説明

可逆性感熱記録材料

【課題】滑り性、非粘着性、耐熱性に優れ、発熱体によって画像形成及び消去を何回繰り返しても、表面のキズ及びヘッド滓付着がない滑性保護層を有する可逆性感熱記録材料でありながら、二酸化炭素を原料とし得、地球環境保護の観点からも有用な環境対応製品とし得る技術の提供。
【解決手段】基材の少なくとも一方の面に、感熱記録層と任意の中間層と滑性保護層とをこの順に有し、感熱記録層が、高分子樹脂及び該高分子樹脂中に分散された有機低分子物質を主成分としてなる透明度が温度によって可逆的に変化し得る可逆性感熱記録層であり、かつ、滑性保護層が、5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導された、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分として含む樹脂組成物によって形成されている可逆性感熱記録材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱記録層の温度による可逆的な透明度変化を利用して、画像の記録及び消去を何度も繰り返すことを可能にした、記録の書き換えができる可逆性感熱記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
交通機関の定期券、催し会場や建物への入場許可証、各種プリペイドカード等において、種々の情報を記録して格納しておくことができる磁気カードやICカードが使用されている。しかし、これらのカードでは、格納されている記録内容を直接目視することができないため、支払い金額や残高を簡単にチェックできず、使用者に対し、格納された情報の内容保証を明確にするといった観点からは問題があった。このような問題に対し、従来、これらのカードを記録媒体とし、該カード類に目視可能な記録を行い、また記録を消去し、更には格納される情報の変更に伴って当該記録を書き換えることができる方法の提案がされている(特許文献1〜3参照)。例えば、感熱記録材料において、その感熱記録層を可逆性感熱記録塗料で構成することで、該感熱記録層を、サーマルヘッド等の外部からの熱を加えた時に、その温度に応じて、透明な状態から白濁状態までの範囲でその光透過性を変化するものとし、一方、冷却後にはその状態が保持される性質を持つものにする技術がある。この技術を利用すれば、格納される情報内容が変更されることを前提とする上記したようなカード類にあって、その変更された内容を、随時、目視可能に表示することができるようになるので、極めて有用である。
【0003】
しかしながら、このような感熱記録層を構成する可逆性感熱記録材料は、画像形成及び消去を繰り返し行うと、サーマルヘッドなどによる度重なる圧力や加熱によって生じた可逆性感熱記録材料表面にキズや摩耗が生じ、画像形成ができなくなるという問題がある。そこで、感熱記録層の耐久性を向上させる目的で、耐熱性の保護層を設けることについての検討が行われている。例えば、感熱記録層の上に、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂よりなる保護層を設けたり、紫外線硬化樹脂や電子線硬化樹脂よりなる保護層を設けることが提案されている(特許文献4〜6参照)。しかし、保護層を形成しても、サーマルヘッドで削られた滓がサーマルヘッドに付着し、画像形成や消去が不十分となるといった問題がある。そのため、保護層に滑性を付与してヘッド滓の発生を防止するため、保護層の形成材料に、硬化性樹脂にシリコーンオイルを添加することや、硬化性シリコーン樹脂やシリコーン変性樹脂を使用することなどが検討されている(特許文献7〜9参照)。
【0004】
更に最近では、環境問題の高まりからこの環境対策に積極的に取り組むメーカーが多くなり、環境保全性に優れた材料を用いて製品を構成する動きがある。上記した可逆性感熱記録材料も例外ではなく、特にゴミ問題や森林破壊問題を背景に、今まで使い捨てられていた物を何度でも書き換え可能にできることから、従来の可逆性感熱記録材料に代替することで環境問題(エコ)の解決の一助となることが注目され、盛んに検討され、一部実用化されている。しかしながら、従来の可逆性感熱記録材料の原料は、そのほとんどが石油由来のものであり、本来の趣旨からすると現在の地球規模での環境保全性という面ではまだ不十分である。
【0005】
非特許文献1、2に見られるように、二酸化炭素を原料とするポリヒドロキシポリウレタン樹脂については以前から知られているが、その応用展開は進んでいないのが実情である。それは、従来から知られている上記の樹脂は、従来の同種系の高分子化合物(石化プラスチック)であるポリウレタン系樹脂に比べて特性面で明らかに劣るからである(特許文献10、11参照)。
【0006】
一方、増加の一途をたどる二酸化炭素の排出に起因すると考えられる地球の温暖化現象は、近年、世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な課題となっており、二酸化炭素を製造原料とできる技術は待望されている。更に枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっている。
【0007】
上記のような背景下、再び、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が見直されている。すなわち、この樹脂の原料である二酸化炭素は、容易に入手可能で、かつ、持続可能な炭素資源であり、更に、二酸化炭素を原料とするプラスチックは、温暖化、資源枯渇などの問題を解決する有効な手段であると言えるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−139784号公報
【特許文献2】特公平01−30638号公報
【特許文献3】特開平05−85047号公報
【特許文献4】特開平06−8626号公報
【特許文献5】特開平06−344672号公報
【特許文献6】特開平08−11433号公報
【特許文献7】特開2005−212362号公報
【特許文献8】特開2005−53124号公報
【特許文献9】特開平05−38881号公報
【特許文献10】米国特許第3,072,613号公報
【特許文献11】特開2000−319504号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(11),2765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下、感熱記録層を有する可逆性感熱記録材料の表面に、良好な耐熱性及び滑性が付与でき、サーマルヘッドなどの発熱体によって画像形成及び消去を何回繰り返しても、また、サーマルヘッドの熱及び圧力が高くても表面のキズ及びヘッド滓付着がなく、更に、表面に印刷する際の印刷適性が良好であると共に、地球規模での環境保全性を持った環境対応製品の可逆性感熱記録材料の開発が要望されている。
【0011】
したがって、本発明の目的は、耐熱性及び滑性に優れ、サーマルヘッドなどの発熱体によって画像形成及び消去を何回繰り返しても、また、熱及び圧力が高くても表面のキズ及びヘッド滓付着がない滑性保護層を有する可逆性感熱記録材料でありながら、二酸化炭素を原料とし得、地球環境保護の観点からも有用な、環境対応製品を提供し得る技術を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、基材及び該基材の少なくとも一方の面に設けられた、感熱記録層と、必要に応じて設ける中間層と、滑性保護層とをこの順に有する感熱記録材料において、上記感熱記録層が、高分子樹脂及び該高分子樹脂中に分散された有機低分子物質を主成分としてなる、透明度が温度によって可逆的に変化し得る可逆性感熱記録層であり、かつ、上記滑性保護層が、下記一般式(1)で表せる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導された、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分として含む樹脂組成物によって形成されていることを特徴とする可逆性感熱記録材料を提供する。
【0013】

該式中のR1は、炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、又はNの各元素による連結及び/又は−(C24O)b−による連結を有していてもよい)を表す。上記式(1)中のR2は、ないか、又は、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基又は芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【0014】
本発明の可逆性感熱記録材料の好ましい実施形態としては、下記のものが挙げられる。前記5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物が、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素との反応物であって、かつ、前記自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含んでなる可逆性感熱記録材料。前記自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、その分子中に占めるポリシロキサンセグメント含有量が、1〜75質量%である可逆性感熱記録材料。前記マスキングされたイソシアネート基は、有機ポリイソシアネート基とマスキング剤との反応生成物であって、熱処理することによりマスキングされた部分が解離されてイソシアネート基を生成し、自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基と反応して自己架橋するものである可逆性感熱記録材料。前記自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を変性剤によって変性してなるものである可逆性感熱記録材料。前記中間層が、印刷層、着色層、耐熱保護層からなる一層又は多層の組み合わせからなる可逆性感熱記録材料。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明によれば、滑性保護層を、自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を用いて形成することで、滑性と耐熱性に優れ、サーマルヘッド又は熱ロールなどの加熱及び圧力に強く、更にはサーマルヘッドによる表面のキズ及びヘッド滓の付着防止、及び印刷適性が良好な可逆性感熱記録材料が提供される。上記樹脂は、このように優れた可逆性感熱記録材料を提供できるものであると同時に、二酸化炭素を原料とし得、樹脂中に二酸化炭素を取り入れることができるので、地球温暖化ガス削減に寄与し得る環境対応製品としての可逆性感熱記録材料が提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
本発明の可逆性感熱記録材料は、基材の少なくとも一方の面に、透明度が温度によって可逆的に変化し得る感熱記録層と、必要に応じてその上に中間層が積層され、その最上層に滑性保護層を設けたものであり、該滑性保護層を下記の構成としたことを特徴とする。すなわち、該滑性保護層を構成する高分子化合物が、分子中にマスキングされたイソシアネート基を含有し、5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導された自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分としたことを特徴とする。
【0017】
該樹脂のマスキングされたイソシアネート基は、有機ポリイソシアネート基とマスキング剤との反応生成物であり、熱処理することによりマスキングされた部分が解離されてイソシアネート基を生成し、自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基と反応し自己架橋するものである。このため、該樹脂を用いることで、滑性と耐熱性に優れ、更にはサーマルヘッドによる表面のキズ及びヘッド滓付着防止、及び印刷適性が良好な滑性保護層を得ることができる。更に、本発明を特徴づける自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、特定の5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導された樹脂であり、該5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素との反応物として得ることができるため、環境保全性にも資する材料となり得る。
【0018】
〔自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂〕
本発明で使用する自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、少なくとも一個の遊離のイソシアネート基と、マスキングされたイソシアネート基とを有する変性剤を用い、該変性剤の遊離のイソシアネート基を、5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と反応させることで容易に得られる。この際に使用する変性剤としては、有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物を用いればよい。以下に、各成分について説明する。
【0019】
(変性剤)
<有機ポリイソシアネート化合物>
以下に、本発明を特徴づける自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を製造する際に使用する変性剤の構成成分について説明する。該変性剤としては、有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物が用いられる。上記有機ポリイソシアネート化合物は、脂肪族或いは芳香族化合物中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する有機化合物であって、従来からポリウレタン樹脂の合成原料として広く使用されている。これらの公知の有機ポリイソシアネート化合物はいずれも本発明において有用である。特に好適な有機ポリイソシアネート化合物を挙げれば、以下の通りである。
【0020】
例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートが挙げられる。更に、これらの有機ポリイソシアネート化合物と他の化合物との付加体、例えば下記構造式のものが挙げられるが、本発明は、これらに限定されない。
【0021】

【0022】
<マスキング剤>
本発明で使用する変性剤は、上記した有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物であるが、マスキング剤には下記のものが使用できる。例えば、アルコール系、フェノール系、活性メチレン系、酸アミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、ピリジン系化合物などマスキング剤があり、これらを単独あるいは混合して使用してもよい。具体的なマスキング剤としては、下記に挙げるようなものがある。
【0023】
アルコール系のものとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、メチルセロソルブ、シクロヘキサノールなどが挙げられる。フェノール系のものとしては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ノニルフェノールなどが挙げられる。活性メチレン系のものとしては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどが挙げられる。酸アミド系のものとしては、アセトアニリド、酢酸アミド、カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどが挙げられる。イミダゾール系のものとしては、イミダゾール、2−メチルイミダゾールなどが挙げられる。尿素系のものとしては、尿素、チオ尿素、エチレン尿素などが挙げられる。オキシム系のものとしては、ホルムアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどが挙げられる。ピリジン系のものとしては、2−ヒドロキシピリジン、2−ヒドロキシキノリンなどが挙げられる。
【0024】
<変性剤の合成方法>
上記に列挙したような有機ポリイソシアネート化合物と、上記に列挙したようなマスキング剤とを反応させて、本発明で用いる、少なくとも一個の遊離イソシアネート基と、マスキングされたイソシアネート基とを有する変性剤を合成する。合成方法は特に限定されないが、上記の如きマスキング剤と上記有機ポリイソシアネート化合物とを、1分子中でイソシアネート基が1個以上過剰になる官能基比で、有機溶媒及び触媒の存在下又は不存在下で、0〜150℃、好ましくは20〜80℃の温度で30分〜3時間反応させることによって容易に得ることができる。
【0025】
(ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂)
本発明の上記したような特定の変性剤によって変性されるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、特定の5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応により得られる。以下に、この際に用いる各成分について説明する。
【0026】
<5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物>
本発明で使用する前記した一般式(1)で表せる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、下記[式−A]で示されるように、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができる。更に詳しくは、エポキシ変性ポリシロキサン化合物を、有機溶媒の存在下又は不存在下、及び触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で、常圧又は僅かに高められた圧力下、10〜20時間二酸化炭素と反応させることによって得られる。

【0027】
本発明で使用するエポキシ変性ポリシロキサン化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。
【0028】

【0029】
以上列記したエポキシ変性ポリシロキサン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0030】
上記したようなエポキシ変性ポリシロキサン化合物と、二酸化炭素の反応において使用できる触媒としては、塩基触媒及びルイス酸触媒が挙げられる。
【0031】
塩基触媒として、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタン、ピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、などの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0032】
ルイス酸触媒としては、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0033】
上記触媒の量はエポキシ変性ポリシロキサン化合物、50質量部当たり、0.1〜100質量部、好ましくは0.3〜20質量部である。上記使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、100質量部を超えると最終樹脂の諸性能を低下させる場合があるので好ましくない。従って、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して除去する構成としてもよい。
【0034】
エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素の反応においては使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどの混合系で使用してもよい。
【0035】
<アミン化合物>
本発明で使用する樹脂は、下記[式−B]で示されるように、例えば、上記反応で得た5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物とを、有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得ることができる。
【0036】

【0037】
上記反応に使用するアミン化合物としては、例えば、ジアミンが好ましく、従来ポリウレタン樹脂の製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン、1,4’−ジアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;モノエタノールジアミン、エチルアミノエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアルカノールジアミンが挙げられる。更に、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0038】
(自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の合成)
本発明を特徴づける自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、それぞれ上述のようにして得られた、変性剤と、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂とを反応させることによって得られる。詳しくは、上記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と、該変性剤中の少なくとも一個の遊離したイソシアネート基が反応することによって得られる。
【0039】
本発明を特徴づける自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の、変性剤による変性率は、2〜60%であることが好ましい。変性率が2%未満であると、十分な架橋が起こらず、可逆性感熱記録材料の滑性保護層として用いた場合に、滑性や耐熱性などが不足するおそれがあるので好ましくない。一方で、変性率が60%を超えると、解離したイソシアネート基が反応せずに残存する可能性が増すおそれがあるので好ましくない。尚、変性率は下記のようにして算出する。
変性率(%)={1−(変性後の樹脂の水酸基÷変性前の樹脂の水酸基)}×100
【0040】
変性剤とポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂との反応は、有機溶媒及び触媒の存在下又は不存在下で、0〜150℃、好ましくは20〜80℃の温度で、30分〜3時間反応させることが好ましい。このような反応条件とすることで、目的とする樹脂を容易に得ることができる。但し、反応時にはマスキング剤の解離温度より低い温度で反応させる点に注意し、合成された自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有するものとなるようにする必要がある。
【0041】
本発明を特徴づける自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、樹脂中におけるポリシロキサンセグメントの占める割合が、樹脂分子中に占める該セグメントの含有量で1〜75質量%となるものであることが好ましい。すなわち、1質量%未満ではポリシロキサンセグメントに基づく表面エネルギーに伴う機能の発現が不十分となるので好ましくない。また、75質量%を超えるとポリヒドロキシウレタン樹脂の機械強度、耐磨耗性などの性能が不十分となるので好ましくはない。好ましくは2〜65質量%であり、更には5〜30質量%であることがより好ましい。
【0042】
また、本発明を特徴づける自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の数平均分子量(GPCで測定した標準ポリスチレン換算値)は、2,000〜100,000程度であることが好ましい。更には、5,000〜70,000程度のものであることがより好ましい。
【0043】
さらに、本発明を特徴づける自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その水酸基価が20〜300mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が十分に得られ難く、一方、上記範囲を超えると、高分子化合物としての諸物性が十分に得られないおそれがあるので好ましくない。
【0044】
〔滑性保護層〕
また、本発明を特徴づける上記樹脂によって滑性保護層を形成する際には、後述する各種中間層に対するコーティング適正や、成膜性の向上及びポリシロキサンセグメントの含有量を調整するなどの目的で、上記した自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂に加えて従来公知の各種バインダー樹脂を混合して使用することができる。この際に使用するバインダー樹脂としては、例えば、自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中のマスキング剤が解離して生成するポリイソシアネート基と化学的に反応し得るものが好ましいが、反応性を有していない樹脂であっても本発明では使用することができる。
【0045】
これらのバインダー樹脂としては、従来から一般に用いられているバインダー樹脂が使用でき、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などを使用することができる。また、各種樹脂をシリコーンやフッ素で変性した樹脂なども使用することができる。これらのバインター樹脂を併用する場合、その使用量は、本発明を特徴づける自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して5〜90質量部、より好ましくは10〜60質量部程度の範囲で用いるとよい。
【0046】
更に、滑性保護層の耐熱性や滑性を向上させるため、従来公知の有機滑剤、シリカ、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、各種樹脂架橋粒子などの微粒子を含有させることができる。
【0047】
本発明を特徴づける滑性保護層(皮膜)の形成方法は特に限定されない。例えば、上記した自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を適当な有機溶剤に溶解又は分散させ、これを、例えば、ワイヤーバー方式、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法などの形成手段により塗工し、その後、乾燥することで架橋皮膜として形成できる。この際の乾燥温度は、50〜140℃の範囲が好ましく、より好ましくは50〜100℃である。例えば、50〜100℃の温度で、数時間から数日間処理することによって、十分な架橋皮膜が形成される。また、上記のような方法で形成される滑性保護層の厚さは、例えば、0.01〜3.00μmが好ましく、特に0.1〜2.0μmが好ましい。
【0048】
〔基材〕
本発明の可逆性感熱記録材料は、上記したような構成の本発明を特徴づける滑性保護層を、基材の少なくとも一方の面に、後述する感熱記録層と、必要に応じて設けられる中間層を介して形成することによって得られる。この際に使用する基材としては、例えば、プラスチックフィルム、ガラス板、金属板、紙のような板状或いはシート状のものが使用でき、様々な厚さのものが可能である。また、それらの表面又は裏面に着色被覆層を設けたものや、着色顔料を混練したプラスチックフィルムなども、基材として利用できる。更には、プラスチックフィルムに金属蒸着などの反射層を設けたものも基材として使用可能である。
【0049】
〔感熱記録層〕
本発明の可逆性感熱記録材料を構成する感熱記録層は、高分子樹脂及び該高分子樹脂中に分散された有機低分子物質を主成分とし、透明度が温度によって可逆的に変化し得る可逆性感熱記録層である。本発明の可逆性感熱記録材料は、このような可逆性感熱記録層を有することにより、加熱によって繰り返し記録、消去を行うことができる。以下、可逆性感熱記録層を形成するための各成分について説明する。
【0050】
(高分子樹脂)
可逆性感熱記録層を構成する高分子樹脂は、後述する有機低分子物質を均一に分散保持した層を形成し得るものであり、透明性が高く、機械的に安定な樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−アクリレート共重合体などの塩化ビニル系共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体などの塩化ビニリデン系共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリレート又はポリメタクリレート或いはアクリレート−メタクリレート共重合体などが挙げられる。これらは単独で或いは2種以上混合して使用される。
【0051】
(有機低分子物質)
可逆性感熱記録層を構成する有機低分子物質は、上記の高分子樹脂中に粒子状に分散された状態で存在し、その粒径がおよそ0.1〜2μmの範囲に分布するものが好ましい。一般的にはワックス、あるいはロウと呼ばれ、室温においては固体状であり、炭素数10〜60程度の長鎖アルキル基を含む化合物、長鎖アルキル基からなる脂肪酸、アルコール、エステル、アミド、ケトン、エーテル、チオエーテル、或いはアミンが好ましい。
【0052】
具体的には、以下のものが挙げられる。ラウリン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ペンタデカン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、ヘンエイコサン酸、トリコサン酸、グリノセリン酸、ペンタコサン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ノナデカン酸、オレイン酸のような高級脂肪酸化合物;ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、C30アルコールのような高級アルコール化合物;ラウリン酸オクタデシル、パルチミン酸テトラデシル、ベヘン酸ドデシル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸テトラデシル、ステアリン酸オクタデシル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ベヘニル、ベヘニン酸ベヘニル、モンタン酸ベヘニル、ステアリン酸C30アルコールエステル、ベヘニン酸C30アルコールエステルのような高級脂肪酸エステル化合物;パルチミン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−オレイルパルチミン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミドのようなアミド化合物;ジステアリルケトン、ジベヘニルケトンのようなケトン化合物が挙げられる。
【0053】
更には、下記のような高級脂肪族エーテル、高級脂肪族チオエーテル、或いは高級脂肪族アミンなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。例えば、C1633−O−C1633、C1633−S−C1633、C1837−S−C1837、C1225−S−C1225、C1939−S−C1939、C1225−S−S−C1225、C1123−OCO−CH2CH2−O−CH2CH2−OCO−C1123、C1735−OCO−CH2CH2−O−CH2CH2−OCO−1735、C1225−OCO−CH2CH2−S−CH2CH2−OCO−C1225、C1837−OCO−CH2CH2−S−CH2CH2−OCO−C1837、C1837−OCO−CH2CH2−NH−CH2CH2−OCO−C1837などが挙げられる。これら長鎖アルキル基含有化合物は、単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用することもできる。
【0054】
また、可逆性感熱記録層は、前記有機低分子物質(以下、これを低融点有機低分子物質という場合がある)に加えて、更にそれよりも融点の高い有機低分子物質(以下、これを高融点有機低分子物質という場合がある)を添加することで、透明化する温度の幅を広げることもできる。この高融点有機低分子物質としては、融点が80℃〜180℃の物質が好ましく、特に、90℃〜160℃の範囲に融点を有する飽和脂肪族ビスアミドや飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0055】
本発明で使用し得る具体的な高融点有機低分子物質としては、以下のものが挙げられる。例えば、飽和脂肪族ビスアミドとしては、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、N,N−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N−ジステアリルエイコサンジ酸アミド、N,N−ジステアリルセバシンジ酸アミド、N,N−ジラウリルドデカンジ酸アミド、N,N−ジステアリルドデカンジ酸アミドなどが挙げられる。また、飽和脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピロリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジ酸、ドデカンジ酸、トリデカンジ酸、テトラデカンジ酸、ペンタデカンジ酸、ヘキサデカンジ酸、ペプタデカンジ酸、オクタデカンジ酸、ノナデカンジ酸、エイコサンジ酸などがある。
【0056】
しかしながら、これらに限定されるものではなく、前記以外のビスアミド、ジカルボン酸、飽和脂肪酸モノアミド、メチロール酸アミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミドなどの高融点有機低分子物質が使用できる。これら高融点有機低分子物質は、1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0057】
有機低分子物質として、上記低融点有機低分子物質と高融点有機低分子物質とを用いる場合の配合割合は、質量比で99:1〜45:55の範囲であることが好ましい。この範囲外では透明化温度幅の拡大効果が得られないだけでなく、透明化状態と白濁化状態のコントラスト不足となるので好ましくない。
【0058】
更に、可逆性感熱記録層の形成材料には、必要に応じて、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、分散剤、安定剤、界面活性剤、無機あるいは有機の充填剤などを配合してもよい。
【0059】
可逆性感熱記録層の膜厚は、通常1〜40μmであり、好ましくは2〜20μmである。感熱記録層が厚すぎると層内での熱の分布が発生し好ましくない。一方、感熱記録層がこれより薄いと白濁度が低下してしまい、コントラストが低下してしまうため好ましくない。
【0060】
〔中間層〕
また、本発明の可逆性感熱記録材料には、必要に応じて各種中間層を設けることができる。該中間層は、一層であっても多層の組み合わせからなるものであってもよく、本発明の効果の範囲内であれば、必要に応じて、適宜設けることができる。具体的には、例えば、意匠性を目的とした印刷層や着色層、更には耐熱保護層などを設けることができる。印刷層や着色層は従来公知の材料が使用でき、また、耐熱保護層に使用する材料としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂や、UV硬化型樹脂、EB硬化型樹脂が挙げられる。
【0061】
〔その他の層〕
更に、本発明の効果の範囲内であれば、基材と感熱記録層の間に、情報を記録する磁気記録層や、感熱記録層の透明化状態と白濁化状態とのコントラストを向上させるため、基材上に金属蒸着などの反射層を設けることもできる。更には基材及び感熱記録層や各種中間層の接着性を高める接着層を設けることもできる。
【0062】
本発明の可逆性感熱記録材料は、基材の少なくとも一方の面に設けた、その最上層となる滑性保護層を形成するための樹脂組成物に、特有の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が用いられているので、該樹脂のポリシロキサンセグメントが保護層表面に配向する。このため、形成された滑性保護層に、該ポリシロキサンセグメントの持つ耐熱性、滑り性、サーマルヘッドへの非粘着性が付与されることとなる。また、本発明で使用する樹脂を形成する5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、二酸化炭素を製造原料とすることで、樹脂中に二酸化炭素を取り入れることができる。このため、本発明によって、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素の削減の観点からも有用な、従来品では到達できなかった環境対応材料製品としての可逆性感熱記録材料の提供が可能になる。
【実施例】
【0063】
次に、具体的な製造例、重合例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。又、以下の各例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0064】
<製造例1>(変性剤の製造)
トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物[コロネートHL(商品名)、日本ポリウレタン社製、NCO=12.9%、固形分75%]100部、酢酸エチル24.5部を、100℃でよく攪拌しながら、ε−カプロラクタム25.5部を添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトル(測定装置は、堀場製作所製のFT−720。以下同様)によれば、2,270cm-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.1%であるのに対し、実測値は1.8%であった。上記の変性剤の主たる構造は、下記式と推定される。
【0065】

【0066】
<製造例2>(変性剤の製造)
ヘキサメチレンジイソシアネートと水の付加体[ジュラネート24A−100(商品名)、旭化成社製、NCO=23.0%]100部と、酢酸エチルとを80℃でよく攪拌しながら、メチルエチルケトオキシム32部を添加し5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトルによれば、2,270cm-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.9%であるのに対し、実測値は2.6%であった。上記の変性剤の主たる構造は、下記式と推定される。
【0067】

【0068】
<製造例3>(変性剤の製造)
トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネート3量体付加物[コロネートL(商品名)、日本ポリウレタン社製、NCO=12.5%、固形分75%]100部、酢酸エチル67.3部を80℃でよく攪拌しながら、メチルエチルケトオキシム17.3部を添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトルによれば、2,270cm-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.3%であるのに対し、実測値は2.0%であった。上記の変性剤の主たる構造は、下記式と推定される。
【0069】

【0070】
<製造例4>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ変性ポリシロキサン[信越化学工業(株)、X−22−163;エポキシ当量198g/mol]100部、N−メチルピロリドン100部、ヨウ化ナトリウム1.2部を加え均一に溶解させた後、炭酸ガスを0.5リッター/分の速度でバブリングしながら、80℃で30時間加熱攪拌させた。
【0071】

【0072】
反応終了後、得られた溶液に100部のn−ヘキサンを加えて希釈した後、分液ロートにて80部の純水で3回洗浄し、N−メチルピロリドン及びヨウ化ナトリウムを除去した。その後、n−ヘキサン液を硫酸マグネシウムで脱水後、濃縮し、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−A)92部(収率89.7%)を得た。
【0073】
得られた生成物(1−A)の赤外吸収スペクトルでは、1,800cm-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。また、生成物の数平均分子量は2,450(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−A)中には、18.1%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0074】
<製造例5>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
製造例4で用いた2価エポキシ変性ポリシロキサンAの代わりに、下記式Bで示される2価エポキシ変性ポリシロキサンB(信越化学工業(株)、KF−105;エポキシ当量485g/mol)を使い、これ以外は製造例4と同様に反応させ、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−B)99部(収率91%)を得た。得られた生成物を、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。
得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−B)中には、8.3%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0075】

【0076】
<重合例1>(自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに製造例4で得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物100部を、固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に、ヘキサメチレンジアミンを23.9部加え、90℃の温度で10時間攪拌し、ヘキサメチレンジアミンが確認できなくなるまで反応させた。次に、製造例1で得た変性剤を20部(固形分50%)添加し、90℃で3時間反応させた。赤外吸収スペクトルによるイソシアネート基の吸収が消失したことを確認し、本発明の実施例で使用する自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0077】
<重合例2〜4>(自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
以下、重合例1と同様に、5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物、ポリアミン化合物、変性剤を組み合わせて、重合例1と同様の方法で反応させて、表1に記載の重合例2〜4の、本発明の実施例で使用する自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0078】
<比較重合例1>(ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
製造例1で得た変性剤を使用しない以外は重合例1と同様にして、比較例で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0079】

【0080】
<比較重合例2>(ポリエステルポリウレタン樹脂)
下記のようにして、比較例で用いるポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と1,4−ブタンジオール15部とを、200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解した。その後、60℃でよく攪拌しながら62部の水添加MDI(メチレンビス(1,4−シクロヘキサン)−ジイソシアネート)を171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは破断強度45MPaで破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0081】
<比較重合例3>(ポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂)
下記のようにして、比較例で用いるポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂をジオールとアミンから合成した。下記式(C)で表され、且つ平均分子量が約3,200であるポリジメチルシロキサンジオール150部及び1,4−ブタンジオール10部を、200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶媒を加え、また、40部の水添加MDIを120部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は、固形分35%で1.6MPa・s(25℃)の粘度を有し、この溶液から得られたフィルムは破断強度21MPaで破断伸度250%を有し、熱軟化温度は135℃であった。
【0082】

【0083】
<実施例1〜4及び比較例1〜3>
上記重合例及び比較重合例で得た樹脂溶液(固形分35%)をそれぞれ用いて、下記の方法で、基材上に、感熱記録層、耐熱保護層(中間層)、滑性保護層をこの順で形成し、実施例及び比較例の可逆性感熱記録材料を作成した。基材として、188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に0.1μm厚のアルミ層を真空蒸着法により形成した金属反射基材を用いた。
【0084】
(感熱記録層の形成)
下記配合の溶液を調製し、上記した基材上にワイヤーバーを用いて塗布した後、140℃にて4分間加熱乾燥して、厚みが12μmの、透明度が温度によって可逆的に変化し得る可逆性感熱記録層を形成した。
(感熱記録層塗料組成;透明化温度範囲=75〜108℃)
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学製) 30部
ベヘン酸 7部
セバシン酸 6部
フタル酸ジ−2エチルヘキシル 3部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン、コロネートHL) 2部
テトラヒドロフラン 100部
エチレングリコールモノエチルエーテル 70部
【0085】
(耐熱保護層の形成)
上記で形成した感熱記録層の上に、下記のようにして中間層である耐熱保護層を形成した。具体的には、アクリル系紫外線硬化樹脂(大日精化工業社製)を、感熱記録層の上に乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布した後、紫外線を500mJ/cm2照射して、耐熱保護層を形成した。
【0086】
(滑性保護層の形成)
重合例1〜4及び比較重合例1〜3で調製した樹脂溶液(固形分35%)をそれぞれ用い、下記のようにして、上記で感熱記録層及び耐熱保護層を形成した金属反射基板の最上層として、滑性保護層を形成した。具体的には、先ず、所望する厚みの皮膜が形成できるように、上記各樹脂溶液を溶剤(テトラヒドロフラン)で希釈して、樹脂組成物をそれぞれ得た。表2に示したように、比較重合例の樹脂溶液については架橋剤を外添した。上記のようにして調製した樹脂組成物を用い、乾燥後の厚みが1.0μmになるようにワイヤーバーにより塗布し、乾燥機中で乾燥して架橋させて、基材の最上層に滑性保護層を形成し、実施例1〜4及び比較例1〜3の可逆性感熱記録材料を得た。
【0087】

【0088】
<評価>
上記で得た実施例1〜4及び比較例1〜3の各可逆性感熱記録材料に対して、ライン型サーマルヘッド(8dot/mm)を用いて画像形成を行い、熱板圧着方式(熱板温度;100〜105℃)にて画像消去する操作を100回繰り返して実装試験を行った。そして、以下のようにして各特性を評価し、結果をそれぞれ表3に示した。
【0089】
(スティッキング性)
上記の条件にて印字試験を行った際の、サーマルヘッドとの間の押圧操作時における、可逆性感熱記録材料のサーマルヘッドからの離脱性を目視で観察し、評価した。評価基準は、最も離脱性の良いものを5とし、最も離脱性の悪いものを1とし、5段階にて相対的に評価した。
【0090】
(ヘッド汚染)
上記条件で実装試験に供したサーマルヘッドの汚れの状態を、光学顕微鏡で観測し、評価した。その際、最も汚れの少ないものを5とし、最も汚れのひどいものを1とし、5段階で相対的に評価を行った。
【0091】
(表面キズ)
上記試験後の各可逆性感熱記録材料表面のキズの有無を目視にて観察し、下記の基準で判定した。
○;キズなし
△;ややキズあり
×;キズあり
【0092】
(静止摩擦係数)
実施例及び比較例の可逆性感熱記録材料の表面の静止摩擦係数をそれぞれ、表面性試験機(新東科学製)で測定し、評価した。
【0093】
(画像劣化)
初期における可逆性感熱記録材料の白濁濃度と、上記で行った100回繰り返しの実装試験後に画像を消去した際における可逆性感熱記録材料の白濁濃度との差を、マクベス反射濃度計(RD−914)でそれぞれ測定し、その差を表3に示した。この差が大きいほど、劣化が大きいことを示している。
【0094】
(環境対応性)
実施例及び比較例の可逆性感熱記録材料の「滑性保護層」の形成材料の各樹脂中における二酸化炭素の固定化の有無を、○×で評価した。
【0095】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、基材の一方の面の最上層に自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする滑性保護層を形成することで、滑性と耐熱性を付与し、サーマルヘッド又は熱ロールなどの加熱及び圧力に強く、更にはサーマルヘッドによる表面のキズ及びヘッド滓の付着防止、及び印刷適性が良好な可逆性感熱記録材料を提供されるので、これを利用することで、文字や画像の書き換えが長期にわたって良好に行えるようになる。当該材料を、格納された情報が随時変更されるICカード類などに適用することで、内容保障のための表示を繰り返し良好な状態で行うことができるようになるため、使い捨てによる問題が抑制されるので、その活用が期待される。また、本発明で使用する自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、二酸化炭素を製造原料に利用することができるため、本発明によれば、地球温暖化ガスとされている二酸化炭素削減に寄与し得る地球環境対応製品としての可逆性感熱記録材料の提供が可能となり、この点でも環境保全に資する技術として期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び該基材の少なくとも一方の面に設けられた、感熱記録層と、必要に応じて設ける中間層と、滑性保護層とをこの順に有する感熱記録材料において、
上記感熱記録層が、高分子樹脂及び該高分子樹脂中に分散された有機低分子物質を主成分としてなる、透明度が温度によって可逆的に変化し得る可逆性感熱記録層であり、かつ、
上記滑性保護層が、下記一般式(1)で表せる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導された、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分として含む樹脂組成物によって形成されていることを特徴とする可逆性感熱記録材料。

該式中のR1は、炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、又はNの各元素による連結及び/又は−(C24O)b−による連結を有していてもよい)を表す。上記式(1)中のR2は、ないか、又は、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基又は芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【請求項2】
前記5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物が、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素との反応物であって、かつ、前記自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含んでなる請求項1に記載の可逆性感熱記録材料。
【請求項3】
前記自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その分子中に占めるポリシロキサンセグメント含有量が、1〜75質量%のものである請求項1又は2に記載の可逆性感熱記録材料。
【請求項4】
前記マスキングされたイソシアネート基は、有機ポリイソシアネート基とマスキング剤との反応生成物であって、熱処理することによりマスキングされた部分が解離されてイソシアネート基を生成し、自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基と反応して自己架橋するものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の可逆性感熱記録材料。
【請求項5】
前記自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を変性剤によって変性してなるものである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の可逆性感熱記録材料。
【請求項6】
前記中間層が、印刷層、着色層、耐熱保護層からなる一層又は多層の組み合わせからなる請求項1乃至5のいずれか1項に記載の可逆性感熱記録材料。

【公開番号】特開2013−43398(P2013−43398A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183655(P2011−183655)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】