説明

可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液及びその製造方法

【課題】酸化チタン微粒子の分散安定性に優れ、また可視光応答性を有する透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる可視光応答型酸化チタン系分散液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水性分散媒中に酸化チタン微粒子が分散していると共に、ペルオキソチタン成分、鉄成分及びスズ成分が含まれ、且つ該ペルオキソチタン成分の含有量が酸化チタンに対して0.1〜20質量%である可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液、並びに(1)原料チタン化合物とスズ化合物と過酸化水素からスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸を製造する工程、(2)スズ化合物を含有したペルオキソチタン酸水溶液を高圧下80〜250℃で加熱しぺルオキソチタン成分及びスズ成分を含む酸化チタン微粒子分散液を得る工程、及び(3)酸化チタン微粒子分散液に鉄化合物を添加し反応させる工程を有する可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液及びその製造方法に関し、更に詳細には、酸化チタン微粒子の分散安定性に優れ、また、可視光応答性を有する透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる可視光応答型酸化チタン系分散液及びその製造方法に関する。
【0002】
酸化チタンは種々の用途、例えば顔料、紫外線遮蔽剤、触媒、光触媒、触媒担体、吸着剤、イオン交換剤、充填剤、補強剤、セラミックス用原料、ペロブスカイト型複合酸化物などの複合酸化物の前駆体、及び磁気テープの下塗り剤等に使用されている。
【0003】
中でも光触媒性酸化チタン微粒子は、その分散液を種々基材の表面にコーティングして形成した光触媒性コーティング膜が、酸化チタンの光触媒作用により有機物を分解し膜表面を親水性にすることから、基材表面の清浄化、脱臭、抗菌等の用途に多用されている。該光触媒活性を高めるためには、光触媒粒子と分解対象物質との接触面積を広くすることが必要であり、そのために該粒子の一次粒子径が50nm以下であることが要求される。更に、基材の意匠性を失わないよう、膜の透明性も要求される。
【0004】
酸化チタン微粒子分散液の製造方法としては、1)酸化チタン微粉末を有機高分子分散剤などの分散助剤を用いて、湿式分散機により分散媒中に分散する方法(特許文献1〜3)、及び2)チタン含有化合物溶液の水熱処理により作製する液相法(特許文献4)が挙げられる。これらの製法の問題点は平均粒子径50nm以下の超微粒子が凝集を起こしやすいため、一次粒子まで分散するために多大な労力を必要とし、場合によっては一次粒子まで分散することが不可能な点である。
【0005】
また、酸化チタンは、太陽光などの比較的波長の短い紫外領域の光の照射下では良好な光触媒作用を示すものの、蛍光灯のように可視光が大部分を占める光源で照らされた室内空間では、十分な光触媒作用を発現しにくい場合がある。近年、可視光応答型光触媒として酸化タングステン光触媒体(特許文献4)が注目されているが、タングステンは希少元素であるため、汎用元素であるチタンを利用した光触媒の可視光活性向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平01−003020号公報
【特許文献2】特開平06−279725号公報
【特許文献3】特開平07−247119号公報
【特許文献4】特開2009−148700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、酸化チタン微粒子の分散安定性に優れ、また、可視光応答性を有する透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる可視光応答型酸化チタン系分散液及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行なった結果、原料チタン化合物とスズ化合物と過酸化水素を用いてスズ化合物を含有したぺルオキソチタン酸を製造した後、これを高圧下に水熱反応させて酸化チタン微粒子分散液を得た後、鉄化合物を添加、反応させることにより、ぺルオキソチタン成分、鉄成分、スズ成分を含む酸化チタン微粒子分散液が得られ、この酸化チタン分散液は、酸化チタン微粒子の分散安定性に優れ、またこの酸化チタン分散液から可視光応答性を有する透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記可視光応答型酸化チタン系分散液及びその製造方法を提供する。
請求項1:
水性分散媒中に、酸化チタン微粒子が分散していると共に、ペルオキソチタン成分、鉄成分及びスズ成分が含まれ、且つ該ペルオキソチタン成分の含有量が酸化チタンに対して0.1〜20質量%であることを特徴とする可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液。
請求項2:
前記鉄成分の金属鉄換算での含有量が、酸化チタンに対して0.01〜5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液。
請求項3:
前記スズ成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/Sn)で1〜1000であることを特徴とする請求項1又は2に記載の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液。
請求項4:
前記酸化チタン微粒子が、動的散乱法により測定される50%累計分布径(D50)で50nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液。
請求項5:
(1)原料チタン化合物とスズ化合物と過酸化水素から、スズ化合物を含有したペルオキソチタン酸を製造する工程、
(2)スズ化合物を含有したペルオキソチタン酸水溶液を高圧下、80〜250℃で加熱し、ぺルオキソチタン成分及びスズ成分を含む酸化チタン微粒子分散液を得る工程、及び
(3)酸化チタン微粒子分散液に鉄化合物を添加し、反応させる工程
を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化チタン微粒子の分散安定性に優れ、また、可視光応答性を有する透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる可視光応答型酸化チタン系分散液及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
<可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液>
本発明の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液においては、水性溶媒中に、酸化チタン微粒子が高度に分散し、更にペルオキソチタン成分、鉄成分及びスズ成分が含まれているものである。
【0012】
・水性分散媒:
水性分散媒としては水性溶媒が使用される。水性溶媒としては、水、及び水と任意の割合で混合される親水性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。水としては、例えば脱イオン水、蒸留水、純水等が好ましい。親水性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールが好ましい。この場合、親水性有機溶媒の混合割合は、水性分散媒中0〜50質量%であることが好ましい。
【0013】
・酸化チタン微粒子:
水性分散媒に分散される酸化チタン微粒子は、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)(以下、「平均粒子径」とする。)が50nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以下である。通常、その下限値は特に限定されないが、5nm以上であることが好ましい。
【0014】
酸化チタン微粒子の濃度は、所要の厚さの光触媒薄膜を作製し易い点で、分散液中、0.01〜20質量%が好ましく、特に0.5〜10質量%が好ましい。
【0015】
・ペルオキソチタン成分:
ここで、「ペルオキソチタン成分」とは、Ti−O−O−Ti結合を含む酸化チタン系化合物を意味し、ペルオキソチタン酸及びTi(VI)と過酸化水素との反応によって生成するペルオキソチタン錯体を含包する。
【0016】
本発明の酸化チタン系微粒子分散液において、ペルオキソチタン成分は酸化チタンを良好に分散させる作用を有する。ペルオキソチタン成分の濃度は、酸化チタン微粒子に対して0.1〜20質量%であり、好ましくは0.1〜5質量%である。該濃度が0.1質量%未満では酸化チタン微粒子が凝集し易くなる。一方、20質量%を超えると、該分散液から得られる光触媒薄膜の光触媒効果が不十分となることがある。
【0017】
・鉄成分:
鉄成分は得られる光触媒薄膜の分解活性を高める作用を有する。該鉄成分の存在状態は限定されず、例えば金属鉄、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、及び錯化合物のいずれであってもよい。該鉄成分は少なくともその一部は酸化チタン微粒子表面に担持されていることが好ましく、他の部分は分散液中に溶解及び/又は分散している。
【0018】
該鉄成分の金属鉄換算の含有量は、酸化チタン微粒子に対して0.01〜5質量%が好ましく、特には0.1〜2質量%が好ましい。鉄成分の含有量が多すぎると、光触媒活性が十分に発揮されないことがある。
【0019】
・スズ成分:
スズ成分は得られる光触媒薄膜の可視光応答性を高める作用を有する。該スズ成分の存在状態は限定されず、例えば金属スズ、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、及び錯化合物のいずれであってもよい。該スズ成分は少なくともその一部は酸化チタン微粒子内部にドープ、もしくは酸化チタン微粒子表面に担持されていることが好ましく、他の部分は分散液中に溶解及び/又は分散していることが好ましい。
【0020】
該スズ成分は、酸化チタンとのモル比(Ti/Sn)で1〜1000含有されていることが好ましく、特には5〜200が好ましく、より好ましくは10〜100である。該モル比が1000を超えるとスズ化合物の含有効果が不十分である。一方、1より小さいと、酸化チタン含有割合が低下し、光触媒効果が十分発揮されないことがある。
【0021】
<可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液の製造方法>
上記の酸化チタン微粒子分散液は、
(1)原料チタン化合物とスズ化合物と過酸化水素から、スズ化合物を含有したペルオキソチタン酸を製造する工程、
(2)スズ化合物を含有したペルオキソチタン酸水溶液を高圧下、80〜250℃で加熱し、酸化チタン微粒子分散液に転換する工程、及び
(3)酸化チタン微粒子分散液に鉄化合物を添加し、反応させる工程
を有する製造方法により製造することができる。
【0022】
・工程(1):
工程(1)では、原料チタン化合物とスズ化合物と過酸化水素とを反応させることでスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸を製造する。反応方法としては、原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸とした後にスズ化合物を添加して、スズ含有ペルオキソチタン酸とする方法でも、原料チタン化合物にスズ化合物を添加した後に塩基性物質を添加してスズ含有水酸化チタンとし、含有する不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してスズ含有ペルオキソチタン酸とする方法でもよい。
【0023】
工程(1)で原料として使用される原料チタン化合物としては、例えばチタンの塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸などの有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化チタンなどが挙げられ、これらのうち2種類以上を組み合わせて使用してもよい。この原料チタン化合物の水溶液の濃度は、60質量%以下、特に30質量%以下であることが好ましい。なお、濃度の下限は適宜選定されるが、1質量%以上であることが好ましい。
【0024】
上記スズ化合物含有ペルオキソチタン酸水溶液は、pH調整などのために、アルカリ性又は酸性物質を含んでいてよい。アルカリ性物質としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられ、酸性物質としては、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、リン酸、過酸化水素などの無機酸及び蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸などの有機酸が挙げられる。
この工程(1)において、スズ化合物の使用量は上述した通りであるが、過酸化水素の使用量は、TiとSnの合計モル数の1.5〜5倍モルとすることが好ましい。また、この過酸化水素を添加して原料チタン化合物乃至水酸化チタンをぺルオキソチタン酸にする反応における反応温度は、5〜60℃とすることが好ましく、反応時間は、30分〜24時間とすることが好ましい。
なお、原料チタン化合物を水酸化チタンにするために添加する塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等が挙げられ、原料チタン化合物の水溶液のpHを7以上になるような量で添加、使用される。
また、得られたスズ化合物含有ぺルオキソ酸水溶液のpHは、1〜7、特に4〜7であることが取り扱いの安全性の点で好ましい。
【0025】
・工程(2):
工程(2)では、スズ化合物を含有したペルオキソチタン酸水溶液を高圧下、80〜250℃、好ましくは120〜250℃の温度において水熱反応に供する。反応温度は、反応効率と反応の制御性の観点から80〜250℃が適切である。その結果、ペルオキソチタン酸は、酸化チタン微粒子に変換されていく。
この場合、圧力は、0.01〜4.5MPa程度の高圧、特に0.15〜4.5MPa程度の高圧であることが好ましく、反応時間は、1分〜24時間であることが好ましい。
この工程(2)により、ぺルオキソチタン成分及びスズ成分を含む酸化チタン微粒子分散液が得られる。
【0026】
・工程(3):
工程(3)では、工程(2)で得られた酸化チタン微粒子分散液に鉄化合物を添加し、反応させる。反応方法としては、酸化チタン微粒子分散液に鉄化合物を添加して常温で撹拌する方法でも、酸化チタン微粒子分散液に鉄化合物を添加して80〜250℃の温度において水熱処理する方法でもよい。この場合、反応時間は、1分〜3時間であることが好ましい。
【0027】
工程(3)で原料として使用される鉄化合物としては、例えば鉄の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸などの有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化鉄、鉄テトラアンミン錯体などの錯体が挙げられ、これらのうち2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
このようにして得られる酸化チタン系微粒子分散液は、各種基材、例えば、ガラスのような無機基材やポリエステルフィルムのような有機基材などの表面に光触媒膜を形成させるために使用することができる。この場合、光触媒膜の形成方法としては、公知の方法を採用して塗布、乾燥すればよく、光触媒膜の厚さも種々選定されるが、通常50nm〜10μmの範囲である。形成された光触媒膜は、透明であり、従来のように紫外領域において良好な光触媒作用を与えると共に、可視光応答性にも優れたものである。
【実施例】
【0028】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本発明における各種の測定は次のようにして行った。
【0029】
(1)分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径(D50
分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径(D50)は、粒度分布測定装置(商品名“ナノトラック粒度分析計UPA−EX”、日機装(株))を用いて測定した。
【0030】
(2)光触媒薄膜の透明性
基材であるガラス板のHAZE値(%)を測定する。次に、分散液を該ガラス上に塗布、乾燥することで光触媒薄膜を作製し、該薄膜を作製した状態のガラス板のHAZE値を測定する。その差から光触媒薄膜のHAZE値を求める。HAZE値の測定はHAZEメーター(商品名“デジタルヘイズメーターNDH−200”、日本電色工業(株))を用いた。光触媒薄膜の透明性を求められたHAZE値の差から次の基準で評価した。
【0031】
良好(○と表示) ・・・・ 差が+1%以下。
やや不良(△と表示)・・・・ 差が+1%を超え、+3%以下。
不良(×と表示) ・・・・ 差が+3%を超える。
【0032】
(3)光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能試験(可視光照射下)
分散液を塗布、乾燥することで作製した光触媒薄膜の活性を、アセトアルデヒドガスの分解反応により評価した。評価は流通式ガス分解性能評価法により行った。具体的には、容積12.5cm3の石英ガラス製セル内に5cm角のガラスからなる基板上に光触媒薄膜を形成した評価用サンプルを設置し、該セルに湿度50%に調湿した濃度250ppmのアセトアルデヒドガスを流量5mL・s-1で流通させながら、セル上部に設置した蛍光灯で照度8000LUXになるように光を照射した。薄膜上の光触媒によりアセトアルデヒドガスが分解すると、該セルから流出するガス中のアセトアルデヒドガス濃度が低下する。そこで、その濃度を測定することで、アセトアルデヒドガス分解量を求めることができる。アセトアルデヒドガス濃度はガスクロマトグラフ(商品名“GC−8A”、(株)島津製作所)を用いて測定した。
【0033】
(4)光触媒薄膜のセルフクリーニング性能試験(可視光照射下)
スライドガラス上に分散液を塗布、乾燥することで作製した光触媒薄膜の活性を、オレイン酸の分解反応により評価した。
【0034】
具体的には、薄膜表面にディップコーターで0.5質量%オレイン酸を塗布、乾燥させ光触媒活性評価用サンプルを得る。該サンプルに、蛍光灯の光を照度10,000LUXで照射する。薄膜表面上のオレイン酸が分解すると、それに伴って薄膜表面の親水化が起こり、水接触角が徐々に小さくなる。そこで、1時間おきにサンプル表面の水接触角を測定する。水接触角は接触角計(商品名“CA−A”、協和界面科学(株))を用いて測定した。
【0035】
[実施例1]
(1)36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が20となるように添加し、これを純水で10倍に希釈した後、この水溶液に10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの溶液のpHは9であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の水酸化チタン沈殿物に過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が2.5以上となるように30質量%過酸化水素水を添加し、その後室温で一昼夜撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、黄色透明のスズ含有ペルオキソチタン酸溶液(a)(固形分濃度1質量%)を得た。
【0036】
(2)硫酸鉄を純水で溶解し、1質量%の硫酸鉄水溶液(b)を得た。
【0037】
(3)容積500mLのオートクレーブに、(1)で得られたスズ含有ペルオキソチタン酸水溶液(a)400mLを仕込み、これを圧力1.6MPa、200℃、120分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン系微粒子分散液を得た。
【0038】
(3)で得られた酸化チタン系微粒子分散液に(2)で得られた硫酸鉄水溶液(b)を酸化チタンに対して金属鉄が0.2質量%となるように添加混合して150℃で30分水熱処理することにより、酸化チタンを1質量%含み、ぺルオキソチタン成分を酸化チタンに対し1質量%含む本発明の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液(A)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径を測定したところ、20nmであった。
【0039】
[実施例2]
(4)36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が5となるように添加し、これを純水で10倍に希釈した後、この水溶液に10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの溶液のpHは9であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の水酸化チタン沈殿物に過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が2.5以上となるように30質量%過酸化水素水を添加し、その後室温で一昼夜撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、黄色透明のスズ含有ペルオキソチタン酸溶液(c)(固形分濃度1質量%)を得た。
【0040】
(5)硝酸鉄を純水で溶解し、1質量%の硝酸鉄水溶液(d)を得た。
【0041】
(6)容積500mLのオートクレーブに、(4)で得られたスズ含有ペルオキソチタン酸水溶液(c)400mLを仕込み、これを圧力0.5MPa、150℃、120分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン系微粒子分散液を得た。
【0042】
(6)で得られた酸化チタン系微粒子分散液に(5)で得られた硫酸鉄水溶液(d)を酸化チタンに対して金属鉄が0.25質量%となるように添加し、混合して酸化チタンを1質量%含み、ぺルオキソチタン成分を酸化チタンに対し2質量%含む本発明の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液(B)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径を測定したところ、24nmであった。
【0043】
[実施例3]
(7)36質量%の塩化チタン(IV)水溶液を純水で10倍に希釈した後、この水溶液に10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの溶液のpHは10であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の水酸化チタン沈殿物に過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が2.5以上となるように30質量%過酸化水素水を添加し、その後室温で一昼夜撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、黄色透明のペルオキソチタン酸溶液(e)(固形分濃度1質量%)を得た。
【0044】
(8)塩化スズ五水和物を純水で溶解し、10質量%の塩化スズ水溶液(f)を得た。
【0045】
(9)容積500mLのオートクレーブに、(7)で得られたペルオキソチタン酸水溶液(e)350mLと、(8)で得た塩化スズ水溶液(f)10mLを仕込み、これを150℃、120分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン系微粒子分散液を得た。
【0046】
(9)で得られた酸化チタン系微粒子分散液に(5)で得られた硫酸鉄水溶液(d)を酸化チタンに対して金属鉄が0.3質量%となるように添加し、混合して酸化チタンを1質量%含み、ぺルオキソチタン成分を酸化チタンに対し2質量%含む本発明の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液(C)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径を測定したところ、31nmであった。
【0047】
[比較例1]
(10)硫酸鉄水溶液を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタン系微粒子分散液(D)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径を測定したところ、9nmであった。
【0048】
[比較例2]
(11)容積500mLのオートクレーブに実施例3で得られたペルオキソチタン酸水溶液(e)400mLを仕込み、これを150℃、120分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン系微粒子分散液を得た。
【0049】
(11)で得られた酸化チタン系微粒子分散液に(5)で得られた硫酸鉄水溶液(d)を酸化チタンに対して金属鉄が0.25質量%となるように添加し、混合して酸化チタン系微粒子分散液(E)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径を測定したところ、30nmであった。
【0050】
[比較例3]
水熱処理温度を60℃とした以外は実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(F)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は粒子生成量が少なかったため、測定できなかった。本比較例では、酸化チタン微粒子の生成量が極微量であったため、その他の特性の測定は行わなかった。
【0051】
実施例1〜3、及び比較例1及び2で作製した分散液にシリカ系のバインダー(コロイダルシリカ、商品名:スノーテックス20(日産化学工業(株)製)をTiO2/SiO2比1.5で添加した後、ガラス板状にディップコーターで塗布、乾燥させ、膜厚が150nmの光触媒薄膜を形成し、評価用サンプルを得た。
【0052】
表1に、実施例、比較例の反応条件および平均粒子径、光触媒薄膜の透明性評価、セルフクリーニング性能試験における蛍光灯による照射5時間後の水接触角測定結果、アセトアルデヒドガス分解試験における蛍光灯照射90分後のガス分解率をまとめて示す。
【0053】
比較例1の結果から分かるように、鉄成分を添加しないと十分な可視光活性が得られない。
【0054】
比較例2の結果から分かるように、スズ成分を添加しないと十分な可視光活性が得られない。
【0055】
比較例3の結果から分かるように、反応温度が低すぎると酸化チタンへの転化が非常に遅くなる。
【0056】
実施例1〜3の結果から分かるように、分散液に鉄成分、スズ成分を含有することにより、蛍光灯照射下でのアセトアルデヒド及びオレイン酸の分解(即ち、光触媒活性)が良好になることが分かる。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の酸化チタン系微粒子分散液は、バインダーを添加することで、ガラス、金属等の無機物質、及び高分子フィルム(PETフィルム等)等の有機物質からなる種々の基材に施与して光触媒薄膜を作製するのに有用であり、特に高分子フィルム上に透明な光触媒薄膜を作製するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散媒中に、酸化チタン微粒子が分散していると共に、ペルオキソチタン成分、鉄成分及びスズ成分が含まれ、且つ該ペルオキソチタン成分の含有量が酸化チタンに対して0.1〜20質量%であることを特徴とする可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液。
【請求項2】
前記鉄成分の金属鉄換算での含有量が、酸化チタンに対して0.01〜5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液。
【請求項3】
前記スズ成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/Sn)で1〜1000であることを特徴とする請求項1又は2に記載の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液。
【請求項4】
前記酸化チタン微粒子が、動的散乱法により測定される50%累計分布径(D50)で50nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液。
【請求項5】
(1)原料チタン化合物とスズ化合物と過酸化水素から、スズ化合物を含有したペルオキソチタン酸を製造する工程、
(2)スズ化合物を含有したペルオキソチタン酸水溶液を高圧下、80〜250℃で加熱し、ぺルオキソチタン成分及びスズ成分を含む酸化チタン微粒子分散液を得る工程、及び
(3)酸化チタン微粒子分散液に鉄化合物を添加し、反応させる工程
を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の可視光応答型酸化チタン系微粒子分散液の製造方法。

【公開番号】特開2011−240247(P2011−240247A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114293(P2010−114293)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】