説明

合成ペプチドの組合せとその製法

ヒト及び動物に適用するための合成ペプチドの組合せを含む調整物であって、該ペプチドの組合せがヒトの器官の組織の部分的加水分解物から得られるか、該ペプチドの組合せが、構造及び組成においてヒトの器官由来の組織のものと一致するペプチドの新たな合成によって得られるか、または、その遺伝的開始物質である核酸配列が、ヒトの器官由来の組織のペプチドの核酸配列に一致するような遺伝子組換え微生物から得られる合成ペプチドの組合せを含む調整物。また、該合成ペプチドの組合せの製造方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成ペプチドの組合せを含み、ヒト及び動物に適用される調整物、並びに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
科学及び医学の研究から、低分子量の蛋白質は有機体の合成プロセスの制御に介在し得ることが明らかになっており、これは組織と内分泌システムの機能の向上を導くかもしれない。
同様に、これらの低分子量の蛋白質は、神経レベルでのニューロトランスミッターとして機能するシグナル伝達ペプチド、または、すべての組織に存在する免疫レベルでの分化因子としても知られている。
例えば、ポリペプチドはインターロイキンやGM−CSF(顆粒マクロファージコロニー安定化因子)と同様に、胸腺上皮における初期T細胞分化を制御する。再合成されたそのような或いは他のポリペプチド、並びに、それらの調整物の使用は、化学療法或いは放射線照射等による免疫回復効果に対するとともに、後天的な免疫欠損、感染、アレルギー、自己免疫疾患、神経内分泌疾患(例えば、下垂体のカルチノイド)に対応できる。
【0003】
例えば、国際特許出願公開第WO98/53845号公報(特許文献1)には、合成胸腺ペプチドの組合せとその免疫学及び/又は内分泌学的に活性な調整物としての使用が開示され、そこでは、子牛胸腺ペプチドの組合せに相当する合成胸腺ペプチドは、免疫学的及び/又は内分泌学的に活性な調整物として働くことが示されている。
この調整物における合成胸腺ペプチドの組合せは、ヒトリンパ球の延命を投与量に依存的に増加させ、結果として、この調整物は、ホルモン異常の処置とともに、免疫の脆弱さや免疫欠損の処置における医薬として使用される。
さらに、この調整物は皮膚、髪及び爪の構成物質として、また食品の補強剤や化粧品として用いられる。この場合の合成胸腺ペプチドは、新規に合成されたペプチドに由来する。
【0004】
より一般的には、既知の合成胸腺ペプチドとそれらの組合せは、子牛の胸腺のペプチドとそれらの組合せと一致し、また他方で胸腺器官のみが該ペプチドとそれらの組合せに応じる器官であるという欠点を有する。
このように、調整物における合成ペプチド及びそれらの組合せは、上述のホルモンの効果及びその結果としてのシナジー的な内分泌的効果に限定される。
この点において、該調整物によって、ヒトの器官や特殊な組織における特殊な遺伝的、細胞敵或いは組織的な欠陥を処置することはできない。
例えば、胸腺組織に効果を有するシグナル伝達ペプチドを、遺伝的、細胞的或いは組織的な欠陥を引き起こす心臓、肝臓、肺或いは他の器官の機能的異常の処置のために使うことはできない。
同様に、リンパ節、Peyer’sプラーク、腸関連リンパ組織や脾臓のような第二リンパ組織の機能的異常には、全く影響を及ぼさない。
さらに、ヒトへの効果的な処置についての問題は、子牛の胸腺から単離されたペプチドとヒトの胸腺のペプチドとは異なることから生じ、いくつかの例で動物蛋白質に対する非耐性を引き起こす。
【特許文献1】国際特許出願公開第WO98/53845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それゆえ、ホルモン及び内分泌の異常の処置に加えて、その他の分野の薬学的処置、例えば、遺伝的、細胞或いは組織的な欠陥の処置においても使用することのできるように、先に述べたタイプの調整物を改良しさらに進展させることが、この発明の目的である。
さらに、そのようなペプチドの組合せを基礎とするヒトへの改良された特殊な効果を有する製品を開発することが、この発明の目的である。
同様に、そういった特徴を有する調整物を製造する方法を提供することも、この発明の目的である。
【0006】
この発明の合成ペプチドの組合せを含む調整物は、請求項1の特徴によって、物質に関する前述の目的を達成する。
したがって、合成ペプチドの組合せを含む調整物は、組織の部分的加水分解物から得られ、該組織がヒトの器官由来であり、且つ、該部分的加水分解物が特殊な酵素の組合せによって得られることを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によれば、特定の条件下で加水分解を触媒する特殊な酵素の組合せによって、ヒト組織を部分加水分解することにより、合成ペプチドの組合せが得られることが見出された。
これらの合成ペプチドの組合せは、ホルモンや内分泌異常、並びに、すべての組織の機能不全に対する医薬として使用できる。
さらに、ヒト器官の合成ペプチドの使用により、調整物が改良された効果を奏することを見出した。動物の蛋白質に対する非耐性及び拒絶反応を効果的に避けることができる。
【0008】
具体的には、合成ペプチドの組合せは、特殊な酵素の組合せにより得られることが提供される。該酵素の組合せは、組織由来の特殊な短鎖の蛋白質が部分的に加水分解されるものが選択される。この部分的加水分解物は、シグナル伝達ペプチドや他の効果的な蛋白質を分離でき、その後、調整物において使用される。
特殊な酵素の組合せによる加水分解のpH値、温度、塩濃度或いは時間の組合せに関する特定の条件は、部分加水分解を目的としたものに制御し得る。
【0009】
目的とした部分加水分解には、0.25から3kdの分子量のペプチドが得られれば、好都合である。これにより、調整物はすべての適用される方法によって処理することができる。
【0010】
この発明の合成ペプチドの組合せを含む調整物は、請求項4の特徴によって、上述の目的を達成する。したがって、合成ペプチドの組合せを含む調整物は、新規に合成されたペプチドからなることを特徴とする。新規に合成されたペプチドは、構造及び組成において、ヒト器官の組織のペプチド及びペプチドの組合せと一致する。
【0011】
この点で、ヒトの器官のペプチドに相当する新規に合成されたペプチドは、ホルモンや内分泌の異常とともに、すべての組織の機能不全の医薬として使用できる該ペプチドの組合せを実現することが、この発明により見出された。
さらに、denovo合成は、ペプチドとペプチドの組合せを再現性あるやり方で製造することができることが見出された。その結果として、ヒト器官の移植片を使用することなく行うことができる。
【0012】
これらの合成ペプチドを製造するために、個々の化学的に適当なアミノ酸派生物を短鎖のペプチドを形成するように段階的に結合させ、N末端基及び副作用を及ぼす端物から分離する。これにより、薬学的に再現性あり、菌を用いない方法で、ペプチドの組合せを製造することが可能である。
【0013】
このように製造されたペプチドの組合せは、天然の調整物と異なり、プリオン、特にBSEのリスクのような疾患のリスクやウイルス病原体を排除できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
望ましい態様においては、ペプチドは平均0.15から3kdの分子量からなる。これにより、医薬に適用し得る範囲内の短鎖ペプチドを、簡単にdenovo合成できる。そのような調整物は、すべての適用できる方法によって処理できる。
【0015】
この発明の合成ペプチドの組合せを含む調整物は、請求項8の特徴によって、上述の目的を、さらなる選択肢の範囲内において達成する。したがって、合成ペプチドの組合せを含む調整物は、遺伝子組換え微生物から得られるペプチドの組合せであることを特徴とする。例えば、製造されたペプチドは、ヒトの器官由来の組織のペプチドと、遺伝開始物質の核酸の配列が一致する。
【0016】
この選択肢の実現にあたり、ヒトの器官由来の組織のペプチドの遺伝的開始物質に相当する核酸の配列を有する微生物のクローニングは、ホルモンや内分泌の異常とともに、すべての組織の機能不全の医薬として使われるペプチドの合成を可能にすることが、この発明により見出された。
また、微生物の使用は、大量に医薬品の再生産を可能にすることも見出された。この点において、莫大な需要のある調整物を、酵母の液体培地において工業的規模で製造できる。加えて、このように製造されたペプチドは、動物の器官からの製造物と比べて、ヒトに対する耐性が優れている。
【0017】
合成ペプチドの特に簡単な製造は、プラスミドを用いた微生物におけるcDNAのクローニングによって行える。この過程において、cDNAは、該ペプチドのmRNAの逆転写によって得ることができる。可能な選択マーカーを有するプラスミドにおけるcDNAや、選択培地の使用により、所望のペプチドのcDNAを含む微生物のみを得ることができる。選択マーカーに加えて、プラスミドはクローンされたcDNAの発現を増加させるプロモーターを有することもできる。
【0018】
特に望ましい態様においては、微生物は、回収可能なように培地にペプチドを放出する。これは、浸透圧によるショックや電気的なショックによる手法によって実現できる。合成されたペプチドは、これに続く遠心分離工程とクロマトグラフィによって、簡単に得ることができる。
【0019】
さらに望ましい態様においては、ペプチドは平均0.15から3kdの分子量からなる。これは、核酸配列の大きさに限界がある微生物において、簡単で安定的なクローニングを可能にする。さらに、このように合成されたペプチドの組合せは、すべての適用できる方法によって処理することができる。
【0020】
さらに望ましい態様においては、合成ペプチドの組合せを含む調整物は、器官の機能不全の処置における医薬として使用される。この文脈において、欠陥のある或いは破壊された組織は、合成ペプチドの組合せによる効果によって、再生または新生される。
【0021】
また、当該合成ペプチドの組合せを含む調整物を、免疫学及び/又は内分泌学的に活性な調整物として供給できる。この文脈において、ヒト器官から模写された合成ペプチドの組合せは、BSEのリスクや動物からヒトにうつる他の疾患をすべて排除できる。
【0022】
当該合成ペプチドの組合せを含む調整物は、食品の補強剤や化粧品としても用いることができる。これにより、合成ペプチドの組合せを含む調整物は、医療の支持のない利用者にもアクセス可能である。
【0023】
方法については、上述の目的は、請求項20の工程により達成される。したがって、調整物の製造のための方法は、酵素によってヒト組織由来の組織が加水分解され、該加水分解物が特殊な酵素の組合せによって得られることを特徴とする。
好ましくは、この発明の方法は、請求項1乃至請求項3及び請求項13乃至請求項19の調整物を製造するために用いられ、その明細書の続く部分は、繰り返しを避けるために参照することにより組み込まれる。
【0024】
方法については、上述の目的は、同様に請求項21の工程により達成される。したがって、調整物の製造のための方法は、個々に化学的に適当なアミノ酸派生物がペプチドに結合され、該新たに合成されたペプチドが、構造及び組成において、ヒト器官の組織のペプチド及びペプチドの組合せに一致することを特徴とする。これに関し、メリフィールド(Merrifield)固相法に従う方法が提示される。
好ましくは、この発明の方法は、請求項4乃至請求項7及び請求項13乃至請求項19の調整物を製造するために用いられ、その明細書の続く部分は、繰り返しを避けるために参照することにより組み込まれる。
【0025】
同様にこの発明の方法は、さらなる選択肢の範囲内において、請求項22の工程によって特定される。したがって、調整物の製造方法は、ペプチド及びペプチドの組合せが遺伝子組換え微生物から得られることを特徴とする。この例として、該ペプチドは、ヒトの器官由来の組織のペプチドと、遺伝的開始物質である核酸の配列が一致する。
好ましくは、この発明の方法は、請求項8乃至請求項19のいずれか一つの調整物を製造するために用いられる。同様に、その明細書の続く部分は、繰り返しを避けるために参照することにより組み込まれる。
【0026】
望ましくは、調整物の製造方法は、部分的に加水分解された組織から得られたペプチドの組合せや、新たにペプチドの合成により得られたペプチドの組合せ、または、ヒトの器官の組織の特徴を有するアミノ酸の量比とパターンを形成する遺伝子組換え微生物から製造されたペプチド及びペプチドの組合せにまで展開される。このようにして、これらの方法から天然と同一の製造物が得られる。
【0027】
最後に、有利な態様でこの発明の教示を改良し、より開発する数え切れない可能性があるといえる。上述の実施態様は単にクレームの教示を説明するためのもので、その実施態様に発明を限定しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト及び動物に適用するための合成ペプチドの組合せを含む調整物であって、該ペプチドの組合せが組織の部分的加水分解物から得られ、該組織がヒトの器官由来であり、且つ、該部分的加水分解物が特殊な酵素の組合せによって得られることを特徴とする、合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項2】
酵素の組合せが、目的とする部分加水分解を行えるように選択されることを特徴とする、請求項1記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項3】
目的とする部分加水分解により分子量0.15から3kdのペプチドが得られることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項4】
ヒト及び動物に適用するための合成ペプチドの組合せを含む調整物であって、該ペプチドの組合せが新たに合成されたペプチドを含み、該新たに合成されたペプチドが、ヒトの器官由来の組織のペプチド及びペプチドの組合せに、その構造及び組成が一致することを特徴とする、合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項5】
合成ペプチドが、個々のアミノ酸の結合によって得られる、請求項4記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項6】
合成ペプチドが、平均分子量0.15から3kdを有する、請求項4または請求項5記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項7】
合成ペプチドが、プリオンのリスク、特にBSEのリスクなしで得られる、請求項4乃至請求項6のいずれか1項記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項8】
ヒト及び動物に適用するための合成ペプチドの組合せを含む調整物であって、該ペプチドの組合せが遺伝子組換え微生物から得られ、該製造されたペプチドはヒトの器官由来組織のペプチドと、遺伝的開始物質である核酸の配列が一致することを特徴とする、合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項9】
微生物が、プラスミドに含まれたcDNAのクローニングにより得られる、請求項8記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項10】
微生物が、培地にペプチドを放出する、請求項8または請求項9記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項11】
ペプチドが、培地から回収される、請求項8乃至請求項10のいずれか1項記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項12】
培地に放出された合成ペプチドが、平均分子量0.15から3kdを有する、請求項8乃至請求項11のいずれか1項記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項13】
器官の機能不全の処置における医薬として用いられる、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項14】
免疫の脆弱さ及び免疫の欠陥の処置における医薬として用いられる、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項15】
遺伝的欠陥の処置における医薬として用いられる、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項16】
細胞または組織の欠陥の処置における医薬として用いられる、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載のヒト及び動物に適用するための合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項17】
ホルモン異常処置における医薬として用いられる、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項18】
化粧品として用いられる、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項19】
食品の補強剤として用いられる、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の合成ペプチドの組合せを含む調整物。
【請求項20】
請求項1に記載の調整物の製造方法であって、組織を酵素により部分的に加水分解し、該組織がヒトの器官由来であり、且つ、該部分的な加水分解物が特殊な酵素の組合せにより得られることを特徴する、調整物の製造方法。
【請求項21】
請求項4に記載の調整物の製造方法であって、個々に、化学的に適当なアミノ産派生物がペプチドを形成するように結合され、該新たに合成されたペプチドが構造及び組成においてヒトの器官由来の組織におけるペプチド及びペプチドの組合せと一致することを特徴とする、調整物の製造方法。
【請求項22】
請求項8に記載の調整物の製造方法であって、ペプチド及びペプチドの組合せが微生物から得られ、該ペプチドはヒトの器官由来の組織のペプチドと、遺伝的開始物質である核酸の配列が一致することを特徴とする、調整物の製造方法。
【請求項23】
組織が部分的に加水分解されるか、個々に化学的に適当なアミノ産派生物がペプチドを形成するように結合されるか、または、ヒトの器官の組織に特徴的なアミノ酸の量比とパターンを形成するような工程によって特徴づけられる遺伝子組換え微生物から製造される、請求項20乃至請求項22に記載の調整物の製造方法。

【公表番号】特表2006−527703(P2006−527703A)
【公表日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515678(P2006−515678)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/DE2004/001229
【国際公開番号】WO2004/112822
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(505442853)
【Fターム(参考)】