説明

可視光で光触媒活性を有するTi酸化物膜およびその製造方法

親水性、防曇性を有し、透明性に優れ、かつUV光によるガス分解性を有する、可視光応答性を有するTi酸化物膜およびその製造方法並びにTi酸化物膜付き基体を提供する。 ガラス基板上に形成されたTi酸化物膜であって、100mW/cmの輝度を有するキセノンランプの光を、400nm未満の紫外光をカットして前記Ti酸化物膜に照射しながら前記Ti酸化物膜に電圧を印加したときの電流値が、暗所における前記Ti酸化物膜に該電圧と同じ電圧を印加したときの電流値に対して1000倍以上であるTi酸化物膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車用の防曇ガラスに用いられる可視光光触媒性を有するTi酸化物膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタンなどが示す光触媒機能を利用した応用商品の開発が盛んである。たとえば、光を照射することにより、有機物質を分解し、防汚(特に、有機系物質除去)、抗菌、大気清浄などを目的とした光触媒性能を利用する商品の開発が検討されている。
【0003】
また、近年、ガラス基板などの透明基体上に光触媒材料を薄膜として形成し、形成された膜の光触媒性能を利用することにより有機物質を分解し、防汚(有機系物質除去)、抗菌、大気清浄などが可能であることが分かり、上記光触媒性能を利用した建材用ガラス、自動車などの車両用ガラスなどへの応用が期待されている。
【0004】
しかし、通常の酸化チタンでは励起光として380nm未満の紫外線が必要である。通常の励起光源である太陽光や人工光では紫外線よりも可視光線のほうがより多くのフォトンを含むため、通常の酸化チタンでは励起光の大部分を利用できず、効率という観点からも好ましいとは言えなかった。
【0005】
近年においては、紫外光を使用することができない場所に好適に用いられる可視光応答性を有する光触媒の研究が盛んに行われてきている。例えば、非晶質又は不完全な結晶質の酸化チタン及び/又は水酸化チタンを、アンモニア又はその誘導体の雰囲気下で加熱し、生成する材料の波長450nmにおける光吸収率が原料酸化チタン化合物の450nmにおける光の吸収より大きい時点で加熱を終了させる方法により、可視光応答の光触媒が得られることが開示されている(例えば、特許文献1および2参照。)。しかし、本方法はアンモニア雰囲気での加熱であり、大気雰囲気加熱ではない。よって、実用上雰囲気制御可能な加熱炉が必要であり、かつアンモニアガスの漏洩防止などの設備コストもかかる問題があった。さらに加熱温度条件としては250℃から550℃についての記載がされているが、550℃を超える温度域に関する記載はない。
【0006】
通常自動車用などの車両用ガラスでは、製造工程においてガラス基板の強化、曲げ加工が行われる。このガラス基板の強化、曲げ工程の最高温度は600℃〜700℃でかつ大気中で行われることが多い。従って特許文献1または2記載の可視光応答の光触媒では、ガラス基板上の酸化チタンを強化、曲げ工程の温度条件に加熱すると、可視光域での光吸収が小さくなり可視光応答性が得られない可能性があった。そのため車両用には使用しにくく、用途が限定されていた。また本材料を薄膜化するための工程も必要であり、設備コストの上昇を招く恐れがあった。
【0007】
またアンモニア雰囲気での加熱を要しない方法として、光触媒膜表面より深い層におけるO/Ti原子数比が、表面におけるO/Ti原子数比よりも小さい酸化チタン系光触媒を製造するための方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この引用文献における光触媒は、チタンアルコキシドとアセチルアセトンなどのキレート化剤との錯体を、酸化性雰囲気で好ましくは400〜700℃で加熱する事により得られるものであるが、チタンアルコキシドとキレート化剤の使用により製造コストがかかること、O/Ti比の原子数比を表面と内部で制御するのが困難であることなどの製造上の問題点があった。例えば、加熱温度を高くすると完全に光触媒膜の内部も酸化されてしまうため、温度はなるべく高く上げすぎないことが好ましい旨の記載があるが、実施例の記載は500℃のみであり、車両用ガラスのようにガラス基板の強化、曲げ工程を必要とする工程では、この加熱温度ではO/Ti比の原子数比を表面と内部で制御するためには製造条件が極めて限定されるなどの問題があった。
【0008】
さらに可視光応答性を有する光触媒を得るための方法として、酸化チタンへのN、S、Cなどのアニオンドーピング又はCr、V、Niなどのカチオンドーピング又はアニオンとカチオンとの共ドープといった方法が開示されている(例えば、Nドーピングの例として特許文献4および5参照。スパッタ法による酸化チタンへのアニオンドープの例として特許文献6参照。)。これらの引用文献によれば、ターゲットにTi、TiO又はTiSを用い、RFマグネトロンスパッタ等にて成膜後、550℃程度2時間で加熱処理することにより可視光応答光触媒が得られる旨が記載されているが、これらの製造方法ではTiOターゲットやTiSターゲットなどのセラミックスターゲットを用いた場合にはRFスパッタ法でしか成膜できないという制約があった。RFスパッタ法は製造設備も直流(DC)スパッタ設備に比べ高価で、かつ成膜速度が遅いため、製造コストがかかるという問題があった。またターゲットにTiを用いた場合では、DCスパッタが可能であるが、反応性スパッタによりTiONなどの酸窒化物を成膜する方法も同様に成膜速度が遅いという問題があった。
【0009】
さらに、スパッタ法により成膜したTiOをNH雰囲気又はNHを含む雰囲気下でランプ加熱しTiONからなる可視光応答光触媒が得られる旨の記載がなされている(例えば、特許文献7参照。)。しかし、本方法ではNH雰囲気が必要であり、大気雰囲気での加熱ができないため、ガラスの強化、曲げ工程への適用不能と考えられるため、用途が限定されるという問題があった。
【0010】
またカチオンドーピングの例として、アナターゼ型TiOにCr、Vなどの金属元素をイオン注入し加熱処理を行うことにより可視光応答光触媒を得ることが可能である旨の記載がなされている(例えば、特許文献8参照。)。しかし、本方法はイオン注入という方法を用いることから設備コストがかかること、薄膜の場合、膜面内の均一性を得るには製造時間がかかること等の問題があった。
【0011】
光触媒機能を示す酸化チタンからなる膜の形成方法として、ウエット法が主として検討されてきた(例えば、特許文献9参照。)。前記ウエット法としては、例えば、酸化チタンの微粒子を有機または無機のバインダにより固定する方法や、チタン有機金属溶液からゾルゲル法で形成する方法が挙げられる。前記ウエット法によれば、タイルのような小さい面積を有する基板に対して液を塗布することにより、光触媒機能を示す酸化チタンからなる膜を形成することができる。しかし、窓ガラスのような大きい面積を有する基板に対して液を塗布する場合、形成された膜の厚さは均一にならず、形成された膜の耐擦傷性も不十分であった。また、塗布液を一定の状態に保管しておくことは非常に困難であった。
【0012】
ウエット法における前述したような問題点を解決するために、光触媒性能を有するTi酸化物膜を真空蒸着法で形成する手段が開示されている(例えば、特許文献10参照。)。本引用文献には、Ti酸化物膜の上にSi酸化物膜を積層することにより、暗所での親水性保持時間が大幅に改善されることが示されている。しかし、真空蒸着法では、大きい面積を有する基板にTi酸化物膜を形成した場合、ウエット法と同様、膜の厚さの均一性を維持することが難しいという欠点があった。特に、建築用ガラスや車両用ガラス等の用途のガラス基板にTi酸化物膜を形成した場合、膜厚の均一性、透明性、光学特性、外観等が良好であることが要求されるため、真空蒸着法でこの性能を実現することは困難であった。
【0013】
一方、建築用や車両用の熱線反射ガラスの製造に用いられる、金属ターゲットを用いたDCスパッタ法は、大きい面積を有する基板に均一な膜厚を有する膜を容易に形成でき、かつ形成された膜の基板への密着性も優れており、また、スパッタターゲットの保管にも特別な注意を必要としないという利点を有している(例えば、特許文献11参照。)。しかし、通常のチタン金属ターゲットを用いたDCスパッタ法においては、酸素などの酸化物ガスをスパッタガス中へ混入させる必要があるため、Ti酸化物膜の成膜速度が非常に遅くなるという欠点があった。
【0014】
上記問題点を解決するために、デュアルマグネトロンスパッタ装置やプラズマエミッションによる制御を用い、チタン又は酸化チタンターゲットでチタン酸化物を成膜したのち、大気雰囲気で加熱処理することにより光触媒性酸化チタンを得る方法が開示されている(例えば、特許文献12または13参照。)。しかし、本方法では成膜後のチタン酸化物の可視光域における吸収量がほとんどないか、あったとしても大気アニールにより可視光域における光吸収が容易に消失すると考えられる。よって、紫外光に対して光触媒活性を有する旨の記載はあるが、可視光に対して光触媒活性を有する旨の記載はない。
【0015】
【特許文献1】特開2002−255555号公報
【特許文献2】特開2002−331225号公報
【特許文献3】特開平10−146530号公報
【特許文献4】WO01/010553号公報
【特許文献5】特開2001−207082号公報
【特許文献6】特開2001−205103号公報
【特許文献7】特開2003−40621号公報
【特許文献8】特開平9−262482号公報
【特許文献9】特許2865065号公報
【特許文献10】特開2000−53449号公報
【特許文献11】特開平10−289165号公報
【特許文献12】特開2003−117404号公報
【特許文献13】特開2003−49265号公報
【特許文献14】特開2003−117406号公報
【特許文献15】特開平8−158048号公報
【特許文献16】特開2003−293119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、可視光応答性を有する光触媒による親水性、防曇性を有し、透明性に優れ、かつガス分解性を有するTi酸化物膜、該Ti酸化物膜付き基体および該Ti酸化物膜の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、基体上に形成されたTi酸化物膜であって、100mW/cmの輝度を有するキセノンランプの光を、400nm未満の紫外光をカットして前記Ti酸化物膜に照射しながら前記Ti酸化物膜に電圧を印加したときの電流値が、暗所における前記Ti酸化物膜に該電圧と同じ電圧値を印加したときの電流値に対して1000倍以上であることを特徴とするTi酸化物膜、および基体上に形成されたTi酸化物膜であって、前記Ti酸化物膜がアナターゼ型の結晶構造を有し、前記Ti酸化物膜の表面層がTiOであり、前記Ti酸化物膜の内部がTiOであり、かつ前記Ti酸化物膜中のチタン、窒素および酸素の含有割合の合計が99.0質量%以上であるTi酸化物膜を提供する。
【0018】
また、本発明は、基体上に形成された前記Ti酸化物膜の上にオーバーコートを形成してなる前記Ti酸化物膜、前記Ti酸化物膜の膜厚が5〜600nmである前記Ti酸化物膜、前記Ti酸化物膜の表面層が、膜の表面から3〜20nmの範囲である前記Ti酸化物膜、前記Ti酸化物膜の400nmの波長における吸収率が0.3〜40%である前記Ti酸化物膜、前記Ti酸化物膜中のチタンおよび酸素の含有割合の合計が99.0質量%以上である前記Ti酸化物膜、前記Ti酸化物膜と基体との間に下地膜を形成してなる前記Ti酸化物膜、前記基体がガラス基板、特にUVカットガラスである前記Ti酸化物膜、および前記Ti酸化物膜が車両用ガラスの内面に形成されている前記Ti酸化物膜を提供する。
また、本発明は、前記Ti酸化物膜が表面に形成されているTi酸化物膜付き基体を提供する。
【0019】
本発明は、基体上に、チタンおよび酸素の含有割合の合計が99.0質量%以上であるTiO(1<x<2)から構成されるスパッタターゲットを用いて、希ガス、窒素含有ガスおよび酸素含有ガスとからなる群から選ばれる1種以上のガスの雰囲気中、スパッタ法によりTi酸化物膜を形成した後、前記Ti酸化物膜を酸素存在下で400〜750℃で1〜28分間焼成することを特徴とするTi酸化物膜の製造方法、および前記Ti酸化物膜の成膜時の圧力が1.5〜6Paである前記Ti酸化物膜の製造方法、および基体上に、チタンおよび酸素の含有割合の合計が99.0質量%以上であるTiO(1<x<2)から構成されるスパッタターゲットを用いて、希ガス、窒素含有ガスおよび酸素含有ガスとからなる群から選ばれる1種以上のガスの雰囲気中、スパッタ法によりTi酸化物膜を形成した後、1.0Pa以上の成膜圧力でスパッタ法によりSi酸化物膜を形成した後、酸素存在下で400〜750℃で1〜28分間焼成することを特徴とするTi酸化物膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のTi酸化物膜は、可視光応答性を有する光触媒による親水性、防曇性を有し、透明性に優れる。さらに、ガス分解性も有するため、自動車等の車両用の防曇ガラスとして有用である。UV光をカットするような性能を有する車両用の防曇ガラスの車内側に本発明のTi酸化物膜を設けることにより、UV光が十分に存在しなくとも防曇性、親水性が十分に発揮されるため特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ガラス基板上にTi酸化物膜が形成されたTi酸化物膜付きガラス基板の概略横断面図の一態様である。
【図2】Ti酸化物膜上にオーバーコートが形成されたTi酸化物膜付きガラス基板の概略横断面図の一態様である。
【図3】Ti酸化物膜と基板との間に下地膜が形成されたTi酸化物膜付きガラス基板の概略横断面図の一態様である。
【符号の説明】
【0022】
10:Ti酸化物膜付きガラス基板
20:ガラス基板
30:Ti酸化物膜
40:オーバーコート
50:下地膜
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
一般に、スパッタ法において、ターゲット表面のスパッタが行われる部分が金属状態にある場合は、酸化状態にある場合と比較して、1個の正イオンが衝突することによりスパッタされる原子または分子の数(以下、スパッタ・イールドという。)が大きいことが知られている。例えば、チタンの場合、チタン金属のスパッタ・イールドは、酸化チタンのスパッタ・イールドの約20倍である。このため、チタン金属のターゲットを用いてチタン酸化物を反応性スパッタにより成膜しTi酸化物膜を形成する場合、その成膜速度を向上させるためには、ターゲット表面を金属状態または部分的に酸化した状態とし、かつ、基板(基体)上ではTi酸化物膜が得られるような状態、すなわち酸化状態に維持することが重要となる。このような調整は、投入電力に応じて導入酸素量を増減させ、成膜室のスパッタガス中の酸素濃度を制御することにより行われる。しかし、ターゲット表面の状態が数秒の単位で変化するのに対し、導入酸素量を変化させるためには数十秒間の時間が必要であるため、前記調整を正確に行うことは困難である。なお、本明細書において、「可視光域」とは、400〜780nmの波長範囲を意味する。
【0024】
一方、TiO(1<x<2)から構成されるスパッタターゲット(以下、単にTiOターゲットという。)をアルゴンなどの希ガスをスパッタガスとして用いてスパッタすると、スパッタの行われているターゲット表面は、TiOよりもチタン金属に近くなる。よって、TiOのスパッタ・イールドは、酸化チタンのスパッタ・イールドの約10倍になることが見出されている。すなわち、TiOターゲットを用いてスパッタすると、チタン金属を用いる場合と比較して、約10倍の成膜速度でTi酸化物膜を形成することができる。
【0025】
しかし、通常の溶射法により形成されたTiOターゲットを用いてスパッタ法により基板上に形成したTi酸化物膜は、可視光域の光による光触媒活性(以下、可視光光触媒性という。)を示さなかった。その原因を解明するために、溶射法により形成されたTiOターゲットの組成分析を行ったところ、前記TiOターゲット中に酸素およびチタン元素以外の微量な不純物が約2.0質量%程度混入していることがわかった。そこで、チタンおよび酸素の含有割合の合計(以下、TiO純度という。)が99.0質量%以上(すなわち、前記の微量不純物がターゲット全体の1.0質量%未満)のTiOから構成されるスパッタターゲット(以下、高純度TiOターゲットという。)を形成し、高純度TiOターゲットを用いてスパッタ法によりTi酸化物膜を形成した。しかし、形成された高純度のTi酸化物膜も可視光光触媒性を示さなかった。
【0026】
次に、成膜直後のTi酸化物膜の薄膜構造をXRD(X線回折)分析により分析した。その結果、形成されたTi酸化物膜はアナターゼ型の結晶構造ではなくアモルファスとなっていることが確認された。一般に、アナターゼ型の結晶構造を有するTi酸化物膜が光触媒機能を発現することが知られている。そこで、Ti酸化物膜の形成後、焼成を行い、膜の再結晶化を試みた。その結果、Ti酸化物膜の膜構造が再結晶化によりアモルファスからアナターゼ型の結晶構造へと変化していることがXRD分析により確認された。しかし、焼成後のTi酸化物膜も必ずしも可視光応答性を発現するものではなかった。
本発明者らは、さらなる研究により、Ti酸化物膜の形成後の焼成条件を調整し、より高い温度で短い時間焼成することで、焼成後の膜が可視光光触媒性を示すことを見出した。
【0027】
以上、本発明者らは、従来のTiOターゲットとは異なる高純度のTiOターゲットを用いてTi酸化物膜をスパッタ法により形成した後、ある特定の雰囲気・温度・時間で焼成することにより可視光光触媒性が発現することを見出した。さらに、本発明のTi酸化物膜は、100mW/cmの輝度を有するキセノンランプの光を、400nm未満の紫外光をカットして前記Ti酸化物膜に照射しながら、前記Ti酸化物膜に電圧を印加したときの電流値が、暗所における前記Ti酸化物膜に同様の電圧を印加したときの電流値に対して1000倍以上、好ましくは5000倍以上、10000倍以上、50000倍以上、特に好ましくは100000倍以上となることを見出した。なお、全体として100mW/cmの輝度を有するキセノンランプの光について、400nm未満の紫外光をカットした場合、キセノンランプ光の可視光の輝度は95mW/cm程度になると考えられる。本発明のTi酸化物膜は、可視光域の光を照射した場合であっても、生成したキャリアを表面に十分輸送することが可能であるという理由で可視光光触媒性が発揮されるため好ましい。なお、可視光の輝度は30mW/cm以上あれば十分である。
【0028】
通常、キセノンランプの光は、200nm程度から近赤外領域まで広い波長範囲を有する光であり、全体として100mW/cm程度の輝度を有している。しかし、フィルタ等により400nm未満の光をカットすることで、キセノンランプの光は、400nm以上の可視光から近赤外領域の光となる。この可視光から近赤外領域の光をTi酸化物膜に照射しながら電圧を印加すると、Ti酸化物膜が可視光光触媒性を有していれば、光によって励起されたキャリアを表面に取り出すことが可能となり電流(光応答電流)が発生する。一方、暗所(可視光領域の光の輝度が無視できる程度に小さい場所を意味し、例えば輝度が0.1mW/cm未満の場所)にTi酸化物膜を設置し、該Ti酸化物膜に電圧を印加しても光応答電流は発生しない。
【0029】
前述したような可視光から近赤外領域の光を照射した場合の電流値(可視光応答電流値)と暗所に設置した場合の電流値(暗電流値)との比(光応答電流比)をとることで、Ti酸化物膜の可視光光触媒性を定量的に見積もることが可能である。比をとる理由は、チタン酸化物が真性半導体に近いことを考慮している。すなわち仮に可視光応答電流が高い場合でも暗時の電流が高い場合には、真性半導体としての性能は不十分であると考えられるからである。電流値を測定する場合、Ti酸化物膜に印加する電圧は100Vとしている。なお、−100Vから100Vまでかける電圧を大きくしていくと、電流値もそれに比例して増加していくことを確認し、オーミック接触が取れたことを確認した上で電流値を測定する必要がある。また、上記電流値の測定は、真空中で行うことが膜表面に吸着した酸素、水、有機物等の影響により抵抗値が変動することを抑制できる点で好ましい。
【0030】
また、上述したとおり、Ti酸化物膜に可視光光触媒性を発現させるためには、種々の特定条件が必要となる。例えば、可視光光触媒性を発現させるためには、酸素欠損型のTiOターゲットを用いることが必要である。酸素欠損型のTiOターゲットを用いて形成した膜がなぜ可視光光触媒性を示すのか、また、金属Tiターゲットを用いて形成した膜がなぜ可視光光触媒性を示さないのか、詳細なメカニズムは不明である。しかし、アルゴン等の希ガスを用いてTiOターゲットを用いてスパッタすると、スパッタの行われているターゲット表面はTiOよりもチタン金属に近くなるものの、ターゲット自体は約1200℃以上ときわめて高温で焼結されているため、熱的に安定化した酸素欠損型のTiO粒子が基板上に堆積していき、Ti酸化物膜が構成されているものと考えられる。よって、酸素欠損型であるTiOが堆積した状態も熱的に安定であると考えられる。
【0031】
これに対し、金属Tiターゲットを用いて酸素等の存在する酸化性雰囲気にて酸化物モードで成膜された酸化チタン膜は、特に基板が加熱されていない状態では熱的に安定でないTiOが堆積した状態になっていると推定される。つまり、TiOターゲットを用いて成膜することで、Ti酸化物膜中に熱的に安定な欠陥を有することとなり、その結果、大気中での焼成後も可視光に吸収を有するようなTi酸化物膜形成が可能となったと考えられる。加えて、後述するような酸素存在下で膜を焼成することで膜表面がTiOの状態となり、可視光吸収で生じた正孔の表面で再結合が抑制され、可視光光触媒性が発現するものと推定される。
【0032】
なお、酸化チタンの膜を形成する別法として、酸化チタンターゲットを用いる方法もある。しかし、この方法では、ターゲットが導電性を有しないためDCスパッタ法を用いることができず、RFスパッタ法でのみ製造可能であるため生産性の点で好ましくない。また、酸化チタンターゲットを用いて形成された酸化チタン膜は、希ガスと酸素ガスからなるスパッタガスを用いて成膜した場合は、TiO膜となっており可視光光触媒性を有さない。また、希ガスのみのスパッタガスを用いてスパッタ成膜した場合は、若干酸素欠損型になっている可能性もあるが、熱的に安定な欠陥を有しないため、可視光光触媒性を有さない。
【0033】
本発明に用いられる高純度TiOターゲットは、溶融法または焼結法のどちらを用いても形成できる。溶融法であれば、例えば、高純度の酸化チタン粉末、または高純度の酸化チタン粉末と高純度のチタン粉末との混合物を原材料とし、プラズマ熔射装置を用いて原材料を半溶融状態とし、半溶融状態となった原材料を金属基板上に付着させ、直接スパッタ用ターゲットとして用いられるターゲット層を形成する。焼結法であれば、例えば、高純度の酸化チタン粉末、または高純度の酸化チタン粉末と高純度のチタン粉末との混合物を非酸化雰囲気中でホットプレス(高温高圧プレス)して焼結することによりターゲットが形成される。本発明においては、ターゲットが長時間使用可能である点、ターゲット厚の厚いターゲットを形成しやすい点、および型の中という閉空間で焼結するので不純物が焼結中に混入しにくい点で、焼結法を用いてターゲットを形成することが好ましい。なお、溶射法では、不可避的にFeなどの不純物を多く含むため、Ti酸化物膜中にFeなどに起因する欠陥準位を形成しやすく、光触媒性能が発揮されにくいため、焼結法を用いることがより好ましい。
【0034】
可視光光触媒性を示すTi酸化物膜を基板上に形成するためには、TiOターゲットのTiO純度が99.0質量%以上であることが必要である。原材料である酸化チタン粉末およびチタン粉末を高純度とすることにより、TiOターゲット中のTiO純度が99.0質量%以上のTiOターゲットを形成することができる。TiOターゲット中のTiO純度は、形成されるTi酸化物膜の可視光光触媒性の観点から、99.5質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがさらに好ましい。このような高純度のTiOターゲットを用いることで、可視光光触媒性が発揮しやすいTi酸化物膜を形成することが可能となる。なお、TiOターゲット中のチタンおよび酸素以外の不純物の含有割合の合計は、1質量%未満、0.5質量%未満、特に0.1質量%未満であることが好ましい。
【0035】
本発明においては、スパッタ法として、直流(DC)スパッタ法、交流(AC)スパッタ法や高周波(RF)スパッタ法が用いられる。ACスパッタ法としては、100Hz〜100kHzの周期的に繰り返される間欠的な負電位をターゲットに印可するスパッタ法などが挙げられ、また、RFスパッタ法としては、100kHz以上の交流電力を投入するスパッタ法などが挙げられる。生産性の観点から、DCスパッタ法を用いることが好ましい。スパッタ法を用いることで、より大面積の基板に、面内の膜厚の均一性よく成膜することができ、かつ純度の高い膜を形成できることから、本発明のTi酸化物膜の構成要件を満たす上で好ましい。また、スパッタ法を用いることにより、膜の強度を強くすることが可能で、自動車用や建築用などの耐擦傷性が要求される用途に使用可能となる点で好ましい。
【0036】
高速に、かつ可視光光触媒性を示すTi酸化物膜を形成するために、スパッタガス(成膜時導入ガス)として、希ガス、窒素含有ガスおよび酸素含有ガスとからなる群から選ばれる1種以上のガスを用いる。前記希ガスとしては、Ar、He、Ne、KrおよびXeからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0037】
前記窒素含有ガスとしては、窒素、NH等が例示される。成膜時の導入ガス中の窒素含有ガスの含有量は、可視光光触媒性の向上の観点から、3体積%以上、特には90体積%以下であることが好ましい。また、膜中の窒素原子の含有量は、0.5〜5質量%であることが好ましい。さらに、窒素のドープ量を増大させるために、スパッタガスにHOを添加してもよい。さらに、スパッタガス中に酸素含有ガスを添加してもよい。前記酸素含有ガスとしては、O、NO、NO、CO、OおよびCOからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。前記酸素含有ガスのスパッタガス中の含有量は、成膜速度の観点から少ない方が好ましい。しかし、膜中にある程度の酸素を含有させることにより、酸素負イオンのダメージを極力減らすることができるため欠陥準位の生成が抑制され、かつ結晶性が向上するという理由で可視光光触媒性が向上すると考えられる。よって、スパッタガス中にはある程度の酸素が含有していることが好ましく、スパッタガス中の酸素含有ガスの含有量は、1〜10質量%であることが成膜速度の点で好ましい。
【0038】
Ti酸化物膜の成膜直前の残留ガス圧は、水の影響でバンド準位が生成されるという理由で低い方が好ましく、1×10−3Pa以下であることが好ましい。また、Ti酸化物膜の放電電力密度は、成膜速度の点、およびイオンダメージを低減し膜質を良好とする点から0.007〜8.6W/cmであることが好ましい。また、スパッタガス中に窒素が入っている場合は、放電電力密度が0.007〜6.4W/cm以下であることが窒素によるダメージを最小限に抑えることができ好ましい。なお、放電電力密度とは、放電電力をスパッタターゲットの面積で除した値である。
【0039】
Ti酸化物膜の成膜時の圧力は、焼成後の膜の結晶性向上およびプラズマ中の負イオンまたは正イオンによるイオンダメージ低減による膜質の向上の観点から、1.5〜6Paであり、2〜6Paであることが好ましい。1.5〜6Paとすれば、焼成後に、膜がアナターゼ型の結晶構造を有することとなり、膜が可視光光触媒性を発現するため好ましい。
【0040】
Ti酸化物膜を形成後、酸素存在下400〜750℃で1〜28分間焼成、特に500〜750℃で1〜28分間焼成、600〜700℃で1〜28分間焼成、さらには400〜750℃で1〜15分間焼成、500〜750℃で1〜15分間焼成、600〜700℃で1〜15分間焼成することが好ましい。400℃未満では焼成の効果が十分に発揮されず、750℃超ではガラス基板が軟化し商品性を損なう。特に500℃以上であれば、可視光光触媒性が高く発揮されるため好ましい。また、1分間未満では焼成の効果が十分に発揮されず、28分間超では可視光光触媒性が発現しにくいため好ましくない。また、15分超であると、可視光光触媒性が低下しやすくなる点であまり好ましくない。可視光光触媒性が発現する理由は、上記焼成を施すことで、Ti酸化物膜の表面層のみを酸化し、Ti酸化物膜の内部を酸素欠損を有するTiOとしたまま膜の表面層のみを完全なTiO膜とすることができるためと推定される。
【0041】
Ti酸化物膜の表面層を完全なTiO膜とすることにより可視光光触媒性が向上するメカニズムは明確には分かっていない。しかし、Ti酸化物膜の表面層がTiO膜となることで、膜表面の正孔の輸送特性が向上し、可視光の吸収により生じた正孔が、TiOとなった表面層での再結合が抑制され可視光光触媒性が高まるものと推定される。なお、膜のXRD分析による測定結果から、(101)又は(004)のピークがアナターゼ型の結晶構造となっていることを示すピークとして利用される。また、本発明のTi酸化物膜付きガラスが自動車用のガラスとして用いられる場合には、加熱によりガラスを曲げ加工する工程を経ることになる。よって、曲げ工程において上記焼成を併せて行うことができる点で本発明は優れている。
【0042】
Ti酸化物膜の表面層とは、全体の膜厚にもよるが、前記膜の表面から3〜20nm、特に3〜10nm、さらには3〜5nmの範囲を意味し、上記範囲が酸化されれば、可視光光触媒性の向上には十分であると考えている。また、Ti酸化物膜の表面層とは、全体の膜厚に対して、膜の表面から5〜60%の範囲を意味する。なお、膜を焼成した後、窒素ガス雰囲気下でアニールすることで可視光光触媒性は減少する。これは、膜表面の表面酸化が消失するためと考えられ、膜表面の表面酸化が可視光光触媒性の発現に一役買っていることが推定される。また、Ti酸化物膜の上にオーバーコートを形成した後に焼成した場合であっても、膜の種類や膜厚にもよるが、同様にTi酸化物膜の表面のみを焼成することが可能である。
酸素存在下とは、酸素が5体積%以上含まれている雰囲気をいい、大気中であることがコストの面から好ましい。
【0043】
引用文献16には、高純度TiOターゲットを用いて、光触媒応答性を有するTi酸化物膜を形成する方法が開示されており、後焼成温度が200℃〜650℃で30分間〜2時間が好ましい旨の記載がなされている。しかし、本発明者らが検討した結果によれば、30分間〜2時間という長時間の焼成では、可視光光触媒性が発現しないことが判明した。これは高温で長期間の焼成では、逆にTi酸化物膜表面の酸素が抜けやすくなることから、最表面層がTiOからTiO(1<x<2)になるためと推定される。
【0044】
Ti酸化物膜の内部を酸素欠損型とすると、可視光域における吸収率が向上する一方、膜中で光励起に生じた正孔の輸送特性が低下し、逆に可視光光触媒性が低下すると考えられる。よって、可視光光触媒性を最大限発揮させるために、最も効率のよい可視光における吸収率が存在する。例えば、膜厚が50nmのTi酸化物膜の場合、400nmの波長における吸収率が0.3〜40%、好ましくは0.3〜5%、さらに好ましくは0.3〜2%である。吸収率を0.3〜40%とすることで、可視光による光励起で生じる電子−正孔対の生成量と、欠陥の数を最低限にすることによる電子−正孔輸送特性のバランスが最適となり、可視光光触媒性を最大限発揮させることが可能となる。本発明においては、TiOターゲットを用いてTi酸化物膜を形成することで、Ti酸化物膜の内部(膜表面から内側に入った部分)に酸素欠損が生じ、結果的に上記のような好ましい吸収率となっていると推定される。なお、吸収率とは、吸収率(%)=100−(透過率(%)+反射率(%))により計算される値である。
【0045】
本発明は、上記TiOターゲットを用いて基体上にTi酸化物膜を形成する。ここで、基体は該Ti酸化物膜を形成するための担体で、具体的にはガラス基板やセラミックス基板、セラミックス(タイル等)および外壁材等が挙げられる。通常は透明性に優れるガラス基板が汎用性の面から使用される。形体は板状体に限定されない。
【0046】
図1は、本発明の好ましい実施形態である、ガラス基板20上にTi酸化物膜30が形成されたTi酸化物膜付きガラス基板10の概略横断面図を表したものである。
本発明におけるTi酸化物膜30の膜厚は、可視光光触媒性、透明性およびコストの観点から、5〜600nm、特に10〜250nm、さらには50〜250nmであることが好ましい。また、前記Ti酸化物膜を形成したガラス基板の可視光透過率は、70%以上であることが視認性の点で好ましい。
【0047】
また、Ti酸化物膜中のチタン、酸素および窒素の含有割合の合計は、99.0質量%以上、99.5質量%以上、特に99.9質量%以上あることが可視光光触媒性の点で好ましい。窒素を含んでいると、可視光光触媒性が向上するため好ましい。Ti酸化物膜中の窒素の含有割合は0.1〜5質量%、0.5〜5質量%、特に0.5〜3質量%であることが好ましい。なお、可視光光触媒性を発現させるためには、Ti酸化物膜中には窒素を含有している必要はない。Ti酸化物膜中には窒素を含有していない場合には、Ti酸化物膜中のTiO純度が99.0質量%以上であることが膜中に生成した正孔等のキャリア輸送特性を向上できる点で好ましい。
【0048】
さらに、図2のとおり、Ti酸化物膜30の上にオーバーコート40を設けてもよい。オーバーコートとしては、低屈折率膜であることが好ましく、この場合は、低反射性、耐久性、ニュートラルな色調などを考慮しTi酸化物膜およびオーバーコートの膜厚が決定される。オーバーコートとしては、Si酸化物膜が例示される。オーバーコートの膜厚は、1〜120nmであることが好ましい。1nm未満ではオーバーコートの効果が十分に発揮されず、120nm超では焼成の効果がTi酸化物膜に届かず、可視光光触媒性が減少する可能性がある。オーバーコートの成膜方法は、スパッタ法等の乾式法、湿式法等特に限定されない。オーバーコートをスパッタ法により成膜する場合は、成膜圧力を1.0Pa以上、特に1.5Pa以上とすることが、成膜時のTi酸化物膜へのイオンダメージを低減し、Ti酸化物膜の高い可視光光触媒性を維持できる点で好ましい。Si酸化物膜をスパッタ法で形成する場合、シリコンターゲットによりスパッタガスとして酸化性ガスを用いてSi酸化物膜を形成する方法や、Si酸化物ターゲットを用いてスパッタガスとして希ガスを用いてSi酸化物膜を形成する方法が挙げられる。
【0049】
さらに、図3のとおり、Ti酸化物膜30とガラス基板20との間に下地膜50を設けてもよい。ガラス基板としてアルカリ含有ガラスを用いる場合は、前記下地膜としてはアルカリバリアの機能を有する膜(アルカリバリア膜)であることが好ましく、Si酸化物膜、Si窒化物膜、Al窒化物膜等が例示される。下地膜の膜厚は、10〜150nmであることが好ましい。下地膜の成膜方法は、スパッタ法等の乾式法、湿式法等特に限定されない。スパッタ法を用いる場合、Si酸化物膜、Si窒化物膜、Al窒化物膜は、それぞれの対応する金属ターゲットを用いて反応性スパッタ法で形成できる。また、基板側から順に、アルカリバリア膜、中間屈折率膜(屈折率=1.6〜2.2)、Ti酸化物膜の構成とすることで、透過率が向上した可視光光触媒性を有するTi酸化物膜付きガラス基板を形成できる。
【0050】
また、基板からTi酸化物膜、Si酸化物膜の順に形成することにより、これらの膜を下地膜とすることも可能である。このような構成とすることで各層の膜厚を調整することにより、低反射性能や近赤外領域での高反射性能を併せ持ったTi酸化物膜付きガラス基板の形成が可能となる。
【0051】
また、基板であるガラスの熱膨張係数とTi酸化物膜の熱膨張係数とを近い値にすることにより、後加熱処理時の膜の割れやはがれ及び基板のそりを抑制することができるという点で好ましい。ガラスの熱膨張係数は、Ti酸化物膜の熱膨張係数が結晶状態に関係なくほぼ一定であることを考慮すると、30×10−7〜100×10−7/Kであることが好ましい。
【0052】
本発明は、これらの可視光応答光触媒を用いたことを特徴とする防曇、親水、ガス分解、防汚、防カビ、抗菌、大気清浄等の機能が付与されたTi酸化物膜付き基体、特にTi酸化物膜付きガラス基板をも提供できる。このTi酸化物膜付きガラス基板としては、建築用ガラス、車両用ガラスまたはその他各種の産業用ガラスなどを挙げることができる。さらに、Ti酸化物膜上にSi酸化物膜を積層させ、防曇性、親水性のガラス基板として用いると、暗所においても親水性を維持でき、かつ低反射性能が得られるという理由により特に好ましい。防汚、大気清浄機能は、Ti酸化物膜がUV光照射により有機物を分解する速度によって評価される。前記速度が高いほど、Ti酸化物膜が高い防汚、大気清浄機能を有することを意味する。また、可視光応答光触媒による親水性は、Ti酸化物膜にUV光を含まない可視光を照射した後におけるTi酸化物膜と水との接触角により評価され、前記接触角が0(ゼロ)°に近くなるほど、Ti酸化物膜が高い可視光光触媒性を示していることを意味する。
【0053】
本発明に使用するガラス基板は、特に限定されないが、UVカットガラスを使用することが、UV光が透過できない箇所においても可視光応答性を有する本発明の光触媒膜を十分に活用でき好ましい。前記ガラス基板の厚さは、1.0〜20mmであることが強度と視認性の両立の点で好ましい。また、ガラス基板は無色であっても着色されていてもよい。前記ガラス基板の可視光透過率は、視認性の観点から、70%以上であることが好ましい。ガラス中にアルカリ金属が含まれている場合は、アルカリ成分のTi酸化物膜への拡散を防止するため、下地膜を形成することが好ましい。
【0054】
また、400nmの波長における透過率が60%以下であるUVカットガラス上に、本発明の可視光光触媒性を有するTi酸化物膜を施し、膜面を自動車等の車両の内面、または建造物の内面に用いることで、UVカット性能と防曇性、親水性、ガス分解性、防汚性、防カビ性、抗菌性、大気清浄機能性等を併せ持ったTi酸化物膜付きガラス基板の提供が可能となる。また、ガラス基板の形状は平板状であっても異型状であってもよい。
【0055】
また、本発明のTi酸化物膜は、紫外線による人体への健康、美容上の被害防止、部屋内部の建材への紫外線による劣化防止といった社会的要求から、遮熱膜や樹脂膜などの紫外線透過率が低くなる膜がガラス基板に付加されたガラス上や、快適性を高めるための遮熱性膜が付与されたLow−Eガラス上や、防犯性を高めるために樹脂をガラスとガラスとの間に挟んだ合わせガラス上に形成することも可能である。また、本発明のTi酸化物上にSi酸化物積層を形成することにより、高透過機能と防汚性とを両立させることが可能となる。よって、高透過機能をメンテナンスフリーでかつ継続的に維持することが可能となり、これらの膜付きガラス基板を例えば太陽電池用カバーガラス等にも応用可能である。
【0056】
また、自動車などの車両用ガラスにおいても人体への健康、美容上の被害防止、車両内の内装材への劣化防止、快適性を高めるためのUVカットガラスが多用されてきている。さらに安全性を高めるためのウィンドシールドガラスにおいてはガラスとガラスの間に樹脂を挟みこんだ合わせ構造となっている。上記ガラスは、紫外線透過率が低いため、UV光のみに応答する従来の光触媒膜を車内側へ形成しても、その光触媒性は十分に発現しない。しかし、本発明のTi酸化物膜は、可視光光触媒性を有するため、車内側にTi酸化物膜を施すことで防曇性、親水性を有するガラスとして好適に車両用に用いることが可能である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例(例1〜20、38〜44、46〜48)および比較例(例21〜37、45、49〜51)を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の説明において、アルゴンガスと窒素ガスの混合割合、およびアルゴンガスと酸素ガスの混合割合は体積比である。
【0058】
<TiOターゲットの形成>
(形成例1)
高純度のTiO粉末(高純度化学研究所製、グレード:スリーナイン)を準備し、カーボン製のホットプレス用型に充填し、アルゴン雰囲気中1200℃で1時間保持の条件でホットプレスを行った。このときのホットプレス圧力は50kg/cmであった。得られた焼結体を200mm×70mm、厚さ5mmの寸法に機械加工し、TiOターゲットを形成した。ターゲットは銅製のバッキングプレートにメタルボンドで接着して用いた。
【0059】
(形成例2)
市販のTiO粉末(平均粒径10μm以下)を準備し、ボールミルにてPVAバインダと水とを媒体として3時間湿式混合し、得られたスラリをスプレイドライヤを用いて造粒し、20〜100μmの粒径のセラミックス粉末を得た。ターゲット金属ホルダとして220mm×90mmの銅製プレーナを用い、その外表面をAl砥粒を用いて、サンドブラストにより表面を荒らし粗面の状態にした。
【0060】
次にNi−Al(重量比8:2)の合金粉末を還元下のプラズマ溶射(メトコ溶射機を使用)し、膜厚50μmのアンダーコート層を施した。この還元下のプラズマ溶射は、プラズマガスにAr+Hガスを用い、42.5L/分の流量で700A、35kVのパワーで印加を行い1万〜2万℃のAr+HガスプラズマによりNi−Alの合金粉末を瞬時に加熱し、ガスとともにターゲット金属ホルダ上に輸送し、そこで凝集させて行った。次にTi金属粉末を用い、上記同様のプラズマ溶射をし、50μmの厚みのアンダーコート層を形成した。さらに前述のセラミックス粉末を用いて、同様の還元下のプラズマ溶射法により最終厚み5mmのセラミックス層を形成し、TiOターゲットを形成した。
【0061】
<TiOターゲットのTiO純度測定>
形成例1および2によって得られたTiOターゲットの不純物濃度の分析を行った。TiOターゲットの一部をめのう乳鉢で粉砕し、6モル%の塩酸水溶液を用いて粉末を溶解し、ICP(誘導結合型プラズマ発光分析装置)を用いて分析した。形成例1のTiOターゲットのTiO純度は99.97質量%であり、形成例2のTiOターゲットのTiO純度は97.20質量%であった。以下、実施例(例1〜53)においては、形成例1のTiOターゲットを高純度TiOターゲット、形成例2のTiOターゲットを低純度TiOターゲットという。
【0062】
<Ti酸化物膜付きガラス基板の形成および評価>
(例1)
真空チャンバー内に高純度TiO(x=1.984)ターゲット(ターゲット面積:200mm×70mm)、ガラス基板(コーニング#1737、1.1mm厚、可視光透過率91%(JIS R3106(1998年)による。以下同じ。))をセットし、残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまでアルゴンガスを導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は50nmであった。膜厚は接触式膜厚測定装置(Veeco社製:Dektak)により測定し、以下の例についても同様とした。成膜時に基板加熱は行わなかった。その後、大気中で650℃、10分間焼成し、Ti酸化物膜付きガラスを得た。なお、この焼成条件では、Ti酸化物膜の表面がTiOであり、内部がTiOの状態になっていることが推察される。
【0063】
なお、Ti酸化物膜の組成はターゲットとほぼ同じであった。なお、他の例におけるTi酸化物膜の組成は、スパッタガス中に窒素が含まれていない場合には、例1と同様にターゲットとほぼ同じであった。一方、スパッタガス中に窒素が含まれている他の例では、Ti酸化物膜中に窒素が1.5〜2.0質量%含有されており、窒素以外のTi酸化物膜の組成はターゲットとほぼ同じであった。また、形成されたTi酸化物膜付きガラス基板の可視光透過率は70%以上であった。
【0064】
形成されたTi酸化物膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示す。また、形成されたTi酸化物膜付きガラス基板の親水性、防曇性、結晶構造、ガス分解性および光応答電流比について評価した結果を表3に示す。
なお、コーニング#1737のガラス基板は無アルカリガラスであり、ソーダライムガラスとは、ガラス中にアルカリが含有しているアルカリガラスである。
得られたTi酸化物膜付きガラスの評価方法は、以下のとおりである。
【0065】
(1)親水性
得られたTi酸化物膜に、汚染源としてエンジンオイル(トヨタ自動車株式会社製:製品名キャスルモーターオイル)を光触媒膜上に0.22cm塗布した後、1時間放置した。その後、接触角が50±10°になるように水洗後、乾燥して試験用試料を作製した。
【0066】
この試験用試料に、蛍光灯(ナショナルパルック18W)の光(紫外線カットガラス(旭硝子社製:商品面UVFL、)により400nm未満の光をカットした光)を3cmの距離をおいて試験用試料に照射し、経時的に接触角を測定した。
接触角の測定は、接触角計(協和界面科学社製:CA−X150型)を用い、純水による液滴について測定した。なお、試験用試料表面での紫外線の光量をUV線量計(トプコン社製:UVR−1)で測定し、検出限界以下であることを確認した。また、試験用試料に照射される可視光の光量を照度計(トプコン社製:IM−2D)により測定し、14000ルクスであった。測定時の温度は25±3℃であり、相対湿度は50±10%であった。
表中の評価結果の記号は、○:接触角が24時間で1.5°以上低下したもの、△:接触角が24時間で0〜1.5°未満低下したもの、×:接触角が低下しない、または上昇したものであることを意味する。
【0067】
(2)防曇性
得られたTi酸化物膜に30日間、(1)と同様の可視光を照射し、照射後のTi酸化物膜を37℃の水をはった恒温槽の水面の上部にかざし、視認性が低下するまでの時間を計測し、防曇性を評価した。
表中の評価結果の記号は、○:40秒以上視認性が保たれたもの、△:20秒以上40秒未満の間、視認性が保たれたもの、×:20秒未満であったもの、であることを意味する。
【0068】
(3)結晶構造
得られたTi酸化物膜をXRD分析(リガク社製:商品名RU−200BH)により評価した。アナターゼ型の結晶構造を示す(101)又は(004)のピークが現われていないものを非結晶とし、アナターゼ型の結晶構造を示す(101)又は(004)のピークが現われているものをアナターゼ結晶と評価した。
【0069】
(4)ガス分解性
得られたTi酸化物膜付きガラス基板を、アセトアルデヒド濃度が50ppmとなるようにセル中に封止した。その後、キセノンランプの光(300〜1300nm波長範囲で100mW/cmの輝度を有する光(紫外線カットガラス(旭硝子社製:商品面UVFL)により400nm未満の光をカットした光)を照射し、ブラックライト照射開始からの照射時間とガスクロマトグラフィにより測定したアセトアルデヒド濃度との関係を測定した。
表中の評価結果の記号は、○:24時間後のアセトアルデヒドの濃度が10ppm未満、△:24時間後のアセトアルデヒドの濃度が10〜30ppm、×:24時間後のアセトアルデヒドの濃度が30ppm超、であることを意味する。
【0070】
(5)光応答電流比
得られたTi酸化物膜の表面に、超音波付き電気はんだごてを用いて、はんだの材料としてセラソルザ(登録商標)を用いて、長さ20mm×幅2mmの電極を2mm間隔で2本はんだ付けした。その後、Ti酸化物膜付きガラス基板を石英窓付きの真空チャンバに設置し、Ti酸化物膜上の2本の電極を別々の電流測定のプローブで押さえつけた。なお、Ti酸化物膜上にSi酸化物膜が形成されている場合は、セラソルザによりSi酸化物膜が破れることにより、Ti酸化物膜に電極が接するようにした。
【0071】
ロータリーポンプで真空チャンバ内を1Paの圧力になるまで真空引きし、サンプルに光が照射されない状態(輝度0.1mW/cm未満の状態)で、取り付けた電極間に100Vの電圧を印加したときの電流値(暗電流値)を測定した。一方、真空チャンバの石英窓上にUV−IRカットガラス(旭硝子社製:商品名UVFL)と400nm未満の光をカットする樹脂を設置し、その窓からキセノンランプ(300〜1300nm波長範囲で、100mW/cm)の光を照射し、石英窓から20cmの距離をおいてTi酸化物膜に照射しながら、取り付けた電極間に100Vの電圧を印加したときの電流値(可視光応答電流値)を測定した。可視光応答電流値/暗電流の比を光応答電流比として算出した。
【0072】
(例2)
例1におけるTi酸化物膜の膜厚を100nmとした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0073】
(例3)
例1におけるTi酸化物膜の膜厚を200nmとした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0074】
(例4)
真空チャンバー内に高純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(コーニング#1737、1.1mm厚、可視光透過率91%)をセットし残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまでアルゴンガスと窒素ガスを90:10の割合で導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は15nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。その後、大気中で650℃、10分間焼成した。得られたTi酸化物膜付きガラス基板を例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。なお、得られたTi酸化物膜の400nmの波長における吸収率は0.5%であった。
【0075】
(例5)
例4におけるTi酸化物膜の膜厚を30nmとした以外は例4と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0076】
(例6)
例4におけるTi酸化物膜の膜厚を50nmとした以外は例4と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
得られたTi酸化物膜をX線光電子分光法によりN1sの状態分析を行ったところ、Ti−N結合に起因するエネルギー位置にピークが観測されTi−N結合が存在していることがわかった。窒素ガスをスパッタガスとして用いている他の例についても、同様にTi−N結合が存在していることがわかった。
【0077】
(例7)
例4におけるTi酸化物膜の膜厚を100nmとした以外は例4と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0078】
(例8)
例4におけるTi酸化物膜の膜厚を200nmとした以外は例4と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0079】
(例9)
真空チャンバー内に高純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(コーニング#1737、1.1mm厚、可視光透過率91%)をセットし、残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまでアルゴンガスと窒素ガスを50:50の割合で導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は50nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。その後、大気中で650℃、10分間焼成した。
得られたTi酸化物膜付きガラス基板を例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0080】
(例10)
例9におけるTi酸化物膜の成膜時導入ガスをアルゴンガスと窒素ガスを10:90の割合で導入したこと以外は例9と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0081】
(例11)
例9におけるTi酸化物膜の成膜時導入ガスをアルゴンガスと窒素ガスを20:80の割合で導入したこと以外は例9と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0082】
(例12)(下地膜を形成した例)
真空チャンバー内に高純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ボロンドープシリコンターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(UV−IRカットソーダライムガラス:3.5mm厚、400nmにおける透過率60%)をセットし背圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまで酸素ガスを導入した後、DCスパッタ(放電電力=1000W)により、Si酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Si酸化物膜の膜厚は100nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。次いで3.9Paまでアルゴンガスを導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は50nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。その後、大気中で650℃、10分間焼成した。
得られたTi酸化物膜付きガラス基板を例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0083】
(例13)
例12におけるTi酸化物膜の成膜時の導入ガスをアルゴン:窒素=90:10とした以外は例12と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0084】
(例14)(オーバーコートを形成した例)
真空チャンバー内に高純度TiOx(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ボロンドープシリコンターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(コーニング#1737、1.1mm厚、可視光透過率91%)をセットし、残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまでアルゴンガスを導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は50nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。次いで3.3Paまで酸素ガスを導入した後、DCスパッタ(放電電力=1000W)により、Si酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Si酸化物膜の膜厚は10nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。その後、大気中で650℃、10分間焼成した。
得られたTi酸化物膜付きガラス基板を例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0085】
(例15)
例14におけるSi酸化物膜の膜厚を50nmとした以外は例14と同様にして、Ti酸化物とSi酸化物との積層膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0086】
(例16)
例14におけるSi酸化物膜の膜厚を100nmとした以外は例14と同様にして、Ti酸化物と酸化ケイ素との積層膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0087】
(例17)
例14におけるSi酸化物膜成膜時の圧力を2.0Paとした以外は例14と同様にして、Ti酸化物とSi酸化物との積層膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0088】
(例18)
例1におけるTi酸化物膜の焼成時間を3分間とした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0089】
(例19)
例1におけるTi酸化物膜の焼成時間を25分間とした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0090】
(例20)
例1におけるTi酸化物膜の成膜時の圧力を2.0Paとした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表1、表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0091】
(例21)(比較例)
真空チャンバー内に低純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(コーニング#1737、1.1mm厚、可視光透過率91%)をセットし、残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまでアルゴンガスを導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は50nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。その後、大気中で650℃、10分間焼成した。
得られたTi酸化物膜付きガラス基板を例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0092】
(例22)(比較例)
例21におけるTi酸化物膜の膜厚を100nmとした以外は例21と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0093】
(例23)(比較例)
真空チャンバー内に低純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(コーニング#1737、1.1mm厚、可視光透過率91%)をセットし、残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまでアルゴンガスと窒素ガスを90:10となるように導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は15nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。その後、大気中で650℃、10分間焼成した。
得られたTi酸化物膜付きガラス基板を例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0094】
(例24)(比較例)
例23におけるTi酸化物膜の膜厚を50nmとした以外は例23と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0095】
(例25)(比較例)
例23におけるTi酸化物膜の膜厚を100nmとした以外は例23と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0096】
(例26)(比較例)(成膜後、焼成をしない例)
真空チャンバー内に高純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(コーニング#1737、1.1mm厚、可視光透過率91%)をセットし残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまでアルゴンガスと窒素ガスを90:10となるように導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は50nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。
得られたTi酸化物膜付きガラス基板を例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0097】
(例27)(比較例)
例26におけるTi酸化物膜の膜厚を100nmとした以外は例26と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0098】
(例28)(比較例)
例26におけるTi酸化物膜の膜厚を200nmとした以外は例26と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0099】
(例29)(比較例)
例26における導入ガスをアルゴンガスと窒素ガス=90:10とした以外は例26と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0100】
(例30)(比較例)
例29におけるTi酸化物膜の膜厚を100nmとした以外は例29と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0101】
(例31)(比較例)
例29におけるTi酸化物膜の膜厚を200nmとした以外は例29と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0102】
(例32)(比較例)(アルカリガラスを用いた例)
真空チャンバー内に高純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(UV−IRカットソーダライムガラス、3.5mm厚、400nmにおける透過率60%)をセットし残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまでアルゴンガスを導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は50nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。その後、大気中で650℃、10分間焼成した。
得られたTi酸化物膜付きガラス基板を例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0103】
(例33)(比較例)
例32におけるTi酸化物膜の膜厚を100nmとした以外は例32と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0104】
(例34)(比較例)
例32におけるTi酸化物膜の膜厚を200nmとした以外は例32と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0105】
(例35)(比較例)(オーバーコートを形成した例)
真空チャンバー内に高純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ボロンドープシリコンターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(コーニング#1737ガラス:1.1mm厚、可視光透過率91%)をセットし、残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで3.9Paまでアルゴンガスを導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、Ti酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Ti酸化物膜の膜厚は200nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。次いで0.5Paまで酸素ガスを導入した後、DCスパッタ(放電電力=1000W)により、Si酸化物膜付きガラス基板を得た。このとき、Si酸化物膜の膜厚は10nmであった。成膜時に基板加熱は行わなかった。その後、大気中で650℃、10分間焼成した。
得られたTi酸化物膜付きガラス基板を例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。
【0106】
(例36)(比較例)
例1におけるTi酸化物膜の焼成雰囲気を窒素雰囲気とし、焼成時間を10分間とした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。上記窒素雰囲気下での焼成では、Ti酸化物膜が酸化されていないと推測される。
【0107】
(例37)(比較例)
例1におけるTi酸化物膜の焼成時間を40分間とした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表4、表5に示し、評価結果を表6に示す。上記焼成時間では、Ti酸化物膜は、内部まで酸化されている状態になっていると推測される。
【0108】
(例38)
例1における残留ガス圧を6.0×10−4Paとした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0109】
(例39)
例1における残留ガス圧を2.7×10−4Paとした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0110】
(例40)
例38におけるTi酸化物膜の成膜時導入ガスをアルゴンガス:窒素ガス=90:10とした以外は例38と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0111】
(例41)
例39におけるTi酸化物膜の成膜時導入ガスをアルゴンガス:窒素ガス=90:10とした以外は例39と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0112】
(例42)
例1における放電電力を0.5kWとした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0113】
(例43)
例42におけるTi酸化物膜の放電電力を1kWとした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例42と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0114】
(例44)
例42におけるTi酸化物膜の成膜時導入ガスをアルゴンガス:窒素ガス=90:10とした以外は例42と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0115】
(例45)(比較例)
例43におけるTi酸化物膜の成膜時の導入ガスをアルゴンガス:窒素ガス=90:10とした以外は例43と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0116】
(例46)
例1におけるTi酸化物膜の成膜時の導入ガスをアルゴンガス:酸素ガス=99:1とした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。なお、得られたTi酸化物膜の400nmの波長における吸収率は1.0%であった。
【0117】
(例47)
例1におけるTi酸化物膜の成膜時の導入ガスをアルゴンガス:酸素ガス=97:3とした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0118】
(例48)
例1におけるTi酸化物膜の成膜時の導入ガスをアルゴンガス:酸素ガス=95:5とした以外は例1と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0119】
(例49)(比較例)
例21におけるTi酸化物膜の成膜時の導入ガスをアルゴンガス:酸素ガス=99:1とした以外は例21と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0120】
(例50)(比較例)
例21におけるTi酸化物膜の成膜時の導入ガスをアルゴンガス:酸素ガス=97:3とした以外は例21と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0121】
(例51)(比較例)
例21におけるTi酸化物膜の成膜時の導入ガスをアルゴンガス:酸素ガス=95:5とした以外は例21と同様にして、Ti酸化物膜付きガラス基板を得て、例1と同様の方法により評価した。膜付きガラス基板の形成条件を表7、表8に示し、評価結果を表9に示す。
【0122】
(例52)
真空チャンバー内に低純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、SCターゲット(旭硝子セラミックス製:Si50原子%、SiC50原子%)、高純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(UV−IRカットソーダライムガラス、3.5mm厚、400nmにおける透過率60%)をセットし、成膜直前の残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで0.47Paまでアルゴンガスと酸素ガスの比が97:3になるように導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、低純度TiOターゲットを用いて、Ti酸化物膜を形成した。Ti酸化物膜の膜厚は90nmであった。
【0123】
次いで、成膜直前の残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。0.5Paまでアルゴンガスと酸素ガスの比が7:3になるように導入した後、Ti酸化物膜上に、DCスパッタ(放電電力=750W)により、SCターゲットを用いてSi酸化物膜を形成した。Si酸化物膜の膜厚は145nmであった。
【0124】
次いで、成膜直前の残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。3.9Paまでアルゴンガスと窒素ガスの比が9:1になるように導入した後、Si酸化物膜上に、DCスパッタ(放電電力=750W)により、高純度TiOターゲットを用いてTi酸化物膜を形成した。Ti酸化物膜の膜厚は90nmであった。
【0125】
次いで、成膜直前の残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。2.0Paまでアルゴンガスと酸素ガスの比が7:3になるように導入した後、Ti酸化物膜上に、DCスパッタ(放電電力=750W)により、SCターゲットを用いてSi酸化物膜を形成した。Si酸化物膜の膜厚は30nmであった。
得られたガラス/Ti酸化物膜/Si酸化物膜/Ti酸化物膜/Si酸化物膜からなる積層体のJIS R3106(1998年)による可視光透過率は73%、日射透過率は37%であり、十分なIRカット性能を有することが分かった。形成された積層体の親水性、防曇性、結晶構造およびガス分解性について評価した結果を表9に示す。
【0126】
(例53)
真空チャンバー内に低純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、SCターゲット(旭硝子セラミックス製:Si50原子%、SiC50原子%)、高純度TiO(x=1.984)ターゲット(200mm×70mm)、ガラス基板(UV−IRカットソーダライムガラス、3.5mm厚、400nmにおける透過率60%)をセットし、成膜直前の残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気した。次いで0.47Paまでアルゴンガスと酸素ガスの比が97:3になるように導入した後、DCスパッタ(放電電力=750W)により、低純度TiOターゲットを用いてTi酸化物膜を形成した。Ti酸化物膜の膜厚は11nmであった。
【0127】
次いで、成膜直前の残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気し、0.5Paまでアルゴンガスと酸素ガスの比が7:3になるように導入した後、Ti酸化物膜上に、DCスパッタ(放電電力=750W)により、SCターゲットを用いてSi酸化物膜を形成した。Si酸化物膜の膜厚は26nmであった。
【0128】
次いで、成膜直前の残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気し、3.9Paまでアルゴンガスと窒素ガスの比が9:1になるように導入した後、Si酸化物膜上に、DCスパッタ(放電電力=750W)により、高純度TiOターゲットを用いてTi酸化物膜を形成した。Ti酸化物膜の膜厚は110nmであった。
【0129】
次いで、成膜直前の残留ガス圧が1×10−3Pa以下になるまで真空に排気し、2.0Paまでアルゴンガスと酸素ガスの比が7:3になるように導入した後、Ti酸化物膜上に、DCスパッタ(放電電力=750W)により、SCターゲットを用いてSi酸化物膜を形成した。Si酸化物膜の膜厚は100nmであった。
【0130】
こうして得られたガラス/Ti酸化物膜/Si酸化物膜/Ti酸化物膜/Si酸化物膜のからなる積層体のJIS R3106(1998年)による可視光透過率は78%、可視光反射率は4%であり、AR性能を有することが分かった。形成された積層体の親水性、防曇性、結晶構造およびガス分解性について評価した結果を表9に示す。表9より、オーバーコート膜の膜厚が80nm以上という厚い膜であっても、可視光光触媒性が発揮することが分かった。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】

【0133】
【表3】

【0134】
【表4】

【0135】
【表5】

【0136】
【表6】

【0137】
【表7】

【0138】
【表8】

【0139】
【表9】

【0140】
以上の評価結果から、下記の結果が得られる。
(1)高純度TiOターゲットを用いて特定の条件でスパッタ法により形成されたTi酸化物膜を特定の条件で焼成することにより、高い可視光光触媒性を有するTi酸化物膜を得られる。よって、低純度TiOターゲットを用いても、可視光光触媒性は得られない(例1〜25、例49〜51)。
(2)また、スパッタガス中に希ガスのみならず、窒素ガスを導入した場合であってもTi酸化物膜は高い可視光光触媒性を示す。
(3)また、成膜後の焼成を行っていない膜は、高純度TiOターゲットを用いて成膜した場合であってもガス分解性がほとんどない(例26〜31)。
(4)膜厚は、特に限定されず、10〜250nmの範囲で高い可視光光触媒性を有する。
(5)アルカリ金属を含むガラス基板を用いた場合は、下地膜を形成することにより、ガラス基板からTi酸化物膜へのアルカリ金属の拡散を防止でき、高い可視光光触媒性を有する(例32〜34)。
(6)オーバーコートを形成する場合は、成膜圧力を0.5Pa以上とすることにより、成膜時のTi酸化物膜へのダメージを低減し、Ti酸化物膜の高い可視光光触媒性を維持できる(例35)。
(7)Ti酸化物膜の焼成の雰囲気、温度および時間が可視光光触媒性を発現させるための重要な要素である(例36〜37)。
(8)Ti酸化物膜の成膜時の残留ガス圧は、低い方つまり真空度が高い方が高い可視光光触媒性を発現できる(例38〜41)。
(9)Ti酸化物膜の放電電力は、低い方が高い可視光光触媒性を発現できる(例42〜45)。
(10)また、スパッタガス中に希ガスのみならず、酸素ガスを導入した場合であってもTi酸化物膜は高い可視光光触媒性を示す(例46〜48)。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明のTi酸化物膜は、高い可視光光触媒性を有し、かつ透明性に優れるため、UV光が透過しにくい車両用や建築用ガラスの膜として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に形成されたTi酸化物膜であって、100mW/cmの輝度を有するキセノンランプの光を、400nm未満の紫外光をカットして前記Ti酸化物膜に照射しながら前記Ti酸化物膜に電圧を印加したときの電流値が、暗所における前記Ti酸化物膜に該電圧と同じ電圧を印加したときの電流値に対して1000倍以上であることを特徴とするTi酸化物膜。
【請求項2】
基体上に形成されたTi酸化物膜であって、前記Ti酸化物膜がアナターゼ型の結晶構造を有し、前記Ti酸化物膜の表面層がTiOであり、前記Ti酸化物膜の内部がTiOであり、かつ前記Ti酸化物膜中のチタン、窒素および酸素の含有割合の合計が99.0質量%以上であることを特徴とするTi酸化物膜。
【請求項3】
基体上に形成された前記Ti酸化物膜の上にオーバーコートを形成してなる請求項1または2に記載のTi酸化物膜。
【請求項4】
前記Ti酸化物膜の膜厚が5〜600nmである請求項1、2または3に記載のTi酸化物膜。
【請求項5】
前記Ti酸化物膜の表面層が、膜の表面から3〜20nmの範囲である請求項2に記載のTi酸化物膜。
【請求項6】
前記Ti酸化物膜の400nmの波長における吸収率が0.3〜40%である請求項1〜5のいずれかに記載のTi酸化物膜。
【請求項7】
前記Ti酸化物膜中のチタンおよび酸素の含有割合の合計が99.0質量%以上である請求項1〜6のいずれかに記載のTi酸化物膜。
【請求項8】
前記Ti酸化物膜と基体との間に下地膜を形成してなる請求項1〜7のいずれかに記載のTi酸化物膜。
【請求項9】
前記基体がガラス基板である請求項1〜8のいずれかに記載のTi酸化物膜。
【請求項10】
前記ガラス基板がUVカットガラスである請求項9に記載のTi酸化物膜。
【請求項11】
前記Ti酸化物膜が車両用ガラスの内面に形成されている請求項1〜10のいずれかに記載のTi酸化物膜。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかのTi酸化物膜が表面に形成されているTi酸化物膜付き基体。
【請求項13】
基体上に、チタンおよび酸素の含有割合の合計が99.0質量%以上であるTiO(1<x<2)から構成されるスパッタターゲットを用いて、希ガス、窒素含有ガスおよび酸素含有ガスとからなる群から選ばれる1種以上のガスの雰囲気中、スパッタ法によりTi酸化物膜を形成した後、前記Ti酸化物膜を酸素存在下で400〜750℃で1〜28分間焼成することを特徴とするTi酸化物膜の製造方法。
【請求項14】
Ti酸化物膜の成膜時の圧力が1.5〜6Paである請求項13に記載のTi酸化物膜の製造方法。
【請求項15】
基体上に、チタンおよび酸素の含有割合の合計が99.0質量%以上であるTiO(1<x<2)から構成されるスパッタターゲットを用いて、希ガス、窒素含有ガスおよび酸素含有ガスとからなる群から選ばれる1種以上のガスの雰囲気中、スパッタ法によりTi酸化物膜を形成した後、1.0Pa以上の成膜圧力でスパッタ法によりSi酸化物膜を形成した後、酸素存在下で400〜750℃で1〜28分間焼成することを特徴とするTi酸化物膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/056870
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516168(P2005−516168)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018376
【国際出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】