説明

可燃性長尺体貫通部の防火処理方法及び防火処理用充填材

【課題】コストが安く、施工が容易で、防火性能を確保できる、可燃性長尺体貫通部の防火処理方法を提供する。
【解決手段】可燃性長尺体貫通部に詰め込むのに適当な大きさにした直方体状又は立方体状のセラミックファイバブランケット12に、パテ状の熱膨張性耐火材をシート状に形成した軟質熱膨張性耐火材シート14を積層し、この積層体を合成樹脂布16で包み、積層体を包んだ合成樹脂布16を接着剤で張り合わせるか熱融着することにより封止して防火処理用充填材10とする。セラミックファイバブランケット12の厚さは軟質熱膨張性耐火材シート14の厚さよりも厚い。この防火処理用充填材10を可燃性長尺体貫通部に所要個数詰め込んで、防火処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火壁や床などの防火区画体をケーブルやプラスチック管などの可燃性長尺体が貫通する部分の防火処理方法と、それに好適な防火処理用充填材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の防火処理用充填材としては次のようなものが公知である。
(1) セラミックバルクファイバ(耐火材)、ひる石(熱膨張材)及び無機質粉末(耐火材)をガラスクロス等からなる不燃性の袋に入れたシールバッグ(特許文献1)。
(2) 発泡ポリエチレン等からなる柔軟性ブロックと、熱膨張材シートと、吸熱材ブロック(又はシート)とを積層し、これをガラスクロス等からなる不燃性又は難燃性シートで包んだ耐火性充填材(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開昭59−31340号公報
【特許文献2】特開平11−222955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来の防火処理用充填材を用いた防火処理方法には次のような問題があった。
【0005】
前記(1)のシールバッグは、袋の内容物である耐火材及び熱膨張材が小片状あるいは粉末状の不定形のものであるため、製造時に、耐火材及び熱膨張材を袋に入れて封止する作業が面倒である。また袋詰めの際には耐火材及び熱膨張材を1袋毎に計量する必要があるため、生産効率がわるく、コスト高になる。さらに耐火性能上の問題としては、熱膨張材が粉末であるため、袋内の一部に片寄ってしまうことがあり、均一な耐火性能を確保できないおそれがある。
【0006】
また前記(1)のシールバッグは、火災時の熱で袋が燃えたり脆くなったりすると、粉末状の内容物がこぼれ出て、防火処理部が崩壊してしまい、所期の耐火性能を保てなくなるため、袋の材料には不燃性で丈夫なガラスクロス(ガラス繊維の織布)が使用されているが、ガラスクロスは価格が高いという問題がある。またガラスクロスの袋は、粉末状の内容物が織布の目からこぼれ出るので、取扱いや清掃が面倒である。この点を改善するためには織布の目の細かいガラスクロスを使用することが考えられるが、それでもシールバッグの運搬中又は施工中に袋が何かに引っ掛かったりして破れると、そこから粉末状の内容物がこぼれ出てしまうという問題がある。
【0007】
一方、前記(2)の耐火充填材は、粉末を使用していないので上記のような問題はないが、発泡ポリエチレン等からなる柔軟性ブロックを使用しているため、次のような問題がある。すなわち、発泡ポリエチレン等からなる柔軟性ブロックは、合成樹脂であることから、難燃剤を添加したとしても不燃材料と同レベルの高度の耐火性能を期待することはできず、したがって内容物である柔軟性ブロックが燃え落ちないようにするためには、全体をガラスクロス等の不燃性シートで包む必要があり、やはりコスト高になるという問題がある。また柔軟性ブロックは樹脂の発泡成形体よりなるため、丸めたり、薄く潰したりする変形に対して材質的に限界がある。このため前記(2)の耐火充填材は、サイズの異なるケーブルが多数配列されている場合のように、ケーブル群の表面の凹凸が大きい場合には、その凹凸になじませるのが難しいため、十分な耐火性能を得るには様々な大きさの耐火充填材を多数必要とし、その結果コスト高になってしまうという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、以上のような問題点に鑑み、施工が容易で、十分な防火性能を確保できる可燃性長尺体貫通部の防火処理方法と、それに好適な防火処理用充填材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る可燃性長尺体貫通部の防火処理方法は、防火区画体の開口を可燃性長尺体が貫通する部分の、前記可燃性長尺体のまわりに、可燃性長尺体貫通部に詰め込むのに適当な大きさにした直方体状又は立方体状のセラミックファイバブランケットに、パテ状の熱膨張性耐火材をシート状に形成した軟質熱膨張性耐火材シートを積層し、この積層体を合成樹脂布又はフィルムで包んでなる防火処理用充填材を所要個数詰め込んで、前記開口を塞ぐことを特徴とするものである。
【0010】
なお、防火処理用充填材を詰め込んだ後に残る空隙には、棒状の形状を保持できる程度の硬さを有する棒状熱膨張性耐火材を挿入することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る可燃性長尺体貫通部の防火処理用充填材は、可燃性長尺体貫通部に詰め込むのに適当な大きさにした直方体状又は立方体状のセラミックファイバブランケットに、パテ状の熱膨張性耐火材をシート状に形成した軟質熱膨張性耐火材シートを積層し、この積層体を合成樹脂布又はフィルムで包み、積層体を包んでなり、前記セラミックファイバブランケットの厚さが軟質熱膨張性耐火材シートの厚さよりも厚いことを特徴とするものである。
【0012】
なお、ここでいう積層とは、セラミックファイバブランケットと軟質熱膨張性耐火材シートが重ね合わされた状態にあればよく、両者が接着されているか否かは問わない。接着の必要性は特にないので、通常の場合は接着されていない。
【0013】
セラミックファイバブランケットは、セラミックファイバを所要のかさ密度と厚さになるようにセッティングしたマット状の製品で、変形、圧縮が容易である。なお、ここでいうセラミックファイバブランケットとは、セラミックファイバフェルトを含むものとする。本発明ではこのセラミックファイバブランケットを適当な大きさに切断して使用する。可燃性長尺体貫通部への充填作業効率を考慮すると、セラミックファイバブランケットはなるべく厚手のもの(市販品では例えば厚さ25mm又は50mm程度のもの)を使用することが好ましい。
【0014】
軟質熱膨張性耐火材シートは、セラミックファイバブランケットと共に容易に変形できる程度の軟らかさを有するものであれば特に制限はないが、例えばパテ状の熱膨張性耐火材をシート状に形成したものなどが特に好適である。
【0015】
本発明ではセラミックファイバブランケットと軟質熱膨張性耐火材シートの積層体を包むのに、安価な合成樹脂布又はフィルムを使用する。合成樹脂布又はフィルムは可燃性であるが、内容物がセラミックファイバブランケットと軟質熱膨張性耐火材シートの組合せであれば、表面の合成樹脂布又はフィルムが焼失しても、防火処理部の耐火性は保たれる。
【0016】
本発明の防火処理用充填材は、その内容物がセラミックファイバブランケットと軟質熱膨張性耐火材シートの積層体であるので、内容物が片寄ることがない。したがって本発明の防火処理用充填材は、前記内容物を包むのに縫製することにより強度を持たせる必要がなく、安価な合成樹脂布又はフィルムで内容物を包んで接着剤で貼るとか、熱融着させる等の手段を採用することができ、簡単な包装で十分な耐火性能を確保でき、安価に提供することが可能となる。
【0017】
また本発明に係る防火処理用充填材は、セラミックファイバブランケット又はセラミックファイバボードとしてFeOを含有しているものを使用することが好ましい。
FeOを含有させると、防火処理部に、より高い防火性能を持たせることができる。FeOの含有量は、セラミックファイバの5〜15質量%にすることが好ましい。
【0018】
また本発明の防火処理方法において、防火処理用充填材を詰め込んだ後に小さな空隙が残る場合には、そこに熱膨張性耐火材を挿入することが好ましい。この場合、熱膨張性耐火材は棒状のものなど、空隙に挿入しやすい形のものを用いることが好ましい。これにより防火性能をより確実なものとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明に係る防火処理方法で用いる防火処理用充填材は、内容物が適当な大きさに形成されたセラミックファイバブランケットと軟質熱膨張性耐火材シートであるため、製造の際に内容物を計量する必要がなく、また内容物の片寄りが発生することもなく、さらに包装材が合成樹脂布又はフィルムであるため縫製の必要もないこと等から、製造がきわめて容易で、コストを安くできる。また本発明に係る防火処理方法では、セラミックファイバブランケットと軟質熱膨張性耐火材シートの積層体を合成樹脂布又はフィルムで包んだ防火処理用充填材を用いているため、変形、圧縮が容易であり、可燃性長尺体の表面の凹凸などになじみやすく、また表面の合成樹脂フィルムが多少破れても内容物がこぼれ出ることもないので、施工が容易である。さらに火災の際には、表面の合成樹脂布又はフィルムは焼失又は溶融してしまうが、セラミックファイバブランケットと軟質熱膨張性耐火材シートの積層体は加熱により体積が膨張して良好な断熱耐火材となり、防火処理部に隙間ができるおそれがなく、十分な防火性能を確保することができる。
【0020】
また、防火処理用充填材を詰め込んだ後に残る空隙に、棒状の形状を保持できる程度の硬さを有する棒状熱膨張性耐火材を挿入すれば、防火性能をより確実なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1(A)〜(D)はそれぞれ本発明に係る防火処理方法に好適な防火処理用充填材の一実施形態を示すものである。これらの防火処理用充填材10は、セラミックファイバブランケット12に軟質熱膨張性耐火材シート14を積層し、この積層体を合成樹脂布16で包んだものである。セラミックファイバブランケット12の厚さは図示のように軟質熱膨張性耐火材シート14の厚さよりも厚い。
【0023】
セラミックファイバブランケット12は、市販の広幅、長尺なセラミックファイバブランケットを、可燃性長尺体貫通部に詰め込むのに適当な大きさに切断したもので、切断後の形状は直方体状又は立方体状である。セラミックファイバは主成分がSiO又はAlOである。セラミックファイバブランケット12には、FeOを5〜15質量%含ませておくことが、防火性能を高める上で好ましい。
【0024】
軟質熱膨張性耐火材シート14は、セラミックファイバブランケット12と共に容易に変形できる程度の軟らかさを有し、かつ火災時の熱を受けると体積膨張して、膨張した状態で耐火性、断熱性を保持するものである。このようなものとしては、例えばブチルゴム等のベース樹脂に、グラファイト等の熱膨張材料を混練してパテ状(粘土状)にし、これをシート状に成形したものなどが公知である。具体的には、古河電気工業株式会社製のヒートメルパテ(商品名)などを使用することができる。
【0025】
合成樹脂布16としては、ナイロン、ポリエステル又はポリプロピレン等からなる不織布を使用することが好ましい。合成樹脂の不織布は、ガラスクロス等の不燃性の布に比べ、きわめて安価である。また合成樹脂布16は、セラミックファイバ12と軟質熱膨張性耐火材シート14の積層体を包んだ後、接着剤で張り合わせることにより簡単に封止することができるので、従来のガラスクロスの袋のように縫製の必要がなく、製造コストの低減にも効果的である。
【0026】
図1(A)〜(D)に示す防火処理用充填材10の寸法を例示すると次のとおりである。セラミックファイバブランケット12の厚さtは(A)が25mm、(B)〜(D)が50mm、軟質熱膨張性耐火材シート14の厚さはいずれも3mmである。セラミックファイバブランケット12及び軟質熱膨張性耐火材シート14の幅wは(A)、(B)が100mm、(C)が200mm、(D)が300mm、奥行きd(可燃性長尺体長さ方向寸法)はいずれも100mmである。このように、防火処理用充填材10は種々の大きさのものを用意し、現場の状況に応じて使い分けることが好ましい。
【0027】
なお図1(E)は、防火処理用充填材10を詰め込んだ後に残る小さな空隙に挿入する棒状の熱膨張性耐火材18を示したものである。この熱膨張性耐火材18も、火災時の熱で加熱されると体積膨張し、膨張後に耐火断熱性に富む炭化生成物に変化するものである。ただしこの熱膨張性耐火材18は、挿入作業を容易にするため、棒状の形状を保持できる程度の硬さが必要である。そのような材料としては、古河電気工業株式会社製のダンシールD(商品名)などを使用することができる。
【0028】
次に、上記のような防火処理用充填材10及び棒状熱膨張性耐火材18を用いて防火処理を行う方法の一実施形態を、図2を参照して説明する。図2(A)は防火処理前の状態である。図において、20は防火区画体、22は防火区画体20に形成された開口、24は開口22を貫通するように設置されたケーブルラック、26はケーブルラック24上に布設された多数のケーブルである。ケーブル26のまわりの空間に、図1に示す種々の大きさの防火処理用充填材10を詰め込んで開口22を塞ぐと、例えば(B)のようになる。ケーブル26の群の表面は凸凹しているが、防火処理用充填材10は内容物がセラミックファイバブランケット12と軟質熱膨張性耐火材シート14であり、変形させたり圧縮したりすることが容易であるので、表面の凹凸に合わせて簡単に詰め込むことができる。このように防火処理用充填材10を詰め込んでいくだけで防火処理が行えるので、施工は簡単である。
【0029】
防火処理用充填材10を詰め込むときは、軟質熱膨張性耐火材シート14がケーブル26の長手方向(開口22を貫通する方向)に沿うように詰め込む。このようにすると、詰め込み後は、軟質熱膨張性耐火材シート14が、隣合うセラミックファイバブランケット12の間、セラミックファイバブランケット12とケーブル26(又はケーブルラック24)の間、あるいはセラミックファイバブランケット12と開口22の内壁の間に挟まれた状態となるので、火災時に合成樹脂布16が焼失しても軟質熱膨張性耐火材シート14が脱落するおそれがなく、確実に防火機能を発揮することができる。
【0030】
以上のようにして構成された防火処理部は、火災にあうと、各防火処理用充填材10の表面の合成樹脂布16は焼失してしまうが、各防火処理用充填材10の中身はセラミックファイバブランケット12と軟質熱膨張性耐火材シート14であるため、合成樹脂布16が焼失しても防火処理部が崩壊することはなく、セラミックファイバブランケット12の断熱性と、軟質熱膨張性耐火材シート14の熱膨張により生成された耐火断熱材により優れた防火性能を発揮することができる。
【0031】
なお、ケーブル26の群のまわりに防火処理用充填材10を詰め込んだだけでは、小さな空隙が残ることがある。この場合、空隙の大きさが防火性能に影響を与えない程度の大きさであれば問題ないが、防火性能に影響が出るおそれがあるときは、当該空隙に棒状熱膨張性耐火材18を挿入する。このようにすれば防火性能をより確実なものにすることができる。
【0032】
またこの実施形態では、軟質熱膨張性耐火材シート14をセラミックファイバブランケット12の片面に積層した場合を説明したが、積層の形態はこれに限定されるものではなく、例えば両面に積層してもよく、中間に積層してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(A)〜(D)はそれぞれ本発明に係る防火処理方法に好適な防火処理用充填材の一実施形態を示す一部切開斜視図、(E)は上記防火処理用充填材と共に使用される棒状熱膨張性耐火材を示す斜視図。
【図2】本発明に係る防火処理方法の一実施形態を示すもので、(A)は防火処理を施す前の状態を示す正面図、(B)は防火処理を施した後の状態を示す正面図。
【符号の説明】
【0034】
10:防火処理用充填材
12:セラミックファイバブランケット
14:軟質熱膨張性耐火材シート
16:合成樹脂布
18:棒状熱膨張性耐火材
20:防火区画体
22:開口
24:ケーブルラック
26:ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防火区画体の開口を可燃性長尺体が貫通する部分の、前記可燃性長尺体のまわりに、可燃性長尺体貫通部に詰め込むのに適当な大きさにした直方体状又は立方体状のセラミックファイバブランケットに、パテ状の熱膨張性耐火材をシート状に形成した軟質熱膨張性耐火材シートを積層し、この積層体を合成樹脂布又はフィルムで包んでなる防火処理用充填材を所要個数詰め込んで、前記開口を塞ぐことを特徴とする可燃性長尺体貫通部の防火処理方法。
【請求項2】
防火処理用充填材を詰め込んだ後に残る空隙に、棒状の形状を保持できる程度の硬さを有する棒状熱膨張性耐火材を挿入することを特徴とする請求項1記載の防火処理方法。
【請求項3】
可燃性長尺体貫通部に詰め込むのに適当な大きさにした直方体状又は立方体状のセラミックファイバブランケットに、パテ状の熱膨張性耐火材をシート状に形成した軟質熱膨張性耐火材シートを積層し、この積層体を合成樹脂布又はフィルムで包んでなり、前記セラミックファイバブランケットの厚さが軟質熱膨張性耐火材シートの厚さよりも厚いことを特徴とする可燃性長尺体貫通部の防火処理用充填材。
【請求項4】
セラミックファイバブランケットと軟質熱膨張性耐火材シートは接着されていないことを特徴とする請求項3記載の可燃性長尺体貫通部の防火処理用充填材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−215625(P2008−215625A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128986(P2008−128986)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【分割の表示】特願2001−42623(P2001−42623)の分割
【原出願日】平成13年2月20日(2001.2.20)
【出願人】(000165996)株式会社古河テクノマテリアル (23)
【Fターム(参考)】