッ素に汚染された土壌を、(a)リン酸および(b)セメント系固化材または石灰系固化材(これらを“含カルシウム材”という)と接触処理せしめるとリン酸とカルシウムおよび該土壌中の可溶性フッ素イオンが反応し、フッ素リン灰石が生成し、その結晶構造中にフッ素イオンを取り込むことを見出し、更に該固化材は本来の固化材として働き該土壌を固化できることを見出し本発明を完成した。
すなわち、本発明は可溶性フッ素により汚染された土壌を、(a)リン酸および(b)セメント系固化材および石灰系固化材からなる群から選ばれた少なくとも1種の含カルシウム材と接触処理することを特徴とする、可溶性フッ素により汚染された土壌中のフッ素イオンを固定化するとともに土壌を固化する方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、可溶性フッ素に汚染された土壌の可溶性フッ素イオンを低減させることができる。すなわち、本発明の方法によれば該土壌から溶出するフッ素イオン濃度を環境庁告示第46号溶出試験において、土壌基準の0.8mg/L以下にすることができる。また、本発明の方法によると、(a)リン酸と(b)含カルシウム材(セメント系固化剤または石灰系固化材)中のカルシウムが反応しリン灰石が生成するが、この時点で該土壌より溶出するフッ素イオンをその構造中に取り込みフッ素リン灰石が生成することにより可溶性フッ素イオンを固定することができる。また、セメント系固化材、石灰系固化材は該土壌を固化(強化)するので、埋め戻し材、盛り土材等に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
宅地造成等する際には、土壌を強化する必要がありセメント系固化材、石灰系固化材等が利用されている。そして、これらの固化材は水と接触すると可溶性カルシウムがイオン化し高アルカリ性を呈している。そして、この可溶性カルシウムとリン酸が接触すると容易にリン灰石が生成する。さらに、該土壌が可溶性フッ素イオンを含有しているとフッ素リン灰石が生成し、その構造中にフッ素を取り込むことにより、フッ素イオンを固定化することが可能である。
更に、含水土壌(軟弱土壌)にセメント系硬化材とか石灰系固化材等を加えて混合するが、リン酸もこれらと同時に添加すればよいので容易に工事等が実施できる。
【0007】
本発明において使用するリン酸としては、次亜リン酸、亜リン酸、次リン酸、メタリン酸、オルトリン酸等があげられるが、オルトリン酸が安価であり、かつ最も有効である。
【0008】
本発明において、リン酸の添加量は該土壌100重量部あたり1〜10重量部、好ましくは2.0〜6.0重量部である。上限については特に制限するものではないが、10重量部以上の添加はコストが高くなり経済的でない。しかしながら、可溶性フッ素イオン濃度が高い該土壌においてはリン酸添加量を多くすることにより、目標達成することができる。
【0009】
セメント系固化材とは、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウムおよび二酸化ケイ素を主成分とする固化材で、住友大阪セメント製商品名タフロック、太平洋セメント製商品名ジオセット等の市販品がこれに相当する。
石灰系固化材とは、酸化カルシウム、酸化カルシウムおよび二酸化ケイ素を主成分とする固化材で、例えば宮城石灰工業(株)製商品名固太郎シリーズ等の市販品がこれに相当する。
また、これら含カルシウム材の添加量は、該土壌の水分含有量に支配されるが、これらの工事において添加されている量で十分であり、通常、土壌100重量部当り10〜50重量部である。
【0010】
また、リンは河川等の富栄養源となり排水基準(16mg/L未満)に規制されているが、本発明においては前記固化剤中の可溶性カルシウム使用量に対して、リン酸使用量が極めて少ないのでリンは全てリン灰石に変化し、不溶化されるので全く問題がない。
また、リン酸を該土壌に添加するに当たっては100%リン酸であっても、希釈リン酸であってもよいが、該土壌との混和性(作業性)および固化剤の該土壌を固化させるに必要な水量となるように、リン酸を適宜希釈して使用するのが望ましい。
【0011】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例および比較例で用いたフッ素に汚染された土壌は関東地区K市の“ローム質土壌”(以降汚染土壌と称す)を、セメント系固化材は住友大阪セメント製“タフロックTL−3”(以降タフロックと称す)を、石灰系固化材は宮城石灰工業株式会社製“固太郎50”(以降石灰系固化材と称す)をそれぞれ用い、リン酸はラサ工業株式会社製75%オルトリン酸を用いた。
また、以下の実施例におけるフッ素およびリンイオン濃度は、それぞれJIS K0102 34.1およびJIS K0102 46.3.3に準じて測定した。
前記ローム質土壌のフッ素含有量は330ppmであり、水分含有量(105℃で3時間乾燥による重量減)は18%であった。
【実施例1】
【0012】
磁製乳鉢(径15cm)に水道水15g、汚染土壌100g、タフロック25g、75%オルトリン酸2g(オルトリン酸として1.5g)を投入し、スパーテルを用いて十分に攪拌混合した。得られた混合物を、ステンレス製バットに投入し、35℃乾燥機で24時間養生後、非金属製の目開き2mmの篩を通過させ、良く混合し試料とした。なお、養生後の土壌は固化して硬いものとなっていたので、鉄製乳鉢および鉄製乳棒を用いて粉砕後前記篩で篩過した。
<溶出試験>
200mL容栓付きポリエチレン容器に、該試料15gおよびpH5.8〜6.3に調整した水道水150mLを加えて、常温常湿のもと、振とう器を用いて6時間浸透した。後、30分間静置し遠心分離機を用いて3000rpmで20分間処理後、上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し検液とした。
測定の結果、検液中のフッ素イオン濃度は0.6mg/Lで土壌基準に適合しており、リンイオン濃度は0.1mg/L未満であり排水基準に適合していた。
【実施例2】
【0013】
実施例1において、75%オルトリン酸使用量を4g(オルトリン酸として3g)とした以外は実施例1と同様とした。その結果、フッ素イオン濃度は0.3mg/Lで土壌基準に適合しており、リンイオン濃度は0.1mg/L未満であり排水基準に適合していた。また、養生後の汚泥は硬いものであったので実施例1と同様に処理した。
【実施例3】
【0014】
実施例1において、固化材であるタフロックを石灰系固化材とした以外は実施例1と同様とした。その結果、フッ素イオン濃度は0.5mg/Lで土壌基準に適合しており、リンイオン濃度は0.1mg/L未満であり排水基準に適合していた。また、養生後の汚泥は硬いものであったので実施例1と同様に処理した。
【実施例4】
【0015】
実施例2において、固化材であるタフロックを石灰系固化材とした以外は実施例2と同様とした。その結果、フッ素イオン濃度は0.25mg/Lで土壌基準に適合しており、リンイオン濃度は0.1mg/L未満であり排水基準に適合していた。また、養生後の汚泥は硬いものであったので実施例1と同様に処理した。
【実施例5】
【0016】
(比較例1)
実施例1において、汚染土壌中の可溶性フッ素イオンを固定化するためのオルトリン酸を加えなかった以外は実施例1と同操作とした。その結果、養生後の汚泥は固化していたが、フッ素イオン濃度は2.1mg/Lであり土壌基準不適合であった。
【実施例6】
【0017】
(比較例2)
実施例3において、汚染土壌中の可溶性フッ素イオンを固定化するためのオルトリン酸を加えなかった以外は実施例3と同操作とした。その結果、養生後の汚泥は固化していたが、フッ素イオン濃度は2.0mg/Lであり土壌基準不適合であった。
【実施例7】
【0018】
(比較例3)
実施例1において、固化材であるタフロックを酸化カルシウムとした以外は実施例1と同様の方法で汚染土壌を処理した結果、フッ素イオン濃度は0.6mg/Lで土壌基準に適合していたが、処理後の土壌は固化せずに軟弱なものであった。
【0019】
実施例1〜4より、可溶性フッ素に汚染された土壌にオルトリン酸およびセメント系固化材または石灰系固化材を添加することにより、該汚染土壌の可溶性フッ素イオンを吸着固定化できることが分かる。更に、該処理土壌の環境庁告示第46号溶出試験における、溶出フッ素イオン濃度を土壌基準の0.8mg/L以下とすることが可能であることが分かる。さらに、処理後の土壌を固化できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、可溶性フッ素イオンに汚染された土壌を無害化および固化できるので、該処理土壌を埋め戻し材、盛土、埋め立て等として利用することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性フッ素により汚染された土壌を、(a)リン酸および(b)セメント系固化材および石灰系固化材からなる群から選ばれた少なくとも1種の含カルシウム材と接触処理することを特徴とする、可溶性フッ素により汚染された土壌中のフッ素イオンを固定化するとともに土壌を固化する方法。
【請求項2】
リン酸が次亜リン酸、亜リン酸、次リン酸、メタリン酸、ピロリン酸およびオルトリン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の方法。
【請求項3】
リン酸がオルトリン酸である請求項1記載の方法。
【請求項4】
接触処理された土壌のフッ素イオン溶出量が環境庁告示第46号溶出試験において、0.8mg/L以下である請求項1記載の方法。
【請求項5】
リン酸の量は、可溶性フッ素に汚染された土壌100重量部あたり、1〜10重量部である請求項1記載の方法。
【請求項6】
含カルシウム材の量は、可溶性フッ素により汚染された土壌100重量部当り、10〜50重量部である請求項1記載の方法。
【請求項7】
(a)リン酸および(b)セメント系固化材および石灰系固化材からなる群から選ばれた少なくとも1種の含カルシウム材を含有する可溶性フッ素により汚染された土壌のための改質材。
【請求項8】
(a)リン酸100重量部当り、(b)含カルシウム材100〜1000重量部を含有する請求項7記載の前記土壌のための改質材。

【公開番号】特開2009−262035(P2009−262035A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113467(P2008−113467)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】