説明

合成システム、タイヤ用ゴム薬品及び空気入りタイヤ

【課題】バイオマス原料を用いてアニリンを効率良く合成できる合成システム、該合成システムから得られたアニリンを原料として合成されたタイヤ用ゴム薬品、及び該タイヤ用ゴム薬品を用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】バイオマス材料を原料として、フェノールを経由してアニリンを合成する合成システムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニリンを効率良く合成できる合成システム、該合成システムから得られたアニリンを原料として合成されたタイヤ用ゴム薬品、及び該タイヤ用ゴム薬品を用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
老化防止剤、チアゾール系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤などのゴム薬品の原料であるアニリンは、通常、石油を原料として合成されている。しかし、石油や天然ガスなどの化石燃料は枯渇しつつあり、将来の価格高騰が予想されることから、化石燃料からバイオマス資源への代替により、化石燃料の使用量を削減することが求められている。
【0003】
天然資源の利用という観点から、天然油脂を加水分解した飽和又は不飽和脂肪酸を還元アミノ化して合成された天然由来の長鎖アミンを原料として、加硫促進剤を合成する方法が知られている。しかし、製造過程でメルカプトベンゾチアゾール類やジベンゾチアゾリルジスルフィドが使用される方法で、これらの物質が天然資源から生産されているという記載はない。
【0004】
バイオマス資源を原料とした合成例としては、バイオガスに含まれるメタンなどの低級炭化水素を原料とし、ベンゼンなどの芳香族化合物を合成する方法が知られているが、原料が気体であり、ハンドリングし難いという点で改善の余地がある。また、他の例として、バイオメタノールを原料とする方法も知られているが、原料の毒性が高いという点で改善の余地がある。更に、これらの方法に共通して、十分な収率を確保することが困難であるという点でも改善の余地がある。
【0005】
特許文献1及び2には、グルコースを原料とし、微生物によってアニリンを合成する方法が開示されている。しかし、様々な菌種の利用、生産効率の改良のためにその他の手法も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−17176号公報
【特許文献2】特開2008−274225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、バイオマス原料を用いてアニリンを効率良く合成できる合成システム、該合成システムから得られたアニリンを原料として合成されたタイヤ用ゴム薬品、及び該タイヤ用ゴム薬品を用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、バイオマス材料を原料として、フェノールを経由してアニリンを合成する合成システムに関する。
上記バイオマス材料は、糖類又はバイオエタノールであることが好ましい。
【0009】
上記バイオマス材料を原料として、微生物によりフェノールを生産し、該フェノールをアニリンに変換する合成システムであることが好ましい。また、上記バイオマス材料を原料として、微生物の液体培養によりフェノールを生産し、該フェノールをアニリンに変換する合成システムことが好ましい。ここで、上記フェノールを産生する微生物は、有機溶媒耐性を有する微生物であることが好ましい。
【0010】
バイオエタノールを原料として、固体酸触媒によりフェノールを合成する合成システムであることが好ましい。ここで、上記固体酸触媒は、ゼオライトであることが好ましい。また、上記固体酸触媒は、MFI型ゼオライトであることが好ましい。
更に、上記固体酸触媒は、銅、チタン、プラチナ、ルテニウムの単体又はこれらの化合物を担持したMFI型ゼオライトであることが好ましい。
【0011】
本発明は、上記合成システムで得られたアニリンを原料として合成されたタイヤ用ゴム薬品に関する。ここで、上記タイヤ用ゴム薬品は、更にバイオマス原料から得られたアセトンを用いて合成されたものが好ましい。
【0012】
上記バイオマス原料から得られたアセトンは、糖類を原料とした微生物によるアセトン・ブタノール発酵により得られたものが好ましい。ここで、上記微生物は、クロストリジウム属であることが好ましい。また、上記微生物は、クロストリジウム属の遺伝子が導入された微生物であることが好ましい。
【0013】
上記導入された遺伝子は、アセトアセテートデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.4)、コエンザイムAトランスフェラーゼ又はチオラーゼをコードする遺伝子であることが好ましい。
【0014】
上記バイオマス原料から得られたアセトンは、木酢液より分離して得られたものであることが好ましい。また、上記バイオマス原料から得られたアセトンがバイオエタノールより誘導されたものであることが好ましい。
本発明はまた、上記タイヤ用ゴム薬品を用いた空気入りタイヤに関する。
【0015】
本発明は、上記合成システムで得られたアニリンを原料として合成されたタイヤ用ゴム薬品に関する。
本発明はまた、上記タイヤ用ゴム薬品を用いた空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バイオマス材料を原料とし、フェノールを経由してアニリンを合成する合成システムであるので、化石燃料を用いることなく、省資源かつ効率的にアニリンを合成できる。従って、上記合成システムで合成されたアニリンを用いることで、タイヤ用ゴム薬品及び空気入りタイヤの製造時における化石燃料の使用量を削減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、バイオマス材料を原料として、フェノールを経由してアニリンを合成する合成システム(合成方法)である。
【0018】
まず、微生物を使用してバイオマス資源からフェノールを生合成する工程について説明する。
【0019】
本発明で使用できる微生物は、バイオマス資源を資化してフェノールを生合成できるものであれば特に限定されない。
【0020】
例えば、チロシンからフェノールを生成する反応を触媒する酵素であるチロシンフェノールリアーゼ(EC 4.1.99.2)をコードする遺伝子(tpl遺伝子)(例えば、GenBank accession no.D13714に収載されているtpl遺伝子)を、チロシンを生合成可能な微生物に導入して得られる微生物により、バイオマス資源を資化してフェノールを生合成できる。
【0021】
なお、チロシンフェノールリアーゼは、ピリドキサール5’−リン酸依存性の酵素であり、チロシンから、フェノール、ピルビン酸、アンモニアを生成する反応を触媒する。チロシンフェノールリアーゼは、別名、β−チロシナーゼ、L−チロシンフェノールリアーゼともいう。
【0022】
tpl遺伝子が導入される微生物としては、チロシンを生合成可能な微生物であれば特に限定されない。地球上に存在するほとんど全ての微生物は、チロシンを生合成することができるため、任意の微生物を使用することができるが、例えば、エシェリヒア(Escherichia)属、セラチア(Serratia)属、バチルス(Bachillus)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ミクロバクテリウム属(Microbacterium)、シュードモナス(Pseudomonas)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アリシクロバチルス属(Alicyclobacillus)、アナベナ(Anabena)属、アナシスティス(Anacystis)属、アスロバクター(Arthrobacter)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、クロマチウム(Chromatium)属、エルビニア(Erwinia)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、フォルミディウム(Phormidium)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドスピリウム(Rhodospirillum)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、シネコッカス(Synechoccus)属、ザイモモナス(Zymomonas)属等に属する微生物等を使用できる。なかでも、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物が好ましい。
【0023】
また、通常の微生物は、生成物であるフェノールが高濃度になると死滅するおそれがある。そのため、tpl遺伝子が導入される微生物としては、フェノールにより死滅しにくい有機溶媒耐性(特に、芳香族化合物に対する耐性)を有する微生物が好ましい。有機溶媒耐性を有する微生物としては、例えば、Pseudomonas putida S12が挙げられる。Pseudomonas putida S12は、芳香族化合物に対する耐性に優れているため、tpl遺伝子が導入される微生物として好適に使用できる。
【0024】
上記微生物へのtpl遺伝子の導入方法としては、特に限定されず、一般的に用いられているものを、通常知られた条件で使用すればよく、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,69,2110(1972)]、プロトプラスト法(特開昭63−248394号公報)、エレクトロポレーション法[Nucleic Acids Res.,16,6127(1988)]、ヒートショック法、パーティクルガン法(「生物化学実験法41植物細胞工学入門」1998年9月1日、学会出版センター、第255頁〜326頁)などがあるが、これらに限定されない。
【0025】
tpl遺伝子が導入された微生物を培養するための培地は、炭素源としてバイオマス資源を使用する点以外は、培養する微生物が増殖し得るものであれば特に制限はなく、窒素源、無機イオン、更に必要に応じて有機栄養源を含む通常の培地でよい。
【0026】
バイオマス資源としては、糖を含有するものであれば、特に限定されず、例えば、米、麦、蜂蜜、果実、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ケナフ、マメ科植物、藁、麦わら、籾殻、間伐材、廃木材、古紙、廃パルプ、有機系都市ごみ等が挙げられる。また、グルコース、スクロース、トリハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース、アミロース、セルロース、キチン、キトサン等の糖類も挙げられる。なかでも、糖類が好ましい。
【0027】
本発明では、上記バイオマス資源を炭素源として直接使用してもよいが、上記糖類以外のバイオマス資源やセルロース、キチン、キトサン等の多糖類を使用する場合には、微生物によっては、直接資化できない、又は資化する能力が低い等の理由から、糖類以外のバイオマス資源や多糖類は、低分子化してから用いることが好ましい。低分子化する方法は、特に限定されず、公知の方法(例えば、蒸煮、加水分解、酵素分解等)により行うことができる。糖類以外のバイオマス資源や多糖類を低分子化することにより、単糖等を得ることができる。
【0028】
上記バイオマス資源のなかでも、フェノールを効率的に生成できるという理由から、グルコースが特に好ましい。グルコースは、グルコース(単糖)として天然に存在するものを使用してもよいし、上記方法等によりバイオマス資源を低分子化することにより得られるグルコースを使用してもよい。
【0029】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの無機塩のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどの有機酸のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカー、大豆加水分解物などの有機窒素化合物、アンモニアガス、アンモニア水等あるいはこれらの混合物を使用することができる。
【0030】
他に無機塩類、微量金属塩、ビタミン類、ホルモン等、通常の培地に用いられる栄養源を適宜混合して用いることができる。
【0031】
培養条件にも格別の制限はなく、例えば、好気的条件下にてpH5〜8、温度20〜60℃(好ましくは20〜35℃)の範囲でpHおよび温度を適当に制限しつつ12〜480時間程度培養を行えばよい。また、培養方法は、固体培養、液体培養いずれの方法でもかまわないが、効率の点から液体培養がより好ましい。液体培養の方法は、回分培養、半回分培養、連続培養のいずれでもよい。
【0032】
上記微生物を培養することにより、バイオマス資源を資化してフェノールを生合成できる。フェノールの回収は、培養液より抽出しても良いし、微生物中に蓄積されたものを抽出しても良い。
【0033】
培養液に蓄積したフェノールは、例えば、有機溶媒により抽出すればよい。使用できる有機溶媒としては、特に限定されず、ジエチルエーテル、オクタノール、ノナノール、ドデカノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル等が挙げられる。更に、有機溶媒により抽出したフェノールをクロマトグラフィー等の公知の精製操作により精製してもよい。
【0034】
また、微生物中に蓄積されたフェノールは、微生物を超音波により粉砕後、上記有機溶媒にて抽出することにより得られる。
更には培養液のみ若しくは培養液と微生物双方より水分を除去した後にエタノールなどの有機溶媒により抽出した後、精製してフェノールを回収しても良い。
【0035】
また、バイオマス資源からのフェノール合成の他の方法として、バイオエタノールを固体酸触媒によりフェノールに変換してもよい。固体酸としては、ゼオライト触媒、アルミナ触媒等が挙げられるが、これに限定されるものではなく、また複数の触媒を同時あるいは段階的に併用してもかまわない。
【0036】
また、上記固体酸触媒は、イオン交換されていてもよいし、さらにアルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、アルミニウム、ガリウム、亜鉛、ガドリウム、プラチナ、バナジウム、パラジウム、ニオブ、モリブデン、イットリウム、レニウム、ネオジウム、タングステン、ランタン、銅、チタン、ルテニウム等の金属及びそれらの化合物、またはリン化合物、ホウ素化合物などを担持させたものでもよい。
【0037】
上記固体酸触媒は、特にゼオライト類が好ましく、その具体例としてはA型ゼオライト、L型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、MFI型ゼオライト、MWW型ゼオライト、β型ゼオライト、モルデナイト、フェリエライト、エリオナイトなどが挙げられる。上記ゼオライトの中でも特にMFI型が好ましく、ZSM−5型が特に好ましい。ZSM−5触媒はプロトン型とガドリウム、レニウム等の希土類担持のものを併用することが特に好ましい。
【0038】
次に、上記で生合成されたフェノールからアニリンを合成する方法としては、各種触媒を用いてフェノールとアンモニアガスもしくは低分子量アミン化合物を反応させてアニリンを調製する方法が挙げられる。触媒としては、ゼオライト触媒、ニオブ触媒、チタニア−ジルコニア複合酸化物触媒、アルミナ触媒、メタロシリケート触媒等の固体触媒、種々の無機酸、有機酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、また複数の触媒を同時又は段階的に併用してもよい。
【0039】
また、上記固体触媒は、イオン交換されていてもよいし、さらにアルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、アルミニウム、ガリウム、亜鉛、ガドリウム、プラチナ、バナジウム、パラジウム、チタン、ニオブ、モリブデン、イットリウム、レニウム、ネオジウム、タングステン、ランタン等の金属及びそれらの化合物、またはリン化合物、ホウ素化合物などを担持させてもよい。
【0040】
上記固体触媒は、特にゼオライト類が好ましく、その具体例としてはA型ゼオライト、L型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、MFI型ゼオライト、MWW型ゼオライト、β型ゼオライト、モルデナイト、フェリエライト、エリオナイトなどが挙げられる。
【0041】
上記ゼオライトとしては、MWW型のMCM−22型及びMFI型が好ましく、これらは他の触媒を担持させてもよい。MFI型ゼオライトとは、MFI(Mobilfive)構造を有しており、ZSM−5、ZSM−8、ゼータ1、ゼータ3、Nu−4、Nu−5、TZ−1、TPZ−1、TS−1等のMFI構造を有するものが挙げられ、なかでも、選択性の高さ、反応効率の点からZSM−5型が特に好ましい。
【0042】
ゼオライトのイオン交換可能なカチオンサイトに占有されているカチオンは特に限定されず、水素イオン(プロトン);リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン;鉄イオン、銀イオンなどの遷移金属イオン;1〜4級アンモニウムイオンなどが挙げられる。なかでも、表面活性を高くして反応効率を上げることが出来るという点から、水素イオン(プロトン)が好ましい。該カチオンは、1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0043】
ゼオライトの結晶構造中のSiOとAlとのモル比(SiO/Al)は、反応装置、原料に含まれる不純物によっても異なるが、好ましくは 5〜2000、より好ましくは5〜60である。上記範囲内であれば、生成したフェノールの更なるアルキル化等の副反応を最小限にとどめることが可能である。同様の理由から、ゼオライトの結晶の大きさは、(0.001〜50)μm×(0.01〜100)μmが好ましい。また、ゼオライトの粒子の大きさは、0.1〜50μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。更に、ゼオライトの窒素吸着比表面積は、10〜1000m/gが好ましく、100〜500m/gがより好ましい。
【0044】
上記触媒とフェノール及びアンモニアの反応は気相または液相で行える。反応器として固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器を使用できる。反応温度は約200〜600℃(好ましくは300〜500℃、更に好ましくは350℃〜450℃)、反応圧力は常圧、加圧のいずれでもよい(好ましくは約5〜50気圧)。更にフェノールに対するアンモニアモル比は約1〜50(好ましくは5〜30)である。なお、反応時に必要に応じて、窒素、アルゴン、スチーム等の不活性ガスで希釈してもよい。
【0045】
上記で調製されたアニリンを用いて、タイヤ工業などに使用されている老化防止剤、加硫促進剤などを石油資源を使用することなく製造できる。
【0046】
老化防止剤としては、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどのp−フェニレンジアミン系老化防止剤、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物などのキノリン系老化防止剤などが挙げられる。
【0047】
たとえば、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンは、アニリンを原料として、後述の合成方法で製造できる。ここで、中間体のアミンに加えるメチルイソブチルケトンは、次の方法で合成出来る。すなわち、後述の方法により得られたアセトン2分子のアルドール縮合により合成できるジアセトンアルコールが、容易に脱水されてメシチルオキシドに変わり、このメシチルオキシドをパラジウム触媒等で水素添加することでメチルイソブチルケトンとなる。この方法により、石油資源によらずに老化防止剤を製造できる。
【0048】
また、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物は、アニリンを原料として、酸性触媒存在下140℃でアセトンを随時供給し続けることで合成できる。なお、アセトンは、以下の方法で製造可能であるため、石油資源によらずに該重合物を製造できる。
【0049】
アセトンは、例えば、バイオマスを原料として微生物によりアセトン・ブタノール発酵を行うと、ブタノール、アセトン等の混合溶媒が得られるので、これを蒸留することで合成できる。上記バイオマス原料としては、セルロース、農作物及びその廃棄物、糖類等が用いられるが、糖類が特に好ましい。アセトン・ブタノール発酵を行う微生物は特に限定されないが、野生型、変異体、または組換え体である、エシュリヒア(Escherichia)、ジモモナス(Zymomonas)、カンジダ(Candida)、サッカロミセス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、バチルス(Bacillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、コリネ(Coryne)およびクロストリジウム(Clostridium)からなる群より選択される属が好ましい。なかでも、クロストリジウム属がより好ましく、Clostridium acetobutylicum、Clostridium beijerinckii、Clostridium saccharobutylicum、およびClostridium saccharoperbutylacetonicumが特に好ましい。
また上記クロストリジウム属のアセトアセテートデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.4)、コエンザイムAトランスフェラーゼ、チオラーゼをコードする遺伝子を組み込んだ微生物であっても構わない。
【0050】
また、木材を乾留して得られる木酢液をさらに分留、または液体クロマトグラフィー等での分取などによりアセトンを取得することもできる。
また、バイオエタノールをZr−Fe触媒の存在下で400℃以上に加熱することで合成できる。また、糖質原料由来のバイオエタノールを脱水反応させてエチレンを合成する工程、石油化学で汎用されている手法でエチレンからプロピレンを合成する工程、水和反応によりプロピレンからイソプロパノールを調製し、更に脱水素反応させる工程を経てアセトンを合成できる。
また、木質原料中のセルロースを熱分解して得られた酢酸を水酸化カルシウムで中和して酢酸カルシウムを得、次いで熱分解することでアセトンを合成できる。バイオエタノールの合成における発酵過程でエタノールが酸化されることで酢酸が生成するので、その酢酸を利用し、上記と同様のプロセスを経ることでも合成できる。更に、糖質原料由来のバイオエタノールを、ZnO/CaO触媒などで転換反応を進行させることでアセトンを合成できる。
【0051】
加硫促進剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィドなどのチアゾール系加硫促進剤、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系加硫促進剤などが挙げられる。
【0052】
2−メルカプトベンゾチアゾールは、アニリンを原料として、下記合成方法により製造できる。ここで、二硫化炭素は、たとえば、からし菜に約0.4%含まれるからし油に硫化水素を反応させることで分離生成させることができる。この方法によれば、石油資源によらずに加硫促進剤を製造できる。また、そのようにして製造された2−メルカプトベンゾチアゾールを酸化することにより、ジベンゾチアジルジスルフィドを合成できる。
【0053】
【化1】

【0054】
【化2】

【0055】
以上で得られた老化防止剤、加硫促進剤は、通常のゴム製品の材料として使用でき、特にタイヤ用ゴム組成物(トレッド、サイドウォールなど)のゴム薬品として有用である。
【0056】
上記ゴム組成物には、上記成分以外に、ゴム成分、カーボンブラック、シリカ、クレー、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの無機充填剤、シランカップリング剤、プロセスオイル、軟化剤、加硫剤、加硫促進助剤など、通常のゴム工業で使用される配合剤が適宜配合される。また、通常の石油等化石資源由来の老化防止剤、加硫促進剤を一部含んでいても構わない。
【0057】
上記ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0058】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形することで未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【実施例】
【0059】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0060】
(バイオマス原料からのフェノールの合成1(微生物利用))
(形質転換体の調製)
Pantoea agglomerans AJ2985のゲノムDNAを鋳型DNAとし、プライマーとして、5’−GCGGTACCATGAACTATCCTGCCGAGCC−3’(forward)、5’−GCGGCCGCTTAAATAAAGTCAAAACGCGC−3’(reverse)を用いてPCR法によりtpl遺伝子の増幅を行った。なお、プライマーは、GenBank accession no.D13714に収載されているtpl遺伝子の配列に基づいて、制限酵素KpnI、NotIに対応する配列GGTACC、CGGCCGを含むように設計した。なお、公知の方法により、増幅したtpl遺伝子の配列に問題がないことを確認した。
【0061】
次に、サリチル酸誘導NagR/pNagAaプロモーターを含み、アンピシリン耐性、ゲンタマイシン耐性のプラスミドpTn−1に、制限酵素KpnI、NotIを使用して、増幅したtpl遺伝子を組み込み、pNW1を得た。
【0062】
次に、得られたpNW1を公知の方法により有機溶媒耐性菌であるPseudomonas putida S12(ATCC700801)に組み込み、形質転換体を得た。
【0063】
(半回分培養)
次に、得られた形質転換体を以下の条件で培養し、グルコースから、フェノールを生合成した。培養は、内容積が2.5LのBioFIo IIc fermentor(New Brunswick Scientific社製)を使用して行った。培養中は、酸素を300ml/minの速度で培養器のヘッドスペースに供給し、培養器の底部において撹拌翼を回転させることにより、供給した酸素を培地中に混合した。培養中は、4M KOHを使用してpHを7.0に保った。さらに、撹拌翼の回転速度を調整して溶存酸素圧を約20%飽和に保った。培養開始時の培養液量は、1.5Lとした。定期的に、600nmでの吸光度(OD600)を測定し、OD600に変化が見られなくなってから、フィード液を供給した。フィード液の供給速度は、cell dry weight(CDW)が3g/L未満の場合、4ml/h、CDWが3〜4.5g/Lの場合、9ml/h、CDWが4.5g/Lを超える場合、20ml/hとした。なお、培養は、30℃で行った。
また、培養開始時の培地組成、フィード液組成は、以下の通りである。
【0064】
<培養開始時の培地組成(下記量は、1Lあたりの量を示す)>
30mmol KHPO、20.5mmol NaHPO、25mmol D−グルコース、15mmol NHCl、1.4mmol NaSO、1.5mmol MgCl、0.5g yeast extract、10ml trace solution 1、10mg ゲンタマイシン、0.1mmol サリチル酸
【0065】
<フィード液組成(下記量は、1Lあたりの量を示す)>
750mmol D−グルコース、225mmol NHCl、21mmol NaSO、7.4mmol MgCl、13mmol CaCl、0.5g yeast extract、100ml trace solution 2、10mg ゲンタマイシン、1mmol サリチル酸
【0066】
<Trace solution 1の組成(下記量は、1Lあたりの量を示す)>
4g EDTA、0.2g ZnSO・7HO、0.1g CaCl・2HO、1.5g FeSO・7HO、0.02g NaMoO・2HO、0.2g CuSO・5HO、0.04g CoCl・6HO、0.1g MnCl・4H
【0067】
<Trace solution 2の組成(下記量は、1Lあたりの量を示す)>
4g EDTA、0.2g ZnSO・7HO、0.1g CaCl・2HO、6.5g FeSO・7HO、0.02g NaMoO・2HO、0.2g CuSO・5HO、0.04g CoCl・6HO、0.1g MnCl・4HO、0.024g HBO、0.02g NiCl・6H
【0068】
25時間培養を行った後、培養液にジエチルエーテルを加え、2回抽出を行った。租抽出物をエバポレーターにより濃縮し、シリカゲル60を充填したフラッシュクロマトグラフィーにより精製を行い、フェノールを得た。フェノールの同定は、NMRおよびIRによって行った。
【0069】
(バイオマス原料からのフェノールの合成2−1(触媒の利用))
出発物質としては酢酸銅、およびNH−ZSM−5(東ソー製:820NHA SiO/Al=23(モル比)、窒素吸着比表面積:350m/g、結晶の大きさ:0.03μm×0.1μm、粒子の大きさ:5μm)を用いてCu担持ZSM−5触媒を調整した。酢酸銅水溶液にアンモニア水を加えることによってpH=11に調整し、水溶液中の銅イオンを銅アンミン錯体[Cu(NH2+とした。この水溶液にNH−ZSM−5を加え、60℃に加熱しながら24時間撹拌を行い、銅イオンによるイオン交換を行った。その後、濾過、洗浄を行い100℃において24時間乾燥させた。乾燥した試料を1L/min.の空気流通下において500℃で1時間焼成して触媒を得た。調製した触媒のCu担持量はイオン交換に用いる溶液の濃度を変化させることによってコントロールした。原子吸光分析による定量の結果、調製した触媒のCu担持量はCu/Al=0.13〜1.67(Cu:0.54〜6.83wt%)であった。
内径32mmの石英管を2本連結し、それぞれ中央部の石英ウール上に、ゼオライト触媒H−ZSM−5(東ソー製:820HOA(820NHA SiO/Al=23を焼成処理したもの))、及び、上記の方法で合成したCu/ZSM−5を10.0gずつパッキングし、Cuを担持しない触媒カラム側より窒素ガスを供給した。窒素ガスの供給速度はLHSV換算で1/hrとした。石英管を電気炉に設置し、所定温度まで昇温した後、蒸留精製したバイオエタノール(日伯エタノール製)を所定量供給した。その時の反応条件は、反応温度450℃、反応圧力は常圧、バイオエタノールの供給速度はLHSV換算で1/hr、バイオエタノールと窒素とのモル比(石油由来エタノール/窒素)は50/50とした。
バイオエタノールの連続供給により生成した反応混合物を蒸留後、高速液体クロマトグラフィーにて分離することにより、純粋なフェノールを5g得た。
【0070】
(バイオマス原料からのフェノールの合成2−2)
上記Cu/ZSM−5のかわりに、メチルトリオキソレニウムをCVD法により担持させたRe/ZSM−5を用いたほかは2−1と同様にして、フェノールを20g得た。
【0071】
(バイオマス原料からのフェノールの合成2−3)
塩化メチレン40mlにチタニルビスアセチルアセトナート[TiO(acac)]0.1642g(627μモル)を溶解させ、H−ZSM−5(東ソー製:840HOA(840NHA SiO/Al=40(モル比)、窒素吸着比表面積:330m/g、結晶の大きさ:2μm×4μm、粒子の大きさ:10μm)を焼成処理したもの))0.950gを添加し、40℃で加熱撹拌しながら塩化メチレンを除去した。充分に乾燥させた後、空気流通下、マッフル炉で150℃で2時間、次いで600℃で4時間焼成し、1.00gの触媒〔TiOx/H−ZSM−5〕を調製した。調製した触媒中のチタン担持量は酸化チタン(TiO)換算で5.0質量%であった。
上記の方法で得られたTiOx/H−ZSM−5をCu/ZSM−5のかわりに用い、窒素の代わりに水素/酸素(1/20圧力比)に変更したほかは、合成例2−1と同様にして、8gのフェノールを得た。
【0072】
(フェノールからのアニリンの製造例1)
ゼオライトβ(PQ社製CP811BL−25:シリカ/アルミナ比=12.5(モル比)、窒素吸着比表面積:750m/g)を触媒として用い、先ずゼオライトβを反応管に0.65g充填した。窒素とアンモニアガスを体積比50:16.6の割合で流通し、電気炉にて加熱し、所定温度まで昇温し、次にフェノールをポンプで所定量供給した。その時の反応条件は、反応温度450℃、反応圧力は常圧、フェノールの供給速度はLHSV換算で1.29/hr、アンモニアのフェノールに対する供給モル比9とした。反応開始して4時間後に定常状態に達した。その後、反応管出口に気液分離器を置き、反応液を捕集した。生成物の分析を行ったところ、アニリンが収率21.2%で得られた。なお、分析はガスクロマトグラフィーで行った(カラム:FFAPおよびCP−WAX)。また、収率は以下の式により算出した。
収率(%)=(単位時間に生成したアニリンのモル数)/(単位時間に供給したフェノールのモル数)×100
【0073】
(フェノールからのアニリンの製造例2)
製造例1の触媒をH−ZSM−5(東ソー製:820HOA(820NHA SiO/Al=23(モル比)、窒素吸着比表面積:350m/g、結晶の大きさ:0.03μm×0.1μm、粒子の大きさ:5μm)を焼成処理したもの)に、反応温度を500℃に、圧力を537KPaに、反応時間を8時間に変更した以外は製造例1と同様にして反応を行い、アニリンを収率84.3%で得た。
【0074】
(フェノールからのアニリンの製造例3)
製造例2のアンモニアをモノメチルアミンに、圧力を2859KPaに変更した以外は製造例1と同様にして反応を行い、アニリンを15.2%の収率で得た。
【0075】
(フェノールからのアニリンの製造例4)
バイヤライト(LaRoche Chemical社製 VersalB)とシュードベーマライト(LaRoche Chemical社製 Versal900)を質量比4:1で混合したものを0.4M硝酸水溶液に混合した後、マッフル炉内にて500℃8時間熱処理してアルミナ触媒を得た。このアルミナ触媒を用い、反応温度365℃、圧力1.7MPaにした他は製造例1と同様に反応を行って、アニリンを46.3%の収率で得た。
【0076】
(アセトンの石油資源外調達方法1−1)
300mlの発酵槽(DASGIP)にSoni et al (Soni et al, 1987, Appl. Microbiol. Biotechnol. 27:1−5)に記載の250mlの合成培地を満たし、窒素で30分スパージした。そこにClostridium acetobutylicum(ATCC824)を嫌気性条件下で、接種した。培養温度は35℃に一定維持し、pHはNHOH溶液を用い、常に5.5に調節した。発酵期間中、嫌気性条件を維持し、振盪速度は300rpmで維持した。5日間培養後、培養液を蒸留し、従来より周知となっているイオン交換樹脂法により分離して、アセトンを得た。
【0077】
(アセトンの石油資源外調達方法1−2)
上記調達方法1−1のClostridium acetobutylicumを菌株IFP903(ATCC39057)に変更した以外は同様にして培養、分離し、アセトンを得た。
【0078】
(アセトンの石油資源外調達方法2)
冷却管付き煙誘導管を備えたオートクレーブに木材チップを入れ、400℃に加熱し、発生した木酢液を集めた。得られた木酢液より沈殿したタール分を除去し、ジエチルエーテルにより抽出した。抽出分を炭酸水素ナトリウム溶液にて洗浄した後、分留を繰り返してアセトン得た。
【0079】
(アニリンからの老化防止剤の製造例1(表1の老化防止剤TMDQ−1の合成方法))
アセトン導入装置、蒸留装置、温度計、および攪拌機を備えたフラスコに、前記の(バイオマス原料からのフェノールの合成1(微生物利用))及び(フェノールからのアニリンの製造例2)で得られたアニリン190g(2.0モル)と、酸性触媒として塩酸(0.20モル)を加え、140℃まで加熱した。その後140℃に保温しながら、6時間にわたり前記(アセトンの石油資源外調達方法1−1)で得られたアセトン580g(10モル)を反応系に連続的に供給した。留出する未反応のアセトンやアニリンは、随時反応系に戻した。2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物180.7g(収率約30%)を得た。重合度は2〜4であった。なお、未反応のアニリン、および2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンのモノマーは、減圧蒸留により回収した。140℃で未反応のアニリンが留出し、その後190℃まで昇温することにより、モノマーが留出した。モノマーの収量は19.1gであり、収率は6.9%であった。
尚、本方法によると、バイオマス原料からバイオ合成でフェノールを合成すること、及び、それによって得られたフェノールから触媒を用いて非常に高効率でアニリンを合成することにより、トータルのエネルギー消費やCO排出量を抑制したまま効率的にアニリンを合成出来、更に、アセトンもバイオ合成で合成したものを用いることで、非常に効率的に、かつ環境に優しい状況で、老化防止剤を合成することが出来た。
【0080】
(アニリンからの老化防止剤の製造例1(表1の老化防止剤6PPD−1の合成方法))
前記(アセトンの石油資源外調達方法1−1)により合成したアセトン2分子をアルドール縮合により反応させて、ジアセトンアルコールを合成し更に、かかるジアセトンアルコールが容易に脱水されてメシチルオキシドに変わった。このメシチルオキシドをパラジウム触媒で水素添加することでメチルイソブチルケトンを合成した。
また、上記と同様にして、(バイオマス原料からのフェノールの合成1(微生物利用))及び(フェノールからのアニリンの製造例2)でアニリンを得た。
得られたアニリンと、そのアニリンを公知の方法で酸化することにより得られたニトロベンゼンと、上記メチルイソブチルケトンとから、以下の方法にて老防6PPDを合成した。
25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAOH)187gを、温度55℃、圧力75mbarで蒸留濃縮して、35%溶液を得た。上記バイオマス由来アニリン269mlを添加後、アニリン/水共沸混合物を、水:塩基のモル比が、約4:1になるまで、温度75℃、圧力75mbarで溜去し、次いで、上記ニトロベンゼン60gを加え、混合液を、さらに4時間撹拌した。この間、水/アニリン共沸混合物の蒸留を継続した。Pt/C触媒(5%Pt)2.2gと水120mlを、この粗混合液に添加した。次に、温度80℃において、水素を用いて圧力を最大15barまで上昇させ、そして反応混合液を、水素のさらなる吸収が認められなくなるまで撹拌した。トルエン100mlを添加し、触媒を濾別し、有機相と水相を分液ロートにて分離した。次に、有機相を、分留によって精製することにより、4−アミノジフェニルアミンを91%の収率で得た。
攪拌式オートクレーブに、4−アミノジフェニルアミン129.3g、上記により合成されたメチルイソブチルケトン120.2g、白金触媒(エヌ・イーケムキャット製、5%Ptカーボンサルファイド粉末含水品;水分55.26質量%)0.77g、および活性炭(二村化学工業(株)製、太閤活性炭S)0.65gを入れ、水素雰囲気下とした後、約1時間かけて内温を室温から150℃まで上昇させた。次いで、水素を30kgf/cm(2.94MPa)に加圧し、消費された水素を補給しながら、同温度、同圧力を保持して反応を行った。
水素加圧開始から2時間後に、オートクレーブから水素を抜いて常圧に戻すと共に、反応液を室温まで冷却した。反応液を濾過して触媒と活性炭を濾別し、反応生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分取することにより、4−(1,3−ジメチルブチルアミノ)ジフェニルアミン(老化防止剤6PPD−1)を99.4%の収率で得た。
【0081】
(二硫化炭素の石油資源外調達方法)
二硫化炭素は、からし菜に約0.4%含まれるからし油に硫化水素を反応させること、または木炭と硫黄を900℃で加熱することによって得た。
【0082】
(アニリンからの加硫促進剤MBTの製造例(表1の加硫促進剤MBT−1の合成方法))
300ml加圧反応器内に、前記の(バイオマス原料からのフェノールの合成1(微生物利用))及び(フェノールからのアニリンの製造例2)により得られたアニリン93g(1.0モル)、前記(二硫化炭素の石油資源外調達方法)により得られた二硫化炭素80g(1.1モル)、および硫黄16g(1.0モル)を投入し、250℃、10MPaの条件で2時間反応させた後、180℃まで冷却し、2−メルカプトベンゾチアゾール粗生成物を調製した。収量は130g(収率87%)であった。更に、得られた2−メルカプトベンゾチアゾールの粗生成物(純度:79%)をイソプロパノール中に沸騰温度において不活性気体としての窒素下で溶解させた。次に混合物を室温で放置して冷却した。沈澱した生成物を濾別し、イソプロパノールで洗浄し、そして乾燥した。薄黄色の生成物(高純度2−メルカプトベンゾチアゾール:融点180.1〜181.1℃、純度98.1%)が得られた。
【0083】
(アニリンからの加硫促進剤CBSの製造例(表1の加硫促進剤CBS−1の合成方法))
前記で得られた2−メルカプトベンゾチアゾール粗生成物を水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩の20%水溶液を作製した。この水溶液に等モル量のシクロヘキシルアミンを加え、更に40℃でメタノール100mLに混合した。これに次亜塩素酸ナトリウム13%溶液をメルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩に対して1.2倍モルとなる様に作用させて、1時間撹拌した。反応後、水分と有機溶媒を除去することで、N−シクロヘキシル−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドの油状物を得た(収率93%)。
【0084】
(トレッド用ゴム組成物の作製)
バンバリーミキサーを用いて、表1の工程1に示す配合量の薬品を投入して、排出温度が約150℃となる様に5分間混練した。その後、工程1で得られた混練り物に、工程2に示す配合量の硫黄及び加硫促進剤を加え、バンバリーミキサーを用いて、排出温度が100℃となるように約3分間混練して、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材とはりあわせ、170℃で20分間加硫することにより、試験用タイヤを作製した。
また、各未加硫ゴム組成物を170℃で20分間加硫することにより加硫ゴムシートを作製した。
【0085】
なお、上記で使用した各種薬品は、以下のとおりである。
SBR:ニポールNS116(日本ゼオン(株)製の溶液重合SBR、結合スチレン量21質量%、Tg=−25℃)
BR:宇部興産(株)のBR150B(シス1,4結合量=97質量%、ML1+4(100℃)=40)
NR:RSS#3
シリカ:Degussa社製のウルトラジルVN2(BET比表面積125m/g)
カーボンブラック:新日化カーボン(株)製のニテロン#55S(石炭系重質油を原料としたカーボンブラック、NSA=28×10/kg)
シランカップリング剤:Degussa社のSi69
ミネラルオイル:出光興産(株)製のPS−32
ステアリン酸:日油(株)製の桐
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤6PPD−1:上記方法で合成
老化防止剤6PPD−2:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C
老化防止剤TMDQ−1:上記方法で合成
老化防止剤TMDQ−2:大内新興化学工業(株)製のノクラック224
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤CBS−1:上記方法で合成
加硫促進剤CBS−2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ
加硫促進剤MBT−1:上記方法で合成
加硫促進剤MBT−2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーM
【0086】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴムシート、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1に示す。
(加硫試験)
JSR製キュラストメータW型を用い、JIS規格の「振動式加硫試験機による加硫試験」の「ダイ加硫試験A法」に従い、上記未加硫ゴム組成物に破壊しない程度の低振幅(ここでは、1°)の正弦波振動を与え、試験片から上ダイスに伝わるトルクを未加硫から過加硫に至るまで測定し、170℃における未加硫ゴム組成物の加硫曲線を得た。
(1)トルク上昇値
最大トルク(MH)値から最低トルク(ML)値を引いたトルク上昇値を算出した。基準配合(比較例)のトルク上昇値を100として、各配合のトルク上昇値を指数表示した。指数は架橋効率の指標として用いられ、指数が大きいほど架橋効率が高く、良好といえる。
(2)加硫時間
最適加硫時間の指標となるtc(95)(95%トルク上昇点:t95)[分]を算出した。(1)と同じく、基準配合(比較例)のtcを100として、各配合のtcを指数表示した。指数が小さいほど、加硫速度が早いことを示す。
【0087】
(破壊エネルギー指数)
JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に従って、各加硫ゴムシートの引張強度と破断伸びを測定した。更に、引張強度×破断伸び/2により破壊エネルギーを計算し、下記式にて、破壊エネルギー指数を計算した。破壊エネルギー指数が大きいほど、力学強度に優れることを示す。
(破壊エネルギー指数)=(各配合の破壊エネルギー)/(基準配合(比較例)の破壊エネルギー)×100
【0088】
(耐摩耗性試験(摩耗試験))
製造した試験用タイヤを車に装着し、市街地を8000km走行後の溝深さの減少量を測定し、溝深さが1mm減少するときの走行距離を算出した。更に、基準比較例の耐摩耗性指数を100とし、下記計算式により、各配合の溝深さの減少量を指数表示した。なお、耐摩耗性指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(耐摩耗性指数)=(各配合で1mm溝深さが減るときの走行距離)/(基準配合(比較例)のタイヤの溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0089】
(転がり抵抗試験)
2mm×130mm×130mmの加硫ゴムシートを作製し、そこから測定用試験片を切り出し、粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度50℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件下で、各試験片のtanδを測定した。基準比較例の転がり抵抗指数を100として、下記計算式により、転がり抵抗特性をそれぞれ指数表示した。指数が小さいほど、転がり抵抗が低く、優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(各配合のtanδ/基準配合(比較例)のtanδ)×100
【0090】
(ウェットグリップ性能)
アンチロックブレーキシステム(ABS)評価試験により得られた制動性能をもとにして、グリップ性能を評価した。すなわち、1800cc級のABSが装備された乗用車に、前記試験用タイヤを装着して、アスファルト路面(ウェット路面状態、スキッドナンバー約50)を実車走行させ、時速100km/hの時点でブレーキをかけ、乗用車が停止するまでの減速度を算出した。ここで、減速度とは、乗用車が停止するまでの距離である。
そして、基準配合(比較例)のウェットグリップ性能指数を100とし、下記計算式により、各配合の減速度をウェットグリップ性能指数として示した。なお、ウェットグリップ性能指数が大きいほど制動性能が良好であり、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
(ウェットグリップ性能指数)=(基準配合(比較例)の減速度)/(各配合の減速度)×100
【0091】
(ドライグリップ性能)
上記試験用タイヤを乗用車に装置してドライアスファルト路面のテストコースを走行し、ハンドル応答性、剛性感、グリップ等に関する特性をドライバーの官能評価により評価した。結果は、基準配合(比較例)を100とする指数で表示している。数値が大きい程良好であり、ドライグリップ性能、操縦安定性に優れていることを示す。
【0092】
【表1】

【0093】
実施例では、加硫特性、破壊エネルギー指数の各ゴム物性、耐摩耗性、転がり抵抗特性、ウエット・ドライのグリップ特性の各タイヤ特性とも、現在の化石資源から合成した加硫促進剤、老化防止剤を用いた比較例と同等であった。このことから、実用上全く問題なく、化石資源の枯渇に対応出来ることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス材料を原料として、フェノールを経由してアニリンを合成する合成システム。
【請求項2】
前記バイオマス材料が糖類又はバイオエタノールである請求項1記載の合成システム。
【請求項3】
バイオマス材料を原料として、微生物によりフェノールを生産し、該フェノールをアニリンに変換する請求項1又は2記載の合成システム。
【請求項4】
バイオマス材料を原料として、微生物の液体培養によりフェノールを生産し、該フェノールをアニリンに変換する請求項1又は2記載の合成システム。
【請求項5】
フェノールを産生する微生物が有機溶媒耐性を有する微生物である請求項3又は4記載の合成システム。
【請求項6】
バイオエタノールを原料として、固体酸触媒によりフェノールを合成する請求項2記載の合成システム。
【請求項7】
固体酸触媒がゼオライトである請求項6記載の合成システム。
【請求項8】
固体酸触媒がMFI型ゼオライトである請求項6記載の合成システム。
【請求項9】
固体酸触媒が銅、チタン、プラチナ、ルテニウムの単体又はこれらの化合物を担持したMFI型ゼオライトである請求項8記載の合成システム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の合成システムで得られたアニリンを原料として合成されたタイヤ用ゴム薬品。
【請求項11】
更にバイオマス原料から得られたアセトンを用いて合成された請求項10記載のタイヤ用ゴム薬品。
【請求項12】
バイオマス原料から得られたアセトンは、糖類を原料とした微生物によるアセトン・ブタノール発酵により得られたものである請求項11記載のタイヤ用ゴム薬品。
【請求項13】
微生物がクロストリジウム属である請求項12記載のタイヤ用ゴム薬品。
【請求項14】
微生物がクロストリジウム属の遺伝子が導入された微生物である請求項12記載のタイヤ用ゴム薬品。
【請求項15】
導入された遺伝子がアセトアセテートデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.4)、コエンザイムAトランスフェラーゼ又はチオラーゼをコードする遺伝子である請求項14記載のタイヤ用ゴム薬品。
【請求項16】
バイオマス原料から得られたアセトンが木酢液より分離して得られたものである請求項11記載のタイヤ用ゴム薬品。
【請求項17】
バイオマス原料から得られたアセトンがバイオエタノールより誘導されたものである請求項11記載のタイヤ用ゴム薬品。
【請求項18】
請求項10〜17記載のタイヤ用ゴム薬品を用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−153655(P2012−153655A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14495(P2011−14495)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】