説明

可融性インク用インク組成物及び前記インク組成物による被印刷体の印刷方法

【課題】従来のインク組成物は、別個の2成分を受容媒体に順次転写しなければならず、このための印刷装置は複雑になり、インクの製造と処理費用が増す。
【解決手段】本発明はインク液滴をインクダクトから噴射する印刷装置で使用可能であり、インクに可逆的に架橋する物質を含有する可融性インク用インク組成物に関し、前記物質はゲル化剤を含む。被印刷体に転写されたインク液滴が冷却プロセス中にゲルに転移すると、溶融したインク液滴の粘度は著しく増加し、液滴は比較的固定する。こうして、インク液滴は無制御に紙に流入できなくなる。その結果、この種のインクは多孔質被印刷体と平滑被印刷体の両者に利用できる。更に、これらのインクは印刷後に被印刷体を熱後処理する印刷装置でも利用できることが判明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク液滴をインクダクトから噴射する印刷装置で使用可能であり、液状インクと可逆的に架橋する物質を含有する可融性インク用インク組成物に関する。本発明は前記インク組成物による被印刷体の印刷方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
この種のインクは室温で固体であり、高温で液体であり、米国特許第5380769号から公知である。これらのインクは基本インク成分と反応剤の少なくとも2成分を含有する反応性組成物であり、各成分を各々別々に受容媒体に転写する。基本インク成分が反応剤に暴露されるとポリマーが形成され、可逆的結合により液状インク内に網目構造を形成する。この種のインク組成物の主要な欠点は、別個の2成分を受容媒体に順次転写しなければならないという点である。このため、印刷装置は複雑になり、インクの製造と処理費用が増す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5380769号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的はこれらの欠点を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このために、液状インクと可逆的に架橋する物質にゲル化剤を加えたインク組成物を発明した。ゲル化剤はそれ自体が三次元構造を形成することにより液体を増粘することができる。従って、液体はゲル形態に転移する。ゲル化剤は特に高分子量化合物、低分子量化合物、化合物の混合物又は不連続粒子から構成することができる。ゲル化剤の分子又は粒子はゲル内で相互作用し、液体中に網目構造を形成する。この網目構造を形成する際にゲル化剤を構成する分子又は粒子が実際に化学的に結合又は物理的に接触する必要はない。液体中に強化作用をもたらす物理的相互作用だけで十分である。その結果、液体は固相に転移せずに粘度が増す。
【0006】
典型的なゲル化剤は媒体中に弾性網目構造を形成する高分子量伸長分子であり、網目構造の間隙を充填する媒体は液体状態でも固体状態でもよい。間隙内の媒体が液体状態である場合にはゲルが形成され、ゲルは分子が連続液体マトリックス中に比較的容易に拡散できる性質等の所定の液体様性質と、液体のように流動し始める前に変形せずに所定の剪断応力に耐えられる性質等の所定の固体様性質をもつ。網目構造の間隙内の液体が凝固すると、ゲルは固体状態に転移する。
【0007】
インク組成物は室温以上の温度でゲルであることが好ましい。従って、周囲温度以上の温度で受容媒体にインクを印刷することにより網目構造を形成することができる。別の好適態様では、インク組成物は第1の温度でゲルであり、第1の温度よりも高い第2の温度でゾルである。ゾルは低粘度均質液体であり、コロイド粒子を含んでいてもよい。従って、インクは温度が第2の温度(ゲル転移温度とも言う)よりも高くなると結合が破壊されるように架橋される。インクを噴射温度で低粘度にすることができるので、この点は本発明のインクの非常に重要な利点である。粘度が低いと、インクジェット用インクの噴射特性が改善される。
【0008】
ゲル化剤の使用は液体インク(水性及び溶剤インク)から当然公知であるが、これらのゲル化剤は可融性インクで直接使用することができない。実際に、液体をゲルに転移できるような分子又は粒子を選択することは先験的に不可能である。特定化合物が液体をゲル形態に転移できる性質をもつか否かは液体の性質にもよる。更に、可融性インクの場合には、インク液滴をインクダクトから噴射する温度で均質溶融液を形成するように種々の成分の種々の溶解度を正確に調整することは困難であり、溶融したインクを冷却すると、特定の凝固及び結晶化挙動を示す。このため、可融性インクの開発は非常に複雑である。
【0009】
カラギーナン、ラミナラン、ペクチン及びガム(例えばアラビアゴム、キサンタンガム、グアーガム)等の公知ゲル化剤は高分子量ポリマーである。可融性インク自体はインク液滴をインクダクトから噴射する温度で液体インクよりも既に粘性であるため、少量のこのような高分子量ゲル化剤を添加すると、溶融状態で許容できないほど高粘度になる恐れがあり、インクの噴射性に悪影響がある。そこで、余り一般には知られていないが、オリゴマーゲル化剤即ち分子量10000未満のゲル化剤を使用することが好ましく、インク組成物の溶融液粘度に悪影響を与えずにより高濃度のゲル化剤をインク組成物に添加することができる。別の好適態様では、低分子量ゲル化剤即ち分子量1000未満のゲル化剤を使用する。オリゴマー及び低分子量化合物が比較低分子量でありながらゲル化性をもつことができるという事実は次のように説明することができる。オリゴマー及び低分子量ゲル化剤の場合には、分子は温度が十分に低下すると溶融インクから分離し、相互間の非共有相互作用により長い化合物鎖を形成し、この化合物鎖は上記ゲル化剤で高分子量ポリマーと同様に挙動し、化合物鎖は溶融したインク組成物をゲルに転移させる網目構造を形成することができる。ゲル化剤の分子は網目構造を形成するので、25%程度のゲル化剤濃度で液体インク組成物をゲル化させるに十分である。ゲルを加熱すると、ゲル化剤の分子間の相互作用が妨げられ、ゾルが再形成される。オリゴマー及び低分子量ゲル化剤を使用すると、ポリマー鎖の化合物分子間の比較的弱い非共有結合を切断するだけでゲル−ゾル転移が生じるのでゲル−ゾル転移が比較的迅速に生じるという利点もある。更に、小分子が溶融インクマトリックス中でより迅速に均質に混合される。例えば印刷機の始動時や使用者が画像をすぐに印刷したい場合などのように可融性インクをすぐに溶融状態にしなければならないことは多いので、これは重要な利点である。ホットメルトインクで使用するには、両親媒性即ち極性と非極性をもつゲル化剤を使用することが好ましい。例えば、直鎖アルカン主鎖と付加極性基をもつゲル化剤が挙げられる。両親媒性によりゲル化剤と種々のホットメルトインク組成物の組み合わせは単純になる。本発明による最適機能をもつゲル化剤はインク組成物の総重量の10%未満の量を添加すればよい。このようなゲル化剤を見いだすことは困難であるが、溶融したインクの粘度や他の物性(例えば凝固したインクの溶融温度、接着性及び機械的性質)に悪影響がないばかりか、その結果として液体インクの溶解性も予想されないという利点がある。別の好適態様では、ゲル化剤はインク組成物全体の5%未満を構成する。
【0010】
インクがインクダクトから噴射前にダクト内にあるときにゲル化しないようにするためには、インクはインク液滴がインクダクトから噴射される温度(「使用温度」、一般に60℃〜160℃)で低粘度ゾルであり、使用温度よりも少なくとも10℃低温でゲルであることが好ましい。インク液滴が被印刷体上で冷却されるとすぐにゲル化し、被印刷体に接着しにくくならないようにするためには、インク組成物がゾルからゲルに転移する温度は使用温度と少なくとも20℃の差があることが好ましい。インクは被印刷体上でゲル化した後、更に冷却され、最終的に網目構造の間隙内に配置されたインク組成物の可融性フラクションは固体状態に転移する。こうして、インク液滴は例えば被印刷体の糊付け、引っ掻き及び折り曲げに起因する機械的変形に対して十分な耐性を提供するために必要な強度を獲得する。
【0011】
米国特許第5,902,841号はヒドロキシ官能性脂肪酸を含有するホットメルトインクジェット用インクを開示している。これらのインクは高温の液相から周囲温度の固相に冷却される間に準安定ゲル相に移る。しかし、準安定ゲル相は網目構造の間隙に凝固したインクが充填された固体状態である。従って、これらのインクは液体状態のインクのゲル化又は架橋に関する本発明のインク組成物とは相違する。
【0012】
ゲル化剤を加えた可融性インク組成物は公知可融性インクに比較して多数の驚くべき利点がある。最も重要な利点は、本発明のインク組成物では紙等の多孔質被印刷体に非常に良好な印刷結果が得られるという点である。被印刷体が比較的高温の場合でも、不鮮明な印刷画線(「ひげ」)、色滲み(「色ブリード」)又は被印刷体裏面のインク滲み(「ブリード」)等の原因となるインク液滴の許容不能な滲みがない。インクが冷却プロセス中に比較的高温で既にゲル状態に転移している場合には、粘度が増すため、液滴は比較的固定する。従って、インク液滴は紙に無制御に流入することができなくなる。他方、インクはゲル化状態であっても十分な液体様性質を保持していることが不可欠である。網目構造の間隙内のインクはまだ溶融液体状態にあるのでこれらの性質は存在する。従って、ゲル化したインク液滴は紙に容易に浸透し、紙の表面でインクが硬化しないようにすることができる。
【0013】
ゲル化剤を添加しないインクは液滴の温度が凝固点よりも高い限り、液体として挙動し続ける。特に高温の被印刷体の場合には、インク液滴の冷却に非常に時間がかかることが多い。その結果、公知インク組成物のインク液滴は非常に長時間液体に維持されるため、印刷パターンが不鮮明になる。公知インクでは、特に凝固点の高いインク組成物を選択することによりこれを防止している。しかし、この種の組成物にはいくつかの欠点がある。まず、凝固点が高いと一般に融点も高くなるので、印刷装置を高温まで加熱しなければならず、印刷装置構造に著しく厳しい要件が必要になる。第2に、凝固点の高いインク液滴は受容媒体の表面で硬化する傾向がある。このため、インク液滴は機械的衝撃に耐えることができず、例えばホットメルトインクに非常に多発する現象であるスミアが生じる。
【0014】
本発明のインク組成物には、インク液滴の滲みがインク組成物中に存在する他の成分の凝固性に依存しないという利点もある。本発明のインク組成物では、滲みは(例えばインク組成物中の結晶質又は非晶質成分が凝固するので)インクが固体状態に転移する温度ではなく、インクがゲル状態に転移する温度により決定される。従って、インク液滴の滲みにさほど悪影響を及ぼすことなく、凝固速度の遅い材料や早い材料からインク組成物の他の構成材料を選択することができる。例えば、インクが被印刷体のサイズ剤と強い相互作用を生じるようにするためには、凝固を遅くするほうが望ましい。糊付け、引っ掻き及び折り曲げに対する必要な耐性を印刷体に早く与えるためには凝固をより迅速にすることが望ましい。ゲル化剤分子の網目構造は他の材料の凝固の種子としても利用できる。例えばインク組成物の主要成分として結晶質材料を選択する場合には、ゲル化剤を添加すると、滑らかなマット−グロス印刷を実現する微結晶マトリックスが得られる。このようなインクでは、インクマトリックス中の結晶質材料の結晶化が十分に刺激されるならば、低純度結晶質材料を使用したり、より非晶質の材料をインク組成物に加えることができ、例えば染料の溶解能を増すことができる。インク成分の結晶化が迅速であると、インク組成物を室温まで冷却した後にインク組成物が比較的すぐに硬化するので有利である。これは被印刷体の印刷に有利であるばかりでなく(印刷体は印刷後比較的短時間で糊付け、引っ掻き及び折り曲げ等の機械的衝撃に耐性になる)、溶融インクからインクピルを製造するのにも有利である(金型で凝固するピルは比較的迅速に十分に硬化するので、その後の取り扱い時にすぐに金型から取り出すことができる)。最後に、結晶化を強化することにより、印刷画像中に白い曇りとして現れる後結晶化又は再結晶化の問題も避けられる。
【0015】
インク組成物にゲル化剤の混合物を添加してもよい。その結果、ゲル形成プロセスを厳密に調節することができ、その後、他のインク成分の凝固、特に結晶質成分の結晶化を任意の所望方法で刺激することができる。
【0016】
顔料入りインクにゲル化剤を使用すると顔料の分布が良好になり、このようなインクの印刷層はゲル化剤を使用しない場合よりも均一になることが判明した。
【0017】
更に、ゲル化剤を使用すると、滑らかな非多孔質物質を媒体として使用する場合にも有利であることが判明した。相互に隣接して印刷されたインク液滴の凝結は大幅に抑制されることが判明した。この現象はゲル化したインク液滴の移動度の低下に関係があると思われる。
【0018】
インク組成物は4色印刷で従来実施されているようにインクを多層印刷に使用する場合にも有利である。先の液滴が完全に凝固しないうちに次の液滴を先の液滴の上に印刷することが理想的である。この結果、良好な接着と色混合が得られる。従って、相当長時間にわたって被印刷体上で液体に維持されるインクを選択することが好ましい。しかし、インク液滴があまりに長時間液体のままであると、望ましくない滲みが生じ、印刷画像が不鮮明になる。本発明のインク組成物を使用することにより、未硬化インク液滴の望ましくない滲みを防止することができ、次のインク液滴とより良好な接着が得られる。当然のことながら、接着と色混合に関する限り、ゲル化したインク液滴はひげの問題なしに液体インク液滴と同様に挙動する。
【0019】
最後に、本発明のインク組成物は特にインク液滴への熱伝達と後処理を組み合わせる場合(熱後処理として知られる)に後処理装置を備える印刷装置に非常に適していることが判明した。インク液滴と紙の相互作用を良好にして例えば糊付け、引っ掻き及び折り曲げに対する良好な耐性を得るため、又は印刷画像の均質性を改善して例えばより均一な光沢を提供するために公知インクの印刷層を後処理する際には、インクをその融点以上まで加熱しなければならないことが多く、従って粘度の低下により無制御に紙に浸透するため、すぐに望ましくないインクの滲みを生じる。本発明のインク組成物を後処理装置で使用すると、インク液滴が昇温により固体状態からゲル化状態に転移するので、無制御なインクの滲みを生じることなく、処理済み被印刷体の糊付け、引っ掻き及び折り曲げ耐性が著しく増すことが判明した。当然のことながら、ゲル化したインク液滴は被印刷体内に更に移動するために十分な液体性質をもつが、インク液滴内の凝集が大きいため、インク液滴の無制御な滲みは避けられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ゲル化剤の有無によりインク組成物の剪断応力が適用剪断速度にどのように依存するかを示す。
【図2】図1について記載したインク組成物の剪断速度に対する粘度を示すグラフである。
【図3】本発明のインク組成物と公知インク組成物の熱的性質を示すグラフである。
【図4】ゲル化剤の有無によるインク組成物の印刷結果を示す。
【図5】紙温度に伴うゲル化剤の有無によるインク組成物の印刷結果を示す。
【図6】後処理条件の変化に伴うゲル化剤の有無によるインク組成物の印刷結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、表と図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0022】
表1はゲル化剤の一覧であり、表2は結晶質材料の一覧であり、表3aは多数の非晶質モノマー及びオリゴマー材料の一覧であり、表3bは市販オリゴマー及びポリマー材料の一覧であり、表4は本発明の多数のインク組成物の可融性フラクションを示し、表5は本発明のインク組成物の一覧であり、表6は多数の比較用インク組成物を示し、表7はゲル化剤がインク液滴の被印刷体拡がりに及ぼす効果を示す。
【0023】
表1
表1は本発明のインク組成物で使用可能なゲル化剤の一覧である。本表は実際に脂肪族で実質的に非極性のゲル化剤から強い極性相互作用を生じるゲル化剤まで示している。
【0024】
表2
表2は本発明のインク組成物で使用可能な結晶質材料の一覧である。本表のA部分は数種の結晶質ビスウレタンを示し、この場合にはヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と夫々メチルエチレングリコール(MEG)、エチルエチレングリル(EEG)、ヘキサノール(HA)及びフェニルエチルアルコール(PEA)の反応生成物である。B部分は数種のスルホンアミド、即ちパラトルエンスルホンアミド、オルトトルエンスルホンアミドとパラトルエンスルホンアミドの40/60混合物、パラエチルベンゼンスルホンアミド、パラトルエンスルホンアミドとパラエチルベンゼンスルホンアミドの混合物及びパラn−ブチルベンゼンスルホンアミドを示す。C部分は数種の(ジ)アルコールに関するデータを示す。D部分は本発明のインク組成物で使用可能な他の化合物を示す。
【0025】
表3a
表3aは本発明のインク組成物で使用可能な非晶質モノマー及びオリゴマー材料の一覧である。本表のA部分はペンタエリトリトール化合物を示し、化合物1はペンタエリトリトールテトラベンゾエート、化合物2、3及び4は夫々オルト、メタ及びパラトルイル酸エステル、化合物5はメタトルイル酸化合物とパラトルイル酸化合物の統計的合成混合物、化合物6はテトラアニシル酸化合物である。本表のB部分に示す化合物9〜12は部分的に類似するジペンタエリトリトール化合物である。化合物12はジペンタエリトリトールの六炭酸化合物である。
【0026】
表3aのC部分は脂肪族アルコール(例えばイソプロピルアルコール、メチルアルコール、エチルアルコール)又は芳香族アルコール(例えばベンジルアルコール)とイソホロンジイソシアネートの化合物を示す。
【0027】
表3aのD部分は4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートとアルコール(ベンジルアルコール及びフェニルエチルアルコール)の化合物を示す。
【0028】
本表のE部分はジフェニルメタンジイソシアネートとアルコールをベースとする数種の他のビスウレタンに関するデータを示す。
【0029】
F部分はビスフェノールAのジグリシジルエーテルと夫々パラフェノール(21)、パラシクロヘキシルフェノール(22)、パラ第3アミルフェノール(23)及びパラ第3ブチルフェノール(24)の反応生成物に関するデータを示す。
【0030】
本表のG部分は2,2’−ビフェノールから誘導される化合物を示す。夫々メトキシ安息香酸(25)、オルト、メタ及びパラメチル安息香酸(26、27、28)並びにビフェノールのフェニル炭酸塩(29)とビフェノールのエステルを示す。
【0031】
H部分はプロポキシル化グリセロールとシクロヘキシルイソシアネートから誘導されるウレタン(30)を示す。これはxの平均値に依存する比ガラス転移温度をもつ物質の混合物である。xが約1であるとき、この温度は17℃である。
【0032】
I部分はペンタエリトリトールとシクロヘキシルイソシアネートから誘導されるウレタン(31)を示す。xが平均約1であるとき、この種のウレタン混合物は23℃のガラス転移温度をもつ。
【0033】
J部分はジトリメチロールプロパンとシクロヘキシルイソシアネート50モル当量をベースとするウレタン混合物(32)を示す。最後に、K部分は化合物N,N’−ビス(ベンゾイル)−2−メチル−1,5−ジアミノペンタン(33)を示す。
【0034】
表3b
本表は本発明のインク組成物で使用可能な市販非晶質オリゴマー及びポリマー材料の一覧である。
【0035】
表4
表4は本発明の多数の組成物の可融性フラクションを示す。これらのインクの可融性フラクションはゲル化剤と、インクを十分に硬質にするための主成分としての結晶質材料と、印刷インク層が被印刷体の糊付け、引っ掻き及び折り曲げ等の機械的応力に対して十分な耐性をもつようにインクを十分に軟質にするための非晶質材料を含有する。必要な機械的性質をインクに与えるために結晶質材料と非晶質材料の組み合わせと量を変えてもよい。例えば、インクの可融性フラクションを実質的に完全にろうから構成することは公知であるが、非晶質材料のみを選択することも可能である。インクの可融性フラクションは多数の非晶質材料の組み合わせから構成してもよいし、1種以上の結晶質材料を加えても加えなくてもよい。本表はインク組成物中に存在する種々の成分の重量百分率を示す。
【0036】
実用には、顔料や染料等の1種以上の着色剤を可融性混合物に添加する。更に、酸化防止剤、必要に応じて腐食防止剤、成分の相互溶解性を改善する化合物、接着向上剤、湿潤剤、界面活性剤、分散剤等の通常の添加剤もインクの各々に添加してもよい。これらの全添加剤は特に液体状態と固体状態でインクの必要な性質、印刷装置の種類、印刷速度、被印刷体の種類、及びインクの必要な機械的性質によって異なる。
【0037】
表5
表5は本発明の3種のインク組成物I、II及びIIIを示す。これらのインク組成物は各々結晶質材料(K)、非晶質材料(A)及びゲル化剤(G)を含有している。インク組成物は染料(KI)を添加し、インク組成物I及びIIIの場合にはMacrolex Rot(Bayer)、組成物IIの場合にはOrasol Blau(Ciba−Geigy)を添加した。更に、3種のインク組成物は湿潤剤(V)BYK307(Byk Chemie)を添加した。
【0038】
表6
比較のために、表6はインク組成物にゲル化剤を添加しない以外は表5と同様のインク組成物を示す。
【0039】
表7
表7はインク組成物I(表5)及びI’(表6)を比較検討し、インク液滴の被印刷体転写時に前記被印刷体の温度に依存するインク液滴拡がりに及ぼすゲル化剤添加の効果を示す。
【0040】
実験はピエゾプリンターの印刷ヘッドを135℃まで加熱し、該当インク組成物のインク液滴を厚さ(単位面積当たり重量)135g/mの光沢紙(Oce Royal Digital Gloss)に噴射することにより実施した。この場合の噴射インク液滴の直径は約36μmであった。流出口と紙の間の距離は約0.8mmとした。
【0041】
紙温度は25℃〜43℃とした。これらの温度の各々で凝固したインク液滴の直径(上面図)を実験後に測定した。次に、この直径を25℃の紙上で凝固した液滴(参照液滴)の直径で割った。本表はこうして得られた数値を示す。これらの数値は紙温度の関数としてインク液滴の滲み(ひげ)の客観指数を構成する。本表から明らかなように、38℃以上の紙温度でゲル化剤を添加しないインク組成物(I’)はゲル化剤を添加したインク組成物(I)よりも明白にひげが多い。38℃の紙温度では、ゲル化剤を添加しないインク組成物の液滴は参照液滴の1.8倍であるが、本発明のインクの場合には1.5倍である。43℃ではこれらの数値は夫々2.3倍と1.8倍である。
【0042】
図1
図1はゲル化性をもつインク化合物ともたないインク化合物で特定剪断速度(x軸に秒の逆数で表す)を達成するために必要な剪断応力*(y軸にパスカルで表す)を示す。測定は、該当インクの溶融液を定常モードで漸増剪断応力に暴露し、該当剪断速度を測定することにより、Rheometrics DSR−200 Dynamic Stress Rheometerで実施した。本図は基材としてHMDI−MEG(表2)70%と結合剤としてPBPA−BuP(表3a)20%にゲル化剤gel−23(表1)を添加するか又は添加せずに構成したインク組成物の結果を示す。
【0043】
種々のインク組成物を溶融開始温度である70℃まで加熱した。上記インク組成物にゲル化剤を添加しない場合に認められる関係を曲線1により示すが、剪断応力は剪断速度と共に直線的に増加している。ゲル化剤2%を添加する場合に認められる関係を曲線2により示す。同一剪断速度を達成するためにより大きい剪断応力が必要になることは明白である。従って、液体は「高粘度」になり、運動中に固定するためにはより大きな力が必要になる。曲線3に示すように4%ゲル化剤を添加すると、同一剪断速度を達成するために更に大きい剪断応力が必要になる。更に、このインク組成物ではゲル化剤により降伏応力が導入されることが判明した。従って、ゲル化剤を添加したインク組成物で(この場合には10−3−1の剪断速度により制限される)認識可能な運動を得るために必要な剪断応力は最小になる。
【0044】
図2
図2は図1について上述したような3種のインク組成物の粘度が剪断速度にどのように依存するかを示す。粘度は剪断応力と剪断速度の関係から公知方法で得られる。グラフから明らかなように、3種のインク組成物の粘度は高剪断速度でほぼ一致する。インクの温度をゲル転移温度よりも上げ、ゲル化剤分子の網目構造を破壊すると、全速度範囲にわたって容易に認識可能な粘度差は見られなくなる。従って、インク液滴の噴射をゲル転移温度よりも高温で実施するならば、ゲル化剤添加はインク組成物の噴射性に悪影響がない。本図から明らかなように、剪断速度が低いと、ゲル化剤を添加しなかったインク組成物の粘度は増加せず(曲線1)、これはインク組成物が70℃で完全に溶融したという事実に一致する。他方、2%(曲線2)と4%(曲線3)のゲル化剤を添加したインク組成物の粘度はインクが硬化していないにも拘わらず剪断速度の低下と共に急激に増加する。従って、これらのインク組成物は粘稠高粘度液体として挙動し、実際に運動しなくなる。これは、例えばインク液滴が被印刷体上で冷却する場合である。ゲル化したインク液滴は粘性が高いため、インク液滴の望ましくないひげは生じない。他方、インク液滴はまだ液体様性質を維持しているので、インク液滴は受容媒体にまだ容易に浸透したり、相互作用したり、良好な色効果を得るために十分に他のインク液滴に接着することができる。
【0045】
図3
図3は2種のインク組成物の凝固挙動を示すサーモグラムであり、温度(℃)に対する組成物のエンタルピー変化(J/g)としてDSCで記録した。DSC測定装置の1例はPerkin Elmer Co.,Norwalk CT製品であるPerkin Elmer DSC−7である。曲線1は120℃から10℃まで冷却したときのインク組成物III’(表6)のエンタルピー変化を示す。グラフから明らかなように、このインクは27℃で高発熱性のプロセスを経過し、インク組成物はこの温度で凝固する。4%gel−23(表1)をこのインク組成物に添加する場合(表5のインク組成物III)に測定した関係を曲線2に示す。分かりやすくするために、この曲線は測定データに対して+2J/gシフトした。インク組成物は約90℃の温度で僅少な発熱プロセスを経過していることが認められる。この温度で溶融インク組成物はゲル形態に転移する。インク単位質量当たりに放出される合計エネルギー量は曲線1に示すようにインク組成物が固体状態に転移する際に放出されるエネルギー量の非常に小さい割合でしかないので、インク組成物が固体状態に転移していないことは明白である。ゲル化剤を添加しなかったインク組成物は37℃まで固体状態に転移しない。インク組成物の凝固温度はゲル化剤を添加しない場合よりも10℃高いので、ゲル化剤分子の網目構造の存在が他のインク成分(例えば結晶質材料又は非晶質結合剤)の凝固に相当影響し得ることは明白である。この場合には、ゲル化剤は結晶質材料の凝固を加速する。
【0046】
図4
図4はインク組成物II(表5)及びII’(表6)の印刷結果を示す。各組成物につき、幅1画素行(「1画素」ライン)のライン3本と、幅2画素行(2画素ライン)のライン2本と、幅5画素行(5画素ライン)のライン1本から夫々構成されるラインパターンを紙(Oce Red Label)に温度28℃で印刷した。画像はピエゾホットメルトプリンターの印刷ヘッドを135℃まで加熱し、37μmの寸法のインク液滴を噴射することにより印刷した。印刷ヘッドと紙の間の距離は0.8mmとした。
【0047】
画像1はインク組成物IIによる印刷結果であり、画像2はゲル化剤を添加しない同一インク(インク組成物II’)の印刷結果である。少量(2%)のゲル化剤を添加すると印刷画像の鮮鋭度に相当の効果があることは明白である。
【0048】
図5
図5は紙温度に対するインク組成物I(表5)及びI’(表6)の印刷結果を示す。インクは光沢紙(Oce Royal Digital Gloss)に印刷した。画像は幅約120μmのラインである。この画像を印刷するために、ピエゾプリンターの印刷ヘッドを135℃まで加熱した後、ピエゾ素子を始動することにより直径約36μmのインク液滴を噴射した。印刷ヘッドの流出口と紙の間の距離は約0.8mmとした。第1組の5個の画像は組成物I’のインクによる前記ラインの印刷に及ぼす紙温度増加の影響を示す。紙温度は左端の画像の25℃から2番目の画像の30℃、3番目の画像の34℃、4番目の画像の38℃を経て5番目の画像の43℃まで上げた。この場合にはまだ液体のインク液滴が凝結してより大きいインク液滴を形成するので、温度増加がラインの縁部鮮鋭度の低下に結び付けられることは明白である。その結果、印刷したラインは幅が広がるばかりでなく、光学密度も低下する。第2組では組成物Iのインクで同一実験を実施する。図から明らかなように、紙の温度を25℃から(30℃、34℃及び38℃を経て)43℃まで上げても画像に殆ど影響ない。当然のことながら、インクが被印刷体上で冷却すると、非常に移動しにくくなり、インク液滴の凝結が阻止される。
【0049】
図6
図6は印刷画像の後処理が画像品質に及ぼす効果を示す。この目的で、ピエゾプリンターの印刷ヘッドを135℃まで加熱してインク組成物I(表5)及びI’(表6)の画像を印刷した。噴射したインク液滴の直径は約35μmであった。液滴は温度25℃で紙(Oce Red Label)に印刷した。各場合の画像はインク4滴から構成される。画像の印刷後にOce 7050ワイドフォーマットコピー機の輻射ヒューザーで種々の熱後処理を行った。
【0050】
第1組の3個の画像は組成物I’のインクの印刷画像に及ぼす熱後処理の影響を示す。最初の画像は参照画像であり、後処理せずに25℃で被印刷体に液滴を印刷した場合に形成される画像である。2番目の画像は60℃で10秒間後処理することにより得られた画像である。この処理では、インク液滴は明白なひげを示し、縁部が不鮮明で、光学密度が低い。60℃で30秒間後処理すると、これらの悪影響は更に顕著になる(3番目の画像)。
【0051】
インク組成物Iに同一の後処理を実施すると、図6の第2組に示すように印刷品質に実質的に負の影響はないことが判明した。インク液滴は殆ど滲まず、従って光学密度も実質的に低下しないことが明白である。ゲル化したインク液滴は粘度が比較的高いため、紙に平行な方向に拡がらずに紙に浸透するのみである。その結果、印刷の外観品質を損なうことなく、糊付け、折り曲げ及び引っ掻き等の機械的応力に対する印刷インク液滴の耐性が増す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
【表7】

【0059】
【表8】

【0060】
【表9】

【0061】
【表10】

【0062】
【表11】

【0063】
【表12】

【0064】
【表13】

【0065】
【表14】

【0066】
【表15】

【0067】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク液滴をインクダクトから噴射する印刷装置で使用可能であり、液状インクと可逆的に架橋する物質を含有する可融性インク用インク組成物であって、前記物質がゲル化剤を含むことを特徴とする前記インク組成物。
【請求項2】
インク組成物が室温以上の温度でゲルであることを特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
インク組成物が第1の温度でゲルであり、第1の温度よりも高い第2の温度でゾルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
ゲル化剤が10,000未満の分子量をもつ化合物を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
ゲル化剤が1000未満の分子量をもつ化合物を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
ゲル化剤が両親媒性をもつことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
インク組成物が10重量%未満のゲル化剤を含有していることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項8】
インク組成物が5重量%未満のゲル化剤を含有していることを特徴とする請求項6に記載のインク組成物。
【請求項9】
インク組成物がインク液滴をインクダクトから噴射する温度でゾルであり、低温でゲルであり、前記低温がインク液滴をインクダクトから噴射する温度と少なくとも10℃の差があることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項10】
前記低温がインク液滴をインクダクトから噴射する温度と少なくとも20℃の差があることを特徴とする請求項8に記載のインク組成物。
【請求項11】
インク組成物が結晶質基材を含み、前記基材がトランスシクロヘキサン−1,4−ジメタノール−ジ−1−トルエート、N−メチルパラトルエンスルホン酸、1,4−ブタンジオール−ジ−4−トルエート、1,6−ヘキサンジオール−ジ−4−トルエート、1,4−ジフェノキシブタン及び2−メチル−1,3−プロパンジオールとn−プロピルイソシアネートをベースとするウレタンから構成される群から選択されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項12】
インク組成物が結合剤としてウレタンを含有しており、前記ウレタンがシクロヘキシルイソシアネートとポリアルコールから誘導されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項13】
ポリアルコールがアルコキシル化グリセロール、ペンタエリトリトール及びジトリメチロールプロパンから構成される群から選択されることを特徴とする請求項12に記載のインク組成物。
【請求項14】
ポリアルコールがプロポキシル化グリセロールであることを特徴とする請求項13に記載のインク組成物。
【請求項15】
溶融インク液滴を被印刷体に転写した後に被印刷体を後処理する被印刷体の印刷方法であって、インク組成物がゲル化剤を含有していることを特徴とする前記方法。
【請求項16】
被印刷体を熱後処理することを特徴とする請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−7039(P2013−7039A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−162687(P2012−162687)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【分割の表示】特願2000−187158(P2000−187158)の分割
【原出願日】平成12年6月22日(2000.6.22)
【出願人】(390039435)オセ−テクノロジーズ・ベー・ヴエー (103)
【氏名又は名称原語表記】OCE’−NEDERLAND BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】