説明

可食性ゼリー状組成物、ゼリー状製剤及びゼリー状製剤の製造方法

【課題】水を含まないものでありながら、嚥下しやすいゼリー状であり、かつ、口腔内で溶解する可食性ゼリー状組成物、該可食性ゼリー状組成物を用いてなるゼリー状製剤及びゼリー状製剤の製造方法を提供する。
【解決手段】水難溶性ゼラチンのへリックス構造を変化させてなるランダムコイル構造を有するゼラチンと不揮発性有機溶媒とを含み、水を含まずに、ゲル化されていることを特徴とする可食性ゼリー状組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、該ゼラチンと相溶する不揮発性有機溶媒によりゲル化された可食性ゼリー状組成物、ゼリー状製剤及び該ゼリー状製剤の製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
現在、経口的に投与される薬剤としては、裸錠剤、被覆錠剤、カプセル、散剤、顆粒剤、液剤などが市場に出されている。口腔内で崩壊し、消化管で吸収される製剤としては、口腔内崩壊錠、速溶解型口腔内フィルムが既に市場に出されており、口腔内で噛まずに唾液のみで崩壊又は溶解させて服用するような患者及び介護者のベネフィットを向上させるような剤形が注目を浴びている。
高齢者人口の増加に伴い、飲食物の摂取に障害を有する、いわゆる咀嚼・嚥下困難な患者が増加しているという背景があり、また、「高齢者に投与最適な新規製剤および新規包装容器の作成研究」という1988年杉原正泰らが報告した旧厚生省(現厚生労働省)シルバーサイエンス研究報告によると、将来希望する医薬品の剤形として半固形製剤(ゼリー、ヨーグルト、プリン)が挙げられている。
当該背景もあり、近年、医薬品を含有するゼリー状製剤の開発が進められており、既に本邦においても数種類の製品が販売されている。
しかし、これらのゼリー状製剤はすべて、スプーン等で服用するポーションタイプであったり、袋から押し出して服用するピロー包装タイプであった。また、当該ゼリー状製剤自体が口腔内で溶解するタイプではなく、嚥下時の物理的力により容易に拡散するというタイプであった。
【0003】
また、例えば、水を含むゼリー型の剤形としては、例えば、カラギーナン、ローカストビーンガム、ポリアクリル酸又はその部分中和物もしくは塩とを含有するゼリー製剤(特許文献1)、ゼリー基剤とアルカリ塩類から成る医薬用ゼリー組成物(特許文献2)、カラギーナンとグァーガムとポリアクリル酸又はその部分中和物もしくは塩とを含有する医薬用ゼリー組成物(特許文献3)が開示されている。
しかし、これらゼリー状製剤は、高温(60〜100℃程度)の熱可逆性ゲル化剤を用いたもの、又は、ゲル化剤を架橋することにより不可逆性ゲル化剤を用いたものであり、ゼリー状製剤自体が口腔内で溶解するタイプのものではなく、嚥下時の物理的力により容易に拡散するというタイプのものである。また、これら従来のゼリー状製剤は、調製時に高温を必要とするか、又は、架橋剤として金属塩を用いるために、特に熱安定性が悪い薬剤や、金属塩との相互作用が高いタンパク質やペプチドを含有させる場合には、その安定性が問題となる恐れがあった。
【0004】
また、これら従来のゼリー状製剤は、すべて水によりゲル化された製剤であり、更にゲル化剤として天然多糖類、添加剤として糖類を含むため、カビ等の菌類の発生がし易く、製造工程中において加熱滅菌等が必須となり、更に防腐剤の添加が必要となる問題点があった。また、水を多量に含むため、腎臓病や心臓病に代表される水分制限が必要な患者に投与することが難しいという問題点もあり、更に、水が組成物の中から包装材料を透過し揮発するため、保管安定性上、透湿性が高い高価な包装材料が必要となる問題点があった。
このような問題点に対して、水を含まない乾燥型のフィルム状の剤形で、唾液でゲル化する製剤としては、例えば、架橋化カルボキシビニルポリマーを用いた水膨潤性ゲル形成層と薬物含有層を有する製剤(特許文献4)が開示されている。
【0005】
しかしながら、このようなフィルム形状の製剤は、水溶性ポリマーを用いて口腔内にて溶解させる又は膨潤させるためには、ある程度の唾液量を必要とし、嚥下困難な患者によっては、溶解に長期間を要する可能性があった。また、水分を吸収しやすいため、口腔粘膜に付着し易く違和感を覚えやすいという欠点があった。特に口腔内溶解型のフィルム製剤の場合には、その溶解性とフィルムの厚み、サイズには相関関係があり、結果として100mgを超えるような薬物量を含有させることは難しかった。製造方法に関しても、このようなフィルム形状の製剤は、水溶性ポリマーを溶媒として水を用いて溶解させ、この中に薬物を溶解させ、加熱乾燥することにより調製することが開示されており、特に熱に弱い薬物の場合には、加熱により薬物含量の低下が懸念される。また、薬物が液状である場合には、フィルム状の製剤が溶解することが懸念されるので、一定の形状を維持することが困難となる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−187233号公報
【特許文献2】特開2004−99558号公報
【特許文献3】特開2004−99559号公報
【特許文献4】特許第4267926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記現状に鑑み、本発明は、水を含まないものでありながら、嚥下しやすいゼリー状であり、かつ、口腔内で溶解する可食性ゼリー状組成物、該可食性ゼリー状組成物を用いてなるゼリー状製剤及びゼリー状製剤の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、常温ではゲル化して個体状態を維持し、体温で容易に溶解する特定の構造を有するゼラチンを基材として用い、当該ゼラチンを該ゼラチンと相溶する不揮発性有機溶媒により水を用いずにゲル化させることにより、製造工程上の滅菌を考慮する必要がなく、更に保管安定性上問題となる透湿性もまた考慮する必要がなく、更にその性状特性から、舌下投与も含む口腔内及び経口経由での食品及び医薬品の投与に適した可食性ゼリー状組成物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、水難溶性ゼラチンのへリックス構造を変化させてなるランダムコイル構造を有するゼラチンと、該ゼラチンと相溶する不揮発性有機溶媒とを含み、水を含まないことを特徴とする可食性ゼリー状組成物である。
本発明の可食性ゼリー状組成物において、上記ランダムコイル構造を有するゼラチンは、水難溶性ゼラチンを水に溶解させて凍結乾燥又は噴霧乾燥させることによりランダムコイル構造化されたものであることが好ましい。
また、上記不揮発性有機溶媒は、分子中に2〜4個のOH基を有する、炭素数4以下の多価アルコールであることが好ましい。
また、本発明の可食性ゼリー状組成物は、上記ランダムコイル構造を有するゼラチンの配合量が、組成物の全重量基準で0.1〜40重量%であることが好ましい。
また、上記不揮発性有機溶媒の配合量が、組成物の全重量基準で10〜99重量%であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、本発明の可食性ゼリー状組成物に、薬物を更に含むことを特徴とするゼリー状製剤である。
また、本発明は、水難溶性ゼラチンを水に溶解させたゼラチン溶解液を、凍結乾燥又は噴霧乾燥させてランダムコイル構造を有するゼラチンを得る工程、上記ランダムコイル構造を有するゼラチンに、該ゼラチンと相溶する不揮発性有機溶媒と薬物とを混合し、ゼラチン溶液を調製する工程、上記ゼラチン溶液を分注又は延伸する工程、及び、放冷又は冷却により固化させる工程を含むことを特徴とするゼリー状製剤の製造方法である。
また、本発明は、水難溶性ゼラチン、水、上記水難溶性ゼラチンと相溶する不揮発性有機溶媒、及び、薬物を混合しゼラチン混合液を調製する工程、上記ゼラチン混合液を加熱し、上記水難溶性ゼラチンを溶解させてゼラチン溶液を調製する工程、上記ゼラチン溶液を分注又は延伸する工程、含有する水を乾燥させる工程、及び、放冷又は冷却により固化させる工程を含むことを特徴とするゼリー状製剤の製造方法でもある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の可食性ゼリー状組成物は、ゼラチンと該ゼラチンと相溶する不揮発性有機溶媒とを含み、水を含まずに、ゲル化されたものである。
本発明の可食性ゼリー状組成物の形状としては特に限定されず、そのゼリー強度及び使用用途により最適な形状が異なる。例えば、患者や被介護者自身が服用するゼリー状製剤として用いる場合には、可食性ゼリー状組成物に充分自立できる強度を持たせ、錠剤やフィルム、シート状であることが好ましい。特に口腔内における溶解性の観点からは、フィルム及びシート状の形状が好ましく、この場合、厚みは30〜5000μmであることが好ましい。厚みが30μm未満であると、フィルム強度及び製品の取り扱い性の観点から問題となる可能性があり、5000μmを超えると、口腔内、特に舌下への投与した場合、違和感を覚える恐れがある。
【0012】
また、本発明の可食性ゼリー状組成物を、シート形状の製剤として用いる場合のサイズとしては特に限定されないが、平面面積は、0.5〜6.0cmの範囲内が好ましい。0.5cm未満であると、製剤を摘まんで投与する際に取り扱いが難しくなる恐れがあり、6.0cmを超えると、投与時に口腔内、特に舌下へ投与した場合に完全に入れることができない恐れがある。
また、上記シート形状の製剤の平面形状は特に限定されず、例えば、長方形、正方形などの矩形、5角形などの多角形、円形、楕円形等、任意の形状が挙げられる。ここにいう多角形は、完全な多角形のほか、若干、角部にRを有する形状も含む。
なお、患者が自分で服用できず、医療従事者及び介護者が投与する場合には、可食性ゼリー状組成物の強度を柔らかくし、スプーン等で服用を補助できるカップ包装やピロー包装するような形状もまた望ましい。
【0013】
本発明の可食性ゼリー状組成物において、基材となる材料としてはゼリー状形成能を有し、可食性であることからゼラチンを用いる。上記ゼラチンを含むことで、本発明の可食性ゼリー状組成物を、常温ではゲル化させ、口腔内の体温で容易に溶解させることができる。
また、上記ゼラチンは、熱可逆性ゲル化剤の中では最も低温でゲル化を起こすことが可能であるため、常温〜40℃付近の温度で、本発明の可食性ゼリー状組成物を用いた製剤を製造することができ、熱安定性が低い薬物の上記製剤を製造する時の安定性を確保することができる。
なお、本明細書において、「可食性」とは、経口的に投与可能であり、製剤学的に許容されるものであることを意味する。
【0014】
上記ゼラチンは、水難溶性ゼラチンのへリックス構造を変化させてなるランダムコイル構造を有するものである。
上記ゼラチンの原料がヘリックス構造をとる水難溶性ゼラチンであっても、本発明の可食性ゼリー状組成物は、調製する際に原料調合物を加熱する必要性がないことから、安定に製造することができる。また、上記水難溶性ゼラチンは、ゼリー化させた場合、ゼリー強度が高い。当該観点から、上記ゼラチンは、なかでも、常温の水に溶解し難い水難溶性ゼラチンと呼ばれるグレードのものを原料に用いることが好ましい。
なお、本明細書において、「水難溶性ゼラチン」とは、1gのゼラチンサンプルを溶かすために、40℃で1000mL以上の水を必要とするゼラチンを意味する。また、「ランダムコイル構造を有するゼラチン」とは、ヘリックス構造をとる水難溶性ゼラチンが1本鎖状態で固形化されたものを意味するが、部分的であればヘリックス構造を取っていても構わない。
このようなランダムコイル構造を有するゼラチンは、水難溶性ゼラチンを水に溶解させて凍結乾燥又は噴霧乾燥させることによりランダムコイル構造化されたものが好適に用いられる。
【0015】
更に、本発明の可食性ゼリー状組成物では、上記ゼラチンとしては、10重量%のゼラチンの水溶液が32℃でゲル化せず、5℃付近ではゲル化するゼラチンであればよく、ランダムコイル構造を有するゼラチンではなくとも、分子量及びゼラチン中のヒドロキシプロリン含有量によっては、充分に使用可能なグレードも存在するからである。
【0016】
また、本発明の可食性ゼリー状組成物に含まれる上記ゼラチンとしては、動物の皮や骨に含まれるタンパク質を酵素によって分解抽出したものであり、豚、牛及び魚由来のものを、酸処理及びアルカリ処理したいずれのものでも使用できる。
上記ゼラチンとしては、製造時に常温で調製可能であり、本発明の可食性ゼリー状組成物をゼリー状製剤に使用した場合、熱に弱い薬物の製造時における安定性の観点から、魚又は豚由来のゼラチンが好ましい。かかる観点から、上記ゼラチンは、平均分子量が9万を超えるものであれば、アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量が5.2〜9.2モル%のものであればよい。このようなゼラチンとしては、魚由来のゼラチンが挙げられ、例えば、サケ由来ゼラチン(アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量:5.4モル%)、コイ由来ゼラチン(アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量:7.6モル%)、ティラピア由来ゼラチン(アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量:8.0モル%)が挙げられ、ティラピア由来ゼラチンが特に好ましい。
【0017】
ここで、上記アミノ酸組成は、ゼラチンを加水分解した後にイオン交換クロマトグラフ法により分離し、ニンヒドリンにより検出する分析により得られる。
なお、上記方法により得られるアミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量(モル%)の具体例としては、例えば、以下のとおりである。
ニワトリ:10.8モル%
ダチョウ:10.4モル%
マウス:8.7モル%
ブタ:9.4モル%
ウシ:9.5モル%
【0018】
また、上記ゼラチンとしては、平均分子量が5万〜9万のものであれば、アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量に関わらず好ましいゼラチンである。
ここで、本明細書において「平均分子量」とは、重量平均分子量を意味し、ゲル濾過クロマトグラフ分析により測定される。
更に、ここにいう平均分子量は、ゼラチンのポリペプチド鎖3量体の分子量ではなく、それぞれのポリペプチド鎖単量体の分子量を意味する。
【0019】
本発明の可食性ゼリー状組成物において、上記ゼラチンの含有量は、本発明の可食性ゼリー状組成物の全重量に基づいて、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは3.5〜30重量%、更に好ましくは5〜10重量%である。2重量%未満であると、常温ではゲル化しない可能性があり、一方、40重量%を超えると、口腔内での溶解性が極めて遅くなり、使用上問題となる恐れがある。
【0020】
上記不揮発性有機溶媒は、本発明の可食性ゼリー状組成物の溶解を補助する作用を有する。本発明の可食性ゼリー状組成物中の不揮発性有機溶媒含有量を制御することで、本発明の可食性ゼリー状組成物の溶解時間を容易に制御することができる。従って、本発明の可食性ゼリー状組成物は、口腔内で溶解し服用する場合にも、口腔内、特に舌下においてゆっくりと溶解させ薬物を除法させる場合の双方において適する。
本発明の可食性ゼリー状組成物の全重量に基づいて、上記不揮発性有機溶媒の含有量は、好ましくは10〜99重量%、より好ましくは20〜80重量%である。10重量%未満であると、口腔内での溶解性が極めて悪くなり、使用上問題となる可能性があり、一方、99重量%を超えると、常温での保形性等の物性面の保管安定性が悪くなる恐れがある。
【0021】
上記不揮発性有機溶媒としては、該ゼラチンと相溶し、可食性である限り特に限定されないが、分子中に2〜4個のOH基を有する、炭素数4以下の多価アルコールが好適に用いられる。上記多価アルコールの分子中のOH基が2個未満であると、ゼラチンと相溶性が悪くなることがあり、一方、上記多価アルコールの分子中のOH基が4個を超えると、融点が上昇し、常温では固体となり溶媒としての使用が難しくなることがある。
また、上記多価アルコールの炭素数が4を超えると、ゼラチンとの相溶性が悪くとなることがある。
【0022】
このような多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール及びエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種が好適に挙げられる。上記不揮発性有機溶媒は、1種又は2種以上組み合わせて用いられる。なかでも、本発明の可食性ゼリー状組成物中に多量に含まれた場合、ヒトに投与するための安全性の観点から、グリセリン及び/又はプロピレングリコールが好ましい。
【0023】
また、本発明の可食性ゼリー状組成物は、水を含まない。
本発明の可食性ゼリー状組成物が水を含まないことで、一般的な可食性ゼリー状組成物では必要な滅菌工程や防腐剤の添加が不必要となり、製造コスト面でのメリットがあり、また、水分制限が必要な患者の為の栄養補助食及び医薬品の剤形へ適用する場合にも適している。
なお、本明細書において「水を含まない」は、実質的に水を含まない場合を含み、例えば、本発明の可食性ゼリー状組成物の全重量基準で、水の含有量が5重量%以下、好ましくは2.5重量%以下、より好ましくは1重量%以下であることを意味する。
【0024】
本発明の可食性ゼリー状組成物は、消泡剤を含有していてもよい。
上記消泡剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
上記ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、ヤシ油脂肪酸ソルビタン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
また、上記ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖混合脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の可食性ゼリー状組成物は、該可食性ゼリー状組成物の基材を構成する成分として、上記の物質以外に、所望により香料、嬌味剤、甘味剤、着色剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、界面活性剤等を適宜使用してもよい。
【0026】
本発明の可食性ゼリー状組成物は、物性及び溶解性を向上させる添加剤を含有していてもよい。
上記添加剤としては、例えば、以下に示すような単糖、二糖、三〜六糖の糖又はこれらの糖アルコールが挙げられる。
単糖類としては、例えば、エリスロース、スレオース等のアルドテトロース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース等のアルドペントース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース等のアルドヘキトース、エリスルロース等のケトテトロース、キシルロース、リブロース等のケトペントース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のケトヘキソース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、トレハロース、コージビオース、ニゲロース、マルトース、イソマルトース等のα−ジグルコシド、イソトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース等のβ−ジグルコシド、ネオトレハロース等のα,β−ジグルコシドの他、ラクトース、スクロース、イソマルツロース(パラチノース)等が挙げられる。三糖類としては、例えば、ラフィノース等が挙げられる。三糖〜六糖のオリゴ糖としては、例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、オリゴグルコサミン、デキストリン、シクロデキストリン等の環状オリゴ糖等が挙げられる。
【0027】
また、単糖のアルコールとしては、例えば、エリスリトール、D−スレイトール、L−スレイトール等のテトリトール、D−アラビニトール、キシリトール等のペンチトール、D−イジトール、ガラクチトール(ダルシトール)、D−グルシトール(ソルビトール)、マンニトール等のヘキシトール、イノシトール等のシクリトール等が挙げられる。また、二糖のアルコールとしては、例えば、マルチトール、ラクチトール、還元パラチノース(イソマルト)等が挙げられ、オリゴ糖のアルコールとしては、ペンタエリスリトール、還元麦芽糖水飴等が挙げられる。
本発明の可食性ゼリー状組成物において、上記糖又は糖アルコールが置換されていてもよく、また、1種で又は2種以上混合して用いることもできる。
【0028】
上記糖又は糖アルコールは、本発明の可食性ゼリー状組成物を用いたシート形状の製剤が口腔内で容易に溶解する観点また製造工程において大きく溶液の粘性を変化させないという観点から、単糖類〜三糖類又はこれらの糖アルコールであることが好ましい。
【0029】
かかる添加剤の量は、本発明の可食性ゼリー状組成物の全重量に基づき、好ましくは1〜80重量%、より好ましくは、5〜70重量%である。1重量%未満であると、使用上充分な物性を担保できない可能性があり、一方、80重量%を超えると、添加した添加剤により本発明の可食性ゼリー状組成物を、シート又はフィルム形状の製剤として用いた場合、物性の制御が困難になる恐れがある。
【0030】
本発明の可食性ゼリー状組成物は、薬物を含有させて医薬組成物を得て、ゼリー状製剤を提供することができる。
なお、本明細書において、上記薬物とは、何らかの生理活性作用を有する物質を意味する。このような本発明の可食性ゼリー状組成物に、薬物を更に含むゼリー状製剤もまた、本発明の一つである。
【0031】
本発明のゼリー状製剤において、上記薬物は、ヒトなどの哺乳動物にその舌下、口腔内、腸管を通して投与し得る、すなわち経口投与可能な薬物が好ましい。そのような薬物としては、具体的には、例えば、全身性麻酔薬、催眠・鎮静薬、抗癲癇薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮暈薬、精神神経用薬、中枢神経薬、抗痴呆薬、局所麻酔薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痛・鎮痒・収斂・消炎用薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、麻薬、禁煙補助薬、減感作療法用アレルゲン、ワクチンなどが挙げられる。
【0032】
また、上記薬物は、疾患、状態又は障害の治療において所望の結果、例えば、所望の治療結果をもたらすのに充分な、本明細書中で有効量とも呼ばれる量で粘着剤層中に存在することができる。
有効量の薬物とは、例えば、非毒性ではあるが、しかし特定の時間にわたって選択された効果をもたらすのに充分な量の薬物を意味する。このような量は当業者によって容易に決定することができる。
【0033】
上記薬物は、固体薬物であっても液状薬物であってもよい。ここにいう固体薬物は、室温(25℃)で固体である薬物、すなわち、融点が25℃より高い薬物を意味する。ここにいう融点は、DSC、型番DSC6220(セイコーインスツルーメンツ(SII)製)で測定された値を意味する。
また、液状の薬物とは、室温(25℃)で流動性を有する、すなわち薬物の粘度が0.05〜10万mPa・sである薬物をいう。なお、上記薬物の粘度は、当該薬物を25℃に保温しながらE型粘度計を用いて測定する。
【0034】
上記薬物の濃度としては、その性質などによっても異なるが、本発明のゼリー状製剤の全重量に対して、通常1×10−10〜50重量%である。1×10−10重量%未満であると、臨床効果の観点から多くの薬物において薬効を示さない場合があり、50重量%を超えると、本発明のゼリー状製剤の物性を著しく低下し、本発明のゼリー状製剤の保型性に問題が生じる可能性がある。
【0035】
本発明のゼリー状製剤は、水難溶性ゼラチンを該ゼラチンと相溶する不揮発性有機溶媒に溶解させ、薬物及びその他添加剤を添加してゼラチン溶液を調製した後、分注又は延伸し、更に、放冷又は冷却により固化させることで製造することができる。
【0036】
上記水難溶性ゼラチンは、通常、不揮発性有機溶媒に容易に溶解しないものである。このため、上記ゼラチン溶液を調製する際には、例えば、水難溶性ゼラチンを水に加熱溶解させたゼラチン溶解液を、凍結乾燥又は噴霧乾燥させて、不揮発性有機溶媒への溶解性を高めたランダムコイル構造を有するゼラチンを得た後、不揮発性有機溶媒を混合してもよく、また、上記水難溶性ゼラチンを水で加熱溶解させたものの所定量を不揮発性有機溶媒に添加してもよい。かかる処理を行うことにより、水難溶性ゼラチンであっても、不揮発性有機溶媒に溶解することが可能となる。
上記薬物が熱に安定な場合には、薬物をこの際に添加してゼラチン溶液を調製する。一方、薬物が熱に不安定なものの場合、上記ゼラチン等を溶解させた後、常温〜35℃付近まで冷やした後に添加し、攪拌混合することでゼラチン溶液を調製する。更に、上記薬物は、後述するゼラチン溶液を分注又は延伸する工程において添加してもよい。
ここで、上記ゼラチン溶液の調製時に泡が発生した場合は、長時間静置や真空又は減圧脱泡を行い、充分に消泡させる。
【0037】
上記ゼラチン溶解液の凍結乾燥は、例えば、上記ゼラチン溶解液を液体窒素で凍結させ、その後公知の凍結乾燥器を用いる方法が挙げられる。
また、上記ゼラチン溶解液の噴霧乾燥は、例えば、スプレードライヤーを用いて噴霧し、30℃付近の温度において当該噴霧液を乾燥させることにより行う方法が挙げられる。得られたゼラチン微粒子に水分が残っている場合には、20〜30℃付近の温度で2次乾燥又は減圧乾燥を行ってもよい。
【0038】
上記ゼラチン溶液を分注又は延伸し、放冷又は冷却により固化させる方法としては、上記ゼラチン溶液の所定量を28℃〜32℃の温度下で希望するサイズのプラスチック又はアルミ製ブリスターケース及びピロー包装内に分注し、分注後即座に冷却固化させる。当該分注方式の代わりに、上記ゼラチン溶液をプラスチック製剥離フィルム上に適当量展延し、冷却固化してシート状又はフィルム状として、希望するサイズに裁断してもよい。
【0039】
なお、上記ゼラチン溶液に水が添加されている場合には、本工程で冷却固化させる前に加熱乾燥又は減圧乾燥を行う必要がある。
また、製造するゼリー状製剤に含まれる不揮発性有機溶媒の含有量を調整する場合には、本工程の後に、冷風乾燥工程または冷却減圧乾燥工程を行ってもよい。
このような方法により得られたシート又はフィルム状のゼリー状製剤を必要により密封包装し、製品とすることが好ましい。
このような本発明のゼリー状製剤を製造する方法は、特に熱安定な薬物に対して、35℃以下、好ましくは30℃以下の低温で調製可能という点が非常に有用である。
【0040】
上述した本発明のゼリー状製剤を製造する方法もまた、本発明の一つである。
すなわち、本発明のゼリー状製剤の製造方法は、水難溶性ゼラチンを水に溶解させたゼラチン溶解液を、凍結乾燥又は噴霧乾燥させてランダムコイル構造を有するゼラチンを得る工程、上記ランダムコイル構造を有するゼラチンに不揮発性有機溶媒と薬物とを混合し、ゼラチン溶液を調製する工程、上記ゼラチン溶液を分注又は延伸する工程、及び、放冷又は冷却により固化させる工程を含むことを特徴とする。
また、別の態様に係る本発明のゼリー状製剤の製造方法は、水難溶性ゼラチン、水、不揮発性有機溶媒、及び、薬物を混合しゼラチン混合液を調製する工程、上記ゼラチン混合液を加熱し、上記水難溶性ゼラチンを溶解させてゼラチン溶液を調製する工程、上記ゼラチン溶液を分注又は延伸する工程、含有する水を乾燥させる工程、及び、放冷又は冷却により固化させる工程を含むことを特徴とする。
なお、上述した本発明のゼリー状製剤の製造方法及び別の態様に係る本発明のゼリー状製剤の製造方法において、薬物を添加しないことで、本発明のゼリー状組成物を製造することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の可食性ゼリー状組成物は、水を含まないゼリー状の組成物であり、基材としてゼラチンを用いることで、常温ではゲル化し、口腔内の体温で容易に溶解するという特徴を持ち合わせている。
また、本発明の可食性ゼリー状組成物は、不揮発性有機溶媒の含有量を制御することで、その溶解時間を容易に制御することも可能である。この溶解時間を制御可能であるという観点からは、口腔内における滞留時間が必要である口腔粘膜及び舌下粘膜から吸収させる医薬品の剤形として、またアレルゲンを舌下粘膜から感作させる舌下減感作療法に適している。
また、水を含まないという観点からは、本発明の可食性ゼリー状組成物は、一般的なゼリーでは必要な滅菌工程や防腐剤の添加が不必要となり、製造コスト面でのメリットがあり、また水分制限が必要な患者の為の栄養補助食及び医薬品の剤形としても適している。
本発明の可食性ゼリー状組成物は、タンパク質やペプチドの保管安定性を向上させることが一般的に知られているゼラチン及びグリセリンやプロピレングリコールといったポリオール類が好適に用いられるため、特にタンパク質やペプチドを安定に維持することができると期待される。
本発明の可食性ゼリー状組成物は、もちろんそのままの状態で嚥下してもよいし、口腔内で速やかに溶解させて嚥下してもよい。更に、口腔内での溶解時間を制御し、口腔粘膜や舌下粘膜からの吸収を期待することも可能である。体温ですべて溶解させることができるため、残渣感がないという観点、また水を含まないという観点から、本発明の可食性ゼリー状組成物を用いたゼリー状製剤は、水分制限のある患者及び嚥下困難な患者及び介護者のQOLを大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
水難溶性ゼラチンとしての魚由来酸処理ゼラチン(魚ゼラチンFGS−230、ニッピ社製)2重量部を精製水100重量部に入れ、60℃に加温し溶解させた。当該溶液を液体窒素で凍結し、凍結乾燥器(フリーズドライヤDC400、ヤマト科学社製)で凍結乾燥を行い、魚由来酸処理ゼラチン(FD品)とした。
プロピレングリコール(和光純薬工業社製)9.0重量部に魚由来酸処理ゼラチン(FD品)1.0重量部を加え、60℃の温度で攪拌しながら溶解させた。溶解後、5cmプラスチック製ブリスターケース(クリオモルド(角型)3号、サクラファインテック社製)に1gずつ分注し、2〜8℃下で1昼夜冷却し、可食性の組成物を得た。
【0044】
(実施例2〜5)
表1に示した組成に従い、実施例1と同様の手順で可食性の組成物を得た。水難溶性ゼラチンとしての魚由来酸処理ゼラチン(魚ゼラチンFGS−230、ニッピ社製)の代わりに、実施例2では水難溶性ゼラチンとしての豚由来低分子ゼラチン(豚骨ゼラチンAEP、ニッピ社製)、実施例3では豚由来アルカリ処理ゼラチン(豚アルカリ処理ゼラチンBP−200D、ニッピ社製)、実施例4では豚由来酸処理ゼラチン(豚酸処理ゼラチンAP−200、ニッピ社製)、実施例5では牛由来アルカリ処理ゼラチン(ゼラチンCP−1045、ゼライス社製)を用いた。
【0045】
【表1】

【0046】
(比較例1)
プロピレングリコール(和光純薬工業社製)9.0重量部に、水難溶性ゼラチンとしての魚由来酸処理ゼラチン(魚ゼラチンFGS−230、ニッピ社製)1.0重量部を加え、60℃の温度で攪拌したが溶解しないため80℃まで加熱し攪拌したが溶解しなかった。当該沈殿が残存した溶液をそのまま、5cmプラスチック製ブリスターケース(クリオモルド(角型)3号、サクラファインテック社製)に1gずつ分注し、2〜8℃下で1昼夜冷却し、可食性の組成物を得た。
【0047】
(比較例2〜7)
表2に示した組成に従い、比較例1と同様の手順で調製を行い、可食性の組成物を得た。水難溶性ゼラチンとしての魚由来酸処理ゼラチン(魚ゼラチンFGS−230、ニッピ社製)の代わりに、比較例2では豚由来低分子ゼラチン(豚骨ゼラチンAEP、ニッピ社製)、比較例3では豚由来アルカリ処理ゼラチン(豚アルカリ処理ゼラチンBP−200D、ニッピ社製)、比較例4では豚由来酸処理ゼラチン(豚酸処理ゼラチンAP−200、ニッピ社製)、比較例5では牛由来アルカリ処理ゼラチン(ゼラチンCP−1045、ゼライス社製)、比較例6ではカルボキシメチルセルロースナトリウム(MP Biomedicals社製)、比較例7ではカルボキシビニルポリマー(CARBOPOL971P、NOVEON社製)を用いた。
【0048】
【表2】

【0049】
(比較例8)
グリセリン(和光純薬工業社製)9.0重量部に水難溶性ゼラチンとしての魚由来酸処理ゼラチン(魚ゼラチンFGS−230、ニッピ社製)1.0重量部を加え、60℃の温度で攪拌したが溶解しないため80℃まで加熱し攪拌したが溶解しなかった。当該沈殿が残存した溶液をそのまま、5cmプラスチック製ブリスターケース(クリオモルド(角型)3号、サクラファインテック社製)に1gずつ分注し、2〜8℃下で1昼夜冷却し、可食性の組成物を得た。
【0050】
(比較例9〜14)
表3に示した組成に従い、比較例8と同様の手順で調製を行い、可食性の組成物を得た。水難溶性ゼラチンとしての魚由来酸処理ゼラチン(魚ゼラチンFGS−230、ニッピ社製)の代わりに、比較例9では豚由来低分子ゼラチン(豚骨ゼラチンAEP、ニッピ社製)、比較例10では豚由来アルカリ処理ゼラチン(豚アルカリ処理ゼラチンBP−200D、ニッピ社製)、比較例11では豚由来酸処理ゼラチン(豚酸処理ゼラチンAP−200、ニッピ社製)、比較例12では牛由来アルカリ処理ゼラチン(ゼラチンCP−1045、ゼライス社製)、比較例13ではカルボキシメチルセルロースナトリウム(MP Biomedicals社製)、比較例14ではカルボキシビニルポリマー(CARBOPOL971P、NOVEON社製)を用いた。
【0051】
【表3】

【0052】
(実施例6)
水難溶性ゼラチンとしての魚由来酸処理ゼラチン(魚ゼラチンFGS−230、ニッピ社製)2重量部を精製水100重量部に入れ、60℃に加温し溶解させた。当該溶液を液体窒素で凍結し、凍結乾燥器(フリーズドライヤDC400、ヤマト科学社製)で凍結乾燥を行い、魚由来酸処理ゼラチン(FD品)とした。
グリセリン(和光純薬工業社製)9.0重量部に魚由来酸処理ゼラチン(FD品)1.0重量部を加え、60℃の温度で攪拌しながら溶解させた。溶解後、5cmプラスチック製ブリスターケース(クリオモルド(角型)3号、サクラファインテック社製)に1gずつ分注し、2〜8℃下で1昼夜冷却し、可食性の組成物を得た。
【0053】
(実施例7〜10)
表4に示した組成に従い、実施例6と同様の手順で可食性の組成物を得た。水難溶性ゼラチンとしての魚由来酸処理ゼラチン(魚ゼラチンFGS−230、ニッピ社製)の代わりに、実施例7では豚由来低分子ゼラチン(豚骨ゼラチンAEP、ニッピ社製)、実施例8では豚由来アルカリ処理ゼラチン(豚アルカリ処理ゼラチンBP−200D、ニッピ社製)、実施例9では豚由来酸処理ゼラチン(豚酸処理ゼラチンAP−200、ニッピ社製)、実施例10では牛由来アルカリ処理ゼラチン(ゼラチンCP−1045、ゼライス社製)を用いた。
【0054】
【表4】

【0055】
(実施例11)
水難溶性ゼラチンとしての豚由来低分子ゼラチン(豚骨ゼラチンAEP、ニッピ社製)1重量部に精製水2重量部に入れ、60℃に加温し溶解させた。
当該溶液にプロピレングリコール(和光純薬工業社製)9.0重量部を加え、60℃の温度で攪拌しながら混合した。混合後、5cmプラスチック製ブリスターケース(クリオモルド(角型)3号、サクラファインテック社製)に1.2gずつ分注し、モレキュラーシーブス(和光純薬工業社製)入りのデシケーター内に入れ2〜8℃下で3日間冷却し、可食性の組成物を得た。
【0056】
(実施例12〜18)
表5に示した組成に従い、実施例11と同様の手順で可食性の組成物を得た。水難溶性ゼラチンとしての豚由来低分子ゼラチン(豚骨ゼラチンAEP、ニッピ社製)の代わりに、実施例12及び16では豚由来アルカリ処理ゼラチン(豚アルカリ処理ゼラチンBP−200D、ニッピ社製)、実施例13及び17では豚由来酸処理ゼラチン(豚酸処理ゼラチンAP−200、ニッピ社製)、実施例14及び18では牛由来アルカリ処理ゼラチン(ゼラチンCP−1045、ゼライス社製)を用いた。また、実施例15〜18ではプロピレングリコール(和光純薬工業社製)の代わりにグリセリン(和光純薬工業社製)を用いた。
【0057】
【表5】

【0058】
(実施例19)
水難溶性ゼラチンとしての豚由来低分子ゼラチン(豚骨ゼラチンAEP、ニッピ社製)2重量部を精製水100重量部に入れ、60℃に加温し溶解させた。当該溶液を液体窒素で凍結し、凍結乾燥器(フリーズドライヤDC400、ヤマト科学社製)で凍結乾燥を行い、豚由来低分子ゼラチン(FD品)とした。
豚由来低分子ゼラチン(FD品)5重量部をグリセリン(和光純薬工業社製)43.9重量部に入れ、60℃に加温し溶解させた。当該溶液に薬物としての沈降炭酸カルシウム(備北粉化工業社製)50重量部、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.1重量部、クエン酸(日本薬局方クエン酸水和物、小松屋社製)1.0重量部を加え、50℃の温度で攪拌しながら混合した。混合後、5cmプラスチック製ブリスターケース(クリオモルド(角型)3号、サクラファインテック社製)に2.0gずつ分注し、2〜8℃下で1夜冷却保管し、フィルム状の製剤を得た。
【0059】
(実施例20、21)
表6に示した組成に従い、実施例19と同様の手順でフィルム状の製剤を得た。薬物としての沈降炭酸カルシウム(備北粉化工業社製)の代わりに、実施例20では炭酸ランタン水和物(和光純薬工業社製)、実施例21ではイコサペント酸エチル(和光純薬工業社製)を用いた。
【0060】
【表6】

【0061】
[試験方法]
実施例及び比較例において可食性の組成物又はフィルム状の製剤(以下、まとめてサンプルという)調製時に、各種ゼラチンが溶解するかどうか(調製可能性)、調製後冷却することによりゼリー状となるかどうか(ゲル化性)、25℃1ヶ月保管後に不揮発性有機溶媒の分離がみられないか(保管安定性)の3点から評価を行った。その結果を表7、8に示した。
それぞれの試験方法を以下に示す。
また実施例1〜10に関しては口腔内における溶解特性を測定するために、崩壊試験を行い、溶解時間を測定した。その結果を表9に示した。
それぞれの試験方法を以下に示す。
【0062】
(1)調製可能性
各サンプル調製時に、各ゼラチンが不揮発性有機溶媒に溶解するかどうかを評価した。評価基準は以下の通りである。
3:完全に溶解し、澄明な溶液となった。
2:溶解したが、若干の濁りが見られた。
1:溶け残りが若干見られた。
0:ほとんど溶解しなかった。
【0063】
(2)ゲル化性(ゼリー化性)
各サンプル調製時に、各溶液を2〜8℃下で冷却するが、その際にゼリー状となるかどうかを評価した。評価基準は以下の通りである。
3:指で押しても弾力性があり、指にゼラチンが付着しないゼリー状組成物又はゼリー状製剤となった。
2:ゼリー状組成物又はゼリー状製剤となったが、柔らかく弾力性に欠けた。
1:ゼリー状組成物又はゼリー状製剤であるが、指にゼラチンが付着した。
0:粘性のあるゼラチンで全くゲル化しなかった。
【0064】
(3)保管安定性試験
25℃に設定した恒温槽に調製したサンプルを保管し、保管開始から1カ月後に取出し、官能試験(触感)を評価した。評価方法は官能試験(触感)の評価方法に従った。
3:不揮発性有機溶媒(液状成分)の分離は全く見られなかった。
2:サンプルの表面に若干の不揮発性有機溶媒(液状成分)の分離が見られた。
1:サンプルの表面にかなり不揮発性有機溶媒(液状成分)の分離が見られた。
0:分離がひどく、ゼラチンが不揮発性有機溶媒(液状成分)に浸った状態になった。
また、(1)調製可能性で“0:ほとんど溶解しなかった”サンプル及び(2)ゲル化性で“0:粘性のあるゼラチンで全くゲル化しなかった”サンプルに関しては、当該試験は行わず0としてスコア化した。
【0065】
(4)口腔内溶解時間測定
第15改正日本薬局方に記載の崩壊試験法に準じて試験を行った。1000mLの低形ビーカーに蒸留水を入れ、37±2℃の温度下で、1分間に29〜32往復、振幅53〜57mmで試験器を上下させる条件下により試験を行った。
試験器の中に実施例1〜10に係る可食性の組成物を入れ、前述の条件下で試験を開始し、試験開始から実施例1〜10に係る可食性の組成物が完全に溶解し、試験器から消失した時間を口腔内溶解時間とした。
【0066】
【表7】

【0067】
【表8】

【0068】
表7に示したように、実施例に係るサンプルは、いずれの評価項目においても良好な結果で、水を含まない可食性ゼリー状組成物又はゼリー状製剤であり、種々のゼラチンを配合した場合においても、良好な評価結果であり、また、種々の不揮発性有機溶媒(グリセリン及びプロピレングリコール)を用いた場合においても良好な評価結果であった。
一方、表8に示したように、比較例1〜5、8〜12に係るサンプルは、保管安定性が良好であったものの、調製可能性及びゲル化性(ゼリー化性)が不良な結果であった。また、比較例6、7、13、14に係るサンプルは、調製可能性が良好であったものの、ゲル化性(ゼリー化性)及び保管安定性が不良な結果であった。
【0069】
【表9】

【0070】
表9に示したように、可食性ゼリー状組成物に含まれる不揮発性有機溶媒の含有量を制御することで、口腔内での溶解時間を調整することができた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の可食性ゼリー状組成物は、水を含まないゼリー状の組成物であり、基材として特定の構造を有するゼラチンを用いることで、常温ではゲル化し、口腔内の体温で容易に溶解するという特徴を持ち合わせている。
また、本発明の可食性ゼリー状組成物は、不揮発性有機溶媒の含有量を制御することで、その溶解時間を容易に制御することも可能である。この溶解時間を制御可能であるという観点からは、口腔内における滞留時間が必要である口腔粘膜及び舌下粘膜から吸収させる医薬品の剤形として、またアレルゲンを舌下粘膜から感作させる舌下減感作療法に適している。
また、水を含まないという観点からは、本発明の可食性ゼリー状組成物は、一般的なゼリーでは必要な滅菌工程や防腐剤の添加が不必要となり、製造コスト面でのメリットがあり、また、水分制限が必要な患者の為の栄養補助食及び医薬品の剤形としても適している。
本発明の可食性ゼリー状組成物は、タンパク質やペプチドの保管安定性を向上させることが一般的に知られているゼラチン及びグリセリンやプロピレングリコールといったポリオール類が好適に用いられるため、特にタンパク質やペプチドを安定に維持することができると期待される。
本発明の可食性ゼリー状組成物は、もちろんそのままの状態で嚥下してもよいし、口腔内で速やかに溶解させて嚥下してもよい。更に、口腔内での溶解時間を制御し、口腔粘膜や舌下粘膜からの吸収を期待することも可能である。体温ですべて溶解させることができるため、残渣感がないという観点、また水を含まないという観点から、本発明の可食性ゼリー状組成物を用いたゼリー状製剤は、水分制限のある患者及び嚥下困難な患者及び介護者のQOLを大幅に向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水難溶性ゼラチンのへリックス構造を変化させてなるランダムコイル構造を有するゼラチンと、該ゼラチンと相溶する不揮発性有機溶媒とを含み、水を含まないことを特徴とする可食性ゼリー状組成物。
【請求項2】
ゼラチンは、水難溶性ゼラチンを水に溶解させて凍結乾燥又は噴霧乾燥させることによりランダムコイル構造化されたものである請求項1記載の可食性ゼリー状組成物。
【請求項3】
不揮発性有機溶媒は、分子中に2〜4個のOH基を有する、炭素数4以下の多価アルコールである請求項1又は2記載の可食性ゼリー状組成物。
【請求項4】
ゼラチンの配合量が、組成物の全重量基準で0.1〜40重量%である請求項1、2又は3記載の可食性ゼリー状組成物。
【請求項5】
不揮発性有機溶媒の配合量が、組成物の全重量基準で10〜99重量%である請求項1、2、3又は4記載の可食性ゼリー状組成物。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載のゼリー状組成物に、薬物を更に含むことを特徴とするゼリー状製剤。
【請求項7】
水難溶性ゼラチンを水に溶解させたゼラチン溶解液を、凍結乾燥又は噴霧乾燥させてランダムコイル構造を有するゼラチンを得る工程、
前記ランダムコイル構造を有するゼラチンに、不揮発性有機溶媒と薬物とを混合し、ゼラチン溶液を調製する工程、
前記ゼラチン溶液を分注又は延伸する工程、及び、
放冷又は冷却により固化させる工程を含む
ことを特徴とするゼリー状製剤の製造方法。
【請求項8】
水難溶性ゼラチン、水、不揮発性有機溶媒、及び、薬物を混合しゼラチン混合液を調製する工程、
前記ゼラチン混合液を加熱し、前記水難溶性ゼラチンを溶解させてゼラチン溶液を調製する工程、
前記ゼラチン溶液を分注又は延伸する工程、
含有する水を乾燥させる工程、及び、
放冷又は冷却により固化させる工程を含む
ことを特徴とするゼリー状製剤の製造方法。