説明

可視光励起型光触媒活性が付与された塗装金属板及びその製造方法

【課題】 可視光励起型光触媒粉末,蓄光・発光体粉末をトップ塗膜に分散させることにより、光触媒活性を改善し、夜間でも光触媒活性を持続する塗装金属板を提供する。
【解決手段】 スチレン換算分子量:300以上のシリカ系バインダに可視光励起型光触媒,蓄光・発光体粉末が分散したトップ塗膜が設けられている。蓄光・発光体粉末は、単独配合量:10〜50質量%,可視光励起型光触媒との合計配合量:20〜80質量%でトップ塗膜に分散しており、可視光励起型光触媒の光触媒活性を向上させると共に、光照射のない状況下でも青色発光して光触媒を励起する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光照射で光触媒活性を示し、夜間でも光触媒活性が持続する塗装金属板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TiO2を初めとする光触媒は、紫外光照射で活性化し、有機物,NOx,SOx等を分解する作用を呈する。この作用を活用し、アナターゼ型のTiO2粒子を配合した塗膜を基材表面に設けることによって、塗装金属板に光触媒活性を付与することが検討されている。
紫外光照射に代え可視光照射でも光触媒活性を発現させるため、金属イオンをイオン注入した酸化チタン(特許文献1),炭化水素化合物及び水素の存在下でのプラズマ処理により酸素欠陥をコントロールした酸化チタン(特許文献2),酸化チタン前駆体をアンモニアガス存在下で熱処理することにより製造された窒素ドープ酸化チタン(特許文献3)等が提案されている。
【特許文献1】特開平9-262482号公報
【特許文献2】特開平11-333301号公報
【特許文献3】特開2001-278625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
酸化チタン等の光触媒で物質を分解する場合、通常は紫外光照射で光触媒を励起している。そのため、光触媒機能を付与した内装材や内壁材では、紫外光照射光源を新たに設置することが必要とされ、設置場所の確保に工夫を要することは勿論、コストアップの原因にもなる。
可視光励起型光触媒を使用すると、特別な紫外光照射光源を必要とせず蛍光灯の光でも有機物の分解反応が生じる。しかし、室内の蛍光灯等による照射では光強度が弱く、有機物分解に必要な光触媒活性が得られない。光触媒粒子の表面積を大きくする方法,光触媒粒子に吸着剤を添加し分解するものと集めて効率よく分解する方法等で光触媒活性を向上することも検討されているが、依然として光触媒活性の向上には限界がある。
【0004】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、蓄光又は発光体粉末を可視光励起型光触媒と共にトップ塗膜に分散させることにより、可視光の強度を高め、紫外光の微弱な蛍光灯や紫外光がほとんどないナトリウムランプ等が設置されている場所でも、汚染物質,臭気,NOx,SOx等を効率良く分解でき、外部からの光照射を期待できない夜間の時間帯でも蓄光又は発光体粉末の青色発光を利用して光触媒活性を持続させる塗装金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の塗装金属板は、可視光励起型光触媒及び蓄光又は発光体粉末を分散させた可視光励起型光触媒塗膜(トップ塗膜)が金属基板の表面に直接又は間接に形成されていることを特徴とする。金属基板には、普通鋼板,めっき鋼板,ステンレス鋼板,アルミニウム板,アルミニウム合金板等が使用される。
可視光励起型光触媒粒子としては、窒素ドープされた酸化チタン,カーボンドープされた酸化チタン,酸素欠損型酸化チタンから選ばれた一種又は二種以上の酸化チタン粒子が使用される。可視光励起型光触媒は蓄光又は発光体粉末と共にトップ塗膜に分散される。
蓄光又は発光体粉末には、希土類元素がドープされたSrAl24,CaAl24,BaMgAl1017又はBaMgF4等の結晶粉末が使用される。蓄光又は発光体粉末は、単独配合量:10〜50質量%,可視光励起型光触媒粉末との合計配合量:20〜80質量%でトップ塗膜に分散している。
可視光励起型光触媒塗膜(トップ塗膜)は、金属基板の表面に直接又はプライマ塗膜を介し設けられる。
【0006】
塗装原板には、必要に応じ脱脂,酸洗,クロメート処理,クロムフリー処理等の塗装前処理が施される。顔料を含むプライマ塗料を塗布し、焼付け乾燥することによりプライマ塗膜が形成される。プライマ塗料としては、光触媒反応で分解しない無機顔料や防錆顔料を含むシリカ系塗料が好ましい。シリカ系塗料で成膜されたプライマ塗膜は、可視光励起型光触媒や蓄光又は発光体粉末を分散させたトップ塗膜との密着性が良好であり、隠蔽性を考慮し膜厚:0.5〜10μmで形成することが好ましい。
プライマ塗膜を形成した後、或いは前処理された金属基板の表面に直接、可視光励起型光触媒塗膜(トップ塗膜)が設けられる。トップ塗膜は、可視光励起型光触媒,蓄光又は発光体粉末を含むシリカ系塗料をロールコート,スプレー,刷毛塗り等で塗布し、熱処理を施すことにより形成される。トップ塗膜の膜厚は、必要な光触媒活性を得る上で0.5〜10μmの範囲に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
酸化チタンを初めとする光触媒を紫外光照射すると、有機物,NOx,SOx等を分解する反応が生起する。分解反応では、紫外光照射によって酸化チタンの価電子帯の電子がエネルギーを吸収して伝導体に励起され、価電子帯に正孔が生じ、正孔の非常に強い酸化力によって有機物,NOx,SOx等が酸化分解されると考えられている。
一方、可視光励起型光触媒は、N,C等のドープや酸素欠陥の導入でバンドギャップが小さくなっており、紫外光のみならず450mm程度までの可視光を吸収して有機物,NOx,SOx等を分解できる。しかし、光強度が相当に弱い室内環境での使用を想定すると、空気中の悪臭やVOCの分解に必要な光触媒活性が得られ難い。そこで、本発明者等は、室内光を利用する条件下で光触媒活性を向上させる方法を種々検討した結果、可視光励起型光触媒粉末と共に蓄光又は発光体粉末をトップ塗膜に分散させることが有効であることを見出した。
【0008】
蓄光又は発光体粉末の分散で光触媒活性が向上する理由は、次のように説明できる。
窒素ドープされた酸化チタン,カーボンドープされた酸化チタン,酸素欠損型酸化チタン等は、可視光で励起する光触媒ではあるが、せいぜい波長:450nm程度までの光を利用しているに過ぎない。具体的には、室内照明からの出射光のうち波長:450nm以下の光が光触媒の励起に使用されるが、長波長側の光は光触媒の励起に関与しない。
【0009】
ところが、SrAl24,CaAl24,BaMgAl1017又はBaMgF4を母体結晶とし希土類元素を含む蓄光又は発光体粉末を分散させたトップ塗膜では、可視光励起型光触媒粉末で吸収されなかった紫外光が蓄光又は発光体粉末に吸収され、蓄光又は発光体粉末から波長:400〜500nmの青色発光が生じる。青色発光が可視光励起型光触媒粉末に再度吸収されるので、光触媒活性が向上する。また、蓄光又は発光体粉末は、光照射がなくなった状況下でも粉末自体が発光するため、夜間でも光触媒活性が持続する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔金属基板〕
普通鋼板,亜鉛めっき鋼板やアルミニウムめっき鋼板等の各種めっき鋼板,ステンレス鋼板,アルミニウム板,アルミニウム合金板等が金属基板(塗装原板)に使用される。必要に応じ、アルカリ脱脂,クロメート処理,クロムフリー処理,リン酸塩処理等の前処理が施される。めっき鋼板を使用する場合、溶接部からの発錆を防止するため、溶接箇所にジンク塗料、アルミ塗料を予め施しておくことが好ましい。
【0011】
〔プライマ塗膜〕
防錆顔料,体質顔料,白色顔料の一種又は二種以上をシリカ系バインダに配合した塗料を塗装原板に塗布し熱処理すると、塗装原板及びトップ塗膜に対する密着性,耐食性に優れたプライマ塗膜が形成される。シリカ系バインダとしてスチレン換算分子量:300以上のものを使用すると、塗膜の応力が低下し耐剥離性が向上する。塗装原板が耐食性に優れ、トップ塗膜の密着性が良好な場合、プライマ塗膜を省略できる。
【0012】
〔トップ塗膜〕
塗装原板に直接、或いはプライマ塗膜の上に、可視光励起型光触媒,蓄光又は発光体粉末をスチレン換算分子量:300以上のシリカ系バインダに分散させたトップ塗料を塗布し熱処理することにより、可視光励起でも高い光触媒活性を示し、光照射のない夜間でも光触媒活性が持続するトップ塗膜が形成される。
トップ塗料は、可視光励起型光触媒,蓄光又は発光体粉末が分散したトナーをシリカ系バインダに配合することにより調製される。シリカ系バインダには、固形分として単独配合量:10〜50質量%,可視光励起型光触媒との合計配合量:20〜80質量%で蓄光又は発光体粉末が配合される。蓄光又は発光体粉末の配合量が10質量%未満では光触媒活性向上効果がみられず、逆に80質量%を超える合計配合量ではトップ塗膜の密着性が低下する。可視光励起型光触媒の配合量は、10〜50質量%の範囲で選定される。
【0013】
可視光励起型光触媒には、窒素ドープされた酸化チタン,カーボンドープされた酸化チタン,酸素欠損型酸化チタン等の一種又は二種以上が使用される。なかでも、化学的に安定であり、安価で活性度の高い微粒子が得られることから、窒素ドープされた酸化チタンが好ましい。
紫外光を吸収して青色発光する蓄光又は発光体粉末としては、希土類元素をドープしたSrAl24,CaAl24,BaMgAl1017又はBaMgF4等の結晶粉末が使用され、分散トナー中及びシリカバインダと混合した際の分散性が良好なものほど好ましい。この種の蓄光又は発光体粉末としては、蓄光顔料(イージーブライト株式会社製),SHIN-BRIGHT(株式会社スカイマックス製),PLB-7,SB-8,PLB-4M,UVB-1(株式会社ルミナス製)等がある。
【0014】
塗布されたトップ塗料は、焼付け温度:150〜400℃で焼成される。十分な縮重合反応を行わせる上で150℃以上の加熱温度が必要であるが、400℃を超える高温加熱では塗膜剥離に至るクラックが入り易い。形成されたトップ塗膜は、配合されている可視光励起型光触媒及び蓄光又は発光体粉末の複合作用により可視光照射下での光触媒活性に優れ、有機物,NOx,SOx等を効果的に分解する。
【実施例】
【0015】
〔塗装鋼板の製造〕
製造例1(本発明例)
板厚:0.5mmの亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂,リン酸亜鉛処理した後、水洗,乾燥した。次いで、スチレン換算分子量:300以上のシリカ系バインダに防錆顔料,体質顔料を分散させたプライマ塗料を塗布し、140℃×20分の加熱焼付けでプライマ塗膜を形成した。
更に、可視光励起型光触媒粉末及び蓄光又は発光体粉末をスチレン換算分子量:300以上のシリカ系バインダに分散させたトップ塗料を塗布し、200℃×20分の加熱焼付けでトップ塗膜を形成した。可視光励起型光触媒粉末には粒径:20nmの窒素ドープ酸化チタンを、蓄光又は発光体粉末には粒径:0.5μmのEuドープSrAl24粉末,粒径:0.5μmのEuドープCaAl24粉末を使用した。
【0016】
製造例2(本発明例)
ステンレス鋼板を塗装原板に用い、酸素欠陥型酸化チタンを可視光励起型光触媒粉末として使用した以外は、製造例1と同じ条件下でトップ塗膜を形成した。
製造例3(比較例)
蓄光又は発光体粉末を含まないトップ塗料を使用する以外、製造例1と同じ条件下でトップ塗膜を形成した。
製造例4(比較例)
可視光励起型光触媒粉末を舎まないトップ塗料を使用する以外、製造例1と同じ条件下でトップ塗膜を形成した。
【0017】
〔塗装鋼板の性能評価〕
得られた各塗装金属板から試験片を切り出し、トルエン分解試験により可視光照射条件下での光触媒活性を調査すると共に、夜間を想定した条件下で光触媒活性の持続性を調査した。
(1)可視光照射条件下の光触媒活性
50mm×300mmの試験片をガラス製容器に入れ、ガラス製容器を蛍光灯(照度:2000ルクス)で照射しながら、濃度:1ppmのトルエンガスを含む高純度空気(湿度:50%)を流量:0.5リットル/分で連続的にガラス製容器に送り込んだ。ガラス製容器のガス出側で、ガスクロマトグラフィ(GC-FID)を用いてトルエン濃度を測定した。トルエンの初期濃度A1及び分解後濃度A2の測定値から、次式に従ってトルエン除去率を算出した。
トルエン除去率(%)=[(A1−A2)/A1]×100
【0018】
(2)光触媒活性の持続性
照度:2000ルクスの蛍光灯照射を5時間継続した後、消灯して30分後に同じトルエン分解試験を行った。測定結果から同様にトルエン除去率を算出した。
【0019】
表1の調査結果から明らかなように、可視光励起型光触媒粉末を単独でトップ塗膜に分散させた比較例では、蛍光灯をオフした条件下でトルエンの分解が検出できなかった。蛍光灯点灯時においても、比較的低いトルエン除去率であった。
他方、可視光励起型光触媒粉末と共に蓄光又は発光体粉末をトップ塗膜に分散させた本発明例1,2では、蛍光灯照射時のトルエン除去率が高く、消灯後にもトルエン分解に有効な光触媒活性機能の持続を確認できた。
【0020】

【産業上の利用可能性】
【0021】
以上に説明したように、本発明の塗装金属板は、可視光励起型光触媒粉末,蓄光又は発光体粉末をシリカ系バインダに分散させたトップ塗膜を備えており、可視光域での光触媒活性が向上し、夜間においても光触媒活性を持続する。室内灯やトンネル内のナトリウムランプ等を光源とする光照射で励起されて光触媒反応が生じ、光照射のない状況下でもある程度の光触媒活性が維持されるので、室内の悪臭やVOCを効果的に分解する空気浄化作用が発現する。このような特性を活用し、内装材,表装材,トンネル内装板等、広範な分野に使用可能な塗装鋼板が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン換算分子量:300以上のシリカ系バインダに可視光励起型光触媒粉末及び蓄光又は発光体粉末を分散させたトップ塗膜が基材表面に設けられていることを特徴とする可視光励起型光触媒活性が付与された塗装金属板。
【請求項2】
可視光励起型光触媒が、窒素ドープされた酸化チタン,カーボンドープされた酸化チタン、酸素欠損型酸化チタンから選ばれた一種又は二種以上である請求項1記載の塗装金属板。
【請求項3】
蓄光又は発光体粉末が、希土類元素をドープしたSrAl24,CaAl24,BaMgAl1017又はBaMgF4結晶から選ばれた一種又は二種以上である請求項1記載の塗装金属板。
【請求項4】
蓄光又は発光体粉末が単独配合量:10〜50質量%,可視光励起型光触媒粉末との合計配合量:20〜80質量%でトップ塗膜に分散している請求項1記載の塗装金属板。
【請求項5】
普通鋼板,めっき鋼板,ステンレス鋼板,アルミニウム板又はアルミニウム合金板を基材とする請求項1〜3何れかに記載の塗装金属板。
【請求項6】
シリカ系バインダに無機顔料を配合した塗料を金属板表面に塗布・焼成してプライマ塗膜を形成した後、スチレン換算分子量:300以上の分子集合体を含むシリカ系バインダに可視光励起型光触媒及び蓄光又は発光体粉末を含むトナーを配合したトップ塗料を塗布し、150〜400℃で焼き付けることを特徴とする可視光励起型光触媒活性が付与された塗装金属板の製造方法。

【公開番号】特開2006−272037(P2006−272037A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90666(P2005−90666)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】