説明

可燃性ガス測定方法及び装置

【課題】検出部に半導体ガスセンサを使用するとともにキャリアガスに大気を使用して試料ガス中の可燃性ガス成分を正確に測定することが可能な可燃性ガス測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】キャリアガスに搬送される試料ガス中の可燃性ガス成分を、検出部に半導体ガスセンサを用いたガスクロマトグラフによって測定する方法において、大気吸引部21から大気を取り込んで触媒筒23での金属触媒との触媒反応により大気中の可燃性ガスを燃焼させた後、燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を精製器24で除去して精製大気とし、この精製大気をガスクロマトグラフのキャリアガスとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性ガス測定方法及び装置に関し、詳しくは、窒素、酸素、アルゴンなどの工業ガス中の微量な水素や炭化水素といった可燃性ガスを測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ガス中に微量に存在する不純物を測定するための装置として、ガスクロマトグラフが広く用いられており、検出部に特定の半導体ガスセンサを使用するとともに大気をキャリアガスとして使用し、試料ガス中の硫化ジメチル、メチルメルカプタン、硫化水素をはじめとして、一酸化炭素、水素、メタン、アンモニア、イソプレン、アセトアルデヒド、アセトン、エタノール等の様々な成分を測定することができる測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−75384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、大気をキャリアガスとして使用する場合、大気中に存在する成分、例えば、大気中に0.5ppm程度存在する水素については、試料ガス中の微量水素を正確に測定することは極めて困難である。また、大気中に存在する水分が半導体ガスセンサの出力に影響を及ぼすことがあり、例えば、図2は、水素濃度1ppmの窒素ガスを試料ガスとし、キャリアガスとして使用した大気の湿度を変化させたときの測定結果を示すもので、キャリアガス(大気)の相対湿度が約30%から約80%に上昇すると、半導体ガスセンサにおける水素の感度が低下することが分かる。したがって、キャリアガスと使用する大気の温度が同じであっても、湿度が異なると測定結果が異なってしまうことになる。
【0005】
さらに、大量の水分は、成分分離を行う分離カラムにおける分離性能を低下させるおそれがある。また、ボンベに充填したガスをキャリアガスとして用いる場合は、ボンベ交換の際に分析系内への大気の混入を避ける必要があり、大気が混入した場合には、大気成分をパージするために長時間を要し、大量のパージガスが必要で、エネルギーの消費量も多くなっていた。
【0006】
そこで本発明は、検出部に半導体ガスセンサを使用するとともにキャリアガスに大気を使用して試料ガス中の可燃性ガス成分を正確に測定することが可能な可燃性ガス測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の可燃性ガス測定方法は、キャリアガスに搬送される試料ガス中の可燃性ガス成分を、検出部に半導体ガスセンサを用いたガスクロマトグラフによって測定する方法において、大気を取り込んで金属触媒との触媒反応により前記大気中の可燃性ガスを燃焼させた後、前記燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を除去して精製大気とし、該精製大気を前記キャリアガスとして用いることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の可燃性ガス測定方法は、前記半導体ガスセンサが酸化錫を主成分とするセンサであること、前記燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素の除去は、吸着剤としてモレキュラーシーブスを充填した複数の吸着筒を使用し、該複数の吸着筒は、前記燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を前記モレキュラーシーブスに吸着させる吸着工程と、前記モレキュラーシーブスを加熱しつつ吸着筒内を排気してモレキュラーシーブスに吸着した成分をモレキュラーシーブスから放出させる再生工程とをあらかじめ設定された順序で繰り返すことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の可燃性ガス測定装置は、キャリアガスに搬送される試料ガス中の可燃性ガス成分を、検出部に半導体ガスセンサを用いたガスクロマトグラフによって測定する装置において、前記キャリアガスの供給部は、大気を取り込む大気吸引部と、該大気吸引部で取り込む大気中の固形分を除去するフィルタと、吸引した前記大気中の可燃性ガスを燃焼させる金属触媒を充填した触媒筒と、該触媒筒での燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を除去して大気を精製する精製器とを備えていることを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明の可燃性ガス測定装置は、前記半導体ガスセンサが酸化錫を主成分とするセンサであること、前記精製器は、吸着剤としてモレキュラーシーブスを充填した複数の吸着筒を備え、該複数の吸着筒は、前記燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を前記モレキュラーシーブスに吸着させる吸着工程と、前記モレキュラーシーブスを加熱しつつ吸着筒内を排気してモレキュラーシーブスに吸着した成分をモレキュラーシーブスから放出させる再生工程とをあらかじめ設定された順序で繰り返すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、大気中の可燃性ガスを燃焼させた後、燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を除去して精製した大気をキャリアガスとして使用するので、試料ガス中の測定対象となる可燃性ガス成分が大気中に存在する成分であっても問題なく正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の可燃性ガス測定方法を実施する際に最適な可燃性ガス測定装置の一形態例を示す概略図である。
【図2】大気中の水分の影響を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本形態例に示す可燃性ガス測定装置は、ガスクロマトグラフ本体部11と、該ガスクロマトグラフ本体部11にキャリアガスを供給するキャリアガス供給部12とを備えており、ガスクロマトグラフ本体部11は、キャリアガス中に試料ガスを導入する試料ガス導入部13と、ガス成分を分離するための分離カラム14と、ガス検知器として半導体ガスセンサを使用した検出部15とを備えている。また、ガスクロマトグラフ本体部11やキャリアガス供給部12の動作を制御するとともに、検出部15からの信号に基づいて演算処理を行う制御手段16が設けられている。
【0014】
前記キャリアガス供給部12は、大気Aを取り込む大気吸引部21と、該大気吸引部21で取り込む大気中の固形分を除去するフィルタ22と、吸引した前記大気中の可燃性ガスを触媒酸化反応によって酸素と反応させて燃焼させる金属触媒を充填した触媒筒23と、該触媒筒23での燃焼反応によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を除去して大気を精製する精製器24とを備えている。
【0015】
フィルタ22は、大気中に含まれる微粒子などを除去するためのもので、通常は、市販のメンブレンフィルターを使用することができる。大気吸引部21は、大気を吸引して下流側に送り出すポンプであって、一般的なダイヤフラム形式のポンプを用いることができる。吸引した大気を一定流量で下流側に供給する必要がある場合は、大気吸引部21に続いて流量調節器25を設けることができる。この流量調節器25には、大気吸引部21の吐出圧が一定であれば、一定のコンダクタンスを持つニードルバルブなどを利用することができ、さらに、ソレノイドやピエゾバルブを利用した電子式のマスフローコントローラーを用いることもできる。
【0016】
触媒筒23は、大気中の可燃性ガス、例えば水素や炭化水素を触媒酸化法によって酸素と反応させるプラチナ触媒やパラジウム触媒などの金属触媒が充填されており、金属触媒をあらかじめ設定された温度、例えば300〜350℃に加熱した状態で大気を流通させ、触媒反応によって水素を水に、炭化水素を二酸化炭素及び水にそれぞれ変換することにより、大気吸引部21で吸引した大気中に存在する水素や炭化水素といった可燃性ガス成分を除去する。通常、大気中にはメタンが約1.5ppm、水素が約0.5ppm含まれているが、触媒筒23を通すことにより、これらを1ppb未満まで除去することが可能である。
【0017】
精製器24は、前記触媒筒23での触媒反応によって生じた水や二酸化炭素と、大気吸引部21で吸引した大気に含まれていた水や二酸化炭素とを吸着剤に吸着させることによって除去するもので、水や二酸化炭素を吸着する機能を有する吸着剤、通常は合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)をそれぞれ充填した2台の吸着筒24a,24bが設けられている。2台の吸着筒24a,24bは、各吸着筒24a,24bの入口側にそれぞれ設けられた入口弁26a,26bと、各吸着筒24a,24bの出口側にそれぞれ設けられた出口弁27a,27bと、各吸着筒24a,24bにそれぞれ設けられた加熱器28a,28bと、排気弁29a,29bを介して設けられた真空ポンプ30とを備えており、入口弁26a,26b、出口弁27a,27b及び排気弁29a,29bをあらかじめ設定された順序で開閉するとともに、加熱器28a,28b及び真空ポンプ30をあらかじめ設定された段階で作動させることにより、水や二酸化炭素を吸着する吸着工程と、吸着した水や二酸化炭素を吸着剤から脱着して外部に放出する再生工程とに順番に切り替えられるように形成されている。
【0018】
例えば、一方の吸着筒24aが吸着工程を開始し、他方の吸着筒24bが再生工程を開始した段階では、吸着筒24aの入口弁26a及び出口弁27aが開き、排気弁29aが閉じ、加熱器28aが停止状態となっており、触媒筒23から導出されて図示しない冷却器で冷却された大気が吸着筒24a内を流れ、該大気中に含まれている水や二酸化炭素を吸着剤が吸着して大気を精製する操作が吸着工程中の吸着筒24aで行われる。
【0019】
再生工程中の吸着筒24bでは、入口弁26b及び出口弁27bが閉じ、排気弁29aが開いて吸着筒24b内のガスを外部に放出し、さらに、加熱器28bが作動して吸着剤を200〜350℃に加熱するとともに、真空ポンプ30が作動して吸着筒24b内を減圧することで吸着剤に吸着した水や二酸化炭素の脱着を促進し、吸着剤を再生する工程が行われる。
【0020】
あらかじめ設定された時間が経過して吸着筒24b内の吸着剤の再生が終了し、吸着筒24a内の吸着剤が破過する前に、加熱器28bが停止して吸着筒24b内の吸着剤の温度があらかじめ設定された温度に冷却された後、吸着筒24bの入口弁26b及び出口弁27bが開くことによって吸着筒24bが吸着工程に切り替わり、吸着筒24aの入口弁26a及び出口弁27aが閉じて排気弁29aが開くことによって吸着筒24aが再生工程に切り替わる。
【0021】
このようにして2台の吸着筒24a,24bを吸着工程と再生工程とに順次切り替えることにより、触媒筒23で生成した水や二酸化炭素及び大気に含まれていた水や二酸化炭素を吸着除去して大気を精製する操作が連続して行われる。
【0022】
フィルタ22を介して大気吸引部21に吸引され、触媒筒23及び精製器24を経て水や二酸化炭素の含有量が、測定に影響を与えない濃度、例えば1ppb未満まで精製された大気(精製大気)は、ガスクロマトグラフ本体部11に、キャリアガスとして供給される。ガスクロマトグラフ本体部11では、試料ガス導入部13を一定流量で流れる精製大気中に外部から試料ガスSが導入される。試料ガスの導入は、通常通り行うことができ、ガスタイトシリンジを利用して行ってもよく、ステンレス鋼製のガスバルブを利用して行うこともできる。
【0023】
分離カラム14は、キャリアガスである精製大気に搬送された試料ガス中の各ガス成分を分離可能な充填剤が充填されたカラムを用いる。充填剤は、試料ガスの種類や測定対象となるガス成分に応じて選択した充填剤が用いられ、通常、窒素、酸素、アルゴンなどの工業ガス中に不純物として含まれる水素や炭化水素を測定する際には、吸着型の充填剤が使用されている。吸着型の充填剤としては、合成ゼオライト、活性炭、酸化アルミナなどが好適であり、吸着型の充填剤では、試料ガス中の各ガス成分の分子径によって分離が行われ、工業ガスが試料ガスの場合、例えばアルゴン中の水素を測定する場合には、最初に水素、次いでアルゴンの順となり、酸素や窒素中のメタンを測定する場合には、最初に酸素、次いで窒素、最後にメタンの順となる。
【0024】
検出部15には、測定対象とするガス成分を検出可能なガスセンサならば任意のガスセンサを使用することができ、前述の特許文献1に記載された半導体ガスセンサを用いることができるが、特に、酸化錫を主成分とする安価な半導体ガスセンサを使用することにより、検出部15の初期コストの削減を図りながら、試料ガス中の可燃性ガス成分を正確に測定することができる。この検出部15では、分離カラム14から流出するガス成分の濃度に応じた信号を制御手段16に出力し、制御手段16から試料ガス中の可燃性ガス成分の濃度が得られる。
【0025】
このとき、水や二酸化炭素を除去した精製大気をキャリアガスとして用いているので、水分の影響で半導体ガスセンサからの信号が変動することはなく、試料ガス中の可燃性ガス成分の測定を安定した状態で、0.1ppm程度まで正確に測定することができる。また、キャリアガスとして大気を使用しているので、ボンベに充填されたヘリウムや水素をキャリアガスとして使用する場合に比べてキャリアガスに要するコストを大幅に削減することができる。したがって、試料ガス中の可燃性ガス成分の測定を行う際のランニングコストの削減や分析効率の向上を図ることができる。
【0026】
なお、触媒筒23や精製器24では、大気中に存在する各種不純物も同時に除去することが可能であり、例えば、硫黄酸化物なども除去することができる。触媒筒23における金属触媒の種類や操作条件は適宜設定することができ、精製器24における吸着筒は一つでもよく、吸着剤の再生工程も任意の方法を採用することができ、例えば、脱着成分を筒外に排出するためのパージガスを使用することもできる。
【符号の説明】
【0027】
11…ガスクロマトグラフ本体部、12…キャリアガス供給部、13…試料ガス導入部、14…分離カラム、15…検出部、16…制御手段、21…大気吸引部、22…フィルタ、23…触媒筒、24…精製器、24a,24b…吸着筒、25…流量調節器、26a,26b…入口弁、27a,27b…出口弁、28a,28b…加熱器、29a,29b…排気弁、30…真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスに搬送される試料ガス中の可燃性ガス成分を、検出部に半導体ガスセンサを用いたガスクロマトグラフによって測定する方法において、大気を取り込んで金属触媒との触媒反応により前記大気中の可燃性ガスを燃焼させた後、前記燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を除去して精製大気とし、該精製大気を前記キャリアガスとして用いる可燃性ガス測定方法。
【請求項2】
前記半導体ガスセンサは、酸化錫を主成分とするセンサである請求項1記載の可燃性ガス測定方法。
【請求項3】
前記燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素の除去は、吸着剤としてモレキュラーシーブスを充填した複数の吸着筒を使用し、該複数の吸着筒は、前記燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を前記モレキュラーシーブスに吸着させる吸着工程と、前記モレキュラーシーブスを加熱しつつ吸着筒内を排気してモレキュラーシーブスに吸着した成分をモレキュラーシーブスから放出させる再生工程とをあらかじめ設定された順序で繰り返す請求項1又は2記載の可燃性ガス測定方法。
【請求項4】
キャリアガスに搬送される試料ガス中の可燃性ガス成分を、検出部に半導体ガスセンサを用いたガスクロマトグラフによって測定する装置において、前記キャリアガスの供給部は、大気を取り込む大気吸引部と、該大気吸引部で取り込む大気中の固形分を除去するフィルタと、吸引した前記大気中の可燃性ガスを燃焼させる金属触媒を充填した触媒筒と、該触媒筒での燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を除去して大気を精製する精製器とを備えている可燃性ガス測定装置。
【請求項5】
前記半導体ガスセンサは、酸化錫を主成分とするセンサである請求項4記載の可燃性ガス測定装置。
【請求項6】
前記精製器は、吸着剤としてモレキュラーシーブスを充填した複数の吸着筒を備え、該複数の吸着筒は、前記燃焼によって生じた成分及び大気中に含まれる水分及び二酸化炭素を前記モレキュラーシーブスに吸着させる吸着工程と、前記モレキュラーシーブスを加熱しつつ吸着筒内を排気してモレキュラーシーブスに吸着した成分をモレキュラーシーブスから放出させる再生工程とをあらかじめ設定された順序で繰り返す請求項4又は5記載の可燃性ガス測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−7636(P2013−7636A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140075(P2011−140075)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】