説明

可燃性長尺体貫通部防火処理部材及び防火処理構造

【課題】熱膨張性耐火材の使用量が少なくて済み、可燃性長尺体への装着が容易な可燃性長尺体貫通部防火処理部材を提供する。
【解決手段】長手方向の一端から他端に達する開いた裂け目3を有し、外力を加えて裂け目3を広げた後開放すると元の形に戻るだけのばね弾性を有する断面優弧形の熱膨張性耐火材2で防火処理部材1を構成する。可燃性長尺体4の外周に装着した状態での熱膨張性耐火材2の中心角αが210°〜330°の範囲内にある。中心角αが210°以上であれば、可燃性長尺体貫通部の防火性能を確保することができる。中心角αが330°以下(裂け目の中心角が30°以上)であれば、裂け目3を可燃性長尺体に押し付けることで、裂け目が広がるので、防火処理部材1を簡単に可燃性長尺体4に装着できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線・ケーブル、樹脂管、樹脂被覆物などの可燃性長尺体が、建築物の壁や床などの防火区画体を貫通する部分に使用する防火処理部材と、それを用いた防火処理構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルや工場などの建築物では、壁や床などの防火区画体に開口部を設けて、そこに電線・ケーブルや樹脂管などの可燃性長尺体を貫通させた場合には、火災時の延焼を防ぐために、当該貫通部に防火処理を施さなければならない。
【0003】
可燃性長尺体貫通部の防火処理部材としては従来から種々のものが開発され、実用化されているが、近年、施工の簡単な防火処理部材として、円筒状に形成した熱膨張性耐火材の長手方向にスリットを形成したものが提案されている(特許文献1参照)。この防火処理部材は、スリットを開いて可燃性長尺体に被せ、何らかの物理的手段によって固定させることにより、可燃性長尺体に装着できるようにしたものである。
【0004】
【特許文献1】特開2001−280550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来提案されている防火処理部材は、可燃性長尺体の全周を熱膨張性耐火材で覆う構造であるが、本発明者等は各種実験を重ねた結果、熱膨張性耐火材が必ずしも可燃性長尺体の全周を覆っていなくても、所期の耐火性能を得ることができるという知見を得た。熱膨張性耐火材が可燃性長尺体の全周を覆わない形態にすれば、熱膨張性耐火材の使用量を減らし、コストを削減できる可能性がある。
【0006】
また、従来提案されている防火処理部材は、スリットを可燃性長尺体の直径に相当する幅まで手で開いてから可燃性長尺体に被せなければならないため、可燃性長尺体への装着作業が面倒であるという難点のあることも判明した。
【0007】
本発明の目的は、熱膨張性耐火材の使用量が少なくて済み、しかも可燃性長尺体への装着が容易な可燃性長尺体貫通部防火処理部材と、それを用いた防火処理構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材は、長手方向の一端から他端に達する開いた裂け目を有し、外力を加えて裂け目を広げた後開放すると元の形に戻るだけのばね弾性を有する断面優弧形の熱膨張性耐火材よりなり、可燃性長尺体の外周に装着した状態での熱膨張性耐火材の中心角が210°〜330°の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0009】
防火処理部材を、開いた裂け目を有する断面優弧形の熱膨張性耐火材で構成しても、熱膨張性耐火材の中心角(可燃性長尺体を覆う角度)が210°以上あれば、可燃性長尺体貫通部の防火性能を確保することができる。また、熱膨張性耐火材の中心角が330°以下(裂け目の中心角が30°以上)であれば、裂け目を可燃性長尺体に押し付けることで、裂け目が広がるので、防火処理部材を簡単に可燃性長尺体に装着することができる。
【0010】
本発明に係る防火処理部材は、可燃性長尺体の外周に装着した状態での熱膨張性耐火材の中心角が240°以上であることが好ましい。熱膨張性耐火材の中心角が210°以上あれば建築基準法上の1時間耐火性能は確保できるが、240°未満では熱膨張した耐火材が可燃性長尺体の溶融部分を完全に包み込むまでには至らないものが発生する。熱膨張性耐火材の中心角を240°以上にすれば、熱膨張した耐火材が可燃性長尺体の溶融部分を完全に包み込むようになり、延焼を完全に食い止めることができる。したがって熱膨張性耐火材の中心角は240°以上にすることが好ましい。
【0011】
また本発明に係る防火処理部材は、可燃性長尺体の外周に装着した状態での熱膨張性耐火材の中心角が300°以下であることがさらに好ましい。熱膨張性耐火材の中心角が330°以下でも300°より大きいと、防火処理部材を可燃性長尺体に装着するのに裂け目を若干開く必要がある。熱膨張性耐火材の中心角を300°以下(裂け目の中心角60°以上)にすると、裂け目を可燃性長尺体に押し付けるだけで防火処理部材を可燃性長尺体に装着することができる。したがって熱膨張性耐火材の中心角は300°以下にすることが好ましい。
【0012】
また本発明に係る防火処理部材は、裂け目が軸線に対し斜めに形成されていることがさらに好ましい。
【0013】
また本発明に係る可燃性長尺体貫通部の防火処理構造は、上記のいずれかの防火処理部材を用い、その防火処理部材を防火区画体の開口部を貫通する可燃性長尺体の外周に装着して開口部内に位置させ、前記開口部内の空隙に不燃性充填材を充填したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る防火処理部材は、開いた裂け目を有する断面優弧形の熱膨張性耐火材で構成されているので、裂け目の幅の分だけ熱膨張性耐火材の使用量を節約することができる。具体的には、熱膨張性耐火材の使用量を、可燃性長尺体の全周に熱膨張性耐火材を被せる場合に比べ、12分の7ないし6分の5に減らすことができ、その分、防火処理部材の材料費が安くなり、コストを削減することができる。また、防火処理部材の裂け目を可燃性長尺体に押し付けると、裂け目がいったん広がった後元の形に復元するので、防火処理部材を可燃性長尺体の外周に簡単に装着できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1(A)は本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材の一実施形態を示す。この防火処理部材1は、長手方向の一端から他端に達する開いた裂け目3を有する断面優弧形の熱膨張性耐火材2で構成されている。熱膨張性耐火材料は熱可塑性樹脂に熱膨張性黒鉛を配合したもので、従来から使用されているものである。断面優弧形の熱膨張性耐火材2は、外力を加えて裂け目3を広げたのち開放すると元の形に戻るだけのばね弾性を有している。また断面優弧形の熱膨張性耐火材2の中心角αは210°〜330°(裂け目3の中心角が150°〜30°)の範囲内に設定されている。断面優弧形の熱膨張性耐火材2の内径は、装着する可燃性長尺体の外径と同じか、それより若干小さく設定されている。
【0016】
この防火処理部材1は、上記のように構成されているため、例えば樹脂製の電線管又は送水管などの可燃性長尺体に装着するときは、図1(B)に示すように、裂け目3を可燃性長尺体4に向けて矢印P方向に押圧すれば、裂け目3が可燃性長尺体4の外径まで広げられた後、ばね弾性で元の状態に復元するので、同図(C)のように、可燃性長尺体4の外周に装着することができる。したがって装着作業をきわめて簡単に行うことができる。また、装着後には、熱膨張性耐火材2で覆われない部分が発生するが、可燃性長尺体4に装着した状態で熱膨張性耐火材2の中心角αが210°以上あれば、建築基準法で要求される耐火性能を満足することが実験により確認された(後述)。
【0017】
図2は、図1の防火処理部材1を使用した防火処理構造を示す。図において、5は建築物の防火区画体(例えば壁)、6は防火区画体5に形成された開口部、4は開口部6を貫通する可燃性長尺体、1は可燃性長尺体4の外周に装着された防火処理部材である。可燃性長尺体4は例えば図2(B)に示すように樹脂製の内管4aとさや管4bとからなる送水管の形態である。防火処理部材1は開口部6の外で可燃性長尺体4の外周に装着した後、移動させて、開口部6内に位置させる。開口部6内の空隙にはモルタル又はロックウール等の不燃性充填材7が充填される。
【0018】
可燃性長尺体貫通部を上記のような構造にしておくと、防火区画体5の片側で火災が発生し、可燃性長尺体4が燃焼した場合には、可燃性長尺体4の燃焼が防火処理部材1に達したところで、熱膨張性耐火材2が急激に熱膨張し、可燃性長尺体4の燃焼部分、溶融部分を包み込んでしまうので、可燃性長尺体4の延焼をそこでストップさせることができる。このため、可燃性長尺体4が防火区画体5の反対側まで延焼するのを防止できる。
【0019】
ところで図2の実施形態では、防火処理部材1を一方の端面が露出するように配置したが、防火処理部材1は両端面がモルタル等の不燃性充填材7内に位置するように配置してもよい。ただし、防火処理部材1を少なくとも一方の端面が露出するように配置しておけば、防火処理部材1が埋め込まれているか否かを目視で確認することができるので、点検に便利である。
【実施例】
【0020】
次に本発明を完成するに至った防火処理部材の試作、試験結果を説明する。まず、防火処理部材の裂け目が開いていても所定の防火性能が得られることを確認するため、次のような実験を行った。図1(A)に示すような防火処理部材で、中心角αが200°から310°まで、10°ずつ異なる防火処理部材を射出成形により製作し、各防火処理部材を可燃性長尺体の外周に装着してISO834に基づく壁用1時間耐火試験を行った。可燃性長尺体としてはさや管付き送水管(呼び径36、さや管外径42mm)を使用した。防火処理部材は、内径42mm、厚さ2mm、長さ50mm、熱膨張倍率約10倍である。試験中及び試験後の試験体の状況を目視で観察した結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1において、「試験開始60分後」までは試験中の状態を非加熱側から観察した結果であり、「試験終了後」は貫通部を解体して熱膨張性耐火材の膨張状態を観察した結果である。○印は加熱側から非加熱側への延焼が完全に食い止められたもの、×印は延焼が食い止められなかったものである。×印のうちの※1は加熱側と非加熱側とを貫通する穴が発生し、熱気の貫通が見られた事例である。また、試験終了後の○印は膨張した耐火材が配管の溶融部分を完全に包み込んで防火性能を満足している事例、×印は防火性能を満足していない事例、△印は建築基準法上の1時間の耐火性能は満足するが、試験終了後の解体観察で膨張した耐火材が配管の溶融部分を完全に包み込んでいない状況が見られた事例である。
【0023】
表1の結果によれば、熱膨張性耐火材の中心角αが210°以上あれば規定された1時間の耐火性能が得られ、240°以上あれば熱膨張性耐火材の膨張状況からみてより確実な耐火性能が得られることが分かる。したがって熱膨張性耐火材の中心角αは210°以上、特に240°以上にすることが好ましい。
【0024】
次に、図1(A)のような防火処理部材で、中心角αが180°から350°まで、10°ずつ異なる防火処理部材を射出成形により製作し、可燃性長尺体への取り付けやすさを実験により確かめた。可燃性長尺体としてはさや管付き送水管(呼び径36、さや管外径42mm)を使用し、防火処理部材は内径42mm、厚さ2.0mm、長さ50mmのものを使用した。各試作品を図1(B)、(C)のようにして配管に取り付けた。このときの取り付けやすさと、取り付けた後の取り付け状態の安定性は、表2のとおりであった。
【0025】
【表2】

【0026】
表2における「評価」は、実使用において問題なく使用できるものを○、使用できなくはないが実使用に多少難があるものを△とした。
【0027】
この試験結果によれば、配管への取り付けやすさ、取り付け状態の安定性の観点からは、熱膨張性耐火材の中心角αは200°〜330°、好ましくは200°〜300°の範囲にすればよいことが分かる。
【0028】
以上の試験結果を総合すると、熱膨張性耐火材の可燃性長尺体に装着した状態での中心角αは、210°〜330°にすればよく、この範囲内で中心角αを240°以上にすれば防火性能がより確実なものとなり、300°以下にすれば可燃性長尺体への取り付けやすさがより良好なものとなる、ことが分かる。
【0029】
なお、防火処理部材の厚さを変えた実験も行ったが、防火処理部材の厚さは0.8〜2.5mmのものが使用可能であり、特に2.0mm前後のものが好適である。防火処理部材の厚さは可燃性長尺体の外径が大きいときは厚くし、小さいときは薄くすることになる。この点は従来同様である。
【0030】
図3は本発明に係る防火処理部材の他の実施形態を示す。この防火処理部材1も、熱膨張性耐火材2を長手方向の一端から他端に達する開いた裂け目3ができるように断面優弧形に形成したものであるが、図1の防火処理部材と異なる点は、裂け目3が軸線に対し斜めに形成されていることである。このような構成にすると、可燃性長尺体4の延焼が長手方向に進行してくるのに対して、熱膨張性耐火材2の裂け目3の位置が周方向に変化するため、熱膨張した耐火材が可燃性長尺体4の燃焼部分、溶融部分を包囲しやすくなり、防火性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(A)は本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材の一実施形態を示す斜視図、(B)は(A)の防火処理部材を可燃性長尺体に装着する途中の状態を示す正面図、(C)は同じく装着した後の状態を示す正面図。
【図2】本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理構造の一実施形態を示す、(A)は断面図、(B)は正面図。
【図3】(A)は本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材の他の実施形態を示す斜視図、(B)は(A)の防火処理部材を可燃性長尺体に装着した状態を示す側面図。
【符号の説明】
【0032】
1:防火処理部材
2:熱膨張性耐火材
3:開いた裂け目
4:可燃性長尺体
5:防火区画体
6:開口部
7:モルタル等の不燃性充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の一端から他端に達する開いた裂け目を有し、外力を加えて裂け目を広げた後開放すると元の形に戻るだけのばね弾性を有する断面優弧形の熱膨張性耐火材よりなり、可燃性長尺体の外周に装着した状態での熱膨張性耐火材の中心角が210°〜330°の範囲内にあることを特徴とする可燃性長尺体貫通部防火処理部材。
【請求項2】
可燃性長尺体の外周に装着した状態での熱膨張性耐火材の中心角が240°以上であることを特徴とする請求項1記載の可燃性長尺体貫通部防火処理部材。
【請求項3】
可燃性長尺体の外周に装着した状態での熱膨張性耐火材の中心角が300°以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の可燃性長尺体貫通部防火処理部材。
【請求項4】
裂け目が軸線に対し斜めに形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の可燃性長尺体貫通部防火処理部材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の防火処理部材を、防火区画体の開口部を貫通する可燃性長尺体の外周に装着して、開口部内に位置させ、前記開口部内の空隙に不燃性充填材を充填したことを特徴とする可燃性長尺体貫通部の防火処理構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−282793(P2007−282793A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112311(P2006−112311)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000165996)株式会社古河テクノマテリアル (23)
【Fターム(参考)】