説明

合成木材複合材

【課題】物理化学的性質が改善された、生分解性合成木材フィルムまたはコーティング材を提供する。
【解決手段】一方の巨大分子であるリグニンともう一方の巨大分子であるセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される少なくとも2つのポリマー巨大分子に、有機ポリマーおよび無機ポリマー、多糖類、ペプチド、細胞、ウイルス、色素およびカーボンナノチューブからなる群より選択される成分をさらに含む複合材よりなるフィルムまたはコーティング材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体模倣巨大分子を含む合成木材複合材(wood composite)およびその作製方法に関する。
【0002】
関連出願
本願は、2009年8月6日に出願された米国仮特許出願第61/231,763号の恩典を主張する。上記出願の全教示は、参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
木材ベースのフィルムおよびコーティングは、その低コスト、再生可能性および生分解性のために、食品梱包材、特殊フィルム、および抗菌薬またはUV遮断コーティングなどのいくつかの分野に使用することができる。生分解性であるために、セルロースおよび/またはヘミセルロースフィルムの使用は有利である。セルロースフィルムは、セロファン法またはイオン液体を使用した溶解法により容易に作製することができる。フィルム作製可塑剤を添加して、最も一般的なヘミセルロース供給源としてキシランを使用したヘミセルロースフィルムを得ることができる。しかし、セルロースおよびヘミセルロースフィルムは、石油化学系可塑性フィルムに取って代わるために必要な物理化学的性質を欠いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、物理化学的性質が改善された、生分解性合成木材フィルムまたはコーティングを開発することが有利である。
【0005】
本発明の課題は、生体模倣巨大分子を含む合成木材複合材およびその作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕少なくとも2つのポリマー巨大分子を含む複合材であって、少なくとも一方の巨大分子がリグニンであり、他方の巨大分子がセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される、複合材、
〔2〕リグニン含有量が約10〜約50%(w/w)である、〔1〕記載の複合材、
〔3〕セルロース含有量が約30〜約80%(w/w)である、〔1〕記載の複合材、
〔4〕ヘミセルロース含有量が約15〜約50%(w/w)である、〔1〕記載の複合材、
〔5〕リグニンおよびセルロースを含み、リグニン含有量がセルロース含有量以下である、〔1〕記載の複合材、
〔6〕約50%(w/w)のセルロースおよび約50%(w/w)のリグニンを含む、〔5〕記載の複合材、
〔7〕約70%(w/w)のセルロースおよび約30%(w/w)のリグニンを含む、〔5〕記載の複合材、
〔8〕約60〜約80%(w/w)のセルロースおよび約40〜約20%(w/w)のリグニンを含む、〔1〕記載の複合材、
〔9〕リグニン、セルロースおよびヘミセルロースを含む、〔1〕記載の複合材、
〔10〕約50%(w/w)のセルロース、約30%(w/w)のヘミセルロースおよび約20%のリグニンを含む、〔9〕記載の複合材、
〔11〕ヘミセルロースがキシランである、〔9〕記載の複合材、
〔12〕リグニンがクラフトリグニンである、〔1〕記載の複合材、
〔13〕有機ポリマーおよび無機ポリマー、多糖類、ペプチド、細胞、ウイルス、色素およびカーボンナノチューブからなる群より選択される成分をさらに含む、〔1〕記載の複合材、
〔14〕ポリマーがポリエチレングリコールである、〔13〕記載の複合材、
〔15〕ポリエチレングリコール400を含む、〔14〕記載の複合材、
〔16〕約10〜約40%(w/w)の量のポリエチレングリコールを含む、〔14〕記載の複合材、
〔17〕リグニン、セルロース、ヘミセルロースおよびポリエチレングリコールを含む、〔13〕記載の複合材、
〔18〕カーボンナノチューブを含む、〔13〕記載の複合材、
〔19〕カーボンナノチューブが多層ナノチューブ(MWNT)である、〔14〕記載の複合材、
〔20〕カーボンナノチューブが約10〜約30%(w/w)の量で存在する、〔18〕記載の複合材、
〔21〕リグニン、セルロース、ヘミセルロースおよびカーボンナノチューブを含む、〔13〕記載の複合材、
〔22〕多糖類がキトサンである、〔13〕記載の複合材、
〔23〕巨大分子が官能基付加される、〔1〕記載の複合材、
〔24〕巨大分子がアシル化、カルバニル化(carbanilated)またはエーテル化される、〔23〕記載の複合材、
〔25〕約10μm〜約10mmの厚さを有する、〔1〕記載の複合材、
〔26〕少なくとも約50MPaの引張強度を有する、〔1〕記載の複合材、
〔27〕少なくとも約70MPaの引張強度を有する、〔25〕記載の複合材、
〔28〕リグニン、ならびにセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される巨大分子を含む複合材の作製方法であって、
a. リグニンおよびさらなる成分をイオン液体に溶解して溶液を得る工程;
b. 溶液を表面に適用してヒドロゲルを得る工程;ならびに
c. ヒドロゲルを乾燥させて複合材を得る工程
を含む、方法、
〔29〕表面から複合材を除去する工程をさらに含む、〔28〕記載の方法、
〔30〕リグニンおよびさらなる成分が約80〜約100℃の温度で溶解する、〔28〕記載の方法、
〔31〕イオン液体が1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム塩を含む、〔28〕記載の方法、
〔32〕イオン液体がアリルイミダゾリウム塩を含む、〔28〕記載の方法、
〔33〕イオン液体が、酢酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウム([Emim][Ac])および塩化1-アリル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムまたはそれらの組合せからなる群より選択される、〔28〕記載の方法、
〔34〕ヒドロゲルを洗浄して少なくとも一部のイオン液体を除去する、〔28〕記載の方法、
〔35〕水の除去後にイオン液体を再利用する、〔34〕記載の方法、
〔36〕低湿度環境でヒドロゲルを乾燥させる、〔28〕記載の方法、
〔37〕真空下でヒドロゲルを乾燥させる、〔28〕記載の方法、
〔38〕複合材が繊維である、〔1〕記載の複合材、
〔39〕〔1〕記載の複合材を含む、抗菌組成物、
〔40〕抗菌剤をさらに含む、〔39〕記載の抗菌組成物、
〔41〕〔1〕記載の複合材を含む、紫外線遮断コーティング、
〔42〕〔18〕記載の複合材を含む、誘電物質、
〔43〕約45°未満の接触角を有する、〔1〕記載の複合材、
〔44〕約230℃以上の熱分解温度を有する、〔1〕記載の複合材
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、生体模倣巨大分子を含む合成木材複合材およびその作製方法が提供され得る。
【0008】
前述および他の本発明の主題、特徴および利点は、添付の図面において図示されるように、本発明の好ましい態様のより具体的な以下の説明から明白であり、図面において同じ参照記号は異なる図面を通じて同じ部分を参照している。図面は、必ずしも同じ縮尺ではなく、本発明の原理を説明することに重点を置いている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1A〜1Eは、セルロース、キシラン、リグニン、[Emim][Ac]およびキトサンの構造を示す。
【図2】図2は、ヒドロゲル(A)、フィルム(B)およびコーティング(C)としての合成木材を示す。
【図3】図3は、(A)セルロースのみ、(B)セルロース/リグニン([Emim][Ac]中5/2重量%)、(C)セルロース/リグニン([Emim][Ac]中5/5重量%)および(D)セルロース/キシラン/リグニン([Emim][Ac]中5/3/2重量%)のセルロースフィルムを示す。
【図4】図4は、合成木材フィルムの表面のAFM画像を示す。(A)セルロースのみ、(B)セルロース/リグニン([Emim][Ac]中5/5重量%)および(C)セルロース/キシラン/リグニン([Emim][Ac]中5/3/2重量%)。
【図5】図5は、(A)5%セルロース、0%キシランおよび0%リグニン、(B)5%セルロース、0%キシランおよび5%リグニンならびに(C)5%セルロース、3%キシランおよび2%リグニンを含む[Emim][Ac])から作製した合成木材のSEM分析を示す。
【図6】図6は、性質改変添加剤を有する合成木材コーティングを示す。(A)セルロース/キシラン/リグニン/PEG([Emim][Ac]中5/3/2/5重量%)、(B)セルロース/キシラン/リグニン/キトサン([Emim][Ac]中5/3/2/0.5重量%)、(C)セルロース/キシラン/リグニン/MWNT([Emim][Ac]中5/3/2/0.025重量%)、および(D)セルロース/キシラン/リグニン/MWNT([Emim][Ac]中5/3/2/0.01重量%)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の概要
本発明は、生体模倣巨大分子を含む合成木材複合材およびその作製方法に関する。
【0011】
一態様において、本発明は、少なくとも2つのポリマー巨大分子を含む複合材であって、少なくとも一方の巨大分子がリグニンであり、他方の巨大分子がセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される、複合材である。
【0012】
いくつかの態様において、複合材は、リグニン、セルロースおよびヘミセルロースを含む。他の態様において、ヘミセルロースはキシランである。
【0013】
他の局面において、複合材はさらに、有機ポリマーまたは無機ポリマー、多糖、タンパク質、細胞、ウイルス、色素およびカーボンナノチューブからなる群より選択される成分を含む。
【0014】
さらなる態様において、複合材は繊維である。さらに別の態様において、複合材は電気紡績(electrospun)繊維である。
【0015】
別の局面において、本発明は、リグニンと、セルロースまたはヘミセルロースから選択される成分をイオン液体に溶解して複合材を得る工程を含む、リグニン、ならびにセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される巨大分子を含む複合材の作製方法である。
【0016】
いくつかの態様において、該方法は、
a. リグニンおよびさらなる成分をイオン液体に溶解して溶液を得る工程;
b. 溶液を表面に適用してヒドロゲルを得る工程;ならびに
c. ヒドロゲルを乾燥させて複合材を得る工程
を含む。
【0017】
別の態様において、本発明は、少なくとも2つのポリマー巨大分子を含む複合材を含む抗菌組成物であって、少なくとも一方の巨大分子がリグニンであり、他方の巨大分子がセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される、組成物である。さらに別の態様において、複合材はさらに多糖を含む。さらなる局面において、複合材はさらに抗菌剤を含む。
【0018】
さらなる局面において、本発明は、少なくとも2つのポリマー巨大分子を含む複合材を含む、UV遮断コーティングであって、少なくとも一方の巨大分子がリグニンであり、他方の巨大分子がセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される、UV遮断コーティングを含む。
【0019】
本発明はさらに、少なくとも2つのポリマー巨大分子を含む複合材を含む誘電物質であって、少なくとも一方の巨大分子がリグニンであり、他方の巨大分子がセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択され、複合材がカーボンナノチューブをさらに含む、誘電物質を包含する。
【0020】
本発明のこれらおよび他の局面、ならびに種々の利点および有用性は、図面および本発明の態様の詳細の説明を参照して、より明白になろう。
【0021】
発明の詳細な説明
本発明の好ましい態様の説明は以下の通りである。
【0022】
単語「a」または「an」は特に記載されなければ1つ以上を包含することを意味する。
【0023】
本発明は、リグニンならびにセルロース、ヘミセルロースおよびそれらの組合せからなる群より選択されるポリマー巨大分子を含む複合材、およびその作製方法に関する。実施例1に示すように、リグニン、キシランおよびセルロースを含む複合材は、セルロースのみで作製されたフィルムよりも大きな引張強度を有し、より均一で均質な表面を有した。
【0024】
複合材は少なくとも2つの構成物からなる物質であり、各構成物は異なる物理的または化学的性質を有する。
【0025】
セルロースは、β(1→4)-グリコシド結合で連結したD-グルコース残基の直鎖多糖である。用語「セルロース」は明確に、官能基付加されたセルロースまたは化学的に修飾されたセルロースを包含する。官能基付加されたセルロースとしては、限定されないが、アシル化、カルバニル化(carbanilated)およびエーテル化セルロースが挙げられる。
【0026】
ヘミセルロースは、ペントース、ヘキソースおよびアセチル化糖の不均一な、分岐ポリマーである。ヘミセルロース中に見られる糖および/または糖酸単位の非限定的な例としては、以下:キシロース、アラビノピラノースおよびアラビノフラノースなどのペントース;グルコース、マンノースおよびガラクトースなどのヘキソース;グルクロン酸、メチルグルクロン酸およびガラクツロン酸などのヘキスロン酸;ならびにラムノースおよびフコース(fucase)などのデオキシヘキソースの1つ以上が挙げられる。結合してヘミセルロースを形成する基本的な、単純な糖は、D-グルコース、D-キシロース、D-マンノース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-グルクロン酸およびD-ガラクツロン酸である。ヘミセルロースは、当業者に公知の化学的および/または酵素的な方法により、ウッドパルプなどの木材供給源から、および/または非木材供給源から得ることができる。ヘミセルロースは、カバノキ、ユーカリの木および/またはアカシアの木などの広葉樹由来のウッドパルプから得ることができる。ヘミセルロースは、北部の針葉樹および/または南部の針葉樹などの針葉樹由来のウッドパルプからも得ることができる。ヘミセルロースの非木材供給源の非限定的な例としては、トウモロコシの殻および/またはトウモロコシのふすまが挙げられる。特定の態様において、ヘミセルロースはキシランである。用語「ヘミセルロース」は明確に、官能基付加されたセルロースまたは化学的に修飾されたセルロースを包含する。官能基付加されたヘミセルロースとしては、限定されないが、アシル化、カルバニル化およびエーテル化ヘミセルロースが挙げられる。
【0027】
リグニンは、しばしば製紙業の製品として商業的に生産される複合芳香族ポリマーである。リグニンの物理的および化学的性質は、リグニンが抽出される抽出技術および植物材料に応じて異なり得る。リグノスルホン酸(リグニンスルホン酸および亜硫酸リグニンとも称される)は、亜硫酸パルプ化(pulping)の生成物である。クラフトリグニン(kraft lignin)(硫酸リグニンとも称される)はクラフトパルプ化法から得られる。クラフト法は、水酸化ナトリウム蒸解液または硫化ナトリウムパルプ化液の高温液(broth)中でチップ化木材が「蒸解(cooking)」または消化される、化学的パルプ化法である。用語「リグニン」は、本明細書で使用される場合、明確に、官能基付加されたセルロースまたは化学的に修飾されたセルロースを包含する。官能基付加されたリグニンとしては、限定されないが、カルボキシル化およびアシル化リグニンならびに硫酸化リグニンおよびクラフト法から発散されるリグニンが挙げられる。また、木材またはリグニンの天然構造が実質的に残っている植物由来の木材組織から得られる未修飾リグニンを使用することもできる。
【0028】
複合材のリグニン含有量は、約10〜約50%(w/w)であり得る。一態様において、リグニン含有量は約20〜約40%(w/w)である。いくつかの態様において、リグニン含有量はセルロース含有量以下である。
【0029】
複合材のセルロース含有量は、約20〜約90%(w/w)であり得る。一態様において、セルロース含有量は、約30〜約80%(w/w)である。別の態様において、セルロース含有量は、約40〜約60%(w/w)である。
【0030】
複合材のヘミセルロース含有量は、約10〜約50%(w/w)であり得る。一態様において、ヘミセルロース含有量は、約20〜約40%(w/w)ヘミセルロースである。
【0031】
いくつかの態様において、複合材はセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを含む。他の態様において、複合材は、約40〜約60%(w/w)のセルロース、約20〜約40%(w/w)のヘミセルロースおよび約10〜約30%(w/w)のリグニンを含む。特定の他の態様において、複合材はセルロース、リグニンおよびキシランを含む。
【0032】
本発明の複合材は、リグニン、セルロースおよび/またはヘミセルロースの他の成分をさらに含み得る。本発明の複合材の一部を構成し得るさらなる成分の例としては、限定されないが、有機ポリマーおよび無機ポリマー、多糖類、ペプチド、細胞、細胞小器官、ウイルス、色素、金属ナノワイヤならびにカーボンナノチューブが挙げられる。
【0033】
例示的ポリマーとしては、限定されないが、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアルキレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシドおよびポリアニリンが挙げられる。一態様において、ポリマーはポリエチレングリコールである。
【0034】
例示的な多糖類は、ヒアルロン酸、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キチン、キトサン、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸およびアルギン酸である。
【0035】
金属ナノワイヤの例は金属酸化物ナノワイヤである。
【0036】
カーボンナノチューブは炭素かご型分子構造であり、フラーレン、炭素バッキーボールおよびカーボンナノチューブが挙げられる。カーボンナノチューブは、集合体に基づいて、炭素ナノ繊維と炭素ナノ粒子に分けられる。カーボンナノチューブには単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)またはそれらの組合せが含まれる。カーボンナノチューブは、当該技術分野で公知の種々の方法(例えば米国特許第5,753,088号、第5,641,466号、第5,292,813号および第5,558,903号など)に従い作製することができる。いくつかの局面において、本発明は、少なくとも2つのポリマー巨大分子を含む複合材を含み、カーボンナノチューブをさらに含む誘電物質であって、少なくとも一方の巨大分子がリグニンであり、他方の巨大分子がセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される、誘電物質に関する。特定の局面において、誘電物質のカーボンナノチューブはMWNTである。他の局面において、本発明の誘電物質のカーボンナノチューブはSWNTである。
【0037】
SWNTは、典型的に、約0.5ナノメートル(nm)〜約3.5nmの範囲の直径、および通常50nmより長い長さを有する(B. I. Yakobson and R. E. Smalley, American Scientist, 1997, 324 337;Dresselhaus, et al., Science of Fullerenes and Carbon Nanotubes, 1996, San Diego: Academic Press, 19章)。SWNTは2つの指標(m、n)により互いに区別され、nとmは、細長い一片が円柱の表面に巻き付いた場合にその端が、継ぎ目がないように連結するように、細長い一片の六角形グラファイトをどのように切断するかを説明する整数である。n=mの場合、チューブ軸に対してチューブを垂直に切断する際に六角形の側面のみが露出し、チューブの端の周囲のパターンがn回繰り返されたアームチェアのアームとシートに見えることから、得られるチューブは「アームチェア」型または(n、n)型であると言われる。m=0の場合、チューブ軸に対してチューブを垂直に切断する際に端がジグザグパターンになることから、得られるチューブは「ジグザク」型または(n、0)型と言われる。n≠mおよびm≠0の場合、得られるチューブはキラリティーを有し、それに対しキラルの角度に応じる程度にらせん状のねじれを含む。
【0038】
用語「ペプチド」は、少なくとも2つのアミノ酸を含むオリゴマーを意味する。用語「ペプチド」は明確にタンパク質を包含する。例示的なタンパク質としては抗体および酵素が挙げられる。用語「ペプチド」は、化学的に修飾されたタンパク質またはペプチド薬物を含むことも意味する。かかる化学的修飾としては、例えば、異なるアミノ酸または他の基によるアミノ酸の置き換え、ならびに/または官能基および/もしくは化学的修飾体の付加が挙げられる。
【0039】
いくつかの態様において、複合材のポリマー巨大分子に1つ以上の官能基を付加することができる。官能基は、本発明の複合体の特性を変更するために付加され得る。例えば、適切な官能基を付加して、引張強度および/または水溶性を改変することができる。当業者は、例えば反応時間を変えることで置換の程度を調節できることを理解しよう。例示的な修飾としては、カルボキシル、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アミド、チオアミド、カーボネート、カルバメートおよび無水官能基付加が挙げられる。特定の態様において、巨大分子はアシル化、カルバニル化またはエーテル化される。
【0040】
特定の局面において、本発明の複合材は、約10μm〜約10mmの厚さを有する。他の局面において、本発明の複合材は少なくとも1cmの厚さを有する。
【0041】
一態様において、複合材は少なくとも約50MPaの引張強度を有する。別の態様において、複合材は約70MPaの引張強度を有する。
【0042】
いくつかの他の局面において、本発明の複合材は、約30〜約120°の接触角を有するように疎水性を有する。
【0043】
他の局面において、本発明の複合材は、約45°未満の接触角を有して親水性である。
【0044】
特定のさらなる局面において、本発明の複合材は、さらに親水性ポリマーを含む。親水性ポリマーの非限定的な例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン、キトサンおよびそれらのいずれかの組合せが挙げられる。
【0045】
下記のように、複合材は熱安定性を伴い得る。いくつかの局面において、本発明の複合材は、約230℃以上の熱分解温度を有する。
【0046】
本発明はさらに、ポリマー巨大分子をイオン液体に溶解して溶液を得る工程を含む、本発明の複合材の作製方法を企図する。
【0047】
分子非イオン性である従来の有機または水性溶媒とは対照的に、イオン液体はイオン性の種からなる溶媒の種類である。イオン液体の構造は、従来の分子溶媒と比較して、特有の溶解特性をもたらす。例えば、セルロースの溶解に適用可能なイオン液体の範囲は、その内容が参照により本明細書に援用される米国特許第6,824,559号に開示される。さらに、イオン液体は、モノマーまたはポリマーに対して良好な溶解特性を示しており、その内容が参照により本明細書に援用されるWO 2005/098546に開示された進歩した複合材料の再構成に使用されている。
【0048】
分子非イオン性である従来の有機または水性溶媒とは対照的に、イオン液体はイオン種からなる溶媒の種類である。有用なイオン液体の非限定的な具体例としては、カチオンおよびアニオンから形成される物質が挙げられる。イオン液体のカチオン部分の例は、環状および非環状カチオンからなる群のカチオンである。環状カチオンとしては、ピリジニウム、イミダゾリウムおよびイミダゾールが挙げられ、非環状カチオンとしては、アルキル第4級アンモニウムおよび第4級リン酸アルキルのカチオンが挙げられる。カチオン部分の対アニオンは、ハロゲン、シュードハロゲンおよびカルボン酸からなる群より選択される。カルボン酸としては、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、ギ酸およびシュウ酸(oxylate)が挙げられ、ハロゲンとしては塩化物、臭化物、塩化亜鉛/塩化コリン、塩化3-メチル-N-ブチル-ピリジニウムおよび塩化ベンジルジメチル(テトラデシル)アンモニウムが挙げられる。カチオン上の置換基(即ちR基)は、飽和でも不飽和でもよい。イオン液体である化合物の非限定的な例としては、限定されないが、塩化1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、酢酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、塩化1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、塩化1-アリル-3-メチルイミダゾリウム、塩化亜鉛/塩化コリン、塩化3-メチル-N-ブチル-ピリジニウム、塩化ベンジルジメチル(テトラデシル)アンモニウムおよび塩酸1-メチルイミダゾールが挙げられる。
【0049】
ポリマー巨大分子を溶解して得られる溶液はヒドロゲルを形成する。一態様において、溶液を表面に適用してヒドロゲルを得る。ヒドロゲルを水で洗浄してイオン液体を除去し得る。いくつかの態様において、除去されたイオン液体を再利用することができる。
【0050】
ヒドロゲルを適切な手段で乾燥させて本発明の複合材が得られる。
【0051】
本明細書に記載される複合材は、例えば食品梱包材、抗菌組成物、自動車のインテリア、UV遮断コーティング、誘電物質、および/またはファブリックおよび不織布の一部に使用できる。
【0052】
一局面において、本発明は、本明細書に記載される繊維状の複合材に関する。繊維は、例えば電気紡績などの任意の適切な方法により作製することができる。本発明に包含される複合繊維は、例えばナノスケールおよびマイクロスケールの繊維を含み得る。本発明の繊維は、例えば不織布、合皮の製作および/または濾過法に使用することができる。特定の局面において、本発明は、本発明の繊維からなる不織布を包含する。さらなる局面において、本発明は、本明細書に記載される繊維を含むマイクロ繊維ファブリックに関する。マイクロ繊維ファブリックおよび不織布は、例えば自動車のインテリアに使用できる。
【0053】
本発明の複合材は、自動車のインテリアの鋳型または成形部分の部品としても利用できる。
【0054】
下記のように、本発明の複合材は抗菌特性を伴い得る。従って、いくつかの局面において、本発明は、本明細書に記載される複合材を含む抗菌組成物である。さらなる局面において、本発明は、少なくとも2つのポリマー巨大分子を含み、さらに多糖類を含む抗菌組成物であって、少なくとも一方の巨大分子がリグニンであり、他方の巨大分子がセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される、抗菌組成物である。特定のさらなる局面において、多糖類はキトサンである。特定のさらなる局面において、抗菌組成物は、治療有効量の複合材および薬学的に許容され得る担体または賦形剤を含む医薬組成物である。抗菌組成物はさらに、治療が必要な患者に治療有効量の本発明の医薬組成物を投与する工程を含む、感染の治療方法に使用できる。本明細書に記載される組成物を投与することにより治療可能な感染としては、限定されないが、細菌感染、真菌感染、ウイルス感染および原生動物感染が挙げられる。抗菌組成物はさらに、例えば創傷被覆材に使用できる。特定の他の局面において、創傷被覆材は、本明細書に記載の繊維物質を含む。特定のさらなる局面において、創傷被覆材は電気紡績により製作される繊維物質を含む。
【0055】
特定のさらなる局面において、本発明の複合材または抗菌組成物はさらに、抗菌剤を含む。抗菌剤としては、例えば、抗細菌剤、抗真菌剤、抗原生動物剤、殺胞子剤、殺ダニ剤および抗ウイルス剤が挙げられる。抗菌剤は、例えば、低分子またはタンパク質であり得る。本発明の複合材に含まれ得る抗菌剤の非限定的な例としては、限定されないが、キトサン(上述)、ナノスケール銀、銀ゼオライト、ハロゲン化銀、トリクロサン、抗生物質(リファマイシン、マクロライド、ペニシリン、セファロスポリン、βラクタム、アミノグリコシド、スルホンアミド、グリコペプチド、キノリン、クリンダマイシン、ムピロシン、アゾールなど)、防腐薬(antiseptide)または殺菌剤(カチオンビグアニド、ヨウ素、ヨードフォア、ハロ置換フェノール化合物、トリクロサン、フランおよびメテナミンなど)、酢酸、アリルイソチオシアネート、安息香酸、無水安息香酸、カルバクロール、EDTA、ユージノール、ゲラニオール、リナロール、テルピネオール、チモール、イマザリル、乳酸、ラウリン酸、ナイシン、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、パルミトレイン酸、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸、ならびに無水ソルビン酸が挙げられる。
【0056】
「治療すること」または「治療」には、疾患の症状、合併症もしくは生化学的徴候の開始を予防もしくは遅延するため、症状を改善もしくは緩和するため、および/または疾患、状態もしくは症状のさらなる進展を抑えるもしくは阻害するための本発明の局面の組成物、化合物または薬剤の投与が含まれる。
【0057】
「治療有効量」は、単独または1つ以上の他の活性剤と組み合わせて、治療対象の疾患または状態の1つ以上の症状を制御、減少、阻害、改善、予防し得るかまたはそれらに対してその他の影響を及ぼし得る量である。「有効量」は、単独または1つ以上の他の活性剤と組み合わせて、上述の目的を達成するのに充分な量である。
【0058】
本明細書に記載される複合材は、さらに、紫外線(UV)照射を吸収する能力を伴い得る。従って、いくつかの局面において、本発明は、本明細書に記載される複合材を含むUV遮断コーティングを包含する。UV遮断コーティングは、下層にある基材を、UV照射およびそれにより生じる損傷から保護するコーティングである。特定の態様において、下層にある基材は可塑性物質である。別の態様において、本発明は、本明細書に記載される複合材を適用することを含む、UV照射の吸収方法である。
【0059】
本発明は、いかなる様式においても限定を意味しない以下の実施例により例示される。
【実施例】
【0060】
実施例1:イオン液体を使用した合成木材複合材の作製
天然の木材の主要な3成分であるセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを含む合成木材複合材フィルムを、室温で、イオン液体溶媒、酢酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウム[Emim][Ac]中で作製した。個々の木材成分を、ポリエチレングリコール(PEG)、キトサンおよび多層カーボンナノチューブなどの添加剤と共に[Emim][Ac]に溶解して、種々の合成木材複合材を得た。水を添加してゲルを得て、それを低湿度環境または真空下で乾燥させた。合成木材フィルムは、同じ方法で形成したセルロースフィルムよりも滑らかな表面構造、高い耐水性および高い引張強度を示した。抗菌活性、耐水性、導電性および高度な粘着性などの種々の所望の特性を有する目的に合わせた合成木材複合材も作製した。
【0061】
導入
複合材は、異なる物理的または化学的性質を有する2つ以上の構成要素からなる工学的に作製された物質である。1 近年、バイオポリマー系複合材は、石油燃料への依存を減少することができ、しばしば生体適合性かつ生分解性であり、高度な機能性を有するので、大きな関心を集めている。バイオポリマーは、多糖類、ポリフェノール、ポリエステル、ポリアミドおよびタンパク質などの天然に入手可能な巨大分子である。2 バイオポリマーは本質的に生分解性であり安価であるので、これらの材料は特に、環境に優しい物質の開発に有望である。しかしながら、多くのバイオポリマーは、水を除く従来の溶媒に対して溶解性が低いために、バイオポリマー系物質の作製には課題が残る。そのため、バイオポリマー系複合材料の作製のためのバイオポリマーの溶解のための新規の非水性溶媒の考案には大きな関心がある。
【0062】
イオン液体(IL)は、典型的に100℃未満で融解する有機塩である。ILは不揮発性であり、熱安定性であるので、ILの関心は、「グリーン溶媒」としての潜在的な適用から生じる。3 これらの所望の特性により、ILは化学的処理における使用のために、揮発性でありしばしば可燃性である有機溶媒に代わる魅力的なものとなる。ILは、極性および非極性の有機、無機およびポリマー化合物を溶解する能力などの優れた溶媒特性を発揮する。4,5 近年、ILは、ほとんどの従来の有機溶媒に不溶性であるバイオポリマーを溶解および再構成するために使用されている。6,7
【0063】
農業残余、森林廃棄物、古紙およびエネルギー収穫物などのリグノセルロースバイオマスは、バイオポリマー複合材の持続可能な供給源として長い間その高い価値が認識されている。8,9 リグノセルロースは、3種類の主要なバイオポリマー、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンからなり、これらは全て異なる化学的、物理的および構造的特性を有する。β-(1→4)-グリコシド結合により連結されたDグルコース残基の線状多糖であるセルロース(図1A)は、地球上で最も豊富な再生可能なバイオポリマーである。10 セルロースは優れた熱特性および機械的特性を有する。ヘミセルロースは、ペントース、ヘキソースおよびアセチル化糖類と、最も豊富なヘミセルロースであるキシラン(図1B)の不均一な分岐ポリマーである。11 リグニンは、フェニルプロパノイド単位からなる網目状の芳香族ポリマーであり(図1C)、セルロースとヘミセルロースを結合する「接着剤」である。12
【0064】
セルロースの溶媒としての1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム塩の使用は、Rogersのグループにより最初に報告された。13 彼らは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム([Bmim])カチオンと種々のアニオンを含むILがセルロースを溶解する能力を試験し、最も効果的なアニオンが塩化物であることを見出した。マイクロ波照射の補助により、[Bmim][Cl]中にセルロースを25重量%溶解することができ、溶解したセルロースは、水、エタノールまたはアセトンなどの貧溶媒(anti-solvent)を添加して再構成することができる。これらの結果は、種々の未修飾セルロース複合材の作製のために、商業的に関連のある均一なセルロース化学への経路に新しい道を切り開いた。近年、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウムの酢酸、ギ酸、リン酸メチルおよびジシアナミド対アニオンの塩が、セルロース溶解の良好なILであると報告された。14〜16 室温で、低粘度および低毒性を有するセルロース溶解に適したILは、酢酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウム([Emim][Ac])(図1D)およびアリルイミダゾリウムのギ酸ベースILである。近年、本発明者らの研究室で、種々のIL中のクラフトリグニンの溶解度が調べられた。17 最高のリグニン溶解性は[Mmim][MeSO4]および[Bmim][CF3SO3]を用いて得られた。[Cl]アニオンを含むILも高い溶解性を示した(>100g/kg)。
【0065】
いくつかのグループにより木材のIL中の完全な溶解が報告された。18,19 木材をILに溶解して、木材のバイオポリマー組成を分析するために使用できる溶液が得られた。さらに、これらの木材成分は、アセチル、ベンゾイルおよびカルボニル基で官能基付加することができた。しかしながら、今日まで、選択され、規定された比のセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを有する木材を、IL中に完全に溶解された溶液から特殊な性質を誘導する添加剤と共に再構成することは報告されていない。現在の研究により、異なる量のセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを含むIL中の木材成分溶液の、木材フィルムおよび木材コーティング複合材の作製のための使用が報告されている。
【0066】
結果および考察
合成木材フィルムの作製
5%(w/wまたはw/v)セルロース繊維、3%(w/w)ヘミセルロース(カバノキ由来のキシラン)および2%(w/w)クラフトリグニンからなる合成木材溶液を[Emim][Ac]中で作製して、実際の木材試料を模倣した。[Emim][Ac]ILへのそれぞれの木材成分の溶解性のために、木材成分の良好な溶媒として[Emim][Ac]を選択した。セルロースおよびリグニンは、90℃でそれぞれ>200および>300g/kgの濃度で[Emim][Ac]中に溶解する。17 90℃で3時間のインキュベーション後、3種類全ての木材成分が[Emim][Ac]に溶解し、完全に透明な溶液が得られた。温めた後、水で洗浄して[Emim][Ac]を除去した後、合成木材ヒドロゲルが形成され(図2A)、これを3時間乾燥して、スライドガラスからはがすことで容易に回収できる透明で可とう性の木材フィルムを得た(図2B)。合成木材フィルムをデシケーターで1日間乾燥した場合、これはスライドガラスにぴったりと張り付き、水非混合性でガラス表面から容易にははがれない合成木材コーティング(図2C)が形成された。
【0067】
成分比の効果
異なる比のセルロース、キシランおよびリグニンを有する、種々の合成木材コーティングを作製した(図3)。純粋なセルロースフィルムは、以前にRogerらのグループによって、セルロースを[Bmim][Cl]に溶解し、次いで水でセルロースを再構成して作製されている。13 これらに沿って、本発明者らは、[Emim][Ac]を使用してもかかる純粋なセルロースフィルムを容易に作製できることを見出した。しかしながら、これらのセルロースフィルムは脆く、粗い表面を有した(図4A)。次いで、セルロースと共にリグニンを[Emim][Ac]に溶解し、水でILを洗浄し、乾燥して、セルロース含有量と同程度に高いリグニン含有量を有するセルロース/リグニン複合フィルムを都合よく作製した。セルロース/リグニン複合材の色は明黄色から暗褐色で、リグニン含有量を高くするとより暗くなった。しかし、高リグニン含有量ではセルロース/リグニンフィルムは非常に脆くなる。リグニンまたはキシランのみのフィルムは、[Emim][Ac]に溶解して水で再構成することでは作製できなかった。純粋なカバノキの木材キシランのフィルム形成には、キトサンおよびグルテンなどの可塑剤の添加が必要であった。20 近年、Goksuら21は、少量のリグニンを含むキシランフィルムの形成を報告した。本発明者らは、水中、>1%リグニン(w/w、リグニン/キシラン)を含む8〜14%のキシラン溶液からひび割れのないキシランフィルムを作製することができた。しかし、得られたキシラン/リグニンフィルムは、以前に作製されたセルロースフィルムよりも高い水溶性(>99%)およびかなり低い引張強度を示した。
【0068】
生分解性梱包材のためのフィルムの潜在的な適用には、高い耐水性および充分な引張強度が必要である。この理由のため、セルロース、キシランおよびリグニン(5:3:2)を[Emim][Ac]中に含む合成木材溶液を使用して、より最適な性質を有するフィルムおよびコーティングを得た。[Emim][Ac]中の合成木材溶液は、[Emim][Ac]中のセルロースまたはセルロース/リグニン溶液と比較した場合に向上したフィルム形成特性を示した。セルロースおよび合成木材フィルムの引張強度はそれぞれ74.4および87.8MPaであった。合成木材フィルムの引張強度は、セルロースまたはキシランフィルムについて報告された1MPaよりも実質的に高く21、官能基付加されたセルロースについて報告された15〜60MPaの値より高い。22 合成木材フィルムの高い引張強度は、セルロースとリグニンの間の共有化学結合の非存在に関わらず、リグニンの存在によって生じたと思われる。その代わりに、リグニンは、フィルムのセルロース繊維内の内部構造空間の充填剤として作用すると思われる。
【0069】
AFM画像は、セルロースフィルム(図4A)の外表面がセルロース/キシラン/リグニンフィルム(図4C)よりもかなり荒れた表面を有することを示す。セルロース/リグニンフィルム(図4B)は均一でない表面をもたらした。この表面の不均一性は、リグニン含有量を増加するとセルロース/リグニンフィルムがなぜ脆くなるかを説明し得る。セルロース、セルロース/リグナンおよびセルロース/キシラン/リグナンのフィルム(図5)を画像化するためにSEMも使用した。セルロースのみのフィルムの脆さはその断片化された表面から明白であった。セルロース/リグナンフィルムはうろこ状の表面を示し、セルロース/キシラン/リグナンフィルムは比較的滑らかな表面を有した。
【0070】
合成木材複合材フィルム
バイオポリマー複合材を作製するためにILを使用した主な理由は、天然および非天然成分の両方を含むハイブリッド複合材の生成において利用され得るILの優れた溶媒和力のためである。そのために、木材成分およびポリマーを[Emim][Ac]に溶解し、水で再構成して、種々の合成木材/ポリマーまたはナノ粒子複合材を作製した。合成木材(セルロース/キシラン/リグニン、5/3/2重量%)/ポリマー(5%PEG(MW 400)および0.5%キトサン(図1E))複合材を作製した(図4)。90℃で3時間後、全ての成分が溶解して透明な溶液を得て、これをスライドガラス上にスピンコートした。水で洗浄して乾燥した後、透明で薄い合成木材/ポリマー複合材のフィルムを得た。合成木材/PEG複合フィルム(図6A)の表面は、合成木材フィルムの表面よりも粘着性であり、親水性であった。合成木材/キトサン複合フィルム(図6B)の表面は、黄色ブドウ球菌で攻撃した場合、抗菌効果を示し、公知の抗菌ポリマーであるキトサンを含まない同一の表面と比較して、96%の抗菌性を示した。次に、合成木材溶液と分散させたMWNTの混合物を使用して、合成木材/多層ナノチューブ(MWNT)複合材を作製した。MWNTと合成木材の[Emim][Ac]中の混合物(セルロース/キシラン/リグニン/MTNT、5/3/2/0.025または0.1重量%)をスライドガラス上にフィルムキャストした。得られた合成木材/MWNTフィルムは暗色透明であり、これは充分に分散されたMWNTを示した(図6C)。
【0071】
かなり高い負荷(5重量%)のMWNTで作製した合成木材物質は非常に高い耐性を維持し、該合成木材物質が可とう性の高誘電性絶縁複合材になることを示した。高い誘電定数(κ)のポリマー複合材は、材料科学の分野で高い関心を得ている。MWNTを含むポリマー複合材は、例外的に高い誘電定数値を有する。23,24 MWNT網状構造が導電性についてろ過閾値に達するが、誘電低数値には達しない場合、誘電定数の値は実質的に向上される。これにより、高いおよび低い誘電物質の制御された形成の可能性が開かれる。かかる適用の例は、電池および超コンデンサーの機能的構成要素にある。25
【0072】
実験
試薬
[Emim][Ac]中のセルロース溶液(CELLIONIC、重合度約680)、カバノキ由来のキシラン(高速アニオン交換(HPAE)クロマトグラフィーによりキシロース残基>90%)、[Emim][Ac]、PEG(MW 400)およびカニの殻由来のキトサン(MW 150,000)はSigma-Aldrich(St. Louis, MO)から入手した。インジュリンAT、マツ由来の精製針葉樹クラフトリグニンは大体MeadWestvaco(Charleston, SC)により提供された。
【0073】
[Emim][Ac]中の合成木材溶液の作製
100mL丸底フラスコ内でキシラン(0.3g)およびリグニン(0.2g)とCELLIONIC(0.5gセルロースを含む10g)を混合した。フラスコを攪拌しながら90℃で3時間加熱した。得られた溶解合成木材溶液(5%セルロース、3%キシランおよび2%リグニン全て(重量%))を単独で、または添加剤(5%(w/w)PEGまたは0.5%(w/w)キトサン)と組み合わせて使用して、90℃で2時間攪拌して合成木材/ポリマー複合材を作製した。最初にモルタルを使用して、1g[Emim][Ac]中に乳棒で10mgのMWNTを20分間すりつぶし、MWNTを分散させて、合成木材/MWNT複合材を作製した。MWNTは[Emim][Ac]中で1ヶ月より長く分散されたままであった。次に、分散されたMWNTを合成木材溶液(セルロース/キシラン/リグニン、5/3/2重量%)と混合した。
【0074】
合成木材複合材フィルムおよびコーティングの作製
合成木材溶液(添加剤有および無し)をスライドガラス上にスピンコートした。スピンコートの速度は、3分間かけて段階的に500rpm〜2500rpmに上げた。コートされた合成木材溶液を室温で10分間維持し、次いで水で10分間緩やかに洗浄して[Emim][Ac]を除去した。得られた合成木材ヒドロゲルをデシケーター内で乾燥させた。3時間乾燥させた後、可とう性の合成木材フィルムを得て、スライドガラスから容易にはがすことができた。1日以上の長い乾燥の後、合成木材フィルムはスライドガスにぴったりと張り付き、容易にははがれなくなった。従って、この研究で試験した全てのはがれるフィルムは、3時間乾燥させた。
【0075】
引張強度試験
はがして、真空下でさらに24時間乾燥させたキャストフィルムから引張強度特性を測定した。これらの測定にはLloyd Material Testing Machine(Lloyd Instrument Ltd.)を使用した。ピーク負荷を被検物の最初の切断面積で除算して引張強度を計算した。
【0076】
耐性測定
Extech Instruments(Waltham, MA)から得たTrue RMS MultiMeter (型番22-816)を使用して、MWNT合成木材複合材の耐性を試験した。2本の電極を複合材の異なる部位に挿入して耐性を測定した。
【0077】
抗菌活性
培養中で黄色ブドウ球菌を増殖して104 CFU/mLの濃度で蒸留水に再懸濁した。次いで、0.1mlの細胞懸濁液をLB寒天培地上に広げた。30分間乾燥させた後、合成木材対照および合成木材キトサン複合材を別々の寒天倍地の表面に置いて、37℃で48時間インキュベートした。UVAランプ下で寒天プレートを視覚的に試験して、合成木材キトサン複合材と合成木材の抗菌効果の差を比較した。
【0078】
結論
この発明において、合成木材複合フィルムは、リグノセルロースバイオマスの主要な3成分であるセルロース、キシランおよびリグニンからなるように作製した。[Emim][Ac]からこれらのフィルムをスピンコートして、水で再構成して乾燥させた。合成木材フィルムは、セルロース、キシランおよびリグニンのフィルムと比較して改善された物理化学的な性質を有した。合成木材組成物の利点としては、再生可能生物材料の使用による生産コストの低下、リグニンの存在のためのセルロース複合材と比較して低い生分解性、高い耐水性ならびに修飾および官能基付加の潜在性が挙げられる。[Emim][Ac]中の合成木材溶液の成分比を変えることにより、目的に合わせた合成木材フィルムを容易に得ることができる。合成木材複合材中に添加剤を含ませることで、高い引張強度、導電性および抗菌特性などの特別な性質を有する種々の材料を作製することができる。フィルムを感光物質の梱包に使用する場合、フィルムの色も重要な性質を示し得る。
【0079】
参考文献





【0080】
本発明はその好ましい態様を参照して具体的に示され記載されるが、形式および詳細において、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更が本明細書中になされ得ることが当業者に理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのポリマー巨大分子を含む複合材であって、少なくとも一方の巨大分子がリグニンであり、他方の巨大分子がセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される、複合材。
【請求項2】
リグニン含有量が約10〜約50%(w/w)である、請求項1記載の複合材。
【請求項3】
セルロース含有量が約30〜約80%(w/w)である、請求項1記載の複合材。
【請求項4】
ヘミセルロース含有量が約15〜約50%(w/w)である、請求項1記載の複合材。
【請求項5】
リグニンおよびセルロースを含み、リグニン含有量がセルロース含有量以下である、請求項1記載の複合材。
【請求項6】
約50%(w/w)のセルロースおよび約50%(w/w)のリグニンを含む、請求項5記載の複合材。
【請求項7】
約70%(w/w)のセルロースおよび約30%(w/w)のリグニンを含む、請求項5記載の複合材。
【請求項8】
約60〜約80%(w/w)のセルロースおよび約40〜約20%(w/w)のリグニンを含む、請求項1記載の複合材。
【請求項9】
リグニン、セルロースおよびヘミセルロースを含む、請求項1記載の複合材。
【請求項10】
約50%(w/w)のセルロース、約30%(w/w)のヘミセルロースおよび約20%のリグニンを含む、請求項9記載の複合材。
【請求項11】
ヘミセルロースがキシランである、請求項9記載の複合材。
【請求項12】
リグニンがクラフトリグニンである、請求項1記載の複合材。
【請求項13】
有機ポリマーおよび無機ポリマー、多糖類、ペプチド、細胞、ウイルス、色素およびカーボンナノチューブからなる群より選択される成分をさらに含む、請求項1記載の複合材。
【請求項14】
ポリマーがポリエチレングリコールである、請求項13記載の複合材。
【請求項15】
ポリエチレングリコール400を含む、請求項14記載の複合材。
【請求項16】
約10〜約40%(w/w)の量のポリエチレングリコールを含む、請求項14記載の複合材。
【請求項17】
リグニン、セルロース、ヘミセルロースおよびポリエチレングリコールを含む、請求項13記載の複合材。
【請求項18】
カーボンナノチューブを含む、請求項13記載の複合材。
【請求項19】
カーボンナノチューブが多層ナノチューブ(MWNT)である、請求項14記載の複合材。
【請求項20】
カーボンナノチューブが約10〜約30%(w/w)の量で存在する、請求項18記載の複合材。
【請求項21】
リグニン、セルロース、ヘミセルロースおよびカーボンナノチューブを含む、請求項13記載の複合材。
【請求項22】
多糖類がキトサンである、請求項13記載の複合材。
【請求項23】
巨大分子が官能基付加される、請求項1記載の複合材。
【請求項24】
巨大分子がアシル化、カルバニル化(carbanilated)またはエーテル化される、請求項23記載の複合材。
【請求項25】
約10μm〜約10mmの厚さを有する、請求項1記載の複合材。
【請求項26】
少なくとも約50MPaの引張強度を有する、請求項1記載の複合材。
【請求項27】
少なくとも約70MPaの引張強度を有する、請求項25記載の複合材。
【請求項28】
リグニン、ならびにセルロースおよびヘミセルロースまたはそれらの組合せからなる群より選択される巨大分子を含む複合材の作製方法であって、
a. リグニンおよびさらなる成分をイオン液体に溶解して溶液を得る工程;
b. 溶液を表面に適用してヒドロゲルを得る工程;ならびに
c. ヒドロゲルを乾燥させて複合材を得る工程
を含む、方法。
【請求項29】
表面から複合材を除去する工程をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
リグニンおよびさらなる成分が約80〜約100℃の温度で溶解する、請求項28記載の方法。
【請求項31】
イオン液体が1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム塩を含む、請求項28記載の方法。
【請求項32】
イオン液体がアリルイミダゾリウム塩を含む、請求項28記載の方法。
【請求項33】
イオン液体が、酢酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウム([Emim][Ac])および塩化1-アリル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムまたはそれらの組合せからなる群より選択される、請求項28記載の方法。
【請求項34】
ヒドロゲルを洗浄して少なくとも一部のイオン液体を除去する、請求項28記載の方法。
【請求項35】
水の除去後にイオン液体を再利用する、請求項34記載の方法。
【請求項36】
低湿度環境でヒドロゲルを乾燥させる、請求項28記載の方法。
【請求項37】
真空下でヒドロゲルを乾燥させる、請求項28記載の方法。
【請求項38】
複合材が繊維である、請求項1記載の複合材。
【請求項39】
請求項1記載の複合材を含む、抗菌組成物。
【請求項40】
抗菌剤をさらに含む、請求項39記載の抗菌組成物。
【請求項41】
請求項1記載の複合材を含む、紫外線遮断コーティング。
【請求項42】
請求項18記載の複合材を含む、誘電物質。
【請求項43】
約45°未満の接触角を有する、請求項1記載の複合材。
【請求項44】
約230℃以上の熱分解温度を有する、請求項1記載の複合材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−42168(P2011−42168A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−176641(P2010−176641)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(510214447)
【出願人】(510214458)
【出願人】(510214469)
【出願人】(510214470)
【出願人】(510214481)
【Fターム(参考)】