説明

可食材のプリン含量を低減する方法

【課題】可食材のプリン含量を低減する方法及び前記方法から得られる可食材を提供すること。
【解決手段】本明細書では、可食材のプリン含量を低減する方法であって、第1のプリン含量レベルを有する可食材を、プリン化合物を消化することが可能な微生物で処理し、その結果、このようにして処理された可食材が、第1のプリン含量レベルよりも低い第2のプリン含量レベルを有するようにするステップを含み、微生物が、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ATCC 11493、ニホンコウジカビATCC 26850、ニホンコウジカビATCC 44193、ニホンコウジカビATCC 26831、リゾプス・オリザエATCC 52362(BCRC 31108)、及びこれらの組合せから選択される方法が開示される。上述の方法から得られる可食材もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年10月16日出願の台湾出願第098135113号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、可食材のプリン含量を低減する方法に関する。該方法は、第1のプリン含量レベルを有する可食材を、プリン化合物を消化することが可能な微生物で処理し、その結果、このようにして処理された可食材が、第1のプリン含量レベルよりも低い第2のプリン含量レベルを有するようにするステップを含む。微生物は、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ATCC 11493(BCRC 30118)、ニホンコウジカビATCC 26850(BCRC 30133)、ニホンコウジカビATCC 44193(BCRC 30222)、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)、リゾプス・オリザエATCC 52362(BCRC 31108)、及びこれらの組合せからなる群から選択される。本発明はまた、上述の方法から得られる可食材にも関する。
【背景技術】
【0003】
痛風は、尿酸の生成過剰又は排出過少により誘導される尿酸一ナトリウム結晶の沈着から生じる疾患である。一般に、pH7において、90%を超える尿酸は、尿酸一ナトリウムの形態で存在する。尿酸一ナトリウム結晶は、関節軟骨、滑液、腱、及び他の軟組織内に沈着する場合もあり、腎臓内において尿酸結石を形成する場合もある。痛風は通常、血清尿酸レベルの上昇と相関し、その臨床症状は、急性及び慢性の関節炎、痛風結石、間質性腎疾患、尿酸腎結石症などを含む。
【0004】
7mg/dL(420μモル/L)より高い血清尿酸レベルを有する男性及び6mg/dL(360μモル/L)より高い血清尿酸レベルを有する女性は、高尿酸血症を有すると見なされる。高尿酸血症は、痛風発生の因子である。しかし、高尿酸血症と急性痛風との関係は、未だ確実でない。さらに、高尿酸血症は、高トリグリセリド血症、糖尿病、及び冠動脈疾患の発生と関連することが分かっている。
【0005】
尿酸は、プリンの最終代謝生成物であり、尿中に排出される。多くの病理学的研究は、プリンに富む食物の摂取が、痛風及び高尿酸血症の原因であることを示す。プリンに富む食物の摂取過剰、肥満などにより、痛風及び高尿酸血症に関する発症率及び有病率が徐々に上昇している。さらに、痛風又は高尿酸血症を有する患者は、若齢化の傾向にある。したがって、プリン摂取の低減が、痛風及び高尿酸血症を予防する有効な方法であると考えられる。
【0006】
プリンに富む食物の例は、キノコ、野菜、肉、海産物、魚精、鶏卵、アルコール飲料などである。プリンに富む食物の大半は、豊富な栄養分及び多くの生物学的な有効成分を含有する。プリンに富む食物により痛風が生じうるので、該食物がすべての人に適切であるわけではない。結果として、プリンに富む食物のプリン含量の効果的な低減が、重要な目標である。
【0007】
プリンに富む食物のプリン含量を低減する従来の物理化学的方法の例は、海産物(例えば、魚類及びエビ)のプリン含量を低下させる加工処理(例えば、洗浄、煮沸、蒸気による調理、焙煎、及び乾燥)、発酵麦芽飲料中におけるプリン化合物を除去する吸着剤(例えば、活性炭及び活性ゼオライト)の使用、並びにビールのオオムギ麦芽量の低減及びプリン含量を低減する希釈処理を含む。
【0008】
近年では、食物のプリン含量を低減する生物学的方法(生分解など)に対する注目が高まっている。
【0009】
G.D.Vogels及びC.Van Der Driftは、ニホンコウジカビにより、キサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)、ウリカーゼ(Uri)、アラントイナーゼ(An)、及びアラントイカーゼ(Ac)の生成が可能となることを報告している(G.D.Vogels及びC.Van Der Drift(1976)、Bacteriol.Rev.、第40巻、403〜468頁)。ニホンコウジカビは通常、醤油、味噌、ビネガー、甜麺醤などを作製するのに用いられ、アミラーゼ及びプロテアーゼなどの各種酵素を生成させるのにも用いられる。
【0010】
リゾプス・オリザエは糸状菌であり、アルコール飲料並びにフマル酸、コハク酸、シュウ酸、クエン酸、及び乳酸など、各種の有機酸を作製するのに用いられることが多い。
【0011】
US6,013,288は、単離プリン・ヌクレオシド・ホスホリラーゼ及び/又は単離プリン・ヌクレオシダーゼを用いることによる、プリン・ヌクレオシドをプリン塩基に分解する結果として、プリン・ヌクレオシド含量が低減された麦汁を用いることにより、プリン化合物含量が低減されたビールを製造する方法を開示している。プリン・ヌクレオシダーゼは、アスペルギルス属(例えば、ニホンコウジカビ(IAM 2630))、バシルス属、サッカロミセス属などから得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
当技術分野において、食物のプリン含量を効果的に低減する方法を提供する必要が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様によれば、本発明は、可食材のプリン含量を低減する方法を提供する。該方法は、第1のプリン含量レベルを有する可食材を、プリン化合物を消化することが可能な微生物で処理し、その結果、このようにして処理された可食材が、第1のプリン含量レベルよりも低い第2のプリン含量レベルを有するようにするステップを含む。微生物は、ニホンコウジカビATCC 11493(BCRC 30118)、ニホンコウジカビATCC 26850(BCRC 30133)、ニホンコウジカビATCC 44193(BCRC 30222)、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)、リゾプス・オリザエATCC 52362(BCRC 31108)、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0014】
第2の態様によれば、本発明は、上述の方法から得られる可食材を提供する。
【0015】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、添付の図面の参照を伴う、以下の好ましい実施形態の詳細な説明において明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】シイタケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率(A)、並びにシイタケ水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率(B)及び残留多糖百分率(C)を示す図であり、図中、丸、三角形、及び四角形は、シイタケ水抽出物の発酵培養を実施するのに用いられたニホンコウジカビBCRC 30235の3種の胞子接種物濃度を表し、総プリン含量の低減百分率、残留タンパク質百分率、及び残留多糖百分率は、シイタケ水抽出物の発酵培養の異なる時点(16時間、24時間、32時間、40時間、及び48時間)において決定された。
【図2】ヒラタケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率(A)、並びにヒラタケ水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率(B)及び残留多糖百分率(C)を示す図であり、図中、丸、三角形、及び四角形は、ヒラタケ水抽出物の発酵培養を実施するのに用いられたニホンコウジカビBCRC 30235の3種の胞子接種物濃度を表し、総プリン含量の低減百分率、残留タンパク質百分率、及び残留多糖百分率は、ヒラタケ水抽出物の発酵培養の異なる時点(16時間、24時間、32時間、40時間、及び48時間)において決定された。
【図3】エノキダケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率(A)、並びにエノキダケ水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率(B)及び残留多糖百分率(C)を示す図であり、図中、丸、三角形、及び四角形は、エノキダケ水抽出物の発酵培養を実施するのに用いられたニホンコウジカビBCRC 30235の3種の胞子接種物濃度を表し、総プリン含量の低減百分率、残留タンパク質百分率、及び残留多糖百分率は、エノキダケ水抽出物の発酵培養の異なる時点(16時間、24時間、32時間、40時間、及び48時間)において決定された。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書の目的では、「を含む(comprising)」という語が「を含む(including)がこれに限定されない」を意味し、「を含む(comprises)」という語が対応する意味を有することが明らかに理解される。
【0018】
本明細書で任意の先行技術刊行物が参照される場合、このような参照は、該刊行物が、台湾又は他の任意の国内において、当技術分野における共通の一般的知識の一部を形成するという承認を構成しないことが理解されるべきである。
【0019】
別段に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が帰属する当技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。
【0020】
多数の研究が、プリンに富む食物の摂取により痛風及び高尿酸血症が引き起こされることを示している。プリンに富む食物の大半は、豊富な栄養分及び大量の生物学的有効成分を含有するが、これがすべての人に適切であるわけではない。こうして、プリンに富む食物のプリン含量の効果的な低減が、重要な目標である。この目標を達成するために、本出願人らは、11菌株のニホンコウジカビ及び11菌株のリゾプス・オリザエを含む202種の既知の食品安全菌株に由来する、プリン塩基を消化することが可能な24菌株の予備的なスクリーニングを試みた。本出願人らによるさらなる研究は、上述の24菌株中、ニホンコウジカビATCC 11493(BCRC 30118)、ニホンコウジカビATCC 26850(BCRC 30133)、ニホンコウジカビATCC 44193(BCRC 30222)、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)、及びリゾプス・オリザエATCC 52362(BCRC 31108)のすべてがプリン化合物を消化する能力を有し、これにより、キノコ水抽出物又は豆乳の総プリン含量を低減することが可能であることを示す。本明細書で用いられる「総プリン含量」という用語は、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、及びキサンチンの総量を指す。
【0021】
したがって、本発明は、可食材のプリン含量を低減する方法を提供する。該方法は、第1のプリン含量レベルを有する可食材を、プリン化合物を消化することが可能な微生物で処理し、その結果、このようにして処理された可食材が、第1のプリン含量レベルよりも低い第2のプリン含量レベルを有するようにするステップを含む。微生物は、ニホンコウジカビATCC 11493(BCRC 30118)、ニホンコウジカビATCC 26850(BCRC 30133)、ニホンコウジカビATCC 44193(BCRC 30222)、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)、リゾプス・オリザエATCC 52362(BCRC 31108)、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0022】
本明細書で用いられる「プリン」又は「プリン化合物」という用語は、プリン骨格を有する化合物を指し、プリン塩基、プリン・ヌクレオシド、プリン・ヌクレオチド、及び核酸を含む。
【0023】
本明細書で用いられる「プリン塩基」という用語は、プリン(すなわち、9H−イミアゾ[4,5−d]ピリミジン)及び置換プリン並びにこれらの互変異性体を指す。プリン塩基の例は、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、及びキサンチンを含むがこれらに限定されない。
【0024】
本明細書で用いられる「プリン・ヌクレオシド」という用語は、プリン塩基と糖分子の還元基とが、N−グリコシド結合を介して連結されるグリコシドを指す。プリン・ヌクレオシドの例は、アデノシン、グアノシン、及びイノシンを含むがこれらに限定されない。
【0025】
本明細書で用いられる「プリン・ヌクレオチド」という用語は、プリン・ヌクレオシドと、少なくとも、リン酸エステル結合を介してプリン・ヌクレオシドの糖分子に結合するリン酸基とを有する化合物を指す。プリン・ヌクレオチドの例は、アデニル酸、グアニル酸、及びイノシン酸を含むがこれらに限定されない。
【0026】
本明細書で用いられる「核酸」という用語は、1本鎖又は2本鎖の形態におけるデオキシリボ核酸(DNA)分子若しくはリボ核酸(RNA)分子、又はこれらの類似体を指し、天然のヌクレオチド及び人工的な化学的模倣体を含む。本明細書で用いられる「核酸」という用語は、「遺伝子」という用語、「cDNA」という用語、「mRNA」という用語、「オリゴヌクレオチド」という用語、及び「ポリヌクレオチド」という用語と互換的に用いることができる。
【0027】
本発明によれば、微生物による可食材の処理後には、分離処理により、可食材から微生物を除去することができる。分離処理は、当業者に知られる通常の工程(例えば、遠心分離及び濾過)により実施することができる。
【0028】
本発明によれば、可食材は、天然の場合もあり、加工済みの場合もある。可食材の例は、キノコ製品、野菜製品、アルコール飲料、果実飲料、野菜飲料、又は発酵製品(発酵乳及びビネガーなど)を含むがこれらに限定されない。本発明の好ましい実施形態において、可食材は、キノコ製品又は野菜製品である。
【0029】
本発明に適するキノコ製品は、キノコ抽出物(例えば、キノコの水抽出物、及びキノコの有機溶媒抽出物)、キノコ調味料、又はキノコ出し汁でありうる。
【0030】
本発明によれば、キノコは、シイタケ、エノキダケ、ヒラタケ、ポプラキノコ、ツクリタケ、マンネンタケ、ヤマブシダケ、オオシロアリタケ、又はキクラゲでありうる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態において、可食材は、キノコ製品水抽出物であり、これは、シイタケ水抽出物、エノキダケ水抽出物、及びヒラタケ水抽出物からなる群から選択される。可食材は、シイタケ水抽出物であることが好ましい。
【0032】
本発明に適する野菜製品は、豆乳、発酵豆乳、塩ゆで黒インゲン豆、醤油、味噌、豆板醤、甜麺醤、又は腐乳でありうる。本発明の好ましい実施形態において、可食材は豆乳である。
【0033】
本発明に適するアルコール飲料は、ビール、紹興酒、日本酒、赤ワイン、白ワイン、又は果実酒でありうる。
【0034】
本発明に適する果実飲料を作製するのに用いうる果実は、リンゴ、モモ、バナナ、イチゴ、スイカ、オレンジ、ブドウ、サトウキビ、ナシ、レイチ、又はココナッツでありうる。
【0035】
本発明に適する野菜飲料を作製するのに用いうる野菜は、カボチャ、ニンジン、トマト、ピーマン、セロリ、ホウレンソウ、トウモロコシ、ケール、パセリ、キャベツ、又はブロッコリーでありうる。
【0036】
本発明に適する発酵製品は、ヨーグルト、酸乳、フローズン・ヨーグルト、又は乳酸菌発酵飲料でありうる。
【0037】
キノコ製品水抽出物又は豆乳を処理するのに用いられる微生物は、胞子3.4×10〜3.4×10個/mlの濃度を有することが好ましい。キノコ製品水抽出物又は豆乳を処理するのに用いられる微生物は、胞子3.4×10〜1.3×10個/mlの濃度を有することがより好ましい。本発明の好ましい実施形態において、キノコ製品水抽出物又は豆乳を処理するのに用いられる微生物は、胞子1.3×10個/mlの濃度を有する。
【0038】
微生物は、20℃〜37℃の温度で可食材を処理するのに用いられることが好ましい。本発明の好ましい実施形態において、微生物は、25℃で可食材を処理するのに用いられる。
【0039】
本発明はまた、上述の方法から得られる可食材も提供する。該可食材の総プリン含量の低減百分率が決定されており、結果は、このようにして作製される可食材が少量のプリンを有することを示す。
【0040】
以下の実施例により本発明をさらに説明する。しかし、以下の実施例は例示を目的とすることだけを意図するものであり、実施において本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解されたい。
【実施例】
【0041】
実験材料:
1.キノコ製品水抽出物
キノコ製品水抽出物は、以下の手順により調製された。
【0042】
新鮮なエノキダケ及びヒラタケ(いずれも、台湾、Hsinchuの大型スーパーマーケットから購入した)を、凍結乾燥器を用いて、凍結乾燥させた。凍結乾燥したエノキダケ及びヒラタケ、並びにあらかじめ乾燥させたシイタケ(Taichung郡、Xin She Cooperative社から購入した)を、製粉機(台湾、Yu Chi Machinery社製、型番:D3V−10)を用いてすりつぶした。
【0043】
60gのエノキダケ粉末、60gのヒラタケ粉末、及び60gのシイタケ粉末の各々を1Lの血清ボトル内における600mLの蒸留水と混合した後、121℃で20分間にわたり抽出した。結果として得られる各水性混合物を室温まで冷却し、その後、遠心分離機(日立製作所製、型番:himac CR21E)を用いて、3000×gで20分間にわたり遠心分離した。250mLの振とうフラスコ内に35mLずつの上清を加えた後、121℃及び0.103MPaで15分間にわたり滅菌した。こうして、エノキダケ水抽出物、ヒラタケ水抽出物、及びシイタケ水抽出物が得られ、これらを原液として用いた。
【0044】
2.寒天:
トリプシンダイズ寒天(TSA)(DIFCO 0369)、栄養寒天(DIFCO 0001)、及びYM寒天(DIFCO 0712)は、米国、Difco Laboratories社から購入した。ポテト・デキストロース寒天(PDA)(Merck 110130)は、ドイツ、Merck社から購入した。
【0045】
全般的実験手順:
1.総プリン含量の低減百分率の決定:
(1)酸加水分解法
酸加水分解法は、S.N.Lou及びT.Y.Chen(S.N.Lou及びT.Y.Chen(1997)、Food Science、第24巻、1〜11頁)により説明される方法に従い若干改変する。まず、以下の例で作製される200mgの凍結乾燥された発酵製品(例えば、キノコ製品水抽出物の凍結乾燥発酵液又は豆乳の凍結乾燥発酵液)をネジ式栓付きのガラス管に加えた後、振とうにより、1mLの脱イオン水及び10mLのトリフルオロ酢酸/ギ酸(v/v=1:1)と一様に混合した。続いて、結果として得られる混合物を90℃の水浴中で15分間にわたって静置し、氷水浴に移して冷却した。次いで、脱イオン水を用いて、結果として得られる混合物をすすぎ、ガラス管から250mLの丸底フラスコへと取り出した。BUECHI社製、ロータリー・エバポレーター、R−200型(スイス)を用いて、250mLのフラスコ内の結果として得られる混合物を、50℃での減圧濃縮にかけた。その後、結果として得られる濃縮物を、10mLのKHPO緩衝液(0.02M、pH4.0)中に溶解させた後、0.2μmの濾過膜(ドイツ、Sartorius社製、Minisart NY25型)により濾過した。得られた濾過物を、以下の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のための被験試料として用いた。
【0046】
加えて、非発酵キノコ製品水抽出物又は非発酵豆乳(両者共に微生物で処理せずに凍結乾燥した)を対照群として用い、上述の酸加水分解法にかけ、これらの非発酵被験試料を作製した。
【0047】
(2)HPLC
紫外線検出器(日本、日立製作所、UV−VIS検出器、L−7420型)を装備した高速液体クロマトグラフィー・システム(日本、日立製作所製、L−7100型液体クロマトグラフィー)を用いて、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、及びキサンチンの含量を測定した。HPLCに用いられるカラムは、Hypersil BDS C18型カラム(粒子サイズ:5μm、全長:250mm、内径:4.6mm)である。HPLCの作動条件は以下:移動相は0.02MのKHPO緩衝液(pH4.0)であり;流速は1mL/分であり;被験試料の注入量は10μLであり;検出波長は254nmであり;アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、及びキサンチンの標準物質の保持時間は、それぞれ、9.59分間、6.79分間、7.24分間、及び8.10分間である。各被験試料は、少なくとも3回にわたり解析された。総プリン含量は、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、及びキサンチンの測定含量を合計することによって計算する。
【0048】
(3)総プリン含量の低減百分率の計算:
キノコ製品水抽出物及び豆乳に関する総プリン含量の低減百分率は、「(2)HPLC」という名称の前節に従い計算される総プリン含量を以下の式:
A=(B−C)/B×100 (1)
A=(B’−C’)/B’×100 (2)
[式中、A=総プリン含量の低減百分率
B=非発酵キノコ製品水抽出物の総プリン含量
B’=非発酵豆乳の総プリン含量
C=キノコ製品水抽出物発酵液の総プリン含量
C’=豆乳発酵液の総プリン含量]
に代入することにより計算することができる。
【0049】
(例1)
アデニン、グアニン、及び尿酸を消化することが可能な微生物の予備的スクリーニング
実験材料:
1.以下の実験において用いられる202種の食品安全菌株は、食品産業研究開発研究所(FIRDI)(331 Shih−Pin Road、Hsinchu 300、Taiwan)付属の生体物質供給源収集研究センター(BCRC)から購入した。202種の食品安全菌株は、以下の18属:アセトバクテル属、アスペルギルス属、バシルス属、ビフィドバクテリウム属、ボトリティス属、腸球菌属、グルコンアセトバクテル属、グルコノバクテル属、ラクトバシルス属、ラクトコックス属、クサレケカビ属、アオカビ属、プロピオニバクテリウム属、リゾプス属、サッカロミセス属、スポロラクトバシルス属、ストレプトコックス属、及びトリコデルマ属に属する。
【0050】
2.以下の実験で用いられる尿酸寒天培地は、表1に示すレシピに従い調合された。
【表1】

【0051】
3.以下の実験において、アデニン寒天培地及びグアニン寒天培地は、アデニン及びグアニンを尿酸の代わりに用いることを除き、表1に示すレシピに主に従って調合された。
【0052】
実験手順:
202種の食品安全菌株は、BCRCにより示唆される最適条件(温度及び培地など)に従い活性化された。その後、各食品安全菌株を尿酸寒天培地、アデニン寒天培地、グアニン寒天培地上に接種して、最適温度で7日間にわたって培養した。尿酸寒天培地、アデニン寒天培地、グアニン寒天培地上における各食品安全菌株の増殖状態は、目視により直接観察された。
【0053】
結果:
202種の食品安全菌株のうち24菌株(受託番号及び名称を表2に示す)は、アデニン寒天培地、グアニン寒天培地、及び尿酸寒天培地上の各々において増殖可能であり、これにより、アデニン、グアニン、及び尿酸を増殖のためのエネルギー源として用いることが可能である。したがって、本出願人らは、該24菌株が、プリン塩基を消化する能力を有しうると推定する。
【0054】
特に、本出願人らは、本実験で用いられた202種の食品安全菌株のうち、11菌株がニホンコウジカビであり、11菌株がリゾプス・オリザエであることを見出した。しかし、アデニン、グアニン、及び尿酸を消化することが可能なのは、11菌株のニホンコウジカビのうちで6菌株にすぎず、11菌株のリゾプス・オリザエのうち6菌株にすぎない。この事実は、ニホンコウジカビ又はリゾプス・オリザエに属するすべての菌株がアデニン、グアニン、及び尿酸を消化する能力を有するわけではないことを示す。
【表2】

【0055】
(例2)
シイタケ水抽出物発酵液の総プリン含量に対するプリン塩基を消化することが可能な菌株の効果
上記の例1から得られる24菌株が、プリン化合物を分解することが可能であることを確認するため、以下の実験を実施した。
【0056】
実験手順:
A.プリン塩基を消化することが可能な菌株の胞子接種物の調製:
上記の例1から得られた24菌株を表3に示す培養条件に従って10日間にわたって培養し、各菌株が各培地上で増殖して胞子を生成しうるようにした。20個のガラスビーズ(直径=40mm)を各培地に添加した後、各培地上における胞子がガラスビーズに付着するまで振とうした。5mLの滅菌水を用いてガラスビーズを洗浄し、ガラスビーズに付着した胞子を懸濁させた。結果として得られる懸濁液を、本例における胞子接種物として用いた。
【表3】

【0057】
B.シイタケ水抽出物に関する総プリン含量の低減百分率の決定
24菌株の各々について「A.プリン塩基を消化することが可能な菌株の胞子接種物の調製」という名称の前節から得られた3.5mLずつの各胞子接種物をシイタケ水抽出物中に接種した後、150rpmの振とう速度及び表3に示す各培養温度で、16時間にわたり、培養物を発酵させた。結果として得られるシイタケ水抽出物の発酵培養物を、3000×gで20分間にわたって遠心分離した。シイタケ水抽出物発酵液である上清を得た。前述の24菌株を用いて作製された、シイタケ水抽出物発酵液及び非発酵シイタケ水抽出物のすべてを凍結乾燥させ、全般的実験手順の「1.総プリン含量の低減百分率の決定」という名称の節で説明した手順に従い、総プリン含量の低減百分率を決定した。
【0058】
結果:
表4は、プリン塩基を消化することが可能な24菌株の各々を用いるシイタケ水抽出物の発酵培養物から結果として得られる、シイタケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率を示す。表4を参照すると、BCRC 10272(バシルス・コアグランス(Bacillus coagulans Hammer))を除き、24菌株のうち23菌株が、シイタケ水抽出物の総プリン含量を低下させることが可能である。特に7菌株(すなわち、枯草菌BCRC 14718、ニホンコウジカビBCRC 30118、ニホンコウジカビBCRC 30133、ニホンコウジカビBCRC 30222、ニホンコウジカビBCRC 30235、リゾプス・オリザエBCRC 31108、及びリゾプス・オリザエBCRC 31152)は、総プリン含量を68%超低下させることができる。ニホンコウジカビBCRC 30235は、総プリン含量を100%低減することも可能である。
【表4】

【0059】
結果を検証するため、以下のさらなる手順を実施することを除き、全般的実験手順の「1.総プリン含量の低減百分率の決定」という名称の節で説明された手順に全般的に従い、総プリン含量を68%超低下させることが可能な前述の7菌株を用いて作製されたシイタケ水抽出物の凍結乾燥発酵液を、総プリン含量の低減百分率についてさらに解析した:HPLCを実施する前に、各被験試料から4アリコート(各々が10μLずつを有する)ずつを採取し、それぞれに、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、及びキサンチンの標準物質を添加し;HPLCを実施して、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、及びキサンチンの標準物質の実際の保持時間を測定し;前述の実際の保持時間に基づいて、各被験試料を解析した。結果を表5に示す。
【0060】
表5を参照すると、枯草菌BCRC 14718及びリゾプス・オリザエBCRC 31152を除き、7菌株のうち5菌株(すなわち、ニホンコウジカビBCRC 30118、ニホンコウジカビBCRC 30133、ニホンコウジカビBCRC 30222、ニホンコウジカビBCRC 30235、及びリゾプス・オリザエBCRC 31108)がプリン化合物を消化する能力を確かに有し、これにより、シイタケ水抽出物の総プリン含量を効果的に低減することが可能である。5菌株のうち、ニホンコウジカビBCRC 30235は、総プリン含量を53.5%超低下させることができるため、最良のプリン化合物消化能を有する。
【表5】

【0061】
ニホンコウジカビBCRC 30118、ニホンコウジカビBCRC 30133、ニホンコウジカビBCRC 30222、ニホンコウジカビBCRC 30235、及びリゾプス・オリザエBCRC 31108は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)からも購入することができ、その受託番号は、それぞれ、ATCC 11493、ATCC 26850、ATCC 44193、ATCC 26831、及びATCC 52362である。表5に示す結果に基づき、本出願人らは、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)、ニホンコウジカビATCC 26850(BCRC 30133)、及びニホンコウジカビATCC 44193(BCRC 30222)を選択して、以下の実験を実施した。
【0062】
(例3)
異なるキノコ製品水抽出物の総プリン含量、総タンパク質含量、及び総多糖含量に対するニホンコウジカビBCRC 30235の胞子接種物濃度及び発酵時間の効果
異なるキノコ製品水抽出物の総プリン含量、総タンパク質含量、及び総多糖含量が、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物濃度及び発酵時間によりどのような形で影響を受けるかを理解するため、エノキダケ水抽出物、ヒラタケ水抽出物、及びシイタケ水抽出物を以下の実験で用いた。
【0063】
実験手順:
A.ニホンコウジカビBCRC 30235の胞子接種物の調製:
本実験では、血球計(ペンシルベニア州、ホーシャム、Hauser Scientific社製、Bright−Line)を用いて胞子接種物中における胞子量を計算したことを除き、上記例2の「A.プリン塩基を消化することが可能な菌株の胞子接種物の調製」という名称の節で説明した手順に主に従って、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物を作製した。
【0064】
B.キノコ製品水抽出物発酵液の作製:
まず、シイタケ水抽出物、ヒラタケ水抽出物、及びエノキダケ水抽出物を135本の振とうフラスコに加え、45本ずつの振とうフラスコのセットが同じキノコ製品水抽出物を含有するようにした。「A.ニホンコウジカビBCRC 30235の胞子接種物の調製」という名称の前節から得られたニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物を45本ずつ3セットの振とうフラスコに接種して、各セット45本ずつの振とうフラスコにおいて結果として得られる混合物が、3つの最終胞子接種物濃度(胞子3.4×10個/mL、同1.3×10個/mL、及び同3.4×10個/mL)を有するようにした。すなわち、各セット45本ずつの振とうフラスコ内の混合物のうちで、各サブセット15本ずつの振とうフラスコ内の混合物が、同じ胞子接種物濃度を有するように形成した。25℃及び150rpmに設定した条件で振とうフラスコを恒温インキュベーター・シェーカー内に入れ、発酵培養した。異なる時点(16時間、24時間、32時間、40時間、及び48時間)において、3種のキノコ製品の各々につき、同じ胞子接種物濃度を有する混合物を含有する3本ずつの振とうフラスコ(3種のキノコ製品の各々について9本ずつの振とうフラスコ)をインキュベーター・シェーカーから取り出した後、キノコ製品水抽出物の発酵培養物を、3000×gで20分間にわたって遠心分離した。キノコ製品水抽出物発酵液である上清の一部を採取し、残留タンパク質百分率及び残留多糖百分率を決定した。上清の残留部分(すなわち、キノコ製品水抽出物発酵液)及び非発酵キノコ製品水抽出物を凍結乾燥させ、全般的実験手順の「1.総プリン含量の低減百分率の決定」という名称の節で説明した手順に従い、総プリン含量の低減百分率を決定した。
【0065】
C.残留タンパク質百分率の決定:
Bio−Radタンパク質アッセイ・キット(Bio−Rad社製、型番:500−0006)を用いて、総タンパク質含量を測定した。まず、「B.キノコ製品水抽出物発酵液の作製」という名称の前節から得られた100μLのキノコ製品水抽出物発酵液を試験管に加えた後、5mLの5倍濃度に希釈したタンパク質アッセイ色素試薬濃縮物を添加して、20〜30分間にわたり混合した。その後、1mLの結果として得られる混合物を採取し、分光光度計(Beckman社製、DU−800型)を用いて、595nmの波長におけるその吸光度を測定した。同様に、同じ手順に従い、100μLの非発酵キノコ製品水抽出物を用いて、595nmの波長における吸光度を測定した。
【0066】
加えて、ウシ血清アルブミン標準液の濃度(0μg/mL、6.25μg/mL、12.5μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、及び100μg/mL)及び各吸光度(OD595)をプロットすることにより、標準曲線を作製した。
【0067】
標準曲線により、前述の結果として得られる混合物(すなわち、キノコ製品水抽出物発酵液と5倍濃度に希釈したタンパク質アッセイ色素試薬濃縮物との混合物、及び非発酵キノコ製品水抽出物と5倍濃度に希釈したタンパク質アッセイ色素試薬濃縮物との混合物)の吸光度(OD595)を、タンパク質濃度(μg/mL)に変換した。キノコ製品水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率は、計算された濃度を以下の式:
D=(E/F)×100 (3)
[式中、D=残留タンパク質百分率
E=キノコ製品水抽出物発酵液のタンパク質濃度
F=非発酵キノコ製品水抽出物のタンパク質濃度]
に代入することにより計算することができる。
【0068】
D.残留多糖百分率の決定:
「B.キノコ製品水抽出物発酵液の作製」という名称の前節から得られたキノコ製品水抽出物発酵液を、脱イオン水を用いて5倍に希釈した。0.2mLの希釈液を採取して試験管内に入れた後、0.8mLの95%アルコールで均一に混合した。結果として得られる混合物を−20℃で1時間にわたって冷凍庫に入れて多糖を沈殿させた後、4℃、12,000rpmで25分間にわたり遠心分離した。0.8mLの75%アルコールで粗多糖沈殿物をすすぎ、その後、4℃、12,000rpmで25分間にわたり遠心分離して不純物を除去した。結果として得られる沈殿物を0.2mLの脱イオン水で溶解させ、これにより、試料溶液を得た。0.2mLの試料溶液を新たな試験管に入れた後、0.2mLの5%フェノール液を添加し、1mLの濃縮硫酸をゆっくりと添加して均一に混合した。混合物を30分間にわたって反応させ、室温まで冷却した。1mLの混合物を用いて、分光光度計(Beckman社製、DU−800型)を用いる490nmの波長でその吸光度を測定した。同様に、非発酵キノコ製品水抽出物も、吸光度を測定する同じ手順にかけた。
【0069】
加えて、グルコース標準液の濃度(0μg/mL、20μg/mL、40μg/mL、60μg/mL、80μg/mL、及び100μg/mL)及び各吸光度(OD490)をプロットすることにより、標準曲線を作製した。
【0070】
標準曲線により、混合物(すなわち、キノコ製品水抽出物発酵液を含有する混合物、及び非発酵キノコ製品水抽出物を含有する混合物)の吸光度(OD490)を、多糖濃度(μg/mL)に変換した。キノコ製品水抽出物発酵液に関する残留多糖百分率は、計算された濃度を以下の式:
G=(H/I)×100 (4)
[式中、G=残留多糖百分率
H=キノコ製品水抽出物発酵液の多糖濃度
I=非発酵キノコ製品水抽出物の多糖濃度]
に代入することにより計算することができる。
【0071】
結果:
図1(A)、1(B)、及び1(C)は、それぞれ、シイタケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率、並びにシイタケ水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率及び残留多糖百分率を示す。ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の3種の胞子接種物濃度を用いて、シイタケ水抽出物の発酵培養を実施した。総プリン含量の低減百分率、残留タンパク質百分率、及び残留多糖百分率は、シイタケ水抽出物の発酵培養の異なる時点(16時間、24時間、32時間、40時間、及び48時間)において決定された。
【0072】
図1(A)を参照すると、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物濃度が胞子1.3×10個/mLのとき、シイタケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率が最も高い。特に、総プリン含量は16時間で61%低減され、総プリン含量は48時間で84%低減される。図1(B)及び1(C)を参照すると、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物濃度が胞子1.3×10個/mLのとき、シイタケ水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率は、発酵培養の時間経過と共に、68%から16%へと低下するが、その残留多糖百分率は、75%〜95%の範囲内にとどまる。
【0073】
図2(A)、2(B)、及び2(C)は、それぞれ、ヒラタケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率、並びにヒラタケ水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率及び残留多糖百分率を示す。ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の3種の胞子接種物濃度を用いて、ヒラタケ水抽出物の発酵培養を実施した。総プリン含量の低減百分率、残留タンパク質百分率、及び残留多糖百分率は、ヒラタケ水抽出物の発酵培養の異なる時点(16時間、24時間、32時間、40時間、及び48時間)において決定された。
【0074】
図2(A)を参照すると、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物濃度が胞子1.3×10個/mLのとき、ヒラタケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率が最も高い。特に、総プリン含量は48時間で61%低減される。図2(B)及び2(C)を参照すると、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物濃度が胞子1.3×10個/mLのとき、ヒラタケ水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率が発酵培養の時間経過と共に明らかに低下することはなく、約45%〜65%の範囲内にとどまり、その残留多糖百分率は、約90%〜110%の範囲内にとどまり、他の2種の胞子接種物濃度から結果として得られる残留多糖百分率よりも高い。
【0075】
図3(A)、3(B)、及び3(C)は、それぞれ、エノキダケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率、並びにエノキダケ水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率及び残留多糖百分率を示す。ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の3種の胞子接種物濃度を用いて、エノキダケ水抽出物の発酵培養を実施した。総プリン含量の低減百分率、残留タンパク質百分率、及び残留多糖百分率は、エノキダケ水抽出物の発酵培養の異なる時点(16時間、24時間、32時間、40時間、及び48時間)において決定された。
【0076】
図3(A)を参照すると、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物濃度が胞子1.3×10個/mLのとき、エノキダケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率が最も高い。特に、総プリン含量は40時間で73%低減され、総プリン含量は48時間で97%低減される。
【0077】
ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物濃度が胞子3.4×10個/mLのとき、エノキダケ水抽出物の総プリン含量の低減百分率は、40時間後まで低下することに注意されたい。総プリン含量の上昇は、エノキダケ水抽出物の濃厚な特性から生じる。エノキダケ水抽出物の発酵培養物を3000×gで20分間にわたり遠心分離してニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)を除去したが、エノキダケ水抽出物の濃厚な特性及びニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の高胞子接種物濃度により、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の不完全な除去が生じた。したがって、エノキダケ水抽出物発酵液中に残留するニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)のプリン含量により、エノキダケ水抽出物発酵液の総プリン含量が上昇する。エノキダケ水抽出物発酵液中に残留するニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)量は発酵培養の時間経過と共に上昇し、これにより、エノキダケ水抽出物発酵液の総プリン含量が上昇する。
【0078】
図3(B)及び3(C)を参照すると、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)の胞子接種物濃度が胞子1.3×10個/mLのとき、エノキダケ水抽出物発酵液に関する残留タンパク質百分率が発酵培養の時間経過と共に明らかに低下することはなく、約20%〜35%の範囲内にとどまり、その残留多糖百分率は、32時間後に約50%まで低下するが、48時間後には96%まで上昇する。
【0079】
結果は、ニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)が、シイタケ水抽出物、ヒラタケ水抽出物、及びエノキダケ水抽出物中におけるプリン化合物を効果的に消化しうることを示す。胞子1.3×10個/mLの胞子接種物濃度を有するキノコ製品水抽出物中にニホンコウジカビATCC 26831(BCRC 30235)を接種すると、プリン化合物を最も有効に消化することができる。
【0080】
(例4)
豆乳の総プリン含量に対するニホンコウジカビBCRC 30133及びニホンコウジカビBCRC 30222の効果
実験手順:
A.ニホンコウジカビBCRC 30133及びニホンコウジカビBCRC 30222の胞子接種物の調製:
本実験では、7日間にわたって発酵培養を実施し、血球計を用いて胞子接種物中における胞子量を測定したことを除き、上記例2の「A.プリン塩基を消化することが可能な菌株の胞子接種物の調製」という名称の節で説明した手順に主に従って、ニホンコウジカビATCC 26850(BCRC 30133)、ニホンコウジカビATCC 44193(BCRC 30222)の胞子接種物を作製した。
【0081】
B.豆乳の総プリン含量の低減百分率の決定:
1Kgのダイズ及び8Kgの水をホモジナイザー(米国、Vita−Mix社製、VM0101B型)内に入れ、15分間にわたってホモジナイズした。結果として得られるホモジネートを30分間にわたって煮沸し、これにより豆乳を形成した。35mLの豆乳を6本の250mL振とうフラスコの各々に加えた後、121℃及び0.103MPaで15分間にわたり滅菌した。振とうフラスコが室温まで冷却されたら、「A.ニホンコウジカビBCRC 30133及びニホンコウジカビBCRC 30222の胞子接種物の調製」という名称の前節で得られたニホンコウジカビATCC 26850(BCRC 30133)、ニホンコウジカビATCC 44193(BCRC 30222)の胞子接種物を、胞子1.3×10個/mLの胞子接種物濃度で6本の振とうフラスコに接種して、各セット3本ずつの振とうフラスコが同じ微生物の胞子接種物を含有するようにした。25℃及び150rpmに設定した条件で16時間にわたり振とうフラスコを恒温インキュベーター・シェーカー内に入れ、発酵培養した。結果として得られる豆乳の発酵培養物を、3000×gで20分間にわたって遠心分離した後、豆乳発酵液である上清を採取した。豆乳発酵液及び非発酵豆乳を凍結乾燥させ、全般的実験手順の「1.総プリン含量の低減百分率の決定」という名称の節で説明した手順に従い、総プリン含量の低減百分率を決定した。
【0082】
結果:
結果は、胞子1.3×10個/mLの胞子接種物濃度を有する豆乳中に、ニホンコウジカビATCC 26850(BCRC 30133)、ニホンコウジカビATCC 44193(BCRC 30222)をそれぞれ接種して16時間にわたり発酵培養すると、豆乳の総プリン含量の低減百分率値は、それぞれ、15.24%±6.37%及び39.93%±2.33%である。この結果に基づき、本出願人らは、ニホンコウジカビATCC 26850(BCRC 30133)、ニホンコウジカビATCC 44193(BCRC 30222)が、プリン化合物含有飲料の総プリン含量を効果的に低下させうると考える。
【0083】
本明細書で引用されるすべての特許及び参考文献のほか、その中に記載された参考文献は、参照によりその全体が本発明に組み込まれる。矛盾のある場合、定義を含む本記載が優先される。
【0084】
上記の特定の実施形態への参照により本発明を説明してきたが、本発明の範囲及び精神から逸脱しない限りにおいて、多数の改変及び変更を行いうることが明らかである。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によって示される形でのみ限定されることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食材のプリン含量を低減する方法であって、第1のプリン含量レベルを有する可食材を、プリン化合物を消化することが可能な微生物で処理し、その結果、このようにして処理された可食材が、第1のプリン含量レベルよりも低い第2のプリン含量レベルを有するようにするステップを含み、前記微生物が、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ATCC 11493、ニホンコウジカビATCC 26850、ニホンコウジカビATCC 44193、ニホンコウジカビATCC 26831、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)ATCC 52362、及びこれらの組合せからなる群から選択される方法。
【請求項2】
微生物が、ニホンコウジカビATCC 26850、ニホンコウジカビATCC 44193、ニホンコウジカビATCC 26831、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
処理が20℃〜37℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
可食材がキノコ製品、野菜製品、アルコール飲料、果実飲料、野菜飲料、又は発酵製品である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
可食材がキノコ製品又は野菜製品である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
可食材がキノコ製品水抽出物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
可食材が豆乳である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
キノコ製品水抽出物を処理するのに用いられる微生物が胞子3.4×10〜3.4×10個/mlの濃度を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
豆乳を処理するのに用いられる微生物が胞子3.4×10〜3.4×10個/mlの濃度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法から得られる可食材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−83276(P2011−83276A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−107988(P2010−107988)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(500251881)フード インダストリイ リサーチ アンド ディベラップメント インスチチュート (2)
【Fターム(参考)】