説明

合成で、規定されたコラーゲン模倣表面を用いる細胞培養の方法

【課題】コラーゲンで被覆された表面と同等の細胞接着および細胞機能性を有し、異種物不含の化学的に規定された表面を、細胞培養のために用いる方法を提供する。
【解決手段】アミノ酸配列GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(X1はヒドロキシプロリンを表す)を含む化合物で表面を被覆し、細胞を細胞培養のために適切な条件下でインキュベーションすることにより、前記表面への細胞接着を行う方法。前記化合物を非共有結合、共有結合または蒸着その他の方法で固定、改変された表面を用いる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容が参照により本明細書に組み込まれている、2010年12月8日に出願した米国仮出願第61/420,860号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、細胞接着、細胞増殖および細胞機能を、コラーゲンで被覆された表面を模倣する表面を用いて増進する方法に関する。より具体的には、本発明は、異種物を含まない、合成の表面を利用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞培養モデルは、in vivoでの様式と同等の様式でin vitroにて接着し、増殖して機能する細胞の能力に依存する。特に、種々の培養モデルは、ケラチノサイトまたは肝細胞を利用して、in vivoでの使用の前に化合物をin vitroで試験する。例えば、ケラチノサイト培養は、皮膚の刺激を予測するために用いられ、肝細胞培養は、肝毒性を予測するために用いられる。細胞接着および細胞機能を支持するためのコラーゲンで被覆された細胞培養表面の使用は、被覆のために用いるコラーゲンが、通常、ヒトまたはその他の動物を起源とし、しばしば、ほとんど規定されないので、問題である。さらに、このようなヒトまたはその他の動物に由来するコラーゲンの使用は、移植された細胞の拒絶を導く免疫原性の応答をもたらすことがあるヒトでの治療的用途においては大きな問題になり得る。単離されたヒトコラーゲンを、このような表面を被覆するために用いることができるが、それに伴う費用は非常に高く、免疫原性の応答をまだもたらすことがある。さらに、組換えコラーゲンを用いる場合と同様に、単離されたコラーゲンの異なるバッチ中に存在する混入物の変動性により、単離されたコラーゲンの異なるバッチは、細胞培養の変動性をもたらすことがある。さらに、細胞培養における変動性が、単離されたコラーゲンと組換えのコラーゲンとの両方について通常利用される自己被覆プロセス自体から生じることがある。よって、コラーゲンを模倣する、異物を含まず、合成で、化学的に規定された表面を用いて細胞接着、細胞増殖および細胞機能を増進する方法に対する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nie,Biotechnol. Prog.,25(1):20-31(2009)
【発明の概要】
【0005】
本発明は、コラーゲンで被覆された表面と同等の細胞接着および細胞機能性を提供する、異種物を含まず、合成で、化学的に規定された表面を、細胞培養のために用いる方法を提供する。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に、ケラチノサイト、膵臓がん細胞および肝細胞接着は、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)で被覆された表面のものと同等である。さらに、ケラチノサイトの細胞増殖は、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)で被覆された表面のものと同等である。さらに、肝細胞におけるCYP450の定常活性およびCYP450の誘導は、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)で被覆された表面のものと同等である。このような方法は、その方法において用いられる表面が、ほとんど規定されず、治療的用途において免疫応答を誘発することもあるヒトまたはその他の動物に由来するコラーゲンに伴う問題を回避するので、特に望ましい。同様に、このような方法は、培養条件がより化学的に規定されるので、細胞培養アッセイにおいて特に好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある態様において、本発明は、細胞培養の方法であって、細胞の懸濁物を表面と接触させるステップであって、表面の少なくとも一部分は、アミノ酸配列GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)を含む化合物の被覆を表面上に含むステップと、前記細胞を、細胞培養のために適切な条件下でインキュベーションするステップとを含み、前記表面への細胞接着は、コラーゲンで被覆された表面への前記細胞の懸濁物の細胞接着と同等である方法を提供する。ある実施形態において、細胞は、ケラチノサイトである。別の実施形態において、細胞は、膵臓がん細胞である。さらに別の実施形態において、細胞は、肝細胞である。
【0008】
ある実施形態において、表面に接着する細胞の数は、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない対照表面よりも少なくとも2倍多い。細胞がケラチノサイトである、ある実施形態において、表面に接着する細胞の数は、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない対照表面よりも少なくとも3倍多い。細胞が膵臓がん細胞である別の実施形態において、表面に接着する細胞の数は、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない対照表面よりも少なくとも10倍多い。
【0009】
さらに別の実施形態において、表面に接着した肝細胞におけるチトクロムP450 3A4の定常活性のレベルは、コラーゲンで被覆された表面に接着した肝細胞におけるチトクロムP450 3A4の定常活性のレベルと同等である。まださらに別の実施形態において、チトクロムP450 3A4の誘導は、コラーゲンで被覆された表面に接着した肝細胞のチトクロムP450の誘導のレベルと同等である。
【0010】
ある実施形態において、表面は、細胞培養容器である。別の実施形態において、表面は、微小担体(マイクロキャリア)である。
【0011】
ある実施形態において、細胞は、加湿インキュベータ中で5%CO2を用いて37℃でインキュベートされる。ある実施形態において、細胞は、少なくとも24時間インキュベートされる。
【0012】
別の態様において、本発明は、本発明の方法を用いて培養された細胞を提供する。
【0013】
本発明のこれらおよびその他の特徴は、以下の詳細な説明を熟読することにより、よりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1Aは、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)の被覆を表面上に有する組織培養表面に接着したヒト肝細胞(ロット170)の画像である。図1Bは、GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)の被覆を表面上に有する組織培養表面に接着したヒト肝細胞(lot170)の画像である。図1Cは、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)の被覆を表面上に有する組織培養表面に接着したヒト肝細胞(ロット94)の画像である。図1Dは、GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)の被覆を表面上に有する組織培養表面に接着したヒト肝細胞(lot94)の画像である。図1Eは、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)の被覆を表面上に有する組織培養表面に接着したヒト肝細胞(ロット197)の画像である。図1Fは、GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)の被覆を表面上に有する組織培養表面に接着したヒト肝細胞(ロット197)の画像である。図1Gは、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない組織培養表面の上に存在するヒト肝細胞の画像である。
【図2】GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)(図中、「M」とする)またはコラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1;図中、「C」とする)の被覆を表面上に有する表面に接着した3名の異なる供与者からのヒト肝細胞における、pmol/分/mg蛋白質として表すチトクロムP450 3A4(CYP3A4)誘導の定常レベルと酵素活性のレベル、および誘導倍率を示すグラフの図である。
【図3】図3Aは、規定された、動物由来物フリーの培地中の、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)の被覆を表面上に有する組織培養表面に接着したヒトケラチノサイト細胞の画像である。図3Bは、規定された、動物由来物フリーの培地中の、GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)の被覆を表面上に有する表面に接着したヒトケラチノサイト細胞の画像である。図3Cは、規定された、動物由来物フリーの培地中の、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない組織培養表面の上に存在するヒトケラチノサイト細胞の画像である。
【図4】GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)(図中、「模倣」とする)またはコラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1;図中、「BD BioCoat Col1」とする)の被覆を表面上に有する表面の上に存在するヒトケラチノサイトの定量のためのMTSアッセイの後の490nmにおける吸光度のレベルを示すグラフである。
【図5】図5Aは、規定された培地中の、GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)の被覆を表面上に有する表面に接着したヒトケラチノサイト細胞の画像である。図5Bは、規定された培地中の、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)の被覆を表面上に有する組織培養表面に接着したヒトケラチノサイト細胞の画像である。図5Cは、規定された培地中の、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない組織培養表面の上に存在するヒトケラチノサイト細胞の画像の図である。
【図6】GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)(図中、「A」とする)、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1;図中、「B」とする)の被覆を表面上に有する表面、またはいずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない組織培養表面(図中、「C」とする)の上に存在するヒトケラチノサイト細胞の定量のためのMTSアッセイの後の490nmにおける吸光度のレベルを示すグラフである。
【図7】図7Aは、GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)の被覆を表面上に有する表面の上に存在するヒト膵臓がん細胞の画像である。図7Bは、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)の被覆を表面上に有する組織培養表面の上に存在するヒト膵臓がん細胞の画像である。図7Cは、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない組織培養表面の上に存在するヒト膵臓がん細胞の画像である。
【図8】GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)(図中、「模倣」とする)、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1;図中、「Col1」とする)の被覆を表面上に有する表面、またはいずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない組織培養表面(図中、「TC」とする)の上に存在するヒト膵臓がん細胞の定量のためのMTSアッセイの後の490nmにおける吸光度のレベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で用いる場合、以下の用語は、以下に記載する定義を有するものとする。
【0016】
本明細書で用いる場合、本発明の化合物で被覆された細胞培養表面とコラーゲンで被覆された細胞培養表面との比較に関する「模倣する(mimic)」および「模倣する(mimics)」との用語は、評価される1または複数の機能的特徴における相対的類似性のことをいう。望ましくは、相対的類似性の定量は、少なくとも1つの機能的特徴における少なくとも90%の類似性を示す。
【0017】
表面を被覆するための本発明で用いられる化合物は、従来の組換え技術または合成技術(例えば固相合成)を用いて生成できる。同様に、このような化合物は、従来の技術を用いて、所定の用途のために適切な程度まで精製できる。ある実施形態において、化合物は、少なくとも90%のレベルの純度を有する。有利には、このような化合物の合成による合成は、少なくとも95%以上のレベルの純度を提供できる。望ましくは、このような化合物は、97%以上のレベルの純度を有する。治療薬のようなあるいくつかの用途において、化合物は合成されることが特に好ましい。
【0018】
当業者は、表面を被覆するための本明細書に記載されるアミノ酸配列のうちの1または複数のアミノ酸を、細胞培養用の表面の上を被覆する場合に、結果として得られる化合物の、コラーゲンで被覆された表面の1または複数の機能的特性を模倣する能力を損なうことなく置換できると理解される。
【0019】
例えば、表面を被覆するための本明細書で開示される化合物の1または複数のアミノ酸は、保存的に置換できる。保存的置換は、それぞれのアミノ酸の側鎖が、類似の化学構造および極性の、遺伝子によりコードされるかもしくは遺伝子によりコードされないアミノ酸に由来する側鎖で置き換えられることと定義される。類似の側鎖を有するこの種類のアミノ酸のファミリーが、当該技術において知られている。これらは、例えば、塩基性側鎖(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分岐側鎖(トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。
【0020】
アミノ酸配列GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)を含む化合物を用いて改変された本発明の表面は、コラーゲンの1または複数の機能的特性が望まれる細胞培養のために有用である。
【0021】
本明細書に記載される化合物で改変された表面は、受動(すなわち非共有結合)被覆、化合物の共有結合による固定化または化合物の蒸着の任意のその他の方法のいずれかを利用するものでありうる。
【0022】
細胞培養で用いるための本明細書に記載される化合物で改変された表面は、細胞培養容器および微小担体(マイクロキャリア)を含む。本発明において用いるために適切な組織培養容器は、当業者に公知である。適切な容器の例は、それらに限定されないが、ディッシュ、フラスコ、マルチウェルプレートおよび顕微鏡スライドを含む。細胞培養のために適切な微小担体も、当業者に公知である。例えば、非特許文献1を参照されたい。
【0023】
有利には、本発明の表面を用いて培養された細胞は、治療的用途(例えば創傷治癒において)のために適切であり、そうでなければ免疫原性応答を誘発し、移植された細胞の拒絶さえ導くことがある、異なる供給源からの単離されたコラーゲンの使用に固有の問題を回避する。
【実施例】
【0024】
アミノ酸配列GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)を有する化合物を、商業的に利用可能なカスタムペプチド合成サービスを用いて合成した。この化合物を、次いで、細胞培養のために適切な表面の上に添加した。
【0025】
化合物により改変された表面が、コラーゲンで被覆された表面と同等に細胞接着、細胞増殖および細胞機能を増進する能力を検討するために、細胞を播種し、このような両方の表面上で同じ培養条件下で観察した。簡単に述べると、ヒト肝細胞、ヒトケラチノサイトまたはヒト膵臓がん細胞を、供給者の使用説明に従って培養した。
【0026】
BD Biosciencesからの凍結保存された誘導性のヒト肝細胞(BD Biosciencesカタログ番号454550)を、肝細胞精製キット(BD Biosciencesカタログ番号454500)を供給元の使用説明に従って用いて精製した。簡単に述べると、細胞を、3×105細胞/ウェルの密度にて、24ウェルプレートにおいて、供給元の使用説明に従って、BD BioCoatコラーゲン1またはアミノ酸配列GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)を有する化合物で被覆した表面上に播種した。細胞は、加湿インキュベータ中で5%CO2を用いて37℃でインキュベートした。2〜4時間後に、培地を除去し、細胞に、400μl/ウェルのHepatostim完全培地を供給者の使用説明に従って(BD Biosciencesカタログ番号355056)再び供給した。
【0027】
ヒト(新生児)表皮ケラチノサイトを、Invitrogen(カタログ#C−001−5C)から購入し、アミノ酸配列GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)を有する化合物または動物に由来するコラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)で被覆した表面上で、製造元の使用説明に従ってEDGS(動物の成分を含有する)サプリメントまたはS7(動物の成分を含まない)サプリメントを補ったEpilife培地中で培養した。簡単に述べると、細胞を25,000/cm2にて播種し、加湿インキュベータ中、5%CO2にて37℃で培養した。細胞を顕微鏡の下で視覚化し、画像を取得した。表面への接着は、プレーティング後の第4日〜第5日にMTSアッセイにより定量した。簡単に述べると、培地を吸引により除去し、MTS(Promegaカタログ#G3582)を含有する300μlの完全培地を、24ウェルプレートの各ウェルに加えた。細胞を、加湿インキュベータ中、5%CO2にて37℃で1時間インキュベートした。インキュベーションの後に、0.1mlの培地をBD Falcon(商標)96ウェルプレートに移し、吸光度を490nmにて測定した。
【0028】
ATCCからのPANC−1(ヒト膵臓癌株化細胞)細胞を、10%胎児ウシ血清を補ったDMEM(Invitrogenカタログ番号11885−084)で、加湿インキュベータ中で5%CO2を用いて37℃で培養した。
【0029】
播種のために培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、3mlの0.25%トリプシン−EDTAをT−75フラスコ中の細胞に加えた。フラスコを顕微鏡下で調べ、細胞が表面から一旦脱着したら、10mlの培養培地を加えてトリプシンを中和した。細胞を15mlのBD Falconチューブに移し、200×gで10分間遠心分離した。上清を除去し、細胞ペレットを、200マイクログラム/mlのBSAを有するDMEM(Invitrogenカタログ#11885−084)で1回洗浄した。細胞を、200マイクログラム/mlのBSAを有するDMEMに再懸濁し、50,000細胞/cm2にて24ウェルプレートのウェルあたり0.5mlの培地に播種した。培養表面は、陽性対照の役割をするBD BioCoatコラーゲン1またはアミノ酸配列GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)を有するペプチドにより改変された表面のいずれかであった。さらに、BDの組織培養用の処理済み表面は、陰性対照の役割を果たす。細胞を、加湿インキュベータ中で5%CO2を用いて37℃で培養した。
【0030】
播種の後の24〜48時間のインキュベーションの後に、細胞を顕微鏡を用いて視覚化し、画像を取得した。特に、細胞接着、広がりおよび増殖は、アミノ酸配列GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)を有する化合物の被覆をその上に有する表面と、コラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)の被覆をその上に有する表面との間で同等であったが、細胞接着、広がりおよび増殖は、表面上に被覆を有さない組織培養用の処理済み表面において著しく低減した。このパターンは、ヒト肝細胞(図1A〜Gを参照されたい)、ヒトケラチノサイト(図3および図5を参照されたい)およびヒト膵臓がん細胞(図7を参照されたい)において明らかであった。
【0031】
上記の視覚的な分析に加えて、MTS分析をプレーティングの後の第4日〜第5日に行って、細胞の数を定量した。簡単に述べると、培地を吸引により除去し、MTS(Promegaカタログ#G3582)を含有する300μlの完全培地を、24ウェルプレートの各ウェルに加えた。細胞を加湿インキュベータ中で5%CO2にて37℃で1時間インキュベートした。インキュベーションの後に、0.1mlの培地をBD Falcon(商標)96ウェルプレートに移し、吸光度を490nmにて測定した。
【0032】
上で論じた視覚的な観察と一致して、GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)またはコラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)の被覆を表面上に有する表面は、同等の数の細胞を有したが、いずれの被覆も有さない組織培養表面における細胞の数は、著しく低減した。このパターンは、ヒトケラチノサイト(図4および図6を参照されたい)おとびヒト膵臓がん細胞(図8を参照されたい)の両方において明らかであった。
【0033】
CYP3A4誘導を、ヒト肝細胞のプレーティングの18から24時間後に、誘導のための推奨される濃度を含む供給元(BD BioSciences)のプロトコールに従って、誘導物質としてリファンピシンを用いて開始した。陰性対照は、DMSOのみを含んだ。誘導中に、細胞を、加湿インキュベータ中で5%CO2を用いて37℃で24時間±6時間インキュベートした。誘導ステップをその後2日間、合計で3日間反復した。
【0034】
新しくプレーティングした肝細胞を約72時間±8時間誘導した後に、培地を吸引し、細胞を、予め温めたHepato−STIM培地で洗浄し、その後、基質としてテストステロンを用いるCYP3A4酵素アッセイを行った。テストステロン反応ミックスは、供給元(BD BioSciences)のプロトコールに従って調製した。培地の吸引の後に、400μlのテストステロン反応ミックスを、24ウェルプレートの各ウェルに加えた。細胞を30分間、加湿インキュベータ中で5%CO2を用いて37℃でインキュベートした。インキュベーション期間の最後に、300μlを各ウェルから回収し、エッペンドルフチューブに入れ、氷上で貯蔵した。反応を、150μlのアセトニトリルを各チューブに加えることにより停止した。試料を、次いで、5分間、室温にて14,000rpmでスピンし、上清を別のチューブに移した。上清を、その後、HPLCにより分析した。標準曲線は、6−β−テストステロンを用いて調製し、ここから、細胞により形成された6−β−テストステロンの量を定量した。
【0035】
残りの反応ミックスをプレートから回収し、細胞をPBS+1% SDS中で溶解し、細胞溶解物からの総蛋白質を、BCAキット(Pierce)を用いて定量した。酵素活性は、pmol生成物/分/mg蛋白質として報告した。
【0036】
図2に示すように、CYP3A4の定常活性のレベルおよび誘導倍率は、GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)またはコラーゲン(すなわちBD BioCoatコラーゲン1)の被覆を表面上に有する表面と同等であった。
【0037】
当業者は、上記の実施形態に、本発明の広い発明の概念を逸脱することなく変更を行うことができることを認識しよう。よって、この発明は、開示される特定の実施形態に限定されないが、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神および範囲内の改変をカバーすることを意図することが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養の方法であって、
細胞の懸濁物を表面と接触させるステップであって、
a)前記表面の少なくとも一部分が、アミノ酸配列GPCGPPGPPGPPGPPGPPGFX1GERGPPGPPGPPGPPGPPGPC(配列番号1)(式中、X1はヒドロキシプロリンを表す)を含む化合物の被覆を表面上に接触させるステップと、および
b)前記細胞を、細胞培養のために適切な条件下でインキュベーションするステップと
を含み、
前記表面への細胞接着は、コラーゲンで被覆された表面への前記細胞の懸濁物の細胞接着と同等であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記細胞が、ケラチノサイトであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、膵臓がん細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、肝細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記表面に接着する細胞の数が、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない対照表面よりも少なくとも2倍多いことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記表面に接着する細胞の数が、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない対照表面よりも少なくとも3倍多いことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記表面に接着する細胞の数は、いずれの細胞外基質蛋白質の被覆も表面上に有さない対照表面よりも少なくとも10倍多いことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記表面に接着した肝細胞におけるチトクロムP450 3A4の定常活性のレベルが、コラーゲンで被覆された表面に接着した肝細胞におけるチトクロムP450 3A4の定常活性のレベルと同等であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
チトクロムP450 3A4の誘導が、コラーゲンで被覆された表面に接着した肝細胞のチトクロムP450の誘導のレベルと同等であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記表面が、細胞培養容器であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記表面が、微小担体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が、加湿インキュベータ中で5%CO2を用いて37℃でインキュベートされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、少なくとも24時間インキュベートされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法を用いて培養されたことを特徴とする細胞。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−120531(P2012−120531A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−269066(P2011−269066)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】