説明

合成床版及びそれを用いた橋梁

【課題】コンクリートの充填性を良好にし床鋼板とコンクリートとの一体化を強固にするとともに、材料費や作業工数を削減してコストの削減を図る。
【解決手段】合成床版100は、床鋼板10、付着材20、コンクリート30を備える。また、合成床版100は、コンクリート30の上部内に、上側配力鉄筋31と上側主鉄筋32とを備える。床鋼板10は、複数のリブ11を有し、上面に付着材20が塗布されてコンクリート30が充填されている。付着材20の厚さは、10μm〜1000μm程度、好ましくは50μm〜500μm程度となるように形成されている。これによって、従来、使用していたスタッドジベル等に代表されるずれ止めの数を減らすことができ、その結果、材料費や作業工数を削減してコストの削減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、床鋼板とコンクリートとを合成させてなる合成床版及びそれを用いた橋梁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、橋梁を構成する構造物として、床鋼板とコンクリートとを合成させてなる合成床版(例えば、特許文献1の第2−3頁及び第1−3図を参照)が知られている。
ここで、合成床版を施工する上での重要なポイントは、コンクリートと床鋼板とを強固に一体化するということであり、コンクリートと床鋼板とが強固に一体化されていない場合に、床鋼板上でコンクリートがずれて破損する危険性がある。
例えば、特許文献1においては、床鋼板に固着等されたリブ(ウエブと称されることもある)の頂部に左右に張り出し部を設け、打設したコンクリートを拘束することによって床鋼板等とコンクリートとの一体化を図るとともに、さらに、「コンクリートと鋼製デッキプレートとの間の付着力を増大するため、鋼製デッキプレート1の表面に凹凸を設けたり、小孔を形成したり、表面が粗面となるように砂等を付着させたり、また、突起を溶接する。」(特許文献1の第2頁第4行目から第8行目の記載)とされており、コンクリートと鋼製デッキプレートとの間の付着性を向上させることによって、床鋼板上でコンクリートがずれることを防止している。
【0003】
また、他の例として、図3に示すような合成床版90も知られている。この合成床版90は、床鋼板91に複数のリブ92と複数のスタッドジベル93とを所定間隔ごとに設け、コンクリート94を打設し、このコンクリート94の上部内に上側配力鉄筋95と上側主鉄筋96を配した構造からなり、スタッドジベル93は頂部93aに張り出しを有して、床鋼板91とコンクリート94との一体化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−239439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載されている従来型の合成床版では、床鋼板の表面に凹凸を設けたり、小孔を形成したり、突起を溶接したりすることによって、コンクリートと床鋼板との間の付着力を増大させて、床鋼板上でコンクリートがずれることを防止している。
しかし、床鋼板の表面に凹凸を設ける等してずれ止め機構とすれば、当然に鋼板の加工工程が必要となり、作業工数も増えるので、コストの削減が難しい。なお、特許文献1においては、床鋼板の表面が粗面となるように砂等を付着させる方法が開示されているが、単に砂をまいただけでは、付着性の大きな向上にはつながらない。
また、図3に示した合成床版90においては、床鋼板91に多数のスタッドジベル93を設けることによって、ずれ止め機構としているが、やはりコストと手間がかかってしまう。
【0006】
さらに、橋梁設置の現場にて、合成床版90上にコンクリートを充填する際において、床鋼板の表面に凹凸を設ける、或いはスタッドジベル93を配置する等の前述した従来型のずれ止め機構が設けられている場合においては、コンクリートの流れに悪影響を与える可能性があり、特に、前述した従来型のずれ止め機構を多数配しているような場合等には、コンクリートを隅々まで充填することが難しくなるので品質上の大きな問題となる可能性がある。
【0007】
この発明は、前述した従来型のずれ止め機構の問題点を解消するため、床鋼板とコンクリートとの付着性を向上させた合成床版及びそれを用いた橋梁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明に係る合成床版は、梁上に設置された複数のリブを有する床鋼板と、前記床鋼板の上面に塗布される付着材と、前記付着材を介して前記床鋼板上に打設されるコンクリートとを備え、前記付着材の厚さが、10μm〜1000μmに形成されていることを特徴とする。
【0009】
なお、この発明に係る合成床版において、好ましくは前記付着材の厚さが、50μm〜500μmに形成されている。
【0010】
この発明に係る合成床版は、上記のように構成したことにより、前述した従来型のずれ止め機構の数を減らす、或いは無くすことができるので、シンプルな構造となり、コンクリートの充填性を良好にして床鋼板とコンクリートとの一体化を強固にすることができるとともに、材料費や作業工数を削減してコストの削減を図ることができる。
【0011】
なお、前記複数のリブが、張り出し部を有さない板リブであっても良い。
【0012】
また、前記付着材が、炭素繊維を含有した無機系塗料にセメント系のコンパウンドを混合した付着材であっても良い。
【0013】
前記付着材は、例えばセメント系充填材または樹脂系接着材からなる。
【0014】
この発明に係る橋梁は、上記発明に係る合成床版を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、コンクリートの充填性が良好で床鋼板とコンクリートとの一体化を強固にすることができるとともに、材料費や作業工数を削減してコストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る合成床版の全体構成の例を示す一部断面斜視図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】従来の合成床版を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、添付の図面を参照して、この発明に係る合成床版及びそれを用いた橋梁の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る合成床版の全体構成の例を示す一部断面斜視図である。また、図2は、図1のA−A’断面図である。
【0019】
図1および図2に示すように、合成床版100は、例えば橋梁用に用いられ、複数の主桁(梁)1上に配された床鋼板10と、リブ11と、この床鋼板10の上面に塗布された付着材20と、この付着材20を介して床鋼板10上に充填され打設されたコンクリート30とを備える。
【0020】
また、床鋼板10の複数の主桁1の並設方向端部には、それぞれ立設する側鋼板40が備えられている。さらに、合成床版100は、打設されたコンクリート30の上部内に、上側配力鉄筋31と上側主鉄筋32とを有し、これらは、例えばコンクリート30の上部内に格子状に配設されている。合成床版100は、上側配力鉄筋31と上側主鉄筋32とによって、合成床版100にかかる荷重に持ちこたえることができる構造となる。
【0021】
床鋼板10は、図1に示すように、この床鋼板10に立設する複数のリブ11を配している。これらのリブ11は、主桁1の軸方向にリブ間隔L1が、例えば500mm〜750mm程度と適切な間隔となるように並設されている。また、リブ11の厚さFは、例えば50mm〜300mm程度、好ましくは100mm〜150mm程度となるように形成されている。
【0022】
そして、床鋼板10は、厚さTが、例えば8mm〜10mm程度、好ましくは9mmに形成され、図示しない水抜き孔を備えている。また、この床鋼板10上に打設されるコンクリート30の厚さH1は、例えば20cm〜30cm程度に設定されている。
【0023】
付着材20は、無機質系塗料にセメント系のコンパウンドを混合した材料、あるいはモルタルなどのセメント系充填材や樹脂系接着材からなるもので、リブ11とコンクリート30との付着力を高めるために床鋼板10の上面、ならびにリブ11の表面に塗布されている。この付着材20は、その厚さPが、例えば10μm〜1000μm程度、好ましくは50μm〜500μm程度となるように薄く塗布されて形成されている。このように付着材20が薄く塗布されることにより、床鋼板10とコンクリート30との付着面積を増加させつつ、付着効果を高めることができる。
【0024】
このように構成された合成床版100では、床鋼板10とコンクリート30との間の付着性が高いから、合成床版に設けられていた従来型のずれ止め機構(例えば、床鋼板10の表面に凹凸を設ける、或いは、リブやスタッドジベルを床鋼板10上に設置する等)の数を減らす、或いは、無くすということが可能となる。従って、材料費や作業工数を削減することができ、コストの削減を図ることができる。
また、従来型のずれ止め機構がなければ、コンクリート30の充填性が高まり、良好にコンクリート30を打設することができる。
【0025】
以下、図1に概観を示した本実施形態による合成床版100の製造方法について、その好ましい一例を説明する。
【0026】
まず、第1工程として、床鋼板10上にリブ11を一定間隔で複数枚並べて配置し、床鋼板10とリブ11の下端部とを溶接して固着することにより、床鋼板10上に複数枚のリブ11を並設する。なお、本実施形態において使用したリブ11は、上部に張り出し部等の突起がない板状のリブ(板リブ)11である。
【0027】
次に、第2工程として、床鋼板10において前述したリブ11の長手方向となる側の両端部に、リブ11と直交する方向に延びる側鋼板40を配置し、側鋼板40の下端部を床鋼板10の側面部に当接させた状態で溶接、またはボルト止めなどの接続法にて固着する。
【0028】
そして、第3工程として、合成床版100のコンクリート30の充填部分(床鋼板10の上面およびリブ11の表面等のコンクリートが接触する部分)に対して、コテ、ローラ或いはスプレー等を利用して、付着材20を塗布する。なお、本実施形態においては、付着材20として、炭素繊維を含有した無機系塗料にセメント系のコンパウンドを混合したものを0.4mm(400μm)程度の塗膜厚みとなるように塗布した。
【0029】
本実施形態による合成床版100では、従来型ずれ止め機構の数を少なくすることができるので床鋼板10上の構成がシンプルとなり、その結果、付着材20を合成床版100の表面全体に均一に塗布しやすく、作業効率がよい。
【0030】
また、本実施形態による合成床版100の製造方法の例においては、コテ、ローラ或いはスプレー等を利用して付着材20を塗布したが、本発明に適応できる塗布方法はこれに限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、他の公知の塗布方法を利用しても良いことはもちろんである。
【0031】
なお、前記付着材20を塗布する厚みの好ましい範囲は、付着材の種類等、条件によって多少異なるものの、その要求された機能を発揮できる最低限の厚み(概ね10μm〜1000μm程度、好ましくは50μm〜500μm程度)に塗布されることが、コストや作業の効率化、付着効果の向上という点で好ましい。
【0032】
ここで、従来技術においても合成床版90等を現場に搬送する際においては、防錆のためにその表面全体に、例えば無機ジンクリッチペイント等の防錆剤を塗布することによって、防錆加工しておく必要がある。本実施形態においては、付着材20として、炭素繊維を含有した炭素繊維強化無機系防錆材料(例えば、商品名「マイティCF(登録商標)」:マイティ化学株式会社)等を使用したが、このような付着材20には付着材自体に強い防錆効果がある。
【0033】
したがって、本実施形態においては、付着材20によって合成床版100の防錆効果が期待できるため、従来技術の合成床版90等を使用する際に必要であった防錆塗装等について、少なくともコンクリート30接触面の部分の作業を省略することが可能になる。その結果、鋼板防食のための表面処理費用が削減できる。
【0034】
また、万一、コンクリート30のひび割れ等からコンクリート30内部に雨水等が浸入した場合においても、付着材20の優れた防錆効果により床鋼板10等の鋼板の腐食の進行を著しく遅らせることができる。コンクリート30の内部の点検が目視で困難な合成床版の橋梁にとって、このことは大きな利点である。
特に、橋梁上で凍結防止剤を大量に散布する地域においては、ひび割れ等から雨水等と一緒に流れ込んだ塩分が堆積し、鋼板を腐食させるという問題を引き起こす可能性があるが、もともと防錆効果の高い炭素繊維強化無機系防錆材料を付着材として使用する本実施形態においては、そのような状況下においても強い防錆力を発揮する。従って、本実施形態による合成床版100は、凍結防止剤を大量に散布する地域に設置される橋梁用の合成床版として、極めて適している。
【0035】
なお、前述した第1工程から第3工程までは、橋梁を設置する現場ではなく、作業環境の整った工場内であらかじめ作成して、橋梁施工の現場に搬送する。
【0036】
次に、第4工程に進み、前記側鋼板40と前記リブ11とが取り付けられ、また付着材20が塗布された床鋼板10を現場に搬送して、橋梁の主桁1上に設置し、ボルト止め等により主桁1と合成床版100とを固着する。
【0037】
前述した第4工程によって床鋼板10を現場の主桁1上に設置後、第5工程に進み、床鋼板10のリブ11上方に、図示しないスペーサー等を使用して、上側配力鉄筋31と上側主鉄筋32とを格子状に重ねて配設する。
【0038】
その後、第6工程に進み、床鋼板10、リブ11、側鋼板40、上側配力鉄筋31、および上側主鉄筋32等が、組み上げられた合成床版100に、コンクリートミキサー車とポンプ車等により構成されるコンクリート供給手段によって、生コンクリートを供給して、コンクリート30を充填し、そこで硬化させることにより橋梁のコンクリート合成床版を製造する。
【0039】
以上述べたように、本実施形態にかかる合成床版100であれば、コンクリート30と床鋼板10との付着性を強固にすることによって、床鋼板10の表面に凹凸を設ける、或いはスタッドジベルを配置する等の前述した様々な形態の従来型のずれ止め機構の必要性を小さくすることができる。したがって、従来の合成床版を使用する場合と比較して、コンクリートの充填が容易で作業効率が良いという優れた利点を有する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように、本発明にかかる合成床版は、橋梁用合成床版に有用であり、特に、土木建築分野などに適している。
【符号の説明】
【0041】
1 主桁(梁)
10 床鋼板
11 リブ
20 付着材
30 コンクリート
31 上側配力鉄筋
32 上側主鉄筋
40 側鋼板
100 合成床版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁上に設置された複数のリブを有する床鋼板と、
前記床鋼板の上面に塗布される付着材と、
前記付着材を介して前記床鋼板上に充填され打設されるコンクリートとを備え、
前記付着材の厚さが、10μm〜1000μmに形成されていることを特徴とする合成床版。
【請求項2】
前記付着材の厚さが、50μm〜500μmに形成されていることを特徴とする請求項1記載の合成床版。
【請求項3】
前記複数のリブが板リブであることを特徴とする請求項1又は2記載の合成床版。
【請求項4】
前記付着材は、炭素繊維を含有した無機系塗料にセメント系のコンパウンドを混合した付着材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の合成床版。
【請求項5】
前記付着材は、セメント系充填材または樹脂系接着材からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項2記載の合成床版。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の合成床版を備えたことを特徴とする橋梁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−106117(P2011−106117A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260098(P2009−260098)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】