説明

可燃性長尺体貫通部防火処理部材及び防火処理構造

【課題】可燃性長尺体貫通部用防火処理部材の防火性能を向上させる。
【解決手段】本発明の防火処理部材1は、長手方向の一端から他端に達する開いた裂け目3を有し、外力を加えて裂け目を広げた後開放すると元の形に戻るだけのばね弾性を有する断面優弧形の熱膨張性耐火材2よりなり、この熱膨張性耐火材2の内周面に周方向にリブ4を形成したものである。リブ4は、熱膨張性耐火材長手方向の両端付近に1本ずつ周方向に重ならないように形成されている。可燃性長尺体の延焼により熱膨張性耐火材2が一端から熱膨張すると、熱膨張がリブ4に達したところでリブ4も熱膨張し、多量の耐火材を供給し、延焼をストップさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線・ケーブル、樹脂管、樹脂被覆物などの可燃性長尺体が、建築物の壁や床などの防火区画体を貫通する部分に使用する防火処理部材と、それを用いた防火処理構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルや工場などの建築物では、壁や床などの防火区画体に開口部を設けて、そこに電線・ケーブルや樹脂管などの可燃性長尺体を貫通させた場合には、火災時の延焼を防ぐために、当該貫通部に防火処理を施さなければならない。
【0003】
可燃性長尺体貫通部の防火処理部材としては従来から種々のものが開発され、実用化されているが、近年、施工の簡単な防火処理部材として、円筒状に形成した熱膨張性耐火材の長手方向にスリットを形成したものが提案されている(特許文献1参照)。この防火処理部材は、スリットを開いて可燃性長尺体に被せ、何らかの物理的手段によって固定させることにより、可燃性長尺体に装着できるようにしたものである。
【0004】
【特許文献1】特開2001−280550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来提案されている防火処理部材は、長手方向の断面形状が一様であるため、防火性能を向上させるには、円筒体の厚さを厚くするか、長さを長くするしかなく、サイズを大きくせずに防火性能を向上させることが困難である。
【0006】
本発明の目的は、従来提案されている可燃性長尺体貫通部よりも防火性能が優れた可燃性長尺体貫通部防火処理部材と、それを用いた防火処理構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材は、長手方向の一端から他端に達する裂け目を有し、外力を加えて裂け目を広げた後開放すると元の形に戻るだけのばね弾性を有する断面優弧形又は円筒形の熱膨張性耐火材よりなり、この熱膨張性耐火材の内周面に周方向にリブを形成したことを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係る防火処理部材は、前記リブが、熱膨張性耐火材長手方向の両端又は両端付近に1本ずつ又は1組ずつ周方向に重ならないように形成されているものであることが好ましい。
【0009】
また本発明に係る防火処理部材は、前記熱膨張性耐火材の長手方向の一端又は両端の外周にフランジ部を設けたものであることが好ましい。
【0010】
また本発明に係る防火処理部材において、前記熱膨張性耐火材は、開いた裂け目を有する断面優弧形で、可燃性長尺体の外周に装着した状態での中心角が210°〜330°の範囲内にあることが好ましい。
【0011】
熱膨張性耐火材が、開いた裂け目を有する断面優弧形であっても、熱膨張性耐火材の中心角(可燃性長尺体を覆う角度)が210°以上あれば、可燃性長尺体貫通部の防火性能を確保できることが実験より確かめられた。また、熱膨張性耐火材の中心角が330°以下(裂け目の中心角が30°以上)であれば、裂け目を可燃性長尺体に押し付けることで、裂け目が広がるので、防火処理部材を簡単に可燃性長尺体に装着することも実験により確かめられた。
【0012】
なお、本発明に係る防火処理部材は、可燃性長尺体の外周に装着した状態での熱膨張性耐火材の中心角が240°以上であることが好ましい。熱膨張性耐火材の中心角が210°以上あれば建築基準法上の1時間耐火性能は確保できるが、240°未満では熱膨張した耐火材が可燃性長尺体の溶融部分を完全に包み込むまでには至らないものが発生する。熱膨張性耐火材の中心角を240°以上にすれば、熱膨張した耐火材が可燃性長尺体の溶融部分を完全に包み込むようになり、延焼を完全に食い止めることができる。したがって熱膨張性耐火材の中心角は240°以上にすることが好ましい。
【0013】
また本発明に係る防火処理部材は、可燃性長尺体の外周に装着した状態での熱膨張性耐火材の中心角が300°以下であることがさらに好ましい。熱膨張性耐火材の中心角が330°以下でも300°より大きいと、防火処理部材を可燃性長尺体に装着するのに裂け目を若干開く必要がある。熱膨張性耐火材の中心角を300°以下(裂け目の中心角60°以上)にすると、裂け目を可燃性長尺体に押し付けるだけで防火処理部材を可燃性長尺体に装着することができる。このことによって、裂け目を無理に開くことなく、過大な力を加えずに防火処理部材を可燃性長尺体に装着することができるので、防火処理部材に余分な応力をかけずに済む。よって防火処理部材の割れや亀裂の発生、破壊を防げるという効果もある。したがって熱膨張性耐火材の中心角は300°以下にすることが好ましい。
【0014】
また本発明に係る防火処理部材は、裂け目が軸線に対し斜めに形成されていることがさらに好ましい。
【0015】
次に、本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理構造は、上記のような防火処理部材を用い、その防火処理部材を防火区画体の開口部を貫通する可燃性長尺体の外周に装着して開口部内に配置し、前記開口部内の空隙に不燃性充填材を充填したことを特徴とするものである。
【0016】
また本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理構造は、一端又は両端にフランジ部を有する防火処理部材を用い、その防火処理部材を、防火区画体の開口部を貫通する可燃性長尺体の外周に装着して、フランジ部が開口部の端部に位置するように開口部内に配置し、前記開口部内の空隙に前記フランジ部の端面が露出するように不燃性充填材を充填した構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る防火処理部材は、断面優弧形又は円筒形の熱膨張性耐火材の内周面に周方向にリブが形成されているので、火災により可燃性長尺体が延焼してきた場合、熱膨張性耐火材が火災側の端部から膨張し始め、熱膨張性耐火材の膨張がリブの部分に達するとリブの部分も熱膨張する。リブを設けることで、熱膨張性耐火材が熱を受ける表面積が大きくなるため、膨張した耐火材が多量に供給される。このため、可燃性長尺体の燃焼・溶融によって生じた空隙を、膨張した耐火材が効率よく閉塞することになり、可燃性長尺体貫通部の防火性能を向上させることができる。特にリブを両端又は両端付近に形成しておくことにより、防火区画体のどちら側から可燃性長尺体が延焼してきた場合でも、短時間のうちにリブの部分が膨張するため、初期段階で煙の通過を遮断する性能(遮煙性能)が向上する。
【0018】
また、熱膨張性耐火材の内周面に周方向にリブが形成されているので、可燃性長尺体の外周に装着したときに、リブが可燃性長尺体の外周面に押し付けられて、長手方向への位置ずれが発生し難くなり、防火処理部材装着後に行われる不燃性充填材の充填作業等を容易に行うことができる。特に、可燃性長尺体が波付き管である場合はリブが波形の谷部に落ち込むため、また可燃性長尺体が発泡断熱材などの軟質材である場合はリブが軟質材に食い込むため、長手方向への位置ずれをより確実に防止することができる。
【0019】
また、長手方向の一端又は両端の外周にフランジ部を設けておくと、そのフランジ部の端面が露出するように施工することにより、防火処理部材が埋め込まれていることを目視で容易に確認することができ、施工後の点検を容易に行うことができる。
【0020】
さらに、熱膨張性耐火材を開いた裂け目を有する断面優弧形にすれば、裂け目の幅の分だけ熱膨張性耐火材の使用量を節約することができ、コストを削減することができる。また、裂け目が開いていれば、裂け目を可燃性長尺体に押し付けることで、裂け目がいったん広がった後元の形に復元するので、防火処理部材を可燃性長尺体の外周に簡単に装着できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
〔実施形態1〕図1(A)は本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材の一実施形態を示す。この防火処理部材1は、長手方向の一端から他端に達する開いた裂け目3を有する断面優弧形の熱膨張性耐火材2で構成されている。熱膨張性耐火材料は熱可塑性樹脂に熱膨張性黒鉛を配合したもので、従来から使用されているものである。断面優弧形の熱膨張性耐火材2は、外力を加えて裂け目3を広げたのち開放すると元の形に戻るだけのばね弾性を有している。熱膨張性耐火材2の内径は、装着する可燃性長尺体の外径と同じか、それより若干小さく設定されている。
【0022】
熱膨張性耐火材2の内周面には周方向にリブ4が突設されている。リブ4は、熱膨張性耐火材2の長手方向の両端付近に1本ずつ周方向に重ならないように形成されている。2本のリブ4が周方向に重ならないように形成するのは、この防火処理部材1を射出成形する際に、型抜きを容易にするためである。リブ4は熱膨張性耐火材2の長手方向の中央部に周方向に連続して形成することもできるが、図示のように、長手方向の両端付近に1本ずつ形成した方が、火災の熱がどちら側から加わっても短時間のうちにリブ4の部分が熱膨張して多量の耐火材を供給するようになるので、防火性能はよくなる。
【0023】
この防火処理部材1は、上記のように構成されているため、例えば樹脂製の電線管又は送水管などの可燃性長尺体に装着するときは、図2(A)に示すように、裂け目3を可燃性長尺体5に向けて矢印P方向に押圧すれば、裂け目3が可燃性長尺体5の外径まで広げられた後、ばね弾性で元の状態に復元するので、同図(B)のように、可燃性長尺体5の外周に装着することができる。したがって装着作業をきわめて簡単に行うことができる。また、装着後には、熱膨張性耐火材2で覆われない部分が発生するが、可燃性長尺体5に装着した状態で熱膨張性耐火材2の中心角αが210°以上あれば、建築基準法で要求される耐火性能を満足することが実験により確認された(後述)。
【0024】
図3は、可燃性長尺体5が、内管5aと波付きさや管5bとからなる送水管の場合である(波付き電線管でも同じ)。このような可燃性長尺体5に図1の防火処理部材1を装着すると、リブ4がさや管5bの波形の谷部に落ち込むので、装着後に防火処理部材1が長手方向へ位置ずれを起こすのを防止できる。
【0025】
図4は、図1の防火処理部材1を使用した防火処理構造を示す。図において、6は建築物の防火区画体(例えば壁)、7は防火区画体6に形成された開口部、5は開口部7を貫通する可燃性長尺体、1は可燃性長尺体5の外周に装着された防火処理部材である。防火処理部材1は開口部7の外で可燃性長尺体5の外周に装着した後、移動させて、開口部7内に位置させる。開口部7内の空隙にはモルタル又はロックウール等の不燃性充填材8が充填される。防火処理部材1は、内周面に周方向にリブ4が形成されているため、リブ4が可燃性長尺体5の外周面に強く押し付けられて長手方向への位置ずれが発生し難く、不燃性充填材5の充填作業等を容易に行うことができる。特に、可燃性長尺体5が波付き管である場合はリブ4が波形の谷部に落ち込むため(また可燃性長尺体が発泡断熱材などの軟質材である場合はリブ4が軟質材に食い込むため)、長手方向への位置ずれをより確実に防止できる。
【0026】
可燃性長尺体貫通部を上記のような構造にしておくと、防火区画体6の片側で火災が発生し、可燃性長尺体5が延焼した場合には、可燃性長尺体5の延焼が防火処理部材1に達したところで、熱膨張性耐火材2が端部から熱膨張を開始し、可燃性長尺体5の燃焼部分、溶融部分を包み込んでしまうので、可燃性長尺体5の延焼をそこでストップさせることができる。このため、可燃性長尺体5が防火区画体6の反対側まで延焼するのを防止できる。特に、この防火処理部材1は、内周面の両端付近に周方向にリブ4が形成されているので、熱膨張性耐火材2が端部から膨張し始めてから短時間のうちにリブ4の部分が膨張して、多量の耐火材を供給する。このため、初期段階の防火性能、例えば煙の通過を遮断する性能(遮煙性能)が良好になることが確認された(後述)。
【0027】
ところで図4の実施形態では、防火処理部材1を一方の端面が露出するように配置したが、防火処理部材1は両端面がモルタル等の不燃性充填材7内に位置するように配置してもよい。ただし、防火処理部材1を少なくとも一方の端面が露出するように配置しておけば、防火処理部材1が埋め込まれているか否かを目視で確認することができるので、点検に便利である。なお、防火処理部材1を、両端面がモルタル等の不燃性充填材7内に位置するように配置する場合は、リブ4を熱膨張性耐火材2の両端付近ではなく、両端に設けておいてもよい。要するにリブ4が、防火区画体の開口部7の端部ではなく、開口部7の内部に位置する状態になればよい。
【0028】
〔実施形態2〕図5は本発明に係る防火処理部材の他の実施形態を示す。この防火処理部材1は、熱膨張性耐火材2の内周面の一端付近に複数本(図示の例は2本)のリブ4A1、4A2を周方向に間欠的に形成し、他端付近に同じ本数のリブ4B1、4B2を前記リブ4A1、4A2と周方向に重ならないように周方向に間欠的に形成したものである。リブ4A1、4A2は熱膨張性耐火材2の一端付近で1組のリブを構成し、リブ4B1、4B2は他端付近で1組のリブを構成している。上記以外に構成は図1の防火処理部材1と同じである。図5のような構成にすると、熱膨張性耐火材2の両端付近にリブが周方向に分散して存在することになるので、防火性能が向上する。
【0029】
〔実施形態3〕図6は本発明に係る防火処理部材のさらに他の実施形態を示す。この防火処理部材1は、熱膨張性耐火材2の長手方向の一端の外周にフランジ部9を設けたものである。それ以外の構成は図1の実施形態と同じであるので、同一部分には同一符号を付してある。
【0030】
図7は図6の防火処理部材1を用いた可燃性長尺体貫通部の防火処理構造を示す。この防火処理構造は、図6の防火処理部材1を、防火区画体6の開口部7を貫通する可燃性長尺体5の外周に装着して、フランジ部9が開口部7の端部に位置するように開口部7内に配置し、開口部7内の空隙にフランジ部9の端面が露出するように不燃性充填材8を充填したものである。このような構造にすると、フランジ部9の端面が外部に露出するため、図4の防火処理構造に比べ、防火処理部材1の外部露出面積が大きくなり、防火処理部材1が埋め込まれているか否かの目視による点検を、より容易に確実に行うことができる。またフランジ部9を形成すると、防火処理部材1のばね弾性が強くなり、可燃性長尺体5の把持力を大きくできるという利点もある。
【0031】
〔実施形態4〕図8は本発明に係る防火処理部材のさらに他の実施形態を示す。この防火処理部材1は、開いた裂け目3を軸線に対し斜めに形成したものである。それ以外の構成は図1の実施形態と同じであるので、同一部分には同一符号を付してある。このような構成にすると、可燃性長尺体の延焼が長手方向に進行してくるのに対して、熱膨張性耐火材2の裂け目3の位置が周方向に変化するため、熱膨張した耐火材が可燃性長尺体の燃焼部分、溶融部分を包囲しやすくなり、防火性能を向上させることができる。
【0032】
〔実施形態5〕図9は本発明に係る防火処理部材のさらに他の実施形態を示す。この防火処理部材1は、熱膨張性耐火材2を円筒形にして、裂け目3を実質的に閉じた状態にしたものである。内周面にリブ4が形成されている点は図1の実施形態と同じである。
【実施例】
【0033】
次に本発明を完成するに至った防火処理部材の試作、試験結果を説明する。まず、リブの効果を確認するため、図1のような開いた裂け目を有する防火処理部材で、一端にリブを設けたものと、リブを設けないものとを射出成形により試作した。長さは20mm、30mm、40mm、50mmの4種類とした。熱膨張性耐火材料の熱膨張倍率は約10倍である。断面優弧形の熱膨張性耐火材は厚さ2mm、内径42mm、中心角α(図2参照)240°である。リブは幅1mm、高さ0.5mmである。各試作品を図3に示すような内管5aと波付きさや管5bとからなる可燃性長尺体(呼び径36、外径42mm)の外周に装着し、厚さ105mmの防火壁に形成された開口部内の壁厚方向中央部に配置した。リブありの試作品は、リブがある方の端部が加熱側に位置するように配置した。この状態で、ISO834に基づく壁用1時間耐火試験を行った。試験中及び試験後の試験体の状況を目視で観察した結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1において、「試験開始60分後」までは試験中の状態を非加熱側から観察した結果である。○印は加熱側から非加熱側への延焼が完全に食い止められたもの、×印は延焼が食い止められなかったものである。10分後の段階では全ての試験体に発煙継続(非加熱側への煙の漏れ出し)が観察されたが、これは、防火区画体の開口部内に若干の隙間があったためである。熱膨張性耐火材の熱膨張が始まると、防火性能に問題がないケース(○印)では、その隙間が埋まるので発煙は停止する。
【0036】
また「試験終了後」の評価は貫通部を解体して熱膨張性耐火材の膨張状態を観察した結果である。○印は膨張した耐火材が配管の溶融部分を完全に包み込んで防火性能を満足している事例、×印は膨張した耐火材が配管の溶融部分を完全に包み込んでいないので防火性能を満足しない事例、△印は建築基準法上の1時間の耐火性能は満足するが、試験終了後の解体観察で膨張した耐火材が配管の溶融部分を完全に包み込んでいない状況が見られた事例である。
【0037】
表1の結果によると、長さ20mmでは短すぎて所期の防火性能を得ることはできないが、長さ30mm以上では、それぞれの長さで、リブありの方がリブなしよりも防火性能、特に初期段階で煙の通過を遮断する性能が優れていることが分かる。長さ40mm、50mmのケースでは、リブありの方がリブなしよりも20分程度早い段階で煙の通過を遮断できる。また長さ30mmのケースでは、リブなしは、建築基準法上の1時間の耐火性能が得られないのに対し、リブありは、試験終了後の解体観察で膨張した耐火材が配管の溶融部分を完全に包み込んでいない状況が見られたものの、建築基準法上の1時間の耐火性能を満足する結果が得られている。これは、リブを設けることが耐火性能自体を向上させるのに有効であることを示している。
【0038】
次に、防火処理部材の裂け目が開いていても所定の防火性能が得られることを確認するため、次のような実験を行った。図1のような防火処理部材で、中心角αが200°から310°まで、10°ずつ異なる防火処理部材(リブなし)を射出成形により試作し、各試作品を可燃性長尺体の外周に装着してISO834に基づく壁用1時間耐火試験を行った。可燃性長尺体としてはさや管付き送水管(呼び径36、さや管外径42mm)を使用した。防火処理部材は、内径42mm、肉厚2mm、長さ50mm、熱膨張倍率約10倍である。試験中及び試験後の試験体の状況を目視で観察した結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2において、「試験開始60分後」までは試験中の状態を非加熱側から観察した結果であり、「試験終了後」は貫通部を解体して熱膨張性耐火材の膨張状態を観察した結果である。○印は加熱側から非加熱側への延焼が完全に食い止められたもの、×印は延焼が食い止められなかったものである。×印のうちの※1は加熱側と非加熱側とを貫通する穴が発生し、熱気の貫通が見られた事例である。また、試験終了後の○印は膨張した耐火材が配管の溶融部分を完全に包み込んで防火性能を満足している事例、×印は膨張した耐火材が配管の溶融部分を完全に包み込んでいないので防火性能を満足しない事例、△印は建築基準法上の1時間の耐火性能は満足するが、試験終了後の解体観察で膨張した耐火材が配管の溶融部分を完全に包み込んでいない状況が見られた事例である。
【0041】
表2の結果によれば、熱膨張性耐火材の中心角αが210°以上あれば規定された1時間の耐火性能が得られ、特に240°以上あれば熱膨張性耐火材の膨張状況からみて、より確実な耐火性能が得られることが分かる。したがって熱膨張性耐火材の中心角αは210°以上、特に240°以上にすることが好ましい。
【0042】
次に、図1のような防火処理部材で、中心角αが180°から350°まで、10°ずつ異なる防火処理部材を射出成形により試作し、各試作品について可燃性長尺体への取り付けやすさを実験により確かめた。可燃性長尺体としてはさや管付き送水管(呼び径36、さや管外径42mm)を使用し、防火処理部材は内径42mm、厚さ2.0mm、長さ50mmのものを使用した。各試作品を図1(B)、(C)のようにして配管に取り付けた。このときの取り付けやすさと、取り付けた後の取り付け状態の安定性は、表3のとおりであった。
【0043】
【表3】

【0044】
表3における「評価」は、実使用において問題なく使用できるものを○、使用できなくはないが実使用に多少難があるものを△とした。
【0045】
この試験結果によれば、配管への取り付けやすさ、取り付け状態の安定性の観点からは、熱膨張性耐火材の中心角αは200°〜330°、好ましくは200°〜300°の範囲がよいことが分かる。
【0046】
以上の試験結果を総合すると、熱膨張性耐火材の可燃性長尺体に装着した状態での中心角αは、210°〜330°にすればよく、この範囲内で中心角αを240°以上にすれば防火性能がより確実なものとなり、300°以下にすれば可燃性長尺体への取り付けやすさがより良好なものとなる、ことが分かる。
【0047】
なお、防火処理部材の厚さを変えた実験も行ったが、防火処理部材の厚さは0.8〜2.5mmのものが使用可能であり、特に2.0mm前後のものが好適である。防火処理部材の厚さは、可燃性長尺体の外径が大きいときは厚くし、小さいときは薄くすることになる。この点は従来同様である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材の一実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は(A)のC−C線断面図。
【図2】(A)は図1の防火処理部材を可燃性長尺体に装着する途中の状態を示す正面図、(B)は同じく装着した後の状態を示す正面図。
【図3】図1の防火処理部材を波付き管(可燃性長尺体)に装着した状態を示す、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は(A)のC−C線断面図。
【図4】図1の防火処理部材を用いた、本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理構造の一実施形態を示す、(A)は断面図、(B)は正面図。
【図5】本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材の他の実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は(A)のC−C線断面図。
【図6】本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材のさらに他の実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は(A)のC−C線断面図。
【図7】図6の防火処理部材を用いた、本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理構造の他の実施形態を示す、(A)は断面図、(B)は正面図。
【図8】本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材のさらに他の実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は(A)のC−C線断面図。
【図9】本発明に係る可燃性長尺体貫通部防火処理部材のさらに他の実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は(A)のC−C線断面図。
【符号の説明】
【0049】
1:防火処理部材
2:熱膨張性耐火材
3:裂け目
4:リブ
5:可燃性長尺体
6:防火区画体
7:開口部
8:モルタル等の不燃性充填材
9:フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の一端から他端に達する裂け目を有し、外力を加えて裂け目を広げた後開放すると元の形に戻るだけのばね弾性を有する断面優弧形又は円筒形の熱膨張性耐火材よりなり、この熱膨張性耐火材の内周面に周方向にリブを形成したことを特徴とする可燃性長尺体貫通部防火処理部材。
【請求項2】
リブが、熱膨張性耐火材長手方向の両端又は両端付近に1本ずつ又は1組ずつ周方向に重ならないように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の可燃性長尺体貫通部防火処理部材。
【請求項3】
熱膨張性耐火材長手方向の一端又は両端の外周にフランジ部を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の可燃性長尺体貫通部防火処理部材。
【請求項4】
熱膨張性耐火材は開いた裂け目を有する断面優弧形であり、可燃性長尺体の外周に装着した状態での中心角が210°〜330°の範囲内にあることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の可燃性長尺体貫通部防火処理部材。
【請求項5】
裂け目が軸線に対し斜めに形成されていることを特徴とする請求項4に記載の可燃性長尺体貫通部防火処理部材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の防火処理部材を用い、その防火処理部材を防火区画体の開口部を貫通する可燃性長尺体の外周に装着して開口部内に配置し、前記開口部内の空隙に不燃性充填材を充填したことを特徴とする可燃性長尺体貫通部防火処理構造。
【請求項7】
請求項3記載の防火処理部材を用い、その防火処理部材を、防火区画体の開口部を貫通する可燃性長尺体の外周に装着して、フランジ部が開口部の端部に位置するように開口部内に配置し、前記開口部内の空隙に前記フランジ部の端面が露出するように不燃性充填材を充填したことを特徴とする可燃性長尺体貫通部防火処理構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−282917(P2007−282917A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114808(P2006−114808)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【特許番号】特許第3966893号(P3966893)
【特許公報発行日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000165996)株式会社古河テクノマテリアル (23)
【Fターム(参考)】