説明

可逆性感熱記録材料

【課題】サーマルヘッドなどの発熱体によって画像形成及び消去を何回繰り返しても、透明部と不透明部とのコントラストに優れた画像の形成が可能な、耐久性に優れる可逆性感熱記録材料でありながら、二酸化炭素を原料とし得、地球環境保護の観点からも有用な、環境対応製品を提供し得る技術を開発すること。
【解決手段】基材及び該基材の少なくとも一方の面に感熱記録層を設けてなる感熱記録材料であって、上記感熱記録層が、高分子樹脂及び該高分子樹脂中に分散された有機低分子物質を主成分としてなる、透明度が温度によって可逆的に変化し得る可逆性感熱記録層であり、上記高分子樹脂が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分として含む樹脂組成物である可逆性感熱記録材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱記録層の温度による可逆的な透明度変化を利用して、画像の記録及び消去を何度も繰り返すことを可能にした、記録の書き換えができる可逆性感熱記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
交通機関の定期券、催し会場や建物への入場許可証、また各種プリペイドカードなどにおいて、種々の情報を記録して格納しておくことができる磁気カードやICカードが使用されている。しかし、これらのカードでは、格納されている記録内容を直接目視することができないため、支払い金額や残高を簡単にチェックすることができず、使用者に対する格納された情報の内容保証を明確にするといった観点からは問題があった。このような問題に対し、従来、これらのカードを被記録媒体とし、該カード類に目視可能な記録を行い、また記録を消去し、さらには格納される情報の変更にともなって当該記録を書き換えることができる方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。例えば、感熱記録材料において、その感熱記録層を可逆性感熱記録塗料で構成することで、該感熱記録層を、サーマルヘッドなどによって外部からの熱を加えた時に、その温度に応じて、透明な状態から白濁状態までの範囲でその光透過性を変化させ、一方、冷却後にはその状態が保持される性質を持つものにする方法がある。この技術を利用すれば、格納される情報内容が変更されることを前提とする上記したようなカード類にあって、その変更された内容を、随時、目視可能に表示することが可能になるので、極めて有用である。
【0003】
可逆性感熱記録材料の代表的なものとして、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体のような高分子樹脂中に、高級脂肪酸のような有機低分子物質を微粒子状に分散させた感熱記録層を基材シート上に設けた構成体よりなるものが挙げられる。これらの可逆性感熱記録材料は、加熱により透明化したり、不透明化して画像形成を行うが、サーマルヘッドなどを用いて圧力を加え、同時に加熱する場合には、画像の形成・消去を繰り返すうちに、有機低分子物質の微粒子の母材である高分子樹脂が変形し、細かく分散された有機低分子物質粒子が次第に大きな径の粒子となることがある。このようにして大きな粒子径となった有機低分子物質粒子は、光を散乱させる効果が少なくなり、ついには、画像及びコントラストが低下してしまうという欠点があり、可逆性感熱記録材料の機能を大きく損なう原因になる。これに対し、可逆性感熱記録材料の耐久性を向上させるために、母材として用いる高分子樹脂についての検討が行われており、種々の高分子樹脂の使用が提案されている(特許文献4〜6参照)。
【0004】
さらに、最近では、環境問題に対する意識の高まりから、環境対策に積極的に取り組むメーカーが多くなり、環境保全性に優れた材料を用いて製品を構成する動きがある。このような中、上記した可逆性感熱記録材料は、ゴミ問題や森林破壊問題を背景に、今まで使い捨てられていた物を、何度でも書き換え可能にできることから、可逆性感熱記録材料に代替することで環境問題(エコ)の解決の一助となることが注目され、盛んに検討され一部実用化されている。しかしながら、可逆性感熱記録材料の原料は、そのほとんどが石油由来のものであり、本来の趣旨からすると、現在の地球規模での環境保全性という面ではまだ不十分である。
【0005】
非特許文献1、2に見られるように、二酸化炭素を原料とするポリヒドロキシポリウレタン樹脂については以前から知られているが、その応用展開は進んでいないのが実情である。それは、従来から知られている上記樹脂は、従来の同種系の高分子化合物(石油プラスチック)であるポリウレタン系樹脂に比べて特性面で明らかに劣るからである(特許文献7、8参照)。
【0006】
一方、増加の一途をたどる二酸化炭素の排出に起因すると考えられる地球の温暖化現象は、近年、世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な課題であり、二酸化炭素を製造原料とできる技術の開発が待望されている。さらに枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっている。
【0007】
上記のような背景下、再び、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が見直されている。すなわち、この樹脂の原料である二酸化炭素は、容易に入手可能で、かつ、持続可能な炭素資源であり、さらに、二酸化炭素を原料とするプラスチックは、温暖化、資源枯渇などの問題を解決する有効な手段であると言えるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−139784号公報
【特許文献2】特公平01−30638号公報
【特許文献3】特開平07−25146号公報
【特許文献4】特開平04−189176号公報
【特許文献5】特開平05−85047号公報
【特許文献6】特開平07−125450号公報
【特許文献7】米国特許第3,072,613号公報
【特許文献8】特開2000−319504号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(11),2765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下、可逆性感熱記録材料の感熱記録層に使用する高分子樹脂において、サーマルヘッドなどの発熱体で熱及び圧力を加え、画像形成及び消去の繰り返しをした場合でも、樹脂が変形することなく、透明部と不透明部とのコントラストに優れた画像を常に形成をすることができる、耐久性に優れる製品であると同時に、地球規模での環境保全性を持った環境対応製品である可逆性感熱記録材料の開発が要望されている。
【0011】
したがって、本発明の目的は、サーマルヘッドなどの発熱体によって画像形成及び消去を何回繰り返しても、透明部と不透明部とのコントラストに優れた画像の形成が可能な、耐久性に優れる可逆性感熱記録材料でありながら、二酸化炭素を原料とし得、地球環境保護の観点からも有用な、環境対応製品を提供し得る技術を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、基材及び該基材の少なくとも一方の面に感熱記録層を設けてなる感熱記録材料であって、上記感熱記録層が、高分子樹脂及び該高分子樹脂中に分散された有機低分子物質を主成分としてなる、透明度が温度によって可逆的に変化し得る可逆性感熱記録層であり、上記高分子樹脂が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分として含む樹脂組成物であることを特徴とする可逆性感熱記録材料を提供する。
【0013】
本発明の可逆性感熱記録材料の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られる上記の可逆性感熱記録材料。前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、原料由来の二酸化炭素を1〜25質量%含有するものである可逆性感熱記録材料。前記感熱記録層が、前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂構造中の水酸基と、該水酸基と反応する架橋剤で架橋して形成されている可逆性感熱記録材料。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明によれば、その可逆性感熱記録材層を、特定のポリヒドロキシポリウレタン樹脂を用いて形成することで、該層に、サーマルヘッド又は熱ロールなどで加熱及び圧力を加えられても、画像形成及び消去の繰り返し耐久性が十分であり、コントラストに優れた画像を繰り返し形成することができる可逆性感熱記録材料の提供が可能になる。さらに、本発明を特徴づける上記樹脂は、二酸化炭素を原料とし得、樹脂中に二酸化炭素を取り入れることができるので、本発明の可逆性感熱記録材料は、地球環境保全に寄与し得る環境対応製品の提供を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
<感熱記録層>
本発明の可逆性感熱記録材料は、基材の少なくとも一方の面に感熱記録層が設けられ、該感熱記録層が、高分子樹脂及び該高分子樹脂中に分散された有機低分子物質を主成分としてなる、透明度が温度によって可逆的に変化し得る可逆性感熱記録層であり、該高分子樹脂は、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分として含む樹脂組成物であることを特徴とする。
【0016】
(高分子樹脂)
本発明で使用する5員環環状カーボネート化合物は、下記[式−A]で示されるようにエポキシ化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができる。更に詳しくは、エポキシ化合物を有機溶媒の存在下又は不存在下及び触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で常圧又は僅かに高められた圧力下、10〜20時間、二酸化炭素と反応させることによって得られる。

【0017】
本発明で使用するエポキシ化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。
【0018】


【0019】
以上に列記したエポキシ化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0020】
本発明で用いるカーボネート化合物は、前記したように、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得ることができる。この反応において使用される触媒としては、下記のような塩基触媒及びルイス酸触媒が挙げられる。
【0021】
塩基触媒として、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタン、ピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0022】
また、ルイス酸触媒としては、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0023】
これらの触媒の使用量は、エポキシ化合物50質量部当たり、0.1〜100質量部、好ましくは0.3〜20質量部とすればよい。上記使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、100質量部を超えると最終樹脂の諸性能を低下させるおそれがあるので好ましくない。従って、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して残留触媒を除去してもよい。
【0024】
エポキシ化合物と二酸化炭素の反応においては使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどの混合系で使用してもよい。
【0025】
本発明で使用するポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、下記[式−B]で示されるように、例えば、上記反応で得た5員環環状カーボネート化合物と、アミン化合物とを、有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得ることができる。
【0026】

【0027】
上記反応に使用するアミン化合物としては、例えばジアミンが好ましく、従来ポリウレタン樹脂の製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン、1,4’−ジアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;モノエタノールジアミン、エチルアミノエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアルカノールジアミンが挙げられる。
【0028】
以上列記したアミン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0029】
上記のようにして得ることができる、本発明を特徴づけるポリヒドロキシポリウレタン樹脂の数平均分子量(GPCで測定した標準ポリスチレン換算値)は、2,000〜100,000程度であることが好ましい。さらには、5,000〜70,000程度のものであることがより好ましい。
【0030】
また、本発明で使用するポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基含有量は、水酸基価20〜300mgKOH/gであることが好ましい。水酸基含有量が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が不足であり、一方、上記範囲を超えると、高分子化合物としての諸物性不足となる。
【0031】
本発明の可逆性感熱記録材料を構成する感熱記録層は、上記したポリヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜をそのまま使用することができるが、さらに架橋剤を用いて架橋被膜とすることもできる。感熱記録層を架橋被膜として形成すると、サーマルヘッドや熱ロールなどによる熱及び圧力に対する耐久性をより向上することができるため、より好ましい。この際に使用可能な架橋剤としては、樹脂構造中の水酸基と反応するような架橋剤はすべて使用できる。例えば、アルキルチタネート化合物やポリイソシアネート化合物が挙げられる。従来、ポリウレタン樹脂の架橋に使用されている公知のポリイソシアネート化合物であればよく、特に限定されない。例えば、下記のような構造式のポリイソシアネートと他の化合物との付加体などが挙げられる。
【0032】

【0033】
また、感熱記録層の形成に際しては、基材に対するコーティング適正や、成膜性の向上及びコントラストの調整などのために、従来公知の各種バインダー樹脂を混合して使用することもできる。バインダー樹脂は、上記のポリイソシアネート付加物などの架橋剤と化学的に反応し得るものが好ましいが、反応性を有していないものでも本発明では使用することができる。
【0034】
このような樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−アクリレート共重合体などの塩化ビニル系共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体などの塩化ビニリデン系共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリレート又はポリメタクリレート或いはアクリレート−メタクリレート共重合体などが挙げられる。これらは単独で或いは2種以上混合してもよい。
【0035】
(有機低分子物質)
本発明を構成する感熱記録層を形成するための有機低分子物質は、前記高分子樹脂中に粒子状に分散された状態で存在し、その粒径がおよそ0.1〜2μmの範囲に分布するものが好ましい。一般的には、ワックス、あるいはロウと呼ばれ、室温においては固体状であり、炭素数10〜60程度の長鎖アルキル基を含む化合物、長鎖アルキル基からなる脂肪酸、アルコール、エステル、アミド、ケトン、エーテル、チオエーテル、或いはアミンが好ましい。
【0036】
具体的には、以下のものが挙げられる。例えば、ラウリン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ペンタデカン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、ヘンエイコサン酸、トリコサン酸、グリノセリン酸、ペンタコサン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ノナデカン酸、オレイン酸のような高級脂肪酸化合物;ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、C30アルコールのような高級アルコール化合物;ラウリン酸オクタデシル、パルチミン酸テトラデシル、ベヘン酸ドデシル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸テトラデシル、ステアリン酸オクタデシル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ベヘニル、ベヘニン酸ベヘニル、モンタン酸ベヘニル、ステアリン酸C30アルコールエステル、ベヘニン酸C30アルコールエステルのような高級脂肪酸エステル化合物;パルチミン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−オレイルパルチミン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミドのようなアミド化合物;ジステアリルケトン、ジベヘニルケトンのようなケトン化合物が挙げられる。
【0037】
更には、下記のような高級脂肪族エーテル、高級脂肪族チオエーテル、或いは高級脂肪族アミンなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。例えば、C1633−O−C1633、C1633−S−C1633、C1837−S−C1837、C1225−S−C1225、C1939−S−C1939、C1225−S−S−C1225、C1123−OCO−CH2CH2−O−CH2CH2−OCO−C1123、C1735−OCO−CH2CH2−O−CH2CH2−OCO−1735、C1225−OCO−CH2CH2−S−CH2CH2−OCO−C1225、C1837−OCO−CH2CH2−S−CH2CH2−OCO−C1837、C1837−OCO−CH2CH2−NH−CH2CH2−OCO−C1837などが挙げられる。これらの長鎖アルキル基含有化合物は、単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用することもできる。
【0038】
また、前記有機低分子物質(以下、これを低融点有機低分子物質という場合がある)に、それよりも融点の高い有機低分子物質(以下、これを高融点有機低分子物質という場合がある)を添加することで、透明化する温度の幅を広げることもできる。この高融点有機低分子物質としては、融点が80℃〜180℃の物質が好ましく、特に90℃〜160℃の範囲の融点を有する飽和脂肪族ビスアミドや飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0039】
本発明で使用し得る具体的な高融点有機低分子物質としては、以下のものが挙げられる。例えば、飽和脂肪族ビスアミドとしては、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、N,N−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N−ジステアリルエイコサンジ酸アミド、N,N−ジステアリルセバシンジ酸アミド、N,N−ジラウリルドデカンジ酸アミド、N,N−ジステアリルドデカンジ酸アミドなどが挙げられる。
【0040】
飽和脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピロリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジ酸、ドデカンジ酸、トリデカンジ酸、テトラデカンジ酸、ペンタデカンジ酸、ヘキサデカンジ酸、ペプタデカンジ酸、オクタデカンジ酸、ノナデカンジ酸、エイコサンジ酸などが挙げられる。
【0041】
しかしながら、これらに限定されるものではなく、前記以外のビスアミド、ジカルボン酸、飽和脂肪酸モノアミド、メチロール酸アミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミドなどの高融点有機低分子物質が使用できる。これら高融点有機低分子物質は、1種使用してもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
有機低分子物質として、上記低融点有機低分子物質と高融点有機低分子物質とを用いる場合の配合割合は、質量比で99:1〜45:55の範囲であることが好ましい。この範囲外では透明化する温度の幅の拡大効果が得られないだけでなく、透明化状態と白濁化状態のコントラスト不足となるので好ましくない。
【0043】
感熱記録層中の有機低分子物質と高分子樹脂の割合は、質量比で1:1〜1:10が好ましい。高分子樹脂の比率がこれ以下になると感熱記録層としての膜に形成することが困難となり、またこれ以上になると、有機低分子物質が少ないために、不透明時のコントラストが低下してしまい、好ましくない。
【0044】
さらに、感熱記録層には必要に応じて、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、分散剤、安定剤、界面活性剤、無機あるいは有機の充填剤などを配合してもよい。
【0045】
感熱記録層の膜厚は通常1〜40μmであり、好ましくは2〜20μmである。感熱記録層が厚すぎると層内での熱の分布が発生し好ましくない。一方、感熱記録層がこれより薄いと白濁度が低下してしまい、コントラストが低下してしまうため好ましくない。
【0046】
<基材>
基材としては、プラスチックフィルム、ガラス板、金属板、紙のようなシート状或いは板状ものが使用でき、様々な厚さのものが可能である。また、それらの表面又は裏面に着色被覆層を設けたもの、着色顔料を混練したプラスチックフィルムなどが使用できる。さらに、プラスチックフィルムに金属蒸着などの反射層を設けたものも使用可能である。
【0047】
<中間層>
また、本発明の可逆性感熱記録材料には、必要に応じて各種中間層を設けることができる。該中間層は、一層であっても多層の組み合わせからなるものであってもよく、本発明の効果の範囲内であれば、必要に応じて適宜設けることができる。例えば、意匠性を目的とした印刷層や着色層さらには耐熱保護層などを設けることができ、印刷層や着色層は従来公知の材料が使用できる。また、耐熱保護層に使用する材料としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂や、UV硬化型樹脂、EB硬化型樹脂が用いられる。
【0048】
<その他の層>
さらに、本発明の効果の範囲内であれば、基材と感熱記録層の間に、情報を記録する磁気記録層や、感熱記録層の透明化状態と白濁化状態とのコントラストを向上させるため、基材上に金属蒸着などの反射層を設けることもできる。さらには基材及び感熱記録層や各種中間層の接着性を高める接着層を設けることもできる。そして、最上層にはサーマルヘッドによる表面のキズ及びヘッド滓付着防止の目的で滑性保護層を設けることができる。
【実施例】
【0049】
次に、具体的な製造例、重合例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。又、以下の各例における「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0050】
<製造例1>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
撹拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ化合物A(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828;エポキシ当量187g/mol)100部、N−メチルピロリドン100部、ヨウ化ナトリウム1.5部を加え均一に溶解させた後、炭酸ガスを0.5リッター/分の速度でバブリングしながら、80℃で30時間加熱撹拌させた。
【0051】

【0052】
反応終了後、得られた溶液を、300部のn−ヘキサン中に300rpmで高速撹拌しながら徐々に添加した。その後、生成した粉末状生成物をフィルターでろ過し、さらに、ろ過物をメタノールで洗浄し、N−メチルピロリドン及びヨウ化ナトリウムを除去した。粉末を乾燥機中で乾燥し、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−A)118部(収率95%)を得た。
【0053】
得られた生成物についての赤外吸収スペクトル(堀場製作所 FT−720)は、910cm-1付近のエポキシ基由来のピークがほぼ消滅し、1,800cm-1付近に、原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。また、生成物の数平均分子量は414(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−A)中には、19%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0054】
<製造例2>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
製造例1で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式Bで表される2価エポキシ化合物B(東都化成(株)製、YDF−170;エポキシ当量172g/mol)を用いた以外は、製造例1と同様に反応させて、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−B)121部(収率96%)を得た。得られた生成物について、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−B)中には、20.3%の二酸化炭素が固定化されている。
【0055】

【0056】
<製造例3>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
製造例1で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式Cで表される2価エポキシ化合物C(ナガセケムテックス(株)製、EX−212;エポキシ当量151g/mol)を用いた以外は、製造例1と同様に反応させて、無色透明の液状5員環環状カーボネート化合物(1−C)111部(収率86%)を得た。得られた生成物について、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−C)中には、22.5%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0057】

【0058】
<重合例1〜3>(ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
製造例1〜3で得た5員環環状カーボネート化合物をそれぞれに用いて、下記のような手順で、実施例で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂を合成した。先ず、撹拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内に、各5員環環状カーボネート化合物、更に固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に、表1に記載したアミン化合物を所定当量加え、90℃の温度で10時間撹拌し、アミン化合物が確認できなくなるまで反応させた。得られた3種類のポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は表1に記載の通りである。
【0059】

【0060】
<比較樹脂例1>(ポリエステルポリウレタン樹脂)
撹拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解し、60℃でよく撹拌しながら、62部の水添加MDI(メチレンビス(1,4−シクロヘキサン)−ジイソシアネート)を、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後、80℃で6時間反応させた。
この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは破断強度45MPaで破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0061】
<比較樹脂例2>
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学製)35部を、テトラヒドロフラン65部に溶解し、固形分35%の樹脂溶液を得た。
【0062】
<比較樹脂例3>
塩素化ポリオレフィン樹脂(日本製紙ケミカル製)35部を、テトラヒドロフラン70部に溶解し、固形分35%の樹脂溶液を得た。
【0063】
<実施例1>
下記配合による樹脂含有溶液を調製して塗料とし、基材シート上に、該塗料をワイヤーバーを用いて塗布した後、140℃にて4分間加熱乾燥して、厚みが12μmの感熱記録層を形成した。上記において、基材には、188μmの厚みのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、0.1μm厚のアルミ層を真空蒸着法により形成した金属反射基材を用いた。
【0064】
(感熱記録層塗料組成;透明化温度範囲 75〜108℃)
重合例1の樹脂溶液(固形分35%) 100部
ステアリン酸 10部
エイコサン2酸 4部
フタル酸ジ−2エチルヘキシル 2部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン、コロネートHL) 5部
テトラヒドロフラン 180部
【0065】
<実施例2>
下記配合の樹脂含有溶液を調製して塗料とし、得られた塗料を用いて実施例1と同様の方法で、感熱記録層を形成した。
重合例2の樹脂溶液(固形分35%) 100部
ステアリン酸 10部
エイコサン2酸 4部
フタル酸ジ−2エチルヘキシル 2部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン、コロネートHL) 5部
テトラヒドロフラン 180部
【0066】
<実施例3>
下記配合の樹脂含有溶液を調製して塗料とし、得られた塗料を用いて実施例1と同様の方法で、感熱記録層を形成した。
重合例3の樹脂溶液(固形分35%) 100部
ステアリン酸 10部
エイコサン2酸 4部
フタル酸ジ−2エチルヘキシル 2部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン、コロネートHL) 5部
テトラヒドロフラン 180部
【0067】
<比較例1>
下記配合の溶液を調製し、実施例1と同様の方法で、感熱記録層を形成した。
比較樹脂例1の樹脂溶液(固形分35%) 100部
ステアリン酸 10部
エイコサン2酸 4部
フタル酸ジ−2エチルヘキシル 2部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン、コロネートHL) 5部
テトラヒドロフラン 180部
【0068】
<比較例2>
下記配合の樹脂含有溶液を調製して塗料とし、得られた塗料を用いて実施例1と同様の方法で、感熱記録層を形成した。
比較樹脂例2の樹脂溶液(固形分35%) 100部
ステアリン酸 10部
エイコサン2酸 4部
フタル酸ジ−2エチルヘキシル 2部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン、コロネートHL) 5部
テトラヒドロフラン 180部
【0069】
<比較例3>
下記配合の樹脂含有溶液を調製して塗料とし、得られた塗料を用いて実施例1と同様の方法で、感熱記録層を形成した。
比較樹脂例3の樹脂溶液(固形分35%) 100部
ステアリン酸 10部
エイコサン2酸 4部
フタル酸ジ−2エチルヘキシル 2部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン、コロネートHL) 5部
テトラヒドロフラン 180部
【0070】
(耐熱保護層)
上記のようにして形成した、実施例1〜3及び比較例1〜3の各感熱記録層の上に、アクリル系紫外線硬化樹脂(大日精化工業製)を、乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布し、紫外線を500mJ/cm2照射して耐熱保護層を形成した。
【0071】
(滑性保護層)
さらに、上記のようにして形成した耐熱保護層の上に、ポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂(大日精化工業製)を用いて乾燥後の厚みが1.0μmとなるよう塗布して滑性保護層を形成し、実施例1〜3及び比較例1〜3の各可逆性感熱記録材料を作製した。
【0072】
[評価]
以上ようにして得られた実施例1〜3及び比較例1〜3の各可逆性感熱記録材料について、各特性を評価した。
【0073】
<印字濃度、地肌濃度>
上記のようにして得た実施例及び比較例の可逆性感熱記録材料に、ライン型サーマルヘッド(8dot/mm)を用いて画像形成を行い、熱板圧着方式(熱板温度;100〜105℃)にて画像を消去した。そして、初期の印字、消去特性(印字濃度、地肌濃度)及びコントラストを測定した。なお、各濃度の測定には、マクベス反射濃度計(RD−914)を用いた。
【0074】
<耐久性>
上記で、初期の印字濃度及び地肌濃度を測定したものを用いて、さらに、この繰り返し操作を100回行った。そして、100回目に得られた画像の、印字濃度、地肌濃度及びコントラストを測定し、その耐久性を評価した。なお、コントラスト(地肌濃度−印字濃度)が1.0以下のものを耐久性×として評価した。
【0075】
<環境対応度>
実施例及び比較例の可逆性感熱記録材料の「感熱記録層」を形成する各樹脂中における二酸化炭素の固定化の有無で、○×判断した。
【0076】

【0077】
表2に示したように、比較例1で用いたポリエステルポリウレタン樹脂は、使用した有機低分子物質と相溶してしまうため、形成した層は、透明度の温度による可逆性が発現せず、感熱記録層とはならなかった。また、比較例2及び3で感熱記録層の形成に用いた樹脂の場合は、ポリイソシアネートを添加しても耐久性の向上が認められなかったが、これは、使用樹脂中に反応性基がないため架橋効果が得られなかったことに起因すると考えられる。これに対し、本発明で使用するポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その構造中に水酸基を有しているため、ポリイソシアネートとの反応による架橋構造を形成することができ、より感熱記録層の耐久性が向上したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上の本発明によれば、基材の少なくとも一方の面に、特定の高分子樹脂及び該高分子樹脂中に分散された有機低分子物質を主成分としてなる可逆性感熱記録層を形成することで、サーマルヘッド又は熱ロールなどの加熱及び圧力による、繰り返しの画像形成及び消去に対し、コントラストに優れた画像形成が常に可能な、耐久性に優れる可逆性感熱記録材料を提供することができる。このため、当該材料を、格納された情報が変更されるICカード類などに適用することで、随時、内容保証のための目視可能な表示を良好な状態で行うことができるようになるため、その活用が期待される。また、本発明で、感熱記録層の形成成分として使用するポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、二酸化炭素を製造原料に利用することができるため、本発明によれば、地球温暖化ガスとされている二酸化炭素削減に寄与し得る地球環境対応製品としての可逆性感熱記録材料の提供が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び該基材の少なくとも一方の面に感熱記録層を設けてなる感熱記録材料であって、
上記感熱記録層が、高分子樹脂及び該高分子樹脂中に分散された有機低分子物質を主成分としてなる、透明度が温度によって可逆的に変化し得る可逆性感熱記録層であり、
上記高分子樹脂が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分として含む樹脂組成物であることを特徴とする可逆性感熱記録材料。
【請求項2】
前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られる請求項1に記載の可逆性感熱記録材料。
【請求項3】
前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、原料由来の二酸化炭素を1〜25質量%含有するものである請求項1又は2に記載の可逆性感熱記録材料。
【請求項4】
前記感熱記録層が、前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂構造中の水酸基と、該水酸基と反応する架橋剤で架橋して形成されている請求項1乃至3に記載の可逆性感熱記録材料。

【公開番号】特開2013−35221(P2013−35221A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173458(P2011−173458)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】