説明

合成樹脂エマルジョン粉末及びその製造方法

【課題】再分散性に優れ、さらに高粘度である合成樹脂エマルジョン粉末が得られ、さらにまた、セメントモルタルなどの水硬性物質へ混和した場合に減水性と増粘性を両立しうる合成樹脂エマルジョン粉末を提供する。
【解決手段】ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体を分散質とするエマルジョン(A)に、一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン基を側鎖に含有するビニルアルコール系重合体であり、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が100〜3000であり、けん化度が70.0〜99.99モル%であり、ポリオキシアルキレン変性量が0.1〜10モル%であるポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)を配合した組成物を乾燥して得られる合成樹脂エマルジョン粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂エマルジョン粉末及びその製造法に関し、さらに詳しくは、ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体を分散質とするエマルジョン(A)に、下式の一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン基を側鎖に含有するビニルアルコール系重合体であり、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が100〜3000であり、けん化度が70.0〜99.5モル%以上であり、ポリオキシアルキレン変性量が0.1〜10モル%であるポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)を配合した組成物を乾燥して得られる合成樹脂粉末及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂エマルジョン粉末は、合成樹脂エマルジョンを噴霧乾燥することにより製造され、合成樹脂エマルジョンに比べて粉末であることにより、取り扱いおよび輸送の点で優れている。また、使用に際しては、水を添加し、攪拌することにより容易に水中に再分散するため、セメントあるいはモルタルへの混和材、接着剤、塗料用バインダーなどの広範な用途に使用されている。なかでもモルタルへの混和材に関しては、粉末であることから、プレミックスが可能であり、多様な商品形態を可能にすることから、広く用いられている。しかしながら、従来の合成樹脂エマルジョンでは、それをそのまま噴霧乾燥した場合には、分散質が容易に融着し、水に再分散しないため、多量のポリビニルアルコール(以下PVAと略記することがある)を後添加し、さらにはブロッキング防止剤として無水珪酸等の無機粉末を多量に併用する必要があるのが現状であった。後添加するPVAとしては、粉末化後、使用時に再乳化しうることが必要であることから、従来低重合度PVAが広く用いられてきた。(特許文献1)
しかしながら、これらの合成樹脂エマルジョン粉末では、後添加するPVAが低重合度PVAであるため、水中に再分散した場合も同固形分の合成樹脂エマルジョンに比較し分散液は低粘度となり、セメントモルタルなどの水硬性物質の混和剤として使用しても高粘度化するためには、増粘剤を使用しなければならない。また、再分散後の分散液を高粘度化するために、後添加PVAの重合度を高くすると、再分散性が低下し、水硬性物質への分散性も低下することから減水性が低下し、得られる水硬性物質の強度が十分には得られないなという問題点があった。
【特許文献1】特許−3618540
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、前述の問題点を解決し、再分散性に優れ、さらに高粘度である合成樹脂エマルジョン粉末が得られ、さらにまた、セメントモルタルなどの水硬性物質へ混和した場合に減水性と増粘性を両立しうる合成樹脂エマルジョン粉末を提供することにある。
【0004】
本発明者らは、上記の実情に鑑み、鋭意検討した結果、ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体を分散質とするエマルジョン(A)に、一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン基(以下、POA基と略記することがある)を側鎖に含有するビニルアルコール系重合体であり、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が100〜3000であり、けん化度が70.0〜99.5モル%であり、ポリオキシアルキレン変性量が0.1〜10モル%であるポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)を配合した組成物を乾燥して得られる合成樹脂エマルジョン粉末が、上記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、再分散性に優れ、さらに高粘度である合成樹脂エマルジョン粉末が得られる。
本発明の合成樹脂エマルジョン粉末を使用することにより、セメントモルタルなどの水硬性物質への分散性に優れ、セメントモルタルなどの水硬性物質へ混和した場合に減水性と増粘性を両立し、得られる水硬性物質の粘性、保水性が増大し、こてさばき、のびが改良され、モルタルの硬化時間、水引き時間が遅くなるので作業性が顕著に向上するほか、亀裂の発生も抑制される効果が得られる。また、本発明の合成樹脂エマルジョン粉末を使用することにより、接着性および耐久性に優れ、さらに機械的強度にも優れる水硬性物質用打継ぎ材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の合成樹脂エマルジョン粉末について詳細に説明する。
本発明において、エマルジョン(A)の分散質は、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体からなる。エチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブテン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンスルホン酸およびそのナトリウム、カリウム塩等のスチレン系単量体類、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロライド、3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N−(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)ジメチルアミンの4級アンモニウム塩、N−(4−アリルオキシ−3−ヒドロキシブチル)ジエチルアミンの4級アンモニウム塩、さらにはアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等の4級アンモニウム塩、メタクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N−ビニルピロリドン等が挙げられ、またジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。これらの単量体は単独もしくは二種以上を組み合わせて使用される。
上記の単量体単位からなる重合体のうち、酢酸ビニル系重合体で代表されるビニルエステル系重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体で代表されるオレフィン−ビニルエステル共重合体などは、本発明の好ましい態様の一つである。
【0007】
本発明において、エマルジョン(A)の分散剤にはビニルアルコール系重合体が用いられる。ビニルアルコール系重合体は、例えば、ビニルエステルを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造される。該ビニルアルコール系重合体のけん化度は、特に制限されないが、70〜99モル%が好適であり、より好ましくは、80〜98モル%、さらに好ましくは83〜95モル%である。けん化度が70モル%未満の場合には、ビニルアルコール系重合体本来の性質である水溶性が低下する懸念が生じる。またけん化度が99モル%を越える場合、乳化重合が不安定になる懸念がある。該ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(以下重合度と略す)も特に制限されないが、100〜3000の範囲が好適であり、300〜3000、さらには300〜2500がより好ましい。また、エマルジョン(A)の分散剤のビニルアルコール系重合体としては、1,2−グリコール結合が1.9モル%以上のビニルアルコール系重合体が好適に用いられる。1,2−グリコール結合が1.9モル%以上の重合体の製法としては、例えば、ビニレンカーボネートを上記の1,2−グリコール結合量になるようビニルエステル系単量体と共重合する方法、またはビニルエステル系単量体を重合する際、重合温度を通常の条件より高い温度、例えば75〜200℃で、加圧下に重合する方法などが挙げられる。後者の方法において、重合温度は特に制限されないが通常95〜190℃、好ましくは100〜180℃で実施される。
【0008】
該ビニルアルコール系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、N−ビニルピロリドン、 N−ビニルホルムアミド、 N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類が挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体と上記エチレン性不飽和単量体とを共重合し、得られた共重合体をけん化することによって得られる末端変性物を用いることもできる。
【0009】
本発明に用いる合成樹脂エマルジョン(A)は、上記のビニルアルコール系重合体の存在下で、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる1種あるいは2種以上の単量体を乳化重合することによって得られ、また合成樹脂エマルジョン粉末は合成樹脂エマルジョンを乾燥、とくに噴霧乾燥して得られる。該合成樹脂エマルジョンの製造において、乳化重合の開始剤としては、通常乳化重合に用いられる重合開始剤、すなわち過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の水溶性開始剤やアゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等の油溶性開始剤が単独または各種還元剤との組み合わせによるレドックス系で用いられる。これらの使用方法は特に制限はないが、初期一括で添加する方法や、連続的に重合系に添加する方法等が採用できる。
【0010】
本発明に用いる合成樹脂エマルジョン(A)において、ビニルアルコール系重合体の使用量は特に制限されないが、通常単量体100重量部に対して2〜30重量部、好ましくは3〜15重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。ビニルアルコール系重合体が2重量部未満の場合、合成樹脂エマルジョンの重合安定性が低下すると共にビニルアルコール系重合体を分散剤とする合成樹脂エマルジョンの特徴である機械的安定性や化学的安定性の低下、皮膜強度の低下等が起こる懸念がある。また、ビニルアルコール系重合体が30重量部を越える場合、重合系の粘度上昇による反応熱除去の問題や皮膜耐水性の低下等の懸念がある。
ビニルアルコール系重合体の添加方法は特に制限はなく、初期に一括して添加する方法、初期にビニルアルコール系重合体の一部を添加し、重合中に連続的に重合系へ添加する方法等がある。
また、従来公知のノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性の界面活性剤やヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子をビニルアルコール系重合体と併用してもかまわない。
【0011】
本発明に用いる合成樹脂エマルジョン(A)を製造する際の単量体の添加方法として、初期に一括して重合系に添加する方法、初期に単量体の一部を添加し、残りを重合中に連続的に添加する方法、単量体と水と分散剤を予め乳化したものを重合系に連続的に添加する方法等、各種の方法が可能である。
【0012】
また、本発明に用いる合成樹脂エマルジョン(A)を製造する際に、連鎖移動剤を添加することもできる。連鎖移動剤としては、連鎖移動が起こるものであれば特に制限はないが、連鎖移動の効率の点でメルカプト基を有する化合物が好ましい。メルカプト基を有する化合物としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
連鎖移動剤の添加量は、単量体100重量部に対して5重量部以下が好ましい。連鎖移動剤の添加量が5重量部を越える場合には、合成樹脂エマルジョンの重合安定性が低下する上、分散質を形成する重合体の分子量が著しく低下し、エマルジョン物性の低下が起こる懸念がある。
【0013】
上記エマルジョン(A)に配合される、ポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)は、一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン基(POA基)を側鎖に含有するビニルアルコール系重合体である。
【0014】
【化1】


式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。mとnはそれぞれの(ポリ)オキシレンユニットの繰り返し単位を表し、0≦m≦10、3≦n≦20である。ここで、繰り返し単位mで表されるユニットをユニット1と呼び、繰り返し単位nで表されるユニットをユニット2と呼ぶことにする。ユニット1とユニット2の配置は、ランダム状、ブロック状のどちらの形態になっても良い。
【0015】
ポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)(以下、POA変性PVAと略すことがある)の重合度は、粉末化時の作業性の観点から100〜3000であることが必要であり、さらに好ましくは150〜2000、より好ましくは200〜1600、最適には200〜1000である。一方、該ポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)のけん化度は、再分散性や粉末化時の作業性の観点から70.0〜99.5モル%であることが必要であり、75.0〜98.0モル%がより好ましく、80.0〜96.0モル%がさらに好ましい。
【0016】
一般式(I)で示されるPOA基を有する不飽和単量体としては、一般式(II)で示される不飽和単量体などが挙げられる。
【0017】
【化2】


式中、R1は水素原子またはメチル基を表す。R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。R3は水素原子または−COOM基を表し、ここでMは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を意味する。R4は水素原子、メチル基または−CH−COOM基を表し、ここでMは前記定義のとおりである。Xは−O−、−CH−O−、−CO−、−CO−O−または−CO−NR5を表し、ここでR5は水素原子または炭素数1〜4の飽和アルキル基を意味する。mとnはそれぞれの(ポリ)オキシレンユニットの繰り返し単位を表し、0≦m≦10、3≦n≦20である。
【0018】
一般式(II)で示される不飽和単量体のR2としては水素原子、メチル基またはブチル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。さらに、一般式(II)で示される不飽和単量体のR1が水素原子であり、R2が水素原子またはメチル基であり、R3が水素原子であることが特に好ましい。
例えば、一般式(II)のR1が水素原子、R2が水素原子、R3が水素原子の場合、一般式(II)で示される不飽和単量体として具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテルなどが挙げられる。なかでも、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテルが好適に用いられ、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテルが特に好適に用いられる。
【0019】
一般式(II)のR2が炭素数1〜8のアルキル基の場合、一般式(II)で示される不飽和単量体として具体的には、上記の一般式(II)のR2が水素原子の場合に例示した不飽和単量体の末端のOH基が炭素数1〜8のアルコキシ基に置換されたものが挙げられる。なかでも、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテルの末端のOH基がメトキシ基に置換された不飽和単量体が好適に用いられ、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミドの末端のOH基がメトキシ基に置換された不飽和単量体が特に好適に用いられる。
【0020】
POAの変性量は0.1〜10モル%であることが必要である。POA変性量は、好ましくは0.2モル%以上、さらに好ましくは0.3モル%以上である。POA変性量が10モル%を超えると、配合した合成樹脂エマルジョン粉末の再分散性は極めて悪く、造膜性も悪い。一方、POA変性量が0.1モル%未満の場合、配合した合成樹脂エマルジョン粉末の再分散性は優れているものの、POA変性に基づく物性が発現しない場合がある。
【0021】
POA変性量は、PVAの主鎖メチレン基に対するPOA基のモル分率で表され、該PVAの前駆体であるPOA変性ポリ酢酸ビニル(PVAc)のプロトンNMRから求めることができる。具体的には、n−ヘキサン/アセトンでPOA変性PVAcの再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のPOA変性PVAcを作成する。該PVAcをCDClに溶解させ、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて室温で測定する。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)とユニット2の末端メチル基に由来するピークβ(0.8〜1.0ppm)から下記式を用いてPOA変性量Sを算出する。
S(モル%)={(βのプロトン数/3n)/(αのプロトン数+(βのプロトン数/3n))}×100
nはユニット2の繰り返し単位数を表す。
【0022】
一般式(I)で示されるPOA基のユニット1の繰り返し単位数mは0≦m≦10である必要があり、1≦m≦5がより好ましく、1≦m≦2が特に好ましい。また、ユニット2の繰り返し単位数nは3≦n≦20である必要があり、5≦n≦18が好ましく、8≦n≦15が特に好ましい。nが3未満の場合、POA基同士の相互作用が発現せず、合成樹脂エマルジョン粉末の再分散液の粘度が低い場合があり、nが20を超える場合、POA基の疎水性が高くなり、合成樹脂エマルジョン粉末の再分散性が低下する場合がある。
【0023】
一般式(I)で示すPOA基を有する単量体の含有量は、50重量部以下であることが好ましく、30重量部以下がより好ましく、15重量部以下が特に好ましい。POA基の含有量が50重量部を超えると該PVAの疎水性が高くなり、水溶性が低下する場合がある。含有量の下限は2.5重量部以上が好ましい。
ここで、POA基を有する単量体単位の含有量とは、PVAの主鎖100重量部に対するPOA基の重量部(重量分率)で表される。前述のPOA変性量Sが同等であっても、けん化度が高くなるにつれ、あるいはユニット2の繰り返し単位nが大きくなるにつれ、該単量体単位の含有量は大きくなる。
【0024】
POA変性PVAを製造するには、POA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合をアルコール系溶媒中または無溶媒で行い、得られたPOA−ビニルエステル系共重合体をけん化する方法が好ましい。POA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られにくい。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、本発明で規定するPOA変性量を有するPOA変性PVAを得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0〜200℃に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等があげられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0025】
POA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などが適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネートなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。また、POAとビニルエステル系単量体との共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVAの着色等が見られることがあるため、その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤を1〜100ppm(ビニルエステル系単量体に対して)程度添加することはなんら差し支えない。
【0026】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられるが、中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0027】
POA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体を共重合しても差し支えない。使用しうる単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレンなどのα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
【0028】
また、POA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際し、得られる共重合体の重合度を調節することなどを目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で共重合を行っても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、などのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられ、中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1〜10重量%が望ましい。
【0029】
POA−ビニルエステル系共重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドなどの塩基性触媒またはP−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素などが挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0030】
エマルジョン(A)に配合するPOA変性PVA(B)の配合比は、エマルジョン(A)の固形分(分散質)100重量部に対してPOA変性PVA(B)1〜50重量部であることが好適であり、さらに好ましくは3〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部、さらには7〜20重量部である。POA変性PVA(B)が1重量部未満の場合、粉末化後の再分散性が低下する懸念があり、またエマルジョン粉末を水硬性物質に混和した際の機械的安定性が不足し、水硬性物質への分散性が低下する懸念がある。また、50重量部を越える場合、得られるエマルジョン粉末の耐水性などの物性が低下し、またこのエマルジョン粉末を使用した水硬性物質の強度が低下する懸念がある。
【0031】
本発明の合成樹脂エマルジョン粉末は、上記のエマルジョン(A)にPOA変性PVA(B)を配合した後、乾燥、好適には噴霧乾燥して得られる。噴霧乾燥には、流体を噴霧して乾燥する通常の噴霧乾燥が使用できる。噴霧の形式により、ディスク式、ノズル式、衝撃波式などがあるが、いずれの方法でも良い。また、熱源として、熱風や加熱水蒸気等が用いられる。乾燥条件は、噴霧乾燥機の大きさや種類、合成樹脂エマルジョンの濃度、粘度、流量等によって適宜選択すればよい。乾燥温度は、100℃〜150℃が適当であり、この乾燥温度の範囲内で、十分に乾燥した粉末が得られるように、他の乾燥条件を設定することが望ましい。
POA変性PVA(B)の添加方法としては、POA変性PVA(B)の水溶液をエマルジョン(A)に添加する方法が好適な方法であるが、POA変性PVA(B)の粉末、フレークまたはペレットをエマルジョン(A)に添加する方法も挙げられる。また、乳化重合してエマルジョン(A)を製造する際、乳化重合の後半にPOA変性PVA(B)を添加(一括または連続添加)する方法も挙げられる。
【0032】
また、本発明の合成樹脂エマルジョン粉末の貯蔵安定性、水への再分散性を向上させる目的で、無機粉末(ブロッキング防止剤)を使用することが望ましい。無機粉末は、噴霧乾燥後のエマルジョン粉末に添加して均一に混合しても良いが、噴霧乾燥する際に合成樹脂エマルジョンを無機粉末の存在下に噴霧すると(同時噴霧)、均一な混合を行うことができ好適である。無機粉末は平均粒径0.1〜100μmの微粒子であることが好適である。無機粉末としては、微粒子の無機粉末が好ましく、炭酸カルシウム、クレー、無水珪酸、珪酸アルミニウム、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト等が使用される。これらの無機粉末のうち、無水珪酸が好適である。無機粉末の使用量は、性能上、エマルジョン粉末に対して30重量%以下さらには20重量%以下が好ましい。下限値については0.1重量%以上、さらには0.2重量%以上が好ましい。また、有機系のフィラーも使用できる。
【0033】
合成樹脂エマルジョン粉末の水への再分散性をより向上させるために、各種の水溶性添加剤を加えることもできる。添加剤は、噴霧乾燥前に合成樹脂エマルジョンに添加して噴霧乾燥すると均一に混合されるため好ましい。水溶性添加剤の使用量は特に制限はなく、エマルジョンの耐水性等の物性に悪影響を与えない程度に適宜コントロールされる。このような添加剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、でんぷん誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等の他、水溶性アルキッド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性尿素樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性ナフタレンスルホン酸樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリオール樹脂、水溶性エポキシ樹脂等が挙げられる
【0034】
本発明の合成樹脂エマルジョン粉末(平均粒径1〜1000μm、好適には2〜500μm)は、そのまま各種用途に用いることができるが、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョン、エマルジョン粉末を添加して用いることもできる。
本発明の合成樹脂エマルジョン粉末は、とくに水硬性物質用混和材または水硬性物質用打継ぎ材として有用である。ここで、水硬性物質としては、例えばポルトランドセメント、アルミナセメント、スラグセメント、フライアッシュセメントなどの水硬セメント、あるいは石膏、プラスターなどのセメント以外の水硬性材料が挙げられる。
上記の水硬性物質用混和材を、例えば、セメント、骨材および水からなるセメントモルタルに配合して使用する場合、水硬性物質用混和材の配合量は、セメントに対し5〜20重量%が好適である。ここで、骨材としては、川砂、砕砂、色砂、けい砂などの細骨材、川砂利、砕石などの粗骨材が挙げられる。
また、本発明の合成樹脂エマルジョン粉末を、水硬性物質用打継ぎ材として使用する場合は、上記合成樹脂エマルジョン粉末を水で適宜再乳化し、打継ぎ材(プライマー処理材)としてコンクリートなどの水硬性物質基板に塗り付け、その後で、セメントモルタルなどの水硬性物質を塗り付けることにより施工が行われる。このような打継ぎ材を使用することにより、優れた接着性および耐久性、さらには優れた機械的強度などを付与することができる。
【0035】
水硬性物質用混和材および打継ぎ材の分散性をより向上させるために、各種の添加剤を加えることもできる。添加剤は、噴霧乾燥前に合成樹脂エマルジョンに添加して噴霧乾燥すると均一に混合されるため好ましい。水溶性添加剤の使用量は特に制限はなく、エマルジョンの耐水性等の物性に悪影響を与えない程度に適宜コントロールされる。このような添加剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、でんぷん誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等の他、水溶性アルキッド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性尿素樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性ナフタレンスルホン酸樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリオール樹脂、水溶性エポキシ樹脂等が挙げられる。
本発明の水硬性物質用混和材および打継ぎ材には、セメントおよびモルタルなどへの混和材としての用途では、AE剤、減水剤、流動化剤、保水剤、増粘剤、防水剤、消泡剤等が適宜使用される。
本発明の合成樹脂エマルジョン粉末は、接着剤、塗料、紙加工剤などの用途にも使用できる。これらの用途には、粘性改良剤、保水剤、粘着付与剤、増粘剤、顔料分散剤、安定剤等が適宜使用される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、それぞれ「重量%」および「重量部」を表す。
【0037】
[POA変性PVAの製造]
製造例1(PVA1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口および開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル400g、メタノール600g、POA基を有する不飽和単量体(単量体A)13.0gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてPOA基を有する不飽和単量体(単量体A)をメタノールに溶解して濃度20%としたコモノマー溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.15gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルと単量体Aの比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えたコモノマー溶液の総量は55mlであった。また重合停止時の固形分濃度は19.8%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、POA−ビニルエステル系共重合体(POA変性PVAc)のメタノール溶液(濃度24%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPOA変性PVAcのメタノール溶液496.5g(溶液中のPOA変性PVAc100.0g)に、3.5gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPOA変性PVAc濃度20%、POA変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.0075)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してPOA変性PVA(PVA1)を得た。PVA1の重合度は520、けん化度は89.8モル%、POA基変性量(S)は0.4モル%であった。
【0038】
製造例2〜22(PVA2〜22の製造)
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体の種類(表2)や添加量等の重合条件、けん化時におけるPOA変性PVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1および表2に示すように変更した以外は、製造例1と同様の方法により各種のPOA変性PVA(PVA2〜22)を製造した。
【0039】
製造例23(PVA23の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル700g、メタノール300gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始し、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は17.0%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液(濃度30%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPVAcのメタノール溶液496.5g(溶液中のPVAc100.0g)に、3.5gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPVAc濃度20%、PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.0075)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して無変性PVA(PVA23)を得た。PVA23の重合度は1700、けん化度は89.4モル%であった。
【0040】
製造例24〜26(PVA24〜26の製造)
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、けん化時におけるPVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1に示すように変更した以外は、製造例23と同様の方法により各種の無変性PVA(PVA24〜26)を製造した。
【0041】
[エマルジョン製造例]
エマルジョン製造例1(EM−1の製造)
窒素吹き込み口、温度計、撹拌機を備えた耐圧オートクレーブにPVA−217((株)クラレ製、重合度1700、けん化度88モル%)の9.5%水溶液80部を仕込み、60℃に昇温してから、窒素置換を行った。酢酸ビニル80部を仕込んだ後、エチレンを4.9MPaまで加圧し、0.5%過酸化水素水溶液2gおよび2%ロンガリット水溶液0.3gを圧入し、重合を開始した。残存酢酸ビニル濃度が10%となったところで、エチレン放出し、エチレン圧力2.0MPaとし、3%過酸化水素水溶液0.3gを圧入し、重合を完結させた。重合中に凝集などがなく、重合安定性に優れており、固形分濃度55%、エチレン含量18重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン(EM−1)が得られた。
【0042】
エマルジョン製造例2(EM−2の製造)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、撹拌機を備えたガラス製容器に、末端にメルカプト基を有するPVA(重合度550、鹸化度88.3モル%、メルカプト基含量3.3×10−5当量/g)5部とイオン交換水90部を仕込み、95℃で完全溶解させた。次いで、希硫酸によりpH=4とした後、150rpmで撹拌しながらメチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート10部、n−ドデシルメルカプタン0.1部を添加し、窒素置換後70℃まで昇温した。1%過硫酸カリウム5部を添加し重合を開始し、さらに2時間かけてメチルメタクリレート40部、n−ブチルアクリレート40部、n−ドデシルメルカプタン0.4部を混合したものを連続的に添加した。重合開始3時間後、転化率99.5%となり重合を終了した。固形分濃度52.0%の安定なメチルメタクリレート/n−ブチルアクリレート共重合体エマルジョン(EM−2)を得た。
【0043】
実施例1
エマルジョン製造例1で得たエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン(A)(EM−1)固形分100部とPOA変性PVA(B)(PVA−1、重合度520、けん化度89.8モル%、POA基変性量0.4モル%)の5%水溶液200部を混合したものと、エマルジョンの固形分に対して11%の炭酸カルシウム粉末(平均粒径2μm)とを別々に120℃の熱風中に同時噴霧して乾燥し、平均粒径6μmの合成樹脂エマルジョン粉末を得た。
【0044】
実施例2〜12、比較例1〜14
実施例1のPVA1に代えて製造例2〜26で得られたPVA2〜26を用いる以外は、実施例1と同様にして、合成樹脂エマルジョン粉末を得た。
【0045】
実施例13
実施例1のEM−1に代えてエマルジョン製造例2で得られたEM−2を用いる以外は、実施例1と同様にして、合成樹脂エマルジョン粉末を得た。
【0046】
実施例14〜15、比較例15〜16
実施例1のPVA―1の比率を変更する以外は、実施例1と同様にして、合成樹脂エマルジョン粉末を得た。PVA−1の比率は表3に示す。
【0047】
実施例16
実施例1の炭酸カルシウムをタルクに変更する以外は、実施例1と同様にして、合成樹脂エマルジョン粉末を得た。
【0048】
実施例および比較例において、各種のPVAとエマルジョンを用いて製造した合成樹脂エマルジョン粉末について、以下の方法にしたがって評価した。結果を表3に示す。
[再分散性]
ろ過残渣:
実施例および比較例にて得られた合成樹脂エマルジョン粉末50部と水50部を混合し、再分散したエマルジョンを200メッシュのステンレス製金網でろ過し、ろ過残渣を105℃で5時間乾燥し、ろ過残渣の割合を測定した。
ろ過残渣(%)=(乾燥後のろ過残渣量/再分散に用いたエマルジョン粉末重量)×100
ろ過残渣は少なければすくないほど、エマルジョン粉末を、水硬性物質用混和材または打ち継ぎ材として用いた場合に、優れた強度を有する水硬物が得られる。本発明によれば、ろ過残渣5%以下(表3)のエマルジョン粉末を得ることができる。
再分散後の状態:
実施例および比較例にて得られた合成樹脂エマルジョン粉末50部と水50部を混合し、再分散したエマルジョンの状態を目視及び光学顕微鏡で観察し、以下の基準により判断した。
◎ 再分散液が均一で平均粒子径50μm以下。
○ 再分散液が均一で未分散物(ブツ)がない。
△ 再分散はしているが、未分散物が認められる。
× 再分散しない。
[造膜性]
実施例および比較例にて得られた合成樹脂エマルジョン粉末50部と水50部を混合し、再分散したエマルジョンを50℃のガラス板上へ流延、乾燥させ、造膜性を以下の基準により判断した。
○ 均一な皮膜となり、強靱な皮膜が得られる。
△ 皮膜にはなるがもろい。
× 均一な皮膜が得られない。
[粘度]
実施例および比較例にて得られた合成樹脂エマルジョン粉末50部と水50部を混合し、再分散したエマルジョンを液温30℃とし、B型粘度計にて20rpmで粘度を測定した。
[モルタル性能]
実施例および比較例にて得られた合成樹脂粉末エマルジョン粉末を水硬性物質用混和材および水硬性物質用打継ぎ材として使用し、物性を評価した。
(水硬性物質用混和材の性能評価)
セメントモルタル用混和材としての性能
セメントモルタルの物性試験
1)モルタル組成:
水硬性物質用混和材/セメント重量比=0.10
砂/セメント重量比=3.0、水/セメント重量比=0.7
2)スランプ値 :JIS A−1171に準じて測定
3)フロー値 :JIS R−5201に準じて測定
3)曲げ強度 :JIS R−5201に準じて測定
4)圧縮強度 :JIS R−5201に準じて測定
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の合成樹脂エマルジョン粉末は、再分散性に優れ、さらに高粘度である合成樹脂エマルジョン粉末が得られる。
本発明の合成樹脂エマルジョン粉末を使用することにより、セメントモルタルなどの水硬性物質への分散性に優れ、セメントモルタルなどの水硬性物質へ混和した場合に減水性と増粘性を両立し、得られる水硬性物質の粘性、保水性が増大し、こてさばき、のびが改良され、モルタルの硬化時間、水引き時間が遅くなるので作業性が顕著に向上するほか、亀裂の発生も抑制される効果が得られる。また、本発明の合成樹脂エマルジョン粉末を使用することにより、接着性および耐久性に優れ、さらに機械的強度にも優れる水硬性物質用打継ぎ材が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体を分散質とするエマルジョン(A)に、下式の一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン基を側鎖に含有するビニルアルコール系重合体であり、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が100〜3000であり、けん化度が70.0〜99.5モル%以上であり、ポリオキシアルキレン変性量が0.1〜10モル%であるポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)を配合した組成物を乾燥して得られる合成樹脂エマルジョン粉末。
【化1】




(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。mとnはそれぞれの(ポリ)オキシレンユニットの繰り返し単位を表し、0≦m≦10、3≦n≦20である。)
【請求項2】
ポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)における一般式(I)で示すポリオキシアルキレン基の含有量が2.0〜50重量部である請求項1記載の合成樹脂エマルジョン粉末。
【請求項3】
ポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)が、下式の一般式(II)で示されるポリオキシアルキレン基を有するマクロモノマーとビニルエステルとを共重合した後、けん化することによって得られるポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体である請求項1または2に記載の合成樹脂エマルジョン粉末。
【化2】



(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。mとnはそれぞれの(ポリ)オキシレンユニットの繰り返し単位を表し、0≦m≦10、3≦n≦20である。R3は水素原子または−COOM基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を表す。R4は水素原子、メチル基または−CH−COOM基を示し、Mは前記定義どおりである。Xは−O−、−CH−O−,−CO−,−CO−O−または−CO−NR5を表し、R5は水素原子または炭素数1〜4の飽和アルキル基を表す。)
【請求項4】
エマルジョン(A)の固形分100重量部に対し、ポリオキシアルキレン−ビニルアルコール系重合体(B)を1〜50重量部配合する請求項1に記載の合成樹脂エマルジョン粉末。
【請求項5】
エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体が、ビニルエステル系重合体、またはオレフィン−ビニルエステル共重合体である請求項1に記載の合成樹脂エマルジョン粉末。
【請求項6】
乾燥が噴霧乾燥である請求項1に記載の合成樹脂エマルジョン粉末。
【請求項7】
さらに無機粉末を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の合成樹脂エマルジョン粉末。

【公開番号】特開2010−235763(P2010−235763A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85053(P2009−85053)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】