説明

可溶性CLCA−1およびCLCA−1に対するアンタゴニスト

本発明は、可溶性CLCA1の阻害物質を投与することで、可溶性CLCA1の発現または活性がアップレギュレートされるところの、疾患または症状を治療する方法に関する。本発明はまた、体液から可溶性CLCA1を単離する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、出典明示により本明細書の一部とする、2003年5月28日付け出願の米国仮出願番号60/474174に対して優先権を主張する。
【0002】
(技術分野)
本発明は可溶性カルシウム活性化クロライドチャネル1(CLCA1)および可溶性CLCA1の活性を阻害するアンタゴニストに関する。本発明は、一部、可溶性CLCA1を単離および使用する方法、ならびにCLCA1の異常活性に付随する疾患または障害を治療するための可溶性CLCA1に対するアンタゴニストに関する。
【0003】
(従来技術)
原形質膜を通過するイオン輸送は細胞の正常な生理機能を維持するのに重要である。原形質膜を通過するイオン輸送は種々の膜結合蛋白(チャネルおよびポンプとして作用する)により媒介される。イオンチャネルまたはポンプの機能不全は病態に至るであろう。嚢胞性線維症はcAMP介在性クロライドチャネル、CFTRの異常に由来する疾患である(Welshら、1993、Cell 73:1251)。嚢胞性線維症の生理学的徴候として、粘度の高い粘液が肺の気道および消化管に分泌されることに由来する気道閉塞、および病原性微生物による肺気道のその後のコロニー形成(Clarkeら、1992、Science 257:1125;Clarkeら、1994、Proc Natl Acad Sci USA 91:479;Engら、1996、Ped Pulmonol 21:77)および消化管の膵管の粘液閉塞(WO 01/54685)が挙げられる。嚢胞性線維症を異常なイオン輸送と結びつけることで、リード研究員は、イオン輸送の機能不全を徴候の類似する他の疾患と関連付けることができると仮定する。かくして、イオン輸送の機能不全は、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)、すなわち、気腫および慢性気管支炎などの疾患と関連付けられる。
【0004】
CLCA1およびそのネズミ同族体であるgob−5は推定カルシウム活性化クロライドチャネルである(WO 99/44620)。共に喘息に伴う病状に関与する。喘息は環境アレルゲンに対する過敏性で特徴付けられ、炎症応答およびムチンの産生の増加に関与する(WO 01/54685;WO 99/44620)。CLCA1およびgob−5の発現はアレルゲン攻撃に対する応答においてアップレギュレートされる。発現はまた、ムチンの過剰産生と関連付けられる(Hoshinoら、2002、Am J Respir Crit Care Med 165:1132)。CLCA1およびgob−5の過剰発現は、粘膜表皮細胞系におけるMUC5AC、ムチン遺伝子の発現を誘発することが明らかにされた。加えて、アデノウイルス介在のアンチセンス療法は、インビボでのマウス実験におけるgob−5の過敏反応性およびムチン産生の効果を無効にした(Nakanishiら、2001、Proc Natl Acad Sci USA 98:5175)。
【0005】
CLCA1が125kD先駆体として発現され、それが分割して90kDと37kDのサブユニットを形成し、それが細胞表面に結びついて活性なイオンチャネルを形成することが示唆されている。また、90kDのサブユニットが4回膜貫通ドメインを形成することも示唆されている。さらには、CLCA1の発現が原形質膜を通過するクロライドイオン流出と関係し、ニフルム酸、4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸およびジチオスレイトールなどの非選択的クロライドチャネル阻害剤がこの作用を無効とするであろうと示唆されている(Gruberら、1999、Genomics 54:200)。
【0006】
(発明の開示)
本発明は、幾分、CLCA1が細胞外分子、例えば細胞膜または細胞膜結合分子と相互作用、例えば結合しうる分泌蛋白であるという知見に基づいている。CLCA1は分泌蛋白であるため、それはCLCA1の発現または活性の増加に付随する疾患、例えば喘息またはCOPD様疾患などの、高レベルのムチンにより特徴付けられるアトピー性疾患を治療するための都合のよい標的を提供する。
【0007】
本発明は、疾患または症状でない個体と比べて、対象におけるCLCA1の発現または活性が高い疾患または症状の対象を治療する方法であって、治療上有効量の、可溶性CLCA1の細胞外分子との相互作用または結合、例えば、細胞膜分子との結合を阻害または防止する、少なくとも1つの作用物質を該対象に投与し、それにより該疾患または症状を治療することを含む、方法に関する。したがって、本発明は、喘息などのアトピー性疾患または症状またはCOPDなどの疾患を治療する新規な方法を提供する。
【0008】
本発明は、細胞におけるCLCA1の発現または活性を調節する、例えば、CLCA1の発現または活性を減少させる方法であって、治療上有効量の、可溶性CLCA1の細胞外分子との相互作用または結合、例えば、細胞膜分子との結合を阻害または防止する、少なくとも1つの作用物質を投与し、それによりCLCA1の発現または活性を減少させることを含む、方法に関する。
【0009】
該作用物質はCLCA1に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント;小分子;ペプチドまたはペプチド模倣物とすることができる。
【0010】
本発明は、さらには、対象から流体を得;その流体をCLCA1と特異的結合パートナーと接触させ、CLCA1とその特異的結合パートナーとの間で複合体を形成させ;CLCA1とそのCLCA1と特異的結合パートナーとの複合体を単離し;CLCA1が単離されるようにCLCA1とそのCLCA1と特異的結合パートナーとの複合体を切断することを含む、CLCA1を単離する方法に関する。
【0011】
本発明のさらなる目的および利点は、以下の記載にて説明されており、その記載から明らかであるか、または本発明を実施することで学習することができる。本発明の目的および利点は、添付した特許請求の範囲にて特に指摘されている要素および組合せによって理解され、かつ達成されるであろう。
【0012】
上記した一般的記載および下記の詳細な記載は単なる例示にすぎず、特許請求に係る発明を限定するものではないと、理解されるべきである。
【0013】
(図面の簡単な記載)
図1はヒトCLCA1の一次アミノ酸配列を示す。VWA領域に下線を付し、推定N−連結の糖鎖付加部位に星印を付す。シグナル配列をSS(配列番号10)で示す。
【0014】
図2はCLCA1およびgob−5の両方の蛋白が該蛋白を発現するようにトランスフェクトされたCOS細胞から分泌されることを示す。
【0015】
図3は、CLCA1を発現するようにトランスフェクトされた細胞の、馴化培地(conditioned media)、細胞ライゼートおよび膜調製物中のCLCA1の存在を示すウェスタンブロットである。
【0016】
図4はコンピュータープログラムTMHMMを用いて他の既知の膜結合および分泌蛋白と比較したCLCA1の疎水性分析を示す。CLCA1は膜貫通アルファへリックスを全く含有しない。
【0017】
図5はコンピュータープログラムSplit4.0を用いて他の既知の膜結合および分泌蛋白と比較したCLCA1の疎水性分析を示す。CLCA1は膜貫通アルファへリックスを全く含有しない。
【0018】
図6はCLCA1が多量体として分泌されたことを示すウェスタンブロットである。
【0019】
図7はCLCA1が高度に糖鎖付加されていることを示す。PNGase処理は分泌蛋白の大きさを減少させる。
【0020】
図8はCLCA1のサブユニットがジスルフィド結合で連結されていないことを示すウェスタンブロットである。
【0021】
図9はCLCA1が喘息および非喘息患者のBAL流体中に存在することを示す。
【0022】
図10はCLCA1が用量依存的様式でMUC5ACプロモーターを活性化することを示す。
【0023】
図11はVWA領域、MIDAS領域の残基および提案されている切断部位の位置を示すCLCA1欠失変異体の模式図を示す。
【0024】
図12aはA549細胞中のCLCA1またはgob−5の過剰発現によるMUC5AC−ルシフェラーゼ受容体の誘発を示す。CLCA1およびgob−5はベクタートランスフェクトされた対照と比べて2倍のMUC5AC−ルシフェラーゼ受容体活性の誘発を示す。図12bはHEK293細胞にて同様の結果を示す。
【0025】
図13はHEK293およびA549細胞中一時的に発現されるCLCA1およびgob−5の全細胞パッチクランプ法を示す。図13(a)は、0.5Mの遊離Ca2+のピペット液中、HEK293細胞(左パネル)およびA549細胞(右パネル)にて一時的に発現されるCLCA1の電流−電圧の関係を示す(各群においてn=6−8)。図13(b)はhCLCA1(左パネル)およびgob−5(右パネル)を一時的に発現するHEK293細胞における全細胞電流密度のカルシウム依存的倍数増加を示す(各群においてn=3−8)。同様のデータがA549で観察された(データは図示せず)。
【0026】
図14はHEK293細胞とA549細胞中のCLCA1およびgob−5発現を示すウェスタンブロットである。
【0027】
(実施形態の記載)
本明細書にて使用される抗体は免疫グロブリンまたはその一部を意味し、供給源、製法または他の特徴と関係なく、抗原結合部位を含むいずれのポリペプチドも包含する。該用語は、例えば、ポリクローナル、モノクローナル、モノ特異的、ポリ特異的、ヒト化、一本鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、変異およびCDR−グラフト抗体を包含する。抗体の一部は、抗原と結合しうるいずれのフラグメント、例えば、Fab、F(ab’)、Fv、scFvを包含しうる。
【0028】
本明細書で使用される「CLCA1」なる語は膜貫通蛋白以外の蛋白をいう。膜または膜結合分子あるいは分泌分子と共有または非共有結合しうる。
【0029】
本明細書で使用されるCLCA1活性はイオンチャネル、例えばクロライドチャネルの調節をいう。
【0030】
本明細書で使用される「ムチン」なる語は、流体、例えば炭水化物に富む糖蛋白を含有する分泌物をいう。ムチンは腸の胚細胞、顎下腺または他の腺細胞より分泌されうる。
【0031】
本明細書で使用される「小分子」は分子量が25kD未満のいずれの分子をもいう。
【0032】
本明細書で使用される「特異的結合パートナー」は、第二の分子と特異的に相互作用する第一の分子を意味する。相互作用は共有結合または非共有結合、例えば、イオン結合、電荷−電荷相互作用、疎水性相互作用、水素結合またはファン・デア・ワールス力の結果とすることができる。
【0033】
本明細書で使用される「対象」なる語は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ヒト以外の霊長類を意味する。
【0034】
本明細書で使用される「治療する」、「治療」および「治療している」なる語は、以下:疾患または症状の重度の減少;疾患の経過期間の減少;疾患または症状に付随する1またはそれ以上の徴候の改善;必ずしも疾患または症状を治癒するわけではないが、疾患または症状の対象に対する有益な効果の付与;疾患または症状に付随する1またはそれ以上の徴候の予防、のいずれをも意味する。
【0035】
本明細書で使用される「アップレギュレートされた」なる語は、疾患または症状のある対象で、疾患または症状のない個体にて同じ蛋白のレベルよりも大きなレベルで発現される蛋白をいう。
【0036】
治療方法
本発明はCLCA1の発現または活性がアップレギュレートされている疾患または症状の治療方法であって、細胞膜の分子と結合するCLCA1を阻害または防止する少なくとも一つの作用物質を投与することを含む方法に関する。
【0037】
CLCA1はムチンのアップレギュレーションに伴って生じる疾患または症状、例えば、喘息などのアトピー症状に関与する細胞蛋白である(図1;WO99/44620)。本発明は、少なくとも一部は、CLCA1が細胞外分子、例えば細胞膜または細胞膜結合分子と相互作用、例えば結合しうる分泌蛋白であるという知見に基づいている。CLCA1と膜分子との結合を阻害または防止する、すなわちムチン産生を増加させる可能性のある作用物質を提供することで、本発明はムチンのアップレギュレーションにより特徴付けられる疾患または症状の治療方法を提供する。
【0038】
かくして、本発明は、CLCA1発現または活性が亢進、例えばアップレギュレートされる疾患または症状の治療方法に関する。該疾患または症状はアトピーまたはアレルギー障害、例えば喘息とすることができる。該疾患または症状は、ムチンレベルが向上する、例えばムチン産生および/または分泌がアップレギュレートされる、いずれの疾患または症状とすることもできる。該疾患または症状は嚢胞性線維症またはCOPD、すなわち、気腫、慢性気管支炎とすることができる。該疾患または症状は粘膜表面、例えば肺表面または消化管表面に影響を及ぼすものとすることができる。該疾患または症状は感染症、例えばウイルス感染または細菌感染とすることができる。該疾患または症状は慢性または急性のいずれとすることもできる。
【0039】
本発明の方法は、CLCA1、例えば可溶性CLCA1の活性を特異的に阻害する作用物質を利用する。一の実施形態において、該作用物質はCLCA1、例えば可溶性CLCA1に直接結合する。もう一つ別の実施形態において、該作用物質は、CLCA1、例えば可溶性CLCA1と、細胞外分子、例えば膜結合蛋白または脂質との結合を阻害、減少または防止する。
【0040】
CLCA1活性を阻害する作用物質として、蛋白または蛋白フラグメント、例えばペプチドを挙げることができるが、これに限定されるものではない。蛋白または蛋白フラグメントは、既知の技法を用いて、組換え操作を行うことで産生することができる。例えば、Sambrookら、1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第二版、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照のこと。また、蛋白または蛋白フラグメントは既知の操作を用いて、化学合成を行うことで製造することもできる。例えば、Merrifield 1973、Chemical Polypeptides(Katsoyannis and Panayotis編)335−61頁;Merrifield 1963、J. Am. Chem. Soc. 85:2149;Davisら、1985、Biochem. Intl. 10:394;Finnら、1976、The Proteins(第三版)2:105;Eriksonら、1976、The Proteins(第二版)2:257;米国特許第3941763号を参照のこと。蛋白または蛋白フラグメントは誘導化、例えばペギレート化(pegylated)されうる。蛋白または蛋白フラグメントを別の蛋白に融合し、融合蛋白、例えばGST融合蛋白、Fc融合蛋白を製造することができる。蛋白または蛋白フラグメントは糖蛋白またはリポ蛋白とすることができる。一の実施形態において、CLCA1活性を阻害する作用物質はCLCA1特異的結合パートナーである。
【0041】
CLCA1活性を阻害する作用物質は小分子とすることもできる。小分子は有機分子であっても無機分子とすることもできる。小分子は既知の合成技法を用いて合成することができる。例えば、MorrisonおよびBoyd、1987、Organic Chemistry Fifth Edition、Allyn and Bacon、Newton、MAを参照のこと。
【0042】
一の特定の実施形態において、作用物質は抗体または抗体のフラグメントである。抗体のフラグメントとして、Fab、F(ab’)、または一本鎖Fvを挙げることができるが、これらに限定されない。抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体とすることができる。一般に、抗体は、例えば、伝統的ハイブリドーマ技法(KohlerおよびMilstein、1975、Nature 256:495)、組換えDNA法(米国特許第4816567号)または抗体ライブラリーで行われるファージ提示(Clacksonら、1991、Nature 352:624;Marksら、1991、J Mol Biol、222:581)を用いて製造できる。他の抗体産生技法として、例えば、Antibodies:A Laboratory Manual、Harlowら編、1988、Cold Spring Harbor Laboratoryを参照のこと。
【0043】
インビトロ系を設計して、例えばCLCA1に結合することで、CLCA1活性の阻害能を有する化合物を同定してもよい。該アッセイは、複合体を形成するのに十分な時間などの条件下、CLCA1と試験化合物の反応混合物を調製することを含みうる。その複合体は一時的な複合体とすることができ、該複合体は除去または反応混合物にて検出することができる。CLCA1を固相、例えば、ビーズまたはマイクロタイタープレートに固定し、ついで試験物質および検出される複合体と反応させる。別法として、試験物質を固相に固定し、CLCA1および検出される複合体と反応させる。未反応の試薬は洗い流すことができる。固定されていない種は直接または間接的に標識しうる。標識として、例えば、色素、発色団または放射活性を挙げることができるが、これらに限定されない。標識は試験物質またはCLCA1に特異的な抗体とコンジュゲートしうる。
【0044】
一の実施形態において、試験CLCA1阻害物質の存在または不存在下、ムチン産生を用いてCLCA1活性を測定することができる。ムチン産生は粘膜−表皮細胞系、例えば、ヒトCLCA1遺伝子でトランスフェクトされたNCI−H292を用いてインビトロにて測定することができる(Nakanishiら、2001、Proc Natl Acad Sci USA 98(9):5175を参照のこと)。試験物質の阻害剤を培地に加え、ムチン産生をモニター観察しうる。ムチン産生は当該分野にて周知の技法、例えば、ELISA、SDS−PAGEまたはウェスタンブロットを用いてモニターすることができる。
【0045】
CLCA1阻害物質は静脈内、皮下、舌下、筋肉内、経口、バッカル、経鼻、経直腸的に、あるいは肺経路を介して投与することができる。CLCA1阻害物質は、キメラ蛋白の遅延放出を可能とする生体高分子の固体支持体に埋め込むことも、連結させることもできる。
【0046】
CLCA1阻害物質は疾患または症状の治療の分野にて公知の第二の作用物質の治療学的に効果的な量と組み合わせて投与することができる。一例として、限定するものではないが、CLCA1阻害物質とベータ受容体アゴニストまたはコルチコステロイドで喘息を治療することができる。
【0047】
CLCA1阻害物質の用量は対象および利用される個々の投与形路に応じて変化するであろう。投与量は体重1kg当たり0.1ないし100000μgの範囲とすることができる。一の実施形態において、用量範囲は1−10mg/kgである。CLCA1阻害物質は連続的にまたは特定の間隔で投与することができる。インビトロアッセイを利用して最適用量の範囲および/または投与計画を決定してもよい。加えて、有効量は、例えばネズミ喘息での動物実験(Nakanishiら、2001、Proc Natl Acad Sci USA、98(9):5175)より得られる用量応答曲線から推定してもよい。
【0048】
本発明はまた、CLCA1阻害物質および医薬上許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物に関する。適当な医薬担体の例がRemington's Pharmaceutical SciencesにE.W. Martinによって記載されている。賦形剤の例として、澱粉、グルコース、ラクトース、シュークロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦、粉乳、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脂肪粉乳、グリセロール、水、エタノール等を挙げることができる。組成物はまた、pH緩衝試薬および湿潤または乳化剤を含有しうる。
【0049】
経口投与の場合、医薬組成物は通常の手段により調製される錠剤またはカプセル剤の形態を取ることができる。組成物は液体、例えばシロップまたは懸濁液として調製することができる。液体は懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または硬化食用油)、乳化剤(レシチンまたはアカシア)、非水性ビヒクル(例えば、落花生油、油性エステル、エチルアルコールまたは分別植物油)および保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピルあるいはソルビン酸)を包含しうる。調製物はまた、矯味矯臭剤、着色剤および甘味剤を包含しうる。また、組成物は水あるいは別の適当なビヒクルで復元する乾燥製品として提供することもできる。
【0050】
バッカルおよび舌下投与の場合、組成物は通常のプロトコルに従って錠剤またはロゼンジの形態を取ってもよい。
【0051】
吸入投与の場合、本発明に従って使用される化合物は、都合よくは、エアロゾル形態、例えば適当な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適当な気体を用いる加圧パックまたは噴霧器からのエアロゾルスプレーにてデリバリーされる。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、バルブを設け、計量された量をデリバリーすることにより決定されうる。吸引器または吸入器にて使用される、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物とラクトースまたは澱粉などの適当な粉末基剤との粉末混合物を含有するように処方することができる。
【0052】
医薬組成物はボーラス注射による非経口投与(すなわち、静脈内または筋肉内)用に処方しうる。注射用処方は、単位剤形にて、例えばアンプルにて、あるいは保存剤を添加した複数回投与用の容器にて提供されうる。組成物はかかる剤形を油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンとすることができ、懸濁化、安定化および/または分散化剤などの処方剤を含有しうる。また、活性成分は適当なビヒクル、例えば発熱物質不含水で復元される粉末形態とすることもできる。
【0053】
医薬組成物はまた、例えばカカオ脂または他のグリセリドなどの通常の坐剤基剤を含有する坐剤または停留浣腸として経直腸投与用に処方しうる。
【0054】
CLCA1の単離方法
CLCA1は分泌可溶化蛋白である。したがって、該蛋白はそれを含有する流体をCLCA1の特異的結合パートナーと接触させることで、該流体より容易に単離される。
【0055】
CLCA1は生体流体より単離されうる。生体流体は体液または分泌液を包含しうる。一の実施形態において、CLCA1は唾液より単離される。もう一つ別の実施形態において、CLCA1は気管支肺胞洗浄液より単離される。体液は粘膜表面より単離されうる。一の実施形態において、粘膜面は肺面または直腸面である。
【0056】
特異的結合パートナーは、蛋白または蛋白フラグメント、例えばペプチドを包含しうるが、これに限定されない。蛋白または蛋白フラグメントは誘導化、例えばPEG化(pegylated)されうる。蛋白または蛋白フラグメントは融合蛋白、例えばGST融合蛋白、Fc融合蛋白の一部とすることができる。蛋白または蛋白フラグメントは糖蛋白またはリポ蛋白でありうる。特異的結合パートナーは小分子でありうる。小分子は有機分子または無機分子でありうる。一の具体的な実施形態において、作用物質は抗体または抗体のフラグメントである。抗体のフラグメントとして、Fab、F(ab’)または一本鎖Fvが挙げられるが、これに限定されない。抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体でありうる。
【0057】
可溶性CLCA1は、それを特異的結合パートナーと、CLCA1と特異的結合パートナーの間で複合体を形成するような第1の一連の条件下で反応させることによって単離されうる。反応は液相にて起こり、複合体を特異的結合パートナーを認識する抗体と接触させることで該複合体が単離されうる。別に、特異的結合パートナーは、その特異的結合パートナーを認識する抗体により、直接的または間接的のいずれかで、固体支持体に連結されうる。固体支持体は、例えば、ビーズ、マイクロタイタープレート、カラムのマトリックス、膜またはモノリスとすることができるが、これに限定されない。一旦、複合体が形成されれば、例えば、pHを、あるいは該複合体を含有する溶液の塩の濃度を複合体が切断されるような一連の第2の条件に変えることで、反応条件を変えることができる。特異的結合パートナーは固体支持体との結合を維持しており、そうして単離したCLCA1が含まれる溶液が得られる。
【0058】
(実施例)
実施例1: CLCA1およびgob−5のCOS−7およびHEK293細胞中での一時的発現
COSおよびHEK293細胞を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FCS)、50単位/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシンおよび2mMのグルタミンを補足したダルベッコ修飾イーグル(DME)培地に維持し、湿った雰囲気下、37℃で増殖させた。トランスフェクションを行う16時間前に、COS細胞を4x10細胞/皿で100mmの組織培養液で処理した皿に播種した。細胞が約70%の集密に達した後、製造者の指示に従って、10μgのDNAをリポフェクタミン2000試薬(Invitrogen, Carlsbad、CA)とOpti−MEM血清不含培地(Life Technologies、Carlsbad、CA)中にて混合した。リポフェクタミン2000/DNAの混合物をCOS細胞の培地に添加し、37℃にて6時間維持した。そのインキュベーション期間の経過後、プレートの培地を完全培地(DME10%FCS)と置き換えた。細胞を37℃で24−48時間インキュベートさせ、その後、生体化学分析のために馴化培地および細胞ライゼートを収穫した。
【0059】
実施例2: 放射性の異種発現した蛋白への取り込み
CLCA1、gob−5またはpcDNA3.1ベクター対照でトランスフェクトしたCOS細胞単層を血清不含DME中システインまたはメチオニンなしで20分間インキュベートした。ついで、100mmの皿当たり300μCiのPromix(Amersham、Piscataway、NJ)、35S標識化システインおよびメチオニンの混合物で細胞を30分間標識化した。放射性アミノ酸含有の培地を取り出し、細胞をPBSで3回洗浄した。原子力規制委員会の指針に従って放射性廃棄物を処分した。10%v/vウシ胎児血清を含むDMEを加え、細胞を37℃で2ないし6時間インキュベートした。これらの時点で、馴化培地および細胞ライゼートを収穫した。組み込まれた放射活性をTCA沈降により以下のように測定した。各サンプルについて、1μlをWhatmann3MMペーパーの小片にブロットした。サンプルのペーパーを氷冷した10%w/vトリクロロ酢酸(TCA)中に10分間浸した。該サンプルを氷冷エタノールで各々5分間3回連続して洗浄し、ついで風乾させた。一度乾燥させた後、ペーパーサンプルをシンチレーションバイアル中の10mlのScinti−Safe(Fisher Scientific、Hanover Park、IL)シンチレーション流体に添加した。放射活性のレベルをBeckman Scintillation Counterにて測定した。
【0060】
実施例3: 細胞ライゼートの収穫
細胞の単層を氷冷したカルシウムおよびマグネシウム不含のリン酸緩衝セイライン(PBS)で2回洗浄した。0.25%(v/v)のトリプシン−EDTA(Gibco、Carlsbad、CA)を用いて皿から細胞を取り出し、血球計を用いて計数した。細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、氷上にて15分間、NP−40溶解緩衝液(1%のNP−40、50mMのHEPES、150mMのNaCl、1mMのEDTA、10%のグリセロール)に10μlの溶解緩衝液当たり0.5x10細胞の濃度で溶菌させた。得られたライゼートを15000RPMで15分間マイクロ遠心分離に付して不純物を除去し、ついでウェスタンブロットに用いるまで−80℃で貯蔵した。
【0061】
実施例4: 膜調製物
100mmの組織培養液で処理した皿にて増殖したCOS細胞を実施例1に記載されるようにトランスフェクトした。48時間トランスフェクトした後、トリプシンを用いて該プレートから細胞を取り出し、50mlのチューブ中、冷PBSで2回洗浄した。細胞を4mlの1mM Tris(pH7.4)に再び懸濁させて氷上に20分間放置した。その細胞懸濁液をクリーン・ダウンス・ホモジナイザー(clean dounce homogenizer)で10回ストロークに付して均質化させた。ついでサンプルをSorvall Legend RTテーブルトップ遠心分離機を用い2000gで10分間回転させた。上澄を超遠心分離管に移し、100000gで1時間、超遠心分離により回転させた。得られたペレットを100μlのNP40溶解緩衝液に懸濁させた。
【0062】
実施例5: ウェスタンブロッティング
サンプルをβ−メルカプトエタノールを含む2xSDSサンプル緩衝液と合わせ、2分間沸騰させた。沸騰させた後、サンプルを4−20%勾配ゲルまたは6%SDSゲルのいずれかの上にローディングした。ついで、ゲルをインビトロゲンにより提供されるインビトロゲン・ブロッティング装置(Invitrogen、Carlsbad、CA)およびトランスファー緩衝液(Invitrogen、Carlsbad、CA)を用いてニトロセルロースに移した。ゲルを、一定電流の下、30Vで2時間移動させた。ニトロセルロースブロットを、5%脱脂粉乳中、室温にて1時間遮断した。該ブロットを0.5μg/mLのポリペプチドポリクローナル抗体と一緒に4℃で一夜インキュベートした。一次抗体と一緒にインキュベートした後、ブロットを洗浄バッファー(PBS中1%トリトンX100(v/v)、0.1%SDS(w/v)、カルシウムおよびマグネシウム不含)中にて各々10分間で3回洗浄し、ついでホースラディシュ・ペルオキシダーゼにコンジュゲートさせたマウス抗ラビットIgG(Santa Cruz Biotech、Santa Cruz、CA)と共に30分間インキュベートした。該ブロットを洗浄バッファー中にて各々10分間で3回洗浄し、化学発光試薬、ECL(Amersham、Piscataway、NJ)で発色させた。該ブロットをコダックフィルムに曝し、フィルム現像剤を用いて現像した。
【0063】
実施例6: 構築物の生成
CLCA1をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてヒト結腸cDNAより単離した。この反応に用いた5’アンカープライマーは次のとおりであった:
5’−CGCAAGCTTG GGATGGGGCC ATTTAAGAGT TCTGTGTTC−3’(配列番号1)。下線を付した配列はHindIII制限エンドヌクレアーゼ部位を表す。構築物はすべてこの5’プライマーを用いた。欠失構築物にて用いた3’プライマーは以下のとおりであった:(1−708)5’−CCCAAGCTTT CACTACTTAT TAATTTCAGG TCTTGGTGG−3’(配列番号2)、(1−660)5’−CCCAAGCTTT CACTACCTTG AGTAGACACC GTCATCCTTA G−3’(配列番号3)および(1−462)5’−CCCAAGCTTT CACTATTGAT CTGAAGCATA TGTCTGTAAA CCTCCCTG−3’(配列番号4)。PCR産物を忠実度の高いTaqDNAポリメラーゼ(Invitrogen、Carlsbad、CA)で増幅させた。欠失産物は鋳型として野生型CLCA1を用いた。該鋳型を96℃で2分間変性させ、ついで反応を以下のように進行させた:DNAを94℃で30秒間変性させ、65℃で1分間アニールさせ、72℃で1分間伸長させた。このサイクルを20サイクル繰り返した。得られた産物をHindIIIで消化させた。pcDNA3.1をHindIIIで消化させ、仔ウシ腸アルカリ性ホスファターゼ(New England Biolabs、Beverly、MA)で脱リン酸化した。該フラグメントをラピッドDNAライゲーションキット(Roche、Basel、Switzerland)を用いてライゲートし、ついでワンショットケミカルコンピテント・イー・コリ(Invitrogen、Carlsbad、CA)で形質転換した。
【0064】
実施例7: ポリクローナル抗体の生成
ペプチドポリクローナル抗体の生成を、記載のプロトコルに従って、Invitrogen(Carlsbad、CA)を用いて行った。ニュージランド・ホワイトラビット(3−9月齢)にフロイントアジュバントに乳化させたKLH−ペプチド(下記参照)を3個所の背部位にて皮下注射すること(免疫処理につき0.1mgのペプチド)で免疫処理を行った。動物を関節の動脈付近で出血させた。血清を集め、力価をフリーペプチドELISAを介して測定した。前に記載されるように(Nakanishiら、2001、Proc Natl Acad Sci USA 98:5175)、細胞外ドメインを基礎として5つの親水性ペプチドを選択した。その親水性ペプチドは、アミノ酸124−140、Gly Glu Lys Gly Glu Arg Ile His Leu Thr Pro Asp Phe Ile Ala(配列番号5)に対応する1CLC、アミノ酸202−217、Glu Gln Asn His Asn Lys Glu Ala Pro Gln Lys Gln Asn Gln Lys(配列番号6)に対応する2LCL;アミノ酸478−495、Gly Gln Gly Val Ser Gln Arg Ser Ile Gln Leu Glu Ser Lys Gly Leu Thr(配列番号7)に対応する3LCL;アミノ酸702−719、Ile Glu Asn Asp Glu Ile Gln Trp Asn Pro Pro Arg Pro Glu Ile(配列番号8)に対応する4LCL;およびアミノ酸819−833、Lys Glu Ala Asn Ser Glu Glu Val Phe Leu Phe Lys Pro Glu Asn(配列番号9)に対応する5LCLを包含する。
【0065】
実施例8: PNGaseフラグメント
PNGase Fをニュージランド・バイオラボ(New England Biolabs)(Beverly、MA)より入手し、製造者の指示に従って用いた。サンプルを還元バッファー中にて5分間沸騰させた。エチルフェニル−ポリエチレングリコール(NP−40)を1xG7反応バッファー(New England Biolabs、Beverly、MA)と一緒に1%(v/v)の最終濃度まで添加した。1μlのPNGase Fを添加し、37℃にて1時間インキュベートした。ついで、2xサンプルバッファー(Invitrogen、Carlsbad、CA)を添加し、実施例5に記載されるようにサンプルをトリス−グリシンゲル上で分散させた。
【0066】
実施例9: MUC5ACレポーターアッセイ
MUC5ACプロモーターの1.6キロ塩基のフラグメントをレポーター(MUC5AC−luc)として用いられる蛍ルシフェラーゼ遺伝子に融合させた。ウェル当たり合計2μgを用いて、A549細胞を、6−ウェルの組織培養処理プレートにて、FuGeneトランスフェクション試薬(Roche、Basel、Switzerland)でトランスフェクトした。ウェル当たり0.5μgのMUC5AV−luc構築物を用いた。種々の濃度のCLCA1または欠失構築物を用いて用量応答を確立した。ベクターDNA(pcDNA3.1)を用いてDNAの合計を2μgの完全なものとした。細胞を2回洗浄し、血清不含Hams/F12培地(Life Technologies、Carlsbad、CA)中にて6時間トランスフェクトした。6時間後、培地を血清含有、すなわち10%血清Hams/F12に変えた。ルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega、Madison、WI)が供給されている細胞溶解溶液に細胞を溶菌させ、製造主の指示に従った。サンプルを3通りにて96−ウェルプレートに移し、96−ウェル照度計(Turner Biosystems、Sunnyvale、CA)上で読み取った。
【0067】
実施例10: CLCA1のコンピューター分析
CLCA1は9個の推定N−連結糖鎖形成部位を含有する914個のアミノ酸ポリペプチドである(図1)。疎水性の21残基の伸長はアルゴリズムSigCleaveによれば分泌シグナル配列であると予想される。CLCA1ポリペプチド配列を用いてさらに、NCBI保存ドメインデータベース(http://www.ncbi.gov)をクエリーし、270個のアミノ酸に及ぶセントラル・フォン・ヴィレブランド因子A−ドメイン(VWA)を含有することを見出した。CLCA1のVWAドメインは、二価の金属カチオンの結合に関与する一連の所定のアミノ酸である無傷のMIDASモチーフを含有する。
【0068】
CLCA1を膜貫通秘密マルコフモデル(transmembrane hidden Markov model)(TMHMM)(Sonnhamerら、1998、Proc Sixth Int Conf on Intelligent Systems for Molecular Biology、AAAI Press)を用いて評価した。該モデルは膜貫通アルファへリックスを解析し、膜貫通セグメントだけでなく、その上に膜トポロジーをも予測するための手段として開発された。TMHMMはCLCA1が分泌蛋白、血清アルブミンと同様に膜貫通セグメントを有しないであろうことを示唆する(図4)。該モデルが予測的であることを保証するために、十分に理解されている他の蛋白、膜貫通トポロジーまたは解決されている結晶構造を解析した。該モデルはイー・コリから由来のCFTRの12個の疎水性セグメントおよびCLCの所定の疎水性ストレッチを確実に予測した(Riordanら、1989、Science 254:1606;Dutzlerら、2002、Nature 415:287)。もう一つ別の疎水性モデル、スプリット(Split)4.0(http://pref.etfos.hr/split-4.0/)に基づいて、CLCA1はまた、可溶性蛋白であると予測される(図5)。
【0069】
実施例11: CLCA1の異種発現
その細胞局在を試験するために、CLCA1を哺乳動物発現ベクターpcDNA3.1およびpDEST12.2を用いてCOS−7細胞およびHEK293細胞にて異種発現させた。CLCA1の過剰発現は35Scys−metの放射性取り込みによって測定すると培地において予想外の120kDの種を生成した(図2)。培地でのこれらのバンドの存在はCLCA1が分泌されていることを示唆する。CLCA1の同一性を確認するために、ウェスタンブロット分析にて用いるための、Gruber(Gruberら、1999、Genomics 54:200)により示唆されている細胞外ドメインに相当するペプチドに拮抗するペプチドポリクローナル抗体を生成した。分泌表現型を、実際に、COS−7トランスフェクト細胞およびHEK293トランスフェクト細胞の馴化培地での120kDのCLCA1免疫反応性バンドを示す、ウェスタンブロット分析により確認した(図3A)。全長CLCA1の存在を馴化培地にて確認した。120kDバンドおよび37kDバンドもまた、ウェスタンブロットによる細胞溶菌において認められた(図3B)。これらのバンドは標準ベクターでトランスフェクトされた細胞では存在しなかった。
【0070】
細胞ライゼートに存在するバンドが分泌経路に由来するのか、膜に関連するのかどうかを試験するために膜調製物を分析した。120kDと37kDの両方が膜と関連する(図3C)。ベクターおよびCLCA1トランスフェクトHEK293細胞からの馴化培地のサンプルをマススペクトルで分析し、そのポリクローナル抗体の特異性を確認した。ウェスタンブロットにおけるCLCA1免疫活性バンドは全長CLCA1であることを確認した。
【0071】
COSおよびHEK293の両方のトランスフェクトからの馴化培地を、還元および非還元条件下でウェスタンブロットにより分析し、CLCA1が分泌される環境下で多量体として存在するかどうかを評価した。還元条件下では、約120kDの大きさのCLCA1が移動する。非還元条件下では、二量体の形成と一致するより高分子量の種が明らかとなる(図6)。これらの観察は4−20%勾配のトリス−グリシンSDSゲルを用いてなされた。解像度を上げるために、6%トリス−グリシンゲルを用いた。非還元条件下では、二量体および多量体の形成と一致する大きさのCLCA1が移動した。
【0072】
一次蛋白配列を基礎として、CLCA1が約100kDの分子量を有すると予測する。SDS−PAGEによる分析は、馴化培地中、120kDで移動する種を明示する。CLCA1は9個の推定N−連結糖鎖形成部位を有する(図1)。分泌されたサンプルをN−グリコシダーゼPNGase Fで処理し、N−連結糖の分子量の違いに対する寄与を決定した。PNGase Fで処理することでその大きさは期待される100kDにまで減少した(図7)。このことはCLCA1が9個の推定N−連結糖鎖形成部位を有し(図1)、高度に糖鎖形成されている可能性があるという事実と一致する。
【0073】
Gruberらは、CLCA1がその全長が120kDの生成物から切断され、ジスルフィド結合により結合されている、90kDと37kDの生成物を生成すると示唆する(Gruberら、1999、Genomics 54:200)。2つのサブユニットがジスルフィド結合により連結されているかどうかを試験するために、ライゼートを、還元条件および非還元条件下、ウェスタンブロットで作動させた(図8)。非還元条件下では、37kD種はなおも存在する。この観察はジスルフィド結合が低分子量のサブユニットと関連していないことを示唆する。
【0074】
実施例12: 可溶性CLCA1の自然発現
CLCA1の分泌された表現型は主に過剰発現系にて見られるため、その現象が異常な細胞プロセッシングのアーチファクトであるとの懸念があった。遺伝子発現の研究はCLCA1が抗原攻撃の後に肺で発現されることを示唆した。結果として、アスカリス・スーム(Ascaris suum)の抗原投与を行ったカニクイザルからの気管支肺胞洗浄液(BAL)を可溶性CLCA1の存在についてウェスタンブロットにより試験した。90kDおよび120kDの免疫反応性のバンドが、同じ動物の抗原投与していない状態と投与した状態の両方のBALから検出された。
【0075】
次に、喘息および非喘息患者からのヒトBALのサンプルを試験した。そのヒトサンプルから得られた結果はサルBALサンプルから得られた結果と類似した。一貫して、90と120kDに2つのバンドがあった。患者間でバラツキがあるが、全体として喘息と非喘息サンプルの間で蛋白発現において違いがあるとは思えなかった(図9)。
【0076】
発現実験およびCLCA1を誘発することで粘液の生成が得られるという生理学的観察(Hoshinoら、2002、Am J Respir Crit Care Med 165:1132;Nakanishiら、2001、Proc Natl Acad Sci USA 98:5175)に基づき、蛍ルシフェラーゼ遺伝子に融合したMUC5AC遺伝子プロモーターをアッセイリードアウトとして用いるレポーターアッセイが開発された。A549細胞は粘膜表皮および気道を起源とするため、該細胞を使用した。A549細胞におけるCLCA1の過剰発現は、ルシフェラーゼ活性で測定した場合、MUC5AC遺伝子転写の用量依存性上昇をもたらす(図10)。
【0077】
実施例13: 構築物の生成
欠失および変異構築物がCLCA1の機能性決定因子を同定するのに造られるであろう(図11)。C−末端欠失構築物はアミノ酸709−914および661−914を欠失しており、Gruberらにより提案されている(Gruberら、1999、Genomics 54:200)ところの推定切断産物に相当する。構築物1−462はVWAドメインを含むN−末端からなっているであろう。VWAdelはVWAドメインの欠失した完全な分子からなっているであろう。これはCLCA1の機能についてVWAドメインの必要性を試験するであろう。加えて、二価のカチオン結合に不可欠な、VWAドメインのMIDASモチーフが、その結合を排除するのに変異させられるであろう。
【0078】
実施例14: HEK293およびA549細胞におけるCLCA1およびgob−5の発現
肺細胞系A549および胚腎細胞系HEK293を、各々、CLCA1またはgob−5のいずれかをコードするように遺伝子操作したプラスミド、pcDNA3でトランスフェクトした。ウェスタンブロットで発現を確認した。サンプルをβ−メルカプトエタノールを含む2xSDSサンプル緩衝液と合し、2分間沸騰させた。沸騰させた後、サンプルを4−20%勾配または6%SDSのゲル上にローディングした。ついで、Invitrogenブロッティング装置およびトランスファー緩衝液(Invitrogen、Carlsbad、CA)を用いてゲルをニトロセルロースに移した。一定電流の下、30Vで2時間ゲルを移動させた。ニトロセルロースのブロットを、5%(w/v)脱脂粉乳中、室温にて1時間ブロックした。CLCA1またはgob−5のNまたはC末端のいずれかを認識するペプチドポリクローナル抗体と一緒にブロットを4℃にて一夜インキュベートした。一次抗体と一緒にインキュベーションした後、ブロットを洗浄緩衝液(PBS中1%(v/v)トリトンX100、0.1%(w/v)SDS、カルシウムおよびマグネシウム不含)中、各々を10分間、3回洗浄し、ついでホースラディシュ・ペルオキシダーゼにコンジュゲートさせたマウス抗ウサギIgGと一緒に30分間インキュベートした。ブロットを洗浄バッファー中にて各々10分間で3回洗浄し、化学発光試薬(ECL試薬)(Amersham、Uppsala、Sweden)で発色させた。ブロットをコダックフィルムに曝し、フィルム現像剤を用いて現像した。結果はCLCA1およびgob−5の両方が発現することを示した(図14)。
【0079】
実施例15: CLCA1およびgob−5のMUC5AC遺伝子転写の誘発
レポーティング遺伝子、ルシフェラーゼの上流に融合したMUC5ACプロモーターの1.6kbフラグメントを含む構築物(MUC5AC−luc)を用いてCLCA1またはgob−5の過剰発現がムチンプロモーターの制御下で遺伝子発現を誘発しうるかどうかを測定した。
【0080】
A549またはHEK293細胞を6−ウェル組織培養液
ウェル当たり合計4μgを用いて、A549またはHEK293細胞を、6−ウェルの組織培養処理プレートにて、TransITトランスフェクション試薬(Mirus Corp.、Madison、WI)でトランスフェクトした。MUC5AV−ルシフェラーゼ構築物(0.2mg/ウェル)をHEK293細胞中にトランスフェクトした。A549細胞にはウェル当たり1mgのMUC5AC−ルシフェラーゼ構築物を用いた。トランスフェクションから24時間後、ルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega、Madison、WI)が供給されている細胞溶解溶液に細胞を溶菌させ、製造主の指示に従った。サンプルを3通りにて96−ウェルプレートに移し、96−ウェル照度計(Turner Biosystems、Sunnyvale、CA)上で読み取った。得られたルシフェラーゼデータをβ−ガラクトシダーゼ発現(HEK293細胞)または総蛋白のmg当たり(A549細胞)について正規化した。
【0081】
結果はCLCA1およびgob−5が共に負の対照(空のプラスミド)と比較して遺伝子の転写の2倍増を誘発したことを示した(図12a:A549細胞、および図12b:HEK293細胞)。
【0082】
実施例16: 生理学的カルシウムレベルを用いる全細胞クロライド電流誘導の測定
A540細胞およびHEK293細胞を、各々、緑色発光蛋白、およびCLCA1またはgob−5のいずれかをコードするプラスミドでトランスフェクトした。緑色を発光する個々の細胞を電気生理学的測定のために選択し、生理学的レベルのカルシウムの存在下、CLCA1およびGob−5が全細胞クロライド電流を確立しうるかどうかを測定した。
【0083】
AxoPatch200B増幅器(Axon Instruments、Foster City、CA)を用いてすべての電気生理学的実験を行った。電圧固定法およびデータ収集はpClamp8ソフトウェア(Axon Instruments)で制御した。アナログのデータをデジタイザーDIGIDATA1321A(Axon Instruments、Union City、CA)を用いて1kHzでフィルター処理に付し、ついで10kHzでデジタル化した。すべての実験は室温で行った。
【0084】
一価のカチオンをセシウムと置き換えることで原形質膜を通過する全細胞Cl−電流を薬理学的に単離した。膜斑の破裂を介する従来の全細胞を記録する場合、浴溶液は:145mM CsCl、2mM MgCl、1mM CaCl、13mM グルコースおよび10mM Hepes pH7.4を含有した。ピペット溶液は:145mM CsCl、1mM MgCl、1mM MgATP、2mM BAPTA(または1μMの遊離Ca2+に対して1mM ジブロモ−BAPTA)、10mM Hepes pH7.2および0.1と1μMの間の遊離[Ca2+]が得られるように、適当な濃度のCaCl(MaxChelatorソフトウェア、Stanford University、Palo Alto、CAを用いて評価した)を含有した。
【0085】
全細胞Cl−電流を0mVで30ミリ秒(ms)間電圧を固定することで開始するプロトコルでモニター観察した。ついで、電圧を−100mVで200msに切り替え、0mVで30msに戻し、ついで100mVで200msに進め、最後に0mVに戻した。この順序の電圧工程を5秒ごとに5分間繰り返し、電流の進展経過をモニターした。Ca2+活性化全細胞Cl−電流のI/Vの関係を以下のプロトコルを用いて得た:膜電位を0mVに維持し、その場合0で、−100mVから+100mVまでの範囲にある300msの試験パルス(20mVづつ増加)まで段階的に進め、0mVに戻した。試験パルスの終わりまで報告されている電流はすべて5msで測定し、細胞電気容量で正規化した。図13aに示される結果は、HEK293およびA549細胞におけるhCLCA1およびgob−5過剰発現がカルシウムの生理学的レベルの下では全細胞クロライド電流を発生させないことを示した。その上、カルシウムの濃度の増加に対して電流密度の用量応答も見られなかった(図13b)。
【0086】
本明細書中に引用される文献は、たとえ、個々の刊行物または特許もしくは特許出願が具体的かつ個別的に出典を明示することでその内容を本明細書の一部とすることを意図としているとしても、その同じ内容で出典明示により本明細書の一部とされる。出典明示により本明細書の一部とされる刊行物および特許または特許出願が本明細書の開示と相反する場合には、本願明細書の記載はその相反する事項に優先および/または勝ることを意図とする。
【0087】
本願明細書および特許請求の範囲にて使用される成分量、反応条件などを示す数はすべて、「約」なる語で修飾されていると理解すべきである。したがって、そうでないと示されない限り、明細書および特許請求の範囲に示される数値パラメーターは、本発明により得られると考えられる所望の特性に応じて変化しうる概算値である。少なくとも、均等論の原理を特許請求の範囲に適用することを限定する試みとしてではなく、数値パラメーターは有効数字または通常の丸み付け手段(例えば、四捨五入)を考慮して解釈されるべきである。
【0088】
本願発明の精神および範囲を逸脱することなく、その多くの修飾および変形が可能であることは、当業者に明らかであろう。本明細書に開示されている特定の実施形態は単なる例示として示されているものであり、何ら限定することを意図とするものではない。明細書および実施例は単なる例示であると考えられ、真の本願発明の範囲および精神は添付した特許請求の範囲により示されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1はヒトCLCA1の一次アミノ酸配列を示す。VWA領域に下線を付し、推定N−連結の糖鎖付加部位に星印を付す。シグナル配列をSS(配列番号10)で示す。
【図2】図2はCLCA1およびgob−5の両方の蛋白が該蛋白を発現するようにトランスフェクトされたCOS細胞から分泌されることを示す。
【図3】図3は、CLCA1を発現するようにトランスフェクトされた細胞の、馴化培地(conditioned media)、細胞ライゼートおよび膜調製物中のCLCA1の存在を示すウェスタンブロットである。
【図4】図4はコンピュータープログラムTMHMMを用いて他の既知の膜結合および分泌蛋白と比較したCLCA1の疎水性分析を示す。CLCA1は膜貫通アルファへリックスを全く含有しない。
【図5】図5はコンピュータープログラムSplit4.0を用いて他の既知の膜結合および分泌蛋白と比較したCLCA1の疎水性分析を示す。CLCA1は膜貫通アルファへリックスを全く含有しない。
【図6】図6はCLCA1が多量体として分泌されたことを示すウェスタンブロットである。
【図7】図7はCLCA1が高度に糖鎖付加されていることを示す。PNGase処理は分泌蛋白の大きさを減少させる。
【図8】図8はCLCA1のサブユニットがジスルフィド結合で連結されていないことを示すウェスタンブロットである。
【図9】図9はCLCA1が喘息および非喘息患者のBAL流体中に存在することを示す。
【図10】図10はCLCA1が用量依存的様式でMUC5ACプロモーターを活性化することを示す。
【図11】図11はVWA領域、MIDAS領域の残基および提案されている切断部位の位置を示すCLCA1欠失変異体の模式図を示す。
【図12】図12aはA549細胞中のCLCA1またはgob−5の過剰発現によるMUC5AC−ルシフェラーゼ受容体の誘発を示す。CLCA1およびgob−5はベクタートランスフェクトされた対照と比べて2倍のMUC5AC−ルシフェラーゼ受容体活性の誘発を示す。図12bはHEK293細胞にて同様の結果を示す。
【図13】図13はHEK293およびA549細胞中一時的に発現されるCLCA1およびgob−5の全細胞パッチクランプ法を示す。図13(a)は、0.5Mの遊離Ca2+のピペット液中、HEK293細胞(左パネル)およびA549細胞(右パネル)にて一時的に発現されるCLCA1の電流−電圧の関係を示す(各群においてn=6−8)。図13(b)はhCLCA1(左パネル)およびgob−5(右パネル)を一時的に発現するHEK293細胞における全細胞電流密度のカルシウム依存的倍数増加を示す(各群においてn=3−8)。同様のデータがA549で観察された(データは図示せず)。
【図14】図14はHEK293細胞とA549細胞中のCLCA1およびgob−5発現を示すウェスタンブロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患または症状でない個体と比べて、対象におけるCLCA1の発現または活性が高い疾患または症状の対象を治療する方法であって、治療上有効量の、可溶性CLCA1と細胞膜との結合を阻害または防止する、少なくとも1つの作用物質を該対象に投与し、それにより該疾患または症状を治療することを含む、方法。
【請求項2】
さらに治療上有効量の第二の作用物質を投与することを含む方法であって、その第二の作用物質が該疾患または症状を効果的に治療するのが知られている作用物質であり、可溶性CLCA1と細胞膜との結合を阻害または防止しないところの、請求項1記載の方法。
【請求項3】
疾患または症状が喘息であるところの、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
疾患または症状がCOPDであるところの、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの作用物質が蛋白であるところの、請求項1記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの作用物質が抗体であるところの、請求項1記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの作用物質が小分子であるところの、請求項1記載の方法。
【請求項8】
対象から流体を得;その流体をCLCA1の特異的結合パートナーと接触させて、CLCA1とその特異的結合パートナーとの間で複合体を形成させ;CLCA1とそのCLCA1の特異的結合パートナーとの複合体を該流体より単離し;CLCA1が単離されるようにCLCA1とそのCLCA1の特異的結合パートナーとの複合体を切断することを含む、CLCA1を単離する方法。
【請求項9】
流体が体液であるところの、請求項8記載の方法。
【請求項10】
体液が唾液であるところの、請求項9記載の方法。
【請求項11】
体液が粘膜面より得られるところの、請求項9記載の方法。
【請求項12】
流体が気管支肺胞洗浄液であるところの、請求項8記載の方法。
【請求項13】
特異的結合パートナーが蛋白であるところの、請求項8記載の方法。
【請求項14】
特異的結合パートナーが抗体であるところの、請求項8記載の方法。
【請求項15】
特異的結合パートナーが固体支持体に連結されているところの、請求項8記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2007−505162(P2007−505162A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533460(P2006−533460)
【出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/016742
【国際公開番号】WO2004/105793
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】