説明

可視光硬化性材料及び創傷治癒促進材

【課題】より低い照度の可視光の照射で、より低侵襲な条件でゲル化が可能であり、止血剤等の医療材料への応用に好適な可視光硬化性材料を提供する。
【解決手段】可視光の照射によりゲル状に硬化する可視光硬化性材料において、可視光の照射によりラジカルを発生させる感光基を有する化合物と、ジ置換アミノ基含有化合物を含み、該感光基を有する化合物が、エオシンと、桂皮酸、メタ(ア)クリル酸及びビニル安息香酸の少なくとも1種とで修飾されたゼラチンであることを特徴とする可視光硬化性材料。ジ置換アミノ基含有化合物とエオシン等で修飾されたゼラチンとを含み、該ジ置換アミノ基含有化合物及び修飾ゼラチンから発生したラジカル同士の再結合反応による架橋形成でゲル化する。この可視光硬化性材料よりなる止血剤等の創傷治癒促進材。ゼラチンをゲル化の基質として用いることにより、生体内で異物反応を起こさず、損傷治癒過程に応じた分解性を得ることができ、止血剤等の医療応用において好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光の照射によりゲル状に硬化する可視光硬化性材料と、この可視光硬化性材料を用いた止血剤等の創傷治癒促進材に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンはコラーゲンの熱変性タンパク質であり、生体由来の高分子であるため、生体適合性に優れることから、ゼラチンを様々な方法で架橋させてゲル化させたハイドロゲルは、薬物の徐放担体や細胞の足場、表面修飾材料や、止血剤等の創傷治癒促進材など、様々な医療材料への応用が検討されている。
【0003】
従来、ゼラチンの架橋法としては、架橋剤として、グルタルアルデヒドを含むアルデヒド類を用いる方法、カルボジイミドやN−ヒドロキシスクシンイミドなどを用いる方法が利用されているが、これらの架橋方法は、有害な架橋剤や試薬を用いるため、未反応化合物を洗浄操作により除去する必要がある;硬化に時間がかかり、生体内で直接ハイドロゲルを作成することは困難である;といった問題点がある。
【0004】
一方、光反応を利用する架橋方法も知られており、この方法であれば、用いる化合物の毒性が低く、硬化時間が数分と短く、照射した部位のみを局所的にゲル化できるといった利点がある。
【0005】
本発明者らは、可視光の照射で、より低侵襲な条件でゲル化が可能な光反応性ゼラチンについて種々検討し、キサンテン系色素の一種であるエオシンを導入したエオシン化ゼラチンとハイドロゲンドナーであるアスコルビン酸の混合溶液に可視光を照射するとゲル化することを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、後述の比較例4に示すように、エオシン化ゼラチンとN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのホモポリマーの混合溶液は、99000lxの可視光を照射すると、わずか1分の照射時間で良好な収率でゲルを得ることができるが、このような高照度の可視光照射では、照射に高熱を伴うため生体組織に障害を与えることとなり、好ましくない。一方、後述の比較例1〜3のように照射する可視光の照度を7700lxに低下させると、ゲル形成能の低下も起こり、この場合には、60%以上のゲル率を得るには照射時間を10分程度まで増加させる必要があった。
【0007】
本発明は、より低い照度の可視光の照射で、より低侵襲な条件でゲル化が可能であり、止血剤等の医療材料への応用に好適な可視光硬化性材料と、この可視光硬化性材料を用いた止血剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の可視光硬化性材料は、可視光の照射によりゲル状に硬化する可視光硬化性材料において、可視光の照射によりラジカルを発生させる感光基を有する化合物と、ジ置換アミノ基含有化合物を含み、該感光基を有する化合物が、エオシンと、桂皮酸、メタ(ア)クリル酸及びビニル安息香酸の少なくとも1種とで修飾されたゼラチンであることを特徴とする。なお、メタ(ア)クリル酸は、メチクリル酸とメタアクリル酸の総称である。ビニル安息香酸は、安息香酸のカルボキシル基とパラの位置にビニル基を導入したものである。
【0009】
即ち、本発明者らは、ゲル化効率の高い光反応性ゼラチンを見出すべく、まず、エオシン化ゼラチンとアスコルビン酸の混合溶液の可視光照射による架橋機構につき検討し、次のように推定した。
【0010】
エオシン化ゼラチンとアスコルビン酸の混合系に可視光を照射すると、下記の如く、可視光の照射により励起されたエオシンが、アスコルビン酸から水素を引き抜き、ラジカルを生成する。ここで、アスコルビン酸は2電子還元剤であるので、1分子のアスコルビン酸との反応で2分子のエオシンラジカルが生成する。この生成したエオシンラジカル間での再結合によってゼラチンの架橋が起こり、ゲルが生成するものと考えられる。
【0011】
【化1】

【0012】
即ち、アスコルビン酸自体は架橋形成に直接関与しておらず、本発明者らは、このことが、エオシン化ゼラチンとアスコルビン酸との混合系におけるゲル化効率が低い原因の一つであると考えた。
【0013】
そこで、本発明者らは、ハイドロゲンドナーとしてジメチルアミノ基等のジ置換アミノ基を有する化合物について検討した。ジ置換アミノ基を有する化合物を用いると、可視光照射によりエオシンからもジ置換アミノ基からもラジカルを発生し、下記に示すように3通りのラジカル再結合反応が起こる可能性がある。即ち、ジ置換アミノ基、好ましくはジ置換メチル基を有する化合物を用いれば、これを架橋剤としても利用することができ、ゲル形成を促進することができる。
【0014】
【化2】

【0015】
本発明者は、さらに研究を重ねた結果、エオシンは可視光を吸収するので、ゼラチンに対するエオシンの修飾量を減少させ、代わりに可視光の光吸収特性が無いか著しく小さい感光基、具体的には桂皮酸、メタ(ア)クリル酸及びビニル安息香酸の少なくとも1種で修飾することにより、エオシンの修飾量を減少させても十分に架橋すること、そして光照射量を減少させても十分に短時間でゼラチンがゲル化することを見出した。
【0016】
本発明において、感光基を有する化合物としては、エオシンと、桂皮酸、メタ(ア)クリル酸及びビニル安息香酸の少なくとも1種で修飾されたゼラチンである。
【0017】
なお、以下、桂皮酸、メタ(ア)クリル酸及びビニル安息香酸の少なくとも1種を「ビニル系カルボン酸」ということがある。
【0018】
本発明において、ジ置換アミノ基含有化合物は、ジメチルアミノ基含有化合物であることが好ましい。
【0019】
具体的には、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリメチレンテトラミン(HMTETA)、ジメチルアクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとの共重合体(DMAA−DMAEMAコポリマー)等のジメチルアミノ基を有するビニルモノマーと水溶性モノマーとの共重合体、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド(PDMAPAAm)等のジメチルアミノ基を有するビニルモノマーの重合体が挙げられる。
【0020】
この場合、本発明の可視光硬化性材料は、好ましくは、ジメチルアミノ基含有化合物と、エオシン及びビニル系カルボン酸で修飾した感光基を有する修飾ゼラチンとを含み、該ジメチルアミノ基含有化合物及び感光基を有する修飾ゼラチンから発生したラジカル同士の再結合反応による架橋形成でゲル化するものである。
【0021】
このような可視光硬化性材料において、感光基を有する修飾ゼラチンに対してジメチルアミノ基含有化合物を0.001〜30重量%含むことが好ましく、特に、感光基を有する修飾ゼラチン濃度1.0〜30.0重量%の水溶液にジメチルアミノ基含有化合物を添加してなることが好ましい。
【0022】
本発明の可視光硬化性材料は、好ましくは、照度10〜10,000lxの可視光を1〜600秒照射したときのゲル化率が10%以上である。また、本発明の可視光硬化性材料は、ゲル状に硬化したときの膨潤度が100以下である。
【0023】
なお、ゲル化率と膨潤度は、それぞれ下記の式1、式2で算出される。
式1:ゲル化率(%)=Wdry/Wsolid×100
式2:膨潤度=(Wwet−Wdry)/Wdry
【0024】
ここで、Wsolidは光照射による架橋前の混合溶液の重量、Wwetは光照射により架橋した材料を37℃の水へ15時間浸漬して吸水ゲルとした際の重量、Wdryは吸水ゲルを真空ポンプを用いて乾燥させた後の重量を意味する。
【0025】
本発明の創傷治癒促進材は、このような本発明の可視光硬化性材料よりなることを特徴とし、例えば止血剤等として有用である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の可視光硬化性材料は、比較的低い照度の可視光の照射で、低侵襲で生体に対する影響を抑えて効率的にゲル化させることができる。このため、薬物の徐放担体や細胞の足場、表面修飾材料、組織接着剤や止血剤等の創傷治癒促進材などの種々な医療材料として有用である。
【0027】
本発明の可視光硬化性材料は、特に、ゼラチンをゲル化の基質として用いることにより、生体内で異物反応を起こさず、創傷治癒過程に応じた分解性を得ることができ、止血剤等の創傷治癒促進材といった医療応用において好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の可視光硬化性材料及び創傷治癒促進材の実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
本発明において用いるジ置換アミノ基含有化合物は、可視光の照射によりハイドロゲンドナーとなると共にラジカルを発生する化合物であれば良く、特に制限はないが、ジメチルアミノ基含有化合物等の炭素数1〜10のアルキル基で置換されたアミノ基を含有する化合物や、ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基含有化合物が挙げられる。
【0030】
ジ置換アミノ基含有化合物に含まれるジ置換アミノ基の数は多い程ラジカルの発生量も多く、好ましい。従って、ジ置換アミノ基含有化合物は、ジメチルアミノ基等のジ置換アミノ基を好ましくは2個以上含有することが望ましい。なお、ジ置換アミノ基含有化合物の1分子中に含まれる2個以上のジ置換アミノ基は同一のものであっても良く、異なるものであっても良い。
【0031】
以下においては、本発明の可視光硬化性材料において、ジ置換アミノ基含有化合物としてジメチルアミノ基含有化合物を含む場合を例示して本発明を説明するが、本発明に係るジ置換アミノ基含有化合物は、ジメチルアミノ基含有化合物に何ら限定されるものではない。
【0032】
本発明の可視光硬化性材料は、ゲル化の基質として、生体適合性に優れたゼラチンを用いることが好ましく、特にゼラチンとエオシン及びビニル系カルボン酸(桂皮酸、メタ(ア)クリル酸及びビニル安息香酸の少なくとも1種)を併用したゲル化機構を利用することが好ましい。
【0033】
なお、本発明において用いるゼラチンは、分子量5千〜10万、アミノ基約10〜100個/1分子程度の通常のゼラチンで良い。
【0034】
エオシン及びビニル系カルボン酸で修飾されたゼラチンは、下記反応に従ってゼラチンの側鎖にエオシンを導入してエオシン化ゼラチンとし、さらにその後、ゼラチンの側鎖にビニル系カルボン酸を導入することにより調製される。
【0035】
【化3】

【0036】
具体例を説明すると、次の通りである。
(1) ゼラチンの側鎖のアミノ基にエオシンの分子中のカルボキシル基を、水溶性カルボジイミドであるN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)の作用で縮合させて形成されるアミド結合によって導入する。導入後は透析によって精製する。導入量は、ゼラチン1分子当たりにエオシン分子1個〜5個、特に1個〜3個が好ましい。このエオシンの導入数が少ないとゲル化率が低下し、また過度に多くなるとエオシンの可視光吸収の影響度合いが強くなり、可視光照射量が多くなる。
(2) 続いて、ゼラチンにビニル系カルボン酸(桂皮酸、メタ(ア)クリル酸、ビニル安息香酸)を導入する。エオシン化ゼラチンの側鎖でフリーとなっているアミノ基とビニル系カルボン酸のカルボキシル基をWBCの存在下で縮合させて形成されるアミド結合を介してエオシン化ゼラチンへ導入する。その後、再度透析によって精製する。導入量は、桂皮酸、メタ(ア)クリル酸及びビニル安息香酸のいずれも、ゼラチン1分子当たり分子1個〜10個が好ましい。
【0037】
ゼラチン分子へのエオシン等の感光基を有する化合物の導入数は、例えば、エオシン化ゼラチンの水溶液の吸光度をエオシンの最大吸収波長523nmにおいて測定し、エオシンのモル吸光係数(ε=94755)を基に算出可能である。
【0038】
このようなエオシン及びビニル系カルボン酸で修飾された感光性化合物修飾ゼラチンと共に併用するジ置換アミノ基含有化合物としては、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドN,N−ジメチルアクリルアミド、及び2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレートからなる群から選択される1種の重合体又は2種以上の共重合体が好適であり、その分子量Mnは5,000〜100,000が好適である。また、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)が使用可能である。HMTETA、DMAA−DMAEMAコポリマー等のジメチルアミノ基を有するビニルモノマーと水溶性モノマーとの共重合体、PDMAPAAm等のジメチルアミノ基を有するビニルモノマーの重合体の構造式を次に示す。
【0039】
【化4】

【0040】
DMAA−DMAEMAコポリマーとしては、分子量500〜50,000程度のものが好ましく、そのDMAAとDMAEMAとの比m:nは9:1〜1:9程度であることが好ましい。この範囲においてもDMAAが多い程、コポリマーは非イオン性の性質が強くなり、ハイドロゲンドナーとしての性質が弱くなり、結果、架橋性は減少することが考えられるが、反面、細胞傷害性が低くなる利点がある。一方、DMAEMAが多い場合にはコポリマーのカチオン性が強くなり、架橋性の向上が期待できるが、細胞傷害性の増加も懸念される。つまり、これらコポリマー中のモノマー比は、生体などへ利用する場合には、照射する光、時間、照射する場所などを考慮して、当業者によって適宜設定されれば良い。
【0041】
また、PDMAPAAmとしては分子量500〜50,000程度のものが好ましい。
【0042】
PDMAPAAm、DMAA−DMAEMAコポリマーいずれにおいても、分子量が小さすぎるとエオシン化ゼラチンへ混合する量が増加し、大きすぎると、これらコポリマー自体がゲルの性質を有しているので、エオシン化ゼラチンと均質に混合することが困難になったり、架橋前の材料自体にゲルの性質が付与されてしまう可能性がある。また、最終的に生成したゲルのゲル化率と膨潤度のコントロールが困難になる可能性があるので注意が必要である。
【0043】
感光性化合物で修飾された修飾ゼラチンとジメチルアミノ基含有化合物との使用割合は、ジメチルアミノ基含有化合物のジメチルアミノ基数によっても異なるが、感光性化合物修飾ゼラチンに対してジメチルアミノ基含有化合物0.001〜30重量%であることが好ましい。この範囲よりも感光性化合物修飾ゼラチンが多く、ジメチルアミノ基含有化合物が少ないと架橋が不十分になる可能性があり、逆にジメチルアミノ基含有化合物が多く、感光性化合物修飾ゼラチンが少ないと架橋後にゲルの性質が損なわれる可能性がある。
【0044】
本発明では、特に、修飾ゼラチン濃度1.0〜30.0重量%の水溶液にジメチルアミノ基含有化合物0.05〜5重量%を添加して可視光硬化性材料を調製することが好ましい。この修飾ゼラチン濃度が高すぎると架橋前の水溶液を得るのに長い時間を要し、低すぎるともはやゲル材料でなくなることはいうまでもない。
【0045】
本発明の可視光硬化性材料は、照度10〜10,000lxの可視光を1〜600秒照射したときのゲル化率が10%以上であることが好ましい。このゲル化率が10%未満では可視光硬化性材料として十分に機能し得ない。また、このようにゲル状に硬化した際の膨潤度は350以下であることが好ましい。膨潤度が100を超えるとゲルの強度が低くなって、止血剤等の用途に不適当である。
【0046】
本発明の可視光硬化性材料は、粘稠性の液体状であるため、これを例えば止血剤として用いる場合には、適用対象に塗布した後、10〜10,000lx程度の可視光、特に生体に対する用途にあっては、10〜100lx程度の比較的低照度で、生体に対して影響の低い可視光を1〜600秒程度照射してゲル状に硬化させて、良好な止血作用を得ることができる。
【0047】
本発明の可視光硬化性材料はまた、止血剤の他、各種の創傷治癒促進材として有用である。ここで、創傷治癒促進材とは、傷口をふさぐためのもの、傷口からの感染を防止するためのもの、傷口から体液がしみ出ないようにするためのものなどの、傷口の治癒を促進するためのものが挙げられる。
【0048】
本発明の創傷治癒促進材は、血管内療法の治療中又は終了後の止血処置にも用いることができる。
【0049】
従来、血管内療法の施術後には血栓抑制や溶解を目的として抗トロンボプラスチン剤などを多量に投与するのが一般的である。従って、シース抜去部位の止血処置は、全身へ効果が波及する内科的療法が禁忌であり、局所で物理的に止血する以外にない。
【0050】
この物理的止血としては、例えば、
(1) 大腿部への止血帯により止血をアシストしつつ、刺入動脈からの出血をガーゼで吸収しながら、出血部位を強く抑え続ける;
(2) 表皮を切開して動脈をスケルトニングし、結索する;
などの処置が行われている。
【0051】
しかしながら、上記(1)のように、大きく穿孔した動脈の刺入部を強く抑えるだけの方法では止血までに約1日を要し、患者はその間、体位の変換ができないため大きな苦痛を与えている。また、上記(2)のように外科的処置で動脈を結索するのは、それ自体が侵襲が大きく、さらにカテーテルを挿入できるような径の動脈を結索するのは、たとえ術後に副側血流を得ても四肢血行不良の要因となる。
【0052】
本発明の創傷治癒促進材によると、このような従来の問題点が解決される。
【0053】
本発明の創傷治癒促進材を用いて血管内療法の治療中又は終了後の止血処理を行うには、血管内治療中又は終了後に、カテーテルシースの外周部分に本発明の創傷治癒促進材の水溶液を湿潤させ、創傷治癒促進材成分をシース外周と皮下組織の界面へ充填する。カテーテル抜去後に、シース又はシース抜去後の創傷へ可視光線又は紫外線照射用の細い棒状ないし線状体を挿入して、この棒状体から光照射し、創傷治癒促進材成分を架橋して不溶化する。不溶化された液状成分は生体適合性に優れ、止血材ないしは組織接着剤として機能し、すみやかに止血処置が終了する。
【0054】
この創傷治癒促進材は組織接着性を有するものであり、創傷で不溶化し物理的に止血するものである。この創傷治癒促進材は、血小板や凝固因子への作用、拮抗で止血するものではないが内科的な止血作用を付与しても問題ない。
【0055】
創傷治癒促進材を創傷部に供給し、次いで光照射して不溶化させるために、創傷治癒促進材水溶液を局所投与すると共に光照射できる機能をカテーテルシースへ組み込んでもよい。この場合、シース外周面を多孔性の材料で構成し、体外へ露出している部分へカテーテルのイントロポートとは別のインジェクションポートを有し、ここから注射器で創傷治癒促進材水溶液を、皮下に留置されているシースの外周面へ浸潤させるよう構成してもよい。
【0056】
シース自体が光透過性を有していれば、カテーテルイントロポートへ細い棒状ないし線状の光線照射体を挿入して光照射するようにしてもよい。
【0057】
あるいは、シースから創傷治癒促進材水溶液を投与後に、カテーテルイントロポートへ細い棒状ないし線状の光線照射体を挿入し、次いで該光線照射体を創傷に残置させながらシースを抜去し、その後該光線照射体を介して光照射し創傷治癒促進材成分を不溶化し、しかる後、該光線照射体を抜去するようにしてもよい。
【実施例】
【0058】
以下に、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0059】
合成例1:エオシン化ビニル安息香酸ゼラチンの合成
ゼラチン(分子量95,000、アミノ基量約37個/分子)に、水溶性カルボジイミドであるN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)の存在下、下記反応でゼラチンの側鎖のアミノ基にエオシンを結合させることにより、ゼラチン1分子当たりエオシン約3個を導入してエオシン化ゼラチンを合成した。
【0060】
【化5】

【0061】
次いで、このエオシン化ゼラチンに対し、同様に水溶性カルボジイミドであるN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)の存在下でゼラチンの側鎖の遊離アミノ基にアミド結合を形成させることにより、エオシン化ゼラチン1分子当り7個のビニル安息香酸を導入して、エオシン化ビニル安息香酸ゼラチンを合成した。
【0062】
合成例2,3:エオシン化桂皮酸ゼラチン及びエオシン化メタクリル酸ゼラチンの合成
合成例1において、第2段階のビニル安息香酸の代わりに桂皮酸(合成例2)又はメタクリル酸(合成例3)を用いたこと以外は同様にして、各々ゼラチン1分子当たり桂皮酸又はメタクリル酸を約7個導入したエオシン化桂皮酸ゼラチンとエオシン化メタクリル酸ゼラチンを合成した。
【0063】
実施例1
上記合成例1のゼラチン化合物を終濃度20重量%の水溶液とした。この水溶液にジメチルアミノ基含有化合物として終濃度2重量%のN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのホモポリマーMn=50,000を混合後、表1に示す照度の可視光を、表1に示す照射時間照射し、このときのゲル化率と膨潤度を調べ、結果を表1に示した。
【0064】
実施例2
上記合成例2のゼラチン化合物を用いた他は実施例1と同様にし、可視光を表1の通りの条件で照射し、結果を表1に示した。
【0065】
実施例3
上記合成例3のゼラチン化合物を用いた他は実施例1と同様にし、可視光を表1の通りの条件で照射し、結果を表1に示した。
【0066】
比較例1〜4
実施例1において、ゼラチン化合物をエオシン化ゼラチンとした他は実施例1と同様にし、可視光を表1の通りの条件で照射し、結果を表1に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の通り、エオシン化ビニル安息香酸ゼラチン、エオシン化桂皮酸ゼラチン、及びエオシン化メタクリル酸ゼラチンは、エオシン化ゼラチンと比較して、低エネルギーの可視光を短時間照射するだけで、膨潤度を抑えて高度にゲル化を進行させることができ、強度の高いゲルを得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光の照射によりゲル状に硬化する可視光硬化性材料において、可視光の照射によりラジカルを発生させる感光基を有する化合物と、ジ置換アミノ基含有化合物を含み、
該感光基を有する化合物が、エオシンと、桂皮酸、メタ(ア)クリル酸及びビニル安息香酸の少なくとも1種とで修飾されたゼラチンであることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項2】
請求項1において、該ジ置換アミノ基含有化合物がジメチルアミノ基含有化合物であることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項3】
請求項2において、該ジメチルアミノ基含有化合物が1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリメチレンテトラミンであることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項4】
請求項2において、該ジメチルアミノ基含有化合物がジメチルアミノ基を有するビニルモノマーと水溶性モノマーとの共重合体であることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項5】
請求項4において、該ジメチルアミノ基含有化合物がジメチルアクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとの共重合体であることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項6】
請求項2において、該ジメチルアミノ基含有化合物がジメチルアミノ基を有するビニルモノマーの重合体であることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項7】
請求項6において、該ジメチルアミノ基含有化合物がポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドであることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項8】
請求項2ないし7のいずれか1項において、該ジメチルアミノ基含有化合物と、感光基を有する化合物で修飾したゼラチンとを含み、該ジメチルアミノ基含有化合物及び感光基を有する化合物で修飾したゼラチンから発生したラジカル同士の再結合反応による架橋形成でゲル化することを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項9】
請求項8において、該感光基を有する化合物で修飾したゼラチンに対して該ジメチルアミノ基含有化合物を0.001〜30重量%含むことを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項10】
請求項8又は9において、感光基を有する化合物で修飾したゼラチン濃度1.0〜30.0重量%の水溶液にジメチルアミノ基含有化合物を添加してなることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、照度10〜10,000lxの可視光を1〜600秒照射したときのゲル化率が10%以上であることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項において、ゲル状に硬化した際の膨潤度が100以下であることを特徴とする可視光硬化性材料。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の可視光硬化性材料よりなることを特徴とする創傷治癒促進材。
【請求項14】
請求項13において、止血剤であることを特徴とする創傷治癒促進材。

【公開番号】特開2007−231095(P2007−231095A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53113(P2006−53113)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】