説明

合わせガラス用中間膜

【課題】 耐水性および可塑剤との相溶性に優れるビニルアセタール系重合体からなる合わせガラス用中間膜を提供する。
【解決手段】 α−オレフィン単位を1〜15モル%含有し、1,2−グリコール結合の含有量が1〜3モル%、重合度が500〜2000、けん化度が80.0〜99.99モル%のビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られる、アセタール化度が45〜80モル%のビニルアセタール系重合体からなる合わせガラス用中間膜により上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルアセタール系重合体を用いた合わせガラス用中間膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアセタール系重合体は、ビニルアルコール系重合体をアルデヒド化合物を用い、酸性条件下でアセタール化することにより得られることが古くから知られている。ビニルアルコール系重合体は、通常、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位を有することから、該ビニルアルコール系重合体をアセタール化することにより得られるビニルアセタール系重合体は、これら2種類の単量体単位に加え、ビニルアセタール単位を含む少なくとも3種類の単量体単位から構成される。近年、多種類のビニルアルコール系重合体が提案されるようになっていることから、これらと種々のアルデヒドを組合わせることにより、多くの種類のビニルアセタール系重合体が知られるようになってきている。
【0003】
その中でも、ビニルアルコール系重合体とホルムアルデヒドから製造されるビニルホルマール系重合体、ビニルアルコール系重合体とアセトアルデヒドから製造されるビニルアセタール系重合体、およびビニルアルコール系重合体とブチルアルデヒドから製造されるビニルブチラール系重合体は、商業的に重要な位置を占めている。
特に、ビニルブチラール系重合体は、自動車や建築物の窓ガラスの中間膜として用いられているだけでなく、セラミック成形用バインダー、感光性材料、インキ用分散剤などの種々の工業用分野において広く用いられている。
【0004】
ビニルブチラール系重合体は、親水性のヒドロキシ基と疎水性のブチルアセタール基を有することから、親水性と疎水性を兼ね備えており、上記の種々の用途でその特長を発揮している。ビニルブチラール系重合体は、特に分子中のヒドロキシ基の存在が、例えば、ガラスとの接着性やセラミックなどとのバインダー力などの点で重要な役割を果たしているが、一方で、空気中の水分を吸収しやすい、ビニルブチラール系重合体から形成された皮膜を長期間保存した場合に、該皮膜に含まれる可塑剤がブリードアウトしやすいなどの問題を生じる場合があり、これらを両立することが求められている。すなわち、ビニルブチラール系重合体には、従来の特長を維持したままで、耐水性の向上および可塑剤との相溶性の改善を図ることが求められている。
【0005】
また、ビニルブチラール系重合体は、自動車や建築物の窓ガラスに用いられる合わせガラスの中間膜として広く使用されている。しかしながら、近年、合わせガラスの性能向上に対する要求は益々高くなっている。例えば、合わせガラスが高湿度の条件下に長時間曝された場合、合わせガラスの端部から水が浸入したり、可塑剤との相溶性の不具合などにより白化するという問題がある。この問題点を解決する目的で、例えば、特殊なシリコンオイルを併用したり(特許文献1など)、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエートなどを用いる(特許文献2)などの種々の提案がなされている。しかし、トリエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエートなどを可塑剤として用いる際には、特許文献3などに開示されているように、従来のビニルブチラール系重合体では、非常に限定された組成範囲でしか用いることができないという問題点があった。
【0006】
合わせガラスの中間膜として、α−オレフィンにより変性されたビニルアセタール系重合体を用いることが提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、当時の技術レベルでは、先に指摘した問題点が考慮されておらず、問題点を改善するに至っていないのが現状である。
【0007】
ビニルアセタール系重合体は、セラミック成形用バインダーの分野では、例えば、セラミック積層コンデンサーやセラミック電子回路基板を製造する過程において成形用バインダーとして使用されており、中でも、セラミックグリーンシートを作成する時のバインダーとして広く賞用されている。
特に近年、携帯電話、ノート型パソコンなどの精密電気機器などについて小型化・軽量化することが望まれるようになっており、これらに用いられる電気・電子部品についても小型化・高性能化が求められている。
【0008】
例えば、セラミック積層コンデンサーでは、小型で大容量のコンデンサーが望まれており、電極部分またはセラミック部分の厚みをより薄くしたり、大容量化を図る試みがなされており、技術的にはセラミックグリーンシートの薄膜化が重要な課題となっている。このような薄膜化を行うには、粒径が小さいセラミック粉体を原料として用いる必要があるが、セラミック粉体の粒径を小粒子化すると、セラミック粉体の表面積が増大して凝集しやすくなるため、セラミックグリーンシートの表面に凹凸が生じやすくなる、均質なセラミックグリーンシートを得るのが困難になる、シートが薄膜化されることにより強度が低下する、などの問題が生じる。
【0009】
これらの問題点は、特に近年の電気・電子部品の小型化・軽量化によりクローズアップされており、例えば特許文献5などにα−オレフィン変性ビニルアセタール系重合体を用いる例が開示されているが、当時の技術レベルでは、先に指摘した問題点が考慮されておらず、問題点を改善するに至っていないのが現状である。
【0010】
ビニルアセタール系重合体は、塗料の分野では、自動車用の塗料、焼付けエナメル、ショッププライマー、ウォッシュプライマー、粘着剤ラッカー、タールまたはニコチン上の絶縁コート、プラスチック用の塗料、ニトロセルロースラッカー、ペーパーワニスなどに用いられている。また、包装材をプリントするのに用いられる印刷インキのバインダーとして、低溶液粘度のビニルブチラール系重合体が用いられている。この印刷インキは、有機質基体および無機質基体に対する粘着性が優れていることから、ポリオレフィンフィルム、金属箔、セルロースアセテートフィルム、ポリアミドフィルムおよびポリスチレンフィルムをプリントするのに適している。
【0011】
特に近年、印刷機は高速で運転されることが多いことから、印刷機の高速運転を実現するために、印刷インキが所望の粘度において高い顔料含有率を有しており、かつ印刷により成形される塗膜の厚さが薄い場合でも、色の強度が大きいことが必要であるとされている。一般的に、印刷インキにおいて顔料含有率を高くするためには、その溶液粘度を低くすることが重要である。印刷インキの溶液粘度を低くするためには、低重合度のビニルアセタール系重合体を使用することが考えられるが、完全けん化ビニルアルコール系重合体をアセタール化することにより製造される低重合度ビニルアセタール系重合体を用いる場合には、ビニルアセタール系重合体の水溶液がゲル化しやすい、顔料含有率を高くすることができないなどの問題点があった。
【0012】
これらの問題点を解決する目的で、例えば、特定の加水分解度を有するビニルアルコール系重合体から製造されるビニルブチラール系重合体を用いる方法(特許文献6)、1−アルキルビニルアルコール単位および1−アルキルビニルアセテート単位を有するビニルアルコール系重合体を原料としたビニルアセタール系重合体を用いる方法(特許文献7)などが提案されている。しかしながら、これらの方法によって、上記の問題点についてある程度の改善効果は見られるものの、必ずしも満足すべき効果が得られているとは言いがたい。
【0013】
また、熱現像性感光材料は、従来のハロゲン化銀を用いた湿式方式の感光材料と比較して、現像のための処理工程が簡潔であること、余分な化学廃液が生じないことなどから特に医療分野でのX線写真などの用途に実用化されている。熱現像性感光材料は、有機銀塩、還元剤および有機銀イオンに対して触媒的に接しているハロゲン化銀を、ビニルアセタール系重合体などの造膜性結合材を用いて、プラスティックフィルムなどの支持体上に塗布することにより得られる。
【0014】
これらの熱現像性感光材料は、その熱現像性感光材料の製造に用いられる塗工液の保存安定性、熱現像性感光材料を現像した際の感度、現像後の画像の保存安定性などに問題点があり、これまでに、特定のイオン基を含有するビニルアセタール系重合体を用いる方法(特許文献8)、2種類の特定の重合度からなるビニルアセタール系重合体を組合せて用いる方法(特許文献9)などが提案されている。しかしながら、これらの方法によって上記問題点の改善が十分なされたとは言い難いのが現状である。
【0015】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開平7−314609号公報
【特許文献2】国際公開第00/18698号パンフレット
【特許文献3】特表2001−515527号公報
【特許文献4】特開昭63−79741号公報
【特許文献5】特開昭63−79752号公報
【特許文献6】特開平11−349889号公報
【特許文献7】特表2000−503341号公報
【特許文献8】特開2001−222089号公報
【特許文献9】特開2002−201215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、従来の特長を維持したままで耐水性が向上し、かつ可塑剤との相溶性が改善されたビニルアセタール系重合体を用いたガラス用中間膜、該ガラス用中間膜を用いた合わせガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記の課題を達成するために鋭意検討した結果、特定のビニルアルコール系重合体を原料にしたビニルアセタール系重合体を用いることで、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、α−オレフィン単位を1〜15モル%含有し、1,2−グリコール結合の含有量が1〜3モル%、重合度が500〜2000、けん化度が80.0〜99.99モル%のビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られる、アセタール化度が45〜80モル%のビニルアセタール系重合体を主成分とする安全ガラス用中間膜である。
【発明の効果】
【0018】
本発明で用いるビニルアセタール系重合体は、α−オレフィン単位および1,2−グリコールを特定の割合で含み、かつ重合度およびけん化度で規定されたビニルアルコール系重合体をアセタール化することにより得られるもので、親水性と疎水性をバランスよく兼ね備えており、耐水性に優れている上に可塑剤との相溶性にも優れている。
本発明の合わせガラス用中間膜はこのようなビニルアセタール系重合体を主成分とするものであり、合わせガラスとの接着性接着性に優れており、また得られる合わせガラスは端部の耐白化性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明において、ビニルアセタール系重合体は、α−オレフィン単位を1〜15モル%含有し、1,2−グリコール含有量が1〜3モル%、重合度が500〜2000、けん化度が80.0〜99.99モル%のビニルアルコール系重合体をアセタール化することにより製造される。
【0020】
本発明においてビニルアセタール系重合体の製造に用いられるビニルアルコール系重合体(以下「PVA」と略記する)は、重合度が500〜2000の範囲内にあることを要する。PVAの重合度が2000を超える場合には、PVAの水溶性が低下し、ビニルアセタール系重合体を製造するのが困難になる。
【0021】
PVAの重合度は800〜1900がより好ましく、1000〜1700が特に好ましい。PVAの重合度が500未満の場合には、合わせガラス用中間膜として十分な強度が発揮されないことがある。PVAの重合度が2000を超える場合には、ビニルアセタール系重合体の粘度が大きくなるため、成形性が低下することがある。
【0022】
本発明において、PVAの重合度とは粘度平均重合度を意味し、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAをけん化度が99.5モル%以上になるまでけん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求めることができる。
P=([η]×1000/8.29)(1/0.62)
【0023】
本発明においてビニルアセタール系重合体の製造に用いられるPVAは、けん化度が80.0〜99.99モル%の範囲内にあることを要する。PVAのけん化度が80.0モル%に満たない場合には、PVAの水溶性が低下し、ビニルアセタール系重合体の製造が困難になり、PVAのけん化度が99.99モル%を超える場合には、PVAを製造するのが困難になる。
【0024】
PVAのけん化度は85〜99.99モル%の範囲内にあるのが好ましく、90〜99.5モル%がさらに好ましく、92〜99.2モル%が特に好ましい。PVAのけん化度が85モル%未満の場合には、ビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下し、あるいは合わせガラス端部の耐白化性が低下することがある。
【0025】
本発明においてビニルアセタール系重合体の原料に用いられるPVAは、α−オレフィン単位を1〜15モル%含有していることが必要である。α−オレフィン単位が1モル%に満たない場合には、そのようなPVAから得られるビニルアセタール系重合体の耐水性が低下し、あるいはビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下する。α−オレフィン単位が15モル%を超える場合には、PVAの水溶性が低下し、ビニルアセタール系重合体を製造するのが困難になる。
【0026】
PVAにおけるα−オレフィン単位の含有量は2〜10モル%がより好ましく、3〜7モル%が特に好ましい。α−オレフィン単位の含有量が1モル%に満たない場合には、ビニルアセタール系重合体と合わせガラスとの密着性が低下し、ビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下し、あるいは合わせガラス端部の耐白化性が低下することがある。
【0027】
α−オレフィン単位としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどの炭素数10以下の直鎖状α−オレフィンのほか、イソブテンなどの炭素数10以下の分岐状α−オレフィンなどに基づく単位が挙げられる。これらの中でも、炭素数4以下のα−オレフィンに基づく単位が好ましく、特にエチレンに基づく単位が好ましい。
【0028】
PVAに含まれるα−オレフィン単位の量は、以下の方法により求めることができる。
(1)PVAの前駆体であるα−オレフィン単位を含有するポリビニルエステルをn−ヘキサン/アセトンで再沈精製を3回以上十分に行った後、80℃の温度で減圧下に3日間乾燥を行うことにより、分析用の試料を作成する。例えば、PVA中に含まれるα−オレフィン単位の種類がエチレンの場合には、分析用の試料をDMSO−d6に溶解して80℃でプロトンNMRを測定し、ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7〜5.2ppm)とエチレンおよびビニルエステルの主鎖メチレンに由来するピーク(0.8〜1.6ppm)からエチレンの含有量を算出する。
【0029】
(2)PVAをピリジン/無水酢酸中で加熱することにより、PVA中のヒドロキシ基をアセチル化し、水/アセトンによる再沈精製を十分行い、80℃の温度で減圧下に3日間乾燥を行うことにより、分析用の試料を作成する。分析用の試料からα−オレフィン単位の量を求める方法は、上記(1)と同様である。
【0030】
(3)ビニルアセタール系重合体をアルコール溶媒中で塩酸ヒドロキシアミンと反応させ、得られた反応物を水/アルコールで十分に再沈精製してPVAとし、PVAをピリジン/無水酢酸中で加熱することにより、PVA中のヒドロキシ基をアセチル化し、水/アセトンによる再沈精製を十分行い、80℃の温度で減圧下に3日間乾燥を行うことにより、分析用の試料を作成する。分析用の試料からα−オレフィン単位の量を求める方法は、上記(1)と同様である。
【0031】
本発明において、PVAは1〜3モル%の1,2−グリコール結合を含有していることが必要である。1,2−グリコール結合の含有量が1モル%に満たない場合には、そのようなPVAから得られるビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下し、1,2−グリコール結合の含有量が3モル%を超える場合にも、ビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下する。
【0032】
1,2−グリコール結合の含有量が1モル%に満たないと、ビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下し、あるいは合わせガラス用中間膜と合わせガラスとの密着性が低下する。1,2−グリコール結合の含有量が3モル%を超えると、ビニルアセタール系重合体の耐水性が低下し、あるいはビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下する。
【0033】
1,2−グリコール結合の含有量の調整方法としては、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体とその他の単量体とを共重合してビニルエステル系重合体を製造する際に重合温度を調整したり、ビニルエステル系単量体とビニレンカーボネートなどの他の単量体とを共重合する方法などが挙げられる。
【0034】
本発明において、PVAが下記式(1)を満たしている場合には、このようなPVAを用いることにより得られるビニルアセタール系重合体は耐水性がより向上し、また可塑剤との相溶性がより良好なものとなる。式(1)を満たすPVAを用いることにより得られるビニルアセタール系重合体を、合わせガラス用中間膜に用いた場合に、より顕著な効果がもたらされる。
−0.012×Fn+1.24≦含有量(モル%)≦−0.022×Fn
+2.23 ・・・(1)
(上記式中、含有量(モル%)は1,2−グリコール結合の含有量を表し、Fnはα−オレフィン単位の含有量(モル%)を表す。)
【0035】
本発明において、PVAの1,2−グリコール結合の含有量はNMRのピークから求めることができる。すなわち、PVAをけん化度が99.9モル%以上になるまでけん化し、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃の温度で減圧下に2日間乾燥を行うことにより、分析用の試料を作成する。分析用の試料をDMSO−D6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた後、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定する。ビニルアルコール単位のメチンに由来するピーク(3.2〜4.0ppm;積分値A)と、1,2−グリコール結合の1つのメチンに由来するピーク(3.25ppm;積分値B)から、次式にしたがって1,2−グリコール結合の含有量を算出する。
1,2−グリコール結合含有量(モル%)=B×(100−Et)/100A
(上記式中、Etはエチレン変性量(モル%)を表す。)
【0036】
PVAの1,2−グリコール結合の含有量は、ビニルアセタール系重合体から求めることもできる。この場合には、ビニルアセタール系重合体をアルコール溶媒中で塩酸ヒドロキシアミンと反応させ、得られた反応物を水/アルコールで十分に再沈精製してPVAとし、それ以降の操作は上記と同様にして分析用の試料を作成する。
【0037】
本発明においてビニルアセタール系重合体の原料に用いられるPVAは、カルボン酸およびラクトン環を0.02〜5モル%含有していることが好ましい。ここでカルボン酸はそのアルカリ金属塩を包含し、アルカリ金属としてはカリウム、ナトリウムなどが挙げられる。
【0038】
本発明において、PVAが下記式(2)を満たしている場合には、このようなPVAを用いることにより得られるビニルアセタール系重合体は耐水性がより一層向上し、また可塑剤との相溶性がより一層良好なものとなる。式(2)を満たすPVAを用いることにより得られるビニルアセタール系重合体を、合わせガラス用中間膜に用いた場合に、より一層顕著な効果がもたらされる。
−1.95×10−5×P+0.045≦含有量(モル%)≦−1.38×
10−4×P+0.91 ・・・(2)
(上記式中、含有量(モル%)はカルボン酸及びラクトン環の含有量を表し、Pはビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度を表す。)
【0039】
カルボン酸およびラクトン環を有するPVAの製造法としては、(i)酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体とカルボン酸およびラクトン環を生成する能力を有する単量体とを共重合して得られたビニルエステル系重合体を、アルコールまたはジメチルスルホキシドなどの溶液中でけん化する方法、(ii)メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのカルボン酸を含有するチオール化合物の存在下で、ビニルエステル系単量体を重合し、得られたビニルエステル系重合体をけん化する方法、(iii)酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合する際に、ビニルエステル系単量体およびビニルエステル系重合体のアルキル基への連鎖移動反応を起こし、高分岐ビニルエステル系重合体を得た後にそれをけん化する方法、(iv)エポキシ基を有する単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をカルボキシル基を有するチオール化合物と反応させた後、けん化する方法、(v)PVAとカルボキシル基を有するアルデヒド類とのアセタール化反応を行う方法などが挙げられる。
【0040】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを得る観点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0041】
また、カルボン酸およびラクトン環を生成する能力を有する単量体としては、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などに由来するカルボキシル基を有する単量体;アクリル酸またはその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸またはその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミドなどのメタクリルアミド誘導体が挙げられる。
【0042】
PVAに含まれるカルボン酸およびラクトン環の量は、プロトンNMRのピークから求めることができる。すなわち、PVAをけん化度が99.95モル%以上になるまでけん化し、十分にメタノール洗浄を行い、90℃の温度で減圧下に2日間乾燥を行うことにより、分析用の試料を作成する。PVAに含まれるカルボン酸およびラクトン環の量は、PVAの製造法(i)〜(v)に応じて、以下の方法にしたがって求めることができる。
【0043】
(i)の場合
分析用の試料をDMSO−d6に溶解し、プロトンNMRを用いて60℃で測定する。アクリル酸、アクリル酸エステル類、アクリルアミド、アクリルアミド誘導体などの単量体は、主鎖メチンに由来するピーク(2.0ppm)から、またメタクリル酸、メタクリル酸エステル類、メタクリルアミド、メタクリルアミド誘導体などの単量体は、主鎖に直結するメチル基に由来するピーク(0.6〜1.1ppm)から、常法により含有量を算出する。フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などに由来するカルボキシル基を有する単量体は、分析用の試料をDMSO−d6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた後、プロトンNMRを用いて60℃で測定する。ラクトン環のメチンピーク(4.6〜5.2ppm)から、常法により含有量を算出する。
【0044】
(ii)および(iv)の場合
硫黄原子に結合するメチレンに由来するピーク(2.8ppm)から、含有量を算出する。
(iii)の場合
分析用の試料をメタノール−d4/DO=2/8に溶解し、プロトンNMRを用いて80℃で測定する。末端のカルボン酸もしくはそのアルカリ金属塩のメチレン(下記の構造式1および構造式2)に由来するピーク(2.2ppm;積分値A、2.3ppm;積分値B)、末端のラクトン環のメチレン(下記の構造式3)に由来するピーク(2.6ppm;積分値C)、ビニルアルコール単位のメチンに由来するピーク(3.5〜4.15ppm;積分値D)から、下記式を用いて含有量を算出する。
【0045】
カルボン酸およびラクトン環の含有量(モル%)
=50×(A+B+C)×(100−Fn)/(100×D)
(上記式中、Fnはα−オレフィンの変性量(モル%)を表す。)
【0046】
(構造式1)
(Na)HOOCCH2CH2CH2
【0047】
(構造式2)
NaOOCCH2CH2CH(OH)〜
【0048】
(構造式3)
【化1】

【0049】
(構造式4)
【化2】

【0050】
本発明において用いられるPVAは、発明の効果を損なわない範囲であれば、ビニルアルコール単位、α−オレフィン単位、ビニルエステル単位および前述のカルボン酸およびラクトン環を生成する能力を有する単量体単位以外の単量体単位を含有していてもよい。このような単量体単位としては、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタムなどのN−ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテルなどのヒドロキシ基含有のビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテルなどのアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン類;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オールなどのヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などに由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミンなどに由来するカチオン基を有する単量体などの各種単量体に由来する単量体単位が挙げられる。これらの単量体単位の含有量は、通常20モル%以下、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。
【0051】
本発明において用いられるPVAは、前述のカルボン酸を有するメルカプタンを除く2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタンなどのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体とエチレンとを共重合し、得られたビニルエステル系共重合体をけん化することによっても得ることができ、この場合には末端が変性されたPVAが得られる。
【0052】
ビニルエステル系単量体とα−オレフィン単量体との共重合の方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒で重合を行う塊状重合法またはアルコールなどの溶媒中で重合を行う溶液重合法が通常採用される。溶液重合法を採用して重合を行う際に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)などのアゾ系開始剤、および過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物系開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当であり、30℃〜120℃が好ましく、40℃〜80℃がさらに好ましい。
【0053】
α−オレフィンとビニルエステル系単量体とを共重合させることによって得られるビニルエステル系重合体は、次いで、公知の方法にしたがって、アルコールまたはジメチルスルホキシド溶液中でけん化される。
【0054】
ビニルエステル系重合体をけん化するに際し、触媒として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質が用いられる。アルカリ性物質はビニルエステル単位に対するモル比で0.004〜0.5の量で用いられるのが好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。アルカリ性物質はけん化反応の初期に一括して添加してもよいし、あるいはけん化反応の途中で追加して添加してもよい。
【0055】
ビニルエステル系重合体のけん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、メタノールを用いるにあたり含水率を0.001〜1重量%に調整するのが好ましく、0.003〜0.9重量%がより好ましく、0.005〜0.8重量%が特に好ましい。
【0056】
ビニルエステル系重合体をけん化する際に、ビニルエステル系重合体の濃度を10〜70重量%にするのが好ましく、20〜65重量%がより好ましい。けん化反応の温度は、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。けん化反応の時間は、5分間〜10時間が好ましく、10分間〜5時間がより好ましい。ビニルエステル系重合体のけん化を行う方法としては、バッチ法や連続法など公知の方法が適用可能である
【0057】
ビニルエステル系重合体をけん化することにより得られたPVAは、次いで洗浄に付される。使用可能な洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、ヘキサン、水などが挙げられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水を単独でまたは混合液として用いるのが好ましい。
【0058】
洗浄液は、PVA100重量部に対して通常2〜10000重量部の量で用いられるのが好ましく、3〜3000重量部がより好ましい。洗浄時の温度は、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄の時間は、20分間〜10時間が好ましく、1時間〜6時間がより好ましい。PVAを洗浄する方法としては、バッチ法や向流洗浄法など公知の方法が適用可能である。
【0059】
上記の方法により製造された洗浄後のPVAは、公知の方法にしたがって、酸性条件下含水溶媒中でアセタール化され、ビニルアセタール系重合体が得られる。本発明において用いられるビニルアセタール系重合体はアセタール化度が45〜80モル%であり、50〜80モル%が好ましく、60〜80モル%が特に好ましい。
【0060】
ビニルアセタール系重合体のアセタール化度が45モル%に満たない場合には、PVAをアセタールした際に得られる粉末状の反応生成物の回収が困難になったり、得られるビニルアセタール系重合体の耐水性が低下し、あるいはビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下する。
【0061】
ビニルアセタール系重合体のアセタール化度が45モル%に満たないと、ビニルアセタール系重合体を合わせガラス用中間膜に用いた場合に、高湿度下で合わせガラス端部の耐白化性が低下する。
【0062】
ビニルアセタール系重合体のアセタール化度が80モル%を超えると、ビニルアセタール系重合体の製造が困難になったり、ビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下したり、あるいはビニルアセタール系重合体を合わせガラス用中間膜に用いた場合に、高湿度下で合わせガラス端部の耐白化性が低下する。
【0063】
PVAをアセタール化する方法としては、例えば、a)該PVAを水に加熱溶解して5〜30%濃度の水溶液を調製し、これを5〜50℃まで冷却した後、所定量のアルデヒドを加えて−10〜30℃まで冷却し、酸を添加することにより水溶液のpHを1以下にしてアセタール化反応を開始する方法、b)該PVAを水に加熱溶解して5〜30%濃度の水溶液を調製し、これを5〜50℃まで冷却し、酸を添加することにより水溶液のpHを1以下にした後−10〜30℃まで冷却し、所定量のアルデヒドを加えてアセタール化反応を開始する方法などが挙げられる。
【0064】
アセタール化反応に要する時間は通常1〜10時間程度であり、反応は攪拌下に行うことが好ましい。また、上述した方法でアセタール反応を行った場合に、ビニルアセタール系重合体のアセタール化度が上昇しない場合には、50〜80℃程度の高い温度で反応を継続してもよい。
【0065】
アセタール化反応後に得られる粉末状の反応生成物を濾過し、アルカリ水溶液で中和した後、水洗、乾燥することにより、目的とするビニルアセタール系重合体が得られる。
【0066】
アセタール化反応に用いられるアルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。好ましいアルデヒド化合物の例は炭素数4以下のアルキルアルデヒド、およびベンズアルデヒドであり、特にブチルアルデヒドが好ましい。
また、必要に応じて、カルボン酸を含有するアルデヒド化合物を併用してもよい。
【0067】
アセタール化反応の際に使用される酸としては、通常、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、およびp−トルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、アセタール化反応後に得られる粉末状の反応生成物を中和するのに用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物のほか、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系化合物が挙げられる。
【0068】
本発明で用いるビニルアセタール系重合体を合わせガラス用中間膜に用いる場合、ビニルアセタール系重合体に可塑剤が添加される。使用しうる可塑剤としては、トリエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジn−ヘプタノエートなどが挙げられ、その添加量は好ましくは、ビニルアセタール系重合体100重量部に対し20〜100重量部、好ましくは30〜50重量部である。可塑剤の添加量が20重量部に満たない場合には、合わせガラス用中間膜を製造する際に中間膜が硬くなり過ぎて、裁断性が低下することがあり、100重量部を超える場合には、可塑剤がブリードアウトしやすくなる。
【0069】
合わせガラス用中間膜と合わせガラスとの接着力を調整する目的で、ビニルアセタール系重合体に対して、従来公知の炭素数2〜10のカルボン酸金属塩を添加してもよい。金属塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどのアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属が挙げられる。ビニルアセタール系重合体に対する炭素数2〜10のカルボン酸金属塩の添加量は、1〜200ppmが好ましく、10〜150ppmがさらに好ましい。
【0070】
ビニルアセタール系重合体には、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤などの一般的に公知の添加剤を添加してもよい。
【0071】
ビニルアセタール系重合体から合わせガラス用中間膜を製造するには、ビニルアセタール系重合体に、可塑剤およびその他の添加剤を所定量配合して均一に混練し、押出法、カレンダー法、プレス法、キャスティング法、インフレーション法などの成形方法を用いて、シート状に製膜する方法が挙げられる。
【0072】
合わせガラス用中間膜の厚みは、通常0.3〜1.6mmであり、合わせガラス用中間膜は単層で用いても、あるいは2枚以上を積層して用いてもよい。
【0073】
ビニルアセタール系重合体から製造された合わせガラス用中間膜を用いて、合わせガラスを製造する方法は、特に限定されない。その方法として、例えば、2枚の透明なガラス板の間に合わせガラス用中間膜を挟んでゴムバックに入れ、減圧吸引しながら約70〜110℃の温度で予備的に接着し、次いで、オートクレーブを用いて約120〜150℃の温度で、約1〜1.5MPaの圧力下で本接着を行うことにより、合わせガラスを得ることができる。
【0074】
合わせガラスに用いることができるガラス板は特に制限されず、例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、熱線吸収板ガラス、着色された板ガラスなどの無機透明ガラス板、ポリカーボネート板、ポリメチルメタクリレート板などの有機透明ガラス板などが挙げられる。
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は特に断らない限り重量基準を意味する。
【0076】
[PVAの分析方法]
PVAの分析は、特に断らない限りJIS−K6726に記載の方法にしたがって行った。
PVAに含まれるα−オレフィン単量体の量、カルボン酸およびラクトン環の含有量、並びに1,2−グリコール結合の含有量は、前述した方法にしたがって、500MHzのプロトンNMR測定装置(JEOL GX−500)を用いて求めた。
【0077】
[ビニルアセタール系重合体の分析方法]
ビニルアセタール系重合体のアセタール化度は、DMSO−d6に溶解したサンプルを500MHzのプロトンNMR測定装置(JEOL GX−500)を用いて求めた。
【0078】
合成例
(PVAの合成)
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、開始剤の添加口およびディレー溶液の添加口を備えた250Lの加圧反応槽に酢酸ビニル124.4kg、メタノール25.5kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素ガスによるバブリングを行い、系中を窒素置換した。次いで、反応槽の圧力が0.48MPaとなるようにエチレンを導入した。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)をメタノールに溶解して濃度2.8g/Lの溶液を調製し、これに窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記反応槽の内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液90mlを注入し、重合を開始した。重合中は重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を280ml/hrで連続的に添加して重合を実施した。4時間経過後、重合率が40%となったところで、反応槽を冷却して重合を停止した。なお、重合時に反応槽の圧力が除々に低下するように操作し、重合が終了した時点で反応槽の圧力は0.44MPaまで低下した。重合を停止した後、反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで、重合後の反応液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル系重合体を40%含有するメタノール溶液を得た。
ビニルエステル系重合体を40%含有するメタノール溶液を用い、これに適当量のメタノール、水酸化ナトリウム10重量%を含有するメタノール溶液をこの順番で加え、40℃でけん化反応を開始した。なお、けん化反応開始時のビニルエステル系重合体の固形分濃度は30重量%であった。水酸化ナトリウムを含有するメタノール溶液の添加は攪拌下に行われ、水酸化ナトリウムの添加量はビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対するモル比で0.02であった。水酸化ナトリウムを含有するメタノール溶液の添加を開始して約2分後に得られたゲル化物を粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチルを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、白色のPVA固体を濾別した。得られたPVA固体に5倍量のメタノールを加え、室温で3時間放置するという操作でPVA固体を洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心法により脱液したPVAを乾燥機に入れ、70℃で1日間放置して乾燥を行った。このようにして(PVA−1a)を得た。
反応条件を表1〜表6に示す内容に変更した以外はPVA−1aと同様にして、各種のPVA(PVA−2a〜PVA−30a及びPVA−1b〜PVA−24b)を合成した。各PVAについてその分析値を表7〜表12に示す。
【0079】
【表1】


【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
【表7】

【0086】
【表8】


【0087】
【表9】


【0088】
【表10】


【0089】
【表11】


【0090】
【表12】


【0091】
実施例1
(ビニルアセタール系重合体の合成)
480gのPVA(PVA−1a)を5520mlの水中に投入し、溶液の温度を攪拌下に90℃まで昇温して溶解させた後、30℃まで冷却し、ブチルアルデヒド271gを添加して分散させた後14℃まで冷却し、20%濃度の塩酸溶液72gを添加して反応を開始し、溶液の温度を14℃に保ちつつ20分間で滴下した。塩酸溶液の滴下後、溶液の温度が14℃の状態で40分間反応を行った後、20%濃度の塩酸溶液330gを30分間で滴下し、その滴下終了後、約0.6℃/分の昇温速度で65℃まで温度を上げ、溶液の温度が65℃の状態を60分間維持した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、析出した粒状物を濾別して水で十分に洗浄した。洗浄後の粒状物を中和させるために、該粒状物を0.3%水酸化カリウム溶液に入れ、該溶液を70℃で再び穏やかに加温した。さらに、水で洗浄することによって過剰のアルカリを除去した後、粒状物を乾燥した。このようにしてビニルアセタール系重合体(VAP−1a)を得た。
反応条件を表13〜表18に示す内容に変更した以外はVAP−1aと同様にして、各種のビニルアセタール系重合体(VAP−2a〜VAP−37a及びVAP−1b〜VAP−30b)を合成した。各ビニルアセタール系重合体についてその分析値を表13〜表18に示す。
【0092】
【表13】


【0093】
【表14】


【0094】
【表15】


【0095】
【表16】


【0096】
【表17】


【0097】
【表18】


【0098】
ビニルアセタール系重合体(VAP−1a)を230℃、20MPaの条件で5分間プレスすることにより、厚み200μmのフィルムを作成し、以下の測定方法にしたがって平衡含水率および吸水率を測定した。測定結果を表19に示す。
(平衡含水率)
フィルムを20℃、90%RHの雰囲気に2週間放置し、放置前後のフィルムの重量変化から平衡含水率を測定した。なお、平衡含水率は次式より算出した。
平衡含水率(%)=(放置後のフィルムの重量−放置前のフィルムの重量)/放置前のフィルムの重量×100
(吸水率)
20℃の蒸留水にフィルムを24時間浸漬し、フィルムの表面に付着した水をカーゼで完全に拭き取った後、浸漬前後のフィルムの重量変化から吸水率を測定した。なお、吸水率は次式より算出した。
吸水率(%)=(浸漬後のフィルムの重量−浸漬前のフィルムの重量)/浸漬前のフィルムの重量×100
【0099】
ビニルアセタール系重合体(VAP−1a)と可塑剤との相溶性を以下の方法により評価した。評価結果を表19に示す。
(可塑剤との相溶性)
ビニルアセタール系重合体(VAP−1a)100部に対して、トリエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエート40部を加えて可塑化し、70℃にて5分間ロール練りを行い、さらに170℃、5MPaの条件でプレスすることにより、厚さ0.6mmの可塑化フィルムを作成した。可塑化フィルムの重量(初期の重量)を予め測定し、そして重量を測定した後の可塑化フィルムを30℃、80%RHの雰囲気に2週間放置し、表面にブリードした可塑剤をガーゼで完全に拭き取った後、五酸化二リンの存在下にデシケータ中で2週間放置し、重量を測定(試験後の重量)した。試験前後の可塑化フィルムの重量変化率を次式より求め、以下の基準にしたがって可塑剤との相溶性を評価した。
重量変化率(%)=(初期の重量−試験後の重量)/初期の重量×100
判断基準:
A:重量変化率が1%未満
B:重量変化率が1%以上3%未満
C:重量変化率が3%以上
【0100】
実施例2〜14
表13に示すビニルアセタール系重合体(VAP−2a〜VAP−14a)について、実施例1と同様にして、平衡含水率および吸水率を測定し、さらにビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性を評価した。測定結果および評価結果を表19に示す。
【0101】
【表19】


【0102】
比較例1〜9
表14に示すビニルアセタール系重合体(VAP−1b〜VAP−9b)について、実施例1と同様にして、平衡含水率および吸水率を測定し、さらにビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性を評価した。測定結果および評価結果を表20に示す。
【0103】
【表20】


【0104】
表19に示す結果より、本発明に相当するビニルアセタール系重合体は、平衡含水率および吸水率が低く、可塑剤との相溶性が優れていることが分かる。特に、1,2−グリコール結合の含有量が前記式(1)を満足し、かつカルボン酸およびラクトン環の含有量が前記式(2)を満足するビニルブチラール系重合体(VAP−1a〜VAP−4a、VAP−8aおよびVAP−14a)は、平衡含水率および吸水率が低い上に、可塑剤との相溶性が顕著に優れている。
一方、表20に示す結果より、本発明で規定する範囲外の物性を有するであるビニルアセタール系重合体は、特に可塑剤との相溶性が著しく劣っていることが分かる。
【0105】
実施例15(合わせガラスの製造)
実施例1の可塑剤との相溶性の評価に用いた可塑化フィルムの製造において、ビニルアセタール系重合体(VAP−1a)に対して酢酸マグネシウム50ppmを添加した以外は同様にして、厚み0.6mmの可塑化フィルムを得た。得られた可塑化フィルムを2枚のガラス板(厚さ2.5mm、幅300mm、長さ300mm)の間に挟んでゴムバックに入れ、15mmHg減圧下で15分間脱気し、100℃の条件で20分間真空プレスして仮接着を行った後、ゴムバックから取り出し、オートクレーブを用いて130℃、1.5MPaの条件で15分間本接着を実施した。このようにして得られた合わせガラスについて、合わせガラス周縁部の白化の状態を以下の方法により評価し、さらに可塑化フィルムのガラス板に対する接着性をパンメル値で評価した。評価結果を表21に示す。
(合わせガラス周縁部の白化の状態)
合わせガラスを80℃、95%RHの雰囲気に1ヶ月間放置した後、端部からの白化距離を測定した。なお、白化距離は、合わせガラスの端部から連続して白化している部分の距離を白化距離として測定し、以下の基準にしたがって白化の状態を評価した。
A:端部からの白化距離が1mm未満
B:端部からの白化距離が1mm以上5mm未満
C:端部からの白化距離が5mm以上
(パンメル値)
合わせガラスを−18℃の温度で1時間以上放置した後、頭部の重さが1ポンドのハンマーで打って、ガラスの粒子径が6mm以下になるまで粉砕した。割れたガラス片を振り落とし、可塑化フィルムの露出度(%)を、以下の基準にしたがってパンメル値で評価した。パンメル値が大きいほど可塑化フィルムのガラス板に対する接着性が良好であることを示す。
可塑化フィルムの露出度(%) パンメル値
100 0
90 1
85 2
60 3
40 4
20 5
10 6
5 7
2以下 8
【0106】
実施例16〜28
表13に示すビニルアセタール系重合体(VAP−2a〜VAP−14a)を用いた場合の合わせガラス用中間膜について、実施例15と同様にして、合わせガラス周縁部の白化の状態および可塑化フィルムのガラス板に対する接着性を評価した。評価結果を表21に示す。
【0107】
【表21】


【0108】
比較例10〜18
表14に示すビニルアセタール系重合体(VAP−1b〜VAP−9b)を用いた場合の合わせガラス用中間膜について、実施例15と同様にして、合わせガラス周縁部の白化の状態および可塑化フィルムのガラス板に対する接着性を評価した。評価結果を表22に示す。
【0109】
【表22】


【0110】
表21に示す結果より、本発明で用いるビニルアセタール系重合体から得られた合わせガラス用中間膜は、合わせガラス端部の耐白化性およびガラス板との接着性に優れていることが分かる。特に、1,2−グリコール結合の含有量が前記式(1)を満足し、かつカルボン酸およびラクトン環の含有量が前記式(2)を満足するビニルブチラール系重合体(VAP−1a〜VAP−4a、VAP−8a、VAP−14a)から得られた合わせガラス用中間膜は、合わせガラス端部の耐白化性およびガラス板との接着性においてバランスよく優れている。
一方、表22に示す結果より、本発明で期待する範囲外の物性を有するビニルアセタール系重合体から得られた合わせガラス用中間膜は、特に合わせガラス端部の耐白化性において著しく劣っていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オレフィン単位を1〜15モル%含有し、1,2−グリコール結合の含有量が1〜3モル%、重合度が500〜2000、けん化度が80.0〜99.99モル%のビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られる、アセタール化度が45〜80モル%のビニルアセタール系重合体を主成分とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
α−オレフィン単位がエチレンに基づく単位である請求項1記載のビニルアセタール系重合体を主成分とする合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
ビニルアセタール系重合体がビニルブチラール系重合体である請求項1記載のビニルアセタール系重合体を主成分とする合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
ビニルアルコール系重合体が下記式(1)を満足するものである請求項1記載のビニルアセタール系重合体を主成分とする合わせガラス用中間膜。
−0.012×Fn+1.24≦含有量(モル%)≦−0.022×Fn
+2.23 ・・・(1)
(上記式中、含有量(モル%)は1,2−グリコール結合の含有量を表し、Fnはα−オレフィン単位の含有量(モル%)を表す。)
【請求項5】
ビニルアルコール系重合体がカルボン酸およびラクトン環を0.02〜5モル%含有することを特徴とする請求項1記載のビニルアセタール系重合体を主成分とする合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
ビニルアルコール系重合体が下記式(2)を満足するものである請求項5記載のビニルアセタール系重合体を主成分とする合わせガラス用中間膜。
−1.95×10−5×P+0.045≦含有量(モル%)≦−1.38×
10−4×P+0.91 ・・・(2)
(上記式中、含有量(モル%)はカルボン酸及びラクトン環の含有量を表し、Pはビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度を表す。)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜を用いて作製した合わせガラス。

【公開番号】特開2009−13060(P2009−13060A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217657(P2008−217657)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【分割の表示】特願2003−276411(P2003−276411)の分割
【原出願日】平成15年7月18日(2003.7.18)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】