説明

合成ゴム基材の防着剤組成物および防着方法

【課題】合成ゴム基材同士、または合成ゴム基材と他の材質の基材との間のスティッキングを防止する防着剤組成物および防着方法を提供する。
【解決手段】防着剤組成物は水中で可逆的に剥離する改質Mg−Al型層状複水酸化物の水分散液よりなる。防着方法は、合成ゴム基材同士の接触面、または他の材質の基材との合成ゴム基材の接触面に本発明の防着剤組成物の乾燥皮膜を形成させることよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ゴム基材、例えばゴムシートの防着剤組成物および防着方法に関する。ここで術語「防着」とは、二つの物体の露出面を接触させた時、接触によって生じた凝集力あるいは付着力により、引張力を加えれば分離可能であるが、半永久的に離れなくなるスティッキングを防止することを意味する。
【背景技術】
【0002】
ゴム、プラスチックなどの多数のシートを積層する場合、スティッキングにより一枚毎の取出しに支障を来す場合がある。また連続シートをロールに巻いて貯蔵する場合などでもスティッキングは巻き戻しに支障を来たす。スティッキングを防止する方法として打粉と呼ばれるタルク、炭酸カルシウム等の粉体を表面に撒布する方法、金属石鹸やシリコーンオイルなどの離型性を有する材料を塗布する方法、表面を艶消し仕上げ(マット仕上げ)する方法などが知られている。これらの方法は、シートの材質、用途、半製品か完成品かの区別、所望の効果持続性、コスト等によって適用できない場合がある。
【0003】
特許第3478383号公報(特許文献1)は、特定の熱可塑性エラストマーの成形体に、平均粒径が500μm以下のポリオレフィンを主成分とする粒状物質を付着させることによってスティッキングを防止する方法を開示している。この場合のスティッキング防止効果は、タルク等の無機粉末の打粉に代えてポリオレフィン粉末を用いるという違いはあるにせよ原理的には同じである。
【0004】
打粉またはこれに代るポリオレフィンパウダー等の撒布は、付着させた成形品から飛散し易いこと、粉塵の発生を避けるため成形体への付着は防塵施設を必要とすること、成形体が濃く着色されている場合、白いかすみがかった外観を呈することなどの欠点を有する。このため上記欠点のないゴム、プラスチック製、特に合成ゴム製の成形シートの防着剤組成物および防着方法の提供が望まれる。
【0005】
【特許文献1】特許第3478383号公報
【発明の開示】
【0006】
本発明は、水中で可逆的に剥離する改質Mg−Al型層状複水酸化物の水分散液よりなることを特徴とする合成ゴムシート用スティッキング防止剤組成物を提供する。
【0007】
改質Mg−Al型層状複水化物は、
式:Mg1−xAl(OH)(式中、xは0.2ないし0.33である。)を有する隣接する複数の基本複水酸化物層の間に、水溶性脂肪族モノカルボン酸マグネシウムと層間水がインターカレーションにより取込まれた化合物である。
【0008】
この改質Mg−Al型層状複水酸化物を水に投ずると、層間で剥離してナノサイズのシート状粒子のゾルとなる。これを例えば金属に塗装し、乾燥すると透明な基材に密着した皮膜を形成する。このため、本発明の防着剤組成物を防着を必要とするシート、特に合成ゴムシートに塗布し、乾燥して皮膜を形成することにより、シートの防着を達成することができる。
【0009】
防着は積層した多数の合成ゴムシートまたはシートを巻取ったロールに有効であるばかりでなく、合成ゴムシートと、他の材質のシート状物体との防着にも有効である。この場合、隣接する合成ゴムシート間の防着のためにはシートの片面にだけ防着剤組成物を塗布すればよく、合成ゴムシートと他の材質のシート状物体の場合は合成ゴムシートの接触面だけに防着剤組成物を塗布すればよい。
【0010】
本発明の防着剤組成物は、打粉およびこれと原理を同じくする粉体粒子に比較していくつかの利点を有する。それらは、i)シート表面に連続した皮膜を形成するから取扱いによって飛散しないこと、ii)皮膜は透明であるためシートの外観に影響しないこと、iii)水分散液のため粉塵対策が必要でないこと、iv)乾燥した粉体の形で提供され、現場で水を加えて分散液に調製されるので、分散液の濃度を変えることによって塗布方法(スプレー、刷毛塗り、ローラー、ディッピング等)に適した粘度に調節することができ、必要な場合は他の添加剤を添加することができることを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
A.改質Mg−Al型層状複水酸化物
水中で可逆的に剥離する改質Mg−Al型層状複水酸化物は、式
Mg1−xAl(OH)
(式中、xは0.2〜0.33)を有する複数の基本層の間に、水溶性脂肪族モノカルボン酸マグネシウム塩と層間水がインターカレーションにより取り込まれている化合物である。脂肪族モノカルボン酸マグネシウム塩の例は、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、アクリル酸マグネシウムなどである。
【0012】
このものの製造法は、例えば本出願人のWO2006/068118公報に記載されており、Mg−Al炭酸型層状複水酸化物(以後「層状複水酸化物」を「LDH」と略す。)、
式:〔Mg1−xAl(OH)〕〔(COx/2・yHO〕
のハイドロタルサイトから出発する。ハイドロタルサイトおよびその他の炭酸型LDH自体は水中で剥離しない。改質は、このハイドロタルサイトを400℃〜800℃の温度で焼成し、炭酸イオンの大部分を除去した熱分解物を、水溶性の脂肪族モノカルボン酸のマグネシウム塩と水中において反応させて行う。反応生成物は一般にゲル状の固体である。この固体を反応混合物から分離し、好ましくは100℃までの温度で乾燥し、粉砕すれば、水中で可逆的に剥離してナノサイズの粒子のゾルを形成する改質Mg−Al型LDHが得られる。
【0013】
B.防着剤組成物
本発明の防着剤組成物は、前節Aで説明した改質LDHを所望の固形分濃度、例えば0.5%、1%、2%、3%等の水に分散することによって調製される。この分散液はナノサイズのシート状粒子のゾルを形成し、固形分濃度に比例して粘度が高くなるので、塗装方法に適した粘度の固形分濃度とする必要がある。一般に3%より高い固形分濃度は好ましくない。単独で皮膜を形成するのでバインダーとして水溶性フィルム形成ポリマーを添加する必要はない。ただし、消泡剤などの添加は任意である。
【0014】
C.防着皮膜の形成方法
本発明の防着剤組成物は、防着を必要とするシートのような合成ゴム基材へ塗装し、乾燥することにより防着機能を有する皮膜を形成する。中でも基材の材質がポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、例えばエチレン−プロピレンゴム(EPM,EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、ポリスチレン系熱可塑製エラストマー、例えばスチレン、ブタジエン、スチレンのトリブロック共重合体の水素化物、クロロプレン、およびシリコーンゴムであるシート状基材が防着を特に必要とする基材の例である。この他、タルクなどの打粉が使用される多層電線の熱融着防止剤としても利用できる。
【0015】
塗装方法は、スプレー、バーコーター、刷毛塗り、ローラー塗装、ディッピング等の慣用塗装方法でよい。塗装後室温または100℃までの温度で乾燥し、皮膜を形成させる。単位面積あたり同じ塗布量で防着剤組成物の皮膜を形成させた場合、固形分濃度に比例して乾燥膜厚が厚くなり、皮膜が可撓性を失う。そのため3%以上の固形分濃度を避けるか、または単位面積あたりの塗布量を少なくして皮膜の可撓性を保持するのが好ましい。
【0016】
改質LDHにインターカレートされるマグネシウム塩としてアクリル酸マグネシウムを選択した場合、皮膜を紫外線で照射することによってアクリル酸マグネシウムを架橋重合し、皮膜の耐水性を高めることができる。紫外線の代わりに電子線を照射することによっても架橋重合は可能である。
【0017】
以下の実施例は例証目的であって、本発明を限定することを意図しない。実施例中、%は重量基準による。
【実施例】
【0018】
第1部 再構築(改質)LDHの製造
製造例1
(a)Mg−Al炭酸型LDH(協和化学工業(株)製DHT−6)を700℃において20時間加熱して熱分解物を得た。
(b)この熱分解物96.3gを酢酸マグネシウム・4水塩0.28mol/L(60g/L)水溶液1Lへ加え、室温で15時間攪拌した後、生成した固体(ゲル)を濾過して分離し、90℃で10時間乾燥し、粉砕して酢酸マグネシウムがインターカレートされた再構築(改質)LDHを得た。このものをLDH I−1と呼ぶ。
【0019】
製造例2
酢酸マグネシウムをアクリル酸マグネシウムに変更する以外は製造例1と同様の操作を行い、アクリル酸マグネシウムがインターカレートされた再構築(改質)LDHを得た。このものをLDH I−2と呼ぶ。
【0020】
製造例3
酢酸マグネシウムを乳酸マグネシウムに変更する以外は製造例1と同様の操作を行い、乳酸マグネシウムがインターカレートされた再構築(改質)LDHを得た。このものをLDH I−3と呼ぶ。
【0021】
第2部 評価用ゴムシートの作製
ゴムシート;4cm×10cmのサイズに切断し、エタノールで表面を清浄にしたものを使用した
種類;クロロプレンゴムシート(厚さ1mm)
シリコンゴムシート(厚さ0.5mm)
エチレンプロピレンゴムシート(厚さ1mm)
試料;LDH I−1〜3、Mg−Al炭酸型LDH(DHT−6)
【0022】
表1のとおり各試料の水分散体を調製し、これをゴムシートに塗装(両面)・乾燥(80℃)することにより、それぞれ2枚の評価用ゴムシートを作製した。
【0023】
第3部 ゴムシート上の皮膜の評価
1)皮膜の形成
○;塗装により皮膜が視覚的に確認できる
×;粉体が付いているだけで皮膜を形成していない
2)皮膜の可とう性の評価
○;塗装済みゴムシートを折り曲げても皮膜に割れ(クラック)が入らない
△;折り曲げると割れは入るが、皮膜は剥がれない
×;折り曲げると割れが入り、皮膜が剥がれる
【0024】
第4部 離型性および防着性の確認
評価用ゴムシート2枚を重ね、その上に表面研磨した金属片を置き、1cm当たり300gの圧力を1分間かけ、金属片とゴムシートの剥がれやすさおよび2枚のゴムシート同士の剥がれやすさを調べた。
【0025】
離型性;金属片を持ち上げ、直ちにゴムシートが離れるかで評価した。
○;ゴムシートは全く持ち上がらない
△;ゴムシートも一瞬持ち上がるが、直ちに離れる
×;ゴムシートも持ち上がり、2秒以上離れない
防着性;2枚のゴムシートのうち、上側の端部を持ち上げ、直ちに離れるかで評価した。
○;下側のゴムシートは全く持ち上がらない
△;下側のゴムシートも一瞬持ち上がるが、直ちに離れる
×;下側のゴムシートも持ち上がり、2秒以上離れない
【0026】
第5部 紫外線照射による耐水性の変化
表2のとおりLDH I−2の水分散体を調製し、これをゴムシートに塗装(両面)・乾燥(80℃)することにより、合計4枚の評価用ゴムシートを作製した。その内2枚に殺菌ランプ(波長254nm、紫外線出力1.7W、紫外線放射強度19μW/cm)にて2.5cmの高さから紫外線を2分間照射した後、各ゴムシートの耐水性評価を行った。
【0027】
耐水性評価;ゴムシート表面に蒸留水を0.5ml滴下し、脱脂綿で50回擦った後、表面を視覚的に評価した。
○;変化なし
×;剥がれて脱落する
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中で可逆的に剥離する改質Mg−Al型層状複水酸化物の水分散液よりなることを特徴とする合成ゴム基材用防着剤組成物。
【請求項2】
前記改質Mg−Al型層状複水酸化物は、
式:Mg1−xAl(OH)
(式中、xは0.2〜0.33)を有する複数の基本層の間に、水溶性脂肪族モノカルボン酸マグネシウム塩と層間水がインターカレートされている請求項1の防着剤組成物。
【請求項3】
前記水溶性脂肪族モノカルボン酸マグネシウム塩は、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウムまたはアクリル酸マグネシウムである請求項2の防着剤組成物。
【請求項4】
合成ゴムは、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑製エラストマー、クロロプレンゴムまたはシリコーンゴムである請求項1または2の防着剤組成物。
【請求項5】
互いに接触する複数の合成ゴム基材の少なくとも一方の接触面に、請求項1または2の防着剤の乾燥皮膜を形成することを特徴とする合成ゴム基材同士の防着方法。
【請求項6】
合成ゴム基材が他の材質の基材と接触する接触面に、請求項1または2の防着剤の乾燥皮膜を形成することを特徴とする合成ゴム基材と他の材質の基材の間の防着方法。
【請求項7】
合成ゴム基材はシートである請求項5または6の方法。
【請求項8】
合成ゴムは、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、クロロプレンゴムまたはシリコーンゴムである請求項7の方法。

【公開番号】特開2011−57808(P2011−57808A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207610(P2009−207610)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】