合成リポペプチドおよびその医薬用途
【課題】現在有効な予防手段がないマイコプラズマ肺炎に対し、安全かつ有効なワクチンの開発に資する抗原および当該抗原を用いるワクチンなどを提供する。
【解決手段】S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチドを代表とするマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)に由来する合成リポペプチド、当該リポペプチドを含有するトールライクレセプターの活性化剤、当該リポペプチドを含有する転写因子誘導剤、当該リポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有するワクチン組成物。
【解決手段】S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチドを代表とするマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)に由来する合成リポペプチド、当該リポペプチドを含有するトールライクレセプターの活性化剤、当該リポペプチドを含有する転写因子誘導剤、当該リポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有するワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症予防に適用しうる新規な合成リポペプチドおよびそれを有効成分として含有してなるワクチン組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)は、マイコプラズマ肺炎の起因菌である。この起因菌は、気管支上皮細胞に付着した後、サイトカインをはじめ、様々な宿主免疫応答を誘導するが、その機序は明らかになっていない。当該菌は、直径125〜153nm程度でウィルス程度の小さな病原体であるが、増殖するためにはウィルスとは異なり生きた細胞を必要とせず、また、一部の抗生物質が有効だったことから、細菌に分類されていた時期もあるが、最近では別の綱に分類されている。
【0003】
マイコプラズマ属の菌は、細菌の特徴である細胞壁を持っていない。細菌感染症治療の第一選択として使われるβ−ラクタム系の抗生物質(ペニシリン系、セフェム系など)は細菌の細胞壁を障害して菌を殺す作用を持つが、細胞壁を持たないマイコプラズマには無効である。有効な抗生物質は、タンパク合成阻害剤のマクロライド系抗生剤やテトラサイクリン系抗生物質、またはDNA複製を抑制するニューキノロン系抗生物質である。
【0004】
臨床の現場では、臨床症状から判断してマイコプラズマ感染症が疑われた場合、マクロライドなどのタンパク質合成阻害剤が処方されている。しかし、これら抗生物質の多用により、抗生物質抵抗性のマイコプラズマ・ニューモニエの出現が報告されている。本症の治療において、早期診断・早期治療をすることが病状の遷延化や流行を防止するために必要とされるが、診断が確定するまでの日数がかかる場合が多い。近年、細菌性肺炎が激減した中で、肺炎全体に占めるマイコプラズマ肺炎の比率は高まっている。
【0005】
一方、非特許文献1に記載されているように、トールライクレセプター(Toll Like Receptor(TLR))と呼ばれる受容体ファミリーが細菌の様々な菌体成分を認識し、最終的に転写因子であるNF−κBを活性化することにより自然免疫を誘導することが報告されている。
【0006】
本発明者らは、既にマイコプラズマ・ニューモニエ由来のF0F1型ATPアーゼのサブユニットbであるリポプロテイン(非特許文献2)が、TLR1、TLR2およびTLR6依存的に転写因子NF−κBを活性化することを報告し(非特許文献3)、特許出願(特願2005−152068、PCT/JP2006/310830)を行った。さらに、当該リポプロテインの一部を合成し、得られたFAM−20、FAM−5と称する化合物を含む合成リポペプチド類が、天然型のリポプロテインと同等の活性を示すことを見出し、特許出願(特願2005−311966)を行った。
【0007】
【非特許文献1】Akira,S.&Takeda,K.,Nature Rev.Immunol.,Vol.4,pp.499−511(2004)
【非特許文献2】George Pyrowolakis et al., The Journal of Biological Chemistry,Vol.2673,No.38,Issue of September 18,pp.24792−24796(1998)
【非特許文献3】Takashi Shimizu,Yutaka Kida and Koichi Kuwano,J.Immunology,175:4641−4646(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、現在有効な予防手段がないマイコプラズマ肺炎に対し、さらに安全かつ有効なワクチンの開発に資する合成リポペプチドおよび当該合成リポペプチドを含有してなるワクチン組成物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、転写因子NF−κBを有効に活性化させるマイコプラズマ・ニューモニエ由来の菌体構成物質をさらに鋭意探索し、NF−κBを活性化するリポプロテインN−ALP1およびN−ALP2を単離、精製することに成功し(図1)、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のものを提供する:
[1]下記式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、
Xは、配列番号3または4で表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチド。
[2]前記R1、R2およびR3が、炭素数7から19までのアルキル基である、[1]記載のリポペプチド。
[3]前記R1CO、R2COおよびR3COが、パルミトイル基である、[1]または[2]に記載のリポペプチド。
[4]下記式(2)
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドを含有する、トールライクレセプター(TLR)の活性化剤。
[5]前記TLRが、TLR1、TLR2およびTLR6からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[4]記載の活性化剤。
[6]下記式(2)
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドを含有する、転写因子誘導剤。
[7]前記転写因子がNF−κBである、[6]記載の転写因子誘導剤。
[8]下記式(2)
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有する、ワクチン組成物。
[9]アジュバントをさらに含有する、[8]記載の組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリポペプチドは、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のリポプロテインN−ALP1およびN−ALP2を最適化することにより得られたものである。本発明のリポペプチドおよびTLRの活性化剤は、マイコプラズマ肺炎の発症機序の解明、ならびに、TLRを介した先天性免疫応答の研究の進展に寄与することができる。本発明の活性化剤は、TLRを介した免疫賦活剤としても有用である。
【0019】
本発明の転写因子誘導剤によれば、マイコプラズマ感染における宿主応答およびマイコプラズマ肺炎の発症機序の解明、ならびに、TLRを介してNF−κBが関与する転写誘導の研究の進展に寄与することができる。
【0020】
本発明のワクチン組成物によれば、従来有効な予防および改善手段が存在していなかったマイコプラズマ肺炎を予防し、またはその症状を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において、マイコプラズマ・ニューモニエとは、ヒトマイコプラズマ肺炎の起因菌であり、現在までに単離・同定された菌株ばかりでなく、現在未同定であってもマイコプラズマ肺炎の発症に関与する限り、これらすべての菌を包含するものである。当該マイコプラズマは、抗生物質耐性菌株であってもよい。
【0022】
本発明のリポペプチドは、下記式(1)
【0023】
【化5】
【0024】
で表される。
【0025】
式(1)中、ペプチド部分Xは、そのアミノ酸配列のN末端に位置するアミノ酸(Ala)を介してシステイン残基とペプチド結合し、該システイン残基は、その側鎖に由来するSを介して、プロピル誘導体とスルフィドを形成している。
本発明においては、アミノ酸はL体、D体およびDL体を包含するものであるが、通常、L体を用いる。前記プロピル誘導体中の不斉中心は、R配置、S配置、またはRS配置のいずれであってもよい。
【0026】
式(1)中、Xは、配列番号3または配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分である。
【0027】
前記アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸残基が置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(1)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。ここで、自然免疫の誘導は、後述するレポーターアッセイによりTLRの発現を介してNF−κBの発現の程度を指標にすることができる。
【0028】
1ないし数個(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換としては、保存的アミノ酸置換が挙げられる。保存的アミノ酸置換とは、特定のアミノ酸を、そのアミノ酸の側鎖と同様の性質の側鎖を有するアミノ酸で置換することをいう。具体的には、保存的アミノ酸置換では、特定のアミノ酸は、そのアミノ酸と同じグループに属する他のアミノ酸により置換される。同様の性質の側鎖を有するアミノ酸のグループは、当該分野で公知である。例えば、このようなアミノ酸のグループとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)が挙げられる。また、中性側鎖を有するアミノ酸は、さらに、極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、および非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)に分類することもできる。また、他のグループとして、例えば、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)を含む側鎖を有するアミノ酸(例えば、セリン、トレオニン、チロシン)なども挙げることができる。
【0029】
1ないし数個(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の付加としては、配列番号3および4に示すアミノ酸配列のC末端側に、例えば、Leu Leu TrpまたはLeu Trp Valからなるアミノ酸残基を付加することが挙げられる。また、リポペプチドの水溶解性を増強するため、アミノ酸配列のC末端側に塩基性アミノ酸であるアルギニン(Arg)またはリジン(Lys)を3ないし4残基付加してもよい。
【0030】
さらに、前記アミノ酸配列において、1ないし数個(好ましくは1〜10個)のアミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(1)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。
【0031】
1ないし数個のアミノ酸残基の欠失としては、配列番号3および4に示すアミノ酸配列の中から、任意(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基を選択して欠失させることが挙げられる。あるいは、配列番号3または4のアミノ酸配列において、示されるアミノ酸配列のC末端から連続して数個のアミノ酸配列の欠失であってもよく、例えば3〜10個の欠失が例示される。
【0032】
R1、R2およびR3は、同一または異なって、水素、炭素数1から29までのアルキル基であるが、当該アルキル基は不飽和結合(二重結合、三重結合)を任意の数有していてもよく、従って、炭素数2から29までのアルケニルまたはアルキニル基も本発明の炭素数2から29までのアルキル基に包含される。これらは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また環状であってもよい。さらに、鎖中にシクロプロパン環などの環を含んでいてもよい。本発明においては、R1、R2およびR3は、生体内で自然免疫を効率的に誘導するという観点から、飽和脂肪酸を構成する炭素数1から29までのアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数7から19までのアルキル基であり、具体的には、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルなどが挙げられる。
【0033】
Yは、水素またはR3COである。
なお、本明細書中、Yが水素の場合の式(1)(または後述の式(2))の化合物を「ジアシル体」とも称し、YがR3COである場合の式(1)(または後述の式(2))の化合物を「トリアシル体」とも称する。
【0034】
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基であり、好ましくは同一のアシル基である。アシル基はそれぞれ飽和でも不飽和でもよく、具体的には、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、ベヘノイル、シス−バクセノイル、9,10−メチレン−ヘキサデカノイル、パルミトレイルなどが好適な例として挙げられる。中でも、マイコプラズマ・ニューモニエ菌体で見出されるリポプロテインの構成成分である、パルミトイル基が最も好ましい。
【0035】
本発明の好ましいリポペプチドは、下記式
【0036】
【化6】
【0037】
および
【0038】
【化7】
【0039】
で表される、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(ジアシル体;ここで、ペプチドは配列番号3または配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する)ならびに下記式
【0040】
【化8】
【0041】
および
【0042】
【化9】
【0043】
で表される、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(トリアシル体)
ここで、上記化6〜化9の構造式におけるペプチド鎖を構成する各記号は、以下のアミノ酸の残基を意味する。A:アラニン;E:グルタミン酸;F:フェニルアラニン;G:グリシン;I:イソロイシン;K:リジン;L:ロイシン;N:アスパラギン;P:プロリン;Q:グルタミン;R:アルギニン;S:セリン;T:トレオニン;V:バリン;Y:チロシン。
【0044】
上記4種のリポペプチドは、実施例に記載した方法により製造することができる。また、他のリポペプチドも、該当する脂肪酸(オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等)を用いて、実施例に準じた方法により、当業者であれば容易に合成することができる。
【0045】
本発明は、下記式(2)
【0046】
【化10】
【0047】
で表されるリポペプチドを含有する、トールライクレセプター(TLR)の活性化剤を提供する。
【0048】
式(2)中、X’は、そのアミノ酸配列のN末端に位置するアミノ酸(Ala)を介してシステイン残基とペプチド結合し、該システイン残基は、その側鎖に由来するSを介して、プロピル誘導体とスルフィドを形成している。該プロピル誘導体中の不斉中心は、R配置、S配置、またはRS配置のいずれであってもよい。
【0049】
式(2)中、X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分である。配列番号3または4のアミノ酸配列を有するペプチド部分は、式(1)のXにおいて説明した通りである。
【0050】
また、前記配列番号1または2のアミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸残基が置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(2)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。ここで、自然免疫の誘導は、後述するレポーターアッセイによりTLRの発現を介したNF−κBの発現の程度を指標にすることができる。
【0051】
ここで、1ないし数個(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換または1ないし数個(好ましくは1〜4個)のアミノ酸残基の付加としては、式(1)の化合物のXにおいて挙げられた、アミノ酸残基の置換または付加が挙げられる。
【0052】
さらに、前記配列番号1または2のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(1)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。
【0053】
1以上(好ましくは1〜345個または1〜292個)のアミノ酸残基の欠失としては、配列番号1または2に示すいずれかのアミノ酸配列の中から、任意のアミノ酸残基を選択して欠失させることが挙げられる。あるいは、配列番号1または2のアミノ酸配列において、示されるアミノ酸配列のC末端から連続して数個〜数百個のアミノ酸配列の欠失であってもよく、例えばそれぞれ3〜345個または3〜292個の欠失が例示される。
【0054】
式(2)中、Y、R1CO、R2COおよびR3CO、ならびにR1、R2およびR3は、式(1)の化合物で説明したとおりである。
【0055】
式(2)で表されるリポペプチドのうち、ペプチドが配列番号3または配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するリポペプチドは、式(1)で表されるリポペプチドと同様の方法で製造することができる。
【0056】
また、式(2)で表されるリポペプチドのうち、ペプチドが配列番号1または配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するリポペプチドも、式(1)で表されるリポペプチドと同様の方法で製造することができる。このうち、YがR3COであるリポペプチドは、天然のリポプロテインN−ALP1またはN−ALP2と同様の構造を有すると推定されるため(本願実施例参照)、マイコプラズマの菌体成分を抽出し、ついで分画し、精製することによっても得られる。
【0057】
菌体成分の抽出方法としては、通常、超音波破砕、各種界面活性剤による溶解などの方法が用いられる。界面活性剤による溶解方法としては、好ましくは、菌体をTriton−X(登録商標)114(以下、TX−114と略する)で処理する方法が挙げられる。TX−114は、Sigma社から市販されている。TX−114は、その水溶物が37℃で水層と界面活性剤層に分離することから、菌体のタンパク質を親水性と疎水性のものに分離するのに適している。具体例として、2%TX−114水溶液にマイコプラズマの菌体を溶解し、約12,000rpm、37℃で約5分間遠心分離することにより水層と界面活性剤層に分離することができる。界面活性剤層を分取し、これにメタノールを加えることによりタンパク質を析出させ、遠心分離により上清を回収して可溶画分として得ることができる。このようにして得られた可溶画分は、膜結合リポプロテイン(LAMP)を豊富に含有しており、これを分画することにより、活性成分が得られる。分画は通常、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(μBondasphere C18 300A(Waters,Milford,MA)溶出条件:0%から100%の2−プロパノールのリニアグラジエント、液量は1ml/min、溶出時間:好ましくは60分程度)にて行うのが好ましい。得られた画分のTLRの活性化は、後述するレポーターベクターを用いたレポーターアッセイにより確認することができる。
【0058】
さらに、式(2)で表されるリポペプチドのうち、ペプチドが配列番号1または配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するリポペプチドは、常法により、菌体成分から得られたN−ALP遺伝子と、任意の発現ベクターとを用いて構築したN−ALP発現ベクターにより発現、精製したN−ALPを用いて製造することもできる。
【0059】
本発明において、トールライクレセプター(TLR)とは、微生物の侵入や感染を防御するため、先天性免疫(自然免疫ともいう)の誘導経路に介在する受容体ファミリーである。ヒトTLRファミリーは、TLR1〜11のメンバーから構成されている。
【0060】
本発明のTLR活性化剤により活性化されるTLRは、TLR1、TLR2およびTLR6を活性化させることが好ましい。特に、本発明の剤が含む式(2)の化合物において、ジアシル体の場合は、本発明のTLR活性化剤は、TLR1およびTLR2、TLR2およびTLR6を活性化することができ、一方、式(2)で表される化合物において、トリアシル体の場合は、TLR1およびTLR2を選択的に活性化することができる。
【0061】
本発明のリポペプチドのうち、ジアシル体は、他のマイコプラズマ(マイコプラズマ・ファーメンタスおよびマイコプラズマ・サリバリウム)由来の、N−アシル化されないリポプロテインまたはリポペプチド(J.Immunol.165:6538−44(2000)およびJ.Exp.Med.185:1951−8(1997)参照)と同様に、TLR1およびTLR2に加えて、TLR2およびTLR6をも活性化するものであるが、トリアシル体は、TLR1およびTLR2のみを活性化することができる。
【0062】
TLRを介した自然免疫の誘導は、その後の獲得免疫にも重要な役割を担うことから、本発明により得られるTLR活性化剤は、マイコプラズマ肺炎の予防または症状軽減への開発応用が期待される。例えば、本発明の剤は、TLRシグナル経路を阻害することが可能な抗体の産生を誘導するため、ワクチン接種用注射剤の候補となり得る。
【0063】
本発明は、式(2)で表されるリポペプチドを含有する、転写因子誘導剤を提供する。式(2)で表されるリポペプチドは、前記定義した通りである。
【0064】
式(2)で表されるリポペプチドは、TLRを活性化するため、TLRを介したシグナル伝達機構に関与する。従って、本発明の転写因子誘導剤は、TLRを介したシグナル伝達により、そのシグナルの下流に位置する転写因子を誘導する作用を有する。このような転写因子としては、TLRのシグナル経路に関与する因子であれば特に限定されるものではないが、NF−κBが好ましい。なお、NF−κBは、炎症や免疫反応に関与する炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−1、IL−6、IL−8など)や接着因子(VCAM、ICAM、ELAMなど)の遺伝子を制御する遺伝子に結合し、これらの働きを制御する転写因子である。
【0065】
式(2)で表されるリポペプチドを含有する、TLR活性化剤および転写因子誘導剤の作用は、レポーターアッセイにより測定することができる。具体的には、TLRおよびドミナントネガティブTLRを、腎臓由来の細胞株でベクターの導入効率が高いという特徴をもつ293T細胞に発現(ドミナントネガティブ発現ベクターは、pFLAG−CMV1(Sigma)にTLR1およびTLR6のTIRドメインを欠損させたものを導入して作製することができる)させることにより確認することができる。
【0066】
詳しくは、1〜4×105個の293T細胞に0.1μgのレポーターベクター(転写因子NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたベクター等)をFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入し、すでにTLR1とTLR2、およびTLR2とTLR6に依存的にNF−κBを誘導することがそれぞれ知られている(S)−[2,3−Bis(palmitoyloxy)−(2−RS)−propyl]−N−palmitoyl−(R)−Cys−(S)−Ser−(S)−Lys4−OH・3HCl(Pam3CSK4,CALBIOCHEM,Darmstadt,Germany)およびM.fermentans macrophage−activating lipopeptide 2(MALP−2、松本美佐子博士(大阪府立成人病センター)から分与。Nishiguchi,M.,M.Matsumoto,T.Takao,M.Hoshino,Y.Shimonishi,S.Tsuji,N.A.Begum,O.Takeuchi,S.Akira,K.Toyoshima,and T.Seya.2001.,Mycoplasma fermentans lipoprotein M161 Ag−induced cell activation is mediated by Toll−like receptor 2:role of N−terminal hydrophobic portion in its multiple functions.J Immunol.166:2610)で刺激し、レポーターの発現量(例えば、ルシフェラーゼ活性)の上昇を測定することにより、TLR1およびTLR6の発現を確認することができる。
【0067】
本発明の活性化剤または誘導剤を含有する試料を、転写因子NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクター(たとえば、市販されているpNF−κB−luc(Sigma))を導入した細胞と接触させ、TLRの活性化を介したNF−κBの誘導能をルシフェラーゼ活性の測定により確認することができる。一例としては、4×105個の293T細胞に0.1μgのレポーターベクターpNF−κB−luc(Sigma)をFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入し、48時間後、前記試料を最終濃度0.5%になるように添加し、8時間経過後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定する方法が挙げられる。
【0068】
本発明のTLR活性化剤または転写因子誘導剤に含まれる式(2)で表されるリポペプチドの含有量は、通常、0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜90重量%、より好ましくは1〜10重量%である。また、本発明の剤は、天然のリポプロテインN−ALP1および/またはN−ALP2そのものであってもよい。
【0069】
本発明の活性化剤または誘導剤は、さらに任意の担体を含んでいても良い。例えば、注射剤や研究用試薬として液剤を製造する場合、当該担体としては、安息香酸ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、水、生理食塩水等の希釈剤等およびこれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。また、本発明の活性化剤または誘導剤の剤形としては、注射剤や研究用試薬としての使用に適した剤形であることが好ましく、例えば液剤(例、注射剤、点滴剤等)または固体(凍結乾燥製剤を含む)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0070】
本発明の活性化剤または誘導剤は、前記リポペプチドを有効成分として、常法により製造することができる。
【0071】
本発明の剤が含む好ましいリポペプチドは、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(ジアシル体;ここで、ペプチドは配列番号1〜4で表されるアミノ酸配列を有する)およびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(トリアシル体;ここで、ペプチドは配列番号1〜4で表されるアミノ酸配列を有する)である。これらのリポペプチドは、単独で、または2種以上を組み合わせて本発明の剤に含んでいてもよい。
【0072】
また、配列番号1および2で表されるアミノ酸配列を有するペプチドは、実施例に記載された方法で合成しても、マイコプラズマ・ニューモニエのLAMPから抽出してもよく、またN−ALP発現ベクターを用いて発現、精製してもよい。
【0073】
本発明の活性化剤または誘導剤が作用する細胞としては特に限定されず、TLRを発現していることが従来公知な細胞または将来発見され得る細胞全てが含まれる。中でもTLR1、TLR2およびTLR6を発現している細胞が好ましく、例えば、樹状細胞、マクロファージが挙げられる。
【0074】
本発明は、式(2)で表されるリポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有する、ワクチン組成物を提供する。
【0075】
式(2)で表されるリポペプチドは、前記定義した通りである。当該リポペプチドは1種のみを選択してもよいが、ワクチン組成物においては、2種以上のリポペプチドを適宜選択して含有するワクチン組成物が好ましい。さらには、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のN−ALP1および/またはN−ALP2を含有していてもよい。抗原として多種類のリポペプチドを含有するワクチン組成物は、様々な接種対象者における獲得免疫を惹起させることが可能である。
【0076】
前記医薬として許容され得る担体としては、ワクチンの製造に通常用いられる担体を限定なく使用することができ、具体的には、食塩水、緩衝化食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液およびそれらの組合せが挙げられる。担体は、好ましくは滅菌されたものである。また、これに乳化剤、保存剤(例、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤および不活化剤(例、ホルマリン)等が適宜配合される。
【0077】
本発明の組成物は、ワクチンの投与様式に適合した形態を有することが好ましく、例えば、注射可能な形態として、溶液、懸濁液または乳化液が挙げられる。あるいは、液体溶液、懸濁液または乳化液に供せられる形態として、凍結乾燥製剤等の固体形態が挙げられる。
【0078】
本発明の組成物は、製薬上許容可能で且つ活性成分と相溶性であるアジュバントをさらに含有することが好ましい。アジュバントは、一般には、宿主の免疫応答を非特異的に増強する物質であり、多数の種々のアジュバントが当技術分野で公知である。アジュバントの例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン、Quill A(登録商標)、リゾレシチン、サポニン誘導体、プルロニックポリオール、モンタニドISA−50(Seppic,Paris,France)、Bayol(登録商標)およびMarkol(登録商標)。
【0079】
ワクチン組成物は、前記リポペプチドを有効成分として、前記担体および好ましくはアジュバントとともに常法により製造することができる。当該リポペプチドは、ワクチン中に0.001〜99.9重量%含有されていればよい。
【0080】
本発明のワクチン組成物は、様々な経路により接種することができる。例えば、皮内、皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、および経口経路等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
また、本発明は、本発明のワクチン組成物の1または2以上の成分を包含する1または2以上の容器からなるキットを提供する。
【0082】
ワクチン組成物およびキットを用いて、マイコプラズマ肺炎を予防またはその症状を軽減することができる。本発明は、有効免疫感作量の本発明のワクチン組成物を対象に投与することを包含するマイコプラズマ肺炎の予防または軽減方法を提供する。
【0083】
ワクチンの投与方法としては、前記接種方法に例示した通りである。投与量は、対象の年齢、性別、体重、薬物への忍容性等を考慮して決められるが、通常0.001mg〜1,000mgを1回または2回以上投与することができる。好ましくは複数回の投与であり、この場合、2〜4週間の間隔をあけて投与することが好ましい。
【0084】
また、本発明のワクチン組成物が適用される生物としては特に限定されず、例えば、ヒトを含む動物(例、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等)が挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれらに限定されない。
【0086】
(1)S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチドの合成
【0087】
S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(図2)は、下記文献:
Metzger, J.W., K.-H.Wiesmuller, and G. Jung. Synthesis of N-Fmoc protected derivatives of S-(2,3-dihydroxypropyl)-cysteine and their application in peptide synthesis. Int. J. Pept. Protein Res. 38:545-554 (1991)、および
Metzger, J.W., A.G. Beck-Sickinger, M. Loleit, M. Eckert, W.G. Bessler, and G. Jung. Synthetic S-(2,3-dihydroxypropyl)-cysteinyl peptides derived from the N-terminus of the cytochrome subunit of the photoreaction centre of Rhodopseudomonas viridis enhance murine splenocyte proliferation. J. Pept. Sci. 3:184-190 (1995) に記載の方法に基づいて合成した。
【0088】
ペプチド合成は、9−fluorenylmethoxycarbonyl(Fmoc)法に従い、自動化シンセサイザ(モデル433A;Applied Biosystems)を使って合成した。tert−butoxycarbonylによって保護されたFmoc−レジンを充填したWang−PHB樹脂を固相化の支持体として使った。0.1mMアミノ酸をそれぞれの結合に使用した。使用したアミノ酸(側鎖の保護基)の例を次に示す。アスパラギン(triphenylmethyl)、セリン(tert−butyl)、リジン(tert−butoxy−carbonyl)等。樹脂(レジン)に結合したFmoc−アミノ酸の遊離は、ピペリジンを使用して行った。アミノ酸の結合には2−(1H−benzotriazol−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluronium tetrafluoroborateおよびhydroxybenzotriazole(HOBt)を使った。樹脂に結合したアミノ酸14個からなるペプチド(N14−merペプチド)とFmoc−(2,3−dihydroxypropyl)−L−Cysteine−OHの結合は、dimethylformamide/dichloromethane(1:2)中で、12時間反応させて行った。5%フェノール含有TFA(トリフルオロ酢酸)、5%thioanisole、5%ethanedithiole、および7%水を用いて、樹脂からのペプチドの切り出しおよびすべての保護基の除去を行った。合成の進行を、エレクトロスプレーイオン化質量分析機によってモニターした。
【0089】
得られた化合物がS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチドであることは、質量分析により確認した。以下の実験用には、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(以下、ジパルミトイル体と記載)およびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(以下、トリパルミトイル体と記載)を精製し、秤量して用いた。
【0090】
(2)マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPsの精製
マイコプラズマ・ニューモニエM129(ATCC 29432)を、20%ウマ血清を補足したPPLO培地を含むフラスコ中で、37℃で48時間培養した。フラスコに付着した細胞をPBS(0.15M NaCl、10mMリン酸ナトリウム、pH7.4)で2回洗浄した後、掻き出し、4℃、12000×gで10分間遠心分離することにより回収した。細胞を、60℃で30分の熱処理により不活化した。これらの細胞を、10mM Tris(pH7.5)、150mM NaClおよび1mM EDTAを含む溶液(TBSE)中に、2mgタンパク質/mlの濃度となるように懸濁し、TX−114(Sigma社製)を2%となるように加え、4℃で1時間インキュベートすることによりマイコプラズマの菌体を溶解した。37℃で10分間インキュベートした後、溶解液を、10,000×g、37℃で20分間遠心分離して水層と界面活性剤層に分離し、界面活性剤層を分取した。TBSEで2回洗浄した後、得られた界面活性剤層(0.1ml)にメタノール(0.25ml)を加えて−20℃で終夜インキュベートすることでタンパク質を析出させ、遠心分離した。残渣をPBSで懸濁して5分間超音波破砕(Sonifer cell disruptor 200,Branson,Danbury,CT)することによりLAMPを得た。
【0091】
(3)レポーターアッセイ
NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクターpNF−κB−lucは、Sigma社から購入した。1×105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin G,および100μg/ml streptomycinを含有するRPMI1640培地で培養)に0.1μgのpNF−κB−lucをFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入した。48時間培養後、各リポペプチドを種々の濃度(0.001〜10,000ng/ml)になるように培地に添加し、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定した。
【0092】
(4)NF−κB誘導のTLR依存性
マイコプラズマ・ニューモニエ由来の物質によって、TLR2依存的にNF−κBを誘導するか確認するため、293T細胞にTLR2を強発現させた。すなわち、1×105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin Gおよび100μg/ml streptomycinを含有するD−MEMで培養)に0.01μgのレポーターベクターpNF−κB−lucおよび0.01〜0.1μgのTLR2発現ベクター(pFLAG−CMV1(Sigma,St.Louis,MO)にTLR2の配列を挿入したもの)を、FuGENE6を用いて導入した。
【0093】
熱不活化マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPsは、TLR2を強発現させた293T細胞においてルシフェラーゼ活性を増強した(図3)。マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPsによるNF−κB誘導はTLR2依存性であることが明らかになった。次に、TLR1,6依存性を検討するため、TLR2を発現させた293T細胞に、ドミナントネガティブ(DN)TLR6またはDNTLR1を強発現させた。マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPsの刺激は、DNTLR1によりほぼ阻害されたが、DNTLR6では、30〜40%の抑制であった(図4)。つまり、DNTLR6非依存性のシグナルが存在することが示唆された。
【0094】
LAMPsを高速液体クロマトグラフィーで分画して、各フラクションのNF−κB誘導を調べた。フラクション62および69に強いNF−κB誘導活性を観察した(図5)。フラクション62をSDS−PAGE展開し、ゲルより抽出した成分のルシフェラーゼ活性を示す(図6)。分子量21kDaのタンパク質および分子量37kDaのタンパク質に強いルシフェラーゼ活性を見出した。分子量21kDaのタンパク質は既に報告したF0F1型ATPアーゼのサブユニットbである。そこで、分子量37kDaのタンパク質をペプチドマスフィンガプリンティングで検討したところ、Mycoplasma(M.)genitaliumのMG−412のホモログであった。さらに、フラクション69を同様にSDS−PAGE展開し、ゲルより抽出した成分のルシフェラーゼ活性を検討した。分子量6kDaのタンパク質に強いルシフェラーゼ活性を認めた(図7)。これは、MS/MS解析により、M.genitaliumのMG−149のホモログであることが明らかとなった。M.genitaliumのMG−412、MG−149のホモログをそれぞれ、N−ALP1、N−ALP2とした。
【0095】
N−ALP1、N−ALP2のTLR依存性を検討した(図8)。両者ともDNTLR1によりほぼ阻害されたが、DNTLR6では、20〜30%の抑制であった。次に、N−ALP1、N−ALP2のリパーゼ感受性、プロテアーゼ感受性について検討を行った。リパーゼの処理によりルシフェラーゼ活性は60〜70%抑制された。一方、プロテアーゼ処理によって、その活性は30〜40%抑制された(図9)。
【0096】
配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを含むジパルミトイル体およびトリパルミトイル体がTLR2依存的にNF−κBを誘導するか調べた。両者とも濃度依存的にルシフェラーゼ活性を増強させた(図10)。ただし、トリパルミトイル体の活性はジパルミトイル体の活性より低い傾向にあった。
【0097】
さらに配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを含むジパルミトイル体およびトリパルミトイル体がTLR2依存的にNF−κBを誘導するか調べた。同様に両者とも濃度依存的にルシフェラーゼ活性を増強させた(図11)。ただし、トリパルミトイル体の活性は、その濃度1〜100ng/mlではジパルミトイル体の活性より低い傾向にあった。
【0098】
次に、TLR依存性を検討するため、TLR2を発現させた293T細胞に、DNTLR6またはDNTLR1を強発現させた。発現ベクターを導入して48時間培養し、各リポペプチドを最終濃度0.5%になるように培地に添加して、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System により測定した。
【0099】
図12に示すように、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを含むジパルミトイル体およびトリパルミトイル体についてTLR依存性を検討したところ、ジパルミトイル体のNF−κBの誘導はTLR1およびTLR6に依存性であった。しかし、トリパルミトイル体はTLR1依存性であったが、TLR6非依存性であった。
【0100】
同様に、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを含むジパルミトイル体およびトリパルミトイル体についてTLR依存性を検討した。図13に示すように、ジパルミトイル体のNF−κBの誘導はTLR1およびTLR6に依存性であった。しかし、トリパルミトイル体はTLR1依存性であったが、TLR6非依存性であった。
【0101】
これらの結果から、アシル鎖を2本有するジパルミトイル体によるNF−κBの誘導能はTLR1、TLR2およびTLR6に依存性であるが、アシル鎖を3本有するトリパルミトイル体によるNF−κBの誘導能はTLR1、TLR2依存性であることが明らかとなった。既述の図8の結果から、N−ALP1、N−ALP2はTLR1、TLR2依存性、TLR6非依存性であったことから、両者ともアシル鎖を3本有するリポプロテインであろうと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド等のマイコプラズマ・ニューモニエ菌体由来のリポペプチドは、TLR活性化剤として、また、転写因子(特に、NF−κB)誘導剤として有用である。かかるリポペプチドを有効成分として含有するワクチン組成物は、マイコプラズマ肺炎の予防または症状の軽減に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1は、リポプロテインN−ALP1およびN−ALP2のアミノ酸配列を示す。配列中の箱は、シグナル配列を示す。*は、脂質が結合するシステイン残基を示す。イタリック文字で表されたアミノ酸は、推定される膜貫通ドメインを示す。
【図2】図2は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチドの構造を示す。Xは、各配列番号で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを示す。
【図3】図3は、マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPが、TLR2依存性にNF−κBを活性化することを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図4】図4は、マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPによる、NF−κB活性化のTLR1、6依存性を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図5】図5は、LAMPの高速液体クロマトグラフィー(溶離液:0%から100%の2−プロパノールのリニアグラジエント)により溶出された画分の活性を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を、横軸は画分の分画番号を示す。
【図6】図6は、画分62のSDS−PAGE展開図、およびゲルより抽出した成分のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。縦軸は分子量(kDa)を示し、横軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図7】図7は、画分69のSDS−PAGE展開図、およびゲルより抽出した成分のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。縦軸は分子量(kDa)を示し、横軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図8】図8は、N−ALP1、N−ALP2によるNF−κB活性化のTLR1、6依存性を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図9】図9は、N−ALP1、N−ALP2のリポプロテインリパーゼ、プロテイナーゼ感受性を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図10】図10は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(ペプチドは配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する)が濃度依存的にTLR2発現293T細胞を刺激して、NF−κB誘導能が増強されることを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。横軸は合成リポペプチド(ng/ml)の添加濃度を示す。
【図11】図11は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(ペプチドは配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する)が濃度依存的にTLR2発現293T細胞を刺激して、NF−κB誘導能が増強されることを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。横軸は合成リポペプチド(ng/ml)の添加濃度を示す。
【図12】図12は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(ペプチドは配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する)によるNF−κB活性化のTLR1、6依存性を調べたグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図13】図13は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(ペプチドは配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する)によるNF−κB活性化のTLR1、6依存性を調べたグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症予防に適用しうる新規な合成リポペプチドおよびそれを有効成分として含有してなるワクチン組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)は、マイコプラズマ肺炎の起因菌である。この起因菌は、気管支上皮細胞に付着した後、サイトカインをはじめ、様々な宿主免疫応答を誘導するが、その機序は明らかになっていない。当該菌は、直径125〜153nm程度でウィルス程度の小さな病原体であるが、増殖するためにはウィルスとは異なり生きた細胞を必要とせず、また、一部の抗生物質が有効だったことから、細菌に分類されていた時期もあるが、最近では別の綱に分類されている。
【0003】
マイコプラズマ属の菌は、細菌の特徴である細胞壁を持っていない。細菌感染症治療の第一選択として使われるβ−ラクタム系の抗生物質(ペニシリン系、セフェム系など)は細菌の細胞壁を障害して菌を殺す作用を持つが、細胞壁を持たないマイコプラズマには無効である。有効な抗生物質は、タンパク合成阻害剤のマクロライド系抗生剤やテトラサイクリン系抗生物質、またはDNA複製を抑制するニューキノロン系抗生物質である。
【0004】
臨床の現場では、臨床症状から判断してマイコプラズマ感染症が疑われた場合、マクロライドなどのタンパク質合成阻害剤が処方されている。しかし、これら抗生物質の多用により、抗生物質抵抗性のマイコプラズマ・ニューモニエの出現が報告されている。本症の治療において、早期診断・早期治療をすることが病状の遷延化や流行を防止するために必要とされるが、診断が確定するまでの日数がかかる場合が多い。近年、細菌性肺炎が激減した中で、肺炎全体に占めるマイコプラズマ肺炎の比率は高まっている。
【0005】
一方、非特許文献1に記載されているように、トールライクレセプター(Toll Like Receptor(TLR))と呼ばれる受容体ファミリーが細菌の様々な菌体成分を認識し、最終的に転写因子であるNF−κBを活性化することにより自然免疫を誘導することが報告されている。
【0006】
本発明者らは、既にマイコプラズマ・ニューモニエ由来のF0F1型ATPアーゼのサブユニットbであるリポプロテイン(非特許文献2)が、TLR1、TLR2およびTLR6依存的に転写因子NF−κBを活性化することを報告し(非特許文献3)、特許出願(特願2005−152068、PCT/JP2006/310830)を行った。さらに、当該リポプロテインの一部を合成し、得られたFAM−20、FAM−5と称する化合物を含む合成リポペプチド類が、天然型のリポプロテインと同等の活性を示すことを見出し、特許出願(特願2005−311966)を行った。
【0007】
【非特許文献1】Akira,S.&Takeda,K.,Nature Rev.Immunol.,Vol.4,pp.499−511(2004)
【非特許文献2】George Pyrowolakis et al., The Journal of Biological Chemistry,Vol.2673,No.38,Issue of September 18,pp.24792−24796(1998)
【非特許文献3】Takashi Shimizu,Yutaka Kida and Koichi Kuwano,J.Immunology,175:4641−4646(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、現在有効な予防手段がないマイコプラズマ肺炎に対し、さらに安全かつ有効なワクチンの開発に資する合成リポペプチドおよび当該合成リポペプチドを含有してなるワクチン組成物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、転写因子NF−κBを有効に活性化させるマイコプラズマ・ニューモニエ由来の菌体構成物質をさらに鋭意探索し、NF−κBを活性化するリポプロテインN−ALP1およびN−ALP2を単離、精製することに成功し(図1)、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のものを提供する:
[1]下記式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、
Xは、配列番号3または4で表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチド。
[2]前記R1、R2およびR3が、炭素数7から19までのアルキル基である、[1]記載のリポペプチド。
[3]前記R1CO、R2COおよびR3COが、パルミトイル基である、[1]または[2]に記載のリポペプチド。
[4]下記式(2)
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドを含有する、トールライクレセプター(TLR)の活性化剤。
[5]前記TLRが、TLR1、TLR2およびTLR6からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[4]記載の活性化剤。
[6]下記式(2)
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドを含有する、転写因子誘導剤。
[7]前記転写因子がNF−κBである、[6]記載の転写因子誘導剤。
[8]下記式(2)
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有する、ワクチン組成物。
[9]アジュバントをさらに含有する、[8]記載の組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリポペプチドは、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のリポプロテインN−ALP1およびN−ALP2を最適化することにより得られたものである。本発明のリポペプチドおよびTLRの活性化剤は、マイコプラズマ肺炎の発症機序の解明、ならびに、TLRを介した先天性免疫応答の研究の進展に寄与することができる。本発明の活性化剤は、TLRを介した免疫賦活剤としても有用である。
【0019】
本発明の転写因子誘導剤によれば、マイコプラズマ感染における宿主応答およびマイコプラズマ肺炎の発症機序の解明、ならびに、TLRを介してNF−κBが関与する転写誘導の研究の進展に寄与することができる。
【0020】
本発明のワクチン組成物によれば、従来有効な予防および改善手段が存在していなかったマイコプラズマ肺炎を予防し、またはその症状を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において、マイコプラズマ・ニューモニエとは、ヒトマイコプラズマ肺炎の起因菌であり、現在までに単離・同定された菌株ばかりでなく、現在未同定であってもマイコプラズマ肺炎の発症に関与する限り、これらすべての菌を包含するものである。当該マイコプラズマは、抗生物質耐性菌株であってもよい。
【0022】
本発明のリポペプチドは、下記式(1)
【0023】
【化5】
【0024】
で表される。
【0025】
式(1)中、ペプチド部分Xは、そのアミノ酸配列のN末端に位置するアミノ酸(Ala)を介してシステイン残基とペプチド結合し、該システイン残基は、その側鎖に由来するSを介して、プロピル誘導体とスルフィドを形成している。
本発明においては、アミノ酸はL体、D体およびDL体を包含するものであるが、通常、L体を用いる。前記プロピル誘導体中の不斉中心は、R配置、S配置、またはRS配置のいずれであってもよい。
【0026】
式(1)中、Xは、配列番号3または配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分である。
【0027】
前記アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸残基が置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(1)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。ここで、自然免疫の誘導は、後述するレポーターアッセイによりTLRの発現を介してNF−κBの発現の程度を指標にすることができる。
【0028】
1ないし数個(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換としては、保存的アミノ酸置換が挙げられる。保存的アミノ酸置換とは、特定のアミノ酸を、そのアミノ酸の側鎖と同様の性質の側鎖を有するアミノ酸で置換することをいう。具体的には、保存的アミノ酸置換では、特定のアミノ酸は、そのアミノ酸と同じグループに属する他のアミノ酸により置換される。同様の性質の側鎖を有するアミノ酸のグループは、当該分野で公知である。例えば、このようなアミノ酸のグループとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)が挙げられる。また、中性側鎖を有するアミノ酸は、さらに、極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、および非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)に分類することもできる。また、他のグループとして、例えば、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)を含む側鎖を有するアミノ酸(例えば、セリン、トレオニン、チロシン)なども挙げることができる。
【0029】
1ないし数個(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の付加としては、配列番号3および4に示すアミノ酸配列のC末端側に、例えば、Leu Leu TrpまたはLeu Trp Valからなるアミノ酸残基を付加することが挙げられる。また、リポペプチドの水溶解性を増強するため、アミノ酸配列のC末端側に塩基性アミノ酸であるアルギニン(Arg)またはリジン(Lys)を3ないし4残基付加してもよい。
【0030】
さらに、前記アミノ酸配列において、1ないし数個(好ましくは1〜10個)のアミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(1)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。
【0031】
1ないし数個のアミノ酸残基の欠失としては、配列番号3および4に示すアミノ酸配列の中から、任意(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基を選択して欠失させることが挙げられる。あるいは、配列番号3または4のアミノ酸配列において、示されるアミノ酸配列のC末端から連続して数個のアミノ酸配列の欠失であってもよく、例えば3〜10個の欠失が例示される。
【0032】
R1、R2およびR3は、同一または異なって、水素、炭素数1から29までのアルキル基であるが、当該アルキル基は不飽和結合(二重結合、三重結合)を任意の数有していてもよく、従って、炭素数2から29までのアルケニルまたはアルキニル基も本発明の炭素数2から29までのアルキル基に包含される。これらは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また環状であってもよい。さらに、鎖中にシクロプロパン環などの環を含んでいてもよい。本発明においては、R1、R2およびR3は、生体内で自然免疫を効率的に誘導するという観点から、飽和脂肪酸を構成する炭素数1から29までのアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数7から19までのアルキル基であり、具体的には、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルなどが挙げられる。
【0033】
Yは、水素またはR3COである。
なお、本明細書中、Yが水素の場合の式(1)(または後述の式(2))の化合物を「ジアシル体」とも称し、YがR3COである場合の式(1)(または後述の式(2))の化合物を「トリアシル体」とも称する。
【0034】
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基であり、好ましくは同一のアシル基である。アシル基はそれぞれ飽和でも不飽和でもよく、具体的には、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、ベヘノイル、シス−バクセノイル、9,10−メチレン−ヘキサデカノイル、パルミトレイルなどが好適な例として挙げられる。中でも、マイコプラズマ・ニューモニエ菌体で見出されるリポプロテインの構成成分である、パルミトイル基が最も好ましい。
【0035】
本発明の好ましいリポペプチドは、下記式
【0036】
【化6】
【0037】
および
【0038】
【化7】
【0039】
で表される、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(ジアシル体;ここで、ペプチドは配列番号3または配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する)ならびに下記式
【0040】
【化8】
【0041】
および
【0042】
【化9】
【0043】
で表される、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(トリアシル体)
ここで、上記化6〜化9の構造式におけるペプチド鎖を構成する各記号は、以下のアミノ酸の残基を意味する。A:アラニン;E:グルタミン酸;F:フェニルアラニン;G:グリシン;I:イソロイシン;K:リジン;L:ロイシン;N:アスパラギン;P:プロリン;Q:グルタミン;R:アルギニン;S:セリン;T:トレオニン;V:バリン;Y:チロシン。
【0044】
上記4種のリポペプチドは、実施例に記載した方法により製造することができる。また、他のリポペプチドも、該当する脂肪酸(オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等)を用いて、実施例に準じた方法により、当業者であれば容易に合成することができる。
【0045】
本発明は、下記式(2)
【0046】
【化10】
【0047】
で表されるリポペプチドを含有する、トールライクレセプター(TLR)の活性化剤を提供する。
【0048】
式(2)中、X’は、そのアミノ酸配列のN末端に位置するアミノ酸(Ala)を介してシステイン残基とペプチド結合し、該システイン残基は、その側鎖に由来するSを介して、プロピル誘導体とスルフィドを形成している。該プロピル誘導体中の不斉中心は、R配置、S配置、またはRS配置のいずれであってもよい。
【0049】
式(2)中、X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分である。配列番号3または4のアミノ酸配列を有するペプチド部分は、式(1)のXにおいて説明した通りである。
【0050】
また、前記配列番号1または2のアミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸残基が置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(2)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。ここで、自然免疫の誘導は、後述するレポーターアッセイによりTLRの発現を介したNF−κBの発現の程度を指標にすることができる。
【0051】
ここで、1ないし数個(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換または1ないし数個(好ましくは1〜4個)のアミノ酸残基の付加としては、式(1)の化合物のXにおいて挙げられた、アミノ酸残基の置換または付加が挙げられる。
【0052】
さらに、前記配列番号1または2のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(1)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。
【0053】
1以上(好ましくは1〜345個または1〜292個)のアミノ酸残基の欠失としては、配列番号1または2に示すいずれかのアミノ酸配列の中から、任意のアミノ酸残基を選択して欠失させることが挙げられる。あるいは、配列番号1または2のアミノ酸配列において、示されるアミノ酸配列のC末端から連続して数個〜数百個のアミノ酸配列の欠失であってもよく、例えばそれぞれ3〜345個または3〜292個の欠失が例示される。
【0054】
式(2)中、Y、R1CO、R2COおよびR3CO、ならびにR1、R2およびR3は、式(1)の化合物で説明したとおりである。
【0055】
式(2)で表されるリポペプチドのうち、ペプチドが配列番号3または配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するリポペプチドは、式(1)で表されるリポペプチドと同様の方法で製造することができる。
【0056】
また、式(2)で表されるリポペプチドのうち、ペプチドが配列番号1または配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するリポペプチドも、式(1)で表されるリポペプチドと同様の方法で製造することができる。このうち、YがR3COであるリポペプチドは、天然のリポプロテインN−ALP1またはN−ALP2と同様の構造を有すると推定されるため(本願実施例参照)、マイコプラズマの菌体成分を抽出し、ついで分画し、精製することによっても得られる。
【0057】
菌体成分の抽出方法としては、通常、超音波破砕、各種界面活性剤による溶解などの方法が用いられる。界面活性剤による溶解方法としては、好ましくは、菌体をTriton−X(登録商標)114(以下、TX−114と略する)で処理する方法が挙げられる。TX−114は、Sigma社から市販されている。TX−114は、その水溶物が37℃で水層と界面活性剤層に分離することから、菌体のタンパク質を親水性と疎水性のものに分離するのに適している。具体例として、2%TX−114水溶液にマイコプラズマの菌体を溶解し、約12,000rpm、37℃で約5分間遠心分離することにより水層と界面活性剤層に分離することができる。界面活性剤層を分取し、これにメタノールを加えることによりタンパク質を析出させ、遠心分離により上清を回収して可溶画分として得ることができる。このようにして得られた可溶画分は、膜結合リポプロテイン(LAMP)を豊富に含有しており、これを分画することにより、活性成分が得られる。分画は通常、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(μBondasphere C18 300A(Waters,Milford,MA)溶出条件:0%から100%の2−プロパノールのリニアグラジエント、液量は1ml/min、溶出時間:好ましくは60分程度)にて行うのが好ましい。得られた画分のTLRの活性化は、後述するレポーターベクターを用いたレポーターアッセイにより確認することができる。
【0058】
さらに、式(2)で表されるリポペプチドのうち、ペプチドが配列番号1または配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するリポペプチドは、常法により、菌体成分から得られたN−ALP遺伝子と、任意の発現ベクターとを用いて構築したN−ALP発現ベクターにより発現、精製したN−ALPを用いて製造することもできる。
【0059】
本発明において、トールライクレセプター(TLR)とは、微生物の侵入や感染を防御するため、先天性免疫(自然免疫ともいう)の誘導経路に介在する受容体ファミリーである。ヒトTLRファミリーは、TLR1〜11のメンバーから構成されている。
【0060】
本発明のTLR活性化剤により活性化されるTLRは、TLR1、TLR2およびTLR6を活性化させることが好ましい。特に、本発明の剤が含む式(2)の化合物において、ジアシル体の場合は、本発明のTLR活性化剤は、TLR1およびTLR2、TLR2およびTLR6を活性化することができ、一方、式(2)で表される化合物において、トリアシル体の場合は、TLR1およびTLR2を選択的に活性化することができる。
【0061】
本発明のリポペプチドのうち、ジアシル体は、他のマイコプラズマ(マイコプラズマ・ファーメンタスおよびマイコプラズマ・サリバリウム)由来の、N−アシル化されないリポプロテインまたはリポペプチド(J.Immunol.165:6538−44(2000)およびJ.Exp.Med.185:1951−8(1997)参照)と同様に、TLR1およびTLR2に加えて、TLR2およびTLR6をも活性化するものであるが、トリアシル体は、TLR1およびTLR2のみを活性化することができる。
【0062】
TLRを介した自然免疫の誘導は、その後の獲得免疫にも重要な役割を担うことから、本発明により得られるTLR活性化剤は、マイコプラズマ肺炎の予防または症状軽減への開発応用が期待される。例えば、本発明の剤は、TLRシグナル経路を阻害することが可能な抗体の産生を誘導するため、ワクチン接種用注射剤の候補となり得る。
【0063】
本発明は、式(2)で表されるリポペプチドを含有する、転写因子誘導剤を提供する。式(2)で表されるリポペプチドは、前記定義した通りである。
【0064】
式(2)で表されるリポペプチドは、TLRを活性化するため、TLRを介したシグナル伝達機構に関与する。従って、本発明の転写因子誘導剤は、TLRを介したシグナル伝達により、そのシグナルの下流に位置する転写因子を誘導する作用を有する。このような転写因子としては、TLRのシグナル経路に関与する因子であれば特に限定されるものではないが、NF−κBが好ましい。なお、NF−κBは、炎症や免疫反応に関与する炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−1、IL−6、IL−8など)や接着因子(VCAM、ICAM、ELAMなど)の遺伝子を制御する遺伝子に結合し、これらの働きを制御する転写因子である。
【0065】
式(2)で表されるリポペプチドを含有する、TLR活性化剤および転写因子誘導剤の作用は、レポーターアッセイにより測定することができる。具体的には、TLRおよびドミナントネガティブTLRを、腎臓由来の細胞株でベクターの導入効率が高いという特徴をもつ293T細胞に発現(ドミナントネガティブ発現ベクターは、pFLAG−CMV1(Sigma)にTLR1およびTLR6のTIRドメインを欠損させたものを導入して作製することができる)させることにより確認することができる。
【0066】
詳しくは、1〜4×105個の293T細胞に0.1μgのレポーターベクター(転写因子NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたベクター等)をFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入し、すでにTLR1とTLR2、およびTLR2とTLR6に依存的にNF−κBを誘導することがそれぞれ知られている(S)−[2,3−Bis(palmitoyloxy)−(2−RS)−propyl]−N−palmitoyl−(R)−Cys−(S)−Ser−(S)−Lys4−OH・3HCl(Pam3CSK4,CALBIOCHEM,Darmstadt,Germany)およびM.fermentans macrophage−activating lipopeptide 2(MALP−2、松本美佐子博士(大阪府立成人病センター)から分与。Nishiguchi,M.,M.Matsumoto,T.Takao,M.Hoshino,Y.Shimonishi,S.Tsuji,N.A.Begum,O.Takeuchi,S.Akira,K.Toyoshima,and T.Seya.2001.,Mycoplasma fermentans lipoprotein M161 Ag−induced cell activation is mediated by Toll−like receptor 2:role of N−terminal hydrophobic portion in its multiple functions.J Immunol.166:2610)で刺激し、レポーターの発現量(例えば、ルシフェラーゼ活性)の上昇を測定することにより、TLR1およびTLR6の発現を確認することができる。
【0067】
本発明の活性化剤または誘導剤を含有する試料を、転写因子NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクター(たとえば、市販されているpNF−κB−luc(Sigma))を導入した細胞と接触させ、TLRの活性化を介したNF−κBの誘導能をルシフェラーゼ活性の測定により確認することができる。一例としては、4×105個の293T細胞に0.1μgのレポーターベクターpNF−κB−luc(Sigma)をFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入し、48時間後、前記試料を最終濃度0.5%になるように添加し、8時間経過後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定する方法が挙げられる。
【0068】
本発明のTLR活性化剤または転写因子誘導剤に含まれる式(2)で表されるリポペプチドの含有量は、通常、0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜90重量%、より好ましくは1〜10重量%である。また、本発明の剤は、天然のリポプロテインN−ALP1および/またはN−ALP2そのものであってもよい。
【0069】
本発明の活性化剤または誘導剤は、さらに任意の担体を含んでいても良い。例えば、注射剤や研究用試薬として液剤を製造する場合、当該担体としては、安息香酸ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、水、生理食塩水等の希釈剤等およびこれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。また、本発明の活性化剤または誘導剤の剤形としては、注射剤や研究用試薬としての使用に適した剤形であることが好ましく、例えば液剤(例、注射剤、点滴剤等)または固体(凍結乾燥製剤を含む)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0070】
本発明の活性化剤または誘導剤は、前記リポペプチドを有効成分として、常法により製造することができる。
【0071】
本発明の剤が含む好ましいリポペプチドは、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(ジアシル体;ここで、ペプチドは配列番号1〜4で表されるアミノ酸配列を有する)およびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(トリアシル体;ここで、ペプチドは配列番号1〜4で表されるアミノ酸配列を有する)である。これらのリポペプチドは、単独で、または2種以上を組み合わせて本発明の剤に含んでいてもよい。
【0072】
また、配列番号1および2で表されるアミノ酸配列を有するペプチドは、実施例に記載された方法で合成しても、マイコプラズマ・ニューモニエのLAMPから抽出してもよく、またN−ALP発現ベクターを用いて発現、精製してもよい。
【0073】
本発明の活性化剤または誘導剤が作用する細胞としては特に限定されず、TLRを発現していることが従来公知な細胞または将来発見され得る細胞全てが含まれる。中でもTLR1、TLR2およびTLR6を発現している細胞が好ましく、例えば、樹状細胞、マクロファージが挙げられる。
【0074】
本発明は、式(2)で表されるリポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有する、ワクチン組成物を提供する。
【0075】
式(2)で表されるリポペプチドは、前記定義した通りである。当該リポペプチドは1種のみを選択してもよいが、ワクチン組成物においては、2種以上のリポペプチドを適宜選択して含有するワクチン組成物が好ましい。さらには、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のN−ALP1および/またはN−ALP2を含有していてもよい。抗原として多種類のリポペプチドを含有するワクチン組成物は、様々な接種対象者における獲得免疫を惹起させることが可能である。
【0076】
前記医薬として許容され得る担体としては、ワクチンの製造に通常用いられる担体を限定なく使用することができ、具体的には、食塩水、緩衝化食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液およびそれらの組合せが挙げられる。担体は、好ましくは滅菌されたものである。また、これに乳化剤、保存剤(例、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤および不活化剤(例、ホルマリン)等が適宜配合される。
【0077】
本発明の組成物は、ワクチンの投与様式に適合した形態を有することが好ましく、例えば、注射可能な形態として、溶液、懸濁液または乳化液が挙げられる。あるいは、液体溶液、懸濁液または乳化液に供せられる形態として、凍結乾燥製剤等の固体形態が挙げられる。
【0078】
本発明の組成物は、製薬上許容可能で且つ活性成分と相溶性であるアジュバントをさらに含有することが好ましい。アジュバントは、一般には、宿主の免疫応答を非特異的に増強する物質であり、多数の種々のアジュバントが当技術分野で公知である。アジュバントの例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン、Quill A(登録商標)、リゾレシチン、サポニン誘導体、プルロニックポリオール、モンタニドISA−50(Seppic,Paris,France)、Bayol(登録商標)およびMarkol(登録商標)。
【0079】
ワクチン組成物は、前記リポペプチドを有効成分として、前記担体および好ましくはアジュバントとともに常法により製造することができる。当該リポペプチドは、ワクチン中に0.001〜99.9重量%含有されていればよい。
【0080】
本発明のワクチン組成物は、様々な経路により接種することができる。例えば、皮内、皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、および経口経路等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
また、本発明は、本発明のワクチン組成物の1または2以上の成分を包含する1または2以上の容器からなるキットを提供する。
【0082】
ワクチン組成物およびキットを用いて、マイコプラズマ肺炎を予防またはその症状を軽減することができる。本発明は、有効免疫感作量の本発明のワクチン組成物を対象に投与することを包含するマイコプラズマ肺炎の予防または軽減方法を提供する。
【0083】
ワクチンの投与方法としては、前記接種方法に例示した通りである。投与量は、対象の年齢、性別、体重、薬物への忍容性等を考慮して決められるが、通常0.001mg〜1,000mgを1回または2回以上投与することができる。好ましくは複数回の投与であり、この場合、2〜4週間の間隔をあけて投与することが好ましい。
【0084】
また、本発明のワクチン組成物が適用される生物としては特に限定されず、例えば、ヒトを含む動物(例、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等)が挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれらに限定されない。
【0086】
(1)S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチドの合成
【0087】
S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(図2)は、下記文献:
Metzger, J.W., K.-H.Wiesmuller, and G. Jung. Synthesis of N-Fmoc protected derivatives of S-(2,3-dihydroxypropyl)-cysteine and their application in peptide synthesis. Int. J. Pept. Protein Res. 38:545-554 (1991)、および
Metzger, J.W., A.G. Beck-Sickinger, M. Loleit, M. Eckert, W.G. Bessler, and G. Jung. Synthetic S-(2,3-dihydroxypropyl)-cysteinyl peptides derived from the N-terminus of the cytochrome subunit of the photoreaction centre of Rhodopseudomonas viridis enhance murine splenocyte proliferation. J. Pept. Sci. 3:184-190 (1995) に記載の方法に基づいて合成した。
【0088】
ペプチド合成は、9−fluorenylmethoxycarbonyl(Fmoc)法に従い、自動化シンセサイザ(モデル433A;Applied Biosystems)を使って合成した。tert−butoxycarbonylによって保護されたFmoc−レジンを充填したWang−PHB樹脂を固相化の支持体として使った。0.1mMアミノ酸をそれぞれの結合に使用した。使用したアミノ酸(側鎖の保護基)の例を次に示す。アスパラギン(triphenylmethyl)、セリン(tert−butyl)、リジン(tert−butoxy−carbonyl)等。樹脂(レジン)に結合したFmoc−アミノ酸の遊離は、ピペリジンを使用して行った。アミノ酸の結合には2−(1H−benzotriazol−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluronium tetrafluoroborateおよびhydroxybenzotriazole(HOBt)を使った。樹脂に結合したアミノ酸14個からなるペプチド(N14−merペプチド)とFmoc−(2,3−dihydroxypropyl)−L−Cysteine−OHの結合は、dimethylformamide/dichloromethane(1:2)中で、12時間反応させて行った。5%フェノール含有TFA(トリフルオロ酢酸)、5%thioanisole、5%ethanedithiole、および7%水を用いて、樹脂からのペプチドの切り出しおよびすべての保護基の除去を行った。合成の進行を、エレクトロスプレーイオン化質量分析機によってモニターした。
【0089】
得られた化合物がS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチドであることは、質量分析により確認した。以下の実験用には、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(以下、ジパルミトイル体と記載)およびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(以下、トリパルミトイル体と記載)を精製し、秤量して用いた。
【0090】
(2)マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPsの精製
マイコプラズマ・ニューモニエM129(ATCC 29432)を、20%ウマ血清を補足したPPLO培地を含むフラスコ中で、37℃で48時間培養した。フラスコに付着した細胞をPBS(0.15M NaCl、10mMリン酸ナトリウム、pH7.4)で2回洗浄した後、掻き出し、4℃、12000×gで10分間遠心分離することにより回収した。細胞を、60℃で30分の熱処理により不活化した。これらの細胞を、10mM Tris(pH7.5)、150mM NaClおよび1mM EDTAを含む溶液(TBSE)中に、2mgタンパク質/mlの濃度となるように懸濁し、TX−114(Sigma社製)を2%となるように加え、4℃で1時間インキュベートすることによりマイコプラズマの菌体を溶解した。37℃で10分間インキュベートした後、溶解液を、10,000×g、37℃で20分間遠心分離して水層と界面活性剤層に分離し、界面活性剤層を分取した。TBSEで2回洗浄した後、得られた界面活性剤層(0.1ml)にメタノール(0.25ml)を加えて−20℃で終夜インキュベートすることでタンパク質を析出させ、遠心分離した。残渣をPBSで懸濁して5分間超音波破砕(Sonifer cell disruptor 200,Branson,Danbury,CT)することによりLAMPを得た。
【0091】
(3)レポーターアッセイ
NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクターpNF−κB−lucは、Sigma社から購入した。1×105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin G,および100μg/ml streptomycinを含有するRPMI1640培地で培養)に0.1μgのpNF−κB−lucをFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入した。48時間培養後、各リポペプチドを種々の濃度(0.001〜10,000ng/ml)になるように培地に添加し、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定した。
【0092】
(4)NF−κB誘導のTLR依存性
マイコプラズマ・ニューモニエ由来の物質によって、TLR2依存的にNF−κBを誘導するか確認するため、293T細胞にTLR2を強発現させた。すなわち、1×105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin Gおよび100μg/ml streptomycinを含有するD−MEMで培養)に0.01μgのレポーターベクターpNF−κB−lucおよび0.01〜0.1μgのTLR2発現ベクター(pFLAG−CMV1(Sigma,St.Louis,MO)にTLR2の配列を挿入したもの)を、FuGENE6を用いて導入した。
【0093】
熱不活化マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPsは、TLR2を強発現させた293T細胞においてルシフェラーゼ活性を増強した(図3)。マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPsによるNF−κB誘導はTLR2依存性であることが明らかになった。次に、TLR1,6依存性を検討するため、TLR2を発現させた293T細胞に、ドミナントネガティブ(DN)TLR6またはDNTLR1を強発現させた。マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPsの刺激は、DNTLR1によりほぼ阻害されたが、DNTLR6では、30〜40%の抑制であった(図4)。つまり、DNTLR6非依存性のシグナルが存在することが示唆された。
【0094】
LAMPsを高速液体クロマトグラフィーで分画して、各フラクションのNF−κB誘導を調べた。フラクション62および69に強いNF−κB誘導活性を観察した(図5)。フラクション62をSDS−PAGE展開し、ゲルより抽出した成分のルシフェラーゼ活性を示す(図6)。分子量21kDaのタンパク質および分子量37kDaのタンパク質に強いルシフェラーゼ活性を見出した。分子量21kDaのタンパク質は既に報告したF0F1型ATPアーゼのサブユニットbである。そこで、分子量37kDaのタンパク質をペプチドマスフィンガプリンティングで検討したところ、Mycoplasma(M.)genitaliumのMG−412のホモログであった。さらに、フラクション69を同様にSDS−PAGE展開し、ゲルより抽出した成分のルシフェラーゼ活性を検討した。分子量6kDaのタンパク質に強いルシフェラーゼ活性を認めた(図7)。これは、MS/MS解析により、M.genitaliumのMG−149のホモログであることが明らかとなった。M.genitaliumのMG−412、MG−149のホモログをそれぞれ、N−ALP1、N−ALP2とした。
【0095】
N−ALP1、N−ALP2のTLR依存性を検討した(図8)。両者ともDNTLR1によりほぼ阻害されたが、DNTLR6では、20〜30%の抑制であった。次に、N−ALP1、N−ALP2のリパーゼ感受性、プロテアーゼ感受性について検討を行った。リパーゼの処理によりルシフェラーゼ活性は60〜70%抑制された。一方、プロテアーゼ処理によって、その活性は30〜40%抑制された(図9)。
【0096】
配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを含むジパルミトイル体およびトリパルミトイル体がTLR2依存的にNF−κBを誘導するか調べた。両者とも濃度依存的にルシフェラーゼ活性を増強させた(図10)。ただし、トリパルミトイル体の活性はジパルミトイル体の活性より低い傾向にあった。
【0097】
さらに配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを含むジパルミトイル体およびトリパルミトイル体がTLR2依存的にNF−κBを誘導するか調べた。同様に両者とも濃度依存的にルシフェラーゼ活性を増強させた(図11)。ただし、トリパルミトイル体の活性は、その濃度1〜100ng/mlではジパルミトイル体の活性より低い傾向にあった。
【0098】
次に、TLR依存性を検討するため、TLR2を発現させた293T細胞に、DNTLR6またはDNTLR1を強発現させた。発現ベクターを導入して48時間培養し、各リポペプチドを最終濃度0.5%になるように培地に添加して、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System により測定した。
【0099】
図12に示すように、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを含むジパルミトイル体およびトリパルミトイル体についてTLR依存性を検討したところ、ジパルミトイル体のNF−κBの誘導はTLR1およびTLR6に依存性であった。しかし、トリパルミトイル体はTLR1依存性であったが、TLR6非依存性であった。
【0100】
同様に、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを含むジパルミトイル体およびトリパルミトイル体についてTLR依存性を検討した。図13に示すように、ジパルミトイル体のNF−κBの誘導はTLR1およびTLR6に依存性であった。しかし、トリパルミトイル体はTLR1依存性であったが、TLR6非依存性であった。
【0101】
これらの結果から、アシル鎖を2本有するジパルミトイル体によるNF−κBの誘導能はTLR1、TLR2およびTLR6に依存性であるが、アシル鎖を3本有するトリパルミトイル体によるNF−κBの誘導能はTLR1、TLR2依存性であることが明らかとなった。既述の図8の結果から、N−ALP1、N−ALP2はTLR1、TLR2依存性、TLR6非依存性であったことから、両者ともアシル鎖を3本有するリポプロテインであろうと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド等のマイコプラズマ・ニューモニエ菌体由来のリポペプチドは、TLR活性化剤として、また、転写因子(特に、NF−κB)誘導剤として有用である。かかるリポペプチドを有効成分として含有するワクチン組成物は、マイコプラズマ肺炎の予防または症状の軽減に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1は、リポプロテインN−ALP1およびN−ALP2のアミノ酸配列を示す。配列中の箱は、シグナル配列を示す。*は、脂質が結合するシステイン残基を示す。イタリック文字で表されたアミノ酸は、推定される膜貫通ドメインを示す。
【図2】図2は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチドの構造を示す。Xは、各配列番号で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを示す。
【図3】図3は、マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPが、TLR2依存性にNF−κBを活性化することを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図4】図4は、マイコプラズマ・ニューモニエおよびLAMPによる、NF−κB活性化のTLR1、6依存性を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図5】図5は、LAMPの高速液体クロマトグラフィー(溶離液:0%から100%の2−プロパノールのリニアグラジエント)により溶出された画分の活性を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を、横軸は画分の分画番号を示す。
【図6】図6は、画分62のSDS−PAGE展開図、およびゲルより抽出した成分のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。縦軸は分子量(kDa)を示し、横軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図7】図7は、画分69のSDS−PAGE展開図、およびゲルより抽出した成分のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。縦軸は分子量(kDa)を示し、横軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図8】図8は、N−ALP1、N−ALP2によるNF−κB活性化のTLR1、6依存性を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図9】図9は、N−ALP1、N−ALP2のリポプロテインリパーゼ、プロテイナーゼ感受性を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図10】図10は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(ペプチドは配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する)が濃度依存的にTLR2発現293T細胞を刺激して、NF−κB誘導能が増強されることを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。横軸は合成リポペプチド(ng/ml)の添加濃度を示す。
【図11】図11は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(ペプチドは配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する)が濃度依存的にTLR2発現293T細胞を刺激して、NF−κB誘導能が増強されることを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。横軸は合成リポペプチド(ng/ml)の添加濃度を示す。
【図12】図12は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(ペプチドは配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する)によるNF−κB活性化のTLR1、6依存性を調べたグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【図13】図13は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチドおよびS−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)−N−パルミトイル−システイニルペプチド(ペプチドは配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する)によるNF−κB活性化のTLR1、6依存性を調べたグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、
Xは、配列番号3または4で表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチド。
【請求項2】
前記R1、R2およびR3が、炭素数7から19までのアルキル基である、請求項1記載のリポペプチド。
【請求項3】
前記R1CO、R2COおよびR3COが、パルミトイル基である、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項4】
下記式(2)
【化2】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドを含有する、トールライクレセプター(TLR)の活性化剤。
【請求項5】
前記TLRが、TLR1、TLR2およびTLR6からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4記載の活性化剤。
【請求項6】
下記式(2)
【化3】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドを含有する、転写因子誘導剤。
【請求項7】
前記転写因子がNF−κBである、請求項6記載の転写因子誘導剤。
【請求項8】
下記式(2)
【化4】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有する、ワクチン組成物。
【請求項9】
アジュバントをさらに含有する、請求項8記載の組成物。
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、
Xは、配列番号3または4で表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチド。
【請求項2】
前記R1、R2およびR3が、炭素数7から19までのアルキル基である、請求項1記載のリポペプチド。
【請求項3】
前記R1CO、R2COおよびR3COが、パルミトイル基である、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項4】
下記式(2)
【化2】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドを含有する、トールライクレセプター(TLR)の活性化剤。
【請求項5】
前記TLRが、TLR1、TLR2およびTLR6からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4記載の活性化剤。
【請求項6】
下記式(2)
【化3】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドを含有する、転写因子誘導剤。
【請求項7】
前記転写因子がNF−κBである、請求項6記載の転写因子誘導剤。
【請求項8】
下記式(2)
【化4】
(式中、
X’は、配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、
Yは、水素またはR3COであり、
R1CO、R2COおよびR3COは、同一または異なって、アシル基を示し、
R1、R2およびR3は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示す)
で表されるリポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有する、ワクチン組成物。
【請求項9】
アジュバントをさらに含有する、請求項8記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2008−24619(P2008−24619A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197421(P2006−197421)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】
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