説明

可燃性溶剤用フィルタ

【目的】 可燃性有機溶剤の濾過処理に使用可能なフィルタ、特にカートリッジフィルタを提供する。
【構成】 カートリッジフィルタは、(1)導電性領域を含む多孔性コアと、(2)そのコアの外側に設けられ、導電性領域を含む濾材層と、(3)前記の多孔性コア及び濾材層のそれぞれの導電性領域が帯電電位を逃がす手段と電気的に連絡することができる手段とを有する。
【効果】 濾液が濾材を通過する際に生じる接触帯電を防止するので、火花放電が発生せず、可燃性有機溶剤の濾過を安全に実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、導電性領域を含む濾材層からなるフィルタ、特にカートリッジフィルタに関する。本発明のフィルタは、可燃性溶剤の濾過に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】液体用濾過装置に装着するカートリッジフィルタとしては、従来から、ポリプロピレン等の多孔性コアに、濾材としてポリプロピレンなどの合成繊維からなる不織布を連続的に巻回積層して形成したものが使用されてきた。しかし、この種のカートリッジフィルタは、水性液体中の不純物の分離や除去には優れていたが、ガソリンなどの可燃性有機溶剤中の粒子(例えば、塵埃、不純物)を濾過しようとすると、有機溶剤と濾材との摩擦によりカートリッジフィルタ及び有機溶剤が帯電し、火花放電により有機溶剤が引火する危険性があった。また、このことは、カートリッジフィルタに特有のものではなく、可燃性有機溶剤の濾過に用いられる濾材一般についても同様の危険性があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、有機溶剤などの可燃性液体中の不純物の濾過に、安全に使用することができるフィルタ、特にカートリッジフィルタを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】前記の目的は、本発明による、導電性領域を含む濾材層からなり、この導電性領域が帯電電位を逃がす手段と電気的に連絡することができる手段を有することを特徴とする、フィルタによって達成することができる。更に、本発明による、(1)導電性領域を含む多孔性コアと、(2)そのコアの外側に設けられ、導電性領域を含む濾材層と、(3)前記の多孔性コア及び濾材層のそれぞれの導電性領域が帯電電位を逃がす手段と電気的に連絡することができる手段とを有することを特徴とする、カートリッジフィルタによっても達成することができる。
【0005】まず、本発明のカートリッジフィルタについて詳細に説明する。本発明によるカートリッジフィルタは、従来の液体処理用カートリッジフィルタと同様に、多孔性コアと、そのコアの外側に設けられた濾材層とを有している。従来のカートリッジフィルタとの差異は、本発明によるカートリッジフィルタでは、(a)前記の多孔性コアと濾材層とが共に導電性領域を含有していること、及び(b)前記の導電性領域が、帯電電位を逃がす手段と電気的に連絡することができる手段を有することである。
【0006】導電性領域を含む多孔性コア(以下、単に『導電性多孔性コア』又は『導電性コア』と称することがある)は、全体が導電性材料からなるか、又は一部に導電性材料を含んで形成することができる。導電性材料は特に限定されず、例えば、金属材料、炭素材料、又は導電性プラスチック材料を用いることができる。本発明のカートリッジフィルタは、主に可燃性有機溶剤の濾過に使用するので、多孔性コアには、特に導電性と耐有機溶剤性を有する材料、例えば、ステンレススチールを用いるのが好ましい。導電性材料を一部に含む多孔性コアとしては、ポリプロピレン、ポリエステルなどの樹脂からなる多孔性コアを、金属メッキ、金属蒸着、若しくはスパッタリングなどにより金属層で被覆したものや、電子共役系導電性ポリマーで被覆したもの、あるいは導電性カーボン、ニッケル、銀などの導電性粉粒体を混合した樹脂から成形されたものも使用することができる。更に、導電性材料を一部に含む多孔性コアとしては、例えば、上記金属層や導電性ポリマー層を樹脂からなる多孔性コアの表面に部分的に付着させたものなどがある。なお、多孔性コアに樹脂を使用する場合には、処理する有機溶剤の種類に応じて、その有機溶剤に溶解しない耐性を持つ樹脂を選択する必要がある。導電性多孔性コアのその他の性質は従来のコアと同じであり、例えば、形状は、従来のコアと同じ形状(例えば、円筒状)であることができ、孔の形状なども従来のコアと同じである。
【0007】本発明によるカートリッジフィルタでは、前記の多孔性コアを中心として、従来のカートリッジフィルタと同様に、その外側面全体を覆う濾材層を設ける。濾材層は、従来のカートリッジフィルタと同様に、積層濾材層であることが好ましく、粗密構造を有する積層濾材層であることがより好ましい。また、濾材も、従来と同様に、不織布からなるのが好ましい。本発明のカートリッジフィルタにおいて、導電性領域を含む濾材層(以下、単に『導電性濾材層』と称することがある)は、全体が導電性材料からなるか、又は一部に導電性材料を含んで形成することができる。全体が導電性材料からなる濾材層は、導電性不織布から構成されるのが好ましい。導電性不織布は、通常の合成繊維(例えば、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維)などからなる不織布を、例えば、金属メッキ、金属蒸着又はスパッタリング処理することにより得ることができる。また、不織布を電子共役系導電性ポリマー(例えば、ポリアセチレン、ポリピロール)で加工することによっても、導電性不織布を得ることができる。
【0008】一部に導電性材料を含んでなる導電性濾材層は、例えば、前記の導電性不織布層と、通常の合成繊維などからなる非導電性不織布層との積層体であることができる。この積層体は、コアと導電性層との間に非導電性層を介在させたもの;同心円状にコアに巻回積層した2又はそれ以上の導電性層間に、1又はそれ以上の非導電性層を介在させたもの;導電性シート1枚又はそれ以上と非導電性シート1枚又はそれ以上とからなる複合シートを渦巻き状にコアに巻回積層したものでもよい。また、一部に導電性材料を含んでなる導電性濾材層は、例えば、導電性ネット(例えば、金属製ネット)の中に非導電性不織布層を介在させた構造でもよい。特に、微細な粒子の捕集が要求される場合には、非導電性不織布層に微細な繊維構造をもつものを使用するとよい。導電性濾材層が、一部に導電性材料を含んでなるものである場合には、濾材の導電性領域が導電性多孔性コアの導電性領域と接触していることが好ましく、また、濾材の導電性領域は非導電性領域よりも広いことが好ましく、更には、濾材層の最外側層が導電性層であることが好ましい。
【0009】本発明のカートリッジフィルタは、その中に含まれる導電性領域を、すべて、帯電電位を逃がす手段(例えば、地面などに連絡するアース線など)と電気的に連絡することができる手段(以下、単に電気的連絡手段と称することがある)を有する。その電気的連絡手段の代表例は、アース線接合端子であるが、このアース線接合端子を本発明のカートリッジフィルタに設けても、あるいは、本発明のカートリッジフィルタを装着する濾過装置に設けてもよい。アース線接合端子などの電気的連絡手段を本発明のカートリッジフィルタに設ける場合に、その端子の数は特に限定されず、個々の導電性領域のそれぞれに対応する端子を設けてもよいが、個々の導電性領域を適当な手段(例えば、導線)によって電気的に連絡させ、端子を1つにするのが好ましい。その端子は任意の位置(例えば、コアの端部や最外側導電性濾材層)に設けることができる。本発明のカートリッジフィルタ全体が導電性材料からなる場合には、カートリッジフィルタの任意の位置に端子を設ければよい。
【0010】また、本発明のカートリッジフィルタに、すべての導電性領域と電気的に連絡した露出導電性領域を設け、本発明のカートリッジフィルタを濾過装置の所定位置に装着した場合に、前記の露出導電性領域が電気的に接触することのできる部位に、アース線接合端子を設けてもよい。本発明のカートリッジフィルタ全体が導電性材料からなる場合には、カートリッジフィルタの任意の部分に接触することのできる部位に、アース線接合端子を設ければよい。
【0011】次に、本発明のフィルタについて詳細に説明する。本発明によるフィルタは、導電性領域を含む濾材層からなり、この導電性領域が帯電電位を逃す手段と電気的に連絡することができる手段を有している。本発明のフィルタにおいて、導電性領域を含む濾材層(以下、単に『導電性濾材層』と称することがある)は、先に説明したカートリッジフィルタの導電性濾材層に用いることのできる材料と同じものから形成することができる。つまり、導電性領域を含む濾材層は、全体が導電性材料からなるか、又は一部に導電性材料を含んで形成することができる。全体が導電性材料からなる濾材層は、導電性不織布から構成されるのが好ましい。導電性不織布は、通常の合成繊維(例えば、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維)などからなる不織布を、例えば、金属メッキ、金属蒸着又はスパッタリング処理することにより得ることができる。また、不織布を電子共役系導電性ポリマー(例えば、ポリアセチレン、ポリピロール)で加工することによっても、導電性不織布を得ることができる。一部に導電性材料を含んでなる導電性濾材層は、例えば、前記の導電性不織布層と、通常の合成繊維などからなる非導電性不織布層との積層体であることができる。この場合には、濾材の導電性領域は非導電性領域よりも広いことが好ましく、また、濾材層の最外側層が導電性層であることが好ましい。
【0012】本発明のフィルタにおいて、導電性濾材層の形状又は積層数は特に限定されず、本発明のフィルタの用いられる目的、用途に応じて適時選択することができる。
【0013】本発明のフィルタは、その中に含まれる導電性領域を、すべて、帯電電位を逃がす手段(例えば、地面などに連絡するアース線など)と電気的に連絡することができる手段(以下、単に電気的連絡手段と称することがある)を有する。その電気的連絡手段の代表例は、アース線接合端子であるが、このアース線接合端子を本発明のフィルタに設けても、あるいは、本発明のフィルタを装着する濾過装置に設けてもよい。アース線接合端子などの電気的連絡手段を本発明のフィルタに設ける場合に、その端子の数は特に限定されず、個々の導電性領域のそれぞれに対応する端子を設けてもよいが、個々の導電性領域を適当な手段(例えば、導線)によって電気的に連絡させ、端子を1つにするのが好ましい。その端子は任意の位置(例えば、最外側導電性濾材層)に設けることができる。本発明のフィルタ全体が導電性材料からなる場合には、フィルタの任意の位置に端子を設ければよい。
【0014】また、本発明のフィルタに、すべての導電性領域と電気的に連絡した露出導電性領域を設け、本発明のフィルタを濾過装置の所定位置に装着した場合に、前記の露出導電性領域が電気的に接触することのできる部位に、アース線接合端子を設けてもよい。本発明のフィルタ全体が導電性材料からなる場合には、フィルタの任意の部分に接触することのできる部位に、アース線接合端子を設ければよい。
【0015】
【作用】本発明のカートリッジフィルタにおいては、多孔性コアと濾材層とに導電性領域があり、しかも、それらすべての導電性領域が帯電電位を逃がす手段と電気的に連絡することができる手段を有している。従って、本発明のカートリッジフィルタを濾過装置内に装着して濾過処理に使用した場合に、処理液と濾材層との接触によって静電気が発生しても、それらの静電気は導電性領域から、帯電電位を逃がす手段を通過して、外部に除去されるので、カートリッジフィルタ内及び処理液には静電気が実質的に帯電しない。従って、静電気放電も発生しないので、可燃性液体を処理しても引火する危険がない。また、本発明のフィルタにおいても、濾材層に導電性領域があり、そのすべての導電性領域が帯電電位を逃がす手段と電気的に連絡することができる手段を有しているので、本発明のカートリッジフィルタと同様の作用に基づき、静電気が実質的に帯電しない。
【0016】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1スパンボンド法により、目付30g/m2 及び厚み0.15mmのポリエステル製スパンボンド不織布(以下、ポリエステル不織布と称する)を得た。このポリエステル不織布に無電解メッキ法により、不織布に対するニッケルメッキ量が3g/m2 になるように、ニッケルメッキ加工を施し、目付33g/m2 及び厚み0.16mmの導電性不織布(以下、導電性不織布と称する)を得た。得られた導電性不織布をステンレススチール製多孔性コア(外径3cm)に巻回して、内径3cm、外径6.4cm、長さ25cmのカートリッジフィルタを作製した。
【0017】実施例2メルトブロー法により、表1に濾材番号1〜7で示す、平均孔径の異なる目付80g/m2 の7種類のポリプロピレン製メルトブロー不織布(以下、非導電性濾材と称する)を作製した。本実施例2では、図1に示すように、前記実施例1で作製した導電性不織布11上に、前記の7種類の非導電性濾材1〜7を順に置き、この状態で導電性不織布11をステンレススチール製多孔性コア12にA方向から巻回して、内径3cm、外径6.4cm、長さ25cmのカートリッジフィルタを作製した。それぞれの非導電性濾材の巻長(図1のL1 、L2 等)は、表1に示すとおりである。また、非導電性濾材1〜7を導電性不織布11上に置く際には、非導電性濾材を重ねない巻長L0 及びL8 の領域(本実施例2ではL0 =60cm、L8 =60cm)を、導電性不織布11の両端部に設けた。
【0018】
【表1】
濾材番号 1 2 3 4 5 6 7 平均孔径〔μm〕 11 17 22 26 30 43 46 巻長 〔cm〕 60 40 40 40 40 40 40
【0019】比較例本比較例のカートリッジフィルタは、前記実施例2で作製したカートリッジフィルタの導電性不織布11の代わりに、前記実施例1で作製したポリエステル不織布11’を用いたこと以外は、前記実施例2と同手順で作製した。
【0020】評価前記の実施例1及び2並びに比較例で作製した3種のカートリッジフィルタの静電気帯電圧及び濾過効率を下記の方法により測定した。JIS8種の塵埃をシクロヘキサンに分散した試験液(濃度10ppm)を均一に攪拌しながら、カートリッジフィルタ(ステンレススチール製多孔性コア12からアース)に流量7リットル/分で通液し、通液開始から1分経過後の濾液を採取し、その濾液の帯電圧を帯電圧計により測定した。また、この濾液及び濾過前の試験液に含まれる粒子数を粒度分布測定機を用いて各粒径範囲毎に計測し、それぞれの粒径範囲における濾過効率を下記式から求めた。
濾過効率〔%〕=(A−B)×100/A式中、Aは濾過前の試験液に含まれる粒子数、Bは通液開始から1分経過後に採取した濾液に含まれる粒子数である。帯電圧測定の結果を表2に、濾過効率測定の結果を表3に示す。これらの結果から、有機溶剤を通常のカートリッジフィルタ(比較例)で濾過すると、有機溶剤が絶縁体の濾材と接触することにより、静電気が帯電(接触帯電)するのに対し、本発明(実施例1及び2)のカートリッジフィルタによれば、この静電気の帯電を防止し、かつ、濾過効率を維持することができる。
【0021】
【表2】


【0022】
【表3】
粒径範囲 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5〔μm〕 〜1.5 〜2.0 〜2.5 〜3.0 〜3.5 〜4.0 実施例2 78.2 91.2 94.5 98.5 99.7 100 比較例 76.4 89.6 95.2 97.4 99.2 100
【0023】実施例3直径47mmのフィルタホルダに実施例1で用いたポリエステル不織布又は実施例1で用いた導電性不織布をそれぞれ3枚重ねてセットし、こうして得られたフィルタ(導電性不織布からアース)にシクロヘキサンを流量4リットル/分で通液させた。このとき、不織布1枚当たりの有効面積は13cm2 であった。通液開始から1分間経過後の濾液を採取し、帯電圧計により測定した濾液の帯電圧を表4に示す。
【0024】
【表4】
有機溶剤 帯電圧(V) 導電性不織布 シクロヘキサン ± 0 ポリエステル不織布 シクロヘキサン +900
【0025】非導電性不織布であるポリエステル不織布からなるフィルタでシクロヘキサンを濾過すると、シクロヘキサンとポリエステル不織布とが接触して生じた静電気が帯電(接触帯電)していた。一方、導電性不織布からなるフィルタでは、静電気が帯電することはなかった。
【0026】
【発明の効果】本発明のフィルタ、特にカートリッジフィルタによれば、濾液が濾材を通過する際に生じる接触帯電を防止するので、火花放電が発生せず、可燃性有機溶剤を安全に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2及び比較例で作製したカートリッジフィルタの構成を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
1・・非導電性濾材1;2・・非導電性濾材2;11・・導電性不織布;11’・・ポリエステル不織布;12・・ステンレススチール製多孔性コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性領域を含む濾材層からなり、この導電性領域が帯電電位を逃がす手段と電気的に連絡することができる手段を有することを特徴とする、フィルタ。
【請求項2】 (1)導電性領域を含む多孔性コアと、(2)そのコアの外側に設けられ、導電性領域を含む濾材層と、(3)前記の多孔性コア及び濾材層のそれぞれの導電性領域が帯電電位を逃がす手段と電気的に連絡することができる手段とを有することを特徴とする、カートリッジフィルタ。
【請求項3】 濾材層が、導電性濾材層と非導電性濾材層との積層体である請求項2に記載のカートリッジフィルタ。
【請求項4】 濾材層が、導電性濾材層の積層体である請求項2に記載のカートリッジフィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開平8−168618
【公開日】平成8年(1996)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−333300
【出願日】平成6年(1994)12月15日
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)