説明

可燃性ガス用ガスホルダー

【課題】上室内に空気を導入した後に、ピストン周辺を速やかに不活性ガスで満たすことが可能な可燃性ガス用ガスホルダーを提供する。
【解決手段】ピストン3で区画された下室に可燃性ガスを収容し、ピストン3と側壁との間にシール構造4を有する場合に、屋根部1からピストン3の中央部にホース6を垂下し、そのホース6に不活性ガス又は空気を切替えて供給可能とし、酸素濃度計16で検出された上室内の酸素濃度に応じてホース6から吹込む不活性ガス又は空気の吹込み量制御を行う。また、ホース6の垂下先端部をピストン3の上面中央部に連結し、ホースリール5によるホース6の引張力が一定になるように当該ホースリール5による巻取り状態を制御してホース6の先端をピストン3と同期して上下動させることにより、ホース6がピストン3の上面に搭載することがなく、ピストン3が傾斜するのを回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性ガスを貯留する可燃ガス用ガスホルダーに関し、特に上下動可能なピストンで内部を区画し、ピストン下方の下室に可燃ガスを収容するガスホルダーに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
MAN型、COS型、Clonne型、Wiggins型のような乾式ガスホルダーでは、上下動可能なピストンで内部を区画し、ピストン下方の下室にガスを収容する。この種の乾式ガスホルダーでは、ピストンと側壁との間にシール構造が設けられており、構造上は下室も上室も気密になっている。しかしながら、経年劣化などによりシール構造が損耗し、下室と上室とが連通状態となると、例えば下室に可燃性ガスを収容した場合に上室内の支燃性ガス、例えば空気中の酸素を得て可燃性ガスが引火する恐れがある。そこで、下記特許文献1には、ピストンで区画された上室内を不活性ガスでパージすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−178888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種のガスホルダーでは、ピストンで区画された上室内に作業のために人が入ることがあり、そのような場合には上室内に空気を導入し、作業後に再び上室内を不活性ガスでパージする必要があるが、前記特許文献1では単に上室の上部に設けられた供給配管から不活性ガスを吹込むだけであるため、上室と下室を区画するピストン周辺を速やかに不活性ガスで満たすことができない。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、上室内に空気を導入した後に、ピストン周辺を速やかに不活性ガスで満たすことが可能な可燃性ガス用ガスホルダーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の可燃性ガス用ガスホルダーは、上下動可能なピストンで内部を区画し、ピストンで区画された下室に可燃性ガスを収容し、ピストンと側壁との間にシール構造を有する可燃性ガス用ガスホルダーにおいて、屋根部から前記ピストンの中央部に垂下され且つ不活性ガス又は空気を前記ピストンの上方に吹込むホースと、前記ピストンで区画された上室内の酸素濃度を検出する酸素濃度計と、前記ホースに不活性ガス又は空気を切替えて供給する不活性ガス又は空気切替え供給手段と、前記酸素濃度計で検出された上室内の酸素濃度に応じて前記ホースから吹込む不活性ガス又は空気の吹込み量制御を行う制御装置とを備えたことを特徴とするものである。
【0007】
なお、本発明の不活性ガスとは、可燃性ガスを引火させないためのガスであり、従って支燃性ガス、即ち酸素を含まないガスを示す。
また、前記ホースの垂下先端部をピストンの上面中央部に連結すると共に、前記ホースを巻取るホースリールを前記屋根部に備え、前記制御装置は、前記ホースリールによるホースの引張力が一定になるように当該ホースリールによる巻取り状態を制御してホースの先端をピストンと同期して上下動させることを特徴とするものである。
【0008】
また、前記酸素濃度計を上室内に複数備え、前記制御装置は、上室内を不活性ガスでパージする不活性モードでは前記複数の酸素濃度計で検出された酸素濃度の平均値が予め設定された第1所定値以下となるように不活性ガスの吹込み量を制御し、上室内を空気でパージする空気モードでは前記複数の酸素濃度計で検出された全ての酸素濃度が予め設定された第2所定値以上となるように空気の吹込み量を制御することを特徴とするものである。
また、前記不活性ガス又は空気切替え供給手段は、停電時、ホースに不活性ガスを供給することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
而して、本発明の可燃ガス用ガスホルダーによれば、上下動可能なピストンで内部を区画し、ピストンで区画された下室に可燃性ガスを収容し、ピストンと側壁との間にシール構造を有する場合に、屋根部からピストンの中央部にホースを垂下し、そのホースに不活性ガス又は空気を切替えて供給可能とし、酸素濃度計で検出された上室内の酸素濃度に応じてホースから吹込む不活性ガス又は空気の吹込み量制御を行う構成としたため、上室内に空気を導入した後に、ピストン周辺を速やかに不活性ガスで満たすことができる。
【0010】
また、ホースの垂下先端部をピストンの上面中央部に連結すると共に、ホースを巻取るホースリールを屋根部に備え、ホースリールによるホースの引張力が一定になるように当該ホースリールによる巻取り状態を制御してホースの先端をピストンと同期して上下動させる構成としたため、ホースがピストンの上面に搭載することがなく、ピストンが傾斜するのを回避することができる。
【0011】
また、酸素濃度計を上室内に複数備え、上室内を不活性ガスでパージする不活性モードでは複数の酸素濃度計で検出された酸素濃度の平均値が予め設定された第1所定値以下となるように不活性ガスの吹込み量を制御し、上室内を空気でパージする空気モードでは複数の酸素濃度計で検出された全ての酸素濃度が予め設定された第2所定値以上となるように空気の吹込み量を制御する構成としたため、不活性モードでは上室内の酸素濃度を小さくして可燃性ガスの引火を防止し、空気モードでは上室内の酸素濃度を大きくして作業環境を確保することができる。
また、停電時、ホースに不活性ガスを供給する構成としたため、停電時の可燃性ガスの引火を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の可燃性ガス用ガスホルダーの一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1のホースの詳細図である
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の可燃性ガス用ガスホルダーの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の可燃性ガス用ガスホルダーの概略構成図である。本実施形態の可燃性ガス用ガスホルダーは、例えばMAN型などの乾式ガスホルダーであり、屋根部1を有するドーム型の本体2の内部に、同じくドーム型のピストン3を内装して構成される。ピストン3は本体2内で上下動可能であり、ピストン3で区画された下室にガス、この場合は可燃性ガスを収容する。ピストン3と本体2の側壁との間には上室と下室を気密に区画するためのシール構造4が介装されている。このシール構造4は、例えばシール板材をバネで本体2の側壁に押し付け、シール板材の上側に油脂を搭載して構成される。なお、ピストン3は下室内に収容されるガスの圧力で上下動する。また、製鉄所の可燃性ガスとしては、例えば高炉ガス、コークス炉ガス、合金精錬炉ガス、転炉ガス、廃棄物乾留ガス、ミックスガス、都市ガスなどが挙げられる。
【0014】
本体2の屋根部1の中央部にはホースリール5が配設され、そのホースリール5に巻取られているホース6の一方の端部がピストン3の上面中央部に垂下されている。ホース6の他端はホースリール5に接続されており、ホースリール5には不活性ガス又は空気切替え供給手段から不活性ガス又は空気が切替え供給される。つまり、ホース6からはガスホルダーの上室のピストン上面中央部に向けて不活性ガス又は空気が吹込まれる。
【0015】
不活性ガス又は空気切替え供給手段は、ブロワー7、ブロワー7の排気側に設けられた流量調整弁8、ブロワー7の吸気側に設けられた開閉弁9、ブロワー7の吸気側に接続された空気供給管を開閉する空気開閉弁10、ブロワー7の吸気側に接続された不活性ガス供給管を開閉する不活性ガス開閉弁11などを備えて構成される。なお、本実施形態の不活性ガスは支燃性ガス、即ち酸素を含んでいないことが必要であり、例えば製鉄所であればOを抽出した後の空気、即ちNを使用しやすく、一般的な工場であれば、Oを使い切った後の燃焼排ガスなどを使用しやすい。従って、本実施形態の不活性ガスは支燃性ガス、即ち酸素を含まないガスと定義する。
【0016】
空気開閉弁10は常時閉のソレノイドバルブなどで構成され、不活性ガス開閉弁11は常時開のソレノイドバルブなどで構成され、流量調整弁8は常時開のソレノイドバルブなどで構成され、夫々、制御装置12によって開閉制御される。開閉弁9には手動バルブを用いた。従って、開閉弁9が開状態にあるときに停電すると不活性ガスがホース6に供給される。また、作業のために本体2の上室に人が入るときには、後述するように上室内を空気で満たした後、開閉弁9を閉じておく。
【0017】
図2に示すように、ホース6の垂下先端部にはキャップ接続金物13が取付けられ、このキャップ接続金物13でホース6の垂下先端部がピストン3の上面中央部に連結されている。キャップ接続金物13には、ホース6の垂下先端部に連通する複数の吹出し穴が形成され、この吹出し穴からホース6の内部のガスがピストン3の上面中央部に吹出される。従って、例えば作業のために人が上室内に入る場合には、当該上室内を空気で満たす必要があり、作業後は上室内を不活性ガスでパージして下室の可燃性ガスが引火しないようにするが、その際、ホース6の垂下下端部から吹込まれる不活性ガスはピストン3の周辺をいち早く満たす。また、このキャップ接続金物13には、ホースリール5によるホース6の引張力を制御するためにロードセルなどの荷重センサ16が取付けられている。
【0018】
ホースリール5はモータ14で駆動される。従って、荷重センサ16で検出される荷重が一定になるように制御装置12がモータ14の駆動状態を制御すれば、ホースリール5によるホース6の引張力を一定にすることができる。ホースリール5によるホース6の引張力が一定であれば、ホース6は弛むことなく、ピストン3とホースリール5の間で一定の張力で張られることになり、ピストン3が上下するのに同期してホース6の垂下下端部を上下に移動させることができる。
【0019】
ピストン3は周方向のバランスが重要である。ピストン3の周方向のバランスがとれていないと、ピストン3が傾斜し、上室と下室の気密分離が崩れる。そのために、例えばピストン3の周縁部にコンクリート製の錘を複数取付けてバランス取りする。一方、ホース6が弛んでピストン3の上面に載るようなことがあると、ピストン3の周方向のバランスが崩れる恐れがある。本実施形態では、ピストン3とホースリール5の間で一定の張力でホース6を張り、ピストン3に同期してホース6の垂下先端部を上下動させることで、ホース6が弛んでピストン3の上面に載るのを回避することができる。
【0020】
また、上室内には複数の酸素濃度センサ15が設けられている。具体的には、屋根部1の天井側やピストン3の上面などに酸素濃度センサ15が配設されており、それらの酸素濃度センサ15で検出された上室内の酸素濃度は制御装置12に出力される。なお、ピストン3の上面に複数の酸素濃度センサ15を配設する場合には、それらによってピストン3の周方向のバランスが崩れないように留意する。
【0021】
制御装置12は、ホース6に吹込む不活性ガス又は空気の切替え制御を行うと共に、複数の酸素濃度センサ15で検出された上室内の酸素濃度に応じてホース6から上室内に吹込まれる不活性ガス又は空気の吹込み量制御を行う。下室内に可燃性ガスを収容し、上室内に人が入らない通常時は不活性ガスモードであり、空気開閉弁10を閉、不活性ガス開閉弁11を開として不活性ガスをブロワー7に接続する。この不活性ガスモードでは、複数の酸素濃度計15で検出された酸素濃度の平均値が、例えば0.1%程度に予め設定された第1所定値以下となるように流量調整弁8の開度を調整して不活性ガスの吹込み量を制御する。上室内が不活性ガスでパージされれば、下室内の可燃性ガスが引火することはない。なお、開閉弁9は開状態とする。
【0022】
一方、上室内に人が入る作業時は空気モードであり、空気開閉弁10を開、不活性ガス開閉弁11を閉として空気をブロワー7に接続する。この不活性ガスモードでは、複数の酸素濃度計15で検出された全ての酸素濃度が、例えば20%程度に予め設定された第2所定値(空気中の酸素濃度は約21%)以上となるように流量調整弁8の開度を調整して空気の吹込み量を制御する。なお、酸素濃度が第2所定値以上となったら、上室内に人が入り、その際、開閉弁9は閉状態とする。
【0023】
作業が終了したら、開閉弁9を開状態とし、再び、不活性ガスモードとする。その際、不活性ガスはホース6の垂下下端部からピストン3の上面中央部に吹込まれるので、ピストン3の周辺がいち早く不活性ガスで満たされる。
このように本実施形態の可燃性ガス用ガスホルダーでは、上下動可能なピストン3で内部を区画し、ピストン3で区画された下室に可燃性ガスを収容し、ピストン3と側壁との間にシール構造4を有する場合に、屋根部1からピストン3の中央部にホース6を垂下し、そのホース6に不活性ガス又は空気を切替えて供給可能とし、酸素濃度計16で検出された上室内の酸素濃度に応じてホース6から吹込む不活性ガス又は空気の吹込み量制御を行うことにより、上室内に空気を導入した後に、ピストン3の周辺を速やかに不活性ガスで満たすことができる。
【0024】
また、ホース6の垂下先端部をピストン3の上面中央部に連結すると共に、ホース6を巻取るホースリール5を屋根部1に備え、ホースリール5によるホース6の引張力が一定になるように当該ホースリール5による巻取り状態を制御してホース6の先端をピストン3と同期して上下動させることにより、ホース6がピストン3の上面に搭載することがなく、ピストン3が傾斜するのを回避することができる。
【0025】
また、酸素濃度計15を上室内に複数備え、上室内を不活性ガスでパージする不活性モードでは複数の酸素濃度計15で検出された酸素濃度の平均値が予め設定された第1所定値以下となるように不活性ガスの吹込み量を制御し、上室内を空気でパージする空気モードでは複数の酸素濃度計15で検出された全ての酸素濃度が予め設定された第2所定値以上となるように空気の吹込み量を制御することにより、不活性モードでは上室内の酸素濃度を小さくして可燃性ガスの引火を防止し、空気モードでは上室内の酸素濃度を大きくして作業環境を確保することができる。
また、停電時、ホースに不活性ガスを供給する構成としたため、停電時の可燃性ガスの引火を防止することができる。
【符号の説明】
【0026】
1は屋根部
2は本体
3はピストン
4はシール構造
5はホースリール
6はホース
7はブロワー
8は流量調整弁
9は開閉弁
10は空気開閉弁
11は不活性ガス開閉弁
12は制御装置
13はキャップ接続金物
14はモータ
15は酸素濃度センサ
16は荷重センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下動可能なピストンで内部を区画し、ピストンで区画された下室に可燃性ガスを収容し、ピストンと側壁との間にシール構造を有する可燃性ガス用ガスホルダーにおいて、屋根部から前記ピストンの中央部に垂下され且つ不活性ガス又は空気を前記ピストンの上方に吹込むホースと、前記ピストンで区画された上室内の酸素濃度を検出する酸素濃度計と、前記ホースに不活性ガス又は空気を切替えて供給する不活性ガス又は空気切替え供給手段と、前記酸素濃度計で検出された上室内の酸素濃度に応じて前記ホースから吹込む不活性ガス又は空気の吹込み量制御を行う制御装置とを備えたことを特徴とする可燃性ガス用ガスホルダー。
【請求項2】
前記ホースの垂下先端部をピストンの上面中央部に連結すると共に、前記ホースを巻き取るホースリールを前記屋根部に備え、前記制御装置は、前記ホースリールによるホースの引張力が一定になるように当該ホースリールによる巻取り状態を制御してホースの先端をピストンと同期して上下動させることを特徴とする請求項1に記載の可燃性ガス用ガスホルダー。
【請求項3】
前記酸素濃度計を上室内に複数備え、前記制御装置は、上室内を不活性ガスでパージする不活性モードでは前記複数の酸素濃度計で検出された酸素濃度の平均値が予め設定された第1所定値以下となるように不活性ガスの吹込み量を制御し、上室内を空気でパージする空気モードでは前記複数の酸素濃度計で検出された全ての酸素濃度が予め設定された第2所定値以上となるように空気の吹込み量を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の可燃性ガス用ガスホルダー。
【請求項4】
前記不活性ガス又は空気切替え供給手段は、停電時、ホースに不活性ガスを供給することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の可燃性ガス用ガスホルダー。

【図1】
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【図2】
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