説明

可食性フィルム

【課題】舌苔除去作用を有するプロテアーゼを、活性を保ったまま含有してなる可食性フィルムを提供すること。
【解決手段】可食性フィルムであって、(A)デンプンを1〜30質量%、(B)セルロース誘導体を40〜80質量%、(C)プロテアーゼを含有し、プロテアーゼ活性を有する可食性フィルム。当該フィルムの原料液を製造するにあたっては、デンプンを精製水に分散・加熱して糊化させ、当該糊化液にセルロース誘導体を加え分散した後、冷却しつつ撹拌し、セルロース誘導体を溶解させた後、プロテアーゼを加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食性フィルムに関し、より詳細にはプロテアーゼを含有しプロテアーゼ活性を有する可食性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
舌背部に、食物残渣、唾液成分、細菌微生物、剥離上皮等が堆積し、苔状を呈したものを舌苔と呼ぶ。過剰な舌苔は口臭の原因となるばかりでなく、味覚をはじめとする感覚系にも悪影響を及ぼし、口腔機能の低下を助長すると言われている。
【0003】
このような悪影響を回避するため、舌苔を除去する方法がこれまでに開発されてきた。代表的な舌苔を除去する方法に、舌ブラシにより舌をブラッシングする方法がある。しかしながら、当該方法ではブラッシングする力のコントロールが難しいため、舌苔を除去する際に舌の表面まで傷つけてしまい、炎症や味覚異常を引き起こすおそれがあり、問題であった。また、舌の奥側の舌苔除去のためには口腔内奥まで舌ブラシを入れる必要があり、このためにえづくなどすることもあり、使用しづらいものであった。
【0004】
他にも、例えば特許文献1に記載されるような「舌苔除去シート」が開発されている。しかしながら当該シートは、口腔内に挿入し、舌と上顎とで挟み込んだまま、擦りながら引き抜くことにより舌苔を除去するという原理のものであり、過度の舌苔除去を起こす、あるいは舌表面を傷つけるなどのおそれがあった。
【0005】
さらに、このようなブラシやシートは、例えば高齢又は事故・病気等で介護を必要とする者(要介護者)等にとっては自力で使用することが難しいものであり、また、介護者にとっても要介護者に用いるのには多大な労力を必要とするものであった。
【0006】
また、特許文献2及び特許文献3には、舌苔除去作用を有するプロテアーゼを含有するトローチやタブレット等が開示されている。しかしながら、これらの食品は、子供、老人、及び嚥下が困難な者(例えば要介護者等)等は使用が困難であった。
【0007】
例えば、可食性フィルムであれば、子供や老人でも喉につめるおそれはなく、嚥下困難者でも容易に使用することができる。可食性フィルムは、口腔内で唾液により溶解するフィルムであり、食品、ビタミン、医薬品等の包装材又は担体として使用でき、又香料等を保持させたフレーバーフィルムとして気分転換、口臭予防等を目的とする新しい食品形態としても注目されている。なお、可食性フィルムには、口腔内における分解性が良いこと、即ち口溶け性に優れること;乾燥によって割れ、カール等を起こし難いこと、即ち割れ耐性及びカール耐性に優れること;空気中の水分を吸湿したり熱により溶融したりして、フィルム同士が付着するブロッキング現象を起こし難いこと、即ちブロッキング(付着性)耐性に優れることが要求される。
【0008】
しかしながら、可食性フィルムは、一般に、原料となるデンプン等を水に分散・加熱溶解して糊化する工程、糊液にセルロース誘導体を分散する工程、及び薄膜状に塗工して熱風により乾燥させる工程、を経て製造される一方、酵素であるプロテアーゼは熱により失活してしまうことから、活性を保ったままのプロテアーゼを含有してなる可食性フィルムを製造することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−87463号公報
【特許文献2】WO2003/090704号
【特許文献3】WO2007/026755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、舌苔除去作用を有するプロテアーゼを、活性を保ったまま含有してなる可食性フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、驚くべき事に、デンプン等を糊化した後室温以下に冷ましてからプロテアーゼを混合し、さらにこれを薄膜状に塗工して熱風乾燥させてフィルムを製造すると、プロテアーゼ活性が残存する可食性フィルムが得られることを見出した。
【0012】
但し、一般に、デンプンを水に分散・加熱溶解する際、急激な粘度上昇があり、更にその糊液にセルロース誘導体を添加し、冷却すると更なる粘度の上昇が認められ、薄膜状に塗布するのが困難であった。研究を進めた結果、デンプンとセルロース誘導体とを特定の混合比率で混合し、さらに特定の手順でフィルムを製造することで、このような問題を解消し得ることを見出し、改良を重ねて本発明を完成するに至った 。
【0013】
すなわち、本発明は例えば以下の項1〜8の可食性フィルムを包含する。
項1.
可食性フィルムであって、
(A)デンプンを1〜30質量%
(B)セルロース誘導体を40〜80質量%
(C)プロテアーゼ
を含有し、プロテアーゼ活性を有する可食性フィルム。
項2.
セルロース誘導体が、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の可食性フィルム。
項3.
セルロース誘導体が、20℃における2質量%水溶液粘度が4mPa・s〜500mPa・sのセルロース誘導体である、項1又は2に記載の可食性フィルム。
項4.
デンプンが、アミロース含量が30質量%以上のデンプンである、項1〜3のいずれかに記載の可食性フィルム。
項5.
デンプンが、エーテル化デンプン及び/又はエステル化デンプンである、項1〜4のいずれかに記載の可食性フィルム。
項6.
プロテアーゼが、ブロメライン、パパイン、フィチン及びアクチニジンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜5のいずれかに記載の可食性フィルム。
項7.
60〜200000unit/gのプロテアーゼ活性を有する、項1〜6のいずれかに記載の可食性フィルム。
項8.
舌苔除去用である、項1〜7のいずれかに記載の可食性フィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明の可食性フィルムは、加熱処理を経なければ製造することのできない可食性フィルム中に、活性を有したままプロテアーゼを配合したものであり、これにより素早く口腔内で溶けて舌苔除去効果を発揮し得る。また、フィルムであるために、子供や老人が使用しても喉につめるおそれがなく、また、嚥下困難者であっても容易に使用することができる。
【0015】
さらに、本発明の可食性フィルムは、口腔内において、上あごに付着しにくく舌に付着しやすいため、当該フィルムに含有されるプロテアーゼによる舌苔除去効果が効率よく発揮され、また、口どけもよくなる。さらに、上あごに物が付着すると違和感を覚える人が多いが、そのような違和感を使用時に与えることもない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0017】
本発明は、(A)デンプン、(B)セルロース誘導体、(C)プロテアーゼ、を含有し、プロテアーゼ活性を有する可食性フィルムに係る。なお、(A)デンプンは1〜30質量%含有することが好ましく、5〜25質量%含有することがより好ましく、10〜20質量%含有することがさらに好ましい。(B)セルロース誘導体は40〜80質量%含有することが好ましく、50〜75質量%含有することがより好ましく、55〜75質量%含有することがさらに好ましい。また、特に制限されるものではないが、(C)プロテアーゼは1〜30質量%含有することが好ましく、1〜25質量%含有することがより好ましい。
【0018】
本発明の可食性フィルムに含有されるデンプンとしては、特に制限されず、各種デンプン原料から製造されるデンプン類を用いることができる。例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、豆(例:空豆、緑豆、小豆等)デンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン等が挙げられる。
【0019】
またさらに、デンプン類に処理を施した加工デンプン類も、本発明の可食性フィルムに含有されるデンプンとして好ましく用いることができる。当該処理については特に限定されず、例えば加工デンプン類としては、デンプンの酸化物、デンプンの酸分解物、架橋デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、さらにエーテル化デンプン及び/又はエステル化デンプンに酸化、酸分解又は架橋処理をしたデンプン等を挙げることができる。またさらに、これら加工デンプンのα化物も挙げることができる。なお、エーテル化デンプンとしては特にヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプンの分解物(好ましくは酸分解物)が、エステル化デンプンとしては特にアセチル化デンプン、アセチル化デンプンの分解物(好ましくは酸分解物)が好ましい。
【0020】
また、本発明の可食性フィルムに含有されるデンプンは、アミロース含量が多い方が好ましく、ハイアミロースデンプンが好ましい。なお、ハイアミロースデンプンのアミロース含量は通常30質量%以上であり、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。
【0021】
いずれのデンプン原料由来のデンプン類を加工処理してもよく、また、加工処理は1種又は2種以上行ってもよい。なお、特にハイアミロースデンプンをエーテル化した加工デンプン(エーテル化ハイアミロースデンプン)またはエステル化した加工デンプン(エステル化ハイアミロースデンプン)が好適であり、このような加工デンプンとして例えばヒドロキシプロピルハイアミロースデンプン、アセチル化ハイアミロースデンプンが例示できる。
【0022】
本発明の可食性フィルムに含有されるデンプンの量は、本発明の可食性フィルムの効果を損なわない限り制限されないが、デンプン含量が多いほど割れ耐性が劣り、またカールを生じやすい。よって、デンプン含量は可食性フィルムに対して30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20%重量以下がさらに好ましく、15質量%以下がよりさらに好ましい。また、デンプン含量が少なすぎるとブロッキング(付着性)耐性がほとんど得られないため、デンプン含量は可食性フィルムに対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。
【0023】
なお、本発明の可食性フィルムに含有されるデンプンは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明の可食性フィルムにはセルロース誘導体が含有される。本発明の可食性フィルムの効果を損なわない限り、含有されるセルロース誘導体は制限されず、例えばヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等を用いることができる。中でもヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。なお、セルロース誘導体は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
但し、セルロース誘導体は、水に溶解させた際の粘度が低すぎると、これを用いて製造した可食性フィルムはブロッキング(付着性)耐性及び割れ耐性に劣り、カールもしやすくなる傾向がある。また、粘度が高すぎるとフィルムにする際の作業性が悪くなり、フィルムの口どけも劣る。よって、セルロース誘導体は、20℃における2質量%水溶液粘度がB型回転粘度計で4mPa・s〜500mPa・s(GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による重量平均分子量が2万g/mol〜100万g/mol)であることが好ましく、5mPa・s〜400mPa・s(GPCによる重量平均分子量が2万5千g/mol〜80万g/mol)であることがより好ましい 。
【0026】
このようなセルロース誘導体は、各販社より購入することができる。例えば、日本曹達(株)、又は信越化学工業(株)等から購入することができる。
【0027】
本発明の可食性フィルムに含有されるセルロース誘導体の量は、本発明の可食性フィルムの効果を損なわない限り制限されないが、フィルム全体に対して通常40〜80質量%、好ましくは50〜75質量%、より好ましくは55〜75質量%配合される。
【0028】
本発明の可食性フィルムに含有されるプロテアーゼは、舌苔除去作用を有すれば特に制限されない。舌苔の構成要素にはたんぱく質が含まれるため、プロテアーゼは一般に舌苔を分解または軟化することができる。好ましくはシステインプロテアーゼであり、より好ましくは、パパインファミリーに属するシステインプロテアーゼである。具体的には、例えばブロメライン、パパイン、フィチン、アクチニジン等が好適であり、なかでもブロメライン、パパインが好ましい。なお、プロテアーゼは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
さらに、本発明の可食性フィルムには、舌苔除去作用を向上させる効果を有する酵素をさらに含有させてもよい。このような酵素としては、例えば、アミラーゼ、デキストラナーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ、リゾチーム等が挙げられる。なお、このような酵素は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明の可食性フィルムに含有されるプロテアーゼは、50%以上の残存活性を有することが好ましい。つまり、可食性フィルム製造に用いる前のプロテアーゼ活性を100%とした場合、可食性フィルム内に存在するプロテアーゼの活性(残存活性)は50%以上であることが好ましい。より好ましくはプロテアーゼ残存活性は60%以上であり、さらに好ましくは65%以上である。
【0031】
本発明の可食性フィルムに含有されるプロテアーゼの量は、特に制限されないが、あまりに含有量が多いと使用時に口腔内や舌へ与える刺激が強くなり、フィルムの安定性にも影響を与えるため、好ましくない。可食性フィルムに対して、通常30質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0032】
また、プロテアーゼの活性量がフィルム1g当たり60〜200000unitであることが好ましく、100〜150000unitであることがより好ましく、150〜100000unitであることがさらに好ましく、200〜50000unitであることがよりさらに好ましく、1000〜25000unitであることが特に好ましい。
【0033】
プロテアーゼの活性量は、食品添加物公定書(第8版)「ブロメライン」欄(421頁〜422頁)に記載の測定方法に従って測定することができる。当該測定方法の概要は、システインプロテアーゼがカゼインをどの程度消化できるか吸光度(275nm)により定量するというものであり、1分間にチロシン1μgに相当するアミノ酸を生成する酵素量が1unitである 。
【0034】
本発明の可食性フィルムには、本発明の可食性フィルムの効果を損なわない限り、上記のもの以外に可食性フィルムに配合可能な適当な任意成分を配合してもよい。このような任意成分としては、例えば、甘味料、香料、乳化剤、風味剤、着色料、乳化剤、各種植物エキス、ハーブ成分、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、抗菌剤、抗炎症剤、抗う触剤、口臭防止剤、唾液分泌促進剤、等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの任意成分は当該分野で周知である。本発明の可食性フィルムは、例えば食品又は医薬品として好ましく用いることができるが、可食性フィルムが食品用途である場合、このような任意成分は、例えば、食品添加物公定書に記載される。可食性フィルムが医薬品用途である場合、このような添加剤は、例えば、日本薬局方に記載される。
【0035】
また、フィルムの厚さは特に制限されず、通常30〜200μm、好ましくは40〜100μmである。この程度の薄い厚みを有し、カールや割れのほとんど無いフィルムを製造するためには、フィルム原料液を塗工後熱風により乾燥させることが好ましいところ、この方法では、熱で失活する酵素であるプロテアーゼを活性残存させたまま含有するフィルムを製造することは困難であった。本発明の可食性フィルムは、フィルム原料液を一旦室温以下にまで冷却してからプロテアーゼを混合することにより、この程度の薄い厚みであっても、カールや割れがほとんど無く、かつプロテアーゼ活性が残存するという特徴を備えることができたものである。
【0036】
本発明は、プロテアーゼ活性が残存する可食性フィルムを製造するためのフィルム原料液の製造方法も提供する。当該フィルム原料液を支持膜に塗工し、熱風により数分間乾燥させることで、プロテアーゼ活性が残存する可食性フィルムを得ることができる。
【0037】
当該フィルム原料液の製造方法は以下の(1)〜(3)の工程を含む。
(1)デンプンに水を加え 加熱して、 糊化液を得る工程
(2)該糊化液にセルロース誘導体を加え、室温以下に冷却する工程
(3)該糊化液にプロテアーゼを加える工程
本発明の可食性フィルムを製造するためのフィルム原料液は、例えば次のようにして製造することができる。まず、加工デンプンを適当量(加工デンプンの約10〜70倍量)の精製水に分散 ・加熱(80〜100℃)して糊化液を調整する。 そして、当該糊化液にセルロース誘導体を加え分散した後、冷却する。約60℃〜40℃程度まで冷却しつつ撹拌することで、セルロース誘導体が溶解する。さらに室温以下(約10〜30℃)程度まで冷却しつつ撹拌する。これにプロテアーゼを加えて撹拌し、フィルム原料液とする。また、任意成分を配合する場合は、セルロース誘導体を加えた後プロテアーゼを加える前に配合するのが好ましい。また、プロテアーゼを加える時の温度がプロテアーゼの至適温度付近(30〜40℃程度)であると、プロテアーゼの自己消化がおこり、製造されるフィルムにプロテアーゼの活性が残存しないおそれがあるので、至適温度以下になってからプロテアーゼを加えるのが好ましい。
【0038】
なお、糊化デンプンは一般に冷却していくと粘度が上昇し、老化により固まってしまう場合もある。また、極度に冷却し乾燥する場合熱効率が悪くなる。 このように、一般に糊化デンプンを冷却すると問題が発生することが懸念される が、例えば上述のようにしてフィルム原料液を製造すると、このような問題が起こりにくい。
【0039】
上述のようにして調整したフィルム原料液を、樹脂製支持基板又は支持膜に塗工する。塗工後すぐこれに熱風(100〜120℃程度)を数分間吹きつけ、乾燥させる。なお、完全に乾燥させるのではなく、フィルム内に水分を10質量%程度残存させるのが好ましい。
【0040】
このようにして製造される本発明の可食性フィルムは、舌苔除去作用を有するプロテアーゼを活性を保ったまま含有しており、舌苔除去用に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0042】
可食性フィルムに最適なデンプン及びセルロース誘導体の検討
まず、以下のようにして、水量以外は表1〜表4に記載のフィルム成分組成比に従って、各検討例のフィルム原料液を製造した。
【0043】
各種デンプンに、約22倍〜23倍量(質量比)の精製水を加え、撹拌して懸濁させた。当該懸濁液を90℃まで加熱し、デンプンを糊化させた。当該糊化液を撹拌・冷却し、80℃になった時点で各種セルロース誘導体を投入し、さらに撹拌・冷却することにより、セルロース誘導体を溶解させた。
【0044】
さらに室温(25℃)まで撹拌・冷却した段階で、他の成分(任意成分)を添加・撹拌混合し、フィルム原料液とした。なお、任意成分中、l−メントールは、あらかじめ酵素分解レシチン(乳化剤)と適量の精製水で乳化した上で添加した。
【0045】
このようにして調整した各種フィルム原料液を、樹脂製支持膜に塗工し、100〜120℃の熱風を送り、2分間乾燥させた。これにより、最終膜厚43μm、水分含有量約10質量%の各種フィルム(すなわち各検討例)を得た(表1〜表4)。
【0046】
そして、以下の評価基準により、各種フィルムを評価した。
<フィルム評価基準>
ブロッキング耐性:30℃ RH(相対湿度)75% 1週間保存後 以下の評価基準によりフィルム同士のくっつきを評価した。
◎:くっつきが、全く見られない。 ○:くっつきが、ほとんど見られない。
△:くっつきが、やや見られる。 ×:くっつきが、ひどい。
【0047】
カール、フィルム性(割れ耐性):20℃ RH(相対湿度)20% 1週間保存後 以下の評価基準により評価した。
(カール)
◎:全く見られない。○:ほとんど見られない。△:やや見られる。×:ひどい。
【0048】
(割れ耐性)
◎:割れが全く見られない。○:割れがほとんど見られない。△:割れがやや見られる。×:割れがひどい。
【0049】
口どけ:製造翌日に以下の評価基準により評価した。
◎:上あごのくっつきが全く見られなく、スムーズに溶ける。
○:上あごのくっつきがほとんど見られず、違和感なく溶ける。
△:上あごのくっつきがやや見られ、溶けに違和感を感じる。
×:上あごのくっつきがひどく、溶けにくい。
【0050】
評価結果も併せて表1〜表4に示す。なお、表1〜4の組成の数値は質量%を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
なお、表中の各種セルロース誘導体の20℃における2質量%水溶液(w/v)粘度は以下の通りである。また、表中の各種デンプンのアミロース含量は以下の通りである。ヒドロキシプロピルセルロース(M)、(L)及び(SSL)は日本曹達(株)製品、メチルセルロース(SM15)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(60SH15)は信越化学工業(株)製品を使用した。
【0056】
<各種各種セルロース誘導体の粘度(上記条件下)>
ヒドロキシプロピルセルロース(M):150〜400 mPa・s
ヒドロキシプロピルセルロース(L):6〜10 mPa・s
メチルセルロース(SM15):13〜15 mPa・s
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(60SH15):13〜15 mPa・s
【0057】
<各種デンプンのアミロース含量:質量%>
ヒドロキシプロピルハイアミロースコーンスターチ:70%
ヒドロキシプロピルタピオカデンプン:20%
酸化ヒドロキシプロピルタピオカデンプン:20%
ヒドロキシプロピル緑豆デンプン:35%
【0058】
当該結果から、可食性フィルムを製造するにあたり、デンプンは含有されるのが好ましい一方、含有量は30質量%以下が好ましく(表1)、使用するセルロース誘導体の粘度(20℃、2質量%水溶液)は4mPa・s〜500mPa・s程度が好ましく(表2、表3)、使用するデンプンはアミロース含量が30%以上のものが好ましい(表4)ことがわかった。
【0059】
そこで、以下プロテアーゼ含有可食性フィルムを製造するにあたっては、これらの条件を満たす材料として、デンプンとしてはヒドロキシプロピルハイアミロースコーンスターチを、セルロース誘導体としてはヒドロキシプロピルセルロース(L)を用いた。
【0060】
プロテアーゼ含有可食性フィルム原料液の調製
以下のようにして、水量以外は表5の記載のフィルム成分組成比に従って、各実施例のフィルム原料液を製造した。
【0061】
ヒドロキシプロピルハイアミロースコーンスターチに、約22倍〜23倍量(質量比)の精製水を加え、撹拌し懸濁させた。当該懸濁液を90℃まで加熱し、ヒドロキシプロピルハイアミロースコーンスターチを糊化させた。当該糊化液を撹拌・冷却し、80℃になった時点でヒドロキシプロピルセルロースを投入し、さらに撹拌・冷却することにより、ヒドロキシプロピルセルロースを溶解させた。
【0062】
室温(25℃)まで撹拌・冷却した段階で、プロテアーゼ(ブロメライン)を除く他の成分(任意成分)を添加し、最後にプロテアーゼを混合し、フィルム原料液とした。なお、任意成分中、l−メントールは、あらかじめ酵素分解レシチン(乳化剤)と適量の精製水で乳化した上で添加した。各成分は、最終フィルムで表に示すような組成比になるように調製した。(つまり、水以外は、全て表5に示す組成比で混合してフィルム原料液を調製した。)
【0063】
塗工及び乾燥
上述のようにして調整したフィルム原料液を、樹脂製支持膜に塗工し、100〜120℃の熱風を送り、2分間乾燥させた。これにより、最終膜厚43μm、水分含有量約10質量%のフィルムを得た(表5;なお、組成の数値は質量%を示す。)。
【0064】
プロテアーゼ残存活性測定
このようにして得られたフィルムを2時間静置した後、切り取り、食品添加物公定書(第8版)「ブロメライン」欄(421頁〜422頁)に記載の測定方法に従ってフィルム中のプロテアーゼ活性を測定した。また、フィルム製造に用いたブロメラインのプロテアーゼ活性を100%としたとき、フィルム中に残存するプロテアーゼ活性が何%に当たるかも算出した。加えて、上記のフィルム評価基準により、フィルムを評価した。それぞれの結果を表5に併せて示す。表5に示されるように、得られたプロテアーゼ含有可食性フィルムは各評価基準(ブロッキング耐性、カール、フィルム性、口どけ)において良好な評価を得た。また、いずれのフィルムでも、プロテアーゼの残存活性は少なくとも65%以上存在した。
【0065】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性フィルムであって、
(A)デンプンを1〜30質量%
(B)セルロース誘導体を40〜80質量%
(C)プロテアーゼ
を含有し、プロテアーゼ活性を有する可食性フィルム。
【請求項2】
セルロース誘導体が、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の可食性フィルム。
【請求項3】
セルロース誘導体が、20℃における2質量%水溶液粘度が4mPa・s〜500mPa・sのセルロース誘導体である、請求項1又は2に記載の可食性フィルム。
【請求項4】
デンプンが、アミロース含量が30質量%以上のデンプンである、請求項1〜3のいずれかに記載の可食性フィルム。
【請求項5】
デンプンが、エーテル化デンプン及び/又はエステル化デンプンである、請求項1〜4のいずれかに記載の可食性フィルム。
【請求項6】
プロテアーゼが、ブロメライン、パパイン、フィチン及びアクチニジンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の可食性フィルム。
【請求項7】
60〜200000unit/gのプロテアーゼ活性を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の可食性フィルム。
【請求項8】
舌苔除去用である、請求項1〜7のいずれかに記載の可食性フィルム。

【公開番号】特開2011−92068(P2011−92068A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248201(P2009−248201)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】