説明

可溶成分測定器

【課題】コンパクトな形態としてなり得、また、安定的に測定し得る可溶成分測定器の提供。
【解決手段】検体中の可溶成分量を測定する可溶成分測定器であって、可溶成分が溶解しうる所定の溶液を、測定室1内に飛散させる飛散手段と、前記飛散手段によって飛散させた溶液への、可溶成分の溶解量を検知する検知部6とを具備してなる。或いは、検体と接触する一または複数の回転部材4を具備してなり、前記回転部材を、可溶成分が溶解しうる所定の溶液で濡らした濡れ状態とし、濡れ状態の回転部材を回転させることで、検体中の可溶成分を前記溶液へ溶解させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、気体からなる検体を対象とし、検体に含まれる可溶成分を測定する可溶成分測定器に関する。この可溶成分測定器には、塩害発生センサとして用いるべく、大気中の塩分を測定する塩分測定器が含まれる。
【背景技術】
【0002】
台風等によって、塩分を含む海水が空気中に分散されると、塩分が植物等に付着して農作物やその他樹木が枯れたり生長が阻害されたりする、いわゆる「塩害」が発生しうる。塩分付着が認められる場合には、塩分を含む風が吹いた後6時間以内に水で洗い流すことである程度の効果が期待されるとされる。
【0003】
上記農作物への塩害の発生につながる塩分付着を判別する方法として、台風などの通過後、植物の葉を実際に舐めて、甘みや塩辛味を感じるかによって、潮風飛来の判断を行っていた(例えば、非特許文献1参照)。しかし人間の感覚で判断するため、正確な判断が困難である。
【0004】
また、この塩害として、送電施設に海塩粒子が付着して絶縁障害を発生させることがある。
【0005】
これらに対して従来、大気中のナトリウムイオン物質濃度の連続モニター装置として、上方が開放した水槽内に純水を満たし、この純水に溶け込んだナトリウムイオン濃度を測定するものが存在した(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
これは、純水を一定液面に保ちながら一定流量で給排水することで、大気中のナトリウムイオン物質を、水槽に満たした純水へ自然溶解させ、この自然溶解したナトリウムイオンの量を、ナトリウムイオン電極計で連続測定するものである。
【0007】
また、大気中の塩分濃度の測定に限らず、気体を検体として、この検体に含まれる成分であって所定の溶液へ溶ける可溶成分を測定する場合がある。
【0008】
【特許文献1】特公平2−49654号公報
【非特許文献1】佐賀県農業技術防除センターHP内、〔専門技術部〕>〔気象災害対策情報〕>〔塩害・潮風害〕>“〔潮風害対策〕”、〔online〕、平成15年、〔平成18年1月17日検索〕、インターネット<URL:HTTP://www.pref.saga.lg.jp/at−contents/shigoto/nogyo/nougyougijutsu/engai/choufu0.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記従来のナトリウムイオン物質濃度の連続モニター装置では、大気に含まれる塩分を、水槽の水面からの自然溶解量によって判断するため、できるだけ多くの大気に接触させるべく広範囲に開放した水槽が必要となり、コンパクトに装置を形成することが困難である。
【0010】
また、水面上の風の有無等、大気の状態によって溶解量に差が出てしまい、正確な塩分濃度のモニターを行いきれないことが考えられる。
【0011】
これらは、大気中の塩分濃度の測定に限らず、気体からなる検体に含まれる、所定溶液への可溶成分を測定する場合についても同様である。
【0012】
そこで本発明では、コンパクトな形態としてなり得、また、安定的に測定し得る可溶成分測定器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、下記(1)ないし(6)の手段を採用するものとしている。
【0014】
(1)本発明の可溶成分測定器は、検体中の可溶成分量を測定する可溶成分測定器であって、
可溶成分が溶解しうる所定の溶液を、測定室内に飛散させる飛散手段と、
前記飛散手段によって飛散させた溶液への、可溶成分の溶解量を検知する検知部とを具備してなることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、溶液を多くの接触面積をもって検体に接触させ、測定室内の検体中の可溶成分を、溶液へ効率よく溶解させることができる。これにより、測定室内の検体に含まれる可溶成分量を精度よく検知することができ、ひいては安定的に測定することができるものとなる。また、測定室内に飛散させて測定するため、比較的コンパクトな形態としてなり得る。
【0016】
(2)或いは、本発明の可溶成分測定器は、検体中の可溶成分量を測定する可溶成分測定器であって、
検体と接触する一または複数の回転部材を具備してなり、前記回転部材を、可溶成分が溶解しうる所定の溶液で濡らした濡れ状態とし、濡れ状態の回転部材を回転させることで、検体中の可溶成分を前記溶液へ溶解させ、この溶液への可溶成分の溶解量を検知することを特徴とするものとしてもよい。
【0017】
上記構成によれば、濡れ状態の回転部材の溶液を多くの検体と接触させることができ、検体中の可溶成分を、溶液へ効率よく溶解させ得る。これにより、測定室内の検体に含まれる可溶成分量を精度よく検知することができ、ひいてはコンパクトな形態として安定的に測定できるものとなる。
【0018】
特に、前記(1)の飛散手段として、検体と接触する一または複数の回転部材4と、溶液を前記測定室1内の回転部材4の少なくとも一部分の面へ吐出する溶液吐出機構3とを具備してなり、溶液吐出機構3によって回転部材を濡れ状態とし、この濡れ状態の回転部材を回転させることで、検体中の可溶成分を前記溶液へ溶解させるものであることが好ましい。
【0019】
(3)上記いずれかの可溶成分測定器は、検体が大気であり、測定する可溶成分が大気中の塩分であって、塩害の発生を検視しうる、いわゆる塩害センサとしてなることが好ましい。
【0020】
上記可溶成分測定器は、特に塩害センサとしてなることで、比較的低出力をもって、潮風の発生や塩害の注意の程度を継続的にかつ安定的に測定しうる。また、濡れ状態の回転部材4によってコンパクトな形態としてなり得るため、大きな設置場所を確保することなく設置したり、適宜測定場所を変更して設置したりすることができる。
【0021】
(4)上記いずれかの可溶成分測定器は、
気体からなる検体に含まれる可溶成分量を、溶液へ溶解させることによって測定する可溶成分測定器であって、少なくとも、
側壁13で周囲を囲われた測定室1と、
検体を測定室1内へ流通させる流通機構2と、
溶液を前記測定室1内へ吐出する溶液吐出機構3と、
前記測定室1内で回転する回転部材4と、
測定室1内の溶液を回収する溶液回収機構5と、
回収した溶液の可溶成分量に応じて反応する検知部6とを具備し、
流通機構2によって測定室1内を検体の流通状態とすると共に、
溶液吐出機構3によって溶液を前記流通状態の測定室1内に吐出し、
回転部材4によって前記溶液を前記流通状態の測定室1内で飛散させ、
溶液回収機構5によって前記飛散された溶液を回収し、
検知部6によって前記回収した溶液を検知することで、測定室1内で溶液に溶解した可溶成分量を測定することを特徴とすることが好ましい。
【0022】
このようなものであれば、流通機構2によって、側壁13で囲われた測定室1内に、所定量の検体を継続して取り入れることが出来る。これにより、風や気流等、取り込む検体の状態に影響を受けることなく可溶成分量を測定し、大気等の状態による溶解量の差を抑止することができる。
【0023】
また測定室1内では、回転部材4によって溶液を飛散させることで、溶液が測定室1内で微細粒状に四散する。このため、流通状態の検体と多くの接触面積で接触することになる。したがって、小容積の測定室1内であっても、可溶成分を溶液へ効率的に溶解させることが可能となる。必ずしも大きな溶液面の水槽を用いる必要がないため、コンパクトな形態としてなり得る。
【0024】
(5)上記いずれかの可溶成分測定器は、
測定室1が、大気に開放して検体をそれぞれ流入、流出させる流入口11、及び流出口12を具備し、
回転部材4の回転軸方向の両端がそれぞれ、前記流入口11及び流出口12に正対し、
測定室1内の回転部材4が、測定室1内で流入口11から流出口12に向かう検体に、回転軸を中心とした回転(渦)流を生じさせることが好ましい。
【0025】
このようなものであれば、測定室1内で回転流が生じることで、流通する検体が流通室21内で均等に攪拌されると共に、よどみが発現することなく効率的に流通するものとなる。このように流通流量が効率化することで、流通検体の増加による安定した測定値を得られるものとなる。また流通流量が効率化することで、流通機構2の負荷を抑え、ひいては発熱等を抑えた安価な連続測定を容易に達成しうる。
【0026】
また、回転軸方向が少なくとも流入口11を向くことで、流通する検体が濡れ状態の回転部材4と連続的に接触することとなり、溶解成分を効率的に溶解させるものとなる。
【0027】
(6)上記いずれかの可溶成分測定器において、測定室1が、大気に開放して検体をそれぞれ流入、流出させる流入口11、及び流出口12を具備し、回転部材4の回転軸方向の両端がそれぞれ、前記流入口11及び流出口12に正対し、回転部材4によって、測定室1内で流入口11から流出口12に向かう検体に、回転軸を中心とした回転(渦)流を生じさせるものであることが好ましい。なお、上記いずれかの可溶成分測定器において、回転部材4が所定のプロペラ径4dのプロペラからなり、流入口11及び流出口12が、前記プロペラ径4d以下の代表径の解放口形状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、上述の構成とすることで、コンパクトな形態としてなり得る。また、取り入れる前の検体の状態に大きく影響されることなく、安定した測定を行い得る可溶成分測定器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、発明を実施するための最良の形態を、実施例として示す各図と共に説明する。図1ないし図4、及び図5(a)に、本発明の実施例1の可溶成分測定器を示す。また、図6及び図7に、本発明の実施例2の可溶成分測定器を示す。いずれの実施例においても、本発明の可溶成分測定器は、気体からなる検体に含まれる可溶成分量を、溶液へ溶解させることによって測定する可溶成分測定器である。
【0030】
本発明の特徴は、少なくとも可溶成分が溶解しうる所定の溶液を、測定室内に飛散させる飛散手段と、前記飛散手段によって飛散させた溶液への、可溶成分の溶解量を検知する検知部6とを具備してなることである。或いは、本発明の特徴は、検体と接触する一または複数の回転部材4を具備してなり、前記回転部材4を、可溶成分が溶解しうる所定の溶液で濡らした濡れ状態とし、濡れ状態の回転部材を回転させることで、検体中の可溶成分を前記溶液へ溶解させ、この溶液への可溶成分の溶解量を検知することである。
【0031】
本発明は、前記二つの特徴を、選択的に或いは組み合わせて使用することができるが、前記二つの特徴を両備することが好ましい。例えば、飛散手段として、検体と接触する一または複数の回転部材4と、溶液を前記測定室1内の回転部材4の少なくとも一部分の面へ吐出する溶液吐出機構3とを具備してなり、溶液吐出機構3によって回転部材を濡れ状態とし、この濡れ状態の回転部材を回転させることで、検体中の可溶成分を前記溶液へ溶解させるものであることが好ましい。なお、さらにいえば、溶液を効率よく均等に飛散させるべく、溶液吐出機構3による溶液の吐出面は、回転部材4のうち、検体の流通方向と逆側の面(例えば下記実施例1における、回転部材4の鉛直上方側にある液受け面42f)であることが好ましい。
【0032】
本発明の可溶成分測定器の基本的な構成例として、少なくとも、側壁13で周囲を囲われた測定室1と、検体を測定室1内へ流通させる流通機構2と、溶液を前記測定室1内へ吐出する溶液吐出機構3と、前記測定室1内で回転する回転部材4と、測定室1内の溶液を回収する溶液回収機構5と、回収した溶液の可溶成分量に応じて反応する検知部6とを具備する(図1)。そして、検体を測定室1内に流通させると共に、測定室1へ溶液吐出機構3によって吐出された溶液を、回転部材4によって測定室1内で飛散させたのちに溶液回収機構5によって回収し、この回収した溶液を検知部6で検知することで、測定室1内で飛散した溶液に溶解した可溶成分量を測定することを特徴とする。以下、各実施例における各構成を詳述する。
【実施例1】
【0033】
図1ないし図4、及び図5(a)に、本発明の実施例1の可溶成分測定器を示す。具体的には、図1が実施例1の可溶成分測定器の全体構成例を示す説明図であり、図2及び図3がそれぞれ、実施例1の可溶成分測定器における、測定室1の斜視及び正面視説明図である。図4は、図2に示す実施例1の可溶成分測定器における、測定室1の平面視説明図である。そして図5(a)が本発明の実施例1の可溶成分測定器における、回転部材4の正面図(上図)及び平面図(下図)である。なお図5(b)及び(c)は、本発明の可溶成分測定器における、回転部材4の他の態様の正面図(上図)及び平面図(下図)である。
【0034】
(測定室1)
測定室1は、室内へ取り込んだ検体を測定するものであり、検体をそれぞれ流入、流出させる流入口11、及び流出口12を具備してなり、側壁13で周囲を(少なくとも検体の流通方向に対する側周方向を)囲われた半密閉構造からなる。実施例の測定室1は、側周が内円筒状の外側の側壁13で覆われ、上方が流入口11周りの天板で覆われ、下方が流出口12周りの回収溝51で覆われ、そして、下方の内部が、流出口12周りに立設する内側の側壁13で覆われる。また、測定室1内には、回転部材4たる後方プロペラが設けられる。流入口11及び流出口12は、回転部材4の回転軸の両端それぞれの延長線上を含む位置に配置されることが好ましい。
【0035】
実施例1では、測定室1は円柱形であり、同じ円柱形の流通室21(次述の流通機構2の一構成)と連ねて設けられる。その上下面に、円柱軸を中心とする開放口をひとつずつ設けている。これら開放口がそれぞれ、流入口11及び流出口12である。流入口11及び流出口12の解放口形状は、実施例1ではプロペラ径4d以下の径の円であるが、円形に限らず、多角形、矩形等任意の形状とすることが出来る。流出口12に沿って、回転部材4の下方までの高さの内側の側壁13が測定室1側に立設される。この内側の側壁13が、回収溝51の内側の壁を形成して回収溶液を流通口12外へ漏らさないようにする。また、この内側の側壁13が、測定室1内部の検体の渦流を発生させる。
【0036】
また実施例1では回転部材4軸及び測定室1の形状軸位置を中心とする軸対象形状の円形孔をひとつ設けているが、二つ以上設けてもよく、例えば並設したスリット状の細長孔等、回転部材4の軸や測定室1の形状軸とずれて配置されてもよい。いずれの形状であっても、開放口の代表長さ(楕円形であれば長径を、正多角形であれば対角線をいう。)は、プロペラ径4d以下であることが好ましい。
【0037】
流入口11及び流出口12は、実施例1ではそれぞれ鉛直上方、鉛直下方を向いている。これにより、検体の自然落下による可溶成分量の測定が効率的に行える。特に塩害のように、大気からなる検体中に可溶成分たる塩が溶けずに浮遊している場合、上方からの検体取り込みが好ましい。
【0038】
実施例1のような形態のほか、流入口11が下方を向き、上方ではなく下方からの検体取り込みでもよい。流入口11及び流出口12の向きは、前記鉛直上方及び下方を向く他、水平方向を向くものでも良い。
【0039】
(流通機構2)
流通機構2は、検体を測定室1内へ流通させ、測定室1内を流通状態とする機構である。流通状態とは、検体が内部を流通する状態である。実施例1においては、連続的に流通状態とすることで、可溶成分測定器が、塩害の発生を検視しうる塩害センサとしてなりうる。
【0040】
具体的な実施例1の流通機構2の構成として、検体の流通方向に対して前方位置と後方位置それぞれ、順に流通室21及び測定室1を連ねて設けており、各室内にそれぞれ前方プロペラ22及び後方プロペラをひとつずつ設けている。前方プロペラ22及び後方プロペラは、回転軸が同軸上になるように連ね、回転方向が同じ方向となるようにした2連のプロペラである。各プロペラは、それぞれ別駆動の回転駆動機構(図示せず)によって回転軸を中心に回転する。回転方向は両プロペラで共通しており、検体を流通方向へ流通させる。流通機構2は、これら流通室21、測定室1、前方プロペラ22、後方プロペラ(回転部材4)、及びそれぞれの回転駆動機構からなる。
【0041】
検体の流通及び移動方向は、図3の実線の直線矢印で示されるような、測定室1外へ抜ける鉛直下方と、図3の実線の曲線矢印で示されるような、正面断面視にて測定室1内で内側から外側へ還流して再び下方へ戻る渦状の方向と、図4の実線の曲線矢印で示されるような、平面断面視にて軸中心から左右いずれか一方向(図4では右方向)周りへ周りながら外周へ広がる回転放射状の方向とが重なってなる。
【0042】
(溶液吐出機構3)
溶液吐出機構3は、吐出管31、吐出ポンプ32、溶液循環機構7を具備してなり、吐出ポンプ32で汲み上げた溶液を、吐出管31から前記測定室1内へ吐出する。溶液吐出機構3は、溶液を回転部材4に飛着(接触)させて回転部材4を溶液で濡らした濡れ状態とする。
【0043】
溶液を効率よく均等に飛散させるべく、溶液吐出機構3による溶液の吐出面は、回転部材4の回転軸付近の面(液受け面42f)であることが好ましい。より具体的には、吐出管31の先端は、測定室1の流入口11付近であって回転部材4たる後方プロペラの回転軸上に位置することが好ましい。この位置から回転部材4方向に向いて縮径した吐出管31の先端が、回転部材4たる後方プロペラの液受け面42fの中心を向き、そこへ溶液を吐出する。
【0044】
溶液吐出機構3は、溶液を回転部材4に飛着(接触)させて回転部材4を溶液で濡らした濡れ状態とするものである。回転部材4は濡れ状態のままで回転する。濡れ状態とは、所定の溶液で回転部材4が濡らされた状態である。
【0045】
濡れ状態で回転部材4が回転するものであれば、流通する検体が濡れ状態の回転部材4と効率的に接触することとなり、また、測定室1内で溶液がより効率的に飛散するものとなる。これにより、より効率的な溶解を達成しうる。
【0046】
(検体、可溶成分、溶液)
本発明の可溶成分測定器の測定対象は、検体中の可溶成分である。検体は液体、気体、ゲル状体、固体等の任意の形態からなる。また、検体中の可溶成分は、前記検体中に溶解し、或いは微細粒として浮遊又は遊離しているものである。そして、溶液吐出機構3によって吐出される溶液は、検体中の可溶成分が溶解しうる所定の溶液である。
【0047】
例えば、本発明の可溶成分測定器が、塩害の発生を検知しうる塩害センサとしてなる場合、検体が大気であり、測定する可溶成分が大気中に浮遊する、ナトリウム化合物等の塩である。
【0048】
(回転部材4)
回転部材4は、前記測定室1内の流入口11近傍に設けられ、回転駆動機構によって、回転軸を中心に連続又は断続的に回転する。回転部材4は、濡れ状態で回転することが好ましい。ここで、吐出された溶液の移動方向は、図3及び図4の破線矢印で示される。これら破線矢印のように、回転部材4によって、測定室1内に吐出される溶液を測定室1内で四方に飛散させる。
【0049】
また、測定室1は、内側及び外側の側壁13と、下方の回収溝51と、上方の天板(流入口11周りの平面板)とで囲われ、半密閉構造としてなる。この半密閉構造によって、図3及び図4の実線で示す曲線矢印のように、測定室1内で流入口11から流出口12に向かう検体に、回転軸を中心とした回転(渦)流を生じさせる。
【0050】
回転部材4は、所定のプロペラ径4dのプロペラからなることが好ましい。前記プロペラ径4dは、少なくとも流入口11形状の代表径以上であることが好ましい。具体的には、回転軸と垂直な面(回転軸を法線する面、実施例1では平面)に対して、流入口11の形状を投影した流入口11投影形状を考慮したとき、この流入口11投影形状は、プロペラ径4dによって形成される円内に含まれる。
【0051】
実施例1においては、図3の直線矢印で示す検体の鉛直下方の流通方向に対して、前方(鉛直下方側)位置と後方(鉛直下方側)位置にそれぞれ、順に流通室21及び測定室1を連ねて設けており、各室内にそれぞれ前方プロペラ22及び後方プロペラをひとつずつ設けている(図2、図3)。このうち、測定室1内に設けた後方プロペラが、回転部材4である。
【0052】
回転部材4たる後方プロペラは、例えば図5の(a)(b)(c)それぞれに示す形態が挙げられる。実施例1では、液受け面42fを一端面とする円柱形の保持軸42と、保持軸42の周囲に複数枚(4枚)固定された、所定以上の3次方向面を有する弯曲したプロペラ羽根41とからなる。ここで3次方向面を有するとは、平面方向の投影面、側面方向の投影面、及び正面方向の投影面)を全て有する意味である。図5(a)では平面方向、側面方向、及び正面方向の3方向に弯曲したプロペラ羽根41によって、実質的な3次方向面を有するものとなっている。これに対して、図5(b)では平面方向の投影面は大きく確保されているものの、側面方向及び正面方向の投影面形状は高さの低い扁平三角形であり、やや小さな面積となっている。また、図5(c)では図5(b)と逆に、側面方向及び正面方向の投影面は大きく確保されているものの、平面方向の投影面は放射結晶状であり、やや小さなものとなっている。
【0053】
回転部材4は、図5(b)のような一枚の回転円盤に放射上の縦リブを複数設けた回転部材4でもよく、図5(c)のような、回転軸にその長辺が沿うようにして、回転軸を中心に等間隔に設けられた複数枚の平面板からなる回転部材4でもよいが、中でも図5(a)のような、3時方向面を有する3次弯曲したプロペラ羽根41であることが、検体の回転渦の発生と溶液の飛散を両立させるために最も好ましい。
【0054】
保持軸42は、図5(a)のような円柱であっても、図5(b)(c)のような多角柱であってもよい。そのいずれかの先端面は、溶液吐出された溶液を受ける液受け面42fである。保持軸42の液受け面42fは、図5の各図に示すように、凹面からなるすり鉢状であることが好ましい。これにより吐出した液を一旦保持しうると共に、中心に対して均等な傾斜面を有すものとすることで、溶液を平面視四方へ均等に飛散させることが出来る。
【0055】
保持軸42の液受け面42fは前記の他、溶液の周囲拡散を効率的にすべく、平面からなるもの、或いは中心を頂とする山形形状としても良い。
【0056】
(溶液回収機構5)
溶液回収機構5は、測定室1内の溶液を回収する。具体的には、所定の回収路をもって勾配した回収溝51と、回収溝51の下流位置に設けられた回収孔52と、間接配管により回収溶液を貯留する溶液貯留槽53とから構成される。
【0057】
(検知部6)
検知部6は、回収した溶液の可溶成分量に応じて反応する測定手段によって回収した溶液を検知部6で検知すると共に、測定した検体の流量を検知することで、測定室1内で飛散した溶液に溶解した可溶成分量を、測定室1を通過する検体量に対応した値として検知するものである。具体的には、可溶成分溶解後の回収溶液の電動度を測定する回収溶液電動度計61と、測定前の溶液の電動度を計測するオフセット計62とを有して、間接接続された溶液貯留槽53で可溶成分を検知する。また、回転部材4及び前方プロペラ22に回転数計63を設けて、測定室1内を流通した検体の流通量を計測する。
【0058】
検体を大気とする塩害センサとして用いる場合には、ナトリウムイオンへの反応電極を備えた電解槽の電気伝導度計によってしてナトリウム濃度を検出する。
【0059】
(溶液循環機構7)
溶液循環機構7は、図1に示すように、溶液再生部71と循環ポンプ72と循環管73とを具備してなり、溶液再生部71によって再生した回収溶液を再度溶液吐出機構3へ送出し、溶液を循環させる機構である。このうち溶液再生部71は、測定後の回収溶液から、溶解した可溶成分を抽出分離して再生溶液を、測定溶液として生成するものである。実施例1では、溶液貯留槽53に貯留した回収溶液を流量調節器で調節しながら回収槽に液送し、続けて回収溶液を循環ポンプ72及び循環管73を介して溶液再生部71に液送する。溶液再生部71は、ナトリウムイオン交換膜を具備して区切られる液槽からなり、ナトリウムイオン交換によって回収溶液中の溶解塩を分離して回収溶液を生成する。その後、回収溶液は循環管73を介して回収用液槽に送り込まれ、回収用液槽内に管接続される吐出ポンプ32によって、再び吐出管31に液送される。
【0060】
(加温機構8)
また本発明の可溶成分測定器は、溶液、測定室1、又は回転部材4の少なくともいずれか、これら複数、又は全部を加温する加温機構8を具備することが好ましい。これにより、可溶成分測定器の凍結を防止することが出来る。或いは、雨だけでなく、雪や雹中の溶液可溶成分を測定することができ、例えば塩分を含んだ雪が電線や屋外の配電設備へ積もることによって起こる、停電等の異常作動を予め検知することができる。或いは、流通室21内を加温機構8によって、流入口11外の検体温度よりも高い温度とすることで、温度差による検体の熱対流を発生させ、流通機構2の一部として効率的に検体を流通させることも可能である。
【0061】
加温機構8は具体的には、電熱線或いは電熱板を測定室1の側壁13に沿うように、或いは吐出管31を巻くように設けてもよく、また電熱部材等の発熱部材を測定室1内あるいは溶液の貯留槽内に設けてもよい。或いは、大気を検体とするとき、測定室1の側壁13を吸温部材からなるものとしてもよい。実施例1の加温機構8は、測定溶液として再生させた溶液を貯留する再生溶液槽内に設けられ、再生した溶液を加温する(図1)。
【実施例2】
【0062】
本発明の実施例2の可溶成分測定器について、図6及び図7にそれぞれ測定室1の斜視及び正面説明図を示す。
【0063】
実施例2の測定室1及び流通室21は、内部に仕切り板を設けた略直方体のケーシングによって構成される。実施例2の流入口11は、前記ケーシングの上面に設けられ、その解放口形状は、プロペラ径4dよりも僅かに大きい一辺の正方形である。実施例2の流出口12は、前記ケーシング内の仕切り板の中央に設けられ、その解放口形状は、プロペラ径4dよりも僅かに大きい径の円形である。
【0064】
仕切り板は、ケーシングの上下方向中央付近に設けられ、その上面は回収溝51の溝底を構成する。実施例2の回収溝51の溝幅は、回転軸を位相中心とした位相の拡大に従って、所定の割合で大きくなるものとしている。具体的には、図7の向って下方の仮想線上の溝幅が最小溝幅51w0であり、プロペラ回転部材4の保持軸42の中心を位相中心として、この最小溝幅51w0から反時計回りに位相が増加するに従って、一定割合で溝幅が増加するものとしている。図7の最大位相51θ1にて最大溝幅51w1となり、この最大溝幅51w1をまたぐようにして、仕切り板に回収孔52が設けられる。つまり、図7の最大溝幅51w1を示す仮想線(保持軸42の中心を通る仮想線)は、円形の回収孔52の円中心を通る。また、前記図7の最小溝幅51w0から時計回りの位相変化に従っても同様に、最大溝幅51w1の手前に至るまで、溝幅が増加するものとしている。また、仕切り板は曲面からなり、仕切り板の上面たる回収溝51の溝底には、最小溝幅51w0から最大溝幅51w1に向う位相に従って、一定割合の勾配が設けられている(図6)。
【0065】
このように、仕切り板の上面に関して、溝幅及び高さに位相変化を設けることで、位相中心から平面視周囲へ四散した溶液を効率的に回収するものとしている。例えば、四散した位相によって溶液の回収時刻が異なれば、連続的な測定を行う場合に測定値に影響を及ぼすこととなりうるが、位相変化を設けた本構成によって、四散した溶液の方向(位相)が異なっても、同時刻に四散した溶液を、タイムロスを抑えてほぼ同時刻に回収し、飛散する方向による溶解時刻と測定時刻の差を抑えるものとなる。
【0066】
また、実施例2の加温機構8は、測定室1の外の側壁13の一面に設けられ、測定室1内を加温する(図6、図7)。具体的には、ケーシング内の一側壁13内であって、最小溝幅51w0の部分を構成する測定室1側壁13の内壁面に、測定室1内部を加温する電熱ヒーターを設けている。測定室1内の回転機構により、測定室1内部を効率的に加温することが可能である。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0067】
(実験例)
塩害検出例として、検体を20〔℃〕の大気とし、可溶成分を塩としたときの電気伝導度(EC値)測定の実験例を示す。検体を流通させる流量は0.82〔m/min〕、溶液の吐出流量は0.20〔l/min〕である。実施例1の可溶成分測定器を用いた。流入口径11d、流出口12径は共に60〔mm〕、回転部材4として、プロペラ径4d70〔mm〕、プロペラ羽根41の高さ(検体の流通方向長さ、すなわち図1及び図3の縦方向長さ)15〔mm〕の4枚羽根プロペラを使用した。
【0068】
先ず実験1として、電気伝導度43000〔μS/cm〕の海水を、スポイトで1滴、流入口11から投下した場合の電気伝導度(EC値)の変化を測定した。測定前の溶液は電気伝導度173〔μ/cm〕の水道水を用いた。この173〔μ/cm〕はオフセット計62によって測定されるオフセット値である。実験1の結果、海水投下後、3.3秒後に、EC値は表示値214〔μ/cm〕の一次ピークを迎えた。すなわち、3.3秒後の測定値は41〔μ/cm〕であった。
【0069】
次に実験2として、電気伝導度43,000〔μS/cm〕の海水を、霧吹き器に入れ、流入口11の上空1〔m〕の位置から、海水を水平に霧吹きを行い、流通機構2によって測定室1内へ流通させた場合のEC値の変化を測定した。測定前の溶液は実験1と同じくEC173〔μ/cm〕の水道水を用いた。実験2の結果、霧吹き後、5.4秒後にEC値は表示値203〔μ/cm〕の一次ピークを迎えた。すなわち、5.4秒後の測定値は30〔μ/cm〕であった。
【0070】
以上の実験から、検体に塩分が含まれる測定しきい値として、30〔μ/cm〕程度、水道水の場合は表示値200〔μ/cm〕を設定することが好ましいと考えられる。また塩害の発生検知においては、電気伝導度(EC値)の時間微分値、積分値を採ることも考えられる。
【0071】
その他各部の具体的な構成は、上述した実施例1、実施例2、及び実験例に限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の可溶成分測定器は、塩害センサをはじめ、気体状の検体に含まれる各種成分を測定しうる測定器として用いられる。例えば、特定溶液に対して化学反応を起こす可溶成分や、浮遊する塵芥量の測定器として用いられうる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例1の可溶成分測定器の全体構成例を示す説明図である。
【図2】実施例1の可溶成分測定器の測定室1を示す斜視説明図である。
【図3】実施例1の可溶成分測定器の測定室1及び流通室21を示す正面説明図である。
【図4】実施例1の可溶成分測定器の測定室1を示す平面説明図である。
【図5】本発明の実施例1及び他の可溶成分測定器における、回転部材4の構成例を示す正面図及び平面図である。
【図6】本発明の実施例2の可溶成分測定器の測定室1を示す斜視説明図である。
【図7】実施例2の可溶成分測定器の測定室1を示す正面説明図である。
【符号の説明】
【0074】
1 測定室
11 流入口
11d 流入口径
12 流出口
13 側壁
2 流通機構
21 流通室
22 前方プロペラ
3 溶液吐出機構
31 吐出管
32 吐出ポンプ
4 回転部材
4d プロペラ径
41 プロペラ羽根
42 保持軸
42f 液受け面
5 溶液回収機構
51 回収溝
51w0 最小溝幅
51w1 最大溝幅
51θ1 最大位相
52 回収孔
53 溶液貯留槽
6 検知部
61 再生溶液電動度計
62 オフセット計
63 回転数計
7 溶液循環機構
71 溶液再生部
72 循環ポンプ
73 循環管
8 加温機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の可溶成分量を測定する可溶成分測定器であって、可溶成分が溶解しうる所定の溶液を、測定室内に飛散させる飛散手段と、前記飛散手段によって飛散させた溶液への、可溶成分の溶解量を検知する検知部とを具備してなることを特徴とする可溶成分測定器。
【請求項2】
検体中の可溶成分量を測定する可溶成分測定器であって、検体と接触する一または複数の回転部材を具備してなり、前記回転部材を、可溶成分が溶解しうる所定の溶液で濡らした濡れ状態とし、濡れ状態の回転部材を回転させることで、検体中の可溶成分を前記溶液へ溶解させ、この溶液への可溶成分の溶解量を検知することを特徴とする可溶成分測定器。
【請求項3】
検体が大気であり、測定する可溶成分が大気中の塩分であって、塩害の発生を検視しうる請求項1又は2記載の可溶成分測定器。
【請求項4】
気体からなる検体に含まれる可溶成分量を、溶液へ溶解させることによって測定する可溶成分測定器であって、少なくとも、側壁で周囲を囲われた測定室と、検体を測定室内へ流通させる流通機構と、溶液を前記測定室内へ吐出する溶液吐出機構と、前記測定室内で回転する回転部材と、測定室内の溶液を回収する溶液回収機構と、回収した溶液の可溶成分量に応じて反応する検知部とを具備し、流通機構によって測定室内を検体の流通状態とすると共に、溶液吐出機構によって溶液を前記流通状態の測定室内に吐出し、回転部材によって前記溶液を前記流通状態の測定室内で飛散させ、溶液回収機構によって前記飛散された溶液を回収し、検知部によって前記回収した溶液を検知することで、測定室内で溶液に溶解した可溶成分量を測定することを特徴とする請求項1、2又は3記載の可溶成分測定器。
【請求項5】
測定室が、大気に開放して検体をそれぞれ流入、流出させる流入口、及び流出口を具備し、回転部材の回転軸方向の両端がそれぞれ、前記流入口及び流出口に正対し、測定室内の回転部材が、測定室内で流入口から流出口に向かう検体に、回転軸を中心とした回転流を生じさせることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の可溶成分測定器。
【請求項6】
回転部材が所定のプロペラ径のプロペラからなり、流入口の解放部形状が、前記プロペラ径以下の代表長さである請求項1、2、3、4、又は5記載の可溶成分測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−212257(P2007−212257A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31727(P2006−31727)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(506045864)
【Fターム(参考)】