説明

可視光応答型光触媒機能を示す酸化亜鉛ファイバー、およびその製造方法

【課題】可視光に応答し、環境汚染化学物質ガスを分解する素材物質であるZnOファイバ
ーを提供する。亜鉛の有機錯体であるビスアセチルアセトナート亜鉛・1水和物、Zn(acac)2・H2O(以下Zn(acac)2と略)を原料とし、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程を経て、可視光応答型のZnOファイバーを獲得する製造方
法を提供する。
【解決手段】本発明において提供する素材物質は、可視光に応答してアルコール類、芳香族化合物類、アルデヒド類に代表される環境汚染化学物質ガスに対して、光分解特性を発揮するZnOファイバーである。更に、本発明において提供する製造方法は、亜鉛の有機錯
体である、Zn(acac)2を前駆体として、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換
工程、加熱による粒成長工程を通じて、可視光応答型の無機ZnOファイバーを製造する方
法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光に応答して環境汚染化学物質ガスを分解することを特徴とするZnOフ
ァイバー素材物質を提供すること、およびZnの有機錯体Zn(acac)2・H2Oを原料として、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程を経て、可視光応答型の一次元性ZnOファイバー素材物質を製造する方法を提供することに関するもの
である。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒を用いた空気の純化に関する研究が盛んに行われている。特に酸化物半導体化合物は空気中における過酷な使用条件下においても、その性質が変化しにくいために光触媒の素材として極めて有望視されている。結晶構造が六方晶系(空間群P63mc)、格
子定数がa=0.3250 nm、c=0.5207nmであって、電子構造面で3.37eVと広いバンドギャップ
をもち、環境調和型でかつ価格面において安価であるZnOは、最近特に注目度の高い酸化
物半導体化合物ある。そこで、高エネルギーの紫外光の照射を必要とせずに可視光に応答して、アルコール、芳香族化合物類、アルデヒド類に代表される環境汚染を招く化学物質ガスに対して光分解能力を発揮するZnO新規素材物質の開発が希求される。
【0003】
近年、薄膜とは成長形態が異なるウイスカー(岡田、大塩、斉藤:第48回応物学会講演予稿集 30P-K-1: 非特許文献1)やナノベルト(Z.W.Pan, Z.R.Dai, Z.L.Wang: Science, 291 (2001) 1947: 非特許文献2)の研究が報告され始め、これらの材料を用いた電子デバイスへの応用が期待されている。しかし、これらの材料が光触媒に利用されたという報告はない。
ZnO粉体は試薬として市販され、簡単に入手できる。しかし、これらの粉体は光触媒へ
の利用を前提に作られていないことから、光触媒特性が明らかになっていない。近年、光触媒への利用を目的としてMaterials Research Bulletin 41 (2006) 67-77(非特許文献
3)にナノ粉体の論文が報告された。この論文は染料であるmethylene blue を効率よく光触媒分解させることが出来るZnOナノ粉体についての研究報告がある。しかし、当該論文
の製法は本発明の内容とは全く異なっており、論文中では本発明の特長である可視応答特性は示されていない。また、原料として環境に有害なZn(NO3)2が利用されているという問題点もある。
【0004】
特開2003-238119(特許文献1)に本発明の発明者の1人が本発明に類似したマイクロワ
イヤーの製法についての特許を出願している。この発明は、マイクロワイヤーの製法について記載したもので、原料についても十分検討されておらず、明細の中では、少なくとも一種類以上の昇華性を有する有機金属材料、例えば、金属イオンにacac(アセチルアセトン基)、DPM(ジピバロイルメタネート基)、HFA(ヘキサフルオロ基)、i-PrCp(イソプロピルシクロペンタ基)が金属イオンの価数に相当する数だけ配位結合した幾つかの材料を用いている。また、得られたマイクロワイヤーの物性についても殆ど示しておらず、簡単なX線回折についての結果の記載に留まっている。さらに、光触媒への応用を念頭にお
いていないことから、光触媒特性の記載も全く示されていない。対比するに、本発明は、再現性のある製法の確立、得られたZnOファイバーの物性的な詳細について研究を重ね、
その作製パラメータ、物性値を詳しく説明したものであり、さらに可視光に応答する光触媒特性についても詳細かつ厳密な記述を行っている。
【0005】
他の可視応答型の特許出願として特開2003-225573(特許文献2)がある。この特許は可視光に応答性がある酸化亜鉛光触媒についてのものであるが、可視光に光触媒特性を持たせるために窒素を不純物として導入しており、製法としてアンモニア亜鉛錯体を原料とし
ており、この原料を噴霧法により高温領域に導入し、微細なZnO粉体を得ている。この製
法は、本出願とは全く異なるものであり、さらに、可視光応答特性を得る手段として窒素の添加を用いているところも発明を根本的に異にするものである。
【0006】
【特許文献1】特開2003-238119
【特許文献2】特開2003-225573
【非特許文献1】岡田、大塩、斉藤:第48回応物学会講演予稿集 30P-K-1
【非特許文献2】Z.W.Pan, Z.R.Dai, Z.L.Wang: Science, 291 (2001) 1947
【非特許文献3】Materials Research Bulletin 41 (2006) 67-77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決すべき第一の課題は、可視光応答触媒の能力を発揮するZnO素材物質の開拓である
。解決が求められるべき第二の課題は、より有効に可視光応答触媒能を発揮させるため、素材に対してマクロ、ミクロ、ナノ次元における形状制御の手法を確立し、素材を完成させることである。第三の課題は素材として、触媒毒の被毒からの復元力が強いこと、更に、長時間の使用に耐える、つまり長寿命を有することである。このことを実現するためには、素材に高結晶性を付与する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の課題は、可視光応答触媒能力を有するZnO素材の開拓である。本発明者らは多く
の試行錯誤を重ねた結果、亜鉛の有機錯体であるZn(acac)2・H2Oを前駆体とし、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程の手段を講じ、結果的に無機のZnOファイバーを製造する方法を見出し、更に、同方法における最適化探索の
実験を重ねた結果、製造方法を完成した。更に、この製造方法を適用して、光応答触媒能力を有するZnOファイバー素材を完成するに至った。
【0009】
第二の課題は、出来るだけ有効に可視光応答触媒能を引き出すための、マクロ、ミクロ、ナノ次元を通じた形状制御である。ZnOの形状としては基本的に、0次元の粒子、1次元のファイバー、2次元の膜が考えられる。光触媒の素材の観点からは、被分解ガスが通過するパスが長く得られ(接触時間を長く保てて)、実質的に大きな比表面積が得られること、照射される光があまねく行き渡ること、といった要件を満たすところの、1次元ファイバーの集合体が好適と考えられる。製造過程において、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程を導入することで、マクロ、ミクロ、ナノ次元を通じて、共通して1次元的であるところの、ZnOファイバー素材を獲得することが実
現できた。
【0010】
特に、本発明において適用した“有機−無機転換工程”を導入する材料の作製方法は、得られる材料の形状(外観)および微細構造(マクロ、ミクロ、ナノ次元のそれら)の両面の設計が可能な点において、更には通常の無機化合物ZnOを扱う際の一般的手法(例え
ば焼結反応)に比較して、反応温度を相対的に低く抑えることができ、いわゆるソフトケミカルの特長を存分に生かすことが出来る点において、きわめて優れた手段であることが立証された。結果として、従来の手法では得難い、種々の長所を備えたZnO素材(ここで
は可視光応答型一次元構造ZnOファイバー)を完成することができた。
【0011】
第三の課題としては、素材として、触媒毒の被毒からの復元力が強いことや長寿命であることが求められ、そのために高結晶性の目的物を得る必要があることである。本発明の場合には、ZnOナノチエーンが、結晶性に優れた清浄面を有するナノ単結晶粒子が連鎖し
て成り立っている。被分解ガスが接触する際の、受け手たる触媒物質の結晶性としては理想的なものである。
本発明では、次なる態様が提供される。
〔1〕結晶性に優れ、清浄面を有するZnOナノ単結晶粒子が連鎖することでZnOナノチエーンを構成しており、該ZnOナノチエーンを束ねた構造のもの、若しくは、ZnOナノチエーン同士が長手方向にその側面において融着したものを束ねた構造のもの、
が凝集することでZnOミクロファイバーを形成し、更にそのZnOミクロファイバー同士が凝集一体化することで形成される一次元性ZnOファイバー。
〔2〕アルコール類、芳香族化合物類、アルデヒド類に代表される環境汚染を招く化学物質ガスに対して、可視光の存在下で光分解効果を発揮することを特徴とする上記〔1〕記載のZnOファイバー。
〔3〕
以下の(1)から(3)の工程:
(1):Zn(acac)2を反応管内において、減圧下において加熱して昇華させて、内壁分にZn(acac)2をファイバー形状にて析出させる工程
(2):(1)で得た有機Zn(acac)2ファイバーに対し、過熱水蒸気を反応させて、ファイバー
形状を保ったままで無機のZnOファイバーに転換させる工程
(3):(2)で得たZnOファイバーを酸素中もしくは酸素を含むガス中において加熱すること
で結晶性を高め、最終的に目的とするZnOファイバー素材を完成する工程
を経て、上記〔1〕又は〔2〕に記載の特性を有するZnOファイバーを製造する方法であ
り、Zn(acac)2・H2Oを前駆体として用い、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程を経てZnOファイバーを完成することを特徴とする製造方
法。
〔4〕
以下の(1)から(3)の工程:
(1)Zn(acac)2を石英管内において、約1x103〜8x104Paの減圧下において約71〜120℃に加
熱して昇華させて、内壁の約45〜70℃の温度部分にZn(acac)2をファイバー形状にて析出
させる工程
(2):(1)で得た有機Zn(acac)2ファイバーに対し、100〜300℃、好ましくは100〜250℃の
過熱水蒸気を反応させて、ファイバー形状を保ったままで無機のZnOファイバーに転換さ
せる工程
(3):(2)で得たZnOファイバーを酸素中もしくは酸素を含むガス中において150〜1300℃、好ましくは200〜1200℃に、30分間〜1時間以上保持し加熱することで結晶性を高め、最終的に目的とするZnOファイバー素材を完成する工程
を経て、上記〔1〕又は〔2〕に記載の特性を有するZnOファイバーを製造する方法であ
り、Zn(acac)2・H2Oを前駆体として用い、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程を経てZnOファイバーを完成することを特徴とする上記〔
3〕記載の製造方法。
〔5〕
以下の(1)から(3)の工程:
(1)Zn(acac)2を石英管内において、減圧下、好ましくは約4x104Paの減圧下において約100℃に加熱して昇華させて、内壁の約60℃の温度部分にZn(acac)2をファイバー形状にて析
出させる工程
(2):(1)で得た有機Zn(acac)2ファイバーに対し、100〜300℃、好ましくは100〜200℃の
過熱水蒸気を反応させて、ファイバー形状を保ったままで無機のZnOファイバーに転換さ
せる工程
(3):(2)で得たZnOファイバーを酸素中もしくは酸素を含むガス中において150〜1300℃、好ましくは300〜1000℃に、1時間以上保持し加熱することで結晶性を高め、最終的に目的とするZnOファイバー素材を完成する工程
を経て、上記〔1〕又は〔2〕に記載の特性を有するZnOファイバーを製造する方法であ
り、Zn(acac)2・H2Oを前駆体として用い、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程を経てZnOファイバーを完成することを特徴とする上記〔
3〕又は〔4〕記載の製造方法。
〔6〕上記〔1〕又は〔2〕に記載の特性を有するZnOファイバーを含有することを特
徴とする可視光応答性の光触媒。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境汚染を誘引する化学物質のガスを、可視光に応答し、分解可能なZnOファイバー素材物質を獲得できる。更に、本発明の製造方法によれば、昇華工程、過
熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、過熱による粒成長工程の導入で、可視光応答型ZnOファイバー素材物質を製造することができる。本発明で得られるZnOファイバーは酸化物半導体化合物であり、空気中における過酷な使用条件下においても性質が変化しにくく、環境調和型であって、価格も安価である有利性をもつ。その外観が示すように、形状は一次元的であり、かつそれを構築しているのは最終的に清浄面をもつナノ単結晶粒子である。この結果、光触媒素材に利用する場合には、
1.照射した光が行き渡りやすい
2.大きな表面積が確保でき、高効率に光分解が達成できる
3.高結晶性を反映し素材として長寿命
4.高結晶性を反映し触媒毒の被毒からの復元力が強い
数々の長所を示すこととなる。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、可視光に応答し、環境汚染化学物質ガスを分解する素材物質であるZnOファ
イバーを提供する。亜鉛の有機錯体であるビスアセチルアセトナート亜鉛・1水和物(Zn(acac)2・H2O、以下「Zn(acac)2」と略)を原料とし、昇華工程、熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程を経て、可視光応答型のZnOファイバーを獲得する
製造方法を提供する。
本発明において提供される素材物質は、ZnOファイバーで、可視光に応答してアルコー
ル類、芳香族化合物類、アルデヒド類に代表される環境汚染化学物質ガスに対して、光分解特性を発揮する。更に、本発明において提供される製造方法は、亜鉛の有機錯体である、Zn(acac)2を前駆体として、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加
熱による粒成長工程を通じて、可視光応答型の無機ZnOファイバーを製造するものである

【0014】
本発明のZnOファイバーは、1次元ファイバーの集合体として機能することが可能であ
るものであり、さらに、製造過程において、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程を適用され、マクロ、ミクロ、ナノ次元を通じて、共通して1次元的であることを特徴としたZnOファイバー素材であってよい。本発明のZnOファイバーは、可視光応答型一次元構造ZnOファイバーであることを特徴とした素材であって
よい。本発明のZnOファイバーは、ZnOナノチエーンが、結晶性に優れた清浄面を有するナノ単結晶粒子が連鎖して成り立っているものであるという特徴を有するものであってよく、かくして、素材として、触媒毒の被毒からの復元力が強いことや長寿命であることにより特徴付けられているものであってよい。
本発明のZnOファイバーは、ZnOナノ単結晶粒子が連鎖することでZnOナノチエーンを構
成しており、該ZnOナノチエーンを束ねた構造のもの、若しくは、ZnOナノチエーン同士が長手方向にその側面において融着したものを束ねた構造のもの、が凝集することでZnOミ
クロファイバーを形成し、更にそのZnOミクロファイバー同士が凝集一体化することで形
成される一次元性ZnOファイバーであるものが挙げられ、好ましくは、結晶性に優れ、清
浄面を有するZnOナノ単結晶粒子が連鎖することでZnOナノチエーンを構成しているものである。
【0015】
本発明のZnOファイバーは、当該ZnOファイバー試料におけるX線回折ではX線回折ピークの幅は狭く、結晶化の程度が高いことを示すもので、例えば、図2(d)で示すような幅の狭いX線回折ピークにより特徴付けられるものであってよい。図2(d)あるいはそれと実質的
に同様なX線回折ピーク像を与えるZnOファイバーは、本発明に包含されるとしてもよい。本発明のZnOファイバーを構成するZnOの格子定数はa=0.3249 (1) nm、c=0.5204 (1) nmとの測定データを得ていることから、こうしたZnOの格子定数の値あるいはそれと近似した
値を有するものは、当該ZnOファイバー素材を特徴付けるものと考えてもよい。本発明のZnOファイバーは、有機金属化合物を原料としているが、無機化が完全に近く達成されていることでも特徴付けられているとしてもよく、当該ZnOファイバー中の炭素や水素の含有
量が、C: 1.00wt%以下、H: 0.30wt%以下、例えば、C: 0.10wt%以下、H: 0.10wt%以下、そして測定値としてH: 0.05wt%、H: 0.01wt%あるいはその近傍の値を与えることでも特徴付けられているとしてもよい。
【0016】
本発明のZnOファイバーは、走査型電子顕微鏡観察により、ZnOミクロロッドが観察されるものであるとしてもよい。また、本発明のZnOファイバーは、走査型電子顕微鏡観察に
より、例えば、ナノメーターオーダーの分解能での観察で、ZnOナノチエーン、若しくはZnOナノチエーンが長手方向に側面にて融着して成るZnOナノファイバーから構成されてい
るとの特徴を有するものとしてよく、さらには、電子顕微鏡観察により、ZnOナノチエー
ンは直径数十nmの、結晶性に優れた清浄面をもつ、ナノ単結晶粒子が連鎖することでもって成り立っているとの特徴を有するものとしてよい。具体的には、本発明のZnOファイバ
ーは、走査型電子顕微鏡観察により、例えば、図5(a)、(b)、(c)のいずれかあるいはそれと実質的に同等の観察結果の得られるものであってよく、また、電子顕微鏡観察により、例えば、図6(a)、(b) のいずれかあるいはそれと実質的に同等の観察結果の得られるものであってよい。
【0017】
本発明のZnOファイバーは、少なくとも(1)エチルアルコール、(2)ホルムアルデヒド、(3)m-、p-キシレン、(4)トルエン、(5)エチルベンゼン、(6)スチレンからなる6種類の化学物質ガスに対して光分解効果を発揮することにより特徴付けられるものであってよい。当該光分解効果測定は、例えば、試料0.5〜2.0gを使用し、光分解場:密閉式 セプタム付
きバイアル 40ml〜200ml、光分解対象物:初期濃度 約200ppm、光源:蛍光灯(3500K、UV光含まず)10W×2本という条件が挙げられる。
【0018】
本発明のZnOファイバー製造法は、亜鉛の有機錯体である、ビスアセチルアセトナート
亜鉛・1水和物(Zn(acac)2と単に略記)を前駆体として、昇華工程、有機−無機転換工程
、例えば、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、加熱による粒成長工程を経て、可視光応答型の無機ZnOファイバーを製造するもので、こうした工程を経るものはすべて包
含されてもよい。
当該昇華工程は、前駆体を昇華し得る条件下になされるものであればよく、当該分野で知られた条件も適宜適用できる。好ましくは前駆体の昇華は、減圧条件下、前駆体を加熱することで達成できるが、例えば、約1x103〜8x104Paの減圧下において約71〜120℃に加
熱して前駆体を昇華できるし、より具体的な場合、約4x104Paの減圧下において約100℃に加熱して達成できる。本昇華工程では、昇華した前駆体の移動を図る目的で、不活性ガスを流すことが可能であり、当該不活性ガスとしては所期の目的に悪影響を及ぼさないもの
であれば特に限定されず如何なるものも使用できるが、好適には、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、空気、空気と窒素ガスの混合物などから選択して使用することができる。本昇華工程では、昇華せしめられた前駆体は、析出するに十分な温度の帯域、例えば、前駆体の昇華時の温度より低い面に接触させるなどして析出させる。前駆体はファイバー形状にて析出させる。前駆体をファイバー形状に析出させることができる条件が満足できれば、特にその析出速度、析出方法などは限定されるものではない。具体的な場合、反応を行っている反応器の内壁を約45〜70℃の温度部分として、そこに昇華した前駆体を析出させることができる。代表的な場合、反応内壁の約60℃の温度部分にZn(acac)2をファ
イバー形状にて析出させる。
【0019】
次に、ファイバー形状に析出せしめられたビスアセチルアセトナート亜鉛は、有機−無機転換工程に付され、ファイバー形状を保ったまま、酸化亜鉛(ZnO)に変換される。本有
機−無機転換工程は、所要の目的を達成できる限り、当該分野で知られた条件も適宜適用でき、また、様々な条件を適用できて特に限定されるものではない。代表的な場合、有機Zn(acac)2ファイバーに対し、過熱水蒸気を反応させて、ファイバー形状を保ったままで
無機のZnOファイバーに転換させることが可能であり、例えば、有機Zn(acac)2ファイバーに対し、100〜300℃、好ましくは100〜250℃の過熱水蒸気を反応させて、ファイバー形状を保ったままで無機のZnOファイバーに転換させるものであってもよい。好ましい場合と
しては、有機Zn(acac)2ファイバーに対し、100〜300℃、好ましくは100〜200℃の過熱水
蒸気を反応させて、ファイバー形状を保ったままで無機のZnOファイバーに転換させる。
【0020】
上記のようにして無機化されたZnOファイバーは、粒成長工程に付されてその結晶性が
高められ、所要のZnOファイバーとされる。本粒成長工程は、実質的により結晶性が高め
られ、その結果、少なくとも光触媒としての性状に有利になるものであれば様々な条件で行うことができる。所要の目的を達成できる限り、当該分野で知られた条件も適宜適用できる。代表的な場合、有機−無機転換工程で得られたZnOファイバーを酸素中もしくは酸
素を含むガス中において加熱することで実施できるが、所要の目的を達成できる限りこれに限定されるものではない。当該酸素を含むガスとしては、空気、酸素の富化された空気、酸素と上記した不活性ガスとの混合物、さらにはオゾンを配合してあるものなどが挙げられる。空気、酸素の富化された空気、酸素と窒素の混合物などを好適に使用できる。本粒成長工程は、ZnOファイバーを酸素中もしくは酸素を含むガス中において150〜1300℃、好ましくは200〜1200℃に、30分間〜1時間以上保持し加熱することで行うものであってよく、より好適には、上記有機−無機転換工程で得られたZnOファイバーを酸素中もしくは
酸素を含むガス中において150〜1300℃、好ましくは300〜1000℃に、1時間以上保持し加
熱するものであることができる。
【0021】
本発明のZnOファイバー製造法に従えば、様々な素材(無機物や金属を含む)の上に有
機Zn(acac)2ファイバーを直接形成した後、そのまま有機−無機転換工程に付して、無機
のZnOファイバーとし、さらに良結晶化せしめることができる。また、本発明のZnOファイバーは、それを収穫したのち、そのファイバー形状を保ったまま、あるいはファイバー形状を活かして、任意に様々な添加物などと配合して、様々な素材表面に付着せしめることが可能であるし、また、充填剤として使用することも可能である。
代表的な添加物としては、接着剤、粘着剤、賦形剤、増量剤、固着剤などが挙げられるが、これに限定されず当該分野で知られたものなどが適宜使用できる。
【0022】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0023】
以下の三つの工程を通じてZnOファイバー作製した。
(1):Zn(acac)2〔ビスアセチルアセトナート亜鉛・1水和物(Zn(acac)2・H2O、「Zn(acac)2」と略)〕を石英管内において、4x104Paの減圧下で100℃に加熱して昇華させて、内壁の60℃の温度帯にfiber状で析出させた。
(2):(1)で得たZn(acac)2ファイバーに対して110℃の過熱水蒸気を反応させて、その形
状を保ったままZnOファイバーに転換した。
(3):(2)で得たZnOファイバーを酸素中で800℃で1時間(1h)加熱して粒成長させて結晶性を高め、仕上げた。
【0024】
有機−無機の転換過程を粉末XRD法; 線源CuKαで調べた。ZnOファイバー中に残留するC量を燃焼−赤外線吸収法、H量を搬送融解−熱伝導度法で分析した。更に、ZnOファイバ
ーの外観およびミクロ、ナノ領域の構造を走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡で調べた。
【0025】
図1にZn(acac)2を原料にしてZnOファイバーを得る各過程における試料の外観、図2にそれに伴うX線粉末回折結果を示す。図3〜図6は電子顕微鏡観察によって得られた知見
である。解析の結果を総合すると以下のように要約される。
(1): Zn(acac)2を原料(図1(a))にして、昇華を終えて生成したZn(acac)2 ファイバー(図1(b))は微細多結晶体である(図2(b)、図3)。
(2): Zn(acac)2 ファイバーを 過熱水蒸気を用いて分解すると、ファイバーの形状を
保持したままで無機のZnO ファイバー(図1(c))に転換できる。この転換工程において、acac基の脱離に起因する比較的大きな体収縮がみられる。この段階のZnO ファイバーのXRD
回折ピークの幅は比較的広い(図2(C))。このZnOファイバーの格子定数はa=0.3248(2)nm、c=0.5206(4)nmである(表1)。
【0026】
【表1】

【0027】
表1には、Zn(acac)2 ファイバーを 過熱水蒸気を用いて分解して得たZnO ファイバー
、および800℃まで加熱し粒成長させた後の、最終ZnO ファイバーに対する格子定数、試
料中のCおよびH元素の残留量が示されている。
この段階では、多結晶ZnOと数ナノメータ直径のZnO単結晶粒が共存してる(図4)。更
に、Cが1.26wt.%、Hが0.38wt.%残留している(表1)。
(3):800℃まで加熱し粒成長させた後の、最終ZnO ファイバー試料におけるX線回折ピ
ークの幅は狭く、結晶化度が高まったことを示す(図2(d))。このファイバーを構成するZnOの格子定数は0.3249 (1)nm、c=0.5204(1)nmである(表1)。更に、このファイバー中にはC
はもはや0.05wt%、Hも0.01wt%しか存在せず、無機化が完全に近く達成されていることを
示す(表1)。この最終ZnOファイバーはZnOミクロロッド(図5(a)、(b))、更に詳細に観察するとZnOナノチエーン、若しくはZnOナノチエーンが長手方向に側面にて融着して成るZnOナノファイバー(図5(c))から構成されている。ZnOナノチエーンは直径数十nmの、結晶性に優れた清浄面をもつ、ナノ単結晶粒子が連鎖(図6(a)、(b))することでもって成り立
っている。
【0028】
このようにして得られたZnOファイバーに対して、光触媒特性を測定した。分解実験の
条件は以下のとおりである。
試料:ZnOファイバー、およびTiO2、ZnO粉末(粒子径:200〜260nm)各0.5g
ZnOファイバーの量による光分解変化については(0.5、1.0、2.0g)
光分解場:密閉式 セプタム付きバイアル 40ml
ZnOファイバーの量による光分解変化については170ml
光分解対象物:初期濃度 約200ppm
エチルアルコール、ホルムアルデヒド、m-、p-キシレン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン
光源:蛍光灯(3500K、UV光含まず)10W×2本
分析:GC/MS分析(日本電子 JMS-K9、分離カラム HP-5MS)
【0029】
図7はZnOファイバー、および参照物質であるTiO2、ZnO粉末を光触媒として各種分解対象物における可視光での光分解効果を測定したものである。
以下が結論される。
(1)可視光照射下において、本ZnOファイバーの場合のみが、6種類の化学物質ガスに対し
て光分解効果を発揮した。
(2)光分解率99.9%(減少率10-3)となる照射時間(200ppb以下になる時間)は、本実験条件で60minを超える結果となった。
(3)エチルアルコールおよびベンゼン環を有する化学物質では光分解の効果にそれほど違
いは見られないが、ホルムアルデヒドの場合、それらに比べて多くの分解時間を要することがわかった。
【0030】
一方、図8は充填量を変えた時のエタノールガスの濃度変化に関して追跡したものであ
る。
以下が結論される。
(1)充填量を増加させると、ブランク時のエタノールガスの減少も多くなるため、ZnOファイバーはガスの吸着作用があることが推察される。
(2)充填量0.5gでは光照射初期段階(0〜30min.)とそれ以降(30〜60min.)では、減少率に違いがみられた。一方、充填量が多い1.0、2.0gでは、初期段階から減少する傾向がみられ
た。
(3)充填量を4倍(0.5gから2.0gへ)としても、減少率10-3(分解率99.9%)となる照射時間
は60数分から40分程度にしかならなかった。
以上の結果から、本出願によるZnOファイバーは可視光分解型の光触媒として新規であ
り、かつすぐれた分解能力を発揮する素材であることが示された。同時に、当該素材を効率的に獲得するための新規製造方法も示された。
【実施例2】
【0031】
量産において、作製工程の低温化は重要なキーワードである。本実施例では、(3)の熱
処理工程の温度を400℃まで低下させてZnOファイバーを作成し、排気ガスの有害物質であるNOxの分解を行った。作製されたファイバーは、実施例1で作製されたものと比べて、僅かに黄色となり、熱処理温度800℃で作製した試料に比べてNOxの可視光による分解特性が緩慢になったものの、光触媒として十分利用可能なものであった。
【実施例3】
【0032】
実施例1の製法で得られたZnOファイバーをAl基板上にAl2O3をベースとする無機系の接
着剤で0.5g程度貼り付け、常温において接着剤を硬化させた。このファイバーに400nmの中心波長をもつ紫色LEDの光を照射させたところ、トルエンの分解割合は実施例1と同程度であった。
【実施例4】
【0033】
密閉容器の2面をガラス板で挟み、それらのガラス板の間隔を10mmとした容器中に本発明のZnOファイバーを1g入れた。悪臭源として摺り下ろしたニンニクを用い、それを5Lのビニール袋に入れ、袋が完全に膨れるまで空気を導入した。ニンニク臭のする空気を入れた5Lの袋を密閉容器導入口に繋ぎ、両面のガラス板から20Wの蛍光灯の光を導入した。密閉容器に入れた空気は密閉容器出口に設置されたダイヤフラムポンプにより5Lの袋が空
になるまで吸引した。ポンプから排気された空気を5Lのビニール袋に収集し、数人の被
験者に臭いを嗅いでもらったところ、全ての被験者からニンニク臭が完全に除去されたという報告を受けた。本実施例では、ニンニクのような悪臭が除去できることも確認出来た。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明で提供される素材物質およびそれを製造する方法は、アルコール類、芳香族化合物類、アルデヒド類に代表される環境汚染を引き起こす有害化学物質ガスを扱う工場においてはもとより、食堂・病院等における異臭ガス、悪臭ガス、家庭における建材から発生する有害ガス等の分解除去に関して、幅広く適用が可能であり、労働・生活環境の改善を通じた衛生的で快適な生活の実現に貢献でき、地球環境における大気の純化に貢献できる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】Zn(acac)2・H2Oを原料にしてZnOファイバーを得る各過程における試料の外観:(a) Zn(acac)2・H2O原料粉末、(b) 昇華を終えて生成したZn(acac)2 ファイバー、(c) Zn(acac)2 ファイバーを 過熱水蒸気を用いて分解して得たZnO ファイバー、(d)800℃まで加熱し粒成長させた後の、最終ZnO ファイバー
【図2】Zn(acac)2・H2Oを原料にしてZnOファイバーを得る各過程における試料の粉末X線回折パターン:(a) Zn(acac)2・H2O原料粉末、(b) 昇華を終えて生成したZn(acac)2 ファイバー、(c) Zn(acac)2 ファイバーを 過熱水蒸気を用いて分解して得たZnO ファイバー、(d)800℃まで加熱し粒成長させた後の、最終ZnO ファイバー
【図3】昇華を終えて生成したZn(acac)2 ファイバーの電子顕微鏡観察結果、(a)明視野像、(d)回折像
【図4】Zn(acac)2 ファイバーを 過熱水蒸気を用いて分解して得たZnO ファイバーの電子顕微鏡観察結果:(a)明視野像、(b)回折像
【図5】800℃まで加熱し粒成長させた後の、最終ZnO ファイバーの走査型電子顕微鏡観察結果:(a)から (c)に向かい拡大倍率を上げている。
【図6】800℃まで加熱し粒成長させた後の、最終ZnO ファイバーの電子顕微鏡観察結果:ZnOナノチエーンは清浄面を有するナノ単結晶粒子が連鎖して成り立っている。ナノ単結晶粒子の電子顕微鏡観察結果(a)明視野像、(b)回折像を示す。
【図7】ZnOファイバー、および参照物質であるTiO2、ZnO粉末を光触媒として各種分解対象物における可視光での光分解効果を測定した結果。
【図8】ZnOファイバーの充填量を変えた際の、エタノールガスの濃度変化。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性に優れ、清浄面を有するZnOナノ単結晶粒子が連鎖することでZnOナノチエーンを構成しており、該ZnOナノチエーンを束ねた構造のもの、若しくは、ZnOナノチエーン同士が長手方向にその側面において融着したものを束ねた構造のもの、
が凝集することでZnOミクロファイバーを形成し、更にそのZnOミクロファイバー同士が凝集一体化することで形成される一次元性ZnOファイバー。
【請求項2】
アルコール類、芳香族化合物類、アルデヒド類に代表される環境汚染を招く化学物質ガスに対して、可視光の存在下で光分解効果を発揮することを特徴とする請求項1記載のZnOファイバー。
【請求項3】
以下の(1)から(3)の工程:
(1):Zn(acac)2を反応管内において、減圧下において加熱して昇華させて、内壁分にZn(acac)2をファイバー形状にて析出させる工程
(2):(1)で得た有機Zn(acac)2ファイバーに対し、過熱水蒸気を反応させて、ファイバー
形状を保ったままで無機のZnOファイバーに転換させる工程
(3):(2)で得たZnOファイバーを酸素中もしくは酸素を含むガス中において加熱すること
で結晶性を高め、最終的に目的とするZnOファイバー素材を完成する工程
を経て、請求項1又は2に記載の特性を有するZnOファイバーを製造する方法であり、Zn(acac)2・H2Oを前駆体として用い、昇華工程、過熱水蒸気分解による有機−無機転換工程、
加熱による粒成長工程を経てZnOファイバーを完成することを特徴とする製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−74666(P2008−74666A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255718(P2006−255718)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】