説明

可視光応答光触媒及びその製造方法及びその利用方法

【課題】白熱灯、白色LED、太陽自然光等あらゆる可視光領域に対して感受性を有し、水の光分解に活性を有する可視光応答光触媒を開発することを課題とする。
【解決手段】酸化ジルコン及び黒鉛又はグラファイトシリカを主成分とする光触媒であって、60〜100W白熱灯の紫外光をほとんど含まない可視光領域でも量子収率30%以上の水分解性能を発揮する光触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答光触媒及びその製造方法及びその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光活性をもった光触媒としては、酸化チタン系のものが主流を占めている(例えば特開2003-260370、特開2004-330074、特開平11-333302、特開平11-333304)。
【0003】
これに対して、酸化ジルコニウムはハンドキャップが大きく可視光に応答し得ないとされているが、これを用いたものについても、特開2009-106897、特開2003-117407、特開2007-75678等において提案されている。
【0004】
このうち、特開2009-106897には酸化ジルコニウムに関しては酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの白色顔料の表面に0.05μm以下の酸化タングステン粒子を付着させた可視光応答型光触媒が開示されている。
【0005】
また、特開2007-75678には、酸化ジルコニウムにニオブ、タンタル、又はアンチモン、Cr,Feなどを含む可視光感受性機能酸化物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-260370
【特許文献2】特開2004-330074
【特許文献3】特開平11-333302
【特許文献4】特開平11-333304
【特許文献5】特開2009-106897
【特許文献6】特開2003-117407
【特許文献7】特開2007-75678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これら従来の可視光応答触媒は可視光領域の一部についてのみ活性化されるに過ぎず、全ての可視光領域において活性化されるものでなく、したがってこれを用いた可視光エネルギーによる水の分解に用いることはできない。
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み、白熱灯、白色LED、太陽自然光等あらゆる可視光領域に対して感受性を有し、水の光分解に活性を有する可視光応答光触媒を開発することを目的として鋭意研究の結果、酸化ジルコニウム−黒鉛系、酸化ジルコニウム−グラファイトシリカ系複合物が可視光だけでも水を効率よく光分解することができる光機能性酸化物混合物として使用できることを見出した。
【0009】
また、従来可視光領域の一部にしか応答し得なかった酸化ジルコニウムを、黒鉛又はグラファイトシリコンと複合化することにより、3e.v以下のバンドギャップで水素還元電位より(−)側に導電帯を有する可視光応答光触媒を作成することに成功した。
【0010】
これは、酸化ジルコニウムに黒鉛乃至グラファイトシリカを含むことにより、可視光、赤外光領域での光吸収が大きく電子移動が容易になる。このような可視光、赤外線領域でのこれらの物性が本発明の可視光感受性の光触媒としての効率よい効果を発現することによるものであると推定される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の知見に基づいて、本願発明は酸化ジルコニウム及び黒鉛又はグラファイトシリカを主成分とする可視光応答光触媒を提案するものである。
【0012】
酸化ジルコニウムに対して黒鉛又はグラファイトシリカの配合割合は好ましくは30〜70Wt%である。
【0013】
酸化ジルコニウムと黒鉛又はグラファイトシリカの主成分に対してニッケル、マンガン、クロム、タングステン、セリウムから選ばれた金属酸化物又はリン酸化化合物及び炭酸化合物の一種又は二種以上から選ばれた補助成分を加えても良い。
【0014】
主成分に対する補助成分の配合割合は、例えば3〜10Wt%の割合で配合されるが、本願はこれに限定されるものでない。
【0015】
本願発明に係る可視光応答光触媒の製造方法としては、(1)酸化ジルコニウムと黒鉛又はグラファイトシリカの主成分或いは主成分に上記補助成分を機械混合により均一微細化する方法、(2)酸化ジルコニウム或いは酸化ジルコニウムと上記補助成分を含む原料溶液を調製し、該原料溶液のpHを調製することにより生成した沈殿物を仮焼し、得られた酸化物混合体に黒鉛又はグラファイトシリカを機械混合により均一微細化する方法、(3)機械混合しなくても酸化ジルコニウムの少なくとも一部に黒鉛又はグラファイトシリカ或いはこれに上記補助成分を含む成分を被覆する方法を挙げることができる。
【0016】
(2)の具体的な方法としては、酸化ジルコニウム或いは酸化ジルコニウムと上記補助成分の金属塩、金属アルコシド、金属等を溶解して原料溶液を調製し、これにアルカリを加えてpHを調製することにより生成した沈殿物を400〜1200℃で最大8時間仮焼するのが好適である。
【0017】
(3)の具体的な方法としては、酸化ジルコニウムと黒鉛又はグラファイトシリカを特殊な(?)ビヒクルを使用し、常温又は高温処理することによる。
【0018】
また、本願発明に係る可視光応答光触媒の利用方法としては、基板上に酸化ジルコニウムと黒鉛又はグラファイトシリカの主成分或いはこれに上記補助成分を含む成分のコーティング層を形成する方法を挙げることができる。
【0019】
具体的な利用方法としては、樹脂製、セラミック製、又はガラス製等の基板上にビヒクルを展開し、この上に酸化ジルコニウムと黒鉛又はグラファイトシリカの主成分或いはこれに上記補助成分をコーティング後、常温及び加熱乾燥し、又は加熱処理する。
【0020】
なお、本願発明に係る触媒は、所定のビヒクルの使用により基板に塗布しても可視光応答型光分解に支障をきたさない。
【0021】
本願発明に係る触媒は、60〜100W白熱灯の紫外光をほとんど含まない可視光領域でも量子収率30%以上の水分解性能を発揮し、太陽の自然光で太陽光エネルギー変換効率が10〜30%の高効率水分解性能を有する。
【0022】
本願発明に係る触媒は海水、河川水、水道水、純水に関係なく水を光分解することが可能である。
【0023】
所定のビヒクルの使用により基板に塗布しても可視光応答型光分解に支障をきたさない、塗布型可視光応答光触媒を提供することにより水素、酸素の製造だけではなく広い利用範囲、例えば人工森林、発電所の冷却水路の防汚などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例2の試料で拡散分光光度計で光の吸収を測定した結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
酸化ジルコン及び黒鉛又はグラファイトシリカを主成分とする光触媒であって、60〜100W白熱灯の紫外光をほとんど含まない可視光領域でも量子収率30%以上の水分解性能を発揮する光触媒。
【実施例1】
【0026】
45wt% 酸化ジルコニウムに45wt%黒鉛及び5wt%酸化ニッケルと5wt% 酸化マンガンを混合し、微細粉砕して均一混合した。
【実施例2】
【0027】
40wt% 酸化ジルコニウムに40wt%黒鉛及び10wt%酸化ニッケルと10wt 酸化マンガンを混合し、微細粉砕して黒色均一混合物を得た。
【実施例3】
【0028】
40wt% 酸化ジルコニウムに40wt%グラファイトシリカ及び20wt% 酸化マンガンを混合し、微細粉砕して黒色均一混合物を得た。
【実施例4】
【0029】
0.03モルのオキシ塩化ジルコニウム・8水和物、0.005モルの酸化ニッケル水和物、0.005モルの酸化マンガン水和物を水2000mlに溶解して原料溶液を調製した。この水溶液を60℃+5℃で煮沸した後PH値が9+0.5となるようにアンモニア水を添加して沈殿を得た。
沈殿物を乾燥後、1100℃で1時間大気中で仮焼して酸化ジルコニウムー酸化ニッケルー酸化マンガン混合物の焼結物を得た。
この焼結物に40wt%になるように黒鉛粉末を混合して微細粉砕して黒色均一混合物を得た。
【実施例5】
【0030】
実施例4で得た焼結物に40wt%になるようにグラファイトシリカを混合して、微細粉砕して灰色均一混合物を得た。
【実施例6】
【0031】
黒鉛又はグラファイトシリカ板表面に酸化ジルコニウムをコ―ティングして加熱温度処理をして光触媒を得た。
【実施例7】
【0032】
実施例1,2,3,4,5で得た微細混合物10gを水性透明のアクリルシリコン15mlに混合して塗布用ガラス基板に約10μmの厚さに塗布した後150℃で表面処理して基板に固定した。
【実施例8】
【0033】
実施例1,2,3,4,5で得た微細混合物10gを水性シリコン15mlと水性アクリル樹脂15mlに混合して塗布用ガラス基板に約10μmの厚さに塗布した後150℃で表面処理して基板に固定した。
【実施例9】
【0034】
実施例6,7で得られた塗布基板の上部に酸化ジルコニウム10gをアクリルシリコン15mlに混合して得たビヒクル体を約5μmの厚さに塗布して150℃で表面処理し、塗布基板を得た。
【実施例10】
【0035】
実施例6,7で得たガラス塗布基板を(3cm×3cm)を300mlの水道水を入れた500ml反応装置の底辺に静置して触媒面から30cmの高さから紫外線をほとんど含まない100Wの白熱灯を照射して、水の光分解を行った。
結果、1時間後の測定で各々約7〜8mlの水が完全分解した。発生したガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、水素/酸素=2/1(モル)であった。12時間連続照射においても時間単位での水素、酸素発生量にほとんど変化はなかった。
【実施例11】
【0036】
実施例8で得たガラス塗布基板(3cm×3cm)を300mlの純水をいれた500mlの反応装置の底辺に静置して、底面10cmの下方から触媒板の裏面に100Wの白熱灯を照射して水の光分解を行った。10時間後のガス組成をガスクロマトグラフィーで分析した結果、水素/酸素=2/1(モル)であった。水の分解量は各々7〜8ml/時間であった。
【実施例12】
【0037】
実施例7で作製した光触媒塗布ガラス基板(3cm×3cm)を一般に使用するビーカーの中の10ppmのメチレンブルー水溶液50mlに静置した。15cm上方から60W白熱灯を照射して、その脱色反応を観察した。各々約10分でメチレンブルーを完全に脱色した。
【実施例13】
【0038】
拡散分光光度計を使用して実施例2の試料について光の吸収を測定した結果は図1に示す通りであった。
【0039】
なお、使用した拡散分光光度計のプロバティは下記の如くである。
機種名:UV-2400PCシリーズ
測光値:反射率
スリット幅:5.0nm
光源切り替波長:360.0nm
S/R切替:標準
【0040】
また、測定プロパティは下記の如くである。
波長範囲(nm): 220.0〜850.0
スキャン スピード:中速
サンプリングピッチ:有効
測定モード: シングル
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明によれば塗布型触媒を提供することにより水素、酸素の製造だけではなく広い利用範囲、例えば人工森林、発電所の冷却水路の防汚などに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム及び黒鉛又はグラファイトシリカを主成分とする可視光応答光触媒。
【請求項2】
ニッケル、マンガン、クロム、タングステン、セリウムから選ばれた金属酸化物又はリン酸化化合物及び炭酸化合物の一種又は二種以上から選ばれた補助成分として加える請求項1記載の光触媒。
【請求項3】
酸化ジルコニウムの表面の少なくとも一部に黒鉛又はグラファイトシリカを有する可視光応答光触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1−3に記載された光触媒を、ビヒクルを介して基板上に展開する光触媒の利用方法。
【請求項5】
基板が、樹脂製、セラミック製又はガラス製である請求項4記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−176332(P2012−176332A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39107(P2011−39107)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(511051498)株式会社グリーンケミー (1)
【Fターム(参考)】