説明

可視光透過性を有する熱線遮蔽シート

【課題】テントなどのようなシート状の構造体に使用した際に、該構造体の内側に置いた物体の太陽光による温度上昇を効果的に抑えることができると共に、構造体内部に適度な可視光が入る透過性を有する熱線遮蔽シートを提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂100重量部に対して、平均短軸径が200〜400nmであり、平均長軸径が1〜4μmであり、且つアスペクト比が5以上を有する棒状酸化チタン微粒子を5〜50重量部配合したことを特徴とする可視光透過性を有する熱線遮蔽シート、および該シートを反射層とし、順次繊維基材層、透過層を積層させた積層状の熱線遮蔽シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性を有する熱線遮蔽シートに係わり、詳細には、テント、タープなどのようなシート状の構造体に使用した際に、該構造体の内側に置いた物体の太陽光による温度上昇を効果的に抑えることができ、しかも構造体の内部に適度な可視光が入り込む透過性を有する熱線遮蔽シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テントなどに使用されている材料はターポリンと称されおり、ポリエステル等の編物、織物等の繊維基材の両面をポリ塩化ビニルやゴム等で被覆した構成のものが一般的である。
このような構成からなるターポリンは、熱線の遮蔽性の面では決して良いものではなく、特に半恒久的に使用されるテント倉庫などでは、夏季においては日中の倉庫内温度の上昇が激しく、倉庫内の製品に与える影響は好ましいものではない。また、作業者にとっての作業環境も快適なものとはいえない。
さらに、有事の際に使用される軍事用テントや、災害時に使用される仮設テントなどにあっても同様に、テント内の温度上昇は大きな問題である。
【0003】
また、従来からトラックの幌として、同様のターポリンや、帆布等に樹脂を含浸したものなどが使用されているが、上記したテントと同様に、真夏時の日中におけるトラック荷台内の温度上昇は大きな問題であり、夏場においては運送する荷物に熱によるダメージを与えてしまうことになる。
【0004】
ところで、熱線の遮蔽性(以下「遮熱性」とも言う)を有するシートに関する技術については、古くから研究されており、例えば、特許文献1には、プラスチック樹脂にアルミニウム粉末を特定量含有させることにより遮熱性を持たせたシートが提案されており、特許文献2には、熱可塑性樹脂フィルムに遮熱性を持たせた顔料を2種以上混合して成形される遮熱性カラーフィルムが提案されている。また、特許文献3には、プラスチック層と金属蒸着ポリエステルフイルムを積層させたシート等が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のシートは、表面にアルミニウムが多量に含有された層を有しているため眩しく、しかも該シート表面は印刷等にも適していない。さらに、このような金属フレーク・粉末は、材料として多少太陽光線を吸収する性質があり、高い熱線反射を期待することは困難である。
また、この様なシートは、概して光線の透過率が極めて低く、テントとして使用した場合には、日中でもテント内部が真っ暗になってしまい、照明をつける必要があった。特に、テント倉庫等の膜構造物としてシートを使用した場合には、構造物内部での作業に当たっては、日中であっても照明をつけなければならないものであった。
【0006】
特許文献2に記載のシート、フィルムは、遮熱性能に優れた高価な顔料を使用するものである。しかしながら、このような高価な顔料に比べ、一般的な低廉な顔料である白色酸化チタン顔料のほうが反射性能に優れる場合もある。しかも、該フイルムは、表面の温度を低く保つことができるものの、フィルム全体としては光の透過量が多く、したがって、該フィルムを使用した構造体の内部に置かれた物体を直接加熱することとなり、この物体の温度が上昇する傾向にある。
【0007】
一方、特許文献3に記載のシートにあっては、構造体内部に直接太陽光は届かないものの、金属蒸着ポリエステルフイルムが光を吸収してシート自体が高温に加熱されるため、熱伝播による間接的な加熱が考えられ、さらにシート自体の劣化も懸念される。
さらに、特許文献1に記載のシートと同様に、可視光域の光まで遮蔽してしまうため、テント等の膜構造物として使用した場合には、構造体の内部が暗くなり、照明をつける必要があった。
【0008】
シートに遮熱性を付与する方法として、他には、遮熱効果を有する塗料を該シート表面に塗布する方法も考えられるが、この塗料自体が、一般の塗料に比して高価であるうえ、テント等の構造体を作成した後に一定の性能を発揮するように、塗料を塗布する必要がある。例えば、所望の遮熱性を確保するために、塗料を何度も重ね塗りして厚くする作業を余儀なくされるなど、非常に手間がかかるという問題がある。
【0009】
最近に至り、本発明者等は、優れた太陽光線反射性能を有するとともに、シート自体の昇温を解消し、シートの劣化を防止し、長期に亘って優れた太陽光反射性能を発揮し得るシートを提案している(特許文献4)。この特許文献4記載のシートは、シートを構成する合成樹脂層に少なくとも2種類の粒径の異なる酸化チタン粒子を配合したものであり、波長500〜1500nmの全波長領域にわたる日射反射率が75%以上であり、日射吸収率が10%以下となる熱遮蔽性を確保したものである。
しかしながら、当該シートは、熱遮蔽性に優れた効果を発揮するが、可視光線領域における日射透過率が低いものであるため、該シートを用いて構造体とした場合、構造体の内部が暗くなってしまうという問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開平8−81567号公報
【特許文献2】特開2002−12679号公報
【特許文献3】特開2000−71858号公報
【特許文献4】特開2006−233139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は、かかる現状を鑑み、遮熱性において優れた効果を発揮すると共に、適度な可視光が入る透過性を有する熱線遮蔽シートを開発するべく鋭意検討を行い、球形状の酸化チタンと異なり、特定のアスペクト比を有する棒状の酸化チタンを使用することにより、近赤外線領域の光に対しては高い反射性能を有し、かつ可視光領域の光もある程度透過することができ、上記した問題点を解決することができる熱線遮蔽シートを提供できることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
したがって、本発明は、テントなどのようなシート状の構造体に使用した際に、該構造体の内側に置いた物体の太陽光による温度上昇を効果的に抑えることができると共に、構造体内部に適度な可視光が入る透過性を有する熱線遮蔽シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するための本発明は、その一つの基本的態様として、熱可塑性樹脂100重量部に対して、平均短軸径が200〜400nm、平均長軸径が1〜4μmであるアスペクト比が5以上を有する棒状酸化チタン微粒子を5〜50重量部配合したことを特徴とする可視光透過性を有する熱線遮蔽シートである。
【0014】
かかるシートは、JIS−A5759の規定をもとに算出される、780〜1600nmの波長領域におけるの日射反射率が60%以上であり、400〜780nmの波長領域における日射透過率が10%以上である可視光透過性を有する熱線遮蔽シートである。
【0015】
また本発明は、別の基本的態様として、太陽光に曝露される面から順次、反射層、基材層、透過層となるように積層したシートであって、
反射層が、熱可塑性樹脂100重量部に対して、平均短軸径が200〜400nm、平均長軸径が1〜4μmであるアスペクト比が5以上を有する棒状酸化チタン微粒子を5〜50重量部配合した樹脂層であり、
繊維基材層が、400〜780nmの波長領域における日射透過率が30%以上の織布または編布であり、
透過層が、JIS−A5759の規定をもとに算出される400〜1600nmの波長領域における日射透過率が90%以上である合成樹脂層である、
ことを特徴とする可視光透過性を有する熱線遮蔽シートである。
かかるシートの反射層は、JIS−A5759の規定をもとに算出される、780〜1600nmの波長領域における日射反射率が60%以上であり、400〜780nmの波長領域における日射透過率が10%以上である可視光透過性を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、近赤外線領域の光に対しては高い反射性能を有し、かつ可視光領域の光もある程度透過することができる熱線遮蔽シートが提供される。
したがって、本発明が提供する熱線遮蔽シートは、テント等のシート状構造体に利用した場合には、太陽光による構造体内部の内温度上昇を抑えることができる。しかも、適度な可視光透過性を有することから、日中においては、構造体内部が明るく、照明を必要としない利点を有する。
【0017】
さらに、本発明が提供する熱線遮蔽シートは、シート自体の劣化も軽減され、軍事用テント、災害時などの仮設テント、或いは長期間半恒久的に使用されるテント倉庫、トラックの幌などとして好適に用いることができ、特に、夏場における日中での使用や、太陽光線が強い熱帯や砂漠気候下などで好ましく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明者らは、最初に、物体に当たることによって発熱する特定の波長の光(所謂、近赤外線領域の光)を高率で反射させ、かつ人間の目に入る光(所謂、可視光)をある程度透過させるシートに関して検討を行った。
次いで、繊維基材の両外層に合成樹脂層を設け、太陽光に暴露される側の合成樹脂層が近赤外線領域の光を高率で反射させ、且つ可視光線領域の光をある程度透過させる層とし、反対側の樹脂層として日射透過性のよい樹脂層を積層させた複層シートについて検討を行なった。
【0019】
その結果、上記したように、球状の酸化チタン微粒子と異なり、平均短軸径が200〜400nm、平均長軸径が1〜4μmであるアスペクト比が5以上を有する棒状酸化チタン微粒子を特定量配合することにより、得られたシートは、近赤外線領域の光に対しては高い反射性能を有しており、且つ可視光領域の光もある程度透過するものとなることを確認した。
【0020】
したがって、本発明は、その第一の態様としては、熱可塑性樹脂に対してかかる棒状酸化チタン微粒子を使用することにより、物体に当たることによって発熱する特定の波長の光(いわゆる、近赤外線領域の光)を高率で反射させ、且つ人間の目に入る光(いわゆる、可視光)をある程度透過させることができるシート、いわゆる単層シートである。
また本発明は、第二の態様として、繊維基材層の両面に合成樹脂層を設け、太陽光に暴露される側の合成樹脂層として、先に検討した近赤外線領域の光を高率で反射させかつ可視光線領域の光をある程度透過させる樹脂層を使用した、いわゆる複層シートである。
以下これらの点を順次説明し、本発明を詳細に説明していく。
【0021】
一般に、400〜780nmの波長領域は可視光線領域と称され、人間が肉眼で感じることのできる光線領域であり、可視光線領域の日射透過率が大きいシートであると透明性を有するシートとなる。
780〜1600nmの波長領域は近赤外線領域と称され、該近赤外線領域の光が一般に熱に変換されやすいと言われている。
したがって、可視光領域の光をある程度透過させ、その一方で近赤外線領域の光の吸収を抑えれば、可視光透過性を有しかつ熱線遮蔽性を有するシートが得られることとなる。
【0022】
なお、本明細書中においては、以下、400〜780nmの波長領域を「可視光線領域」、780〜1600nmの波長領域を「近赤外線領域」、400〜780nmの波長領域の光を「可視光線」、780〜1600nmの波長領域の光を「近赤外線」、「熱線」という場合もある。
【0023】
本発明者等の検討の結果、いわゆる近赤外線領域の光を高率で反射させ、且つ可視光をある程度透過させる樹脂単層シートとして、樹脂成分に棒状酸化チタン微粒子を特定量配合することにより達成できることが判明した。
すなわち、棒状酸化チタン微粒子を使用することにより、400〜780nmの人の目に見える光(可視光線)はよく透過するが、物体に当たると熱に変わり易い波長領域780〜1600nmの光(近赤外線)はよく反射するシートが得られることが判明した。
【0024】
もともと酸化チタンは、球形状の微粒子状の白色顔料として使用されてきており、280〜2100nm程度の紫外線、可視光線、近赤外線を良く反射し、全ての波長領域においてほとんど光線の吸収が無いという特徴を有している顔料である。
【0025】
これに対して、棒状酸化チタン微粒子は、球状の微粒子と異なり、可視光線領域での反射率が下がり、代わりに透過性を生じてくるものであり、近赤外線領域においては他の球状の酸化チタンと同等の反射性能を有する。
この様な現象が現れる理由は定かではないが、ミー散乱とレイリー散乱の理論から、400〜780nmの可視光域の光は、棒状酸化チタンの長軸方向の光を素通りし、短軸方向の光により反射される。そのため、長軸方向の偏光は透過することになる。
また、780〜1600nmの波長領域の光は、短軸方向および長軸方向の両方向の偏光を反射するために、従来の球形状の酸化チタン粒子に比べて反射が多くなるのではないかと思われる。
【0026】
したがって、本発明においては、棒状酸化チタン微粒子の中でも、平均短軸径が200〜400nmであり、平均長軸径が1〜4μmであるアスペクト比が5以上を有する棒状酸化チタン微粒子を使用するのがよい。
棒状の酸化チタンとして、可視光線の反射能は短軸径の影響を受け、近赤外線の反射能は長軸径及び短軸径の両者から影響を受ける点を考慮すると、アスペクト比が5未満であると、所望の効果を得ることが困難となる。
また、平均短軸径が200〜400nmの範囲にあるものが、可視光線の反射能及び可視光線の反射とのバランスが優れており、その平均短軸径とアスペクト比により平均長軸径が1〜4μmの範囲内にあるのが好ましいことが判明した。アスペクト比が大きくなりすぎると樹脂への分散性が悪化するので、実質的にはアスペクト比は5〜20が好ましい。
なお、本明細書中における平均長軸径および平均短軸径は、画像解析装置測定による体表面積平均径のことをいう。
【0027】
棒状酸化チタン微粒子としては、ルチル型およびアナターゼ型のどちらも使用可能であるが、一般的なルチル型が好ましく使用される。
また、棒状酸化チタン微粒子は、あらかじめ可塑剤などに分散させたトーナー状態で配合することも任意に実施できる。
【0028】
本願発明の第一の態様としての熱線遮蔽シートは、熱可塑性樹脂100重量部に対して、上記した平均短軸径が200〜400nmであり、平均長軸径が1〜4μmであり、且つアスペクト比は5以上である棒状酸化チタン微粒子(以下、単に「棒状酸化チタン微粒子」という場合もある)を5〜50重量部配合したことを特徴とする可視光透過性を有する熱線遮蔽シートである。
【0029】
かかる重量部の棒状酸化チタン微粒子を配合することにより、得られた樹脂シートは、その特性として、JIS−A5759の規定をもとに算出される780〜1600nmの波長領域におけるの日射反射率が60%以上であり、且つ400〜780nmの波長領域における日射透過率が10%以上であることが判明した。
【0030】
本発明の熱線遮蔽シートを膜構造体として使用した場合に、780〜1600nmの波長領域におけるの日射反射率が60%以上であれば、構造体の内部における温度上昇を十分に抑制できるものであり、また、400〜780nmの波長領域における日射透過率が10%以上であれば、構造体内部の照度をある程度確保できるものである。
【0031】
棒状酸化チタン微粒子の添加量が5重量部未満であると、得られたシートにおける780〜1600nmの波長領域における日射反射率が低くなり、熱遮蔽効果が得られない。また、50重量部を超えて添加しても、それほどの反射効果の増大が認められないばかりでなく、400〜780nmの波長領域における日射透過率が低下する傾向にあり好ましいものではない。
【0032】
本発明において使用する熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂が挙げられ、なかでも、ポリ塩化ビニル系樹脂、ウレタン系熱可塑性エラストマー樹脂を、好適に使用することができる。
【0033】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニルモノマーの単独重合体、ポリ塩化ビニルモノマーと、酢酸ビニルモノマー、アクリロニトリルモノマーなどのポリ塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体が使用できる。
これらポリ塩化ビニル系樹脂は、エマルジョン重合法(乳化重合法)、マイクロサスペンジョン重合法、ソープフリーエマルジョン重合法、サスペンジョン重合法(懸濁重合法)などによるものを用いることができ、なかでも、充填材、酸化チタン粒子を多量に入れることができ、可塑剤との混合によりペーストプラスチゾルを形成することが可能なエマルジョン重合法によるものが好ましい。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の汎用のポリオレフィン樹脂以外に、ポリエチレン/ポリプロピレンとブテン、ブタジエン、EVA等の共重合体樹脂を使用することができる。
【0035】
ウレタン系樹脂としては、ポリオールとジイソシアネートの重合体である、いわゆる熱可塑性ウレタン樹脂を使用することはもちろん、ウレタン樹脂を溶剤に溶解し、溶剤を除くことにより被膜化するウレタン溶液も使用することが可能である。さらに、ウレタン系樹脂を水系の溶媒に分散させた、水分を除去することにより被膜化する、いわゆるウレタンエマルジョンを用いることも可能である。
【0036】
熱可塑性エラストマー樹脂としては、ゴムとプラスチックの中間的な性質を有する材料で、通常の熱可塑性樹脂の加工技術が応用できるもの全般を挙げることができる。具体的には、アクリルゴム(ACM)、スチレン系熱可塑性エラストマー(SES、SEBS、SIS等)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ミラブル型シリコンゴム、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、動的架橋オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等である。
【0037】
本発明が提供する熱線遮蔽シートにおける樹脂組成物にあっては、棒状酸化チタン微粒子のほかに、必要に応じて、本発明の特性を損なわない範囲で、可塑剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、或いは加工性を向上させるための減粘剤や増粘剤などの各種添加剤を適宜添加することができる。
【0038】
熱可塑性樹脂としてポリ塩化ビニル系樹脂を構成する際に使用する可塑剤としては、通常のポリ塩化ビニル系樹脂に使用されている化合物が使用でき、具体的にはジ−2−エチルヘキシルフタレート(DEHP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、ブチルベンジルフタレート(BBP)などに代表されるフタル酸エステル系、トリオクチルトリメリテート(TOTM)などに代表されるトリメリット酸エステル系、ジオクチルアジペート(DOA)、ジオクチルセバケート(DOS)、ジオクチルアゼレート(DOZ)などに代表される脂肪酸エステル系、ポリプロピレンアジペートなどに代表されるポリエステル系などの可塑剤を使用することができる。
【0039】
上記可塑剤の添加量は、特に制限されるものではないが、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、25〜150重量部、好ましくは60〜100重量部である。可塑剤の添加量が少なすぎると、十分な可撓性が得られなく、また加工性も困難になり、良好なシートが得られにくく、多すぎると、シートそのものが柔らかくなりすぎ、使用時に軟化し、耐熱性を悪化させる場合があるため、好ましいものではない。
【0040】
耐熱安定剤としては、通常のポリ塩化ビニル系樹脂に使用されている化合物が使用でき、具体的にはBa−Zn系、Ca−Zn系、酸化亜鉛系などの金属安定剤を広範囲に使用することができる。
【0041】
本発明の可視光透過性を有する熱線遮蔽シートは、例えば、各成分を計量の上、混合攪拌機で均質混合させ、必要に応じて、未分散物を取り除く目的で濾過すること、或いは気泡を取り除く目的で減圧脱泡等の処理を行い、次いで得られた組成物を、押出成形、カレンダー成形、プレス成形等の公知の手段によってシート状に加工することにより、調製することができる。
また、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とするペーストプラスチゾルを、基材(離型性を有する紙またはフィルム)にコーティングし、加熱固化させることによりシート状に形成してもよい。
【0042】
シートの厚みとしては、好ましくは0.1〜1.0mm程度である。シート厚が薄すぎると、充分な近赤外線領域における日射反射率が確保し難くなり、また、厚すぎてもこの作用が飽和するばかりか、重量増を招き、取り扱い性が低下するため、好ましいものではない。
【0043】
一方、本発明の第二の態様における可視光透過性を有する熱線遮蔽シートは、太陽光に曝露される面から順次、反射層、繊維基材層、透過層の順番となるように積層させた積層シートである。
【0044】
この積層シートからなる本発明の熱線遮蔽シートにおける反射層は、上記した単層シートとしての熱線遮蔽シートが好ましく使用される。
【0045】
繊維基材層は、シートの引裂き強度や引張強度が高めるため、また使用時の耐久性や施工時の寸法安定性が向上させるために用いられるものであり、本発明においては、400〜780nmの波長領域における日射透過率が30%以上の繊維質基材を用いる。
日射透過率が30%未満であると、積層シートとして所望の日射透過性が確保できない恐れがある
【0046】
本発明において用いられるこのような繊維質基材としては、マルチフィラメント糸条からなる目抜け平織り織物が好ましく、マルチフィラメント糸条には、111〜2222デシテックス(dtex)の範囲のもの、特に138〜1111dtexの繊度の糸条が好ましい。糸条の繊度が111dtexよりも小さいと、得られる膜材の引裂強度に劣り、また2222dtexよりも大きいと、得られる膜材の破断強力と引裂強力には優れるが、織交点の凹凸度を増して煤塵汚れが蓄積し易くなるため、遮熱効果が不十分になることがある。
【0047】
目抜け平織り織布の経糸と緯糸の打込み密度は、111〜2222dtexの糸条を経糸、及び緯糸として1インチ間2〜30本、特に4〜20本打込んで織られた織布が好ましく使用できる。
この糸条は無撚であっても、撚りが掛けられたものであっても良い。この目抜け平織り織布の目付量は、20〜300g/mのものが適している。また、目抜け平織り織布の空隙率(目抜け度合い)は、10〜85%、特に30〜70%のものが適している。空隙率が85%を越えると、膜材に含まれる糸条の含有量が少なくなりすぎて得られる膜材の寸法安定性と引裂き強度に劣るため、テント膜材などに使用するに不適切となる。また10%未満であると、400〜780nmの波長領域における日射透過率が30%以上を確保しがたい。目抜け度合いを表す空隙率は、目抜け平織り織布の単位面積中に占める糸条の面積を百分率として求め、100から差し引いた値として求めることができる。空隙率は経方向10cm×緯方向10cmを単位面積として求めることが簡便である。
【0048】
本発明に使用するマルチフィラメント糸条には、汎用性から特にポリエステル繊維であることが好ましく、ポリエステル繊維としては、具体的に、テレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合によって得られるポリエチレンテレフタレート(PET)、テレフタル酸とブチレングリコールとの重縮合によって得られるポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられ、なかでもポリエチレンテレフタレート樹脂から紡糸されるポリエステル繊維が、強力及び、溶融紡糸性の観点で好ましい。
【0049】
また、本発明における透過層は、JIS−A5759の規定をもとに算出される400〜1600nmの波長領域における日射透過率が90%以上である合成樹脂層からなる透過層である。400〜1600nmの日射透過率が90%を下回る場合、反射層にて可視光線がある程度透過できる構造としても、透過層にて遮蔽してしまい、テント等の膜構造物に使用した場合、内部が暗くなってしまうため、好ましいものではない。
【0050】
透過層に用いられる合成樹脂としては、上記した単層シートとしての熱線遮蔽シートにおいて使用した熱可塑性樹脂を使用するのがよい。
また、透過層の樹脂組成物として、必要に応じて、400〜1600nmの波長領域における日射透過率90%を損なわない範囲において、反射層で添加されるものと同様の紫外線吸収剤、充填材、酸化防止剤、防カビ剤、防曇剤、帯電防止剤、減粘剤、増粘剤などの各種薬品を適宜添加することも可能である。
【0051】
透過層の厚みとしては、25〜500μm程度が好適である。25μm未満であると、テント、タープなどのようなシート状の構造体に使用した際の強度が十分でない。また、500μmを超えると、重量増を招き、取り扱い性が低下する。
【0052】
反射層、繊維基材層及び透過層の積層方法としては、各種の方法が選択可能である。例えば、はじめに押出成形、カレンダー成形等によって反射層、透過層を別々にシート状に成形しておき、中間に繊維基材層入れながら、熱圧着することにより、3層構造とすることができる。
また、反射層、透過層の両方にポリ塩化ビニル系樹脂ペーストプラスチゾルを用いる場合、離型性を有する紙またはフィルム上に反射層(または透過層)を適宜常法により所定厚みにコーティングし、加熱固化した後、この上に、繊維基材層を積層し、その上にさらに透過層(または反射層)を適宜常法により所定厚みにコーティングし、加熱固化し、その後、上記の剥離紙またはフィルムより剥離することにより、3層積層体を成形することもできる。
さらに、透過層にアクリル系樹脂またはウレタン系樹脂を用いる場合には、反射層のみを離型性を有する紙またはフィルムにコーティングし、繊維基材層を積層した後に剥離して、反射層と繊維基材層の2層シートを作成した後に、別工程で、透過層をラミネーターなどにより積層させることも可能である。
【0053】
また、繊維基材層は、反射層、透過層を軟化点以上に加熱し、熱融着させることもでき、接着剤を使用して貼り合せることも可能である。さらに、反射層(あるいは透過層)の樹脂組成物を繊維基材層に含浸させた後、固化させて層を形成することも可能である。
【0054】
なお、本発明の第二の態様における熱線遮蔽シートにおいては、反射層と透過層との厚さ比は、特に限定されないが、表面強度、柔軟性、形性などの観点から、反射層:透過層=8:1〜1:2の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1:1より若干反射層が厚いものである。
【0055】
なお、本発明の熱線遮蔽シートにおいては、反射層、透過層の表面に、さらに防汚または表面保護の目的で薄層を設けてもよい。
これら薄層は、永久層としてもかまわないし、使用中再度、効果が弱くなった際に再吹付けするようなものであってもかまわない。
特に防汚のための層に関しては、シリコン系、フッ素系の界面活性剤を適宜吹付けることにより、テント等の膜構造物の汚れを防ぎ、長期間綺麗に保つことが可能となる。
【0056】
本発明の3層構造の可視光透過性を有する熱線遮蔽シートは、これを通常の縫製、高周波ウエルダー、ヒートシール等の手段により、テント等に加工され、膜構造体の天幕として使用することができる。特に、反射層、繊維基材層及び透過層が上記のような日射反射率、日射透過率を有することから、優れた熱線遮蔽性能を発現しながら、適度な可視光透過性を有するため、シートをテント等の膜構造物とした際に、日中、内部が暗くならず、照明の必要がなくなる。さらに、優れた耐候性も備え、膜構造物として長期間使用が可能となる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を各層の調製例、試験例等により、より詳細に説明するが、本発明はこれらの試験例等により何ら制限されるものではない。
【0058】
1.単層シート(反射層)の調製(試験例番号R1〜R12)
[単層シート(反射層:試験例番号R1〜R12)の調製]
下記表1に示す様に、調製した反射層用のポリ塩化ビニル系樹脂ペースト状プラスチゾルを、離型紙上に、所定の厚みとなるようナイフコーティング法によりコーティングし、180℃で2分間加熱固化し、厚み180μmのシートとした。
また、熱可塑性ウレタンエラストマー(TPU)に関しては、樹脂コンパウンドをバンバリーミキサーで混練し、4本ロールカレンダーにて、厚み250μmのシートとした。
【0059】
【表1】

【0060】
2.透過層の調製(試験例番号:T1〜T4)
[透過層(試験例番号:T1〜T4)の調製]
下記表2に示すように、調製した透過層用のポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドをバンバリーミキサーで混練して、4本ロールカレンダーにて、層厚0.1mmとなるようシート化した。
また、熱可塑性ウレタンエラストマー(TPU)に関しては、反射層と同様に樹脂コンパウンドをバンバリーミキサーで混練して、4本ロールカレンダーにて、層厚0.1mmとなるようシート化した。
シート化したものの分光特性は、前記と同様に自記分光光度計を使用して測定した。
【0061】
【表2】

【0062】
3.繊維基材層(試験例番号B1〜B2)
[繊維基材層(試験例番号:B1〜B2)]
繊維基材層として、下記表3に記載の2種の織布を用いた。
【0063】
【表3】

【0064】
上記表中における使用原料の詳細は、以下のとおりである。
(1)塩化ビニル樹脂1(エマルジョン重合ポリ塩化ビニル):新第一塩ビ社製/商品名:PQ−HPN
(2)塩化ビニル樹脂2(サスペンジョン重合ポリ塩化ビニル):ヴイテック社製/商品名:MT−1300
(3)熱可塑性ウレタン樹脂(TPU):日本ミラクトラン社製/商品名:ミラクトランE980
【0065】
また、表中の注は以下のものである。
*1:可塑剤(イソノニルフタレート):積水化学工業社製/商品名:DINP
*2:安定剤1(Ba−Zn系複合安定剤):アデカ社製/商品名:アデカスタブAC−183
*3:安定剤(フェノール系酸化防止剤):アデカ社製/商品名:アデカスタブAO−60
*4:酸化チタンA(球状酸化チタン微粒子:粒経200nm)
*5:酸化チタンB(球状酸化チタン微粒子:粒経400nm)
*6:酸化チタンC(棒状酸化チタン微粒子:短軸400nm;長軸3μm)
*7:カーボンブラック:東海カーボン社製/商品名:トーカブラック#8500/F
*8:UV吸収剤1(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤):チバスペシャルティーケミカル社製/商品名:Tinuvin 326
【0066】
上記で得られた単層シート(反射層:試験例番号:R1〜R12)、及び透過層(試験例番号:T1〜T4)についての分光特性を、自記分光光度計(日本分光(株)社製:商品名「V−570」)を用いて、標準白色板(硫酸バリウム多孔質体)を反射率100%とし、波長350〜2100nmの範囲での分光反射率を測定し、JIS−A5759の付表3を用いて、日射反射率を導き出した。
日射吸収率は、日射反射率の場合と同様にして日射透過率を測定し、100%から日射反射率および日射透過率を差し引くことにより算出した。
それらの結果を、以下にまとめて示した。
【0067】
下記表4及び表5は、反射層についての結果である。
なお、表4及び表5中、可視光線透過率は波長400〜780nmにおける日射透過率、近赤外線反射率は波長780〜1600nmにおける日射反射率である。
【0068】
【表4】

【0069】
上記の表中の結果について、熱可塑性樹脂における酸化チタンの配合量を一定にしたものの比較を、下記表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
表5中に示した結果から判明するように、本発明の棒状酸化チタン微粒子を配合したものは、同量の球状の酸化チタンを配合したものに比較して、可視光の透過率が極めて良好なものであることが判明する。
【0072】
下記表6に、透過層の結果を示した。
【0073】
【表6】

【0074】
4.積層シートの調製
上記で得られた各反射層(試験例番号:R1〜R12)、繊維基材層(試験例番号:B1〜B2)及び透過層(試験例番号:T1〜T4)を組み合わせ積層させ、本発明の積層状の熱線遮蔽シートを調製した。
得られた積層シートについて、可視光線透過率及び近赤外線反射率を求めた。
また、積層シートの遮熱性能試験および照度性能試験を、以下の方法にしたがって行った。
【0075】
[遮熱性能試験]
図1に示すような厚み30mmの発泡ポリスチレン(図中、2)で作成した高さ350mm、巾220mm、長さ310mmの大きさの上面以外を囲われた箱の上面に、調製した積層シート(図中、1)を設置し、積層シートの上方300mmの高さから200Wの人工太陽光(ソーラーシュミュレーター:図中、4))灯を40分間照射した後の、底部に置いた黒板(図中、3)の温度を熱電対により測定した。
【0076】
[照度性能試験法]
遮熱性能試験に用いた図1に示すような装置の底部にコニカミノルタ社製T−10型照度計を設置し、平行状態になったときの照度を測定した。
【0077】
代表的な試験シート(L1〜L9)の層構成、及びそれらの結果を、まとめて以下の表7に示した。
なお、可視光透過率は波長400〜780nmにおける日射透過率、近赤外線反射率は波長780〜1600nmにおける日射反射率である。
【0078】
【表7】

【0079】
表中の結果からも判明するように、本発明の棒状酸化チタン微粒子を配合した積層シート(L3及びL8)の場合には、同量の球状の酸化チタンを配合したものに比較して、可視光の透過率が極めて良好なものであることが判明する。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上記載のように、本発明が提供する熱線遮蔽シートは、テント等のシート状構造体に利用した場合、太陽光による内部の温度上昇が抑えられ、しかも、適度な可視光透過性を有することから、日中、内部が明るく、照明を必要としないものである。
本発明が提供する熱線遮蔽シートは、軍事用テント、災害時などの仮設テント、長期間半恒久的に使用されるテント倉庫、トラックの幌などとして好適に用いることができ、とくに、夏季の日中での使用や太陽光線が強い熱帯や砂漠気候下などで用いると効果的であり、その産業上の利用性は大きなものである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の熱性遮蔽シートの遮蔽性能を評価するための装置を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100重量部に対して、平均短軸径が200〜400nm、平均長軸径が1〜4μmであるアスペクト比が5以上を有する棒状酸化チタン微粒子を5〜50重量部配合したことを特徴とする可視光透過性を有する熱線遮蔽シート。
【請求項2】
JIS−A5759の規定をもとに算出される、780〜1600nmの波長領域における日射反射率が60%以上であり、400〜780nmの波長領域における日射透過率が10%以上であることを特徴とする請求項1に記載の可視光透過性を有する熱線遮蔽シート。
【請求項3】
太陽光に曝露される面から順次、反射層、基材層、透過層となるように積層したシートであって、
反射層が、熱可塑性樹脂100重量部に対して、平均短軸径が200〜400nm、平均長軸径が1〜4μmであるアスペクト比が5以上を有する棒状酸化チタン微粒子を5〜50重量部配合した樹脂層であり、
繊維基材層が、400〜780nmの波長領域における日射透過率が30%以上の織布または編布であり、
透過層が、JIS−A5759の規定をもとに算出される400〜1600nmの波長領域における日射透過率が90%以上である合成樹脂層である、
ことを特徴とする可視光透過性を有する熱線遮蔽シート。
【請求項4】
前記反射層が、JIS−A5759の規定をもとに算出される、780〜1600nmの波長領域における日射反射率が60%以上であり、400〜780nmの波長領域における日射透過率が10%以上であることを特徴とする請求項3に記載の可視光透過性を有する熱線遮蔽シート。

【図1】
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【公開番号】特開2009−228416(P2009−228416A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18169(P2009−18169)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】