説明

合成ゲノム

【課題】 水素、エタノール等の合成燃料の生成を含む種々の目的に利用可能な合成ゲノムないし合成細胞の提供。
【解決手段】 合成ゲノムを構築する方法であって、合成ゲノムの部分(複数)を含む核酸カセット(複数)を組立てる工程を含み、該核酸カセットの少なくとも1つは、化学的に合成された核酸成分(複数)から、又は化学的に合成された核酸成分(複数)のコピー(複数)から構築されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2005年12月6日付で出願された「合成ゲノム(Synthetic Genomes)」という表題の米国仮特許出願第60/742,542号の利益及び優先権を主張するものである。本出願は、2005年12月23日付で出願された「微生物へのゲノムの導入(Introduction of Genomes into Microorganisms)」という表題の米国仮特許出願第60/752,965号、2005年12月2日付で出願された「エラー修正方法(Error Correction Method)」という表題の米国仮特許出願第60/741,469号、及び2006年8月11日付で出願された「インビトロ組換え方法(In Vitro Recombination Method)」という表題の米国非仮特許出願第11/502,746号に関連するが、これらの出願は全て引用を以って本書に繰り込み、本書に記載されているものとする。
【連邦政府支援研究開発に関する宣言】
【0002】
本発明は、米国政府の支援によってなされたものである(DOE認可番号DE−FG02−02ER63453)。米国政府は、本発明に関し所定の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本発明は、一般的に、分子生物学に関し、より具体的には、合成ゲノムに関する。
【背景技術】
【0004】
従来の遺伝子工学技術は既存の配列の操作に限定されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、従来の技術によって可能となるものを超える、遺伝子的内容の劇的な改変及び配置を実行する能力(可能性)を有することが望まれる。従って、合成ゲノムが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
合成ゲノムの設計、合成、組立て及び発現のための複数の実施形態及び方法(複数)が提供される。本発明には、ゲノムの成分(複数)の合理的設計;小さな核酸フラグメントの生成及び該ゲノムの部分(複数)を含むカセット(複数)への該フラグメントの組立て(アセンブリ);該カセットの配列(複数)におけるエラーの修正;該カセットのクローニング(例えばローリングサークル型増幅のようなインビトロ方法による);カセット(複数)の組立て(アセンブリ)による合成ゲノムの形成(例えばインビトロ組換え方法による);及び生化学的な系への該合成ゲノムの導入(ないし移植)(例えば無傷intact 細胞、機能的DNAを欠くゴースト細胞又は他の小胞への該合成ゲノムの移植による)のための方法が含まれる。1つの実施形態においては、合成ゲノムは、当該ゲノムが存在する小胞(vesicle;例えば細胞)の複製を達成するために十分な情報を含む。本発明の技術は、合成ゲノム系が産生することができる有用な最終生成物、例えばエネルギー源(例えば水素又はエタノール)及び治療薬及び工業用ポリマーのようなバイオ分子に及ぶ。
【0007】
本発明には、合成ゲノムの構築方法であって、該合成ゲノムの核酸成分(複数)の生成及び組立てをする工程を含み、該ゲノムの少なくとも部分が、化学的に合成された核酸成分(複数)から、又は化学的に合成された核酸成分(複数)のコピー(複数)から構築される方法が含まれる。1つの実施形態においては、(1つの)合成ゲノム全体が、化学的に合成された核酸成分(複数)から、又は化学的に合成された核酸成分(複数)のコピー(複数)から構築される。さらに、合成ゲノムは、合成細胞ゲノム(小胞(例えば細胞又は合成小胞)の複製のために必要な配列を全て含むゲノムであって該小胞内に存在するもの)であってもよい。
【0008】
本発明により、合成細胞を構築する方法であって、合成ゲノムの構築及び該合成ゲノムの小胞(例えば細胞又は合成膜境界小胞)への導入(移植)のための種々の態様の(代表的な)方法の使用を含む方法が提供される。他の方法は、自己複製合成細胞を構築することを含み、当該作成には、合成細胞ゲノムの構築及び、該合成細胞の複製に効果的な条件下での、該合成細胞ゲノムの小胞(例えば細胞又は合成膜境界小胞)への導入(移植)のための種々の態様の(例示的な)方法の使用が含まれる。更なる方法(複数)は、目的生成物を生成することを含み、当該生成には、該目的生成物の産生に効果的な条件下で例示的な(例示された)合成細胞を培養することが含まれる。目的生成物が合成細胞ゲノムを含む合成細胞から産生される場合、該ゲノムは、該合成細胞の複製及び該目的生成物の産生に効果的な条件下で小胞と接触させられる。
【0009】
本発明の方法の他の実施形態(複数)は、合成細胞を作成することを含み、当該作成には、単細胞微生物(例えば細菌、真菌等)のような微生物からの内在(resident;オリジナル)ゲノムの部分又は全体の除去、及び、当該生物にとって外来物であり(例えば異なる種の微生物(例えば細菌)に由来し)該内在ゲノムと異なる少なくとも1つの性質を示す合成ゲノムによる置換が含まれる。種々の例示的実施形態には、この方法によって生成された合成細胞が含まれる。
【0010】
1つの例示的実施形態には、特定の環境的(例えば栄養的又は物理的)条件下において、小胞(例えば細胞)の複製を指令(ないし管理;direct)する能力を有し当該小胞に存在する合成ゲノムが含まれる。1つの実施態様においては、細胞ゲノムは、構造的構成要素の前駆体又は代謝機能のための基質として作用する小分子(例えば栄養物、ATP、脂質、糖、リン酸塩等)が小胞(例えば細胞)内に補充されるか、及び/又は、例えばリボソーム、機能的細胞膜等のような複合的成分(complex components)が補充される。これらの追加要素(成分)は、小胞/細胞の複製を達成する(例えばプログラムする)ゲノムの能力を補完又は促進することができる。別の実施形態においては、ゲノム内の配列は、細胞を産生するために及び特定のエネルギー又は環境(例えば栄養)条件下で該細胞の複製を可能にするために必要な機構及び成分の全てを提供することができる。
【0011】
更なる実施形態及び方法は、例えば生物学的剤(例えば治療剤、薬剤、ワクチン等)をコードする遺伝子、又は、適切な前駆体の存在下で有用な化合物(例えばバイオ燃料、工業的有機化学物質等)を製造可能な生成物(プロダクツ)をコードする遺伝子のような、目的とする他の(遺伝子)配列を導入するためのプラットホームとして作用し得る「最小ゲノム」を含む。1つの実施形態では、目的とする他の配列により、商業的に意味のある十分な量で生成物の製造が結果する。
【0012】
本発明の一実施形態及び方法によれば、580キロベースの環状染色体を含む482のタンパク質コード遺伝子及び43のRNA遺伝子を有するマイコプラズマ・ゲニタリウム(Mycoplasma genitalium)ゲノムの合成バージョンは、遺伝子カセット(複数)から組立てられる。個々のカセットは、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドから作成することができる。個々のカセットのいくつかのバージョンは、1つの完全な染色体へのコンビナトリアルな組立てにより数百万の異なるゲノムが生成されるように、作成することができる。これらのゲノムは、「ゲノム移植」、即ち、合成ゲノムによる細胞の内在染色体の置換によって、機能を検査することができる。更なる実施形態及び方法によれば、合成細胞は、種々の細胞構成要素ないしサブセルラー成分(全細胞物質の成分;subcellular components)から組み立てることができる。更に、遺伝子発現のために必要な転写及び翻訳「機構」(machinery)を含む、無細胞環境下ゲノムを確立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書で用いられる種々の用語の以下の説明はそれに尽きるものではなく、その他の説明事項も含まれ得る。
【0014】
「細胞ゲノム」又は「合成細胞ゲノム」とは、転写、翻訳、エネルギー産生、輸送、細胞膜及び細胞の細胞質成分の産生、DNA複製、細胞分裂等の過程のいくつか又は全てに必要な核酸及びタンパク質をコードする及び発現し得る配列(複数)を含むゲノムである。「細胞ゲノム」は、少なくとも以下の点でウイルスゲノム又は細胞小器官(オルガネラ:organelle)のゲノムと異なる:細胞ゲノムは細胞の複製のための情報を含む所、他方、ウイルス及び細胞小器官のゲノムは(時には細胞因子の寄与の下に)それら自身を複製するための情報を含むが、それらがその中に存在すべき細胞を複製するための情報を欠く。
【0015】
「外来」遺伝子又はゲノムは、内在ないし固有(resident;オリジナル)生物以外のソースに由来する、例えば該生物と異なる種に由来する遺伝子又はゲノムである。
【0016】
「ゲノム」には、ウイルスゲノム、細胞小器官(例えばミトコンドリア又は葉緑体)のゲノム、及び自己複製生物(例えば細菌、酵母、古細菌又は真核細胞)のゲノムが含まれ得る。また、ゲノムは、既知のリンネカテゴリーのいずれにも該当しない生物のための完全に新規な構築物であり得る。1つの実施形態では、遺伝子は、微生物(例えば細菌のような単細胞微生物)に由来する。遺伝子は、その微生物において見出される順序で存在していてもよく、又は、シャッフル(並び換え)されていてもよい。さらに、いくつかの遺伝子の変異型も含まれ得る。
【0017】
「膜境界小胞」は、(膜で境界付けられた小胞;membrane-bound vesicle)水性溶液が脂質系保護物質によってカプセル化されてなる小胞をいうものとする。
【0018】
細胞に関する「最小ゲノム」は、本明細書においては、特定の環境(例えば栄養)条件下で細胞の生存を可能にするために十分な最小セットの遺伝子配列(複数)から構成される又は本質的に構成されるゲノムをいうものとする。細胞小器官(オルガネラ)に関する「最小ゲノム」は、本書においては、細胞小器官が機能することを可能にするために十分な最小セットの遺伝子配列(複数)から構成される又は本質的に構成されるゲノムをいうものとする。最小ゲノムは、細胞又は細胞小器官が必須の生物学的過程(例えば転写、翻訳、エネルギー源の使用、細胞小器官又は細胞の内外への塩、栄養物等の輸送等)を実行するために十分な情報を含む必要がある。細胞又は細胞小器官に関する「最小複製ゲノム」は、更に、当該細胞又は細胞小器官の自己複製を可能にするために十分な遺伝子配列を含む。したがって、「最小複製合成ゲノム」は、少なくとも部分的に合成されたものであり、かつ特定の環境条件下において細胞若しくは細胞小器官が生存及び複製するための最小セットの遺伝子配列(複数)を含む単一のポリヌクレオチド又は一群のポリヌクレオチドである。
【0019】
「核酸」及び「ポリヌクレオチド」は、本書においては、互換的な意義で用いられる。これらには、DNA及びRNAの両方が含まれる。他のタイプの核酸、例えばPNA、LNA、改変(修飾;modified)DNA又はRNA等も、それらが本書に記載する合成オペレーション(ないし過程;operations)に関与しかつ所望の性質及び機能を示すことができることを条件に含まれる。どのタイプの核酸が本書に記載した個々の特定の実施形態又は方法に適用し得るかは、当業者であれば理解し得る。
【0020】
「合成ゲノム」には、特定の環境(例えば栄養的又は物理的)条件が充足した場合に、機能的細胞小器官又は生物が生存するための情報及び任意的にそれ自身を複製するための情報を含む単一のポリヌクレオチド又は一群のポリヌクレオチドが含まれる。該ゲノムの全体又は少なくとも部分(例えばカセット;cassette)は、化学的に合成された成分(複数)から、又は化学的に合成された核酸成分(複数)のコピー(複数)から構築される。これらのコピーは、インビボ又はインビトロ法によるクローニング及び増幅を含む種々の方法の何れかによって生成することができる。1つの実施形態においては、一つのゲノム全体が、化学的に合成された核酸から、又は化学的に合成された核酸成分(複数)のコピー(複数)から構築される。そのようなゲノムは、本書においては、「完全合成」ゲノムということもある。他の実施形態においては、ゲノムの1又は2以上の部分は、自然由来の(天然に存在する)核酸、クローン化された核酸等から組み立てる(assemble)ことができる。そのようなゲノムは、本書においては、「部分的合成」ゲノムということがある。
【0021】
合成ゲノムは、伝統的な組換えDNA技術を超える多くの利点を提供する。例えば、合成ゲノム配列の選択及び構築は、古典的な組換え技術を用いる場合よりもより容易な配列の操作を可能にし、新規な生物及び生物学的系の構築を可能にする。さらに、種々の実施形態及び方法が自動化及び高効率の処理法の適合がしやすいため、人間の介入を必要としないコンピュータ支援され及びロボット的(自動的)方法により合成ゲノム及び合成細胞の生産が可能になる。本発明の技術は、合成ゲノムの設計、構築、生物学的系への導入、有用な生成物の生物学的生産、及び該設計に対する再帰的改善の統合的プロセスへの道を開くものである。
【0022】
種々の具体的な例示的実施形態及び方法に応じて、核酸の合理的ないしインテリジェントな設計の種々の形態を採用することができる。1つの方法によれば、例えば細菌(例えばマイコプラズマ・ゲニタリア(M. genitalium)、M.カプリコルム(M. capricolum)(例えばカプリコルム亜種)、大腸菌(E. coli)、枯草菌(B. subtilis)等)の最小ゲノムを構成する遺伝子セットが同定される。1又は2以上の伝統的な又は新規な方法又はその組合せを用いることにより、この目的を達成することも可能である。1つの方法は、微生物ゲノム(例えば細菌ゲノム)中の各遺伝子の機能を個別にノックアウトし、これを基礎として、細胞の生存能を破壊することなく排除され得る推定遺伝子を決定するためのランダム飽和グローバルトランスポゾン変異導入(random saturation global transposon mutagenesis)の使用を含む。例えば、Smith et al. (1999) Proc Natl Acad Sci USA 87:826-830参照。別の1つの方法は、目的の(関心のある)微生物(例えば細菌)の機能にとって基本的な共通の遺伝子を予測するために、例えばタクソン(分類群)の全てのメンバーに共通の遺伝子を同定するために、多様な関連ゲノムの比較ゲノミクス(例えばオルソロガスな生物の配列の解析、メタゲノミクス等)を使用することを含む。既存のデータベースを用いてもよく、又は、伝統的な方法を用いて追加の生物の配列決定することによって新規なデータベースを作成してもよい。1つの方法によれば、(1つの)最小ゲノム中の遺伝子(複数)の同定は、細胞凝集物を破壊するための方法を用いて、個々の細胞のクローンを単離・増殖することによって促進される。本書の実施例Iは、マイコプラズマの最小遺伝子セットに含まれ得る遺伝子(複数)を同定するための、マイコプラズマ比較ゲノミクスの使用を示している。
【0023】
生存能のために、及び任意的に限定されたセットの条件(複数)下での複製のために、必要な推定最小セットの遺伝子の同定後に、候補最小ゲノムは、本書に記載するように構築することも可能である。1つの方法によれば、1セットの夫々通常凡そ5kbを有するオーバーラップ核酸カセット(これは遺伝子のサブセットを含む)を構築し、次いで、これらのカセットを組み立て(アセンブリ)してゲノムを形成する。組立てられたゲノムを適切な生物学的な系に導入し、このゲノムによってコードされる1又は2以上の機能/活性をモニターすることによって、このゲノムの機能/活性をさらに調べることができる。合成ゲノムは、例えば、遺伝子の部分(複数)の修飾(modify;例えば個々のヌクレオチドの欠失、改変等)又は1又は2以上のカセット内の全遺伝子の欠失;ある遺伝子又はカセットの、機能的に関連する遺伝子又は遺伝子群のような他の遺伝子又はカセットによる置換;(例えばコンビナトリアルアセンブリによる)遺伝子又はカセットの順序の再配置(並び換え、等によって更に操作することができる。そのような操作の結果は、合成遺伝子を適切な生物学的系に再導入することによって調べることができる。考慮し得る因子には、例えば、増殖速度、栄養要求及び他の代謝因子が含まれる。このようにして、どの遺伝子が最小ゲノムのために必要であるかをさらに正確に知ることができる。
【0024】
さらなる方法による合理的設計の別の1つの側面には、合成ゲノム内のどの部位が、遺伝子機能を破壊することなく、例えば特有のアイデンティファイア(例えば透かし(watermark))、発現可能な目的配列のような挿入に耐え得るかの決定が含まれる。一般的には、そのような破壊に耐え得るゲノム内の部位は、遺伝子間の結合部位(複数)、非コード領域(複数)等に存在する。
【0025】
さらに別の方法による合理的設計の別の1つの側面には、適切な調節制御エレメントの選択が含まれる。例えば、原核型細胞の場合、そのような調節制御エレメントには、プロモータ、ターミネータ、遺伝子発現調節用シグナル(例えばリプレッサ、刺激因子等)、翻訳に関与するシグナル、(例えばメチル化による)核酸の修飾に関与するシグナル等が含まれる。真核型細胞の場合は、更なる調節制御エレメントとして、スプライシング、翻訳後修飾等に関与するシグナルが含まれる。
【0026】
適用可能な更なる1つの設計方法は、合成ゲノムを形成するために組み合わされ得る適切なカセットの設計である。既知の配列を有するゲノムの実質的に正確なコピーを合成により生成する場合、当該配列中で互いに隣接するカセット、好ましくはカセットの結合を促進するために互いにオーバーラップするカセットが選択される。カセットの設計において考慮され得る要因には、例えば、セグメント(複数)は凡そ4〜6.5kbの長さであること(オーバーラップを含まないで);セグメント(複数)はオーバーラップを除いて全体としての遺伝子(whole genes)のみを含むこと;及び隣接する配列とのオーバーラップは凡そ200〜250(例えば凡そ216)bpであること、が含まれる。したがって、凡そ5kbの合成断片は、夫々、1又は2以上の完全な(complete)遺伝子を含むカセットである。これらの制約(条件)にしたがってM.ゲニタリウムの合成のために設計されるカセットの一例は、図1に示されている。
【0027】
別の一実施形態では、カセットは、互換的(interchangeable)に設計される。例えば、カセットは、カセットをゲノムから切除することを可能にする、制限酵素又はアダプタ部位のような特有の配列(複数)によって境界付けられる。カセットは、除去、操作(例えば突然変異)及びゲノムにおけるオリジナルの部位への復帰;機能的に関連する遺伝子を有するカセットのような他のカセットによる置換;例えばコンビナトリアルな態様で他のカセットと共にされる再組み合わせ(re-assort;再配置ないし並び換え)等、を施され得る。例えば、天然のソースに由来する突然変異核酸の挿入;インビボ又はインビトロの位置特異的突然変異誘発;所望の変化を含むための核酸の合成等によって、突然変異又はその他の変化を導入することができる。
【0028】
本書で説明するように、所望の生成物(例えば治療剤、バイオ燃料等)の産生を直接又は間接に引き起こす目的遺伝子は、合成ゲノムに存在し得る。そのような生成物の産生を最適化するために、該遺伝子を操作し、該操作の効果を修飾合成ゲノムの生物学的系への導入によって評価することができる。例えば、コード又は調節配列(regulatory sequences)、コドンの用い方(usage)、特定の増殖培地の使用のための適合化等を含む種々の特徴が改変され得る。評価され得る要因には、例えば、産生された所望の最終生成物の量、最終生成物に対するトレランス、頑強性(robustness)等が含まれる。そのような操作及び評価を更に複数回(rounds)実行することにより、最適化を促進することができる。そのような繰り返し行われる設計及び試験工程(本書においては「繰返し」又は「反復的」改良法、「反復的設計」又は「フィードバックループの使用」ということもある)を用いることにより、目的生成物の産生の最適化、又は合成細胞の増殖の最適化をすることができる。細胞の挙動に関する予測もなし得るが、これは、確認し又は、必要に応じ、改変することができる。さらに、本書に記載された方法に応じて合成ゲノム中の遺伝子を設計及び操作(manipulate)することにより、例えば、細胞の維持、分裂等のために重要な特徴、生物に「生命」を付与するために重要な特徴等を特定するために、実験的試験を実行することができる。
【0029】
核酸カセットの生成及び組立て(アセンブリ)のために、種々の方法を用いてことができる。第1の工程として、(1つの)目的のカセットは、通常、それから当該カセットがアセンブルされうる(即ち、当該カセットの構成要素たり得る)より小さな部分(複数)に細分化される。一般的に、このより小さな部分は、凡そ30nt〜凡そ1kb、例えば凡そ50nt(例えば凡そ45nt〜凡そ55nt)のオリゴヌクレオチドである。1つの実施形態では、オリゴヌクレオチド(複数)は、それらの組立て(アセンブリ)によるカセットの構築を容易化するために、隣接するオリゴヌクレオチドとオーバーラップするように設計される。例えば、M.ゲニタリウムについては、全体の配列は、隣接する先端及び末端オリゴヌクレオチド間で24ヌクレオチドのオーバーラップを有するオーバーラップ48量体のリストに分割され得る。M.ゲニタリウムを調製するために適切なオリゴヌクレオチドの一例が図1に示されている。オリゴヌクレオチドは、従来の方法及び装置を用いて合成することもできるが、良く知られた商業的サプライヤから入手することもできる。
【0030】
本書に記載するカセットのようなより長い分子を生成するためにオリゴヌクレオチド(複数)を組み立てるために使用可能な方法は多数あるが、例えば、Stemmer et al.(1995)(Gene 164:49-53)及びYoung et al.(2004)(Nucleic Acids Research 32:e59)に記載された方法がこれに該当する。1つの好適な方法(ポリメラーゼサイクルアセンブリ(PCA)と称される)が、Smith et al.(2003)(Proc Natl Acad Sci USA 100, 15440-5)によってφX174の5386ntゲノムの合成のために用いられた。容易に操作するために十分な材料を生成するために、これらのカセットをクローン化及び/又は増幅することは通常好ましい。いくつかの実施形態では、カセットは、従来の細胞系方法によってクローン化及び増幅される。1つの実施形態では、例えば、従来の細胞系方法によってカセットをクローン化することが困難である場合、カセットは、インビトロでクローン化される。同時係属中の米国仮特許出願第60/675,850号、第60/722,070号、及び第60/725,300号において議論されているそのようなインビトロ法の1つは、バックグラウンド合成が顕著に抑制される条件下で、ローリングサークル増幅を用いる。
【0031】
本発明の方法の種々の実施形態に応じて生成され得るカセットは、適切であればどのようなサイズであってもよい。例えば、カセットは、凡そ1kb〜凡そ20kbの範囲の長さであり得る。好都合なサイズの一例は、凡そ4〜7kb、例えば、凡そ4.5〜凡そ6.5kb、好ましくは凡そ5kbである。ある特定のポリヌクレオチドの長さに関する用語「凡そ」(about)は、本書においては、当該ポリヌクレオチドのサイズよりも約10%だけ小さいものから約10%だけ大きいものまでの範囲のポリヌクレオチドをいうものとする。カセットの組立て(アセンブリ)を容易化するために、各カセットが、そのいずれかの側(either side)にあるカセットと、例えば少なくとも凡そ50、80、100、150、200、250又は1300ntでオーバーラップすることが好ましい。そのようなカセット群を含む(例えば最小ゲノムのサイズまでの)より大きな構築物(constructs)も含まれ、本発明の例示的実施形態及び方法の種々の実施態様に応じてモジュール的態様で用いることも可能である。
【0032】
多様な方法を用いてカセットをアセンブルすることができる。例えば、カセットは、1工程又は複数工程で「チューバック」(chew-back)及び修復工程を含む組換え方法(3’又は5’エキソヌクレアーゼ活性を用いる)を用いて、インビトロでアセンブルすることができる。或いは、カセットは、ジエノククス・ラジオデュランス(Dienocuccus radiodurans)相同組換え系に由来する酵素を含むインビトロ組換え系を用いて構築することも可能である。インビボアセンブリ方法を使用することも可能である。
【0033】
実施例IIは、3つのカセットを組立てることによる16.3kbの合成マウスミトコンドリアゲノムの生成について記載している。実施例IIは、682の48量体オリゴヌクレオチドの設計及びこれらのオリゴヌクレオチドから3つのオーバーラップセグメント(カセット)へのアセンブリ(組立て)を示す。オリゴヌクレオチド(複数)は、次いで、合成DNAに対する熱損傷を低減するために、前記上掲Smith et al.(2003)に記載された方法のような方法によって、修飾されたカセットへとアセンブルされる。
【0034】
1つの方法によれば、カセットは、アセンブリされたのち、その配列を検証(確認)することができる。カセットの調製中(例えば核酸成分の合成ないしアセンブリ中)に生じたエラーを除去することは通常好ましい。使用可能なエラー修正方法としては、(1)増幅エラーを阻止するための、ミスマッチ(不適合)ヌクレオチドの修飾、タグ付加及び/又は分離をする方法;(2)エラーが除去されかつ残余のエラーフリー断片が再アセンブリされ得るフラグメントを生成するために既知又は未知の配列を有するDNA中のミスマッチを認識及び切断する酵素を用いるグローバルエラー修正方法;(3)部位特異的突然変異法;及び(4)エラーを特定し、個々の合成コピーからエラーの無い部分を選択し、該エラーフリーの部分を、例えばオーバーラップ伸長(overlap extension)PCR(OE−PCR)によってアセンブリする方法がある。エラーを認識する他の方法には、例えば、単離されたミスマッチ若しくは突然変異認識タンパク質の使用、オリゴヌクレオチド−蛍光プローブ抱合体(コンジュゲート)のハイブリダイゼーション、電気泳動/DNAチップ法、及び液相又は固相における塩基アクセス能についてアッセイする試薬によるディファレンシャル化学的切断が含まれるが、そのような方法(複数)は、エラー除去のための従来法と組み合わせることも可能である。
【0035】
1つの実施形態では、(例えば特定のシンボル又は名称をコードする、又は、例えばアルファベット文字でアミノ酸を指定する)特有の配列、又は機能を破壊しない同定可能な突然変異のような、1又は2以上の同定用特徴が合成ゲノムに導入される。そのような配列(本書においては「透かし(watermark)」ということもある)は、ゲノムが実際に人工的に合成されたことを示し及びその標示(branding)及び追跡を可能にするために役立つだけではなく、合成ゲノムと自然発生(天然に存在する)ゲノムとを識別するためにも役立ち得る。遺伝子又はカセットは、当該遺伝子又はカセットを含む核酸の選択を支援する、薬剤耐性マーカーのような選択マーカーを含むことがしばしばある。そのような選択マーカーの存在は、合成ゲノムと自然発生(天然に存在する)核酸とを識別することも可能にする。自然発生(天然に存在する)ゲノムと同一であるが、1又は2以上の上記識別用マーカーを含む合成ゲノムは、本書においては、自然発生(天然に存在する)ゲノムと「実質的に同一」(substantially identical)であるということもある。
【0036】
一実施形態による合成ゲノムは、当該ゲノムが機能することを可能にする任意の環境に存在することができる。例えば、合成ゲノムは、本書に記載されている任意の生物学的な系等(又はその他の系)に存在すること(例えば導入されること)ができる。合成ゲノムの機能及び活性、並びに合成ゲノムのエレメント(複数)の修飾の結果は、適切な生物学的な系において検査することができる。さらに、ある適切な生物学的な系において、目的のタンパク質(例えば治療剤)の生成を可能にする。いくつかの実施形態では、適切な基質が供給されれば、エネルギー源(例えば水素やエタノール)のような下流の非タンパク質性生成物も、例えば商業的に利用可能な量で、生成することができる。
【0037】
種々の適切な生物学的な系は、本発明の種々の実施形態及び方法に応じて用いることができる。例えば、1つの実施形態では、合成ゲノムは、伝統的な転写/翻訳複合系(coupled system)を含む溶液と接触される。そのような系では、核酸はそれ自身を複製することが可能であることがあり得、又は核酸を例えば周期的に補充することが必要であり得る。
【0038】
別の一実施形態では、合成ゲノムは、当該合成ゲノムが脂質系保護物質によってカプセル化(包入)されるように小胞に導入される。1つの実施形態では、合成ゲノムは、当該合成ゲノムが、任意的に複合(complex)細胞小器官(例えばリボソーム)及び/又は小分子のような所望の細胞質エレメント(複数)の存在下で、脂質組成物と、又は脂質と機能的細胞膜の他の成分との組合せ(combination)と、該脂質成分により該合成ゲノム及びその他の任意の成分がカプセル化されて合成細胞が形成される条件下で、接触されることによって、小胞内に導入される。他の実施形態では、合成ゲノムは、転写/翻訳複合系と接触され、次いで、脂質系ないし脂質基(liquid-based)小胞に包み込まれる。さらに一実施形態では、内部成分(複数)が、脂質材料によって自発的にカプセル化される。
【0039】
本発明の種々の実施形態は、内在ないし固有(resident;オリジナル)ゲノムの幾つか又は全てが除去された細菌細胞のような受容細胞に導入された合成ゲノムも含む。例えば、全内在ゲノムは、ゴースト細胞(その機能的な天然のゲノムが欠如する細胞)を生成するために除去することができ、また、内在ゲノムは、合成ゲノムによって置換することもできる。或いは、その内在ゲノムの幾つか又は全てを含む受容細胞に合成ゲノムを導入することも可能である。細胞が複製された後、内在(オリジナル)ゲノム及び合成ゲノムは分離し、該細胞に由来する細胞質エレメント及び後成的(epigenetic)エレメントを含むが、唯一のゲノム物質として、該合成ゲノム(例えば合成ゲノムのコピー)を含む後代(子孫;progeny)細胞が形成され得る。そのような細胞は、本発明の種々の実施形態及び方法による合成細胞であるが、ある種の性質、例えばヌクレオチド配列、ヌクレオチドソース、又は非ヌクレオチド系生化学的成分に関して、受容細胞とは異なる。
【0040】
ゲノム(合成、天然、又はそれらの組合せ)を細胞内に導入するために、種々のインビトロ方法を用いることができる。これらの方法には、例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション、遺伝子銃の使用等が含まれる。1つの実施形態では、合成ゲノムのようなゲノムが、寒天に固定化され、この寒天プラグ(plug)がリポソーム上に静置され、次いで、宿主細胞に導入される。いくつかの実施形態では、ゲノムは、細胞に導入される前に、フォールディング及び圧縮のために処理される。細菌ゲノムのような大きな核酸分子を細胞に挿入又は導入する方法は、本書においては、染色体移入、輸送又は移植ということがある。
【0041】
1つの実施形態によれば、合成細胞は、当該合成細胞が導入された宿主細胞に由来するエレメント(成分ないし構成要素)、例えば宿主ゲノムの一部、細胞質、リボゾーム、膜等を含むことができる。別の一実施形態では、合成細胞の構成成分(components)は、合成ゲノムの遺伝子によって及び該遺伝子により生成される生成物によってコードされる生成物に完全に由来する(derived)。もちろん、栄養物質、代謝物質及びその他の物質、並びに光及び熱のような物理的条件を、合成細胞の増殖、複製及び発現を促進するために外部から供給することも可能である。
【0042】
本発明の方法の種々の例示的実施形態は、コンピュータ支援及び/又は自動化(例えばロボット化)フォーマットに容易に適合可能である。多くの合成ゲノム(目的合成ゲノムの種々のコンビナトリアル変異体を含む)は、高スループット法を用いることにより、調製及び/又は分析を同時に実行することができる。本書に記載された種々の方法を実行するための自動化システムも(本発明に)含まれる。自動化システムは、バイオインフォマティクスコンピュータシステムを用いた選択、種々のゲノム及び合成細胞の組立て(アセンブリ)及び構築、及びそれらの性質の自動分析を行い、フィードバックして設計変更を示唆することにより、遺伝子成分から所望のゲノムの設計を可能にする。
【0043】
本書には種々の実施形態及び方法が記載されているが、これらは単なる例として記載されたに過ぎず、これらに限定されないものとして理解されるべきである。さらに、本発明の好ましい実施形態の拡がり及び範囲は、上記の例示的実施形態のいずれによっても限定されるべきではない。
【0044】
前述の記載及び以下の実施例においては、温度はすべて未修正の摂氏で示されている。さらに、特に指示がない限り、部(割合)及び百分率はすべて重量による。
【実施例】
【0045】
実施例I:最小遺伝子セット中の遺伝子を同定するためのマイコプラズマ比較ゲノミクス
マイコプラズマ比較ゲノミクス:現時点で本発明者のデータベースに存在する13の完全なゲノム配列及び2つの部分的ゲノム配列がインシリコ(in silico)実験室を構成する。全ゲノムアラインメントツールMUMMERを用いた複数のペアのマイコプラズマゲノムの比較は、近縁種(例えばM.カプリコルム(capricolum)、M.ミコイデス(mycoides)SC、及びメゾプラズマ・フロルム(Mesoplasma florum))間では、ゲノムの再編(再配置)が複製起点及びゲノムを均等に二分する点を通過する軸について対称であることを示す。再編(再配置)された遺伝子の転写の方向は、複製起点に対してほぼ常に同じである。この現象は、他の種の細菌でも観察されたが、おそらくM.カプリコルム及びM.ミコイデスSCほどには顕著ではない(実施例Iに関する図2参照)。これらの相互(逆方向の)交差は、複製終端(終点)が一定であり続けるために、ゲノムの一方の側からのDNAの大きな除去は何れも、他方の側からの同様な欠失と一致する必要があるかもしれないことを示唆している。
【0046】
実施例Iに関する図2は、オルソロガス遺伝子の位置を示すタンパク質レベルにおけるM.カプリコルムゲノムとM.ミコイデスゲノムのMUMMER比較を示す。クロスパターンは、これら2つの種の複製起点及び複製終点に対する遺伝子の位置の保存を示している。
【0047】
コアマイコプラズマ遺伝子セット:13の完全なゲノム配列は、モリクテス(Mollicutes)系統のニューモニエ(肺炎:pneumoniae)枝(ブランチ)由来の5つの種、ホミニス(hominis)枝(ブランチ)由来の4つの種、エントモプラズマタレス(Entomoplasmatales)枝(ブランチ)由来の3つの種、及びアコレプラズマタレス(Acholeplasmatales)枝(ブランチ)の由来の1つの種を含む。上記完全なゲノムの各々について、BLASTpを使用することにより、ある1つのゲノム中の遺伝子Xが別の1つのゲノムの遺伝子Yと有意なベストBLASTpヒット有するか否か、さらにYがXのベストヒットであるか否か(この場合これらの遺伝子はオルソログと称される)に基づいてオルソログテーブルを作成した。これらのテーブルを用いることにより、コアマイコプラズマ遺伝子セット、すなわち、完全に配列決定した13の全てのマイコプラズマ種に共通のオルソロガス遺伝子を同定した。さらに、これらのテーブルによって、マイコプラズマ系統樹の主要枝(ブランチ)の3つについてオルソロガス遺伝子セットが同定される。
【0048】
コアマイコプラズマ遺伝子セットは〜165の遺伝子である。このセットは、細胞内寄生体フィトプラズマ・アステリス(Phytoplasma asteris)(この種はそれが生存する植物の細胞質からその必須代謝生成物の多くを得ている)においてのみ失われている45の遺伝子を含むことによって〜200に拡大し得る。このセットは、さらに、いくつかの事例では明白でありかつ他の事例では示唆されている非オルソロガス遺伝子置換(displacements)を考慮することによって〜310遺伝子に拡大され得る。明白な例には、2つの糖非分解種ウレアプラズマ・パルヴム(Ureaplasma parvum)又はマイコプラズマ・アルスリティディス(Mycoplasma arthritidis)の一方又は両方で欠落している14遺伝子が含まれる。さらに別の96遺伝子が、前記拡大されたコア遺伝子セットに含まれる。なぜならば、オルソログは、12の完全なゲノムのうち1つだけに存在しないからである(P.アステリスは、このコアセット拡大プロセスにおいては通常無視されるほど、他の種と非常に異なる)。この13ゲノムの比較ゲノミクス分析のみに基づくと、我々のモデル合成生物(M.ラボラトリウム(laboratorium))が凡そ310遺伝子のみを必要とし、凡そ372kbpのみを含むゲノムを有することが予測される。
【0049】
それらの大きな進化速度及び遺伝子消失に対する異なる応答のために、マイコプラズマの4つの枝(ブランチ)への互いに異なる有意な進化の枝分かれが与えられたので、更に、マイコプラズマのニューモニエ、ホミニス及びエントモプラズマタレス群についての共通の遺伝子セットを決定した(後掲テーブル参照)。ニューモニエ群(これはM.ゲニタリウム、即ち、我々が計画しているM.ラボラトリウム構築物のためのプラットホームを含む)の5つのメンバーのための拡大コア遺伝子セットを考慮することは有益である。ある1つのものが、5つの群(グループ)メンバーゲノムのうちの少なくとも4つに存在するこれらの遺伝子のみを含む場合、前記拡大コアセットは391個のタンパク質コード遺伝子である。
【0050】
マイコプラズマの全ての及び複数のサブグループによって共有されるオルソロガス遺伝子セットのサイズ

【0051】
実施例II:マウスミトコンドリアゲノムの合成
マウスのミトコンドリアゲノムは16,299bpの環状DNAであり、その配列は厳密に調べられている。我々は、682の48量体を設計し、これが、実施例2に関する図3及び図4に示したような、3つのオーバーラップセグメント:S1(6,582bp)、S2(5,328bp)、及びS3(4,508bp)を有するよう構築した。
【0052】
我々は、合成生成物に対する熱損傷を減少するように修飾(改変)された、Smith et al.(2003)上掲に記載された方法によって、これら3つの断片の各々をアセンブリ(組み立て)した。上記のゲルは、高温に晒される時間を劇的に短くするそのような修飾(改変)方法の1つから得られた生成物を示す。
【0053】
完全なマウスミトコンドリアゲノムを含む3つのオーバーラップセグメントの合成は、PCAとPCRの組合せにより通例のごとく5〜6kbセグメントのDNAが構築可能であることを示し、更に、細胞ゲノムを組み立てるために5kbのカセットを構築する我々の計画を実証する。
【0054】
実施例III:M.ゲニタリウムゲノムの必須領域の5kbカセットの合成
M.ゲニタリウムゲノムの必須領域即ちリボソームタンパク質遺伝子MG149.1〜MG181の合成コピーを生成するために5kbのカセット(複数)が構築される。この18.5kb領域は、トランスポゾン挿入(MG149及びMG182)を許容する遺伝子(複数)によってフランキング(隣接)されている(挟まれている)。この領域をカバーするための、48ntの386トップストランド及び386ボトムストランドオリゴヌクレオチドのセット(複数)が合成された。これらの核酸を実施例IIIに関する図5に示す。
【0055】
これらのオリゴヌクレオチドを含む4つのオーバーラップセグメント(カセット)の組み立てを行う。
【0056】
これらの技術を用いることにより、目的の遺伝子セット(例えば単細胞生物に由来する最小ゲノム)を含む例えば4〜6kbのカセット(複数)が構築可能であり、さらに、(該カセットが)他の種との「ミックス及びマッチ」又は、例えば他の種からの、置換による変異を受けることによって、上述したように試験のために小胞又はゴースト細胞に導入可能なカスタムメイドのゲノムを得ることができる。このようにして構築した合成細胞は、機能決定のために適切な条件下で培養することができる。機能(性)を決定した後、ゲノムは、カセット(複数)の置換によって修飾(改変)することができ、そしてこのプロセスは所望の結果が得られるまで繰り返すことができる。
【0057】
当業者であれば、上述の記載から、本発明の本質的特徴を容易に確認することができ、さらに、本発明を種々の用途及び条件に適合させ、本発明を最大限まで利用するために、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の改変及び修正をすることができる。上述の具体的な実施形態は単なる例示と解すべきであり、如何なる意味においても本発明を制限するものと解すべきではない。本書及び図面に引用した全ての特許出願、特許及び刊行物の開示はすべて引用によって本書に繰り込みここに記載されているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】M.ゲニタリウムを調製するために適したオリゴヌクレオチドの一例。三角形のマークはトランスポゾン挿入の位置を示す(上側の三角形はSmith et al.(1999)Proc Natl Acad Sci USA, 87:826-830 1999に由来する)。垂直な線は「5kb」セグメントの境界を示す。
【図2】マイコプラズマの最小遺伝子セットに含まれ得る遺伝子を同定するためのマイコプラズマ比較ゲノミクスの使用(実施例I)。より詳細には、オルソロガス遺伝子の位置を示すタンパク質レベルにおけるM.カプリコルムゲノムとM.ミコイデスゲノムのMUMMER比較。クロスパターンは、この2つの種についての複製の起点及び終点に対する遺伝子位置の保存を示す。
【図3】682の48量体オリゴヌクレオチドの設計、及びこれらオリゴヌクレオチドから3つのオーバーラップセグメント(カセット)への組み立て(実施例II)。合成48量体はIDTに由来する。トップ及びボトム48量体のパターンは、3つのサブゲノムミトコンドリアDNAフラグメントの各々についてのダイアグラムに示されている。
【図4】682の48量体オリゴヌクレオチドの設計、及びこれらオリゴヌクレオチドから3つのオーバーラップセグメント(カセット)への組み立て(実施例II)。ミトコンドリアフラグメントの各々について50℃でのオリゴのTaqライゲーションに対し、末端プライマを用いて、5サイクルのPCA及び20サイクルのPCRを適用した。
【図5】M.ゲニタリウムゲノムの必須領域の5kbカセットの合成(実施例III)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成ゲノムを構築する方法であって、
合成ゲノムの部分(複数)を含む核酸カセット(複数)を組立てる工程を含み、該核酸カセットの少なくとも1つは、化学的に合成された核酸成分(複数)から、又は化学的に合成された核酸成分(複数)のコピー(複数)から構築されること
を特徴とする合成ゲノムの構築方法。
【請求項2】
前記核酸カセットの1又は2以上は、化学的に合成されオーバーラップする凡そ50ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド(複数)を組立てることによって調製されること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カセットは、凡そ4キロベースから凡そ7キロベースの長さであること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記カセットは、凡そ4.5キロベースから凡そ6.5キロベースの長さであること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記カセットは、凡そ5キロベースの長さであること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記カセット(複数)は、隣接するカセット(複数)と少なくとも凡そ200ヌクレオチドのオーバーラップをすること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記合成ゲノムは、真核細胞小器官であること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記合成ゲノムは、細菌ゲノムであること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記合成ゲノムは、最小ゲノムであること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記合成ゲノムは、最小複製ゲノムであること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記合成ゲノムは、自然発生ゲノムと実質的に同一であること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記合成ゲノムは、非自然発生ゲノムであること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記カセットの1又は2以上は、前記合成ゲノム中において容易に除去及び置換可能であること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
化学的に合成された核酸成分(複数)から、又は化学的に合成された核酸成分(複数)のコピー(複数)から、全体(entire)の合成ゲノムが構築されること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記合成ゲノムは、合成細胞ゲノムであること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
化学的に合成された核酸成分(複数)から、又は化学的に合成された核酸成分(複数)のコピー(複数)から、全体の合成細胞ゲノムが構築されること
を特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記合成ゲノムは、更に、目的生成物の産生を可能にする配列(複数)を含むこと
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記目的生成物は、エネルギー源であること
を特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記全体の合成ゲノムは、更に、目的生成物の産生を可能にする配列(複数)を含むこと
を特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記目的生成物は、エネルギー源であること
を特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記合成細胞ゲノムは、更に、目的生成物の産生を可能にする配列(複数)を含むこと
を特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記目的生成物は、エネルギー源であること
を特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記全体の合成細胞ゲノムは、更に、目的生成物の産生を可能にする配列(複数)を含むこと
を特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記目的生成物は、エネルギー源であること
を特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記合成ゲノムの成分(複数)を合理的に設計する工程を更に含むこと
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記合成ゲノムを小胞内に導入することによって、合成細胞を構築する工程を更に含むこと
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項27】
任意的に(自己複製)合成細胞の複製に効果的な条件下で、前記合成細胞ゲノムを小胞内に導入することによって該自己複製合成細胞を構築することを更に含むこと
を特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項28】
目的生成物の産生に効果的な条件下で前記合成細胞を培養することによって、該目的生成物を産生する工程を更に含むこと
を特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記自己複製合成細胞の複製及び目的生成物の産生に効果的な条件下で該自己複製合成細胞を培養することによって、該目的生成物を産生する工程を更に含むこと
を特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記方法を自動化することを更に含むこと
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記合成ゲノムを更に含むこと
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項32】
合成ゲノム。
【請求項33】
前記合成細胞を更に含むこと
を特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項34】
合成ゲノムを含む合成細胞。
【請求項35】
合成細胞を作成する方法であって、
微生物から内在ゲノム(resident genome)の部分又は全体を除去する工程;及び
前記内在ゲノムを該内在ゲノムと異なる少なくとも1つの性質を示す合成ゲノムで置換する工程
を含む方法。
【請求項36】
前記合成細胞を更に含むこと
を特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
内在ゲノムの部分又は全体が除去された1つの種の微生物;及び
前記内在ゲノムと異なる少なくとも1つの性質を示す合成ゲノム
を含む合成細胞。
【請求項38】
合成ゲノムを設計する工程;
前記合成ゲノムを構築する工程;
前記合成ゲノムを生物学的系に導入する工程;及び
前記合成ゲノムを発現させる工程
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−518038(P2009−518038A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544524(P2008−544524)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/046803
【国際公開番号】WO2008/024129
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(508164518)ジェイ.クレイグ ベンター インスティチュート (3)
【Fターム(参考)】